E組からA組へ   作:蛍雪

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期末の時間

「ヌルフフフフフ、皆さん1学期の間に基礎ががっちりできてきました。この分なら期末の成績はジャンプアップが期待できます」

 

 森の中、涼みながら期末準備のため先生の分身が皆んなに話しかけた。

 

「殺せんせー、期末もまたクラス全員50位以内を目指すの?」

「いいえ、先生はあの時総合点ばかり気にしてました。生徒それぞれに見合った目標を立てるべきかと思い至りまして。そこで今回は暗殺教室にぴったしの目標を設定しました」

 

 殺せんせーからの返答に質問した潮田君をはじめE組の手が止まる。

 

「にゅっ! 大丈夫、寺坂君にもチャンスがある目標ですから」

 

 慌ててフォローするように某忍者の額当てをつけた先生の分身達が寺坂君の肩をマッサージしている。気を遣われた寺坂君は少し苛立った様子だ。気にせず殺せんせーは説明を続ける。

 

「さて、前にシロさんが言ったとおり先生は触手を失うと動きが落ちます」

 

 バチン、という音で触手を1本撃ち子供の分身が混ざっているのが分かる。分身はそういう減り方をするものだっただろうか。その後も説明を殺せんせーは続け話が重くなるのを感じた。

 

「触手1本喪失につき先生が失う運動能力は約10%。そこで本題です。今回は総合点の他にも教科ごとに1位を取った者に触手を1本破壊する権利を進呈します。これが暗殺教室の期末テストです。賞金100億に近づけるかどうかは皆さんの努力次第なのです」

 

 その言葉を受けクラス内にがざわめく。1位タイなどを獲得することができれば、さらに暗殺確率が上がる。そう考えていると聞き馴染みのない誰かの声が聞こえた。

 

「今、会議室に特進クラスA組が全員集結して自主勉強会を開いているんだ。音頭をとるメンバーは『五英傑』と呼ばれる、うちが誇る天才たちだ」

 

 どうやら野球部の進藤君が杉野君に電話をかけ、期末に関することなのでスピーカーにしてクラス全体に共有しているようだ。それにしても『五英傑』か。

 

 「中間テスト、総合3位! 他を圧倒するマスコミ志望の社会知識! 放送部部長、荒木鉄平!

 

 総合4位! 人文系コンクール総なめ、鋭利な詩人! 生徒会書記、榊原蓮!

 

 総合6位! 赤羽への雪辱に燃える、暗記の鬼! 生物部部長、小山夏彦!

 

 総合7位! 口の悪さとLA仕込みの語学力は追随者なし! 生徒会議長、瀬尾智也!」

 

 ここまで語られたところで杉野君が僕らを代表して問いかける。

 

「ちょ……そのナレーション、お前がやってんの?」

 

 巻き舌とハイテンションな実況にE組は苦笑いをしている。当の本人はこれがやってみたかったようで電話越しに照れているのが分かる。

 

「そして、その頂点に君臨するのが。総合1位タイ、全国模試2位! 全教科パーフェクト! 支配者の遺伝子を引き継ぐ、生徒会長、浅野学秀!

 

 人望はあつく、成績はトップ。プライドの高いA組の猛者をまとめ上げるカリスマ性。彼自身の指導力に加えて、全教科パーフェクトの浅野と各教科のスペシャリストたち、5人を合わせて五英傑。ヤツら、お前らを本校舎へ復帰させないつもりだ。このままじゃ……」

 

「ありがと、進藤。心配してくれて。でも、大丈夫。今の俺たちはE組脱出が目標じゃない。けど目標のためにはA組に勝てる点数を取らなきゃならない。見ててくれ、頑張るから」

 

 そう宣言した杉野君は声に覇気がこもり、意志の強さを感じる。それは皆んなも同じで、目が生き生きとしている。

 

「それにE組には秘密兵器いるからねー? 天音君」

「流石に律はルール外じゃないかな」

「違うよ、天音君のこと。中間1位タイって天音君でしょ?」

 

 兵器、とまでいうから僕の隣の席の律のことかと思っていたが、僕自身のことか。どうりでニヤニヤした眼でこちらを見ていたわけだ。

 

「ああ、そのことね。確かに前回は全て満点だったし1位で間違い無いと思うよ」

「さっすが天音君。今回の触手も期待して良いのかな?」

 

 煽るなぁ、カルマ君。前回は理事長が範囲を広くして本校舎有利にしたが今回は範囲内で応用問題や発展問題を多く出題するはず。基礎的なことが出来ていれば十分対応可能なはずだ。

 

「そうだね、3本は固いかな。目標は6本だけどね」

 

 

 

 放課後、帰り支度をしていると磯貝君に声をかけられる。

 

「天音君、良ければ今回は社会を教えてくれない? 今回は社会中心に勉強して満点を目指したいんだ」

「良いよ、何時なら都合良い?」

「ありがとう! 明日以外なら何時でも空いてるよ」

「僕の家なら何時でも空いてるから好きなだけおいでよ」

 

 聞けば、明日は本校舎の図書館の席を取っているらしい。早速今日から対策を始めようと立ち上がったところで声がかかった。

 

「ねぇ、それ私達も行ってもいい? それぞれ得意な教科をさらに伸ばしたくて」

 

 声の掛けられた方を見てみると中村さんと奥田さんがいる。2人増える分には車に入るだろうし問題ないだろう。

 

「もちろん良いよ。今日は4人で勉強しようか」

 

 こうして僕らは空いている時間は僕の家に集まり、勉強会をすることになった。

 

 

 

「ヌルフフフフフ。それについては先生に考えがあります」

 

 授業中、殺せんせーが教室中へ話しかける。どうやら今回の期末テストの結果で

 1位を多く取ったクラスが相手のクラスに何でも1つ言うことを聞かせることができるらしい。

 

「これをよこせと命令してはどうでしょう?」

 

 殺せんせーが見せたのは学校のパンフレットの中の1ページ。なるほど、楽しくなりそうだ。だが浅野君なら重い契約書にサインさせるなどさせそうだ。まぁ勝てばいいので問題はないが。

 

 

 そして期末試験当日。

 試験問題を偽律こと尾長仁瀬さんから受け取り、深呼吸をする。1科目目は英語。

 

 「始め!」

 

 合図を聞き、まずは素早く乱丁落丁の確認。問題なし。表紙含めずに全14ページの問題。いつもより長文の単語数が多く、中学範囲でない英単語も目にした。

 

 だが、問題ない。大体8割の英単語さえ理解していれば文脈から類推できる。最後の文章題はサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』。殺せんせーおすすめの洋書50選に入っていたものだ。日英どちらもで読んでおいてよかった。コメディー調かつ口語体で書かれているので記述もそのようにしなくてはいけない。

 

「正直、コックの顔に100回ビンタかましてやりたかったね」

 

 2科目目の理科。前回より知識問題ではなく記述問題が増え、根本的な部分を理解しているかが問われる問題が多々見られた。ただの現象で終わらせるのではなく細かな化学式まで見ておいて良かった。

 

 3科目目の社会。これは知識でもさらに細やかで重箱の隅を突くかのような問題が多かった。特に47問目。アジア・アフリカ会議が何回開かれたかだなんて知っていたのは片手で数えるほどだろう。

 

 4科目目の国語、5科目目の数学を終えて1日目が終了した。何とか全問解答したし、自信もある。続く2日目は実技科目が中心のため難易度はやや易しくサクサクと進むことができた。

 

「さて皆さん。全教科の採点が届きました。では発表します」

 

「E組でも1位、そして学年でも1位。中村莉桜、天音啓!」

 

 「「「「「おおー!」」」」」

 

 湧き上がる歓声。中村さんは誇らしげにテスト用紙で顔を仰いでいる。

 

「E組1位は神崎有希子! がしかし学年1位は浅野学秀! 神崎さんも大躍進です、天音君は苦手な物語文で点を落としましたね。次でリベンジです」

 

「社会、E組1位は磯貝君と天音君! そして学年1位は……おめでとう! 浅野君を抑えてトップです!」

 

「これで2勝1負!」

「理科、E組1位は奥田愛美、天音啓! そして素晴らしい! 学年1位もこの2人!」

「これで3勝1敗! 数学の結果を待たずして勝利!」

 

 

 

「数学はE組1位、天音啓。そして学年順位は浅野君と並んで1位! 2人とも満点ですよ! 素晴らしい!」

 

 クラスの皆んなに再度賞賛されるが僕はそれより隣の席が気になる。カルマ君、彼は今回の期末対策はあまりしていなかったように感じる。瞳孔が開き、悔しそうにしている様子なのが見て取れる。今は話しかけない方が良さそうだ。

 

 

 終業式の日。

 僕らは賭けに勝った報酬としてアレをA組から貰うことになった。

 

「じゃあこの内容でメールしていいかな?」

 

 磯貝君が全員に確認をとったところで少し口を挟む。

 

「ちょっと待って、アレも学食も図書館の使用権もゲットできる素敵な案があるんだけど」

 

 そう言って見せるのは今朝、家で印刷したこの紙。タイトルは誓約書。以下全ての条項をA組は守ること、そして守ることを誓うため代表して浅野君にサインをもらう必要がある。そこで今回の要求を「この誓約書にサインしろ」と迫るわけだ。

 

「天音君、おっそろしいこと考えるねぇ」

 

 カルマ君がニヤニヤ笑いながら僕を小突く。カルマ君もこれくらいなら考えていただろうしA組はさらにその上をいく要求を考えていたことだろう。

 

「ま、まぁ非人道的なことは無いしこの案は確かに良いかもな」

 

 磯貝君がこちらを恐ろしいものを見るような目で見ていたが問題ない。ルールの中なのだから。小学生の時に一生のお願い、と言って一生のお願いを5個増やすなどは皆もしていたはずだ、多分。

 

 そうやって僕らは終業式に出席し、E組に帰ってアコーディオンほどもある夏休みのしおりを受け取った。

 

「これでも足りないくらいです。さて、これより夏休みに入るわけですが皆さんにはメインイベントがありますね。本来であればA組に与えられるはずだった沖縄リゾート2泊3日!」

 

「触手を壊す権利は合宿中に使います。」

 

 磯貝君の宣言を受け殺せんせーは不敵に笑う。

 

「触手の大ハンデでも満足せず四方を先生の苦手な水で囲まれたこの島を使い、万全に貪欲に命を狙う。正直に認めましょう。君たちは侮れない生徒になった。親御さんに見せる通知表は先ほど渡しました。これは先生からあなた達への通知表です」

 

 教室中に舞う二重丸の印。わぁ、と教室中から感嘆のため息が漏れる。僕も手元に届いた1枚をキャッチしそっと評価を噛み締める。

 

「1学期で培った基礎を十分に生かし、夏休みもたくさん遊びたくさん学び、そしてたくさん殺しましょう。椚ヶ丘中学校3年E組、暗殺教室。基礎の1学期、これにて終了!」

 

 次回更新日:2025/3/30

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