激重感情短編集   作:五足歩行

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バトル物です
「」を挟むと戦いの最中でも冗長に喋っているようでテンポが悪く見えるので、戦闘中は一部の場面を除いて以下のように分けました

・段落無しは主人公の思考、又はヒロイン含む気合いや被ダメ時の声
・“ ( ) ”はヒロインの思考
・段落ありは地の文

読みづらかったらすみません…



骨が舎利になっても

 

 

 我が隊の隊長が捕まったという知らせが届いた。そんなはずは無いと思ったが、どうやら嘘では無いようだ。解放の条件は俺一人で本拠地に行くこと。俺が犠牲となり、入れ替わりで隊長が助かるのならばそれでいい。

 

 

「逃げずに来たか。」

「御託はいい。とっとと解放してもらおうか。」

 

 約束通り単身で敵地に赴いた。広いプレハブの中にはボスらしい男が一人待っていた。…しかし隊長の姿は見えない。

 

「要件はただ一つ。お前ら2人で殺しあえ。」

「…なんだと?」

「一師団の戦車だろうが編隊が組まれた戦闘機だろうが、おめぇらを仕留めきれねぇんだ。だったらこうするのが一番って俺ぁ気づいたんだ。」

「ルールは加えてやる、銃火器と武装はナシだ。その身一つで勝負しろ。すぐ終わったらつまんねぇからなぁ。」

 

 チッ…どちらが勝とうが消耗は免れない。一石二鳥でも狙ってるつもりか。俺は携帯していた武器を投げ捨て、全てを捨てたアピールとして両手を上げる。

 

「…来い。」

 

 奴は武装解除した俺を視認すると声をかけ、奥から手錠で縛られた隊長が現れた。外傷は…服の上から見た感じでは無さそうだ。

 

「手錠は外してやるから早く始めろ。」

 

 解放した後に背中を蹴りつけ、俺の前に立たせた。

 

「っ貴様!隊長、聞こえますか!?俺と隊長の2人で潰せばこんなカス共!」

「そんなの分かってる…」

「じゃあ!」

 

 隊長にしては珍しく、弱々しく俯いたまま訥々と喋り始める。

 

「…ボクはずっと探していた。」

 

 

「隊でボクの次に強い貴方と殺り合う理由を。」

 

 

「悪いけどこれはボクにとってまたとないチャンスなんだ。」

「それは…」

 

 目には涙が浮かんでいる。それは歓喜の涙か悲愴の涙か…何れにせよ衝突は避けられない。

 

「時間が惜しい…いますぐだ。構え。」

「っ!」

 

 幾度も聞いて身に染みた号令は、脳に思考のシナプスを与える暇も無く反射で戦闘態勢へと構えさせた。

 

 

「いくよ…貴方を殺すから、ボクを殺して。」

 

 

…クソ。

 

「いいぞォ、MMAヘビー級なんて足元にも及ばない垂涎のマッチアップがココにィ…!」

 

 ゴングの音も無く開始。観客が居れば熱狂の渦に包まれていたであろう場所は、寒気を起こすほどに奇妙な緊張感に支配されていた。

 

あぁ、厄介なことになった…

 

隊長の打投組はワールドクラスかそれ以上、特に防御方面に優れている。攻撃の起こりの察知、受け流しの技術。テイクダウンはおろかヒットすらも一筋縄ではいかないだろう。

 

俺が取れる策は技を圧倒的な暴力で貫き、捩じ伏せること。俺にはこれしか出来ないからな。

 

__行きます!

 

 真っ先に飛び出し先手を握り、牽制としてジャブを連発。プロボクサーも息を呑む程の鋭い連撃。しかしその尽くが有効打となり得ない。当たらない。

 

フッ、シィッ、シュッ!

 

 手や前腕で流し、捉えられない水流のように最小限の動きで躱す。傍から見れば当たるはずの攻撃がすり抜けているように見えるだろう。 

 

(いい加減小手調べは飽きたよ。)

 

分かってたが、この程度では通用しないか…ッ

 

 それならばとばかりに、構えたその手の防御ごと!上から叩き潰すように無骨にぶん殴る!

 

がァッ!

 

 大樹の幹かと錯覚してしまいそうな剛腕から繰り出される拳速は大気を揺るがし、砲弾がぶつかりあったようなとても人同士が殴り合う音では無い音が響く。

 

 受け流しのために顔面に構えられた腕の防御はまるで弱点かのように頼りない薄布と化し、初めて苦悶の表情を浮かべさせた。

 

(重ッッッも!流せないッ!)

 

っし、手応えアリっ!

 

 上がったガードは先程よりも力無く、つぅ…と鼻血が垂れ、その殴打の威力を物語る。

 

(極限まで威力を殺して防いだというのに、なんて芯に響く重い打撃…いつだって貴方は想像以上にボクを裏切ってくれる…嗚呼…どうしようもなく愉しい!死ぬ前に全てをぶつけたい!この技もきっと打ち破って見せてくれ!)

 

なんだ?ボクシングのような顔の前に腕を持ってくるガードの構えを解いた…?

 

あれはまるでレスリング…何かさせる前にターンを譲らず打ち続けるしかない!

 

 腕の筋肉を適度に脱力、前傾姿勢のまま吶喊。戦場を単騎で蹂躙する列強揃いを纏める隊長を隊長たらしめるのは、定型を持たず目まぐるしく切り替わる戦術の変化に拠る所が大きい。

 

迎え撃つべきベストタイミングで打っているのに攻撃が全部受け流される!打撃が肌に触れている感覚も無い、まるで霞を相手に殴ってるみたいだ!

 

 一発一発が即死級とは言え、軌道が直線のストレートは横からの衝撃には弱い。拳の軌道上へ手を一瞬だけ添え、何度も直撃を避ける程度に僅かに逸らしながら接近していく。

 

…当たらないのならば、確実に当たる距離の限界まで引きつけろ………今っ!

 

 1歩踏み込んで斜め下に放たれた正拳突きは軽く下から叩かれる事で上に跳ね除けられ、胴体がガラ空きになった。

 

マジか、弾かれない距離で打った筈__

 

ぜぇっ!

 

 加速は既に接近する事で済ませている。膝をつき、体勢が崩れた相手に用いるプロレスラーの使う技の中でも屈指の威力を持つ技…相手の膝に乗り顔面に飛び膝蹴りを叩き込むシャイニングウィザードがクリーンヒット!

 

「まだだろ。立って。」

 

 これしきの事で終わる部下では無いことは隊長が一番知っている。だからあくまで挑発に留め、更なる闘争本能を促す。

 

「ゴ…ブハァッ…流石ですね…」

 

 大量の鼻血を撒き散らしながらも立ち上がる。先程と同様に前傾姿勢で迫り来る隊長に対してバックステップを踏むが、距離を置くことは許されない。

 

 先程よりももっと体勢を低くし、クラウチングスタートよりも深く地面へ水平に倒れ込みながらさらに加速。接近を嫌って繰り出された蹴りを交わして軸足に喰らいつき、マウントの展開へ。

 

ぐっ…!んぐぉぉ…

 

 バランスよく鍛え、人体の力が入るポイントを理解しているからこそ発揮される極限のしなやかさと解かれにくさ。蛇のように巻き付き暴れる余裕すら与えず自由を奪う。

 

 足掻いて外そうと暴れ回るが、状況は悪化していく。転がって展開を反転させようと試みるも力が込めづらいうつ伏せに陥ってしまい、隊長は仰向けの状態から左腕を両足で挟み、両腕は右腕を掴んで離さない。

 

マズい!

 

…シッ!

 

 腹筋の要領で自身を勢い良く畳み、相手の肩関節を伸ばし一気に二つ外す人外の技__

 

 __誰が呼んだか、その名をトラバサミ!

 

 だが、ダイニングテーブルのように広い人並外れた広背筋に物を言わせあと一歩のところで耐える!

 

お゙お゙おぉぉぁ゙…!

 

(これ以上動かない!?それどころか逆に戻される!)

 

 全身に力を込め、未だ関節を外さんと圧力をかける隊長を背負ったまま何とか立ち上がり、隊長を押し潰すように背面に跳ぶ。

 

(この質量で上に乗られてはボクが危ない…離すしかない!)

 

 拘束を解き、背中を蹴って脱出することでこれを回避。両者は距離を取り戦況はニュートラルポジションへ。

 

ヘッ…へへ…チクショウ、生殺を決める戦闘だってのに…楽しくなってきやがった…

 

 口角は限界まで引き攣り上がり、歯茎まで露出する程の凶悪な笑みが浮かぶ。

 

 もっと、もっと打ち合っていたい!と両者の思惑が一致する。

 

(あぁ、やっとこのステージに上がってきた。今より君はボクと同類だ。嬉しいよ。)

 

 先程よりも目は鋭さを増し、喜びを湛え冷静に輝く。攻防が更に激化するということは自明の理だった。

 

…!

 

俺も兵長もとっくに体は温まった。ここからは100%の本気以上だ。ケリをつけるなら今___

 

___(はや)ッ…!?

 

 右足でステップを踏み、一瞬で視界へと消えるネコ科のような強靭な瞬発力と発条(バネ)!高速で周囲を移動する隊長へ向き直し真正面に捉える猶予はゼロ。360度全方位から飛来する拳、肘、膝、足!まさに鳥籠!

 

…キッッッツい!一々視界に収めるヒマなんてない!打撃の瞬間に筋肉を硬めろ!弾いた隙に打つ!…ここだ!

 

しゃらぁっ!

 

がッは…ッあァッ!

 

 一撃目を弾き、即座に反撃するために一瞬だけ弛緩させたのを隊長は見逃さなかった。確認してからコンマ0.5秒未満で繰り出された二撃目は、柔らかくなった肉を穿ち、深く深く内蔵まで抉り込むリバーブロー!

 

 痛みで視界が霞む、肺から酸素が漏れる。だが、決してタダでは倒れない、決してタダじゃ済ませない!

 

フヒュ゙ゥゥ…づかんだぞ…

 

くっ!!?

 

 掴んだ腕を勢い良くぐいと己に引き寄せ、浮いた体の鳩尾に速度の相乗効果が乗った渾身の利き腕ストレート!

 

はぁ゙っおっ…

 

 僅かに間に合ったガードごとブチ抜き、ハジいた銃弾のように地面と水平に吹っ飛ばされ、強かに壁に体を打ち付ける。

 

ムグ…ベッ、ゴフッ…ヒハッ…い〜いパンチだ。ガードしてなきゃ肋骨全部イッてたよ。

 

 ゆっくりと起き上がり、傷付いた体内から逆流してきた血を吐き捨てる。まだまだ余裕綽々といった風に笑みを浮かべている。

 

 負わせたダメージはまだ浅い。そう判断し追撃を図るため距離を詰め、迫る。そして既に策と拳は形を決めている。

 

 ボッ!

 

___ッ!…ヘェ…

 

 ジェットを噴かしたかのような異音。ギリギリで躱す。遅れて頬に切れ込み。

 

 音の主は手刀による突き。

 

 足、腰、胴、肩、腕の順番で体重移動を行い加速。ひたぶるに鍛え上げた突きは槍にも劣らない貫通力を得た!

 

 それがフリッカージャブを繰り出すかのような閃光の速度と頻度でラッシュラッシュ!

 

(この突きは受けても流してもボクが先に削れるし、ミスれば最悪内臓を貫かれかねない…ならば!)

 

シっ!

 

 胴へ放たれた左手の突きを肘と膝で挟み、指の骨折を狙ったカウンターを試みる。

 

…っづぁ!

 

 骨折の目論見は成功。しかし悪くない思い付きの代償として、突きの威力を殺しきれず皮膚が剥け肉が削れ、骨が一部露出した。

 

だからどうした、指が折れたぐらいで!

(だからどうした、骨が見えたぐらいで!)

 

 覚悟はとうに決まっている。お互いに負傷した部位での2度目の突きとカウンターが交錯する。

 

持ってけ左手ェ___!

 

 折れた指と骨がカチ合えば指の方が潰れるのは分かってる、ならば指を捨てブラフとして差し出し本命は背中に隠した肘で顔面を狙う!

 

獲ったッ!

 

 隊長の最大の武器である防御技術は万策を看破し、打ち砕いて無に帰す。それは背中に隠され、死角外から迫る肘であっても例外では無い。

 

__グッ〜〜〜!

 

 導き出した最善手は始動の抑え…ただそれだけ。素早い追撃で鎌のような蹴りがこめかみを抉るようにヒット。遅れてやってきた指の痛みもありとうとう膝を着く。

 

少しだけ…遅かったね。ボクの勝ちだ。

 

 名残惜しそうに勝利を宣言した。トドメとばかりに放つは技を捨て、中指の第二関節を尖らせるひたすらに殺意と暴力を拳に込めて打ち下ろすストレート。

 

ぜぇぇぇあああっ!!

 

__るォ!

 

 しかし彼の目は未だ闘争に燃え、まだ死んじゃいない。付け焼き刃ながらも大胆に機能したのは拳を軽く叩き跳ね除ける弾き!始めに受けた技をこの土壇場にて意趣返し!

 

(な…ボクの…!)

 

…我慢して下さい。

 

 体勢の低い相手に放ったパンチは数分前と同じシチュエーション。違うのはここからの痛烈すぎる反撃!

 

 顎目掛けた突き上げのアッパー、凄まじい威力が篭った拳を受け数センチ宙に浮き上がった所へ連続で肘鉄を鳩尾にチェイン!

 

がぁ___

 

 空中では衝撃を地に流しようもなく、モロに百%を受け止めた隊長は吹き飛び、どさりと落下し気絶した。勝ちを確信した相手から掠め取るように奪った紛れもない勝利。

 

「…はっ、はっ…俺の…勝ち…ですね…」

 

 隊長がすぐさま目を覚ますと敗北を認める。

 

「…あぁ…ボクの負けだ。強くなったね。」

 

「何勝手に終わらせようとしてんだ!死ぬまでやれっつっただろ!」

 

「あァ…そういえば居たね…」

 

 体は産まれたての子鹿のように震え、瀕死の重体なのにまるで敵とも思っていないその態度に痺れを切らし、拳銃を構えた。

 

 

「うるせぇ!お前はまだ俺の捕虜だって事、忘れちゃいねぇだろ!?疲弊しきった今、お前なんか簡単に殺せるンだぜ!?」

 

くっ…!

 

 隊長が撃たれる寸前、庇うように目の前に立ち腕を前に突き出す。

 

()っ…入隊した時に教えてくれましたよね、銃弾の流し方…」

 

 弾丸の軌道上に腕を置く事で、腕の形に沿って皮膚で滑らせる。過去の隊長はあくまで適当に言ったつもりなのだが、死闘の最中に発揮した極限の集中力がそれを可能にさせていた。

 

「そんなん有り得ねぇだろンの化け物どもがァァァ!」

「させるか!」

「かばっ!?」

 

 タックルで吹き飛ばし馬乗りになる。

 

「ぐ…離せ…お、俺を殺したら…千じゃ済まねぇ手下がお前らを…!」

「どうでもいい。」

「やめ、助け___」

 

 懇願を聞くまでもなく放たれた突きは容易く心臓を貫き、しばしの痙攣の後絶命した。

 

「フゥ…逃げますよ、立てますか?」

「肩貸してくれ。…っと、いいのかい?」

「肋、折れてますよね。」

 

 隊長の前にしゃがみこんで背中に乗るよう促す。羽のように軽いのに、象に踏んづけられたかのような力で毎秒全箇所をぶん殴りに来るのだから恐ろしい。

 

「だって我慢してって言った割に全力だったじゃないか。」

「あれは…いやぁ、隊長のことだし手を抜いたら怒るじゃないですか。」

「そうだなぁ。死んでも殺してたよ。」

「ははっ、だろうと思いましたよ。」

 

「ふぅ…限界まで手負いだね、ボクら。」

「原因は俺たちですけどね…あぁいや、元をたどればアイツか。」

 

 

「でも楽しかったね。」

「…否定はしません。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方との死闘はこれまでの人生で一番楽しかった。戦いに身を置くことしか出来ないボクを喜悦させることができる唯一の貴方。

 

 お互いに全てを出し尽くし、文字通り死ぬ気で臨んだ。

 

 死闘の最中始めに見せたボクの技を盗み、剰え稚拙ながらも身につけて、それでボクに勝って見せた…嬉しいよ。

 

 ボクの攻撃であちこちから流血し、もう気力だけで立っているような満身創痍の体がやけに神々しく、彫刻品のように映った。今背負われてるこの広い背中も、怪我でバランスが崩れた歩きの揺れも全部が愛おしい。

 

 ボクの渇きを満たしてくれるのは貴方しかいない。死んでもいいからまたやりたいな。今度は負けないよ。

 

 

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