ポケットモンスター 朔   作:逸喪 非渡理

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カントー編始まります!


5.烏瓜は間違える

 「さっむ……」

 

 思わず息と共に小さな声が漏れ出る。

吹き抜ける海風が長いコートの裾ははためかせた。

 

 シロナ、ナナカマド博士との再会、コウキとジュンとの別れからおよそ1か月。

俺はカントー地方を目指して深夜のフェリーに乗船していた。

 

 コウキとジュンの旅立ちをみて思い立ったが吉日、すぐさまにでも自分もカントーへ!かつての仲間の元へ!……と勇み足になったが、中々に済ませなければならない事前準備が多く、久々の長旅という事もあり、出発が遅くなった。

 

 具体的にはなあなあになってしまったナナカマド博士との再会をシロナも交えて3人で祝したり(説教もされた)、長期間家を空けるかもしれないということで自宅の片付けと整理をしたり。(これはすぐ終わった)

定期的に家に菓子やらコーヒー豆やらを送ってくれる友人達にしばらく家を空けるから送ってこないでくれと連絡をしたり。(ちゃんと生きててくれてよかったと泣かれた)

ポケモントレーナーを辞めるとなった際に旅道具のほとんどを処分してしまっていたため、新たに道具を調達したりといった具合だ。

 

 これだけならばもう少し早くカントー地方に向かえそうなものだが、合間合間に

「お前生きてたんだな!じゃあ飲みに行こうぜ!!あとポケモンバトルしようぜ!!!」(炎四天王)とか、

「死んだと思ってた……。じゃあバトルしよう。え?ジム運営?……まあ何とかなる……」(電気ジムリーダー)とか、

「あなたポケモンがいないって私とのバトルを断ったけれど、考えてみたらダークライはいるじゃない。旅に出る前にやっぱり戦っておきたいわ!そうでしょうガブリアス!」(チャンピオン)とか、俺の近況をシロナ経由で知った連中から方々に呼び出されていたのだ。再会や生存を祝してというよりも積年の恨みを果たすべき相手を見つけただけのように見えるなのはきっと気のせいだろう。そうだよな?

 

 とまあ紆余曲折あって、俺は数年ぶりにシンオウ地方を出て、故郷のカントー地方に帰郷する。

といっても幼い頃に両親は死別、シンオウ地方のカンナギタウンにすぐに移り住んだため、あまり思い出らしい思い出も無いのだが。

 

 旅立ちの前に再びの別れを惜しむシロナとは色々とあったわけだがそれについては多くを語らないでおこう。長くなる。

まあ、数年離れていても互いの気持ちが変わっていなくて安心したな、というところだ。

 正直シンオウ地方に残り続けることも真剣に検討しかけたが、それは再びかつての仲間たちと再会してからでもきっと遅くはない。

 もう一度俺のポケモンになってもらうにせよ、怒りをぶつけられて本当の離別を迎えるにしても、当時のことを謝って一つ踏ん切りをつけたい。それすら俺の一方的なエゴになるとしてもだ。

 

「ガァ~」

 

 そんなわけで俺は今フェリーに揺られカントー地方に向かっている。深夜便にしたのは到着してすぐに活動を始めたかったからだ。

 

 あまり時間はかけたくない。1日でも早くジムチャレンジを終えてシロガネ山に行かなければ。なにせ会わなきゃならない仲間があと()()もいるからな。

 

「頼りにしているぜ……」

 

 腰にそっと手を触れ、そこにある一つのモンスターボールの感触を確かめる。

ジムチャレンジにあたってダークライが使えないという話だったため、カントーに上陸してから新たな仲間を迎えて鍛え上げる、という旅の移動よりも時間がかかりそうなタスクが待ち構えていたわけだが、シンオウ地方を発つ直前にその杞憂は無くなったのだった。

 

 

 早い話、思いがけずかつてのポケモンの内、所在が分かっていなかった一匹と再会できたのだ。

 その上、再び仲間になってもらうことに成功した。これは望外の奇跡だった。

あの時の喜びは筆舌に尽くしがたい。正直この時点で仲間探しの旅はかなりイージーなものになったと確信している。

 

 

「ガァ~ガァ~」

 

 入船して早々部屋に引きこもって寝るなり酒でも飲むなりして時間を潰すなりしようかとも思ったが、久々の旅ということもあり、外の景色でも眺めようかと船のデッキに出た。

 が、夜という事もあり、特に何が見えるというわけでも無かった。

五感で感じ取れるものは精々潮の香りと冷たい頬を撫でる風、打ち寄せる波の音くらいで他には何も……。

 

「ガァァ~~ガァア~」

 

「いやうるせえなさっきから」

 

 流石にスルー出来ない。

どこからか鳴き声のような、というよりまず間違いなくポケモンの鳴き声が聞こえてくる。

 デッキから周囲を見渡すが、真っ黒な海と空のせいでよく分からない。

体も冷えてきたので鳴き声の主探しは諦めて、部屋に戻ろうと踵を返す。

 

「ガァ」

 

 先程よりも近くで声がした。思わず振り返る。

するとデッキの柵を脚でホールドしてこちらを見つめる一匹のポケモンがいた。

 

「海鳥のキャモメやペリッパーの鳴き声には聞こえねえし夜だからまさかとは思ったが……やっぱりヤミカラスか」

 

 ヤミカラス。

くらやみポケモンに分類される、あく・ひこうタイプの鳥ポケモンだ。

 三角帽のように尖った頭部と箒のような尾羽、全身真っ黒な体躯の中で爛々と光る赤目が特徴である。

 初めに生息が確認されたのはカントー地方だったポケモンだが、世間的にはシンオウ地方のポケモンという印象が強い。

というのも、ヤミカラスは群れになって行動する生態を持つのだが、この群れのボスがヤミカラスが進化した姿であるドンカラスであることが多く、そのドンカラスはシンオウ地方での観測が最初で、カントー地方で自然に進化した例が無かったためである。

 

「つってもなんでヤミカラスが海にいるんだ?しかも一匹で。まさか船に止まってたらその間に出発しちまったとか……?」

 

 ヤミカラスは樹上性のポケモンだ。しかも基本群れで行動する。カントーとは違い群れのボスであるドンカラスが自然に生息しているのだからなおさらだ。

そのためヤミカラスがここに一匹でいるというのはシンオウの人間としてはかなり違和感のある光景だった。

 

「ガァ! ガァガァ~♪」

 

 当の本人(本ポケ?)はというと、俺の視線に気付くと嬉しそうに挨拶のような鳴き声をあげ、ニコニコとしている。もし誤って群れから逸れて一匹シンオウ地方からカントー地方への旅を始めてしまったのだとしたら、かなりの緊急事態だと思うんだが……。

 

「って寒……」

 

 体が不随意にブルリと震える。シンオウ地方が寒冷地のためコートを着込んでいるとはいえ、流石に深夜の冷えた海風が体に堪えてきた。いい加減中に入ろう。

 

「あー、それじゃあな。カントーに着いた後そのまま黙って船に乗り続けてたら帰りの便でシンオウに戻れるだろうから、それまで大人しくしとけよ」

 

 言っても伝わらないであろうアドバイスとともに一応ヤミカラスに別れを告げる。

正直仲間もいない土地で群棲のポケモンが一匹生活していけるとは思えない。

同じヤミカラスに出会えたとしても群れの仲間に迎え入れられるかは五分だ。

弱ったところを大型のポケモンに襲われるのが関の山だろう。気の毒とは思うがこれも自然の習わしで、自分のポケモンでもないのに一々面倒を見てるわけにはいかない。

運よく再び群れに戻れることを祈って今度こそデッキを後にした。

 

・・・・・・

 

「……」

 

「ガァ~♪」

 

「……」

 

「ガァガァ?」

 

「……」

 

「あらぁ~、その子、お兄さんのヤミカラスかしら?随分好かれているのね!こんなに人懐っこいヤミカラス初めて見たわ!」

 

「いやちがっ……。……どうも……それじゃあ」

 

「ガァ!」

 

 船内の廊下を歩いて自室の前に着く。カードキーをドアノブ上部の端末に読み込ませて開錠して部屋に入った。

ドアを閉める。部屋のベッドに腰かける。

 

「ガァァ~」

 

 ちらりと横をみればそれが元々自身の定位置であるかのように床頭台の上に止まるヤミカラスがいた。

 

「……追い払うのも忍びなくてなんとなくそのままにしてたけどよ……何なんだ?お前俺のポケモンだっけ?」

 

 俺が船内に戻ろうとすると同時に飛び立ったヤミカラスは平然と俺の横に並んで飛んでいた。初めは野生のポケモンが人を物珍しく思って近づいているだけだと思ったが、当たり前のように俺と一緒に廊下を移動し、しまいには初対面の船の乗客に俺のポケモンだと思われる始末だ。

 出会ってまだ数分だぞ。思わず昔ゲットした自分のポケモンかと勘違いしそうになるほどだ。無論そんな事実はない。

 

「ヤミカラスは人に害意を持つことはあっても知らん人間にすり寄るような生態は無い筈なんだがな……」

 

 元々ヤミカラスは人々からあまり好まれるポケモンではない。単純な話人間に迷惑をかけることが多いポケモンだからだ。

 夜の森で人を惑わせ遭難させる事件は後を絶たず、光物を好み収集する習性があるため宝石類の窃盗なんかも目立つ。

先程の乗客のように、「人のポケモン」であればしつけもなっており、疎ましく見られることは無いが、野生では嫌われる部類のポケモンだ。

 俺がアルセウス(邪神)に過去に飛ばされた時代では『不吉の象徴』なんて呼ばれていたしな。

そんなヤミカラスがなぜ俺にここまで懐いているのか理由が分からない。

敵に襲われているところを助けただとか、餌をやったというわけでもないのに。

 

「……どう思う?」

 

 ベッドから立ち上がり、コートを脱いで部屋着に着替えながら俺は室内の影と一体となっているダークライに訊ねた。このまま部屋にいさせていいものか。

 余りにも長い付き合いの上、ダークライはテレパシーで会話が成立するためパートナーポケモンの枠を超えて良き相談相手、同居人のような存在となっている。

 

『……危険はないだろう。お前次第だ』

 

 影が不自然に揺らめいたところから簡潔な返事が返ってきた。要は好きにしろ、と。

 

「ガ、ガァ!?」

 

 何もないところから突然声がしたように見えているヤミカラスの驚く姿を脇目に、ベッドに寝転んだ。

 

「まあそうだよな……」

 

 ヤミカラス一匹でダークライのいる俺になにかできるとは思えない。

宝石や金属の類も特にないから盗むものも無い。

となれば後は静かにさえしてくれていれば無害だろう。

 

「じゃあ寝る。また明日なダークライ。

ヤミカラス、お前は静かにしててくれよ。うるさくしたら部屋から追い出すからな。ダークライが」

 

 夜も遅く、ほどほどに眠気も募ってきたため眠ることにする。いつまでもヤミカラス相手に夜更かしして明日に響く方が困る。どうせ船に乗っている間の付き合いだ。

 船を降りた後は構っていられない。

 

 野生のポケモンが部屋にいる中でやや無防備とも思うが、電気を消して目を瞑った。

程なくして意識を保てなくなり、俺は眠りに落ちた。

 夜行性のポケモンは環境が暗いほど活動的になるものだが、ヤミカラスは不思議とそれから一度も鳴き声を上げなかった。

姿の見えないダークライが怖かったのだろう。俺の言いつけを素直に守った、とは思えない。

どれだけ人懐っこい姿を見せようが、こいつはあくまで野生のポケモンでしかないのだから……。

 

・・・・・・

 

『~♪』

 

 ポケッチから音楽が流れ出す。

目覚ましのアラーム機能に設定している曲だ。

子供の頃から好きな曲で、当時流行りでどうにか入手した靴がボロボロになるまで旅をした、そんなような歌詞の部分が気に入っている。

アラームとしてはすぐに止めてしまうためイントロ部分しか聞くことは無いが。

 

「んん……」

 

 呻き声を上げながら、ポケッチに手を伸ばして停止させる。

のそのそと起きてふああ、と欠伸をした。

 旅をしていた頃は野宿も多く注意散漫では危険なため、目覚めも良い方だったのだが数年ですっかりなまってしまった。

当時と違い今は金もある為基本宿どまりの生活にはなるだろうが、今後野宿する可能性もある為習慣を戻さなくてはと考えているのだが中々改善されない。

 

 ベッドから起きてカーテンを開ければ朝の光が差し込んでくる。

強い光と目の前の景色に、鈍っていた頭が回り出す。

 

「おお、海が見える」

 

 窓越しにではあるが、昨夜と違って太陽の光を浴びてキラキラと反射する碧い海が視界いっぱいに広がっていた。

 深夜便で朝船に乗る時間は限られていると思ったが、景色のよく見えるグレードの高い部屋にして正解だった。こうして良い一日のスタートを切ることが出来た。

 

「おはようダークライ……とヤミカラス。お前ちゃんと静かにしてたな?偉かったぞ」

 

『……』

 

「ガァ……」

 

 振り返って室内にいるポケモン二匹に声を掛ける。

ダークライはいつもの様子だが、ヤミカラスは昨夜と比べると随分大人しくなった。

夜に活動するポケモンだからな。朝は動きが鈍いのだろう。声にも張りがない。

 ……ゲットしてモンスターボールに入れてやればポケモンにとって良好な環境にはなるが……。

 

 少しばかり罪悪感を募らせながらも、軽率な行為はしないと自分自身に誓う。

縁があったからと言って、軽はずみにゲットするわけにはいかないだろう。

何より、俺のポケモンはダークライを初めとして、ガキの頃から苦楽を共にした6匹だと決めている。

ジムチャレンジで戦ってもらうポケモンも、かつての仲間と再会できたことで事足りている。

 

 このヤミカラスは、俺のポケモンではないんだ。

 

・・・・・・

 

 朝の支度を済ませ、船内の食堂で朝食をとる。船を降りる準備を終えて、港に到着するのを待った。

本を読んだり海を眺めていると、そのうち船内アナウンスが響いた。

 

 『えー、ご乗船いただき、誠にありがとうございます。当船はまもなくクチバ湾に到着いたします。長らくの船旅、お疲れさまでした。忘れ物のないようご注意ください。それでは、良き一日を!』

 

 船が着いたようだ。コートを羽織り帽子を被る。リュックサックを背負って部屋を出た。

 朝になってからは終始大人しくしていたヤミカラスも、到着したことを理解したようでパタパタと羽をばたつかせて後に続いて部屋をあとにした。

 

 船から降りて船着き場を通って外に出る。

シンオウ地方から半日。数年ぶりのカントー地方に、俺は降り立った。到着したのはクチバシティ。カントー地方東部に位置する港町だ。

 

『クチバはオレンジ 夕焼けの色』

 

 ジョウト地方を始めとする複数の地方とカントー地方とを船で繋げる海の玄関口であり、人も物も交流が盛んなために開放的な雰囲気の漂う土地だ。

 街特有のオレンジ色の屋根が並ぶ街並みや、活気のある人々やポケモンの姿は街の陽気さを容易に想像させる。明るい街の雰囲気に俺の気分も否応なしに高まった。

 

「ガァ……」

 

 相も変わらず弱りながらも俺に追走するヤミカラスを横目に見る。

……仕方がない。この街で保護してもらおう。

 

 たった半日とはいえ縁が出来てしまった相手だ。何よりこれ以上つきまとわれても困る。迷惑、というわけではないが俺の旅路に付き合ってもらおう理由も無い。

 幸いこの街には分け隔てなくポケモンを愛し、保護活動にも精を出している組織であるポケモンだいすきクラブの本部がある。

街について早々にジムチャレンジを、と思っていたがそうとなればまずは……。

 

 自分の行動タスクの順序を考えながら港を出ると、

 

「Hey!!」

「ごきげんよう」

 

 1組の男女が俺を待ち構えていた。

 

「サク!いつになったら来るのかと、ズイブン待ちくたびれマシタ!

クチバCityへヨウコソ!!ジムリーダー マチス!!

いつでも準備OK!!

すぐにでもPokemon Battle!しまショウ!!!」

 

 男は緑のタンクトップに迷彩柄のズボンを履き、陽光を浴びてギラギラと光る尖った金髪をしている。筋骨隆々であり、ひと目で肉体能力に優れた人間だという事が分かる。

陽気な片言の口調とは裏腹に、黒いサングラスの奥にある目は半ば睨みつけるようにこちらを見据えていた。

 

「まあ、マチスさんったら。少し落ち着いてください。こんなにいいお天気なんです。ジムチャレンジは後回しにして、ゆっくりお茶でもしましょうよ。

……サクさん。お久しぶりです。ずっと、ずっと連絡もなくて、寂しかったんですよ?

でもこうしてまたお会いできて、私とても嬉しく思います」

 

 女の方は黄色を基調とした着物を身に纏い、赤いカチューシャを顎元までの短髪に付けている。着物の雅さと、当人の佇まいもあり、「はんなり」という言葉が似合う姿だった。

彼女はこちらを愛おしそうに見つめている。

 

「エ、エリカサン!ひどい話デース!ワタシ、この日ずっと楽しみにしてたんですヨ?

(おいテメェ、何呑気なこと言ってやがる!?こいつは俺達に喧嘩売ってきやがったんだぞ!戦う気がねえなら帰りな!つかなんでいるんだよお前!?)」

 

「うふふ。私は素のマチスさんの方が好きですよ?」

 

 なんともアンバランスな取り合わせの二人だが、明確な共通点を持つ。両者とも、卓越した能力を持つポケモントレーナーであるということだ。

 

「……久しぶりだなあ二人とも。無駄に元気そうでよかったぜ。ちゃんとリーグ委員長は経由で俺からの宣言も届いてたようで安心したわ。

そんじゃさっさとジムバッチ貰っていくが悪く思うなよ?マチス、エリカ……!」

 

 クチバシティジムリーダー、電気ポケモン使いのマチス。タマムシシティジムリーダー、草ポケモン使いのエリカ。

 俺がかつての仲間と出会うために乗り越えなければならない8つの壁のうちの2人が自ら姿を見せていたのだった。

 

「ガァ……」

 

 あ、そうだったまずはポケモンだいすきクラブに行かないと……。

カントー地方の第一歩目はなんともイベントに富んだものになった。

 




ご覧くださりありがとうございました!
投稿期間が空いてしまってすみません!
また週一投稿を再開する予定です。

投稿していない間にUAが1800を突破していました!大感謝です!

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