深紅の帝王、ヒーローになる   作:やっぱし侍

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 よろです




第1話  プロローグ 『眠れる奴隷』

 

 

 

『運命はわれわれの行為の半分を支配し、他の半分をわれわれ自身にゆだねる。』 〜君主論〜

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、こっちこっちー!!ぱすぱーす!」

 

 

 あどけない笑顔でこっちに手を振る友人に向かい、勢いよくサッカーボールを蹴り上げる。大きく跳ね上がったボールが、友人の足元へ無事に届いたのを確認し――火照った身体を冷やすようにゆっくりと熱を吐き出した。

 

 紅城王司(あかぎおうじ)、5歳。イタリア人の母親と日本人の父親を持つ紅城は、幼いながらに整った顔立ちと同年代に比べて発育の良い体格を兼ね備えていたが――その表情には明らかな陰りがある。

 

 

 

 

 事の始まりは中国・軽慶市から発信された“発光する赤児”が生まれたというニュース。以後各地で「超常」が発見され、原因も判然としないまま「超常」は「日常」へ、「異能」は「個性」へと呼び名を変えて人々の間に浸透していった。

 そう、今や世界総人口の八割が何らかの特異体質である超人となったこの世界では『無個性』こそが異物であり――その総数は年々減少している。

 

 そして個性とは、多くの場合4()()()()()()()()()

 

 

 

 サッカーを楽しむ友人たちに視線を向け――紅城は自らの胸中に湧いた劣等感と仄暗い焦りから、思わず目をふせてしまう。

 来月に6歳の誕生日を控えているにも関わらず、紅城には未だ個性が発現していない。友人たちはもちろん、隣のクラスを含めても、いわゆる「無個性」と呼ばれるような何の能力も持たない同年代は居なかった。

 

 幸いにも容姿に恵まれ、ハーフという近寄りがたい雰囲気を醸し出している紅城にとって、“無個性”を理由にイジメられた経験は無い。

 しかし、まるで世界に自分ひとりが放り出されたような深い孤独と漠然とした疎外感が常に彼の精神を支配していた。

 

 

(……金曜にママと「こせいけんきゅうのすぺしゃりすと?」って人と会う約束してるけど……もしこのままずっと「むこせい」だったらどうしよう……)

 

 

 5歳の子どもが向き合うにはあまりにも酷な現実に、紅城の思考はついマイナス方向に傾きかけてしまうが――――紅城は涙で滲んだ視界を強引に擦り、汗で額に張り付いたピンク色の髪を勢いよくかきあげる。

 

(いまはサッカーに集中しなきゃ!ぼくひとりがずっと休んでたら、みんなに迷惑かけちゃう!!)

 

 

 改めて眼前のボールを追いかけ、勢いよく敵陣へ攻め込もうと足を踏み出した瞬間――――少年の視界が暗転した。

 

 

 

 

 自分の身体が宙に浮いたような――朦朧とつつもハッキリした意識の残る、明晰夢のような世界。訳も分からず困惑する紅城に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()夥しい量の情報が脳内に流れ込んでくる。

 

 

 19世紀のイギリスにて貴族の出自を持った青年とそのライバルが迎える悲劇的で数奇な物語から始まり、その()()は人智を超越した肉体を持つ古代人との死闘を繰り広げる。さらにその()()は、奇妙なビジョンの『スタンド』と呼ばれる能力を持ってして、仇敵を討ち母を救うためエジプトへと乗り出した。

 またある時は、輝かしい正義の心を持つ高校生たちが日常に潜む殺人鬼に立ち向かい、またある時は黄金の精神と覚悟を持ったギャングたちが『()()』を倒すために立ち上がる。そして最後に、信念によって結ばれた父と娘が、過去の因縁に導かれし邪悪な神父を打ち倒そうとして――――神父の進化したスタンドによって、時は加速し世界は一巡する。

 

 

 奇妙で――何の脈絡も無いかのようにも思える長い長い時の旅路は、血と運命によって繋がれ……新しい世界において神父との決着を着ける事によって収束した。

 

 

 その記憶を最後に、紅城の意識は再び暗闇に包まれる。

 

 少年には理解ができなかった。自分の身に何が起きているのか、たった今見た光景はどこまでが真実なのか。いっそのこと、ただの夢や妄想だと全てを切り捨てられれば良かったのだが――――そう言い張るには、()()()()()()()()真に迫る光景であった。

 

 

 頭の中の大部分を混乱が占めていたが、それでも不思議と胸の奥が熱くなってくる。

 “彼ら一族”の光り輝く黄金の精神によって繋がれた物語は、幼い少年の心に勇気を与え――輝かしい未来の道しるべを示していた。

 

 

(あぁ……願わくば僕も……彼らのような『ヒーロー』に……!)

 

 

 暗闇に包まれた世界に、再び光が差し込み――――少年の意識は浮上していく。

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと見慣れない白いタイルの天井が広がっていた。

 やがてツンと鼻を刺すような消毒液の匂いと頭を包む清潔で大きな枕の感触が伝わり、今いる場所が病室のベットの上だと理解できた。

 これは後々になって聞いた話だが、どうやら当時の僕は友達とサッカーで遊んでいる最中に突然意識を失い、原因不明の高熱によって50日間ものあいだ生死を彷徨っていたらしい。父も母も気が気ではなかっただろう。

 

 白いカーテンの隙間から溢れる、50日ぶりの朝日に目を細めながら上体を起こすと、少しやつれた様子の母が自分のベッドに身を預けるようにして寝ているのが目に入った。

 

 

(母さん……そうか僕は戻ってきたのか……)

 

 

 感傷に浸りながらゆっくりと身体をほぐしていると、ふと自分の枕元に()()()が立っている事に気が付く。

 

 筋肉質で均整の取れた深紅の肉体と網目状に引かれた純白のストライプ。緑色のつぶらな瞳からは一切の感情が読み取れず、額には苦悶に満ちたとも憤怒を浮かべたとも取れるような小さなピンク色の相貌が付いていた。

 

 少年はソレを知っている。

 たった今夢の旅路で見てきた、“巨悪(ディアボロ)”の操る無敵のスタンド。

 

 

 『キングクリムゾン』が長き眠りから目覚めた主人を見守るように、こちらをじっと見つめていた。

 

 

 

 この時、少年は自らの運命の歯車が大きく動き出す音を聞いた気がした。

 

 

 






転生や転移ではなく、「ジョジョの世界で6部までに起きた出来事」と「それを理解出来るだけの知性」が頭の中に流れ込んできた、みたいな感じです。

……実際に起きたらめっちゃ怖いでしょうね



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