「彩芽ちゃ〜……ん?」
翌日。学校が終わり花は今日もまた彩芽と一緒に帰ろうと声を掛けようとして、ふとその動きを止める。
花の視線の先には、沈んだ表情で何かを考え込んでいる彩芽の姿があった。花は、そんな彩芽の様子を見て、引っ掛かるものを感じたのだ。
「……はぁ」
そんな事も知らない彩芽は自身の机に視線を落としたまま、ため息を吐く。昼休み、偶然聞こえてきた級友達の会話の話題が『将来の夢』だったことで、昨日の浴室で思い浮かんでいた思考も連想的に思い出してしまい、気分が沈んでしまっていたのだ。
席を立ち上がらないままで居る彩芽に対し、花は自分に気が付いていない事を良いことに、こっそりと背後へと回り、忍び足で近寄る。
「あーやめ、ちゃーん!」
がばっ!
「うっ、きゃぁぁあっ!?」
忍び寄って名前を呼びながら抱きついた花。彩芽はそれに驚き悲鳴を上げてしまう。
まだ残っていた生徒達は、突然の悲鳴に「何だ何だ」と視線を向けてくる。
「もう……っ!花ちゃんったら!!」
「えへへ、ごめんごめん」
恥ずかしくなり、耳まで真っ赤に染めて彩芽は花へと文句を言う。が、当の花は苦笑しながら謝罪するだけで、悪びれた様子もなかった。
その姿に彩芽は嘆息しつつも、話を進めることにした。
「それで、突然なに?」
「んー?なんか元気が無いなーって思って」
「だから驚かせた……と?」
「えへへ、うんっ!」
にっこり笑顔で頷く花に、痛そうに額を抑える彩芽。そして一度深く息を吐くと、花へと向き直った。
「手段は兎も角……。心配してくれてありがとう。けど、私は大丈夫」
「……そう?」
「うん」
花は不思議そうに首を傾げながらも、「なら今日も一緒に遊びに行こう!」と彩芽を誘う。が、
「ごめんなさい、今日はやめとく。それじゃあ、また明日」
と言いのこし、彩芽は立ち上がると教室を後にしたのだった。
「……彩芽ちゃん」
花はそんな彩芽の後ろ姿を心配そうに見送るのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「はぁ……。少し、きつく言いすぎちゃったかな」
落ち込みながら、トボトボと歩く彩芽。しかし、周囲が少し騒がしいことに気付き顔を上げると、
「グッフッフッフッ!今日こそ侵略してやるブヒッ!」
グフットがのしのしと重そうな体を揺らして闊歩していた。そして、
「お前の心、凍りなー!」
「うわぁぁあっ!?」
近くに居た年若い青年へと魔術を使うと、青年の心の熱が奪われて、ベレー帽を頭に乗せて、巨大な絵筆とパレットを持ったスケッチブックの姿をしたサメンダーが誕生した。
「サメンダー!」
「サメンダー、暴れちまえぇっ!」
グフットの命令に従い、サメンダーは右手で握った巨大な絵筆を振り回し、周囲に色とりどりの絵の具をまき散らす。
「た、大変だ……!」
こっそりと隠れていた彩芽は携帯を取り出すと、花へ電話をかける。すると、
「あれ、彩芽ちゃん?どうしたの、、?やっぱり一緒に遊ぶ!?」
「違うわ!あの例の怪物……さめんだー?だっけ。それが出たのよ!」
彩芽の言葉に、花は電話越しからも分かる程の真剣な声で「どこっ!?」と短く聞き返した。
「あ、天崎パン工房の近くだよ。……きゃあっ!!」
「ちょっ、彩芽ちゃん!?」
通話中の彩芽のすぐ近くに、サメンダーの絵筆から飛び散った絵の具が落下し、その衝撃に思わず悲鳴を上げる。
「彩芽ちゃん、とにかくそこから一度離れて!」
「う、うん!!」
花の指示に、彩芽は頷いて逃げようと通話を切り立ち上がる。しかし、
「おっと、あそこにまだ人間が居たとは……。サメンダー、捕まえちまえ」
「サメー!」
「えっ、ひゃああっ!?」
目敏く見つけたグフットに命令されたサメンダーの絵の具によって、捕らえられてしまった。
「グッフッフッフッ……!賢い俺はトンでもない作戦を思いついた!魔法少女が来る前に人質を取っておけば、一方的に勝てるってなぁ!」
「グッフッフッ」と高笑いするグフット。そこへ、
「やっと到着した!!……って、彩芽ちゃん!?」
「捕まっている、だと!?」
彩芽からの電話を受けて、駆け付けた花とジャックがやって来た。その視線は捕らえられた彩芽へと向けられており、一人と一匹は驚愕していた。
「花ちゃん、ごめん……!!」
「グッフッフッフッ!コイツは人質だ!大人しく一方的にやられろ、魔法少女!」
ニヤつくグフットをを睨みつけながらも、花は動けない。少しずつ花へと近づくサメンダー。そして、
「さあ、やっちまえ!!」
「駄目ぇぇえっ!!」
絵筆を振り上げたさメンダーを見て、彩芽が叫んだ瞬間。青い光が彩芽の胸から溢れ出した。
「な、なんだこれはぁっ!?」
「彩芽ちゃん……!?」
「まさか、彩芽が二人目のマギアセイヴァーなのか!?」
それぞれが驚愕する中、青い光によって拘束が解けた彩芽は呆然と自分の体を見ていた。そして、
「青い、宝石……?」
光が収束して生まれた青いマギアクリスタルはゆっくりと前へと出した彩芽の掌の上へと収まった。
「彩芽!これを使うんだ!」
「っ!?……うん!!」
すぐさま動き出したジャックによって投げ渡されたマギアブローチを彩芽は構える。
「マギアブローチ!」
慌てて彩芽へと向かってくるサメンダーを前に、彩芽は落ち着いてマギアブローチの前面を軽く押し、待機状態にする。
「マギアクリスタル、ビリーフ!」
続けて、彩芽は自身から生まれた青い宝石、マギアクリスタル・ビリーフをマギアブローチにセットした。
「トキメキ!メタモルフォーゼ!」
ブローチ上部にあるスイッチを押し込むと、マギアブローチにセットしたマギアクリスタルが青色の光を放ち、彩芽の体を包みこむ。
ハーフアップにされていた髪はひとりでに解け、黒色から爽やかさを感じさせる青色へと変化し、長さも背中の辺りから腰まで伸び、青のカチューシャによって整えられる。
身体は青地に白の差し色が眩しい、セパレートタイプのドレスを身に纏い、スカートの下には水色のペチコートが生成される。
両手は、白と水色のフィンガーレスグローブが手首の辺りまでを覆い、両足は水色の生地のスリークォータースが包み込み、サイドに水色のリボン飾りが付いた青のショートブーツを履いた。
変身バンクの終盤には、腰や胸元に青のリボンのアクセサリーが付き、青のイヤーカフを身に着ける。
最後に、左胸にマギアブローチが付くと変身を完了した。
「きらり煌めく強い想い!マギアビリーフ!」
凛とした表情で名乗る彩芽改めマギアビリーフ。そして、
「サァメッ!」
「ふっ!はぁっ!」
サメンダーの攻撃を躱すと、すぐさま鋭い蹴りを放つ。それによってバランスを崩したサメンダーを見て、ビリーフは花へ振り返る。
「早く、花も!」
「あ、うん!」
ビリーフに促され、花は慌ててマギアブローチとマギアクリスタル・ポジティブを取り出す。
「マギアブローチ!」
「マギアクリスタル・ポジティブ!」
マギアブローチの前面を左手で軽く押して待機状態にするとすぐにマギアクリスタル・ポジティブをマギアブローチへセットする。
「トキメキ!メタモルフォーゼ!」
マギアブローチの上部にあるスイッチを押し込むと、マギアブローチからピンクの光が放たれ、花の姿を包み込む。
「キラキラ輝く明るい未来!マギアポジティブ!」
マギアポジティブへの変身が完了すると、ポジティブはビリーフの横に並び立つ。
「ま、魔法少女が増えただとぉっ!?」
二人のマギアセイヴァーを見て、顔を顰めるグフット。しかし、諦めきれないのか、「やれ、サメンダー!」と命令を下す。
「行くよ、ビリーフ!」
「ええ、ポジティブ!」
突進してくるサメンダーを跳躍で躱すと、息の合った動きでダブルキックを放つポジティブとビリーフ。
サメンダーを蹴り飛ばして軽やかに着地をすると、ポジティブはビリーフへと視線を向ける。
「ビリーフ、今だよ!」
「ええ!」
ポジティブに頷き返すと、ビリーフは胸のマギアブローチにセットしたマギアクリスタル・ビリーフを右手で押し込む。すると、青色の光がピカーッと溢れ出し、光がビリーフの両手へ集まり、大きな青の玉へと変化していく。
「マギア・サニタテム!」
ビリーフが技名を叫ぶと、青色の光の玉から、大きな光の奔流が解き放たれてサメンダーを飲み込んだ。
「トケッター……」
ビリーフの放ったマギア・サニタテムによってサメンダーが浄化されたのを見ると、グフットは忌々しそうにマギアセイヴァーを睨みつけ、「二人になるとか聞いてない!」と捨て台詞を残して退散したのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
彩芽がマギアビリーフとして初陣を果たした後、現場を離れた彩芽と花、そしてジャックは歩きながら話していた。
「それにしても、まさか彩芽がマギアセイヴァーになるとは……」
「ね、本当にびっくり!」
ジャックの呟きに花も頷くと、彩芽は「あはは……」と苦笑する。
「……けど、私もこれから頑張るね。マギアビリーフとして、マギアセイヴァーとして」
「うん。一緒に頑張ろー!」
元気に宣言する花の後ろ姿を見ながら、彩芽は自身から生まれたマギアクリスタル・ビリーフを取り出して見た。
「……この力があったら、花ちゃんみたいになれるよね」
「……ん?なんか呼んだー?」
振り返る花に、彩芽は「ううん。呼んでないよ」と笑って誤魔化すと、マギアクリスタルをポケットへ仕舞うのだった。
響カイトにメス顔を晒すうたちゃん。まさかの妖精だと判明したタナカーンこと田中さん。そして遂に本格的に物語に絡んでくるこころちゃん!
キュアキュンキュンの変身が待ち遠しくて、蜂蜜の心、キュンキュンしてますよ!
因みに田中さんのキャラ、蜂蜜的には好きなんですよね。