E組からA組へ   作:蛍雪

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プールの時間

 超進学校の椚ヶ丘といえどプールの授業は存在する。しかし、プールは本校舎にしかなくプール疲れを背負ったE組は毎年、地獄のような行軍をするという。

 

 冷房のない教室でそっと頬を流れる汗を拭う。

 

 怠さのあまり間延びした会話をする皆んなに殺せんせーが言う。

 

「仕方無い、全員水着に着替えてついて来なさい。そばの裏山に小さな沢があったでしょう。そこに涼みに行きましょう」

 

 殺せんせーの提案に乗っかり皆で着替え沢の方へ向かう。

 

 川、ではなく沢と呼ぶ程度なら全員が満足に涼めるほどの大きさは無いはずだ。かといって殺せんせーが考えていないわけがない。

 

 そう考えながら歩いていると目の前にプールが出現した。

 

 「なにせ小さな沢を塞き止めたので、水が溜まるまで20時間! バッチリ25mコースの幅も確保。シーズンオフには水を抜けば元通り。水位を調整すれば魚も飼って観察できます」

 

「「「「「い……いやっほぉう!」」」」」

 

 殺せんせーの言葉を最後まで聞いたものは少なかっただろう。それほどまでに興奮したE組は誰にも止められない。

 

 皆んなが興奮して飛び込むのを横目にプールサイドの椅子に全身を預け涼みながら本を読む。

 

 ピピピピッ

 

 ホイッスルの音に驚き、音のした方へ目を向けると監視員になった殺せんせーがクラスの面々に注意をしているのがわかる。

 

「木村君! プールサイドを走ってはいけません!」

「原さんに中村さん! 潜水遊びはほどほどに! 長く潜ると溺れたのかと心配します!」

「岡島君のカメラも没収!」

「狭間さんと天音君も本ばっかり読んでないで泳ぎなさい!」

「菅谷君! ボディアートは普通のプールなら入場禁止ですよ!」

 

 その後も次々ホイッスルと共に注意を飛ばす先生。せっかくだし、とプールに入ると全身が冷えるのを感じる。

 

「カタいこと言わないでよ殺せんせー。水かけちゃえ!」

 

 倉橋さんがプールの水を掬って軽く殺せんせーにかける。

 

「きゃんっ」

 

 動揺しビート板とメガホンを落とす先生に全員の眼が注がれる。

 

 もしや殺せんせーは水が弱点? 確信を得ようと殺せんせーの方へ近寄るとカルマ君も同じことを考えているようで眼を合わせ、頷き合う。

 

 2人でライフガード椅子に力を加えて左右に揺らす。

 

「きゃあッ! 揺らさないで水に落ちる!」

 

 椅子から降り、言い訳を並べる殺せんせーの様子を見て確信する。

 

 殺せんせーは水が弱点。

 これは恐らく今までで1番暗殺に使いやすい弱点だ。

 

 プールのある生活に慣れ始めた頃、事件は起きた。

 

「おい皆、来てくれ! プールが大変だぞ!」

 

 岡島君の慌てた声にクラス皆んなでプールへ向かう。

 

 辿り着いてプールを覗くとそこには悲惨な姿が。設備が壊されペットボトルなどのゴミが浮いている。明らかに作為を感じる壊され方だ、一体誰が。

 

 周りを見てみるとすぐに違和感に気づく。寺坂君を中心として村松君、吉田君。3人以外はプールを見て顔を顰めたり不安になったりとしているがその3人は冷や汗をかきながらも笑みを浮かべている。

 

 しかし同じクラスメイト。犯人探しはしたくない。どうしたものかと考えていると殺せんせーがすぐに整備し直してくれた。表面的には解決したようだが根本的なことが解決されていない。寺坂君は何を焦っているのだろうか。

 

 昼休み。殺せんせーが廃材で作ったバイクを教室で披露しているとそれを寺坂君が蹴飛ばして破壊する。当然、教室中の非難を浴びる寺坂君だが逆上する。

 

「てめーら、ブンブンうるせーな。虫みたいに駆除してやるよ」

 

 そう言って机の中からスプレーを出しまき散らす寺坂君にどこか不自然さを感じる。

 

「寺坂君! ヤンチャするにも限度ってものが」

 

 殺せんせーがすかさず声をかける。殺虫剤は虫を殺すためのものだが多量に吸い込めば人体にも悪影響だ。そんな忠告も無視し寺坂君はいい放つ。

 

「さわんじゃねーよ、モンスター。気持ちわりーんだよ、てめーもモンスターに操られて仲良しこよしのE組も」

 

 一瞬の沈黙が教室を支配する。確かに殺せんせーはモンスターだがE組は操られているわけではないし、仲が悪いことに比べれば良いと思うのだが。そんな沈黙を破ったのはカルマ君。

 

「何がそんなに嫌なのかねぇ……。気に入らないなら殺しゃいいじゃん。せっかくそれが許可されている教室なのに」

 

 寺坂君は文句を言いながらカルマ君へ向かうがすぐにカルマ君に押さえつけられ、荒々しく教室を出ていく。

 

 その翌朝。

 

 体調がおかしいと言いながら鼻水を出す殺せんせーに違和感を抱く。どうやら昨日から身体の調子がおかしく粘液がずっと出ているという。遅れて登校する寺坂君に殺せんせーが声をかける。

 

「おお寺坂君! 今日は登校しないのかと心配でした! 昨日1日考えましたがやはり本人と話すべきです。悩みがあるなら後で聞かせてもらえませんか?」

 

 興奮のあまり粘液が噴出し寺坂君の顔が粘液まみれになっている。先生のネクタイで顔を拭った寺坂君は宣言する。

 

「おいタコ。そろそろ本気でブッ殺してやンよ。放課後プールへ来い。弱点なんだってな、水が。てめーらも全員手伝え! 俺がこいつを水ン中に叩き落としてやッからよ!」

 

 威勢よく言い放つ寺坂君だが今まで暗殺に非協力的だった彼が暗殺するプランを考えられるのだろうか。

 

 放課後。プール全体に散らばれという寺坂君の指示を不審に感じながらも素直に従う。一体どうやって水に落とすつもりだろう。

 

 そんな時、天啓を受け取った

 

『蒼き楽園、奔流す』

 

 蒼き楽園、すなわちE組のプール。奔流す、はそのまま。沢の先には崖がある。無防備のまま落ちたらひとたまりも無い。

 

「寺坂君、ちょっと待って!」

 

 声をかけるが彼には届かない。

 

 突然、轟音とともに水が弾け、爆風が身体を打ちつける。視界が揺れ、耳鳴りがした。

 

 重力に従い勢いよく水と共に落下する。裏山は整備されておらず岩肌も荒い。溺死する可能性も身体を怪我して流血する可能性もある。相手は恐らく生徒たちを救わせ弱ったところを叩くつもりだろう。殺せんせーの足手纏いにはなりたくない。

 

 必死でそばの岩壁の隙間に手を差し込み流されまいと踏ん張るとそこへ誰かが流されてくる。空いた左手でその人を捕まえこちらへ引き寄せる。

 

「この岩肌に捕まって!」

 

 声をかけるが返事がない。気絶してしまったのだろうか。さらに力をかけてこちら側へ引き寄せると彼が竹林君だということがわかる。このまま岸へ上がりたいが竹林君を左に抱えたまま右手一本の状態では難しい。必死で持ち堪えているとパシッと身体が宙に浮き、岸に着地する。殺せんせーだ。敵に狙われているはずの殺せんせーに、逆に助けられてしまった自分が情けない。空中を探すも殺せんせーの姿は既に消えている。

 

 気絶した竹林君を抱え、皆んなのいる方へ向かう。そっと下ろし回復体位を取らせると小さな咳と共に竹林君の目が開く。どうやら大丈夫そうだ。

 

 崖から下を覗き込むと殺せんせーとイトナ君が対峙している。水を十分に吸収し前日に粘液を大量消費した殺せんせーは原さんが危ない位置にいることもあり押されている。

 

 すると改心した寺坂君がカルマ君の指示を受け、イトナ君を挑発する。

 

「イトナ! テメェ俺とタイマン張れや!」

 

 侮蔑した眼を向けるイトナ君がシロさんの指示を受け触手で攻撃する。非常に危険だがシロさんは生徒を殺すことはしないだろう。

 

 脂汗をかきながら必死でイトナ君の一撃を受け止める寺坂君の姿を見て、僕は作戦の全貌を理解した。木の上にぶら下がっていた原さんは殺せんせーにより素早く救助、さらにカルマ君の指示によりE組が一斉に川へ飛び込む。水飛沫がイトナ君の触手にかかり伸縮しづらそうに動いている。これでもう攻撃はできない。

 

 これ以上続けることが不可だと感じたシロさんはイトナ君を回収しその場を去った。上がる歓声に僕の背後で音がした。

 

「あれ? プールが爆破されて?」

「心配ないよ、竹林君。全て解決したからね」

 

 竹林君はしばらく呆けたようにこちらを見ていたが、やがてふっと息をついた。

 

 「そっか……よかった……」

 

 安堵の笑みを浮かべながら、腕で額をぬぐう。緊張が解けたのか、瞼が少し重そうだ。

 

「皆も無事……だよな?」

「もちろん」

 

 僕が答えると、竹林君はもう一度小さく息をつき、そっと目を閉じた。

 

「なら……ちょっとだけ休む……」

 

 そう言って、ゆっくりと横になる。その表情は、さっきまでの嵐のような出来事が嘘のように穏やかだった。

 

 その後はカルマ君と寺坂君で取っ組み合いが始まりいつも通りのE組へと戻った。

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