IS《インフィニットストラトス》ゴーストバレッド 作:コードα
早いもので五月が過ぎようとしている。
今月末に予定されているクラス対抗戦に向けて一夏を鍛える日々が続いている。
俺こと細波一光はと言えば、シルバーバレットの初期装備が複数あるのでソレを交互に使ってトレーニングを積んでいる。
因みに、クラス対抗戦の組み合わせは既に公表されている。俺の相手はリンだ。
『一回目』の情報が当てにならない状態になったので設計ばかりではなくという事、でも問題は尽きない。
IS学園の訓練プログラムでは物足りなさ過ぎるのだ、やったうちに入らない。
やっぱ、天災ウサギ考案・対IS世界戦争なんて馬鹿げたタイトルの訓練プログラムが欲しいところだ。アレのお蔭で今の操縦技術がある。
「一夏、白式は装備が限られてる。その代わりに一撃必殺の単一能力(ワンオフアビリティ)と群を抜く瞬発力がある。ソレを活かせ、俺に一撃くらい当ててみろ」
「このぉ!」
ひらりと、一夏の振るった雪片ニ型はABCマントにすら掠らずにアリーナの床を裂いた。直ぐに刃を返しての袈裟斬りを放つが大きくバック転して悔しがる一夏を置いて飛翔する。
「空気かよお前は!?」
「お前がとろいだけだ。翻弄されるな、冷静に対処しろ」
瞬間加速(イグニッションブースト)を発動、瞬時に加速し蹴りを見舞う。白式がセンサーで捉えている為、一夏は冷静に対処しようとした。
そう、雪片を左に持ち替えて右手で蹴りを防ごうとしたのだ。が、遅い。
「がっ!?」
「データの無い相手と戦うなら無闇に動くな、機体を観察しろ。じゃないとシルバーバレットのような高機動型が相手だとこうなる」
ま、コイツが特別なだけだ。
上段右蹴りを受けて踏鞴を踏む一夏に俺は事務的な口調で告げて続いて左回転蹴りを一夏に放つ。
シルバーバレットはメインスラスターをフレキシブルに稼動させる事で現存のISが機動
力確保のために載せるバーニア・スラスターを小型化し、装甲の隙間等全身にくまなく設置する事に成功し、部分的に瞬間加速が可能なのだ。
蹴りに応用することで通常は単なる衝撃でも隠し武器を交える事で確実に致命傷へ持っていける。
「このっ!」
「流石だ、反応速度は上がったな。」
左からの回転蹴りを防いだ一夏を賞賛し、俺は脚を下げる。
こと機動戦になれば白式は勝てない、一瞬に全てを賭けるつもりで防いだ一夏は流石だ。
「しっかし、カズは強いな。これじゃクラス代表戦は三組の圧勝じゃないか?」
「そうでもないさ、上手く流れを作れれば負ける気はしない・・・それよかリンと何かあったろ?」
「ああ、酢豚を舞いに食べさせてくれるって思い出して言ったらな」
「さいで。」
コイツ、記憶どおりに言ったのか。恐るべし、織斑一夏。
「細波・・・くん」
「んぁ?おお、完成したのか、零式」
「一様、お礼言っとく」
簪がISのテストに訪れていた。
設計データを渡したかいがあった、『一回目』で仕入れた打鉄二式の情報を元により研ぎ澄ませたISだ。
一様間に合ったらしく簪がそっけなくそう言った。
基本は打鉄二式と変わらないが、武装の変更点と言えば第二世代ベースの癖にビーム兵器を搭載している点だろう。
カートリッジ式ビームライフルを追加で装備し、レールガンをサイドアーマーに付属してバーニアを内蔵した。
サブスラスターの役割も果たさせたという訳だ、スペック上じゃ白式と出力は互角。
バランスを重視した機体だ、あとは簪の腕次第で化けるだろう。
「・・・・」
「ん?」
まぁ、一夏を睨んだ簪は割合。
「こりゃ、簪とは当たりたくねぇなぁ」
「カズ、俺睨まれてなかったか?」
「ま、大人の都合で犠牲になった奴だからな。ソレより一夏、リンの機体データ持ってないか?」
聞けば、リンは中国代表候補生になっていて専用機持ち。となると既にIS学園で“兎に角速度を尖らせた”機体とネタばれしている俺としては少しでも情報を仕入れておきたい、俺と言うイレギュラーのセイで機体が変わっていたら問題だ。
「ああ、俺もしらねぇ。勝つ気なのか?」
「やるからには・・・と言うより保身の為に」
「はぁ、大変なんだな。そっちも」
理解が早くて助かる。一夏も持ち上げられたからな、どうもクラスメイトのデザートへの執着による危機感を理解してくれた、と思いたい。
試合当日、俺は直前で全開で行くことにした。
千冬さんにはやりすぎるなと言われたが、相手は曲がりなりにも国家代表候補生だ。やりすぎるくらいじゃないと勝てないだろう。
「来たわね、一夏を痛めつけたいから負けなさい!」
ビットから先に出て待っているとIS・コウリュウを纏ってきたリンがオープンチャンネルで言って来た。
「残念だよ、そいつは出来ない相談だ」
「あ、そう。ならカズも痛めつける!」
「八つ当たりは御免こうむる。俺はMじゃない」
俺がザンバスターを、リンが異形の円月刀を構えた事で試合は開始した。
「っ!?」
刹那、何かがABCマントに直撃して後方に吹っ飛ばされた。
「頑丈ね、そのマント」
よく観察すれば、リンのIS・コウリュウの特殊武装を積んだ肩のアーマーが押されたように僅かに後ろへ引けている。つまり、
(撃ってきた?)
一瞬で最高速度へ、四連瞬間加速を使って間合いを取る。
「言っとくけど、今のジャブだからね!」
リンの宣言どおり、シルバーバレットがアラートを響かせる。同時に左肩を後ろに引っ張られ、その勢いを利用して俺はまた音速の世界へダイブする。
セシリアのように慢心してない分、リンの動きは機敏だった。後ろを取れば当然のように最低限の動きで避けながら特殊装備・衝撃砲の軌道上へ運んできやがる。
先手を譲ってしまった分、シールドをこれ以上削られるわけには行かないので背後を取る、背後から上段回し蹴り、しかも音速で放つ。するとリンは猫が高いところから飛ぶような仕草でアリーナ床まで急降下し、避ける。
空を切った回し蹴りにはヒートダガーのおまけつきだったのだが。
「チィッ!猫みたいな動きしやがって」
「アンタの癖はお見通しだって言ってんの!」
何だろう、セシリアは一方的だったが、リンは俺の癖を知っている為か攻撃が決まらない、手の内がばれすぎている。
ビームザンパーと円月刀がぶつかり合う。
同時に瞬間加速を掛け、間合いを取る。リンのことだ、衝撃砲をバカスカ撃ってくれるに決まっている。
「スピードだけが取り柄のアンタに、衝撃砲が見切れるのかしらぁ!?」
予想を裏切る事無くリンは衝撃砲の連射を始めた。
「大体分かった。」
マックススピードで背後に回る。犠牲は武器、勝つためにはコレしかない・・・リンが油断してくれるかもしれない一瞬が頼りだ。
ドガァァァン!
中空で起爆が起きた、観戦席の三組一同が表情を曇らせる。
「うそ?」
「細波君が負けた?!」
「いや、未だよ!」
ざわつくクラスメイトをみやびが一喝する。
「何かを捨てた?」
恐らく、IS学園に入って誰よりも長くいた三人は俺の取る行動を見抜くだろう。
瑠璃の呟きは煙から散っていく鉄片が物語る。
「あ~武器捨てて大丈夫なのかなぁ」
天を見上げる可奈の言葉通り、アリーナ観戦用モニターにアップされたシルバーバレットの手にザンバスターは無い。
代わりに両手には新たに展開した新武装・Bバスターが両手に握られている。
二連装ライフルのような形状のB(バタフライ)バスターは中ほどから折れて、ソードモードにもなるマルチブルウェポンの試作品、その存在を目の当たりにするのは可奈達ですら初めてなのだ。
「衝撃砲の射線は嫌でも正面に向く」
蛇行を繰り返しながら俺はリンに個人的な見解を言いながらBバスターのトリガーを引いた。
「くっ!」
「留まりさえしなければこちらのものだ。幾らハイパーセンサーで捉えようと、いくら目で追えようと」
リンが放つ衝撃砲は僅かな差で虚空を射抜く、音速に至った相手の軌道を予測して当てるのは至難の業だ。
まして、リンが俺の癖を知るようにリンの癖を俺も知っている。
「身体の反射が追いつかなければ意味がない!」
そう、リンはハイパーセンサーで追えても無限軌道中のシルバーバレットに当てられるかと言えばノーだ。
「アンタッ!何時の間にこんな・・・!?」
驚くのも無理はない、リンが知っている細波一光は気転が利く程度の何処にでもいる男子で、よき友人程度の存在だ。
ソレがどうか、一年で化けてしまった。
「一年間、ウサギに鍛えられたからな。」
話しながらでもコウリュウはダメージを蓄積させていく、後ろから蹴られ、次は右後方からビームが撃ち込まれる。
「くっ!」
ビームを防ごうと刃を立てる瞬間、銀の弾丸は龍を射抜いた。
「遅いぞ!」
ザンッ!とコウリュウのシールドエネルギーをビーム刃が刈取った。
再び肉眼で確認できるシルバーバレットはフェイスオープンで排熱していて、迫力がある。同時にブザーがなり、堕ちたリンにISを解除して手を差し出す俺。
「流石代表候補、ココまで追い込まれるとはな」
「何よソレ、嫌味?」
「いや、本音。ABCマントを剥いだのはリンが初めてし、見えない弾丸とはココまで面倒だったと思わなくてな」
「ふんっ!スピードだけの奴が何を偉そうに」
「その一点に負けた奴のいうことか、って痛ぁ!?」
賞賛したら憎まれ口を叩かれたので言い返すとリンが脛を蹴った。割と本気で。
「次は負けないからね!」
「だから一々攻撃して言うな!」
歓声が上がった。
あの熱も冷めぬまま、二回戦が始まる。
「ひゃー、一夏も何だかんだで強くなってのね」
「そりゃあ、誰かさんが放課後に鍛えてたからね」
俺はと言えば、アリーナ外の自販で炭酸飲料を買って戻って戻ってきたところでみやびに出くわした。
一回戦は何事もなく消化され、四組の簪が打鉄・零式で見事に五組を下す。
一夏は危なっかしくも俺の無限軌道と剣術の箒を殆ど毎日相手にしていただけあり、攻撃を見切る目は養われて、簡単には負けない実力をつけている。
「それにしても意外だったなぁ?」
「何が?」
「最後のアレ」
「ああ、基本正々堂々と正面切手戦う奴には誠意を見せるさ。」
「そっか、ファンさんは見下してなかったもんね」
「更に言えば、各国にも大盤振る舞いだと思うぜ?何せシルバーバレットの新装備も初公開だ!ってもザンバスター身代わりにしちまったし、Bバスター主体でいくしかなんだけど」
「カズくん、ザンバスターの予備ないの?」
「ねぇよ、今は。」
納得するみづきと予備があるから捨てたとばかり思っていた可奈、俺はあっけからんと返答するとホロモニターをスクロールしてみる。
ザンバスターは合体・分離でサーベルとライフルを使い分けていたから、二回しか使わなくても十分データは取れた。コレで射撃訓練したわけですし?
買って来た時折ドラゴンすら狩るネコがパッケージの炭酸を傾けつつ、俺はトーナメント表を見る。
「おお、次は一夏とか」
「「おお、男子対決!」」
そんな気はしていたけど、可奈とみやびがハモって目を輝かせていていた。
近接いっぺんどうってのもどうかと思うし、すこしテストに付き合ってもらうか。