親父のことが大大大大大好きな100人の母親   作:勇気生命体

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マザコン属性もあった方がお得

 穣太郎はお花の蜜大学附属高等学校に通う元気な高校一年生である。ちなみにクラスは1-4。かつて父が所属していたのと同じクラスだ。

 家族の多くが卒業生であるこの学校に入学したのは、系列の教育機関がたくさんあってお得だと思ったからということもあるが、この高校の制服を着ると母親の多くがやたらほめてくれてさらにお得だと思ったからだ。

 父親に対して微妙な対抗意識を持つ穣太郎だったが、母親に対しては全くひねりなく大大大大大好きだった。

 

 もちろん他の子どもたちもそれは同じだが、このお花の蜜大学附属高等学校に通う子どもは意外と少ない。

 現時点では二十数人。卒業生併せても四十人いかない程度だ。

 

 子どもたちの多くはクラスに何人も兄弟姉妹が居たり、母親に授業を見られるのを嫌がり、違う学校に転入していく。

 それはある種当然の羞恥心であり、裏を返せばお花の蜜大学附属高等学校に通う子どもたちは、それらを気にしないか、気にしているがそれでもこの高校に通いたい理由のある子。

 つまりは奇人度が高めの子なのだ。

 

 同じクラスに所属している弟の克己(かつみ)もやはり奇人だった。

 かわいいからOKという理由で女子の制服を着用しているのはまだしも、教室の一角にすべての生徒へと門戸が開かれているフィッティングルーム、通称ギャルハウスの設営を許可されているのだ。

 

「かーくん」ギャルハウス内で克己──もっぱら彼はかわいく『かーくん』と呼んでと周りに言っている──に爪を塗られながら穣太郎が言った。「爪をかわいくしてくれるのはいいんだけど、昼休みで終わるの、これ?」

「心配しないで終わらせるよー。終わらなくても、出来るだけかーいくしてあげる」

「別にそこまでかわいくしてくれなくてもいいんだけど……」

「穣太郎っちがかーいーとわたしがうれしーんだよ。わがままに付き合ってくれるかい?」

「まぁ爪の色もバリエーションあった方がお得だしね」

「ありがとー」

「まったくさすが強化系。あー子ママより押しが強いね」

「ふっふっふー。自分のかーいーを世界じゅーに広めるのがわたしの夢なのだー。兄弟として協力するがいいわー」

「協力させてもらいますよー」

 

 穣太郎は自分の爪が色とりどりになるところをしばらく見ていたが、ふと気が付いて回りを見渡した。

 

「……ところで今日はダヨのやつ来ないのかね」同じクラスにいるもう一人の弟の名前を出す。「またさぼりか」

「あー……もしかしたら眠っちゃってるのかもー。わたしと同じで朝に弱いからねー」

「あいつのはもっと不真面目な理由でしょ。かーくんの低血圧とは違うよ」

「でもー今日は寝坊しちゃったのかも」

「そうだとしてもお説教だな」

「んー? いつもだったらー出席のタイミングもバラバラのほーがお得だなーって言うのにめずらしーね」

「昨日知見兄ちゃんと咲華里お姉様にちょっとお説教されて、弟力を貯めたから、ダヨに説教することで兄力も貯めたいと思ってるんだ! お兄ちゃんを執行するぞ!」

「マジかーいーね、そーいうとこ」

 

 結局、ダヨは穣太郎の爪がキラキラ──親指から順にローマ数字のⅠからⅤが書かれており、色と数字でお得だ──になっても姿を見せなかった。せっかく次はナディーマミーの国語の授業だというのに、もったいない奴だ。と穣太郎は憤った。

 しかし、ガララと扉が開いて、ナディーの元気な声が響くと、その考えは霧散した。彼女に手を引かれて、ダヨこと愛城太与(たくみ)も教室に入ってきたからだ。

 

「ハローピーポー、ナディー先生のカントリーワードタイム、レディゴーデース! バッドでグループのダヨボーイもレッツゴースクールデース」

「ナディーちゃん、自分で歩くからもう手をつながなくてもいいんだよ? ちょっと俺恥ずかしいかなぁって」

「オー、ダヨボーイ! ノーシャイノーライフ! バッドボーイはグランドマザーにハンドをアッセンブルデース」

「わかった! わかったから! せめてバッドボーイじゃなくて、俺のことはアウトローと呼んでほしいな」

「ア、アイアムはキュートなダヨボーイをビッグサーモン扱いにはできないデース」

「大トロじゃないよ、アウトローだよナディーちゃん……」

「いや、マグロはでかいサーモンじゃないよ」思わず穣太郎は突っ込んだ。

 

 そんなこんなでクラスの兄弟が全員そろった1-4では、今日も楽しく国語の授業に取り組んだのであった。

 もちろん、二十年以上から変わらぬクオリティの似非イングリッシュ国語をである。

 

 少し時間が過ぎて放課後。かつてはお花の蜜大学附属高等学校の放課後といえば、なぜか人が百人以上集まる屋上が有名だったが、あまりのギチギチっぷりに、近隣の理性を残した住民たちからの苦情によって、大人数が屋上に集まることは控えるように校則で決められている。

 その校則もあって恋太郎チルドレンたちは自分のクラスに留まって駄弁るのが常だった。

 

「それで今日はどうして遅刻したんだ?」穣太郎がダヨに言った。

「あーん? なんだそんなこと気にして?」

「今日はおにーちゃんモードでいきたいんだってー」

「ははーん? じゃあ教えてやるよ。今日は」そこで一度言葉を切り、ダヨは頬杖をついて決め顔をした。「遅刻してやろうと思ったんだ。アウトローっぽく」

「だと思ったよ。馬鹿野郎。遅刻のための遅刻じゃねぇか」

「だが舐めるなよ? ちゃんとナディーちゃんの授業には出られるように朝の6時に登校して隠れてたんだ」

「わー早起きしててえらいねー」

「そういうことじゃないよ、かーくん」

「しかもどこに隠れてたと思う? このアウトローたる俺が? 聞いて驚け! 職員室だ!」

「普通に登校してこい。そっちの方が楽だろ」

スクールのロー(校則)すらぶっちぎるこの所業!」

 

 気持ちよくふんぞり返ったダヨだったが顔を穣太郎達に向けなおした時には目に涙が浮かんでいた。

 

「まぁ、昼に百八ちゃんに見つかってめっっっっちゃ怒られたんだけどな。コワカッタ」

「よーしよーし」かーくんがダヨを撫でながら言う。「あとで一緒にごめんなさいしにいこーねー」

「うん」

「まずい! お兄ちゃん力でかーくんに負けている! これじゃ損しちまう!」

「よーしよーし」かーくんは空いた手で穣太郎も撫でた。

 

 二人が落ち着いたところで思い出したかのようにかーくんが穣太郎に質問した。

 

「そーいえばー、穣太郎っちなんか悩みあるって聞いたんだけどー、だいじょーぶそ?」

「ああ、知見兄ちゃんが子どもライン(恋太郎チルドレンだけのライングループだよ)に密告しやがったからな」

「アホな悩みだから協力するなと言っていたな」

「でもー知見っちはちょっとツンデレさんだから、きっと協力してあげてほしいと思ってるよー」

「まぁ、たとえ本気で協力するなと言っていても、そんなルールに従う俺じゃないがな!」

「……協力者は多い方が助かるよ」

 

 穣太郎は自分の悩み、生みの母親誰だろう問題について話した。

 

「……というわけだから、答えを知ってたとしてもいい感じのヒントで出してくれない?」

「ふん! 油断したなぁ! そんなルールに俺が従うとでも思ったかぁ!? アウトローだぜ俺はよぉ!」

「えー、だめだよー。穣太郎っちがお願いしてるんだからー」

「いいんだよ! ……と言いたいところだが、俺も兄弟姉妹の生みの母親など知らん! 俺の生みの母親だって知らんわ! っけ!」

「えーそーなのー?」

「まぁ、俺の圧倒的アウトローさから考えれば、ナディーちゃんや百八ちゃんか紅葉ちゃん、あるいは姫歌ちゃんあたりが濃厚だろうな!」

「いや、お前は知与お母さんの子だろうが、暫定反転系がよぉ」

「あんなガミガミオババのことなど知らん!」

「親父に聞かれたらどやされるぞ、その呼び方……」

「ふ、あ、ああ、あんなモンスター親父など恐れるに足りず! 一騎打ちデハムリダカラ、一緒に戦おうじゃないか穣太郎!」

「巻き込むな……いや、ありか……?」

「だめだよー、喧嘩しちゃー。うーん、わたしはわかるけどー、ごめーん、いー感じにヒントとかはむずかしーな」

「そうか……うん、大丈夫ありがとうかーくん」

「おい、俺への感謝はどうした?」

「なにもしてないだろ」

「何かしなくちゃ感謝されないなんてルールに従うのか?」

「そこがブレたら社会生活の終わりだよ」

「ならいい! では素晴らしい掟破りのアイディアを授けてやるから感謝しな!」

「まぁ、どんなレベルでも助言は多い方がお得かな……」

「なんという期待薄! だが聞け穣太郎! お前は母たちに話を聞きにいけ! そうするべきなのだ!」

「え、で、でも話聞かれちゃってた唐音母さんはまだしも、自分から母さんたちに聞きに行くのは違うかなぁって……」

「ヴァカめ! 恋太郎チルドレン(俺たち)と違って母たちは皆、誰が誰の子どもかわかっているんだぞ? そもそも真実を知らない奴らに話を聞くよりも、遠回しでも母たちから引き出した方が効率的だろうが!」

「そーだねー」

「それに! 母たちは親父と同じ面のお前に甘い! 絶対にそっちの方が効果があるはずだ!」

「ダヨお前、芽衣ママ様の前でも同じこと言えるのか?」

 

 ダヨの喉の奥でヒュッという音がした。かーくんも家族にしかわからないくらいに小さく顔を引きつらせて頬をかく。

 

 愛城芽衣。旧姓、銘戸芽衣は恋太郎チルドレンの間で、最も恐れられている母の一人である。

 彼らの父、恋太郎が高校生だった頃には、芽衣は僅かな例外──母の一人である妹がこの話をするときは殊更この部分を強調する──を除いて全く怒らない奉仕体質のメイドであったらしい。

 しかし、彼女には奉仕対象ではなく、かつ自身の身内であり、指導すべき存在であると認識した場合に限り、とっても厳しい教育メイドになるという性質を持っていた。

 

 そして、恋太郎チルドレンは一人の例外もなくこの対象内である。

 結果として芽衣は、羽々里を筆頭とした甘えれば何でも許してくれる母親組とは一線を画す、恐怖のしつけ母親として恐れられているのだ。

 無作法、いたずら、悪だくみ。そんなものが彼女にバレれば、すさまじい尻たたきが飛んでくるのは間違いない。自分の生みの母親を忘れたなどと言えば、たるんでいると判定され、もっと恐ろしいことになるだろう。

 

「よし、まずは妹ちゃんからいってみよう!」脂汗を流しながらダヨが言った。

「確かに妹ママ様は一番俺に甘いけど……でも、今日はこの時間学校に居ねぇ!」

「まぁ、そんな心配せずともいいんだよ! とにかく手当たり次第にいけ!」

「怒られたらダヨの発案だって言うからな……!」

「はぁ!? そんなんルール違反だろ!」

「なんのルールだ! 第一お前もついてきてくれないのかよ!」

「当たり前だろ! 俺はこれから」ダヨは少しだけ目線を下げた。「職員室に謝りにいくから……」

「ああ……」

「かーくんも一緒に来てくれるよな……?」

「うん。いっしょにごめんなさいしよーね」

「お、俺も一緒に行こうか? 人数は多い方がお得だろ?」

「馬鹿言うな。お前に……ギャン泣きする俺を見せられるわけないだろう?」

「あ、ああ……」

 

 こうしてダヨはかーくんと一緒に去っていった。穣太郎はそれを見送りながら、アウトローとは何かについて、静かに思いを巡らせた。




知見>かーくん>穣太郎>咲華里>ダヨ
身長順です。
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