激重感情短編集   作:五足歩行

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悪とヒーロー

Break a beautifully!(有終の美を飾ろう!)
Curse my Satisfaction(だって、それが俺の本望だから)


Act Hero

 

 

 

『燃えろっ!』

「おぉ〜やっぱカッコイイな〜レッド。」

 

 彼女は怪人対策課中央本部に所属する正義のヒーロー。炎を纏って悪を蹴散らし正義に燃える…まさに歩く勧善懲悪だ。隊仲間のブルーとの掛け合いも面白いし、国中で人気があるのも大いに頷ける。

 

 帰ってもっかい切り抜き見よ。…イテッ、人にぶつかっちまった。

 

「すいません、怪我はありませんか?」

「大丈夫。お詫びにこれ、あげる。」

「?なん…あれ、もう居ない…」

 

 ぶつかってしまった女性から逆になんか貰ったと思ったらもう居なくなっていた。鞘と剣?おぉ…普通に刃のあるロングソードだし銃刀法違反では?

 

 投棄するのも気が引けたので一旦家に持ち帰った。次の日に然るべき場所に渡そうかな。

 

「うぅむ…これ凄いな。気になるから試し斬りしたけど、大根切ら押し当てただけでまな板まで切れちゃったよ。」

 

 しかもご丁寧に説明書まで付いていた。あの人って刀匠か何か?で…ふむふむ…え、怪人ファイスナイト…だと…?

 

 怪人?俺が?ヒーローの敵に?

 

 

 ば、バレたら殺されかねない……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よっっっっしゃ!!!!!!!!!!

 

 夢だったんだよな〜!敵として立ちはだかってヒーローの覚醒を促す中ボスムーブ!もちろんレッドに殺されたいに決まってるよなぁ!?

 

 武器は貰ったからこれで思う存分壁になってやるぞ!それで死ぬ間際に匂わせ発言したりして!

 

 あぁヤバい、ニヤけが止まらん。

 

 この剣を…こうか。地面を叩いて変身するんだな。口上とかポーズとか構想が捗るわ〜!

 

 おっ、騎士か、見た目もさることながらスタンダードに強そう。ありがとう、名も知らぬお姉さんよ。この季節にヘソ出しコート一枚は寒いから風邪ひかないように気をつけてな。

 

 次の日に誰もいない場所で使ってみたけど、相当強かった。身体能力はありえんくらい上がってるし、なんと雷も使えちゃいます。いいんですか?

 

 雷を飛ばしたり降らせたり、武器防具に纏わせる事も出来た。とにかく楽しすぎる。子供の頃憧れたヒーローになった気分。ヴィラン側だけど。

 

 日々のトレーニングを続けて俺のスペックが向上するのも楽しかった。だんだんと力量がレッドに近づいていく感覚、一日でも早く追いつきたい。まるで恋してるみたいだ。

 

 それと最近で変わったことと言えば、近所に住む女子高生と仲良くなった。スーパー等でよく会うから必然と話も増え、今ではすっかり懐かれた。先んじて言っとくが懇ろ目的では無い。

 

 それと一昨日夕飯をご馳走した。元気な親戚の子の面倒見てるみたいで和む。剣について聞かれた時はヒヤリとしたが何とかなった。霊がどうたら言ってたし、きっとスピリチュアルを感じたい年頃なんだろう。分かるよ、俺も昔そうだったから。

 

 

 そして今日、俺はベストな決戦場を探しに地下施設を探索している。お馴染みの採石場も良いけどな〜ありふれ過ぎて逆張りしたくなっちゃったんだよな。多分死んでも爆発しないだろうし。

 

 いかにも危険そうな色の薬品やらなんやらがそこら辺に捨てられている。さっき開けたロッカーの中にもギッチリ詰まってた。

 

「なんだよ…また行き止まりじゃん。いい加減マップ探すか?」

 

 静かな場所はよく声が響く。トンネルみたいにリバーブかかって面白い…背後から音がした。

 

「ん…」

 

 なんだトカゲか…期待させんなよ。

 

「ひゃあっ!?」

 

 あ!

 

 うし、行ってみるか。声がレッドに似てたしレッドでありますように…違うなら俺の糧になれ。

 

「さて、どっちだ?」

 

 薄暗くて水溜まりもあるけど、俺にとってはランウェイのレッドカーペットを歩いてるようでめっちゃテンション上がる。気持ちよく鼻歌でも歌ってしまいそうな気分だ。

 

 あれは…おぁぁレッドォ!?ブルーも!?

 

「お兄さんっ!なんでここに!?」

 

 やるぞ…

 

「転身。」

 

 うひょ〜っ!(恍惚)うんうん、スペル詠唱みたいな長い口上も良いけど、変身後を考えるとこれがベストだね。引き算の美学ってやつだよ!誰か今の俺を撮影してくれ〜!

 

「悪いが通行止めだ。」

 

 剣を横に広げて道を塞ぐように立つ。この先に誰かいる風に言ってるけど、本当に行き止まりなだけだから。セルフ背水の陣。

 

 とりあえず先制で雷飛ばしてみよう。…やった、当たった!

 

 んー…当たったのは良いがなんか違和感。普段なら避けれるはずなのに、あからさまに動揺してるし見るからにレッドが万全じゃない。

 

「どうした、腑抜けたか。チッ、失望だ…失せろ。」

 

 煽ってみたら戦意を出してくれるかな。…来たけどいつものように炎を纏っていない。もっと真面目にやれよ。俺は全力と全力のぶつかり合いがやりたいの!

 

 盾で適当にあしらってから立ち去ることにする。

 

「…所詮はこの程度か、それで何が救える。」

 

 セリフも忘れずにね。次はちゃんと俺を殺すくらいの心意気でかかってくるんだぞ。全力で応えてあげるから。

 

 じゃあね、いい場所探してくるから。

 

 自身を包むように濃霧を発生させ、消えたように見せかける。急いで奥に隠れよう。そこのカウンターの裏が丁度いい大きさなので、入って身を隠す。

 

 あ…?んだこれ。薬の発注書か。れ、さいんでゅ…?あぁリーサルインデュース(lethalinduce)。確か直訳で……致死誘発。安楽死的な薬か。やっぱメタクソ危険な施設じゃないか。テンション上がってきたな。

 

 ただここじゃない。ケミカルな怪人ならうってつけだけど俺はそうじゃないからな。二人も居なくなったようだし、帰る。

 

 

 その日から一ヶ月後……

 

 

 あの日レッドとブルーの二人と初めて戦ってから一ヶ月が経った。その間はSNS等でレッドの目撃報告も無く、とんと音沙汰が無かった。

 

 待ちきれなくなった俺は港にある廃倉庫でわざと音を出しておびき寄せてみる事にした。倉庫でライバルを待つ敵怪人…いいシチュになるんじゃない?

 

「ナイト!見つけた…!」

 

 捨てられた資材をぶっ壊したり暴れること数分、レッドとブルーがここへ駆け付けた。おっほ!

 

 ナイト?まさか俺のことか?そんな大層な名前をつけて頂けるなんて、嬉しいね。そいじゃあやろうか。

 

「転し…」

「待って!一つだけ教えて欲しいの。」

「…早くしろ、興が冷める。」

 

 前に主の為とか言ったけど、ボスとか聞かれても俺はマジで何も知らない。なので適当に架空の組織名を言うしかない。重箱の隅をつつくようなマネは止めてくれ、ボロが出てカッコ悪くなる。

 

「あの…お兄さん…なんだよね。私が誰か分かる?」

「…?誰かを俺に重ねているのか?だとすれば違うな。」

「そう…なんだ。」

 

 俺をお兄さんって呼ぶ子は一人心当たりがあるけど、あの子普通に学生だからこんな時間(午後1時半)にヒーローなんかやれないでしょ。人違いです。

 

「レッド、あなたの言うお兄さんは…きっともう怪人に呑まれたのよ…元には二度と戻れない。」

「絶対間違いないのに…どうして…」

「戻す手立てが無い今、せめてもの救いとして殺すのが一番…だと思う。彼にとっての尊厳を守るためにも。」

 

 なんか言ってるけど俺バリバリに人間なんですわ。怪人形態になれるってだけで悪堕ちはしてないからね。俺はただレッドの成長の糧になりたいだけ。それで死ぬなら本望よ。

 

「ごっこ遊びは済んだか?征くぞ、転身。」

 

 引き出して見せろ、お前の底に眠る潜在能力を!

 

「チャージ。タイプ:Fireっ。」

「チャージ。タイプ:Water。」

 

 グローブとダガー、それぞれギアを構えると、二人は眩い光の柱に包まれる。生変身キター!死んでも忘れません。本当にありがとう、良い土産になった。

 

 光が収まると、そこには見慣れた戦闘服姿の二人。救うべき人々に背を向け守る側ではなく、戦うべき俺に真正面から敵意を向け、対峙している。ゾクゾクしてくるぜ…

 

「先に私がやる。その間に覚悟を決めておいて。」

「う、うん…お願い。」

「水球。」

 

 いきなり濡らしてどうする?ただ火に強くなっただけ…あ違うこれ俺の体内の水分持ってかれてる!

 

「フンッ!」

 

 あっぶね。雷で蒸発させてなきゃミイラになってた。速攻封殺なんて無粋な真似はよせよ、そんなんじゃ面白くないだろ!?

 

 って事で搦手が得意なブルーから片付けよう。水は雷が弱点だろ。くらえ落雷!

 

「ブルー、一秒後に右!」

「はっ!」

 

 まぁ避けるか。降るタイミングが分かるのがなぁ…どうしても消せなかったんだよなぁ。いいや、剣で斬りに行こ。

 

「そう避けていると痛いぞ。」

「直撃はもっと痛いじゃない!」

 

 結構マジで振ってるのにダガーでいなされ、弾かれる。それでいて刃こぼれ無しとは、素材どうなってるの?

 

 雷と水の衝撃波、何度も繰り返されヒートアップしていく攻防で廃倉庫の支柱が壊れ、ついに倒壊した。

 

「拓けたな。この方がやりやすい。」

「えぇ、そうね。」

 

 隣の広場に移り、雨ざらしになる。うーん…少しマズイな。水属性にとっては絶好のフィールドだ。

 

 一手でも先に指されないうちに素早く攻める。剣の軌跡に合わせ流体になり攻撃が当たらないが、雷を纏わせてるので少しずつ水を焼いて質量を削いでいく。

 

「随分と縮んだな?まるで幼児じゃないか。」

「そうね。でも、今の天候が何なのかは分かるかしら?」

 

 縮んだ体がみるみるうちに元に戻った。そうだよなぁ、雨だし無限に再生できるわな。だがそれだけでは甘い。

 

「そっくりそのまま言葉を返そう。」

「なっ───」

 

 もう遅い!どでかい雷を頭上にドーン!こういう敵は再生する隙を与えず、一気に倒すのが定石なのだよ。よし、気絶したな。後は約束されたメインディッシュだ。

 

「ブルー!」

「他愛もない。」

 

 このコンビの弱点は互いの属性。火は水を減らし、水は火を消す。だからブルーを倒すまでの間にレッドは手出しをしてこなかった。

 

 俺はほぼ無傷、相棒も倒れ、天気は味方せず大ピンチ。覚醒する条件は整っただろう。今ここでやって見せろ!

 

「さて、第2ラウンドだ。」

「うぅ…!」

 

 そうだ、もっとがんばれ!そしたら絶対秘めたる力が目覚めるから!

 

「うあああっ!!」

 

 おぉ、赤い炎が広がって白く…っ!

 

「いくよ、お兄さん。」

 

 感情に呼応したのか、帯びている炎が燃え盛り急激な温度の上昇を見せる。雨は降った側から蒸発し、一瞬で周囲が乾燥する。喉が焼けるように熱い。戦わずとも鎧の中で蒸し焼きにされそうだ。

 

 ────成ったか。はは、それでこそ俺の最推しだ。……見違えるくらい強いな、俺よりもずっと上だ。嬉しいよ。

 

「来い。」

 

 おお…更に蒼へ…これが覚醒したレッドの本域か!素晴らしい!俺という土台を踏み台に存分に高く昇ってゆけ!

 

 面白いくらいに攻撃が全く当たらない。自分に電流を流して反射神経と思考の伝達速度を上げ、隙を限りなく減らしても焼かれる。俺が水でも操れればもう少し長く楽しめたかな。

 

 だが、強化フラグが回収された時によくある瞬殺展開は俺的に気持ちよくない。せめて一撃入れろ、レッドの成長に報いろ!

 

「そこだ。」

「ぎっ…!」

 

 躱した先にある、炎熱の範囲外の蒸発していない水溜まりにプラスの電荷を持つ雷を与え、俺にマイナスの電荷を帯電させ引き寄せる背後からの雷。ちったぁ効いただろ。

 

 盾を一旦消し、剣を両手で構えて切っ先を向けて攻めの姿勢。感覚は鋭敏にレッドの一挙手一投足を捉え、いつでも雷を放てる準備もしてある。

 

 さぁ____

 

 

 

 

 あれ、熱

 

 

 

 

 何

 

 

 

「ク…フッ…」

 

 もう撃たれたのか、速すぎる。攻撃の起こりも、当たるまでの道筋も何もかもが全く見えなかった。

 

 いいね、最高だ。腹に穴空いてガッツリ致命傷。間違いなく死だ。

 

「クハ…ッ…ハハハハ!」

 

 想定以上に期待以上だ。これよりも良い死に場所はあっただろうか!?ねぇだろうよ!!今は最大級の賛辞を!!一回りどころか二回りも成長した君にエールを!!

 

「素晴らしい…流石だ…俺の…ヒーロー…!ずっと…ファンだったぜ…」

 

 俺の夢を叶えてくれてありがとうレッド、君は次のステージに足を踏み入れた。更なる飛躍を心から祈ってるぜ。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

ヒーローWiki

 

レッド

 怪人対策課中央本部に所属。ギア*1を使い変身し、炎を操り怪人を倒すヒーロー。

 

──────────────────────────

概要

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 ………はい、(レッド)です。持て囃されるのは気分が良いし嫌って訳じゃないけど、みんなのイメージを崩さないためにも品行方正を常に強いられています。顔は当然割れているから変装しなきゃまともに外出もできません。

 

 一度気になってたお店にご飯を食べに行った事があるのだけど、即SNSにすっぱ抜かれた事がある。お店に迷惑かけちゃったし、それくらい落ち着いて食べさせてよ…

 

 本当は対等な友達と遊びに行きたいし、恋だってしたい。一度きりの華の高校生活、血みどろの戦闘でおじゃんにする訳にはいかない。

 

 でも、そんな私がつい最近恋を覚えた。相手は同年代ではなく、近所に住む年上のお兄さん。朝のゴミ出しで会ったり、おつかいでスーパーに行った時もよく会うのでそこから仲良くなった。細フレームの丸メガネが知的でカッコイイ。

 

 それなりに腹を割って話せる仲になった頃、ある日の会話中に悩んでいることを遠回しにそれとなく言ってみた。

 

「何であれ君は君だろ。え、どうして泣いてるの…?俺なんか間違った?」

 

 お兄さんにとってはなんて事ない軽い発言なのだろうが、レッドではない私の自己を肯定してくれたようで、それが何よりも嬉しかった。

 

 クラスメイトやファンのみんなはヒーローとしての私を見るけど、家族以外で等身大の私を見て接してくれるのはお兄さんだけだった。

 

 今は公園のベンチで楽しく話している。こんな平和がずっと続けばいいのにな。

 

「お兄さんは夢ってありますか?」

「夢かぁ…推しを至近距離で見ることかな。」

「ちなみにそ、その推しって…」

「怪策課*2のレッド。」

 

 そう、お兄さんの推しは私。実はレッドが私なんですよって、夢叶ってますよ〜って、今すぐ打ち明けたくって堪らなくてしょうがないのだ。

 

 でも今は変装こそしているが公園で話してるし、人もいる。自分でも人気があるのは分かってるから、意中の人がいると世間にバレたら炎上不可避なのでどうにか心の中に押し留めておく。炎使いだから炎上wとか書かれても何も面白くないからね。

 

「でへへぇ…」

「すっごい表情溶けてるけど大丈夫?パーツ崩れてるよ?」

 

 ハッ!はしたない所を見られてしまった。でもこんな顔をするのはあなたの前だけなんですよ…って…キャー!

 

「なぁ顔真っ赤だぞ…熱っつ、風邪引いたか!?…おい!」

「えへへっ…うひぃ…」

「トリップしてやがる…近くの病院は…電車で一時間!?やむを得ない、家で休ませるか。クソ、通報されませんように……」

 

 気づいたらお兄さん家のソファで横になってた。申し訳なさはあるけど控えめに言って最高。住みたい。なんか壁に剣が飾ってあったけどギャップを感じて更に好きになった。…でも変な気を感じる。

 

「お、起きたか。一応用意したけど軽く食べてく?」

「たべっ、食べます!」

「あとマジで何もしてないから。警察だけは許して…!」

「診てくれたんですから、誰かに言ったりはしませんよ。」

 

 断るだなんてとてもとても。…別に何かしても私はばっちこいなのに。

 

 テーブルにはバターロールと粗めにすりおろしたリンゴのジャムにマーガリン。それとホットミルクが用意されていた。…1000%満点です。いただきます。

 

「あり合わせでゴメンな。」

「いやいやっ、すっごく美味しいです!」

 

 家に運んで看病してくれただけでも有頂天なのに、ご飯を私の為に作ってくれた。大々々(中略)々々満足。

 

「ご馳走様でした。」

「はいよ、完食できるくらい元気なら…熱は計らなくても大丈夫そうだな。気ぃつけて帰りな。」

 

 あ…そっか…そうだよね。名残惜しいな…

 

「看病してくれてありがとうございました。お邪魔しました。」

「ん。帰ったらすぐ風呂入るんだぞ。」

「あっ、あの…」

「どうした、忘れ物か?」

 

 言え、言うんだっ。

 

「また来てもいいですか…?」

「あぁ、全然いいよ。」

 

 ホントですか!!??今ならギアが無くても火を出せるかもしれない。それくらい嬉しい。

 

 次の日はちょうど休日だったから、午後に遊びに行ってみることにした。お兄さんいるかな。

 

「はい。」

「えへへ、来ちゃいました。」

「おう、いらっしゃい。」

 

 わ、なんかいい匂いする…

 

「いい匂い…」

「今日寒いからシチュー作ってたんだよね。食べる?」

「食べたいです!」

「ちょっと待っててな、もう少しでできるから。」

 

 この時間に来てしまったことを若干後悔しつつ、お兄さんのご好意でご相伴にあずかる。私の事がめつい女だって思われないかな…お母さんに連絡入れなきゃ。

 

「いただきます。」

「はいどうぞ。」

 

 ほわ…あったかくて美味しい。手が止まらない。

 

 あ、そうだ、剣について聞いてみよう。生活感のある部屋に飾られた異質な空気を放つ剣。前に来た時から違和感を感じていた。

 

「あの剣って買ったんですか?」

「んーと、知らない人から貰った。カッコイイから飾ってる。」

 

 なんですかそれ…普通警察に持ってくのが常識じゃないんですか…?

 

「でもこれ…嫌な感じがします…」

「え、そうなの?霊的なやつ?」

「分かんないですけど、ずっとは見ていたくない…です。」

「……ふぅん。じゃあしまうか。」

 

 剣を棚から取ると、奥の部屋に持っていった。引き取って本部に渡しても良かったけど、どのタイミングで言えばいいか機会を失ったから言えなかった。

 

「ご馳走様でした。」

「あいお粗末さん。」

 

 この一時はとても幸せだった。よし、明日からまた討伐業務だ。頑張ろう。そしてお兄さんにいい子いい子してもらうんだ。

 

 気合いも超十分に、早速本部より怪人が出たと司令を受け、私とバディのブルーは棄てられた地下施設に来ている。

 

「うぇ…暗い…怖い…」

「大丈夫よレッド。こんなカビ臭い地下にいるやつなんて所詮雑兵がいいとこだから。」

「ホントかなぁ…」

 

 相変わらず剛毅で頼もしい。何に使われていたかもよく分からない薬品が転がっている薄暗い地下施設を、我が物顔でズカズカ進むんだから、肝が据わってるどころのレベルじゃないと思う。

 

「あっブルー、あいつ!」

「げっ、追ってきたか!」

「どこに行こうと無駄。」

 

 虫のような複眼に腕の鎌、対象の怪人と同じ見た目だ。早速ブルーが水に閉じ込め、水圧で潰して終わった。

 

「やっぱり雑魚だったわね。上に戻ろう。」

 

 はぁ、何も無くて良かった…

 

「ん…」

 

「…ひゃあっ!?」

「しっ、まだ離れてるけどこっちに来るかもしれない。警戒して。」

 

 あぁもう地下嫌い…私の火じゃ酸素が無くなって戦いづらいし、奥の手の爆破も封じられたようなものだし…

 

「どっちだ?」

 

 …来てる。真っ暗闇の先から低い声だけが不気味に反射して聞こえてくる。声だけなのにこの威圧感…緊張して冷や汗が頬に垂れてくる。

 

 湿気ったコンクリートを歩く音が段々と近づいてくる。剣の切っ先が電球で見え…

 

 

 

 ___あの剣…うそだ…

 

「お兄さんっ!なんでここに!?」

「転身。」

 

 問答無用とばかりにトン、と剣の切っ先を地面に叩く。水面に石を投げつけたときのような波紋が広がり、全身が濃霧に包まれる。

 

 肌を覆い尽くしたのは中世の甲冑を模したような銀色のアーマー。左手にはカイトシールド。お兄さんが怪人だったなんて…

 

「悪いが通行止めだ。」

「…なんで。」

「動揺してる場合じゃないよ、やるしかない!」

 

 顔を覆うヘルムでくぐもった声は戦闘の意志を示してくる。やだよ。お兄さんと戦いたくないよ…

 

「雷っ!?避けて!」

「え、う…あっ…」

 

 避けられずに当たってしまった。…痛い。熱い…もうこのまま死ねば楽になれるかなぁ…

 

「レッド大丈夫!?さっきからおかしいわ…」

「どうした、腑抜けたか。チッ、失望だな…失せろ。」

 

 呆れた様子で剣を鞘に収め、闇に戻っていく。

 

 失望…?ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダッ!もっと褒めてよ、私を見てよ!置いてかないで!

 

「お兄さん!行かないで…!」

「五月蝿い。」

 

 嘆きも聞いて貰えない。お兄さん、私だよ!お願いだから目を覚まして!

 

「あぐっ…」

 

 どこかに行かせまいと接近を試みるも盾のシールドバッシュを受ける。

 

「…所詮はこの程度か、それで何が救える。」

 

 待って!行かないで!

 

 私の思いは届かず、濃霧に包まれて存在自体が無かったかのように消えた。霧が晴れても足跡すら残っていない。

 

 

「あ…あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

「レッド!落ち着いて!」

「なんでなんでなんでなんで!!?あの日々は嘘だったの!?優しいお兄さんを返してよ!!」

「っ、こちらブルー。逃亡した怪人を撃破、加えて未確認の怪人を確認。一時帰還します!」

 

 ブルーに手を引っ張られて本部に連れていかれた。

 

 

────怪人対策課中央本部

 

 

「ブルー、敵の情報を。」

「はい、敵は中世の騎士のような姿に雷を使用します。」

「今までにない人型タイプか…だとすると新興勢力か…?」

「我々の力を推し量るような発言を取り、しかし交戦を始めてから数分で立ち去りました。全容は明らかになっていませんが、恐らく今までの怪人とは一線を画す実力かと。」

「そうか。……また我々の悩みの種が増えたな。ご苦労。今は休んでくれ。」

 

 暫定的な呼称として『ナイト』のコードネームが与えられたそれは、要注意怪人として徹底的にマーク。早急な排除が求められた。

 

 そしてもう一つ注目を集めたのは報告の場で一言も発さず、酷く落ち込んだ様子のレッド。本部は手厚いメンタルケアを施し、ひと月の間療養を取らせた。

 

 一ヶ月もする頃には以前のような快活さを取り戻し、復帰を果たした。

 

 

 

*

 

 

 久々にブルーに会うからなんとなく顔を合わせづらい…やだな、ちょっと緊張してきちゃった。

 

「おかえり、レッド。」

「…た、ただいま。迷惑かけてごめん。」

「ほんとだよコノヤロー!」

「わひゃあぁ!」

 

 折角セットしたのに!…ふふっ。

 

「さ、無事に元気なようだし、いつものルート回ろうか。」

「うん。真っ直ぐ行って海沿いね。」

 

 今日は生憎の雨。ちょっと力を発揮しにくいから何も無いまま終わるといいんだけど…

 

「…待って。なんか聞こえない?」

「え?」

 

 

がぁん…

 

 

 雑踏に混じって薄らと聞こえてくる…何…この音。工事とか解体の音とはまた違う…ひたすら破壊を繰り返しているように聞こえる。

 

「港方面から…?行こうレッド。」

「うん。」

 

 本部に通信を入れ、怪人がいると思われる場所に向かう。音の発生源はこの廃倉庫。金属が軋み、潰れ…耳を塞いでしまいたくなる音は止まらない。

 

「行くよ、3、2、1…!」

 

 合図で中に入る。あれは人型怪人…いや…お兄さんだ。全身の毛が粟立つ。一秒一秒の間隔が途方もなく長いように感じ、思考がいやに澄んでくる。

 

「ナイト!ようやく見つけた…!」

 

 私たちを見るや否や剣を地面に叩こうとして…待って!

 

「転し…」

「待って!一つだけ教えて欲しいの。」

「…早くしろ、興が冷める。」

 

 本当かどうか確かめなきゃいけない。本当は嘘であって欲しい。イタズラだよって言ってくれたら笑って済む話なのに…!

 

「あの…お兄さん…なんだよね。私が誰か分かる?」

「…?誰かを俺に重ねているのか?だとすれば違うな。」

「そう…なんだ。」

 

 そんな…もう怪人に呑まれて…

 

「あなたの言うお兄さんは…もう人間に戻らない。」

「戻す手立てが無い今、せめてもの救いとして殺すのが一番…だと思う。彼にとっての尊厳を守るためにも。」

「ごっこ遊びは済んだか?征くぞ、転身。」

 

 …赤い指抜きグローブを取り出して手に嵌める。あの剣、無理やりにでも回収しておけば良かったな。

 

「チャージ。タイプ:Fireっ。」

「チャージ。タイプ:Water。」

 

 敵対したならもう引き下がれない。でもやるしかないと分かっていても、心が点火しない。

 

「先に私がやる。その間に覚悟を決めておいて。」

「う、うん…お願い。」

「水球。」

 

 先制はブルー。バスケットボールサイズの水の玉を飛ばし、当てる。こけおどしに見せた攻撃で、水分でも奪うつもりなんだろう。

 

「フンッ!」

 

 電熱で無理やり蒸発させた…あ、雷っ…ブルーを狙ってる!

 

「ブルー、一秒後に右!」

「はっ!」

 

 避けるタイミングは割と分かりやすい。剣とダガーがぶつかり合う。

 

「避けると痛いぞ。」

「直撃はもっと痛いじゃない!」

 

 お兄さんとブルーはヒートアップ。遂に耐えきれなくなった倉庫が倒壊する。

 

「拓けたな。この方がやりやすい。」

「えぇ、そうね。」

 

 隣の広場に移った。ここならブルーの独壇場だ。…でも私の力が発揮できない。邪魔しないようにするしか無いのが…悔しい。

 

 ちょっとずつだけど、ブルーが削られている。

……強い。いつの間にこんな力を……?

 

「随分と縮んだな?まるで幼児じゃないか。」

「そうね。でも、今の天候が何なのかは分かるかしら?」

 

 雨を吸収し、元の姿に戻る。ブルーは水があれば無限に再生できる。これがあるから強いんだ。

 

「そっくりそのまま言葉を返そう。」

「なっ───」

 

 上から凄まじい光量。ブルーの真上に巨大な雷が降った。そうか、斬りつけた時に少しずつ帯電させていたんだ!だから回避もできなかった!

 

「ブルー!」

「他愛もない。」

 

 状況は大ピンチだというのに、ひたすらに怒りが込み上げてくる。血が出そうなくらいに拳を握り、グローブがギチギチと音を立てている。

 

「さて、第2ラウンドだ。」

「うぅ…!」

 

 絶対に許さない。お兄さんを怪人に落とした元凶を、私から幸せを奪った怨敵を!

 

「うあああっ!!」

 

 せめて一撃で決める。なるべく苦しませたくないから。

 

「行くよ、お兄さん。」

「来い。」

 

 まだ火力が足りない…もっと熱くなれ!私の怒りはこんな程度じゃない!

 

 するとギアが応えてくれたのか、纏う炎は白から青に変化。はっきりと調子も良くなった。…今なら行ける。

 

 雷も見てから避けられる。顔面目掛けて飛んできた雷を鼻先まで引き付けても余裕だ。

 

「そこだ。」

「ぎっ…!」

 

 躱したと思ったのに後ろから雷…!?わざと外して水溜まりに溜めさせてから自分に引き寄せた!?

 

 一瞬でそんな事を思いつくなんて、本当に油断ならない…けど、今は倒せるビジョンしか見えない。

 

 ……既に炎はお兄さんへ届いている。お兄さんはこの攻撃に反応すらできていない。

 

「ク…フッ…」

 

 …大量に血反吐を吐いた。お腹にはぽっかりと穴が空いて向こう側が見える。放っておいても失血死は免れないだろう。

 

「クハ…ッ…ハハハハ!」

 

 笑ってる…?なんで、今にも死にそうなのに…?

 

「素晴らしい…流石だ…俺の…ヒーロー…!ずっと…ファンだったぜ…」

 

 心底嬉しそうに天を仰ぎながら盛大に言い放つと、アーマーが霧散し、仰向けに斃れる。雨に打たれ、ピクリとも動かない。腹に風穴が空いた死体だけが残った。

 

 俺のヒーロー。お兄さんは嬉しそうにそう言っていた。…初めから怪人なんかじゃなかったんだ。

 

 自分の意思で、私たちの前に敵として現れたんだ。そして最後には私が強くなったことを祝福して死んだ。まるで殺されることを望んでいたかのように。

  

 …その剣、貰ってもいいですか。何でもいいからお兄さんの形見があれば安心できる気がするんです。

 

 さようなら。最初で最後の初恋よ。

 

「全部…全部終わったよ、起きてブルー。」

「う…レッド…」

「次は本拠地。休んでる暇なんて無いよ。」

 

 

 ─────微塵も残らず潰す。

 

 

 

 

 

 怪人対策課中央本部所属、レッド。蒼炎と雷を駆使し敵の拠点ごと制圧、そして殲滅に成功。輝かしい戦績を首級にあげ、その名を更に轟かせるのは少し先の未来。

 

 

 

 

 

*1
変身する際に用いる道具、又は触媒。銃や杖など形状は一人一人差異がある

*2
『怪人対策課中央本部』の略称




・お兄さん
推し(レッド)に被殺願望を抱く狂人
近所の女の子がレッドだと最期まで気付かなかった

・レッド
お兄さんのことが大好きな火属性(と雷属性)
クソデカい暗黒の過去を抱えるヒーロー
ニチアサから深夜枠に

・ブルー
頼れる水属性
水分を奪って渇死させたり
流体化して敵に飛びついて溺死させる戦法が得意

怪人ファイスナイト(Kaijin Faith Knight)
使用者に応じて纏う鎧姿が変わる……らしい
ナイスファイトでは無い


I just killed my love…(愛する人を手にかけた)
Shattered my heart(幸せが抜け落ち、)
And then, My fire is gone.( あの温もりだけが手に残った)
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