段々と暑さが本格的になってきた7月1日。今日から夏服、半袖に衣替えとなる。誰かが教室へ入ってきた時、空気が固まるのを感じた。読んでいた文庫本から視線を上げると、教室の入り口に菅谷君の姿があった。彼の左腕には黒いペイントが施されている。驚いている面々に向かって菅谷君は説明する。
「メヘンディアートっつてな色素が定着したら1週間取れねーんだ」
「あーインドのやつっしょ。うちの両親インドかぶれで旅行行く度描いてくるよ」
カルマ君の補足説明にヘナの葉のペーストを使用するアレか、と1人納得する。殺せんせーは、非行少年に関する本を必死で読み漁っていた。どうやら、世間体には滅法弱いらしい。
まだ塗料が残っているから、と菅谷君が殺せんせーの顔に塗料を塗る。もしや、予感は的中した。塗料の触れたところから顔が溶け出す。本人も叫ぶがその顔を教室中に見せるので阿鼻叫喚の大騒ぎだ。やはり塗料に対先生弾の粉末を混ぜていたようだ。やっと落ち着いた、と思いきや普通にカッコいい模様を描いて欲しかった、とわざとらしく落ち込む先生に菅谷君が対先生弾成分のない塗料で模様を描いていた。
その後は菅谷君による独壇場。皆んなの腕や足などにインドの伝統的な模様を描いてゆく。平面ではなく立体的なものにチューブ状のもので描くだなんて何て器用なんだろうか。気がつくと僕以外は全員どこかしらに模様をつけているようになった。菅谷君がこちらに声をかける。
「天宮もやってみるか?」
「是非、お願いしようかな」
断る理由もないし快諾する。僕が了承したのに一瞬驚いた様子を見せた菅谷君だがどう仕上げるかを考え始めた。腕は対外的に問題があるかもしれないので脚にアートを施してもらう。
「てっきり断られるかと思ったぜ、優等生のイメージが強いからさ」
「ちょっと要領がいいから頭良くみえるってだけだよ。誰にも真似できないようなことをやる方がよっぽど難しいしカッコいいよ」
菅谷君の手がピタッと止まりこちらを見る。そんなに変なことを言ったつもりではないんだけども。
「俺さ、2年の時アート方面に走りすぎて素行不良扱いされたんだよね。だからそうやって褒めてくれんのすっげー嬉しい」
顔を少し綻ばせる様子に僕も嬉しくなる。椚ヶ丘は生徒を学力でしか測らないから面白みがない。あの怪物の前では勉強以外で才能のある人たちが埋もれずに一生徒として授業を受けることができる。
その後登場したイリーナ先生が叫び声と共に気絶し、昏倒している間に落書きされて本物の銃を持ち出すなんて一幕もあった。
猛暑が顔を出す7月某日。
授業中に天啓を受けた。
『甘き実の内に鋭き刃。刃の主は手を汚すを厭わず』
甘き実、とは何だろう。条件、金銭、甘言。そして刃の主、これは恐らく暗殺者のこと。生徒か教師か、それとも一般人か。甘い罠にかけて殺せんせーに挑むのは王道すぎるので刃の向かう先は僕もしくは身内などかもしれない。
昼休憩の際にクラス内を観察してみるが特に怪しい様子はない。杞憂だといいなと思いつつ弁当を完食した。
「それまで! 今日の体育は終了!」
烏間先生の号令で本日の全ての授業が終わる。今日の体育は少し特殊で中間報告ということでトレーニングではなく1対1もしくは複数で烏間先生と対峙するというものだった。烏間先生は素手だがこちらは対先生ナイフを所持できる。だが、なかなか当たらない。結局誰1人当てることができないまま授業は終了した。それぞれ感想をいながら教室へ戻る中、倉橋さんが声をかける。
「せんせー! 放課後街で皆でお茶してこーよ!」
「ああ、誘いは嬉しいがこの後は防衛省からの連絡待ちでな」
端的に断った烏間先生はそのまま校庭を後にする。
「……私生活でもスキがねーな」
「っていうより私達との間にカベっていうか一定の距離があるような」
三村君と矢田さんが呟くが教員免許を持っているとはいえ教育より任務が比重を占めるはず。教師も防衛省の仕事もとはこちらの想像以上に激務なのだろう。
「厳しいけど優しくて私達のこと大切にしてくれるけど、それってただ任務だからにすぎないのかな」
「そんな事ありません。確かにあの人は先生の暗殺のために送りこまれた工作員ですが、彼にもちゃんと素晴らしい教師の血が流れていますよ」
倉橋さんの疑問をいつの間にかいた殺せんせーが否定する。すると教室の方から段ボールなどを抱えた1人の男がやってくる。
「やっ! 俺の名前は鷹岡明! 今日から烏間を補佐してここで働く! よろしくな、E組の皆!」
快活に笑い段ボールの中からケーキやジュースその他にも普通の学生ではなかなか食べる機会のないものが現れる。甘党の茅野さんや不破さんが目をハートにして喜んでいるのが良くわかる。
「いいんですか? こんな高いの」
「おう、食え食え! 俺の財布を食うつもりで遠慮なくな! モノで釣ってるなんて思わないでくれよ、お前らと早く仲良くなりたいんだ! それには皆で囲んでメシ食うのが1番だろ」
どかっと中心に座り込みエクレアを食す鷹岡さんだが正直胡散臭い。明らかに甘味で釣っているし早く仲良くなりたいなら金にものを言わせるやり方ではなくもっと適したやり方があるはず。何より啓示が示している。この男は怪しい。甘き実はこれらのことで間違いなさそうだが甘き実の中の鋭い刃とはなんだろう。文字通りスイーツに毒を仕込んでも鷹岡さんの方にメリットはなさそうである。殺せんせーも見事に釣られて食べているし無害ではあるのだろう。
「同僚なのに烏間先生とずいぶん違うスね、なんか近所の父ちゃんみたいですよ」
「ははは、いいじゃねーか父ちゃんで、同じ教室にいるからには俺達家族みたいなもんだろ?」
木村君の言葉に乗っかり近くにいた中村さんと三村君の肩を強引に組む彼に疑惑は増すばかり。
「そこのお前も突っ立ってないで遠慮なく食えよ!」
いつでも動けるように、と考えていたら食べるように促される。正直、甘党とはいえ口にしたくない。
「僕、そんなに甘いの得意じゃなくて。みんなで食べてくれた方が嬉しいよ」
当たり障りなく笑顔を浮かべて対応する。磯貝君がシュークリームを口に頬張ったまま驚きの表情で見てくる。そういえば前勉強を教えた時、勉強の合間に2人でケーキを食べたのを思い出す。だが磯貝君は言いだすつもりはないようで一安心だ。
「明日からの体育は鷹岡先生が?」
「ああ! 烏間の負担を減らすための分業さ。あいつには事務作業に専念してもらう、なっ!」
岡野さんの質問に頷き、烏間先生に同意を求めているが烏間先生の目つきは少し険しい。現に特に肯定も否定もしていない。同意するのを隠すメリットはないのだからということを考えても烏間先生は否定的のようだ。
「大丈夫! さっきも言ったが俺達は家族だ! 父親の俺を全部信じて任せてくれ!」
その言葉で一層疑念が強まることに気づいていないようだ。初対面の相手に信じてくれ、という言葉を普通は使わない。ましてや全部信じてだなんて実の父親でも言わないだろう。信頼は構築するものではなく後からついてくるものだろうに。
そのままサッカーに没頭する彼とE組の皆んなを横目に僕は烏間先生の元へ向かう。烏間先生は殺せんせーと何か話しているようだ。
「烏間先生! あの、僕はこれからも烏間先生に教えてもらいたいです」
「天音君、気持ちは嬉しいが上層部の決定だ。俺にはどうすることもできない」
ダメ元で言ってみたがあっさり否定される。その会話を聞いていたのか殺せんせーが話しかけてくる。
「甘いものに目がない天音君が嘘までついて食べないなんて何かあったんですか?」
僕が甘党だなんてどこで知ったんだろうか。そんな疑問に答えるように殺せんせーは続ける。
「毎日、生徒の家には高速パトロールしてますから君が帰宅後デザートを食べてることなど転級初日にわかってますよ、ヌルフフフフ」
「勝手に覗き見ないでくださいよ、至福の時間なんですから。言ってくれれば今度から殺せんせーの分もご馳走しますから」
「ニュヤッ! 本当ですか!? なら早速今日とかどうです?」
「ふふっ、ちゃんと玄関から来てくださいね」
鷹岡さんのデザートを食べつつまだ食べることを考えている殺せんせーに思わず笑がこぼれる。そんな僕らの会話を聞いていた烏間先生が僕に問いかける。
「天音君、そんなに甘いものが好きならどうして手をつけなかった?」
殺せんせーのパトロールで話題が逸れたが明確に答えてなかったか。
「……どこか胡散臭さを感じています。初対面でご機嫌取りする計画性と教室は家族、と言う不安定さがアンバランスに映るんです。信頼を早く構築する、と言うのも疑問があって……」
同僚ということもあり、あまり強い言葉は使えないがこの気持ちは伝わるだろう。だが、彼も上層部には逆らえない。すぐにでも証拠を揃えれば担当を代えることができるだろう。
週が変わって月曜日。今日が彼の初授業となる。
「よーしみんな集まったな! では今日から新しい体育を始めよう! ちょっと厳しくなると思うが終わったらまた美味いもん食わしてやるからな!」
始まった、いや始まってしまった彼の授業。先ほどのあからさまな飴と鞭発言に身が強張るのを感じる。彼はクラスの皆んなを何だと思っているのだろうか。そのまま盛り上がっていくクラスをどこか冷めた目で見つめていると新しい時間割が配られる。目を通すまでもなくわかるのが圧倒的訓練の占める量。平日は21時まで主要教科もほとんど削られた時間割を見て皆絶句する。一気に化けの皮が剥がれた。
「このくらいは当然さ。理事長にも話して承諾してもらった。地球の危機ならしょうがない、と言ってたぜ。この
「ちょっ! 待ってくれよ、無理だぜこんなの! 勉強の時間これだけじゃ成績落ちるよ! 理事長も
そりゃ毎日長時間、訓練を熟していたら能力は上がるだろう。だが学生の本分は勉強だ。前原君の意見には全面的に賛成だが、悪手である。スイーツを配るなど優しい側面を見せていたが彼も同じ空挺部隊。安易に噛み付くと危険だ。そっと彼の隣に並び立つ。
「遊ぶ時間もねーし、できるわけねーよ! こんなの!」
言い切った前原君に鷹岡が近づく。軽く前原君の腕を引っ張るが気づいていないようだ。両肩を鷹岡に掴まれてようやく気づいたようだがもう遅い。膝が前原君の鳩尾めがけて蹴り上げられるのがスローモーションで見える。掴んでいた前原君の腕を引き寄せるようにして前原君に向かい合うように僕の体を捩じ込む。痛みに備え身体を固くすると背中に激痛が走る。
「うっ……」
思わず前原君にもたれかかってしまう。当たり前だが修学旅行の時の高校生より一発が重く、速い。
「あ、天音……」
前原君を始め、クラスの皆んなに動揺が走る。前原君の顔は青ざめ口が半開きになっている。
「鳩尾よりかはマシだよ」
想像よりか細い自分の声に驚くがそうは言ってられない。
「『できない』じゃない『やる』んだよ。言ったろ? 俺達は『家族』で俺は『父親』だ。世の中に父親の命令を聞かない家族がどこにいる?」
威圧的に声をかける鷹岡に皆、言葉が出ない。それに気分をよくしたのかスクワットを要求する鷹岡。
「抜けたい奴は抜けてもいいぞ。その時は俺の権限で新しい生徒を補充する。俺が手塩にかけて育てた屈強な兵士は何人もいる。1人や2人入れ替わってもあのタコは逃げ出すまい。けどな、俺はそういうことしたくないんだ。おまえら大事な家族なんだから。父親として1人でも欠けて欲しくない! 家族みんなで地球の危機を救おうぜ!」
抜けたい奴は抜けてもいい、そんなことを言ってはいるが抜けさせるつもりはないのだろう。もしくは動けなくなり、抜けるというより捨てるという行為をするのか。何か、何か打開策はないのか。
必死で頭を回転させるが状況が不利なのと特殊状況に置かれている僕らに法律が適用されているのかも怪しく前提から成り立たない。考えていると鷹岡は神崎さんに問いかける。
「な? お前は父ちゃんについてきてくれるよな?」
「……は、はい。あの、私……」
震えながら神崎さんは言葉を紡ぐ。おそらく神崎さんは否定する。そしてその後彼が取る行動は1つしかない。
「私は嫌です。烏間先生の授業を希望します」
元々位置が離れたことや蹴られた背中が痛むこともあり間にいそうもない。だが皆が震えている中、動いているのは僕しかおらず。身体に檄を飛ばしつつ神崎さんを身体ごと突き飛ばす。
刹那、頭に張り手が襲いかかる。ぐわんぐわんとなる頭を抑えつつ突き飛ばした神崎さんを見ると軽傷で済んでいるようだ。
「天音君!」「天音!」
神崎さんと杉野君が寄って声をかけてくれるが答える気力もない。
悔しい。何もできないこの状況が。理不尽な暴力に対抗する術を持たない自分が。
「……正義のヒーロー気取りか? バカな自己犠牲もほどほどにしとけよ?」
鷹岡の言葉に返す言葉もない。自分が弱くて情けなくて仕方がない。
「お前らまだ分かってないようだな。『はい』以外は無いんだよ。文句があるなら拳と拳で語り合おうか? そっちの方が父ちゃんは得意だぞ!」
ハイライトの消えた目で笑う鷹岡に僕らは言い返すことができない。
「やめろ鷹岡!」
烏間先生が鬼のような形相で駆け寄ってくる。
「大丈夫か? 首の筋や頭に痛みは無いか?」
「先生、確信……しました。烏丸先生が、いいです」
息絶え絶えなのが恥ずかしいが意思はしっかり伝える。
「ちゃんと手加減してるさ烏間。大事な俺の家族だ、当然だろ」
どこに子供を暴力で縛りつける親がいるんだ、と憤るが睨む気力もない。支えてくれている神崎さんと杉野君にお礼を言いつつ上体を起こす。そんな中、否定する声がかかる。
「いいや、あなたの家族じゃない。私の生徒です」
殺せんせーだ。顔は黒くなっていないものの触手から血管のようなものが浮き出ている。クラスの皆んなからも安堵の声が漏れる。
「フン、文句があるのかモンスター? 体育は教科担当の俺に一任されているはずだ。そして今の
殺せんせーに牽制しすぐさまスクワットが開始される。腰の角度や膝の開き方など少しでも違えば胸ぐらを掴まれる。何か策を考えなくては、いやそれは殺せんせー達も考えているはずで。とりあえず今日をやり過ごそうと足に力をかける。
ふと目線をずらすと倉橋さんが殴りかかられているのがわかる。気づくのが遅くこのままでは殴られてしまうと思ったが烏間先生が駆け寄り、腕を止めた。そしてこのままでは不本意だとしてある提案を持ちかける。
「烏間、おまえが育てたこいつらの中でイチオシの生徒をひとり選べ。そいつが俺と闘い一度でもナイフを当てられたら、おまえの教育は優れていたのだと認めよう。その時はおまえに訓練を全部任せて出てってやる! 男に二言はない!」
少し希望が芽生えたと皆んなが沸き立つがそんなに甘い話があるわけない。対先生ナイフを地面に捨てた鷹岡がバッグから取り出したのは本物のナイフだった。
「使うナイフはこれじゃない。殺す相手が
「よせ! 彼等は人間を殺す訓練も用意もしていない! 本物を持っても体がすくんで刺せやしないぞ」
瞳孔が開き歯を剥き出しにして笑う鷹岡に烏間先生が激昂するが鷹岡はそれが狙いなのだろう。素手の相手にナイフでも勝つことができないという差を見せつけることにより従順さを得るのだ。
「さぁ烏間! ひとり選べよ! 嫌なら無条件で俺に服従だ! 生徒を見捨てるか生贄として差し出すか! どっちみち酷い教師だな、おまえは! はっははー!」
絶句し固まるクラスの面々。烏間先生は鷹岡の投げたナイフを地面から抜き出し、僕らの方へ歩いてくる。受け取りたくない、そんな心の声が聞こえてきそうなほどE組の空気は重い。
まともに闘えば間違いなく負ける。僕が生贄になるべきか? そんな考えが過るが既に2発食らっている僕が闘ったとして一方的に蹂躙されるのは明白。それはさらに皆んなに恐怖感を植え付けることにつながる。
そっと烏間先生の目を見れば決意の固まっている目をしていた。誰が最も勝つ確率が高いのか知っている目だった。そのまま1人の生徒の前に立つ。
「渚君。やる気はあるか?」
選ばれたのは潮田君。確かに彼ならより鷹岡の油断を誘えるかもしれない。烏間先生の眼には迷いがない。彼の眼には潮田君はどう映っているのだろう。
潮田君はナイフを受け取りそのまま軽く身体を動かし準備に入っている。残された僕らには心の中で彼を応援するしかない。
烏間先生の合図で、闘いが始まる。潮田君は殺気を纏い余裕そうに笑う鷹岡を睨みつける。ふっと彼の殺気が消えたかと思うとなんと笑顔で歩き始める。まるで手にナイフなど持っていないかのように自然に。鷹岡も困惑しているのか動けずにいる。両者の距離が僅か1メートルに狭まった時、潮田君はナイフを素早く振った。鷹岡が今初めてナイフに気づいたかのように驚き、身体を仰け反らせる。それを潮田君は見逃さなかった。傾いた鷹岡の服を引っ張り転ばせたかと思いきや背後をとり首にナイフを当てがう。誰が見ても勝敗は明らかだ。
「捕まえた」
少し口角を上げて呟く潮田君に思わず身震いした。これは、才能か。殺気を隠し一気に仕留める、しかも本番で。
「そこまで!」
勝負ありですよね、と潮田君からナイフを取り上げムシャムシャと食べる様子の殺せんせー。クラスの皆んなも駆け寄って潮田君の勝利を喜ぶ。そこへ気を失っていた米神に血管を浮き上がらせながら立ち上がる。だが勝負は決しているしこの場には最強の生物がいる。
「このガキ、父親も同然の俺に刃向かってまぐれの勝ちがそんなに嬉しいか。もう1回だ! 今度は絶対に油断しねぇ。心も体も全部残らずへし折ってやる」
「……確かに、次やったら確実に僕が負けます。でもはっきりしたのは鷹岡先生、僕らの『担任』は殺せんせーで僕らの『教官』は烏間先生です。これは絶対に譲れません。父親を押しつける鷹岡先生よりプロに徹する烏間先生の方が僕はあったかく感じます。本気で僕等を強くしようとしてくれたのは感謝してます。でもごめんなさい、出て行ってください」
そう言って頭を下げる潮田君。さらに激昂し殴りかかった鷹岡の顎を僕らの烏間先生は肘打ちでいなし地面に転がす。
「……俺の身内が、迷惑かけてすまなかった。後の事は心配するな。俺1人で君達の教官を務められるよう上と交渉する。いざとなれば銃で脅してでも許可をもらうさ」
そうカッコよく言い切る烏間先生に皆んなの顔が笑顔になる。
だが、交渉の必要はなさそうだ。タイミング良く校庭へ降りてくる理事長の姿を認め鷹岡が正式に解雇されることを確信する。
案の定、理事長は解雇通知を鷹岡の口に捩じ込みすぐさまその場を後にする。理事長のことだ。最初の方から様子を見ていたのだろう。そして己の権力を最も示すことのできるタイミングで登場。相変わらず徹底している。去り際に僕を一瞥したことも含めて。
何はともあれE組に平和が訪れた。無論、数ヶ月後に地球を滅ぼす生物が担任だが。いつも通りの空気になったE組の中で中村さんが烏間先生に話しかける。
「ところで烏間先生さ、生徒の努力で体育教師に返り咲けたし、なんか臨時報酬あってもいいんじゃない?」
「そーそー、鷹岡先生そういうのだけは充実してたよねー」
そこに倉橋さんが乗っかり烏間先生を全員が期待の眼で見つめる。どうせなら僕も乗っかるか。
「僕の頭も糖分がないと治らないかも……?」
既に痛みの引いた頭に手を乗せわざとらしく微笑んでみる。そんな僕らの様子に少し笑って烏間先生は言う。
「フン、甘いものなど俺は知らん。財布は出すから食いたいものを街で言え」
「「「「「やったー!!」」」」」
今日1番の盛り上がりを見せる教室に自然と僕も頬が緩む。
何を食べようかなぁと考えつつ、土下座しながらついてくる殺せんせーを皆んなで放って街へ出かける。
こうして僕らは烏間先生との信頼がより深まった。
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