ポケットモンスター 朔   作:逸喪 非渡理

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3.鈴蘭をどうかその手に(前)

 土を踏む小気味良い音が足元から聞こえてくる。

 

 フタバタウンを後にしてから一時間が経とうとしていた。

現在は201番道路を半分ほど進んだところ。旅は依然順調で、トラブルもハプニングも起きていない。

コウキとジュン、それにヒコザルとポッチャマが優秀で、飛び出してくるポケモンを次々撃退してくれるからだ。

 

「ビッパだ!サクさん下がって!!いけぇ!ヒコ!!ひっかく攻撃!!」

 

 コウキとヒコザル―ヒコは観察力が高い。

既に周囲への警戒を怠らない癖が身についている。真面目な性格が作用しているようだ。

草むらの揺れる音や足音のような「イレギュラーな気配」に敏感で、指示が的確。

その広い視野はポケモンとのコンビネーションが上達するほど活きてくるだろう。

 

 「んー?何か怪しいぜ!兄ちゃん、オレの後ろに隠れてくれ!!ポッチー!あわ攻撃だー!!」

 

 ジュンとポッチャマ―ポッチは勘がいい。

何か怪しい、何か変、そういった「違和感」を察知するのに長けている。

野生児のジュンらしい。

少々指示雑だが、トレーナーの意図を汲み取って戦えているポッチャマと一緒であれば問題ない。

 

「この辺りのポケモンはもう練習相手にもならないな……」

 

 ちなみに偉そうに分析しているのがムックル(Lv2)やらビッパ(Lv3)が出るたびに、10歳児の背中に隠れるているのが俺―サクのことだ。……情けなさで涙出そう。 

 

 いやこれが正しい振る舞いなんだ。決して俺がビビりだとかそういうわけでは無い。

『草むらを歩くときはポケモンと一緒に』。これは絶対遵守のルールである。

例え大人だろうが、怖いお兄さんだろうが、ポケモンがいないのであれば一人で草むらに入ることは原則許されない。

 

 ―もっとも、おれの場合は少々事情が異なっているが少年達には隠しているものの、ポケモンは連れてはいる。

 

 俺の傍らに影となって潜んでいる相棒、あんこくポケモンの『ダークライ』の力ならば、201番道路はおろか、シンオウ地方、果てはこの世界全ての野生ポケモンが敵にならない。

まあ創世神話の神々とか、巨大隕石とともに地上に落下してきたポケモンと呼ぶかも定かではないナンタラとか、そういった例外は除いて。

 

 ただ、初めての旅立ちをする少年達の冒険を大人が邪魔するのも野暮だ。それにダークライの存在を知った時、二人のこれからにどのような影響を及ぼすかが分からない。ジュンとコウキにも今のところダークライの存在は伏せている。

 

 とはいえ過剰に出し惜しみするつもりもない。緊急事態であれば俺はダークライに指示を出すことを厭わない。事実昨夜は201番道路一帯のポケモン相手にダークライの力を使ったわけだし。

 ……ダークライのほかに()()()()がいれば堂々と草むらを歩けるんだが……。

俺は、バトルを終えた二人に声を掛けた。

 

「いやぁ、頼りっきりになって申し訳ない。

俺も、あーなんだ、ポケモン、持ってたら良かったんだけどなー……」

 

 俺の言葉にジュンとコウキが振り返る。

 

「そんな、全然気にしないでください!おれ達、ずっとこうしてポケモンバトルをするのが夢だったんです!それに、人を守りながら戦うのっていい練習になります!」

 

「そうだぜ兄ちゃん!兄ちゃんは応援しててくれよ!俺とポッチが戦いまくって守りまくるからよー!」

 

 ……良い子だね君らは。

過去の自分達と彼らを重ねてしまうが、二人の方がよほど純真で真っ直ぐだ。

俺は昔からひねくれ者だったからな。

マサゴタウンに着いたら飯でも奢ってやろう。金は結構持っている。……金で解決しようとする大人……。

 

 

・・・・・・

 

 

「ところで、その……」

 

 旅を再開してからしばらくして、コウキが言いづらそうに話しかけてきた。

 

「ん?どうした?」

 

「その、聞くか迷ってたんですけど……サクさんってポケモン持っていないじゃないですか。

でも、子供の時からナナカマド博士と知り合いなんですよね?……それなのに、ポケモン持ってないんだなって」

 

「あ、俺も気になってたぜ……それ」

 

「ああ……そういや話してなかったな」

 

 ジュンも控えめに同調する。

二人の言葉に当然気になるか、と頷く。こちらの様子を窺いながら話すのは俺がポケモンと辛い別れ―喧嘩別れや死別した可能性を考えたからだろう。

 

「どこから喋ったらいいか……。そうだな、まず、俺は想像通り昔はポケモントレーナーだった。だからコウキの予想通り、昔はポケモンを持ってたよ。

トレーナーになったらできるようになることは色々あるが、中でも俺はポケモンリーグ挑戦に熱を上げてた。ジムに挑戦して、バッジを集めて、四天王、チャンピオンと戦って、てな」

 

 コウキもジュンも、口は挟まない。静かに俺の話を聞いている。

201番道路に響くのは俺の声と、足音。それに時折ピュルル、とどこかで鳴くムックルの声だけだ。

 

「だから手持ちになった信頼を寄せるポケモン達とだけ旅をして過ごしてたもんで、ロクにポケモンをゲットしなかったんだよな。ナナカマド博士には随分文句を言われたよ。研究したいからもっとポケモンを送ってほしいのにお前ときたら、ってな」

 

 乾いてきた喉を潤そうと唾を飲みむ。

 

「……で、そのポケモン達がどうしたか、だな。

結論から言っちゃえば、ある時お別れしたんだ。理由はまあ、話すと長くなるからスキップ。

 その後のアイツらの行方は、知ってるのと知らないのがいる。知ってるヤツももう何年も前のことだし、今もそこにいるかは分からない。

……俺のポケモンとの歴史はこんなもんだ。大して面白い話じゃなくて悪かった。

まだ気になる部分もあるかもしれないがこんなもんで勘弁してくれ」

 

 そう言って、俺は言葉を結んだ。

 

 

・・・・・・

 

 

 トレーナーだった過去と、ポケモンとの別れ話をするサクさんは少し元気がなさそうだった。

 

 ナナカマド博士と知り合いで、元リーグ挑戦者、か。

……過去には凄いトレーナーだったんじゃないかな。サクさん。

 

 話を聞けば聞くほどにサクさんに聞きたいことは増えてしまった。

どうしてトレーナーを辞めてしまったのか。どうしてポケモンと別れてしまったのか。

ポケモンリーグ挑戦者としてどこまで行ったのか。四天王、チャンピオンとは戦ったのか。

でもこれ以上は踏み込みすぎのはやりすぎだから自嘲する。

 

 おれがもやもやと考え事をしている横でジュンは一人元気に喋り出す。

 

「そっかー!兄ちゃんポケモン昔持ってたんだなー!見てみたかったぜ!

フタバタウンでもじいちゃんとかばあちゃんはポケモン持ってないよな~。

……あれ?じゃあじいちゃんとかばあちゃんが若いころってポケモンはいなかったのか??」

 

「……ポケモンと人間の歴史は、オーキド博士がポケモンを発見したのが始まりだよね。それまでは発見されていなかった、のかな」

 

「でもよー、それならなんでマミーが小さいときに聞かせてくれた昔話にポケモンが出てくるんだ?

昔からポケモンとトレーナーは一緒だったんじゃないのかよー!」

 

 ジュンの指摘に「いやあれは創作で……」と指摘しようとして、子供の読み聞かせの絵本は、ある程度史実に基づいた話であることに気付く。

であればオーキド博士がポケモンを発見した後に、人とポケモンの歴史が生まれたというのはおかしなことになる。

 

「あ、あれ……?確かに……」

 

「やっぱおかしいだろー!?」

 

 ジュンが思いがけないことを言うもんだから頭がこんらんしてきた。

うんうん唸ってたら、静かにおれ達のやり取りを聞いていたサクさんが口を開いた。

 

「面白いことを気にするな?

『オーキド博士がポケモンを発見するより前から、ポケモンと人間は共存関係にあったのか』。

アンサーは、恐らくYES、だ。

過去の文献やら記録によれば、ポケモンと同じ家で暮らしたり、色んな目的で使役することは昔からあったみたいだぞ」

 

 おれ達の疑問に答えてくれたニット帽の上から頭を掻きながら、煮え切らない表情で話を続ける。

 

「尤も、コウキの言う通りそれでもポケモンとの共存共栄の歴史はオーキド博士の発見以降が始まりってことになってるけどな。その辺りは世界中の大学やら研究機関が目下研究中の分野だよ。今日明日で答えが分かるわけもんじゃないから考えるだけ損ってもんさ。

全ての真実を知るのはアル……じゃなかった、シンオウ神話に出てくる創世神くらいのもんだろ」

 

 

・・・・・・

 

 

 ……いつの間にか教師の真似事をしてしまった。こんな考古学の話なんて退屈じゃないのか?と少し心配になったのだが―

 

 

 目を輝かせていた。それはもうキラキラとさせていた。

 

「スッゲー!そんな話初めて聞いたぜ!兄ちゃんめちゃめちゃ詳しいんだな!!

じゃあさ、昔からポケモンバトルもあったのか!?あとさあとさ!」

 

 とか、

 

「サクさんって本当に何者……?

そ、それなら質問です!昔テレビでやっていた『シンオウ都市伝説』で、シンオウ地方では最初にポケモンが発見されたカントー地方よりも、長いポケモンとの歴史があるかもしれない、って紹介されていたんですが、あれは本当なんですか!?そ、それから……」

 

 だの、想像の遥か上をいく食いつきっぷりだった。

オレが先に質問したんだぞー、いやおれの質問を先に、とかなんとか、両端からやあやあとする声につい口を緩めた。

 

 ……片道限りの旅路だが、思いがけず随分楽しい思いをさせてもらうことになった。何度目か分からない感謝を彼らに心の奥で告げる。

それでは、と。わずかばかり軽くなった口で語り出す。 

 

「そしたらやっぱりオーキド博士がポケモンをポケモンとして区別したところから話すか?歴史は数十年前にさかのぼるんだ―」

 

 サクの講義が終わる頃には町が徐々に姿を見せようとしていた。

 

 

 ―――

 

「うおおー!マサゴタウン着いたぞー!!」

 

「着いた……!初めて、自分とポケモンの力で次の町に……!!」

 

 マサゴタウン。

『うみにつながる すなのまち』

 

 フタバタウンの隣町で、南下して219番道路を経由すれば220番水道に出る小さな町だ。

反対に北上すれば202番道路があり、そこを越えればシンオウ一の大都市、コトブキシティに辿り着く。

 

 町そのものに特色はないものの、利便性の高さで住人からは好まれている。

また、町の名所としてナナカマド研究所が存在する。トレーナーの親に連れられて子供がはじまりのポケモンをもらいに来ようとするなど、ある種新米トレーナーにとっての聖地である。

 

 そんな町に、コウキとジュン、そしてサクは辿り着いた。

時刻は正午を回ったところ。コウキとジュンは達成感からかポケモンを労った後喜びを分かち合ったりしている。

 

 首だけ後ろを向いて近くの木陰に口の形だけで『ありがとう』と伝えた。

何の変哲もない木陰が、その変化に見慣れていなければ分からない程度に揺らめく。

今のは『浮かれるてるな』と『どういたしまして』が半々ってところかな。

 

 正面を向き直して、マサゴタウンをゆっくりと見渡す。

子供の頃、何度か来た筈だが、正直懐かしさはあまりない。

そんなわけでジュンとコウキと別れる名残惜しさはあれど、長々と町に留まる理由も無いのでさっさとナナカマドに顔を見せて帰ろうと決める。

 

 と、その前に彼らに食事を奢ろうとしていたことを思い出す。

順番としては、昼食の後研究所に行くのが個人的には望ましい。その方がフタバタウンの滞在時間が短く済む。

ジュンとコウキに食べたいものを尋ねようとしたが―

 

「サクさん!早く研究所行きましょう!」

 

「おーい!兄ちゃん何ぼーっとしてんだよー!研究所こっちだぜー!」

 

 既に研究所に向かおうとしていた。

仕方ない、とここは年寄りの説教を甘んじて受け入れることにしよう。

今行くよ、と小走りで彼らのもとに駆け寄った。

その後を影が誰にも気づかれることなく、じわじわと後を追いかける。

 

 ―――

 

 研究所は町からそう遠くない位置にあった。

研究所は外見も大きさもマサゴタウンの民家とほぼ変わらない。その建物が研究所と知れるのは、入り口脇にひっそりと据えられた『ナナカマド研究所』という簡素な碑文のみだ。

 

 ちなみにかつてナナカマドにポケモン研究者になるべく師事していた旧友は若くして優秀な博士になった。故郷のカロス地方で、師匠とは正反対に一番大きな街の一等地に非常に目立つ研究所をこしらえている。

 

 研究所の前では、一人の少女が自分のポケモン―わかばポケモンのナエトルの面倒を見ながらみていた。

 

「あ、あの子……」

 

「この間博士と一緒にいた子だ!」

 

 どうやら子供たちの知り合いのようだ。

騒ぐ声を聞きつけ、少女―ヒカリがナエトルを連れてやってきた。

コウキ達の前に立つヒカリはニコっと快活な笑みを浮かべる。

 

「あ!待ってたよ!こっちに来て!博士が待ってる!

それと、サクさん、ですよね!初めまして、私ヒカリっていいます!

ナナカマド博士の元で、ポケモン研究の助手をさせてもらったり、シンオウに生息するポケモンを捕獲して、研究の手伝いをしています!今日はよろしくお願いします!

それではこちらにどうぞ!」

 

 ヒカリは俺達の返事を待たずして、研究所に向かって歩き出す。

俺達は彼女の後を追って、旅の目的地、ナナカマド研究所に入った。

 

 

・・・・・・

 

 

 研究所は家屋じみた質素な外見と裏腹に、いかにも『研究所』然とした内装をしていた。

壁や床は無機質な白色で、所狭しと用途不明な研究器具が置かれている。

中では複数の職員がせわしなく動き回ったり、何らかの話し合いをしている。どうでもいいがメガネ率が高い。

 

 そして至る所にポケモンがいる。大半は主にシンオウ地方に生息するポケモンで、わずかにジョウト、カントー、ホウエン地方のポケモンが混じっているようだ。

イッシュやパルデアといったその他の地方に生息するポケモンは見られない。物理的に土地が大きく離れているので中々交流が難しいのだろう。

 

 コウキとジュンも興味深そうに研究所を見たいだろうが、ヒカリが止まることなくどんどん先に進んでしまうので、慌てて後を追いかける。

後で見学させてもらうといい。俺が帰った後で。

俺はマイペースにゆっくり歩く。博士に用事があるのはジュンとコウキだ。俺は急ぐ必要もない。

 

 それからしばしふらふらうろうろとポケモンとじゃれていると、別な研究員が申し訳なさそうに俺に声を掛けてきた。

 

「あの……申し訳ございませんが、その……博士がお呼びです。激しくお怒りで……。

コウキ君とジュン君への用事が済んだので、早く来い、と……」

 

 そう告げた後、ペコペコと頭を下げて研究員は逃げるように走っていった。いっそ聞かなかったことにしてこのままお喋りしてやろうかと思ったが、

 

「ああ、博士を待たせちゃ悪いですよ!ささ、行ってください!」と強引に話を切り上げられ、近くにいた研究員達がイトマルを散らすように離れていったため、ため息を一つついて、研究所最奥のフロアに向かった。

 

 

・・・・・・

 

 奥ではしかめっ面をしたナナカマドと、反対にポケモン図鑑を手にしてニヤニヤするコウキとジュンがいた。

 

「お、ポケモン図鑑をもらったのか」

 

「そうなんです!博士にヒコをみせたらおれとヒコの間に絆が生まれている、って言ってもらえて!

シンオウ地方のポケモンを沢山ゲットしてシンオウ図鑑を埋めるミッションをもらいました!」

 

「オレとポッチの間に絆があるってよー!図鑑ももらったから、ジムリーダー挑戦しながらポケモン沢山ゲットしたいぜ!」

 

 わいわいと盛り上がる二人を相手にソカソカソリャヨカタナー、ジャアオレワソロソロカエッカナ―と話しかけていると背中に殺気を感じた。

 

 恐る恐る振り返ると、ナナカマドは、はらぺこもようになったモルペコみたいになっていた。ようするに怒り心頭。ナナカマドがゆっくりと口を開く。

 

「……この期に及んで私を見なかったことにできると思ったか?往生際の悪い!!

一切連絡も寄越さずに!!!何か弁明はあるか!?」

 

 最早何を言ってもかみなりが落ちそうだが、少しでも罪を軽くしようとして、脳をフル回転させる。

スーパーコンピュータ4台分の脳を持つメタグロスもびっくりの演算機能で導き出した返答は……。

 

「えーと……あー……はいはいすいませんでした、みたいなガァ痛ってえ!!……ふざけんなジジイ殺す気か!?」

 

 拳骨が脳天に降ってきた。目の前に火花が散る。

今日は朝からジュンに鳩尾を攻撃されたりと災難だ。

うずくまりながらもどうにか抗議の声を上げた。

 

「いきなりばかぢからで殴りやがって!周囲から見てちょっと長い間音信不通、生死不明だっただけだろうが!ジュンサーさんに言いつけてやるわニノコッ!!」

 

 今度はデコピンを額の中央に撃ちつけられた。痛みと衝撃でひっくり返る。

仰向けになった俺を覗き込むようにするナナカマドが視界に入る。

ナナカマドの顔面はもう……オコリザルの表情が笑顔に見えてくるほどの形相になっていた。

 

「何が言いつけてやるだバカモンが!!昨日電話で話したときは随分大人になったと感心したが、会うなりなんだその口の利き方は!!コウキとジュン、それにヒカリの教育にも悪い!何より……自分を軽く扱うな!!己が周囲を振り回す存在だということをもっと自覚しろ!!

もう少し殊勝な態度だと思ったのだがな!

ええい、決めたぞ!数年間たまった分の説教をしてやる!!

コウキ!ジュン!お前たちは研究所の見学をするといい!ヒカリ!二人を案内してあげなさい!

私はこの馬鹿者を叱る!!!」

 

「「「はいわかりました!!!」」」

 

 ……脇目も降らずに走り去っていく少年少女を見送る。

俺もそれにあやかろうとそろっと歩き出したがナナカマドに肩を思い切り掴まれた。

 

「逃がさないぞ!サク!!」

 

 そのままずるずると引っ張られ、フロアの執務用デスクまで連れて行かれた。

……分かってるよ。心配と迷惑かけたことくらい。だから会いたくなかったんだ。合わせる顔がないから。

 

 ……俺の両親は俺が産まれて早々に死んだため、俺はカンナギタウンの長老の一家に面倒を見てもらっていた。ただ長老夫婦は共に温厚な性格、というか泰然としすぎていて人の振る舞いや言動をあまり気にするタイプではなかったので、俺を説教するのは、いつもこのジジイだった。俺にとっちゃ父親代わりみたいなところもあったんだ。

そのナナカマドは俺が3歳の頃のエピソードを話している。思い出話に入ると長い。しばらくは解放されなさそうだぞ、と早々に立ち去る当初の計画が脆くも崩れ去ったことを確信した。

 

「あー話の長いじいさんだ……」

 

「というかそのジジィ呼びを止めろ!私はまだ60代だ!!」

 

 

 ・・・・・・

 

 サクさんってあんなに口悪かったんだ……。びっくりした。

 

 ジュンも「サクの兄ちゃんあの話し方はダメだぜー!オレがもしあんな風にパピーとマミーに喋ったら同じように拳骨だなー!!」って言ってるし、ヒカリもうんうん、って頷いてる。

 

「ああいう話し方はしないように気をつけなきゃだね……」

 

「おう!」「うん!」

 

 悪い大人を見て子供たちが良い子になった瞬間だった。

 

 それからサクさんが起こられるのを待つ間、ナナカマド博士に言われた通り研究所を見て回って沢山のポケモンと触れ合った。

 

 研究所のポケモンはしっかりとしつけされていて皆大人しくて、近づいたり触ったりしても嫌な顔一つしなかった。

本来凶暴なポケモンのギャラドスが背中に乗せてくれた時は本当に驚いた。

 

 ……しばらくあちこち見て回っていると、また新しいポケモンがいた。

体の形は……なんて言うんだろう、手足がなくて、地面に触れている体の部分はうねうねしているけど、それ以上に説明できない。体は全体的にピンク色っぽくて、頭には茶色い耳みたいなものが生えている。

 

 初めて見るポケモンだったから、近くにいた研究員さんになんてポケモンか尋ねてみた。

 

「すみません、このポケモンはなんて言うんですか?」

 

 おれの声に気付いた女の研究員さんが近寄ってきてくれて説明してくれた。

 

「この子はトリトドンっていうの。ウミウシポケモンって分類される海辺で生活しているポケモンで、全身軟らかくて再生力がとっても高いのよ。魚ポケモンに体を食べられても数時間したら再生しちゃうんだから!

そして、一番の特徴は何と言っても、育った海の環境で体の色が大きく変わることね。この子は『にしのうみ』で生息していたトリトドンね。反対に、『ひがしのうみ』で見かけるトリトドンは、真っ青で全然違う見た目なのよ。いつか、旅をしている時に見てみてね!」

 

 研究員さんの分かりやすい説明におれもジュンも「「おお~!」」って興奮する。

育った海で姿が変わるなんて初めて聞く特徴のポケモンだ。このトリトドンとも触れ合ってみたい。

 

「教えてくれてありがとうございます!あの、このトリトドンとも遊びたいんですけどいいですか?」

 

 研究員さんの顔が曇る。

 

「うーん……やっぱりそうなるわよね……同じポケモンを愛する者として、ぜひ触れ合ってほしい!っていうのが正直なところなんだけど、この子はちょっと難しいかな。ごめんね……」

 

「あ、謝らないでください!すみません無理言っちゃって……。ちなみに、理由って聞いてもいいですか?」

 

「実は、この研究所のポケモンはほとんどナナカマド研究所で最初のポケモンをもらったトレーナーが旅立って、その道中でゲットしたポケモン達なのよ。ナナカマド研究所への恩返しってことで研究に協力してくれているのね。

だからここの子達は基本的には人のポケモンなのよ。そのトリトドンもそう。

さるお方から一時的に預かっているポケモンなの。

格差をつけるわけじゃないのだけど、扱いがちょっと特別でね……。

だから、万が一にでも何かあれば問題だから遠慮してもらえると、って感じなのよ。ごめんね、ふわっとした説明で……」

 

「あら?わたしは構わないわよ。貴方もいいわよね?トリトドン」

 

「ぽわーおぐちょぐちょ」

 

 研究員さんの謝罪を、凛とした女性の声が止めた。振り返ってその声の主を認識して、思わず声が出た。

俺だけじゃない。横にいたジュンも、ヒカリも声が出た。

 

 「「「ええええーーーー!!!」」」

 

・・・・・・

 

「4歳でポケモンに触れるようになってからはそれはキラキラした目をしてなあ……」

 

 1時間で1歳しか年取ってないんだが……。あと何時間話すつもりだ……。

謝罪ならもうこの際いくらでもするが、思い出話にいつまでも付き合うことはできない。元々コウキとジュンを送り出したらさっさと帰るつもりでいたわけだし。

 

「もう勘弁してくれ……。本当に俺が悪かった、すいませんでした……。とりあえず連絡はちゃんと返す!あと俺はフタバに住んでんだから会おうと思えば会えるだろ!

今度研究所じゃなくて飯でも食いながら話そうぜ!それでいいな!今日は終い、はいじゃあな!!」

 

 一方的に話を打ち切って出口に向かう。

ナナカマドの声が背中に突き刺さるが無視する。

ズカズカと乱暴に歩き研究所の出口に向かおうとしたところで向かいからコウキとジュン、それにヒカリが走って来るのが見えた。手をワタワタと動かして何やら慌てた様子だ。

 

「この子達に案内してもらったの。サク、貴方がここにいると聞いてね」

 

 

慌てる子供たちの間を縫って、女性が俺のもとに歩み寄ってきた。

 

 

「こら逃げるな!まだ話は終わっとらんぞ……ん?」

 

ナナカマドが何か言っているが耳に入ってこない。

 

 

「……何で、お前が、ここにいる」

 

「貴方がいるとナナカマド博士から連絡を受けたからよ。またそうやって私たちの元から去ろうとするの?……昔みたいに」

 

「……じいさんの話が長いから付き合ってられなくなっただけだ。勝手な憶測はやめろ」

 

「あら?わたしからの話はもっと長いわよ?……簡単に逃げられると思わない事ね。

まさかフタバタウンにいたなんて……。アサギのとうだい下暗しだったわ……。

ずっと、ずっと、探していたのよ……!!」

 

「さっきじいさんにも言われたよ。周囲に迷惑かけてたことを自覚しろってな。……本当に悪かった。殴られるでも土下座でも、何でもする」

 

 響くような言葉の応酬。決してポジティブな内容じゃなかったが、共に居た時間の長さが自然とそうさせる。

 

「……そんなこと、するわけないじゃない、バカ。

……会いたかったのよ、サク。元気だった……?」

 

「ぼちぼちだ。……久しぶりだな、シロナ」

 

 彼女はシロナ。シンオウリーグチャンピオンにして考古学者。かつてしのぎを削ったライバルトレーナーであり、共に悪に立ち向かった仲間であり、おれの過去を知る数少ない存在であり、家族同然のように育った幼馴染であり……大切な人、だ。




最後までご覧くださりありがとうございました!

遂にメインヒロイン、登場です!
私はシロナ個人も好きなんですが、強さ、ガブリアスの存在、チャンピオン戦BGMの良さなどトータルで良いなと思うキャラです。
DPPtの頃から強いトレーナーでしたけど、BDDPで最強のNPCになりましたね。
いつか彼女の戦闘描写も書きたいです。

また、今更ではありますが、本作はオリジナル主人公サクの物語ですので、構成の都合上、特定の原作キャラクター、ポケモンよりもサクとそのポケモンが強い、優れている、といった描写が今後出てきます。
全てのキャラクターに対し、愛情とリスペクトを込めて執筆する所存ですが、人によっては好きなトレーナーやポケモンが下げられていると感じるかもしれませんので、苦手な方は避けてくださると幸いです。

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