ポケットモンスター 朔   作:逸喪 非渡理

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6.烏瓜は迷わない(前)

 

「ふーーむ事情は分かった!次のシンオウ地方行きの船が出るまではウチで保護しよう!

クチバ湾の人間にはワシの方から話を通しておく」

 

 クチバシティに到着してしばらく。

俺達はポケモンだいすきクラブの応接室でヤミカラスの保護を申請していた。

早々に再会を果たしたマチスとエリカは勝手についてきた。

 

 結論から言えば、保護の申し出は簡単に受理してもらうことが出来た。

ここに来るまでにやれバッジ8個集めろだの、パートナーポケモンを使って戦ってはならないだのと、前途多難な旅行きが続いていたため安心のため息を漏らす。

 

「ありがとうございます。それじゃあ後は頼みました」

 

 俺は小柄な老人に礼を言う。

彼こそがポケモンだいすきクラブ会長。

いつもシルクハットを被りタキシードを身にまとい、それに不釣り合いなサングラスを掛けている。

言動に破天荒な部分はあるものの、基本的に数多のポケモンをこよなく愛する好人物として知られている。

 

 本来ならば野生ポケモンの保護のような一般業務は会員が対応するところだが、俺の後ろにジムリーダーが二人控えているのを見た受付が泡を食ったように飛び出して会長に連絡を取ったのだ。

結果会長が直々に俺の対応をしてくれることとなった。

 

「うむ。承った。しかし本当にいいのかね?随分と君に懐いているように見えるが。

旅は道連れ世は情けとも言うのだし、良き出会いと思ってゲットして君のポケモンとするのもアリなのではないのかね?」

 

「まあ、そうなんですけどね……」

 

「ポケモン一匹くらいでなぁに迷ってんだよ?どうせお前今手持ちがダークライしかいねえんだろ?いいじゃねえかゲットしちまったってよぉ」

 

「お前みたいにマルマインを大量捕獲してバズーカの弾代わりに使ってたような奴と一緒にすんな」

 

 横から茶々を入れて来るマチスを一蹴して会長に対して言葉を続ける。

 

「勿論検討はしました。ただ、俺にとって『自分のポケモン』ってのはこれまで共に旅をしてきた6匹以外は考えられません。

それに俺の旅の最終目的地……シロガネ山。そこに普通の野生のポケモンは連れていけない。トレーナーもポケモンも命を落とすリスクが常に付きまとうし、俺がカバーできる保証もないので」

 

「そうか、君はシロガネ山に……。なるほど、そういうことならばこれ以上は言うまいよ。ヤミカラスのことは任せなさい。君の旅が上手くいくことを祈っているよ」

 

 俺の言葉に深く頷いた会長にもう一度礼を言って、応接室を後にした。

 

・・・・・・

 

「カァ!」

 

 ヤミカラスは俺が戻ってきたことに気付くと嬉しそうに近寄ってきた。

さっきよりも元気な様子だ。暗所を好むポケモン用の部屋で面倒を見てもらっていたんだろう。

……俺はこれから、ヤミカラスに酷い言葉を投げかけることになる。

 

 ヤミカラスの元まで寄って目線が合うように膝をつく。

ダークライと違い人の言葉が理解できるわけじゃない。

それでも、確かに言葉が届くように、俺は一言ずつ『別れ』を口にした。

 

「……ヤミカラス。お前とはここまでだ」

 

「カァ?」

 

「お前は間違って船に乗って、別の土地に来てしまったんだよ。

だから、ここの人達に世話をしてもらって時期が来たらまた船に乗って故郷に戻るんだ。

仲間がいないこの土地で、お前は一匹じゃ生きていけない」

 

「カ……カァ」

 

 理解せずとも、気持ちは伝わったのだろう。

ヤミカラスの鳴き声に焦りの色が帯びる。

腹の底に感じる不快感を無視して言葉を続けた。

 

「俺の旅は新しい仲間を見つけるものじゃない。

かつての仲間に許しを請う、贖いの旅路だ。

危険な場所にも行くことになる。そこに昨日今日偶然出会っただけのお前は連れていけない」

 

「カ、カァ!カァ!」

 

「……お前が何でそこまで俺を気に入ってくれたかは分からないが……嬉しかったし、楽しかったよ。短い付き合いだったけど、ありがとう。シンオウに戻っても元気でな。もう間違って船乗るんじゃないぞ」

 

「ガァ!!ガァァ!!」

 

 俺は立ち上がり背を向ける。

会員に「あとはお願いします」と一言告げてその場を後にした。

 

・・・・・・

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「Oh!シンキ臭いデース!お二人とも、すっかり喋らなくなってどーしたんデースか!」

 

「ふふ。私はお二人が静かだったからそれに倣っていたのですよ?」

 

「……俺は別に話すことがないから黙ってただけだ。つうかマチス。

さっきからその胡散臭い話し方は何だよ?現地の言葉知らない陽気な外国人みたいな真似しやがって。お前普通に話せるだろ。てかさっきも話してたよな?」

 

 俺はいい加減気になっていたが敢えて指摘していなかったことを聞く。

クチバ湾で早々にこれだったため内心面食らっていたが聞くに聞けていなかった。

 

「ンー?どういうことでショー?ワタシ、まだ、こっちの言葉不慣れデース!

(おい、ちょっとこっちこい!)」

 

 辺りを窺うように周囲を見渡しながら、

マチスは俺の腕を引っ張り人通りの少ない裏路地へと連れて行った。

筋骨隆々のサングラス男が裏路地に連れ込む様は完全にカツアゲに見える。

ひと目につかない場所まで来ると、マチスは口調を元に戻して話し出した。

 

「こっちも色々あんだよ!……まあ先に説明しとくべきだったぜ。

早ぇ話印象操作だよ。

『クチバシティのマチスさんはカントー地方に慣れようと頑張ってる陽気で気さくな外国人さんなのね』ってな。

そう思われるよう涙ぐましい努力をしてんのさ。口調はその一環だ。

街の人気者で頼れるジムリーダーのマチスさんがこんな乱暴な話し方人前でするわけにゃいかねーのよ」

 

「はぁ……。まあ理由は分かったよ。お前前歴まみれだもんな……」

 

 他にもやり様あったんじゃないかとか、それ維持するの辛くないかとか言いたいことはあったが呑み込む。

まあ本人がいいならいいのだろう。

 

 マチスは元軍人だ。それでいて元『悪の組織』所属の後ろ暗い過去を持つ人間である。

随分と後ろ暗いこともしてきたようだが、大体10年前に組織そのものが一人の少年によって壊滅させられた後に改心……はしていないが、まあ綺麗な経歴と引き換えにカントー地方の治安維持に尽力している。ジムリーダーはその活動の一つだ。

 

 言い換えるならば、トレーナー協会が過去の罪を帳消しにしてでも手元に置きたいほど、ポケモントレーナーとして卓越した存在である、ということだ。

 

 丁度良いタイミングだと俺はもう一つの疑問も口にする。マチスではなく、もう一人の同行者―エリカに向かって。

 

「ついでだから聞くけどよ、エリカお前……なんでここにいる?」

 

 そもそもどうやって俺がカントー地方に来る日を把握してたんだとか、根本的な部分から疑問だ。

 

「まあ、私がお傍にいるの、お嫌でした?それは悲しいです……」

 

「え、あいやそういう訳じゃ」

 

「なにカワイコぶってんだよ!誤魔化そうとすんな、大方お前が手広くやってる仕事関係の人間に探らせたんだろ!!抜け目ねえっていうかよお」

 

 振袖の裾で目元を拭うエリカを見て動揺する俺を意に介さず、マチスがエリカに詰め寄る。

手を顔から離すとエリカは楽しそうにコロコロと笑うのみだった。一滴の涙の痕も無く。

 

 ジムリーダーや四天王、チャンピオンは癖のある人間が多いがエリカはやや突出している。ガキの頃からの知り合いだが、今一つ考えが読めない。悪意がないのは分かっているが……。

 

「失礼しました。少し悪戯が過ぎましたね。お二人の疑問は『サクさんに少しでも早く会いたかったから』で、納得してください」

 

 結局こうして俺の疑問もマチスの指摘も嫋やかに流されてしまうのだった。

 

・・・・・・

 

 三人で路地裏から出る。マチスの口調については『なるべく人通りが少ないところを通るからなるべく素のままで』ということになった。

 

「んで、お前はどうなんだよ?サク」

 

「どうって?」

 

「突然のトレーナー引退表明の上に失踪、帰ってきたと思ったらカントーの人間に宣戦布告。満を持して新顔のヤミカラス連れてご登場かと思えばさっさとお別れだ。

色々ごたついてるみてえだが……俺の疑問はたった一つだよ」

 

 

「ポケモンバトル、やれんのか?俺相手によ」

 

 マチスの纏う空気が変わる。腐れ縁の顔見知り相手に見せるものから、攻撃対象に向けるソレへと。

 

「ガキの頃のお前は良くも悪くも周りが見えちゃいなかった。バケモノみてえなポケモン引き連れてただ相手をねじ伏せてたよなァ。それが大人になって随分色んなものを背負い込むようになったみてえじゃねえか。

良い変化だってんなら俺としてもWelcomeだがよ、それが重りになって温いバトルしかできませんってんなら話が変わるぜ?」

 

「……そう焦るなよ、マチス。長い間引退してた筈なんだが、不思議と勝負勘はもう戻ってるんだ。

きちんと最上の対戦相手になってやる。

その上で俺が勝つ。

お前からすればただの雪辱戦でしかないだろうがな、こっちは仲間に会いに行くって大事な予定が控えてるんだ」

 

 無論俺も負けじと返す。そうだ。いつまでも知り合いとの再会を喜んじゃいられない。

俺はバッジを集めて少しでも早くシロガネ山に行かなきゃならない。

今日中にでもマチスを下して、次の街へ……!

 

「そーかい、んじゃあのヤミカラスどうにかしてきな!」

 

「!……お前」

 

「ったく未練タラタラな顔しやがって見てらんねえよ。

しこりがあるならとっとと解消してこい。

些事に気ィ取られてバトルに集中できないなんて言われたらたまったもんじゃねえ!!」

 

 そう言うが早いかマチスは俺達に背を向け、「ジムで待ってるぜ」と言い残して去っていった。

 

「マチスさん、昔とは別人みたいですね。それにサクさんも。うふふ。

皆さん成長されていて素敵です」

 

「エリカ……」

 

「昔のあなたなら自分の手持ちでないポケモンなんて気にも留めなかったでしょう。

それが今やほんの数時間の付き合いのポケモンとの別れに心を痛めている。

昔と変わらずやっぱりカッコいいです。サクさん」

 

「……昔っていうなら、お前は妙に俺をずっと買ってくれてるよな、エリカ。どうしてだ?」

 

「んー、そうですね。……それはまだ内緒です。シロナさんの方ばかり見ているうちは……ね?」

 

「な……」

 

「ふふ。冗談です。それよりこの後どうされますか?

別にマチスさんの言う通りにしないでこのままジムチャレンジをするのもありだと思いますよ?

ダークライ以外にもポケモンは既にいるようですし」

 

「……よく分かったな。マチスは気付いてなかったぞ」

 

「うふふ。サクさんのこと、ずっと見てますから」

 

 エリカの観察眼に驚く。どこで気づいたんだ。

彼女には再会してからずっと振り回されている。

ふわふわとした振る舞いで忘れそうになるが、彼女もまたジムリーダー(強者)の一席を担うということだ。

 

「……ヤミカラス」

 

 脳裏にヤミカラスの顔がよぎる。

 

 ……何故俺は割り切れない?何故、別れを告げた時気分が悪くなった?

 

 ……簡単な話だ。

 

 俺はもう、俺を想ってくれる存在との縁を絶ちたくないんだ。

 

 問題の多い俺の身を案じてくれたトレーナー達。

カントーに行くまでの期間、立て続けに勝負を申し込まれたのも、俺のブランクで鈍ったポケモンバトルの能力を矯正してくれるためだったのだろう。あれは不器用な激励だった。

 

 かつての仲間たち。別れを告げた時、今日のヤミカラスと同じ顔をしていた。

罪悪感の正体はこれだ。俺はまた、同じことを繰り返そうとしていた。

 

 俺を慕い、再会を誓ってくれたコウキ、ジュン。

彼らに今日の出来事を胸張って語れるだろうか。

 

 ナナカマド博士には今の俺の体たらくを見られたら説教されそうだ。

 

 あとはまあ、大したアレじゃないが……これ以上悲しい顔を見たくない奴が一人いる。

 

 ダメおしに、さっきから足元でゆらゆらする影が『決まったのならさっさと動け』と言わんばかりにせっついてくる。

 

「……いや、少し待っててくれ。エリカ、マチスにもうしばらくしたらジムに行くって伝言頼む。……ジム戦前に、()()()()()()のコンディションを見ておかなきゃな」

 

「まあ!うふふ。分かりましたわ。マチスさんにお伝えしてきます。

サクさんも、ゆっくり準備してからいらしてくださいね」

 

 エリカは上機嫌に去っていった。

その背中をいつまでも見送らず、俺は今来た道を引き返した。

 

・・・・・・

 

「……ヤミカラスがいなくなった?」

 

「は、はい!スタッフが換気の為に窓を開けた瞬間飛び出すように!

長時間の船旅とクチバシティ周辺の強い日差しで弱っていたので、あまり遠くには行けない筈なんですけど……すみません!!」

 

「いや、謝らないでください。ここまで保護してくれてありがとうございます。ヤミカラスは俺が探します」

 

 想定外の事態になった。いや、想像しなければいけなかった。

俺を追いかけるため外に出たのだろう。

自分の選択を後悔する。一緒に行動していれば……!

 

 ポケモンだいすきクラブの施設を飛び出して周囲を見渡す。

目視できる範囲にいる様子はない。

俺がエリカと別れてここまで引き返す際もヤミカラスはいなかった。

クチバ湾からだいすきクラブまではほぼ一本道だ。その道中見かけないとなると……。

 

「街から出たか……!!」

 

 シンオウ地方の船に飛び乗ってカントー地方まで来てしまうようなやつだ。

俺の居場所なんて見当もつけず闇雲に飛び回った可能性が高い。

となると北の6番道路か東の11番道路に飛んで行ったのだろう。

 

 当然道端の草むらや木の陰には野生のポケモンが生息している。

フラフラと飛んでいる弱ったポケモンなど格好の獲物になってしまう。

 

 迷っている時間は無い。即座に行動に移す。

幸い俺には頼れるポケモンが2匹もいる。

ダークライを呼び出し、腰元のモンスターボールを一つ手に取り、宙に放った。

 

・・・・・・

 

『……見つけた。北だ』

 

 街の上空から浮遊していたダークライが俺の影に入り込んで報告してきた。

 

「6番道路か!助かった、ダークライ!

……おーい、お前ももういいぞ!ありがとう、戻れ!」

 

 俺はもう一匹のポケモンもボールに戻してすぐに駆け出した。

 

「……ォォオオオォォォン……」

 

 走り続けてしばらくして、何かの鳴き声が聞こえたと共に、断続的に地面がカタカタと揺れていることに気付く。

遅れて流れる空気がビリビリと激しい振動を伴って後ろに吹き抜けていった。

 

 意味するところは―激しい衝撃波。

 

「急げ……!!」

 

 嫌な予感を抱えながら、走る速度を上げて俺は衝撃波の発信源に向かっていった。

 

・・・・・・

 

「ヤミカラス!大丈夫か!!」

 

「……! ガァ……ァァ……」

 

 そうしてほどなく、俺はヤミカラスを見つけた。

予感は的中し、ヤミカラスは全身がボロボロの状態となっていた。

 

 黒い羽が周囲に散乱し、体の表面には傷が見える。

緩慢な動作を見るに、足と翼を負傷したのだろう。

 

 原因は、ヤミカラスと対面している一匹のポケモンで間違いない。

 

「バッゴォォォォォンン!!!!!」

 

 激しい威嚇に大気が震え、そのうるささに思わず俺は耳を塞いだ。

 

 バクオング。

そうおんポケモン。

大きな口、赤い目の凶悪な面構え、全身から伸びる管状の器官が特徴的なポケモンだ。

特筆すべきはその声量。管から大量の空気を吸い込み放つ大声は地震を起こし隣町まで響くという。

基本的にその能力、見た目相応に凶暴なポケモンだ。

 

「野生のバクオングなんてホウエン地方でもみたこと無いぞ!

……そういや6番道路(ここ)は少数だがゴニョニョが生息してるんだったか?

偶々戦闘が得意なゴニョニョがバトルを重ねて自力で進化した、ってところだな。困ったもんだ……」

 

 俺はバクオングを見据える。向こうは突然の闖入者に警戒を高めながらこちらがどう出るか探っている。

すぐには攻撃してくるようには見えない。今の内だ。

バクオングが攻めてこないうちに、ヤミカラスを回収して離脱する。

追ってくるようならダークライの力で眠ってもらおう。

 

「ヤミカラス、一方的な別れ方をして本当に悪かった!最悪の結果を招くところだった……!逃げるぞ!」

 

 傷ついたヤミカラスを抱きかかえようとする。が、

 

「カァ……!」

 

 ヤミカラスが、翼で俺の手をはねのけた。

……嫌われたか……。当然の報いだ。俺の都合でヤミカラスを振り回してしまった。

拒否されても仕方がない。俺は……。

 

「ガァ!!」

 

 俺の数瞬の迷いを断ち切るように、ヤミカラスは翼をそのまま前に据えた。

指し示す先は―当然、相対しているバクオング。

 

「ガァ」

 

「!!……お前」

 

 一瞬俺に向かってヤミカラスが向けた視線には―僅かの陰りも無かった。

赤い瞳は爛々と輝き、油断なくバクオングを睨みつけている。

 

「まさか、戦って勝とうとしているのか……。遥か格上のポケモンに」

 

 ……俺は、ヤミカラスに別れを告げた時、何と言ったのだったか。

 

『仲間がいないこの土地で、お前は一匹じゃ生きていけない』

 

『危険な場所にも行くことになる。そこに昨日今日偶然出会っただけのお前は連れていけない』

 

「……ハッ。つくづく俺は……」

 

 どうして俺はこう理解が遅いんだ。

自分にはポケモントレーナーとしての才が無いのだと身に沁みる。

ポケモンに伝わらない筈の言葉をヤミカラスが汲み取りこうして戦いに身を投じている中、

俺自身はヤミカラスの思いをまだ受け止め切れていなかった。

 

「自分は独りでも生きていける、戦えるって証明したかったんだな……。

大した奴だよ、お前は!」

 

 俺を慕ってくれるポケモンがここまで勇気を示してくれたんだ。

……それに応えないでどうする!!

 

「ヤミカラス、お前の気持ちはよく分かった。

だがな。実際問題、あのバクオングを倒すのは限りなく不可能だ。

ポケモンとしての種族的な強さ、経験値による戦術、いずれもお前には足りていない」

 

「……カァ」

 

「でもな。それはお前独りで戦ったらの話だ」

 

「……! カァ!」

 

「一緒に戦うトレーナーがいれば、一匹で戦うことになってもそれは独りってわけじゃない」

 

「カァ……カァ!」

 

 目線が合うよう膝をつく。今度伝えるのは別れの言葉なんかじゃない。

 

「……俺の仲間になってくれないか、ヤミカラス。

一緒に戦おう。

そして、俺の歩む旅路に、ついてきて欲しい。きっとお前に相応しいトレーナーになってみせる。

お前も、もっと強くなってくれ。俺達と共に歩めるほどに。……どうだ?」

 

 我ながら下手くそな口説き文句だ。

ヤミカラスの事を想ってるのか自分のエゴを押し付けてるのか途中で分からなくなってしまった。

 

 それでも、

 

「ガ……ガ……ガァ!ガァァ!!」

 

 ちゃんと、思いは届いたらしい。

懐から、当初はかつての仲間に使うためにと用意しておいたモンスターボールを取り出す。

 

 差し出したボールの先端を、ヤミカラスは翼でそっと触れた。

稲妻状の赤い閃光にヤミカラスが包まれ、ボールに吸い込まれる。

中央のボタンが明滅すると共に2.3度ボールが転がった後、捕獲を知らせる軽快な音が鳴った。

 

 

 やったー!

ヤミカラスを つかまえたぞ!

 

 

「バッ……グォォォォン!!!!」

 

 再び空気が震える。

どうやら向こうはこちらを変わらず敵と見定め、追撃を加えることにしたようだ。

 

「ったく。少しは感傷に浸らせろよ。……まあいい。おい、バクオング!

退くなら今だぞ。もうお前に万の一つも勝ち目は無くなった!!

……って聞いちゃいないか」

 

 痺れを切らしたのだろう。俺の言葉などお構いなしにバクオングは突進してくる。

 

「覚悟しろ、バクオング。エゴだと何だと言われても、大切な仲間を傷つけられてこっちも腹が立ってんだ。

見返してやろうぜ。

いけっ!ヤミカラス!」

 

 モンスターボールを投げる。 

再び赤い閃光が迸り、それはやがて形を作り、ヤミカラスとなった。

 

「カァァ!!」

 

 俺が使ったのはただのモンスターボールだ。捕獲時に回復効果のあるヒールボールじゃない。

それでもヤミカラスは見違えるように元気を取り戻した。

 

 ここに、ただのトレーナー一人と野生のポケモン一匹が、一組のパートナーに生まれ変わった。

 

「それじゃあ初陣だ。……全力で行くぞ!!ヤミカラス!!」

 

「カァ!!!」

 

 

続く




ご覧いただきありがとうございました!
そして、投稿が空いている間にUA2100達成です!!
本当にありがとうございます!

次いで謝罪です。第一話の後編が、何故か前編を丸ごとコピペしたものになっていました……。いつからこうなっていたのか分かりませんが、大変申し訳ございませんでした。気を付けます……。意味分からなくて離れていった読者様いるだろうなぁ……(泣)

マチスの設定は漫画の「ポケットモンスターSPECIAL」と、ゲーム版の設定を融合させたものになります。どちらのマチスも大好きなので、いいとこどりをしました。

エリカの描写は中々難しいです。作品によってかなりキャラクターや設定が異なるうえ、掴みどころのないキャラクターなので・・・。

10話投稿して、ようやく次回から戦闘パートになりそうです。
安定したペースでの投稿が中々叶いませんが、頑張りますのでお待ちください。

最後になりますが、よろしければ高評価、お気に入り登録、感想(特に!)お待ちしております。よろしくお願いします。
本当に励みになっています!
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