ヒスイ帰りのショウ   作:餅は餅や

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ヒスイ(4)、ミオ(2)

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「まず、ワタクシが提示できる手段では大規模な時空の歪みが発生することが予想されます。それを踏まえて行動してください」

 

 全員の顔に苦いものが宿る。時空の歪み、このヒスイの地と時間も空間も異なる場所とが繋がってしまう現象。端的に言って災害である。

 なんせいつどこで起こるかの予測もつかず、それによってやってくるのは見知らぬ強力なポケモンたち。未見の襲撃者に遅滞なく対応できるほど、今の戦力は整っていない。

 仕方ねえ、とセキは納得を示しウォロに尋ねる。

 

「やり方は実際、どうなんだ? 俺としちゃ、ディアルガさまにお力を貸していただくくらいしか思いつかねえわけだがよ」

「何も教えてはくれなかったのでしょう? であれば勘定に含めるべきではありませんね。……コイツを使います」

 

 途端、ウォロの影が蠢く。心胆寒からしめる異様な気配がし──ひょっこりとポケモンの頭部分が飛び出した。

 

「ギラティナか!」

「……もう少し驚いてもらえるかと思ったのですが。あの小娘のせいですね? この情けないポケモンですが、逃げる能力だけは一丁前にあります。皆さん良くご存知の時空の裂け目を開く能力ですね。これを使ってショウさんのいる時空へと経路を拓きます」

 

 ウォロはあえて爽やかに微笑んだ。裏などまるでありませんよ、とでも言わんばかりの笑み。

 

「とはいえ、単に裂け目を通れば未来に着く、というわけではありません。必要なものがいくつかあるので、皆さんにはそれを集めていただきます。ではまず、シマボシさん。テルさんに──」

 

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 バスラオ、ワシボン、オドシシ。時空の歪みからやってきたと思われる、ヒスイの特徴を持った三匹。彼らをショウたちに託したいとナナカマドは言った。

 

「いーのかよ、じーさん?」

「ウム! 研究所で調べられることもあれば、実際に連れ出してみなければ分からないこともある。ジュン、お前はさっきショウにノートを貰っていたな?」

「あ、ああ。ていうか、そこから見てたのかよ」

「図書館に三人を呼んだはずが、そのうちの二人がバトルコートにいたのでな。……図鑑を自分で作る、とはなんとも素晴らしいな。ショウも言っていたが、ポケモンについて知らなければ最強のトレーナーなど夢のまた夢。これから託すポケモンのことも記録してくれい!」

「……おう!」

 

 ジュンはワシボンのボールを手にし、鼻を擦った。

 ムクホークとひこうタイプが被るな、とショウは思ったが、ショウの手持ちはポッチャマ、ビッパ、ギャラドス、カラナクシ。水、進化後水、水、水である。言えた口ではない。

 じゃあ、とショウはオドシシのボールを手に取ろうとした。そうすればショウは水統一の道を外れ、コウキにはバスラオが渡る。

 この中で唯一オドシシは進化に早業が必要であるし、またバスラオはイダイトウに進化すればみず・ゴーストタイプ。モウカザル、ひいてはゴウカザルが弱点をある程度補完できる。それが誰も損をしない選択肢だ。

 

「そして……ショウ! それだけ詳しいのであれば、お前にはこのバスラオを託そう!」

「えっ」

 

 水である。水、進化後水、水、水ときて、水である。時代が時代なら二代目マキシマム仮面の座をショウはほしいままにしていただろう。

 だがしかし、とショウは考える。カラナクシはじめんタイプ、ポッチャマははがねタイプを進化で獲得するし、ギャラドスはひこうタイプを持っている。みずの弱点はくさとでんきだけ。必ずしも一貫しているとは言えないのではないだろうか。

 なおヒスイの時代にフリーズドライなどという技は存在しておらず、当然ショウも知らないのだが、それはまた別の話。

 

「では博士、僕はオドシシですね? 見たことのない技とは一体……」

「ヒスイ図鑑を見る限り、バリアーラッシュという技の可能性が高い。そうだな、外のバトルコートに行くこととしよう! それぞれのポケモンを──」

「──地震?」

 

 ショウは伏せて、と声を張った。一拍遅れて三人が揺れを感じる。

 大きな揺れが轟音とともに図書館を揺らす。窓際の植木鉢が割れ、本は床に積み重なる。やがてそれが治まると、あちこちから人の声がし始めた。

 

「……止まった、か。皆大丈夫か? 気をつけて外に出るぞ。街の様子が気になる」

 

 ナナカマドの後ろにつき、四人は図書館を後にする。その間ショウは考えていた。

 

(今の地震……なにか、違う?)

 

 不自然な揺れ。感覚的には海側ではなくコトブキ側から伝わったようだった。ナナカマドも同じことを思ったようで外の様子を確認するや否や、自然のものではないな、と呟いた。

 

 辺りを行く人々の喧騒の中で、一際大きい声が聞こえた。

 

「今の揺れ、リッシ湖の方で爆発が起きたそうだ! どがーん、ってな!」

「リッシ湖? ……お前たち! リッシ湖の様子を確認してきてくれるか? もともと三人にはそれぞれ湖の調査を頼むつもりだったのだが、爆発が起きたと言うのではな」

「一人で良いよ。私が行く」

 

 傲岸不遜にも映るそれは、ショウの嘘偽りのない気持ちによるものだった。なぜなら、ショウはこう考えている。

 

(アグノムのじばく。やっぱりすごい)

 

 違う。今の爆発はギンガ団が仕掛けたギンガ爆弾によるもの。あかいくさりを作り出すために湖が干上がるほどの威力を以ってしてアグノムを誘き出さんとしたのである。

 

 ショウがアグノムのじばくなどとトンチキなことを言い出したのには訳がある。

 ショウとラベン博士は研究のため各ポケモンの調査にタスクを課していた。捕まえた数、技を見た数、変わったところでは人を助けるハピナスの習性を調査、などもあるが、基本的には回数を決めて観察を行おうという趣旨のものだ。

 伝説だろうがなんだろうがポケモンであれば関係ないとばかりに二人はタスクを設定していった。その結果生まれたのが狂気の図鑑タスク『じばくをみた数』であった。

 

 試行回数は驚異の四〇回。都合四〇回以上瀕死になったアグノムは、最後の方にはなぜか自分のじばくに誇りを持ち始めていたほどだ。

 そのためショウは思ったのだ。リッシ湖の爆発と言えばアグノム。目的が湖の調査であるのならリッシ湖に三人も行く必要はなく、二人には残り二つの湖を見てもらった方が良いだろう、と。

 

 ナナカマドはそんなショウを見てぞくりとする感覚を覚えた。勘違いである。ショウは有り余る自信から単独行を選んだのではなく、ヒスイより洗練されているであろうじばくを見に行きたがっているだけだ。

 

「ウム……ではジュンはエイチ湖、コウキはシンジ湖の調査を頼む! エイチ湖への道は特に厳しいからな。強いトレーナーに頼みたい」

「ま、まーな! ……それよりじーさん、オレ、湖に行くぜ! なんかやばい気がするんだ!」

 

 言うや否やジュンが駆けていく。その右手にはワシボンの入ったボールが握られている。

 ではショウも、と続こうとして、はたと立ち止まる。

 

「コウキ。バリアーラッシュは早業で打ってね。シュッシュッって感じ」

「え? それってどういう……ってもういない!?」

 

 感覚派のショウが残した言葉は、コウキの頭にクエスチョンマークをいくつも浮かべた。

 

 

 リッシ湖は干上がったかのようだった。湖の大部分は湖底の土が露出しており、そこにコイキングが力なく跳ねている。加えてそこかしこでギンガ団が待機しており何かを警戒している様子だった。

 湖の真ん中に浮かんでいた離れ小島は閉じているようだが、そこにアグノムの気配は感じられなかった。

 

 ショウは顔に少しの感情も乗せず、ボールを構えた。それは空のヒスイのモンスターボール。ギャラドスを捕まえて以降使わないようにしていたものだった。

 出っぱりが邪魔だし、ポケモンセンターでは困るし、ボックスにも入らない。しかし数だけはある。あちこちで苦しげにしているコイキングを保護するくらいなら、十分に賄えるほどの数が。

 

(ギンガ団は)

 

 ボールを投げる。コイキングに当たる。ボールを投げる。コイキングを捕まえる。周囲の団員がショウに向かう。ボールを投げる。ギャラドスが飛び出る。きのみを落とすように、石を砕くように、団員を蹴散らす。

 

(守るための組織なのに)

 

 この惨状を引き起こしたのがギンガ団であるかはショウには分からない。しかし苦しむコイキングを前に何もせず、あまつさえけらけらと笑っている。もしそれがシンオウにおけるギンガ団だと言うのならば、ショウが終止符を打たなければならない。

 

 ビッパを繰り出し駆け回る。目隠し玉で視界を奪い粘り玉で足止め。遠く木に引っかかったコイキングにジェットボールを投げる。視界を失ったギンガ団のポケモンにショウもポケモンを投げ、倒す。

 

 ショウはほとんどの思考を排した頭で、なんとなく、ヒスイの仲間たちの顔を思い浮かべた。

 余所者にも関わらず良くしてくれた先輩団員のテル。居場所をくれたシマボシ。呉服屋のシャロンとはハイカラな服の修繕と量産体制について話し合ったこともあったし、警備隊のペリーラには早業力業の覚えさせ方を教えてもらった。今投げたボールはきっと製造隊のタオファの作だろう。なんせ重心が綺麗に真ん中だ。

 

 スカンプーのどくガスが辺りを覆う。少し吸い込んでしまったのでなんでもなおしを服用。ポケモン用だが効かないことはない。この状況で呼吸を阻害されるのはまずい。

 何かのたいあたりを避けそこね、ビッパから落ちる。こんなときの受け身の取り方はデンボクとムベの二人がかりで教わっている。だから大丈夫。殺到する攻撃を、ローリングで避ける。

 

 そうして湖だった窪地を一周するころには、立っている団員はほぼいなくなっていた。残りは遠巻きに様子を窺う数人と、今し方姿を表した青い髪の男だけ。

 

「幹部?」

「その通り。お前はマンテンボシだな? ジュピターも情けない……と、思っていたが。認識を改めよう。アカギさまの命令が『倒せ』ではなく『時間を稼げ』だったのも頷ける」

 

 青い髪を二又に分け、ツノのように逆立てた神経質そうな男が言う。

 

(……カイロス?)

 

 違う。この男はサターン。ギンガ団の幹部であり、ギンガ爆弾を用いてこの惨状を引き起こした下手人でもある。

 

(いや、違う)

 

 ショウはかぶりを振った。そう、違うのである。カイロスを模した髪型ではないし、そんなことを言っている場合でもない。体は泥に塗れ、喉を焼いた毒は体の内で未だ燻っている。黒く染まった視界の淵が体へのダメージを訴えている。

 

(──ヘラクロスだ)

 

 違う。……ショウの精神はこのような状況でなお、平常だった。それが良いことか悪いことかは分からない。だが少なくともこのとき、ボールを構えられたのはそのおかげだった。

 

「これだけの数を相手に大立ち回り。お前の強さは疑うべくもないが……その状態でこの私に勝てるか?」

 

 サターンが繰り出したドクロッグは、ニヤニヤと笑うような目つきでショウを見ていた。その表情とは裏腹に足捌きは熟練のそれで、いつでも動けるように猫足で軽いステップを踏んでいる。

 

「カラナクシ」

 

 ビッパは疲労の色濃く、ギャラドスは的の大きさのため多く被弾してしまいダウン。ポッチャマとカラナクシは比較的まだダメージは少ない。バスラオも何度か繰り出していたが、反動のある技を何度か使っていたようだったのでバトルさせるには回復が必要だ。

 ゆえにショウはカラナクシを繰り出し──そこで、カラナクシがトリトドンに進化していることに気がついた。

 

(気づかなかった。けど、ずいぶん楽になる)

 

 ドクロッグが身震いする。ヒスイ地方では特性を定義するに至らなかったためショウ自身の造詣は深くない。だが数多の観察に裏打ちされた経験は、トリトドンがドクロッグの弱点となるじめん技を覚えていると教えていた。

 

「トリトドン、どろばくだん」

「チッ、ドクロッグ! 躱してどくづき!」

 

 様子見のどろばくだんをドクロッグは飛び上がって躱し、ひと足に距離を詰めてどくづきを放つ。トリトドンはその柔軟性を持ってぬるりと体の形を変え、通り過ぎざまにみずのはどうを放った。

 

(まだ技の皆伝には届いてない。どろばくだんで早業、力業は使えない)

 

 自発的にみずのはどうを放ったのがその証拠と言っても良い。覚えたばかりの技に慣れておらず、使い慣れたみずのはどうを選択したのだ。

 どうにかしてどろばくだんを当てる必要があった。トリトドンは遅いポケモンだ。ドクロッグとの素早さの差は歴然。こちらが一動く間に相手は二動く。ポッチャマにしてもそれほど足は速くない。本来ならギャラドスとの力の差で押し切るような相手だ。

 

 みずのはどうを危なげなく回避したドクロッグは、攻撃を避けられる程度の距離を常に保っている。ヒットアンドアウェイ。厄介な戦術だった。

 

早業(はやわざ)、みずのはどう」

「近づいてどくづき!」

 

 みずのはどうは外れ、ぬかるんだ湖底をびちゃりと抉った。どくづきを受ける。毒にはなっていないが、そもそもの体力が削られている現状あまり猶予はない。

 もう一度早業でみずのはどうを放つ。ほぼ同じ軌跡を描いたみずのはどうは同じように外れる。ショウにしても身の内を蝕む毒があり、ふらつきながらも立ち位置を調整した。

 

「だましうち!」

 

 どくづきと同じ構えから裏に回って攻撃。トリトドンの体が傾ぐ。好機と見たか、ドクロッグはどくづきを構えた。

 

「どろばくだん!」

 

 至近距離のどろばくだんが外れる。ドクロッグは跳び退り──水溜まりへと落ちた。

 ショウが狙っていたのは相手の機動力を削ぐこと。水が吹き飛んでしまったとはいえここは湖。みずのはどうで地面を抉り、深めの水溜まりを作ることは造作もない。

 いくら沼地に生息するポケモンとはいえ、水の重さを軽減できるわけではない。

 

「もう一回、どろばくだん!」

 

 放つ。その瞬間ショウは当たらないことを悟った。回避が間に合ってしまう。ショウたちに蓄積したダメージがここにきて牙を剥く。

 しかし。トリトドンはどろばくだんを放った直後、次の技を放った。ショウの知らない技。おそらくは先の乱戦中に覚え、使える、という確信だけがあった技。

 トリトドンは身を震わせ力を込めた。知るものが見ればこの技をこう呼んだことだろう。

 ──だくりゅう。

 

 ドクロッグの嵌った水溜まりの水が意思を持ったように襲いかかる。横方向への跳躍を図っていたドクロッグは水に飲み込まれる。どろばくだんが命中。

 ドクロッグが泥の中に崩れ落ちる。べちゃり、と飛沫が跳ねた。

 

「くっ……! この、私が……!」

「アグノムは、どこ」

 

 ショウは肩で息をしつつ問いかけた。隣にはトリトドン、警戒は切らさない。

 その様子を見て、サターンは大口を開けて笑った。

 

「やはりアカギさまはいつも正しい……! お前に教えてやろう、マンテンボシ。今ごろ湖のポケモンは三匹ともトバリのアジトの中だ。ギンガ団はそのパワーを使って新しい宇宙を生み出す! そのために私たちに課せられた任務はお前を足止めすること! 今ごろ、あかいくさりを取り出すためにどんなことが行われていると思う?」

 

 サターンが嗤う。急げ、急げ、と。撃破するのが理想ではあったが、これだけの痛手を負わせられたのであれば上々。

 アジトへ湖のポケモンを届けるだけの時間はすでに稼いだ。であれば、このまま回復させる時間を与えず、アジトで迎撃を行う方が良い。この少女が一度隠れてしまえば見つけ出すのは困難だろうから。

 

 ショウは顔を険しくして、重い体を引きずってトバリへ走った。途中、ポケモンたちをポケモンセンターに預け、自身はベンチに座ったまま少しだけ眠った。

 




ストック尽きたので遅れるかもです。
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