あ! やせいの
バクオングが とびだしてきた!
ゆけっ! ヤミカラス!
状況を整理しよう。
戦う相手は野生のバクオング。
声による音技を得意とする凶暴な性質を持つポケモンであり、自力で2段階の進化を果たしたところから見ても好戦的であることが伺える。
シロガネ山にいる
対してこちらは先程ゲットしたばかりのヤミカラス。
長旅と日中の活動によるステータスの低下、バクオングに受けたダメージで翼と足を負傷し機動力が大幅に削がれている。
飛行は愚か走ることも困難だろう。
俺はポケモン図鑑を素早く操作して、ゲットしたヤミカラスの状態を確認する。
ポケモン図鑑。
古くはオーキド博士が開発した代物で捕獲したポケモンの情報が色々と分かる。
俺の図鑑は子供の頃ナナカマドに貰った古いものだ。
最新型のデバイスにもなると、その場にいないポケモンを呼び出すこともできるらしい。
科学の力ってすげー。
尤も今はヤミカラスが使える『技』がどれだけあるかさえ分かれば十分だ。
……覚えてる技は2つ、か。
貧弱であると言わざるを得ない。
まあ勝てないな。順当に行けば。
実際俺が駆けつけるまでの間にヤミカラスはこうして大ダメージを負っている。
総括すると、あまねく要素がこの戦いの分の悪さを告げている。
だがそれでも―勝つ。
逃げることもできる。ダークライ達に代わりに戦ってもらうこともできる。
だが俺は、あくまで自らの手で強さを示そうとしたヤミカラスの気持ちに報いてやりたい。
その為なら、あらゆる手を用いて支援しよう。
世界中で嫌われたトレーナーの手腕、存分に振るってやる。
・・・・・・
疲弊したヤミカラスに向かって突進してくるバクオング。
この判断をバクオングが下した時点で奴のバトルセンスは粗方見切った。
……この戦い、考えうる最悪の展開はバクオングに音波攻撃をされ続けることだった。
俺にも影響が出るうえに回避不可能で、ヤミカラスが確実にダメージを負うことになるからだ。
だが結果的にバクオングが選んだ行動は、突進移動によるヤミカラスへの接近。
大方どれだけ攻撃しても倒れないヤミカラスに怒り心頭で、直接手を下さなければ気が済まなかったといったところだろう。
もしくは格下と判断した相手に自分のメインウェポンをこれ以上使う必要ないと驕ったか。
いずれにせよ、その選択は誤りという他ない。
体が重く足の遅いバクオングが大きく移動するということは、接近するまでの時間の猶予を相手に与えてしまう。
ポケモンバトルは命のやり取りだ。戦いだ。
ゲームのように行儀良く順番を守って交互に1回ずつ動く訳じゃない。
お前が愚かにも与えてくれた時間、存分に利用させてもらうとしよう。
「ヤミカラス!!これと…これを食え!それからこれも受け取れ!!」
俺は木の実、カプセル錠、小型のディスクをヤミカラスに放る。
ヤミカラスは緩慢な動作ながらも何とかそれらを全て受け取った。
「俺の指示をよく聞くんだ!
まず、何がなんでも攻撃をよけろ!!」
「ガア!!!」
ヤミカラスが勇ましく声をあげる。
「バゴオオオ!!!」
自身の間合いに入ったと判断したバクオングが巨大なその口を大きく開き、ヤミカラス目掛けて飛びついた。
バクオングの技、『かみくだく』。
まともに喰らえばひとたまりもない。
「ガァァ!」
が、ヤミカラスはどうにか身を捻って回避した。
ガチィンッ!!と上下の牙がぶつかり合う音が響く。
バクオングが驚きの表情を浮かべた。
ここまで一方的になぶってきた格下相手にかわされるとは思いもしなかったのだろう。
無論、からくりがある。
俺がヤミカラスに配った3つの道具のうち2つ。
それが『オボンのみ』と、『スピーダー』だ。
木の実であるオボンのみは食べれば体力が回復する。
外傷までは治らないが、食べて即座に効果が出るため一時凌ぎには有用だ。
スピーダーはポケモンの素早さを短時間上昇させる戦闘用の薬。
攻撃回避のための道具ではないのだが、傷ついたヤミカラスの機動力を補助できるため使用した。
技を避けられるかは賭けでしかなかったが、ヤミカラスは見事応えてくれた。
「次だ!ヤミカラス、飛べ!」
ヤミカラスが即座に飛び上がり滞空する。
こうなるとかみくだくはもう届かない。
バクオングの技を一つ封じることができた。
「グォン……!!」
バクオングは次にどう動くべきか考える。
先程までは何故ヤミカラスにダメージを与えられたのかを思い出した。
「バゴオオオ!!!」
バクオングが体表の管から空気の吸収を始めた。
音技を使う気だろう。
バクオングの性格的にありそうなのは『エコーボイス』、『さわぐ』、『ハイパーボイス』辺りか。
手も口も届かないなら音で攻撃するというのは、放つ
バクオングは両方とも選択を間違えた。
「今だ!!ヤミカラス、『つつく』!」
バクオングが技の発動に必要なだけの空気を吸収しきる前にヤミカラスに指示を出す。
滞空するヤミカラスは突進した。
グサッ、とヤミカラスの鋭いクチバシが突き刺さる。
「バ、バゴオォン!?」
ヤミカラスの攻撃にバクオングは技を強制的に中断されて後ずさりした。
戦闘経験値が低く、弱ったヤミカラスの攻撃など、与えたダメージは大したものじゃない。
しかしバクオングの動きは停止した。
自分より弱いはずの生き物から攻撃を正面からもろに食らったことに理解が追いつかないからだ。
この驚き、怒り、焦りが体を縛り付け、次の動きに迷いが生まれる。
対してヤミカラスは俺の指示で『次』に移ることができる。
「ヤミカラス!そのまま『どろかけ』!!」
バクオングに接近しているヤミカラスは脚で土を掴み、バクオングの目に向かって投げつけた。
「ゴオオオン!」
バクオングは距離が近すぎて避けきれず、その目元はべたりとした泥に覆われた。
急いで手で拭って落とそうとするが、完全に視界は塞がれ、これで攻撃する余裕はなくなる。
これが第二の刃、『技マシン』。
俺がヤミカラスに与えた3つ目の道具だ。
ディスクに記録されたデータを読み取ることで、ポケモンは新たな技を習得できる。
こうしてヤミカラスは新たな攻撃手段を得た。
無論わざマシンの中には高い威力の技を覚えられるものもある。
が、それらは習得に時間がかかったり、「やり方」が分かるだけで実戦に足るものには簡単にできなかったりとリスクが伴う。
そのため戦闘中にでも使えそうな技をチョイスした。
「ヤミカラス、バクオングの背後で静かにタイミングを待て」
息付く間もなく次の指示をヤミカラスに出す。
先程までとは少し毛色が違うものだ。
音を立てずに後ろに回り込んだヤミカラスはそのまま待機した。
「グ……グオ……!」
ようやくバクオングが泥を拭いとり、回復した視力で正面を睨む。が、そこに映る景色に敵はいない。
「バ……!?グォ……?」
困惑のまま左右を見渡す。空を見上げる。
バクオングの思考が手に取るように分かる。
何故追撃してこない?
前にも上にもいないのなら……!
バクオングがハッと後ろを振り向く。
この瞬間を待っていた。
「今だ!『おどろかす』!!」
「ガアアアアッッ!!!!」
超至近距離、眼前に突如現れたヤミカラスが叫ぶ。
張り詰めた緊張がピークに達した瞬間に不意打ちで喰らうそれは、絶大な効果を生んだ。
「バ、バゴオオオ!?」
まさか大声を武器に持つ自分が、声で驚かされる日が来るとは夢にも思っていなかっただろう。
完全に動きが停止した。
『ひるみ』状態だ。
上手くいった。
ヤミカラスの持つ技が『つつく』と『おどろかす』の2つだった時点で後押しが必要だと考えて覚えさせた『どろかけ』。
淀みなくヤミカラスが俺の指示に対応できたのはスピーダーで底上げした速度あってのもの。
即興で立てた戦術だったが、中々悪くなかっただろう。
さあ、仕上げだ。
これから行うのはヤミカラスが覚えていない技の発動。
できないことを戦術に組み込むなど無謀もいいところだが、指示に対応し続けたヤミカラスに俺は賭ける。
「ヤミカラス、これで最後だ!もっと、もっと高く飛べ!!」
「カァァ!」
より高みに向かって羽ばたくヤミカラス。
苦手であるはずの太陽の光を弱った体で浴びるも、その動きに陰りは見えない。
十分な高度を稼ぐことができた。
「グ……グ……バグォォォング!!!!」
怯みが解け、ようやく行動に移るバクオング。
ヤミカラスを蹂躙できる獲物ではなく、ようやく『脅威』と捉え、本気で技を放とうとする。
……もう、手遅れだが。
「これで終わりだ!決めろヤミカラス!!
『つばさでうつ』!!!」
「カァァアア……!!」
ヤミカラスは太陽を背に浴び巨大な影と共に急降下する。
力を漲らせ張り詰めた翼が輝き―バクオングの顔面を強かに打ち抜いた。
「バ……グォォォ……ン」
ひっくり返るバクオング。
ヤミカラスに滞空を指示して警戒を解かず注視したが……動く様子はない。これは……
やせいの バクオング は たおれた!
俺達の勝利だ。
・・・・・・
「ふうう……」
詰めていた息を全て吐き出す。
それなりに修羅場は潜ってきたが、初めて味わう緊張だった。
まさか戦闘経験が無いポケモンと戦う事がここまで神経を張るものだとは。
俺が読み違えれば、ヤミカラスが指示通り行動できなければ、バクオングがの立ち回りがもっと慎重であれば……結果は変わっていたかもしれない。
ともあれ、この勝利で俺もヤミカラスも大きな経験を積むことができた。新たな技まで習得できたしな。レベルアップした、とも言えるだろう。
……このヤミカラス、初めはアホな野生のはぐれポケモンだと思っていたが、格上のポケモン相手に即興で大立ち回りした上に戦闘中に新技まで習得したんだよな。
俺が指示したとはいえ。ひょっとすると、将来はかなりのものになるかもしれない。
時折ふらつきながらも、どうにか俺の元に帰ってきたヤミカラスを見てそんなことを考えた。
……いくらなんでも先を見据えすぎか。
我ながら僅かな時間で絆されてしまったな。
今はただ労おう。自分の力で戦っていけることを証明した1匹のポケモンを。
「お疲れ様。よくやったな、ヤミカラス。お前は強いよ。改めて、これからよろしくな!」
「……カァ!」
最後に一声あげて、ヤミカラスが俺の胸元に飛び込む。
抱き止めた時には既に気を失っていた。
先の戦いで一撃も負ってないとはいえ、精神的には限界だったんだろう。よくやってくれた。
「戻れ、ヤミカラス」
俺はボールにヤミカラスをしまう。
早く治療した方がいい。
キズぐすりは当然持っているが、半端に回復させるよりもクチバシティにすぐ戻ってポケモンセンターに連れて行こう。
道を引き返し、クチバに戻る。
歩き出したその時、背中に気配を感じ取った。
「……もうやめとけ。勝負はついただろ。
お前の負けだ」
「バクォ……グォン……!!」
「プライドを砕かれたのは分かるが、これ以上抗えば余計に恥を掻くことになるぞ」
「バグォォォング!!」
「これが最後通告だ。退け、バクオング。
俺達に戦う意思はない」
返事は聞こえない。空気を吸収するのに集中し始めたからだろう。
俺も歩みは止めない。止める必要がない。
……多少珍しい成長を果たしたからといって
勝てる勝てないというのはあくまでヤミカラスが戦う場合の話。
「教えてやれ、強さってものを。
ダークライ、『ダークホール』。
……醒めない悪夢をみるといい」
・・・・・・
「ねえ……なにか変じゃない?」
「変って?それよりポケモン探せよ。せっかくクチバジム挑戦するためのポケモンゲットしに来たのに全然いねーじゃん」
「だから、それがおかしいのよ!
静かすぎるわこの道路。野生のポケモンが一匹もいないなんて普通ありえない!」
「確かに。んーでも……ビミョーに気配は感じるよな。隠れてるんじゃね?」
「……何からよ?」
「んー何だろ……。あっ、この辺ナワバリにしてる危ないポケモンいなかったっけ?そいつにじゃねーか?」
「それって近隣の街から遭遇注意報出てるバクオングのこと?……多分違う。
それなら手下のゴニョニョは隠れる必要が無いから見かけるはずだし、肝心のバクオング自体活動してる様子はみえない」
「じゃー何にだよ?」
「……当たって欲しくない想像だけれど、何かいるのかもしれない、この辺りに。
いや。いた、の方が正しいかな。ポケモン達が怯えて隠れるような
バクオングもソレに恐れて隠れたか、もしくは既にやられたのかもしれない」
「こ、怖いなこというなよ!
……仮にいたとしたら、バケモンじゃねえかそんなの!」
「ええ、正しく化け物よ……。
野生のポケモンが戻って来ないってことは自分たちの姿を見せるのがまだ不安なのよ。
それほどまでに恐怖を振りまくなんて、そんなの普通のポケモンじゃ有り得ない。
……まさか、神話に語られるような伝説・幻のポケモンがこの近くに……!?」
「や、ヤバすぎんだろ……。お、俺帰る!」
「え?ちょ、ちょっと待ってよわたしも帰る!置いてかないでよ!!」
・・・・・・
これは、1匹のポケモンの夢の話。
彼は孤独だった。
同じ森に住む、同じ姿をしたものは居ても、決して仲間じゃなかった。
彼は孤独だった。
親の顔を知らず、餌をとるのも、空を飛ぶのも、やり方は自力で覚えた。でないと死ぬから。
彼は孤独だった。
自分と同じ姿のものが好んで集める宝石に関心が無かった。集めようともしなかった。
孤独な彼が好きだったのは黒い大きな水溜まりと、その上を時折滑ってやって来る光る鉄の塊だった。
水溜まりの果ては見えず、たくさんの生き物を乗せた塊は、果ての更に向こうへ消えていくからだ。
あれはどこへ行くのだろう。
自分は死ぬまでここにいるのだろうか。
不安と興味が同時に湧いた時、既に森を、群れを飛び出していた。
初めは楽しかった。
見るもの全てが新鮮で、鮮やかで、自分は未来に踏み出したのだと確信していた。
その後は退屈でしかなかった。
塊に乗る生き物は、自分を見ると森の奴らと同じ顔をしていたからだ。
「なんだあいつは」「近寄るな」「あっちに行け」
結局、どこに行っても自分は独りだ。
来た道を引き返すか迷ったが、故郷の森は既に見えなくなっていた。
闇雲に飛んだ。
闇雲に哭いた。
どれだけ時間が経ったか、いつの間にか塊の上に立つ生き物がいた。
「いやうるせえなさっきから」
どうやら自分の声を聞きつけて来たらしい。
「海鳥のキャモメやペリッパーの鳴き声には聞こえねえし夜だからまさかとは思ったが……やっぱりヤミカラスか」
咄嗟に顔を見つめてしまった。
また、あの表情かと。
「つってもなんでヤミカラスが海にいるんだ?しかも一匹で。まさか船に止まってたらその間に出発しちまったとか……?」
彼は、少し違った。
追い立てられることもない。攻撃もしてこない。彼もまた、不思議そうにこちらを見つめてきた。
視線がぶつかる。
初めて、他者の目をまじまじと見た。
それは―宝石だった。
翡翠色に輝く二つの宝石。
剛く、鋭く、それでいて傷ついていた。
夜の闇と僅かな灯りの下でみたそれは、強い光を放ちながら、昏い闇を含んでいた。
堪らなく惹かれた。
その感情は劇薬の如く全身を巡り、気づけば初めて出す声音で鳴き声を上げていた。
森で宝石を集めていた奴らの気持ちが少し理解できた瞬間だった。
―決めた。彼についていこう。
少なくとも今この瞬間拒絶されることはないはずだ。
彼を知りたい。彼について行った先、自分に何があるのかも知りたい。
「あー、それじゃあな。カントーに着いた後そのまま黙って船に乗り続けてたら帰りの便でシンオウに戻れるだろうから、それまで大人しくしとけよ」
彼が背を向けて歩き出した。
収まらない興奮で何も聞いていなかったが別に構わない。
時間は沢山ある。
彼の後を追い翼をバタバタと動かした。
「ガァ〜♪」
慕う主人の名を知るのはもう少し先になる。
・・・・・・
「……てなわけで、ジム戦は明日になりそうだ。
俺もポケセンに一泊して朝一番でジムに向かう。
マチスには悪いって言っといてくれ、エリカ」
「わかりました。確かにお伝えします。
ヤミカラスさん、見つかって安心しました。ゆっくり休んでくださいね。
それと……マチスさんにではなく、私に連絡してくれたこと、嬉しく思いますわ」
「まあアイツの連絡先知らないしな。
……あれなんでお前の番号知ってるんだ?
交換した覚えないのにリストにあったんだよな。
理由分かるか?」
「うふふ」
「いやうふふって」
「ところでポケモンセンターにお泊まりされるとの事でしたけれど……」
「おい」
「サクさんのお部屋で私も泊まってよろしいですか?今夜寝る場所がないのです」
「よろしくねえよ。別な部屋取るかタマムシ帰れよ……」
「うふふ」
「いやうふふって」
最後までご覧いただきありがとうございました!
UA2300突破、感謝です!
10回目の投稿にして初のポケモンバトルを書いたのですが、いかがでしたでしょうか?
楽しんで頂けたら幸いです。
私はこの話を書いている間何度もバクオングの事を調べていたのでいつの間にかバクオング好きになってました。色厳選しようかな……。
道具の使用描写や技の習得タイミング等についてはオリジナルです。
作品の形態によって様々ですので、リアリティ(?)がありそうな感じに書いてみました。
アニポケだとそもそも技マシンとかスピーダーは存在しないっぽいですからね。
次回はジム戦になります。不定期投稿ですがお待ちください。
感想もお待ちしております!