深紅の帝王、ヒーローになる 作:やっぱし侍
説明回です。次回からストーリー進みます。
黄金の精神に憧れていたら、悪党の能力を手に入れてしまいました。
退屈な三文小説の書き出しのようにも思えるが、これは実際に僕――
わずか5歳の少年(昏睡中に誕生日を迎えたので6歳だが)が、50日間ものあいだ原因不明の高熱にうなされていたかと思えば、目が覚めたら突然個性が発現しているのだ。いや、そこまではまだ良い。極限状態に追い込まれる事で生存本能が刺激されて、個性が発現・覚醒するという事例は極めて稀少ではあるが、既に確認されているからだ。
本当の問題は僕の頭の方にある。おっと、別に馬鹿になったっていう訳じゃあない。むしろその
短期間で膨大な量の情報が流れ込んできた影響か、僕の脳は急激なまでの成長を遂げており、こと言語機能や一般教養・認知機能の分野に関して言えば、たった6歳にして18~20歳程度と同等であると診断されたほどだ。
これには流石の両親や担当医も驚愕していた。なにせ教えたつもりのない言葉や知識をペラペラと喋り出す子供など、古今東西どこを探しても見当たるはずがない。実際、担当していたナース達はかなり気味悪がっていた。
しかし、それでも両親は僕を遠ざけるような真似をしなかった。それどころか、身体的に何の問題も無いと分かった日には、泣きながら喜んで祝福してくれた。自分で言うのもなんだが、本当に環境には恵まれていたと思う。
結局、脳機能の急成長は「ショックによる脳の過覚醒」という医師の判断に落ち着いた。
また、役所における個性届けの手続きもつつがなく完了した。
唯一、個性名を『キングクリムゾン』と名付けたことが原因で、その理由を細かく聞かれたりもしたけど……それ以上は何も起こらなかった。
元々、会う予定のあった個性研究のスペシャリスト(たしか
かくして僕――紅城王司の幼少期は終わりを告げ、僕の奇妙な出来事に対する人々の疑念と関心は時間と共に忘れられていった。
――――あれから8年後――――
「なぁ〜〜頼むよ、アカギ〜。先生いつも言ってるだろ?オマエはうちの学校のエースなんだからよォ〜。あとはちょ〜っとばかし
「はい、すみません……」
「お前さんがどこで何してるかは知らねぇよォ?何だったら喫煙くらいの問題行動は揉み消してやりてぇが……
「安心してください。自分で把握出来てますので」
「よッし!ならいい……俺の昇給のためにも頑張ってくれよなァ〜!」
担任の教師から説教という名の釘刺しを受けた紅城は職員室を後にする。
小学生の頃は脳が急成長した影響から、クラスメイトとの会話にギャップが生まれ、それなりに肩身の狭い思いをしたものの――中学生にもなれば周りも成熟してくるので、苦労する機会もほとんど無くなっていた。
(とは言っても……いや、数学やら芸術系の授業ならまだ
大まかに荷物をまとめると、紅城は『いつもの』サボり場所へと足を運ぶ。
小気味良い音で足元の枝を踏みしめながら、新緑の香りを胸いっぱいに吸い込む。中学校から見て西側にそそり立つ裏山は、私有地ではあるものの管理が行き届いておらず、人の出入りも滅多に無い。日中はここで昼寝や読書を楽しんだり、筋トレや秘密の訓練を繰り返していた。
「さてと、今日もボチボチ始めていこうかな……『キングクリムゾン』!」
青年の隣に、突如として真紅の力強いビジョンが並び立つ。
太陽の光を反射して赤く輝く己の半身に――紅城は頭の中で命令を下しながら操作する。
『ハァァァァッッ!!』
雄叫びを上げたキングクリムゾンは、目を見張るような速度で目の前にある巨大な老木へ手刀を叩き込む。ミシリ、メキメキと木の割れるような音が響いた数秒後――老木は中腹部分からゆっくりと倒壊していく。
その様子をしばらく無表情で眺めていた紅城は、やがて一つの大きなため息を吐く。
「弱いな……
浮かない表情のまま鞄からストップウォッチを取り出し、いつものルーティンとしてキングクリムゾンが誇る『真の能力』を計測する。
「…………限界だ、
そう、僕――紅城王司は、8年前にこのスタンドに目覚めて以来、キングクリムゾンの真価を発揮出来ずにいる。
もちろん、スタンドは精神力の具現化であるため、初めからディアボロのように完璧に使いこなせるとは思っていなかった。しかし、発現からこうして毎日欠かさず訓練を積み、8年が経過した今でもその成長は遅々としている。
「甘く見積もって破壊力はB……いや、『B-』だな。かろうじてスピードの方は『B+』と言ったところか」
5歳の頃、夢の世界を旅していた僕には全てのスタンドのパラメーターが見えていた(見えていたのは僕だけかもしれないが)。とは言っても、そのパラメーター自体がかなり大雑把なものだったので、今はこうしてより詳細に分類しながら特訓に励んでいる。
(エルメェスの『キッス』にサーレーの『クラフトワーク』が、『ザ・ワールド』や『スタープラチナ』と同じ破壊力AスピードA評価なのはおかしいだろ……!そもそも『シルバーチャリオッツ』の破壊力Cだって怪しいのに……いや、純粋なパワーって意味ならそうかもしれないけど……なんていうかこう、かなり大雑把なんだよなぁ)
そういった理由から紅城は、アルファベットでの評価に加えて「+」や「-」をつける事でスタンドを分析している。
意味は単純で、プラスは「その評価に値する中でも上位に位置しており、格上にも勝てるポテンシャルがある」、マイナスは「その評価に値する中では下位に位置しており、格下にも負ける可能性がある」といった具合だ。
苦笑しながらも、自身のスタンドについて詳しく分析する。
(これらを加味して考えると…………僕のキングクリムゾンは破壊力B-、スピードB+、射程距離E、持続力E-、精密動作性がB+で成長性は……まぁAとしておこう。一応、近距離パワー型としては最低限の体裁は保てているけど……ほんと最低限って感じだね)
そう、近距離パワー型として不自然なほど劣っている訳ではない。だが、僕はこのスタンドが持つ
全スタンドの中でもぶっちぎりの破壊力とスピードを誇る『スタープラチナ』や『ザ・ワールド』にも一切引けを取らず、その両方を実際に見てきたポルナレフをして「無敵」と言わしめた『キングクリムゾン』がこの程度であって良いわけがない。
(まぁ、訓練あるのみ……だよなぁ。……8年前、あれ以上は目立ちたくないって気持ちも強かったから、個性届けに「
心の中で悪態を吐きながら、次の訓練のために空き缶を適当な大岩の上に並べる。今日の朝、胸ポケットに入れてきたベアリングの球についてもしっかりと確認済みだ。
(いや、時を飛ばす能力なんてのはこの“超常社会”においても異質中の異質。面倒事を避けるためにも、この能力は秘密にしなきゃいけないか…………まぁ、いつかはバレるだろうけど。それは今じゃない)
大岩の上に大小5つの空き缶を並び終えた紅城は――片目をつぶり、軽く首を傾けながら指尺で距離を測ると――満足気に一つ頷く。
「ディモールトッ!良い位置だ!……承太郎さん発案!ベアリングの玉を空き缶に当てる
僕のスタンドが発現してからおよそ8年。その成長は亀の歩みのように遅く、最大限にポテンシャルを引き出せているとは思えない。唯一、精密動作性に関しては長年の訓練の成果もあってか“本家”のディアボロにも劣らないだけの自負があるのだが…………
この膠着した状況においても、能力が能力だけに迂闊に人の手を借りる事は出来ない。恐らく誰の脳裏にも諦めや挫折がチラつくだろうこの状況において――――それでもなお、僕の胸には彼らの勇姿が刻み込まれていた。
(道のりがどれほど困難だろうと、夢を諦める理由にはならない……!別に『ヒーロー』になってチヤホヤされたい訳じゃあない、見ず知らずの誰かを助けて感謝されたいとも思わない……僕はただ、あの時見た彼らのように……自分の大切な人を、自分の信じる『正義の心』を守れるだけの強さが欲しいッッ!!)
自分の熱い鼓動に応えるように、自分の熱い決意を肯定するように。スタンドが、自分の肉体が、独特な姿勢で固定される。
(そのために、必要なんだッ!そこに
あ、そういえば言い忘れてたけど――――これはやがて黄金の精神を手に入れる僕が、最高のヒーローになるまでの物語だ。
ちなみに、ここで主人公が殻木と出会っていたらヴィランルートです。
ディアボロ(本物の)のキングクリムゾンの作者評
破壊力 A+、スピード A+、射程距離 E、持続力 E、精密動作性 B+、成長性 B~C
ちなみに原作単行本では破壊力とスピードがA、精密動作性と成長性は「?」の表記になっています。