Side:花
「ハァッ、ハァッ」
「おい、花。大丈夫か!?」
偶然見つけた女の子を助けるために、サメンダーとか言う化け物の注意を引いたのは良いけど、
「サメンダー!」
「ほらほら、トンとと……もといとっとと逃げないと潰されちゃうブヒよ、グーフッフッフッ!」
サメンダーと、その肩に乗っかる豚みたいな怪人が次第に近づいてきている。
あの怪人が私を侮って油断しているからなんとか今まで逃げられているが、そろそろ脚が限界だった。
「あっ!」
ドシャアッ!
そして、疲れから足が絡まって思いっきり転んでしまった。
「くっ……ううっ」
「お、おい。花、早く立て!じゃないと……」
転んだ瞬間、つい手を離してしまったジャックが心配そうに近づいてくる。
「おやおや〜?もうお終いブヒか?トンだ無謀だったブヒな〜。グーッフッフッフッ!」
私を馬鹿にして、高笑いをする怪人。そしてひとしきり私を笑った後、
「サメンダー、そこのトンま女。潰してやるブヒ」
「サメンダー!」
次第に近づいてくるサメンダー。とても怖いけど、あの子を助けられて良かった。
「ごめんねジャック。約束、守れそうにないや……」
「何いってんだよ花!諦めるなよ!ほら、早く逃げよう!」
必死に私の手を引っ張るジャック。けど、体格の違いからビクともしない。と、その時。
「お姉ちゃんをいじめるなー!」
「あぁん?」
「っ!?」
バッと声のした方を見ると、ブルブルと震えるコウタ君が居た。
「な、何で……」
「何だガキィ……。いきなり出てきて目障り極まり無いブヒ。トンズラこくなら今のうちブヒよぉ」
「うっさい豚野郎!お姉ちゃんから離れろぉ!」
コツンッ
コウタ君が投げた石が怪人の額に当たる。その瞬間、ビキィッと幻聴が聞こえるレベルで、怪人が青筋を立てた。
「そんなに死にたいのなら、お望み通りにしてあげるブヒ。やれ、サメンダー!」
「サメンダー!」
私ではなく、コウタ君へと標的を変えるサメンダー。助けないといけないのに、身体が動かない。
「だめ……だめぇえっ!」
と、その時。私の叫びと同時に、胸元から眩いピンクの光が溢れ出した。
「な、なんなんだ!?」
「これは……まさかっ!?」
溢れる光のお陰か、先程まで感じていた疲労や転んだ時の痛みが消えて、立ち上がれた。
そして、ピンクの光の玉が私の胸から飛び出ると、光の玉はピンク色の丸い宝石に変わった。
「これって……」
「花、これを使うんだ!」
「えっ!?……うんっ!」
ジャックが投げ渡してきたハート型のアイテムをキャッチすると、使い方が自然と分かる。
「マギアブローチ!」
ジャックから投げ出されたマギアブローチの前面を軽く押し、待機状態にする。
「マギアクリスタル、ポジティブ!」
次に、私の中から飛び出てきたピンクの宝石、マギアクリスタル・ポジティブをマギアブローチにセットする。
「トキメキ!メタモルフォーゼ!」
ブローチ上部にあるスイッチを押し込むと、マギアブローチにセットしたマギアクリスタルがピンク色の光を放つと、私の体をその光が包む。
根元から焦げ茶から金色に髪色が変わり、腰を超える程の長さまで伸びると、髪飾りが生成されてラビットスタイルのツインテールで結ばれる。
身体を光が包むと、少しふんわりとした印象を与えるロリータっぽい白のワンピースドレスを身に纏う。と、更にその上からコルセット上のフリルがあしらわれたピンク色のスカートが追加されてボリュームがさらに出る。
両手は、白とピンクのフィンガーレスグローブが前腕部を覆い、両足は薄桃色の生地にピンクのリボンが付いたリボンニーハイソックスを纏うと、ピンクのラウンドトゥパンプスを履き、足の甲にあるベルト部分に白いフリルリボンが結ばれる。
変身バンクの終盤になると、腰や胸元にピンクのリボンのアクセサリーが付き、ハートをモチーフとしたイヤリングを身に着ける。
最後に、左胸にマギアブローチが付くと変身が完了する。
「キラキラ輝く明るい未来!マギアポジティブ!」
変身が完了すると同時に、振り付け付きで名乗りを上げる。……って、
「ええーっ!?なにこれ!?身体とか口が勝手に動いたんだけど!!」
「花!それが……伝説の戦士、マギアセイヴァーだ」
ワタワタと自分の体を触り、混乱していると、ふわふわと近づいてきたジャックが説明する。
「へ……?」
「つまり、花がマギアセイヴァーだったんだ!」
「え、えぇーっ!?」
「いい加減にシカトンすなぁ!」
ジャックと話していると、いきなりそんな声が響く。慌てて身構えると、ふるふると震える豚怪人がいた。
「いきなりピカピカ光るから黙って待ってれば……。俺様をいない者のように扱いやがって!トンだ冗談じゃねぇ!やれ!サメンダー!」
「サメー!」
こちらに向かってくるサメンダーを咄嗟に躱そうとジャンプすると……
「え、なにこれぇっ!?」
周りの5階建ての建物なんかよりも高く跳躍してしまう。生身で高所にいることに戸惑うが、不思議と身体に力が漲り、このまま落ちても大丈夫という気持ちがあった。
「よーし……はあっ!」
空中で足に力を込めて勢いよく伸ばすと、一気に加速してサメンダーに激突する。
「サメッ!?」
「うわわわっ!?サメンダー!!」
吹き飛んでバランスを崩すサメンダーと、その上から落っこちる豚怪人。
「お、お姉ちゃん……?」
その声を聞いて振り返ると、尻もちをついて呆然とした様子のコウタ君が居た。私はしゃがんで視線をコウタ君と合わせると、
「ありがとう、コウタ君。けど、お姉ちゃんはもう大丈夫!……ほら、ここは危ないから早く逃げて?」
「……うんっ!」
コウタ君は私の言葉に頷くと、立ち上がってタタタッと走り去っていく。
「くぅ~っ!この豚野郎!よくもやってくれたブヒね!」
「サ〜メ〜!!」
そう言って立ち上がるサメンダーと豚怪人。……って、
「豚さんなのはあなたの方でしょ!!」
「だーれが豚だ、このウスラトンカチ!俺の名はグフット!偉大なるサー・アフームに仕えるコーリナーだ!」
そう言って地団駄を踏む豚怪人改めグフット。キッと私を睨みつけるとビシィッと指を指してきた。
「やれ、サメンダー!」
「サメーェッ!」
ドスドスと駆け寄り、殴り掛かってくるサメンダー。その拳を受け止めると、持ち上げて風車のように振り回す。
「はあああっ!」
「サ、サメェッ!?」
ぶん投げると、サメンダーは勢いよく地面に激突した。その衝撃でグフットも吹き飛ばされたようで、少し離れたところで倒れていた。
「よーし、一気に決めちゃうよ!
ふらふらと立ち上がるサメンダーを見据えていると、何となく必殺技の出し方が分かる。
胸のマギアブローチにセットしたマギアクリスタル・ポジティブを右手で押し込むと、ピンク色の光がピカーッと溢れる。光が両手に集まり、大きなピンクの玉へと変化していき、
「マギア・ピュリフィカーレ!!」
技名を叫ぶと、ピンク色の光の玉から、大きな光の奔流が解き放たれてサメンダーを飲み込んだ。
「トケッター……」
サメンダーが浄化されると、サメンダーの素体にされていた女性がくたりと倒れていた。
「グググッ……!ここは遁走させてもらうブヒ!ほな、ドローン!」
サメンダーが浄化されたのを見ると、グフットはそう言い捨てて白い煙に覆われて逃げていった。
それを無視して、倒れた女性に駆け寄ると、呼吸は安定していた。
「安心しろよ、寝てるだけだぜ」
「本当?良かったー。……あいたっ」
ホッとして息を吐いていると、頭にコツンと何かが落ちてきた。
なんだろうと思って手に持って確認してみると、私の中から出てきたマギアクリスタル・ポジティブに似た、ピンクっぽい色の宝石だった。
「これは……?」
「ポジティブがサメンダーを浄化した事で戻ったこの女の人の、心の熱の一部が変化したマギアクリスタルだな。これを集めていくと、トキメキングダムを復活させられるんだ!」
「へー!」
ジャックの説明に納得すると、ふと気になって周りを見た。
「あれっ、もとに戻ってる……」
「ポジティブの放った必殺技の力だな!ある程度のものは修復できるみたいだな」
「そっか、良かったぁ」
取り敢えず、寝ているお姉さんを横抱きにして持ち上げると、近くのベンチに寝かせた。
「……って、私がマギアセイヴァーってどういう事ー!?」
TIPS
マギアクリスタルはネージュが得意とする氷魔法を基礎に開発した、『ソウジュールを安定した状態にする魔法』で作り出される宝石のような見た目の結晶である。
ソウジュールは不思議なエネルギーであるため不明な点が多いが、何故か一度安定したソウジュールは生命体の近くにあれば内部のソウジュールが自然回復する為、何度も利用が可能である。イメージは獣〇池。