激重感情短編集   作:五足歩行

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いつもは会話文にスペースを設けませんが、今回は内容の8割が会話なので一つ離しています。

短め


Q:身内が立て続けに亡くなりました。なぜ?

 

 

 

 今日は大叔母さん、祖父の妹の葬式。

 

 滅多に会わないから僕にとっての印象は薄いけど、ボロボロに泣き崩れる祖父を見て、僕まで悲しくなる。

 

「あ、キミ。あの人のお孫さん?」

 

「えぇと、どちら様ですか?」

 

 祖父のそばにいるとなんだか居た堪れなくなった。その場を離れてうろついていたら、ふいに声をかけられた。

 

「古葉です。キミは知らないだろうけど、妹さんには職場で世話になったんだ。」

 

「そうなんですね。」

 

「………」

 

 やはりこの人も悼んでいるのだろうか。悲しげな表情で僕を見ている。

 

「キミ、顔立ちが似てるね。かわいいよ。」

 

「かわ…!?」

 

「ん。場違いすぎて怒られそうだけど、結構好きかも。」

 

面影を重ねていたのかな。

 

「あ、ありがとうございます…?」

 

「よかったら話そうよ。あまり馴染みのない人の葬式って退屈でしょ。お坊さんのあれ眠くなるよねぇ。」

 

「分かります。焼香が眠気覚まし替わりですよね。」

 

「実際寝てる人いると思うんだ、一番後ろの端とか絶好のスポットだし。」

 

「でも、誰しも冠婚葬祭の時くらい、居眠りをしない心がけはあると思いますけど。」

 

「少なくとも私にはないね。」

 

「興味を持ってないんですか?」

 

「かもね。世話にはなったけど、言い換えればそれだけだし。」

 

 淡々としているというか、すごくドライな人。

 

「じゃあ一旦お線香あげてくるね。」

 

 初対面なのに何故か好意を持たれて、周りにはいないような変わった雰囲気と性格の人。

 

 葬式という行事がまるで彼女と出会うために用意されたかと思うくらい、僕の記憶に鮮烈な痕を残した。

 

 

 

 

 

 

 

 大叔母さんの葬式から一ヶ月後。

 

 祖父が死んだ。交通事故だった。加害者も死亡するほどの衝突で、原型が無くなったのか棺は空っぽだった。

 

「や、おひさ。」

 

「お久しぶりです、古葉さん。」

 

「こんなスパンで会うことになるとはねぇ。」

 

「たった一ヶ月くらいしか経ってませんからね。」

 

「起きる時は起きる。今回はたまたまそうだっただけ。」

 

「まさか、古葉さんもいるとは思ってませんでした。大叔母さん絡みですか?」

 

「まぁね。正直な話、私はおじいさんのことはちょっと苦手…っていうより、はっきり言って嫌いかな?」

 

「そうなんですか?」

 

「妹さん、結構いびられてたみたいでさ。愚痴とか沢山聞かされて、その内私も嫌いになっちゃったんだ。まともに話したこともないのに、虫がいい話だよね。」

 

「なるほど…?」

 

 確かに二人でいる時はほぼなかったし、揃っている時も会話は最低限だったけど、そうだったのか。

 

「言ってたよ。もしお天道様が許すのなら、殺してやるって。」

 

「え、そこまで。」

 

「でもさ、おじいさんは妹さんの葬式の時はわんわん泣いてたよね。好きな子にはちょっかいかけたいみたいな、ある種の愛情表現なのかもしれなかったんじゃない?違うと思うけどね。」

 

 そうして古葉さんはひらひらと手を振って、人溜まりに消えていった。

 

 厳かな空気の中、他愛ない話や祖父の生前の話が静かに飛び交っている。

 

「あの人。事故現場にいたんだって?」

 

「らしいよ。」

 

 やがて告別式が始まり、僧侶の読経も終わった。出棺まで少し空き時間ができた。古葉さんがもう一度話しに来た。

 

「やっぱ眠かったね。」

 

「聞きました。交通事故、古葉さんも居合わせたらしいですね。」

 

 告別式の前に誰かが密かに話していたのを聞いた。もしかすると、が俄に湧いた。

 

「ん?うん。」

 

「犯人は現場に戻る。もしかするとそうなんですか…?」

 

「ふふっ、何それ。私はキミに会いたかったついで。来ないのに殺したって無益じゃん、香典の無駄。」

 

「は?」

 

「居合わせたのは本当に偶然。危うく事故に巻き込まれかけたんだよ?それより、連絡先教えてくれない?前の葬式の時に聞きそびれちゃってさ。」

 

「いや、えぇっ?まぁいいですけど……本当に本当なんですね?」

 

「だからそうだってば。よしんば殺してたら今頃ここにいる訳ないじゃん。私死人だよ。」

 

 それもそうだな。僕は何を一人相撲で焦っているんだ。

 

「……そうでした。」

 

「というかさ、その話さ、誰から聞いた?」

 

「分かりません、後ろで誰かが言っていたのを小耳に挟んだだけです。」

 

「ふぅん…まぁいいや。そろそろ出棺でしょ、最後におじいさんの顔でも見ておいたら。」

 

「そうします。」

 

 問いただした時、僅かに視線が細まっていた。怒っているようで怖かった。

 

「私は親族じゃないからここらで帰るけど、キミはどうするの?」

 

「最後までいます。というより、それしかないので。」

 

「……そっか。ごめんね、変なこと聞いて。じゃあまたね。」

 

「はい。」

 

 

 

 

 

 更に二週間後。

 

 母さんが死んだ。寝室のドアで首を吊って自死した。

 

 意味がわからない。

 

 昨日まで普通だったのに。なんで?

 

 自殺なんてする性分なんかじゃなかったのに。酸いも甘いも笑い飛ばして柔軟に生きる自慢の母だったのに。

 

 祖父の葬式で泣くことはあっても、最後まで気丈に振舞っていたのに。

 

 気付かなかった。

 

 気付けなかった。

 

 何もしてやれなかった。親を失った悲しみの支えになれなかった。

 

 早く救急車を呼んで、それから葬式の準備をしなきゃ。学校はどうしよう。先生に休む連絡を入れなきゃ。

 

 もう僕以外に誰もいない。

 

 念の為お願いした死体解剖の結果、背中から心臓を貫通した孔があったらしい。アイスピックを使った、自殺に偽装した他殺の線が濃厚だったらしい。

 

 そんなのどうでもよかった。犯人を恨む余裕はなかった。

 

 喪失感と忙しさに潰された心は、摩耗して小さくなっていた。

 

「や。元気…じゃないね。キミのお母さん、殺されたんだってね。」

 

 葬式の度に、いつも僕に声をかけてくる古葉さん。存在は覚えていたのに、僕は付き合い方を忘れていた。

 

「あぁ、まぁ…」

 

「ん、そりゃあそうだよね。たった一人で喪主まで務めて、よく頑張ったよキミは。偉い偉い。」

 

 頭を撫でてくる。久しく味わえていなかった優しさが身に染みて辛かった。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、僕…」

 

「いいよ、慰めたげる。」

 

「うわっぷ…」

 

 抱き寄せられる。顔が熱くて、心臓の音がうるさい。

 

「どう、落ち着く?」

 

「……分かりません。」

 

「ならさ、暫くこのままでいようね。」

 

 解こうにも、思いの外古葉さんの力が強くて動けない。何分経ったっけ?

 

「あの、恥ずかしいです。」

 

「うんうん。じゃあ大丈夫だね。」

 

 どういうこと?

 

「昔さ、私のお母さんがね、怒ったり泣いたりする私をよくこうしてくれたんだ。」

 

「今抱いてる感情は一時のものだから、別の感情で塗り潰してやれーって。割と覿面でしょ、少しは元気出た?」

 

「たぶん…」

 

「頑張るのは偉いけど、一人で背負わないで遠慮なく頼ってよ。絶対大変だったでしょ。」

 

「そう…ですね。忙しくって、でも身内はもう誰もいないから…何もかも自分でやるしかないって…」

 

「もお、何のために連絡先交換したと思ってるのさ。私は何があってもキミの味方だよ。」

 

「ありがとう…ございます。」

 

 葬式は流れるように恙無く終わった。祖父の葬式の時、母さんも同じ気持ちだったのかな。

 

 僕以外に誰もいない部屋は、広くて静かで、母さんと僕の生活の跡だけが残った部屋。

 

 何もする気が起きないや。疲れたな。

 

 そうだ、電話。古葉さんに気を紛らわせてくれるかな。

 

『もしもし?』

 

「あ…古葉さん、今大丈夫ですか。」

 

『勿論。どうしたの?』

 

「いや、その、特に用はないんですけど、なんとなく。」

 

『ふふ、そう。』

 

 電話越しに聞こえた小さな笑い声が妙に色っぽくて、勝手に顔を想像して少しドキリとした。

 

 婉曲的だけど、助けてもらってばかりだ。

「葬式の時、助けてもらったから、何かお礼でもできたらって思って…」

 

『いいって。今キミがやることは、元に戻るまで休むこと。変に意識しないの。』

 

「はぁ。」

 

『そうだ、今からお家行ってもいい?どうせ燃え尽きて億劫になって、自分のことなんか放ったらかしにしてるでしょ。』

 

「え?」

 

『十分くらいで着くから、待っててね。』

 

 ツーツーツー。

 

 いきなり訪問してくることになった。嵐みたいだ。

 

 十分後、古葉さんの宣言通りに呼び鈴が鳴った。ドアホンに映った人は、やっぱり古葉さんだった。そういえば、僕の住所って教えたっけか。

 

「はぁい。」

 

「お邪魔します。うわ、こんな時間なのに片付けすらしてないじゃない。」

 

「……ごめんなさい。」

 

「食べなきゃ体に悪いよ。ご飯作ったげる。どうせこんな感じだと思って、家から持ってきたの。」

 

 キッチンに立ち、袋から色々と取り出して手際よく調理を進めていく。

 

 数分もすれば、いい匂いが立ち込めた。

 

 おにぎりとベーコンエッグ、それと和え物に味噌汁。

 

「ま、時間も時間だしチャッと軽くね。さぁ召し上がれ。」

 

「…いただきます。」

 

 最初に味噌汁を飲んだ。具は違うけど、それは母さんの手料理に似て、少し濃い白味噌の味だった。

 

 あったかい、なぁ。

 

「ふ…く、うぅ……っ…!」

 

「うんうん、辛かったね。疲れたよね。頑張ったね。溜めたもの全部吐き出して、また元気だしてこうね。」

 

「こば、さぁん…!」

 

「大丈夫、私はキミの味方だから。これからは私がキミを支えてあげる。」

 

「家族になろう。ずっとキミのそばにいて寂しさを埋めてあげるから。過去なんか忘れるくらい幸せにしてあげるから、ね?」

 

「もう、葬式なんて行く必要はないんだから。」

 

 

 

 

 

 

 







妹さんの葬式で初めてキミと出会った時、そこだけ明るく光っていたように見えた。

一目惚れとも言う。

一足先に大人びたような、真面目で恭順な良い子だ。

今すぐにでも手元に置いておきたかった。

でも、学生である彼に手を出すと犯罪になる。

恋に落ちた私の気は成人を待てるほど長くない。とはいえ、合法的に繋がる方法は幾らでもある。

だから、彼の縁者を全員殺して、ひとりぼっちにさせるべく動いた。

幸運にも、あと二人だった。

アプリを起動すれば車のハンドルがおじいさん目掛けて切られるように細工して、すれ違う機を待った。

目撃者が参列していたみたいで、あわや彼にバレかけた。少しヒヤリとしたけどまぁ結果オーライ。

二度の葬式で彼の母親との縁もできたから、彼が学校でいない間に訪問して、隙だらけの背中を突いた。その後に工作した。

死因が他殺なのはバレたけど、犯人が私だってことはバレていない。

葬儀での彼は風前の灯火といった感じで、いの一番に寄り添ってやれば頼ってきた。予想通り。

今じゃすっかり信頼され切ってるし、もう少しで次の段階に進めそう。

空いた穴は私で満たした。後は占めたスペースを限界まで広げて、どれだけ私に依存してくれるようになるかが楽しみだ。








A:またキミに会いたいから殺した。



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