先生×生徒ガチ勢一般男子生徒   作:妄想厨

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やあ読者(せんゆう) 君たちと同じ性癖を持つ同志の作者だ。
積もる話はあるが、本題に入ろう。

私がこの作品の続きを書いてほしい、という内容に対していただいたコメントの中に「ガバを重ねた作品には責任がとれない」というものがあった。

ンンンンンンンンンンンン! まさに! 正論!

…すまない。少々取り乱していたようだ。

しかし読者(せんゆう)、ここは助け合いの精神で行くとしよう。
このままでは供給不足で私と読者(せんゆう)も共倒れだろう。

この作者の気力は長くはもたないと思ってくれ。




5話 残されたもの

実験体ー■■■9 『────』の神秘 

 

■■■9は現在、週に一度の肉体サンプル採取と『』を行うことで経過を観察しています。

いかなるデータの変化も速やかに記録され、そのデータは実験の進展にとって重要な役割を果たします。

 

■■■9は雲隠 廻(うんぜつ まわる)と名乗る男性タイプのキヴォトス人です。

彼の身体、神秘ともに目立った特質は確認されていません。

しかしながら、第N回目の実験により、彼の精神に異常性が存在することが確認されました。

 

この異常な精神状態は、彼の内に秘められた神秘に影響を与えていると考えられます。以下に示す事象がその一例です。

 

実験第N回目:

 

日時:XX年X月X日 観察者:※

 

実験中、■■■9の保有する神秘が高まると共に、観察者である※が■■■9に意図せず虚偽の報告(既に失われた素材が【】に存在する)を行いました。

 

実験中に異常は確認されませんでしたが、●日後、【】において異常な神秘の揺らぎが確認されました。

 

異常が確認された場所を分析をした結果、存在しないはずの素材が確認されています。

 

この実験はカメラによる映像が残されており、記録は別途資料を閲覧してください。

 

以上の結果から、彼には定期的に誤情報を与え、なおかつ他の変数を見つけるために今後も検証を重ねます。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

とある休日。

今日は何をしようかと考えていると、スマホにポコンッと音が鳴る。

 

どうやら、アビドス生徒会のグループチャットから連絡が来たようだった。

 

『水族館のチケットが当たったんですけど…三人で行きませんか?』

 

送り主は小鳥遊。

何も予定はなく、ちょうど暇していたが、この後の梔子先輩の返信によって俺は用事が入ることになっている。

 

既読を付けずに数分待っていると、再度スマホが音を鳴らす。

 

『ほんとっ!? 行きたい行きたい!』

 

梔子先輩の返信だ。グッとガッツポーズをとる。

アビドスの現状から、梔子先輩と小鳥遊は休日も忙しい。

しかし、今日は都合よく二人の予定が合っていたようだ。

 

俺は安心してチャットを送る。

 

『あー…、俺は参加できそうにないです。

 二人で楽しんできてください!』

 

『えっ、廻くん来れないの…?』

 

『…理由を教えてください。廻の都合で時間を変えられるので』

 

追及してくるのぉ…?

決して馬鹿ではない俺は、前に小鳥遊に言った二人の絡みが見たいからという理由で断れば確実に小鳥遊が家まで押しかけてくることが予測できる。

 

かといって、アビドス復興関連の用事で断れば、優しい二人は水族館ではなく復興を優先するだろう。

 

ならばここは二人の好感度を下げつつ、決して俺の近くに来ようと思わない理由を生み出す!

 

素晴らしい案を思いついた俺は素早く指を動かす。

 

──いやー、ちょっと男のアレがアレでして…。二人に会うと我慢が…

 

と、送信しようとしてあまりの気持ち悪さに送信前に削除した。

 

さ、流石に唐突なセクハラ発言はキツすぎる。

好感度を下げる前にトラウマを二人に植え付けそうで断念した。

 

うーんうーんと頭を悩ませていると、追加でメッセージが受信される。

 

『実は私とユメ先輩はもう合流してます』

 

『散歩中にたまたまホシノちゃんと会ったんだよ~!

 さっきのメッセージは私が率先して行くって言ったら廻くんも来てくれるかなと思って』

 

なんだ、二人は既に準備万端なのか。

それならば適当に今日は一日忙しいと言って断り、残りのチケットは換金でもしてもらおう。

 

安心した中、家のチャイムが鳴らされる。

 

「っと、何か頼んでたっけ」

 

こんな時間に珍しい。

ゆっくりとドアノブに手をかけ、ドアを開けるとそこにはムスッとした顔の梔子先輩と呆れた顔の小鳥遊がいた。

 

無言で扉を閉めようとすると、隙間に小さな手が差し込まれ、思わず手を止める。

 

「…やっぱり、いたじゃないですか」

 

「こ、これから急用がありまして──」

 

「だったら手伝うよ、廻くん。

 今日は私とホシノちゃん、どっちも一日空いてるから、ね?」

 

「本当に用事があれば、ですけど」

 

なぜだ──なぜ俺は今こんなにも気押されている?

先ほどまで二人が仲良く水族館へ行く姿を思い浮かべ、浮かれた心が急激に冷やされていく。

 

固まる俺を見て何を思ったのか、梔子先輩は扉を勢いよく開けた後、ギュッと俺の手を握る。

 

「今日こそは一緒に遊んでもらうよー!

 いっつも廻くんは私とホシノちゃん二人きりにしようとするし…」

 

そう言いながら、にぎにぎと俺の手を握る。

彼女の手は小さく、温かさがじんわりと伝わってくる。

 

「わっ、男の子の手って意外と大きくて固い…」

 

うっすら顔を赤く染め、俺の手に夢中になる梔子先輩。

 

お、おかしい…。

なぜ、先生×生徒の守護者である俺がこんな雑にラブコメ的なイベントに巻き込まれてるんだ?

 

手を振り払うを振り払うわけにもいかず、俺は横にいる小鳥遊に呼びかける。

 

「た、小鳥遊! 生徒会長が異性の手を握っているぞ! これは不純異性交遊だよな!?」

 

「アビドスにそんな校則はありません。

 それより友達からの誘いを無下にするほうがどうかと思いませんか?」

 

「…じ、じゃあこの手を変わってくれるだけでいい!! 今すぐに!」

 

「…それって廻は私と手を握りたいってこと?」

 

「なわけねぇだろうが! お前が! 先輩の! 手を握るんじゃろがい!!」

 

必死に弁明する俺の声が届いていないのか、小鳥遊は梔子先輩が握る手とは逆の手を握る。

小鳥遊の顔は無表情のように見えて、耳はリンゴのように赤く染まっていた。

 

怒涛の展開に置いていかれそうになったが、俺は解釈違いの空間が形成されかけていることに気づき、急いで大声を上げる。

 

「よし分かった! 水族館に行こう! そのためにはまずは着替えないといけないなー! 手を放してもらわないと水族館に行けないなー!」

 

「やった、ホシノちゃん。廻くんも水族館に来てくれるって」

 

「えぇ、それじゃあ早速いきますか」

 

彼女たちは俺を両脇から捕まえて、ゆっくりと引きずり始める。

 

「…え? 待って? 俺は着替えも許されないの?」

 

「どうせ廻のことです。

 さんざん引き延ばして逃げようとするのが目に見えています」

 

「それならこのまま水族館に向かったほうが良いよね!

 私とホシノちゃんは廻くんがついてきてくれて嬉しい。WINーWINだね!」

 

「俺がWINしてませんねぇ! お、おかしい…。こんなの解釈違いだよぉ…! 俺は先生×生徒ガーディアンなのにぃ…!」

 

俺は二人に、問答無用で水族館に連行されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水族館からの帰り。

既に日が西の地平に傾き、三人の影が長く伸びる。

宵闇がすぐそこに迫る時間となっていた。

 

穏やかな時間が流れる中、突如、梔子ユメが二人に語りかける。

 

「そうだ、二人に見てもらいたいものがあったんだ!」

 

鞄から大きなポスターを取り出し、俺と小鳥遊に見えるように広げる。

 

「じゃじゃーん、見て~これ!」

 

「アビドス砂祭り…」

 

小鳥遊がつぶやく。

穏やかな空気に極く微妙な、神経的な不調和が混ざる。

 

「このときはまだオアシスが湖みたいに広がってたんだよねー。

 あっ、これあげる!」

 

梔子先輩が小鳥遊にポスターを手渡し、ニコニコと話し続ける姿を捉えつつ、横目で小鳥遊の表情を見る。

 

──あぁ、これはまずいな。

 

「もし何か奇跡が起きたら、今日行った水族館みたいに人がいっぱい集まって──」

 

「奇跡なんて起こりませんよ」

 

小鳥遊の冷たい言葉が静かな空気に響き、梔子先輩の顔が凍り付く。

小鳥遊が感情的になることはよくあることだが、今日の彼女はいつもと少し異なっていた。

 

…水族館でできるだけ二人から離れようとして観察していた廻には、その理由を少しだけ察していた。

 

「奇跡なんて、あるわけないじゃないですか。

 少しは現実を見てくださいよ」

 

「あ、あぅ…」

 

三人で行った水族館は()()()()()の水族館だ。

自然豊かで、観光客が沢山いて、とても栄えた街だった。

 

水族館がとても充実した時間だったのは、彼女たちの笑顔が証明している。

だが、同時に小鳥遊には思うところがあったのだろう。

 

「今日、水族館が建っている街を見たでしょう?

 綺麗な街並み、意欲的な大人たち、笑顔の学生。

 …砂漠のど真ん中にあるアビドスとは何もかも真逆だったじゃないですか。

 現実、見てくださいよ」

 

「そっ、そうだけどぉ……ごめんね?」

 

すぐに梔子先輩は笑顔を浮かべ、小鳥遊に謝罪する。

しかし、そのすぐに後輩に謝るその姿勢が小鳥遊には腹立たしいものだったのだろう。

 

彼女の怒りを理解できないわけではない。

あの光景を見てもなお、梔子先輩は夢を見ている。

…決して起こることのない、奇跡が起きた先の未来を。

 

苛立った小鳥遊は一歩、二歩と梔子先輩に近づく。

その顔は怒りに染まっていた。

 

「貴女はっ! …貴女はアビドスの生徒会長なんですよ!

 少しはその肩にのった責任を自覚したらどうなんですか──!」

 

小鳥遊が怒りのままにポスターを掴み、破り捨てようとする。

 

「小鳥遊」

 

──その前に小鳥遊の手を、そっと握った。

 

「……なに?」

 

小鳥遊が廻の手を振り払おうとする前に、グッと握りこむ。

怒りに染まっていた瞳には動揺の色が見えた。

 

「少し、落ち着こう」

 

「私は冷静です…!

 ッ、そうですよね、廻もユメ先輩側の人間だった…!

 お前もアビドスの現実なんて何一つ──」

 

「小鳥遊。……落ち着け」

 

三度、言葉を繰り返す。

決して小鳥遊の想いを否定しているわけではないのだと、心に込めて。

そして、言葉の力を信じながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「小鳥遊、お前が怒るのも分かる。

 今日の光景はあまりにも綺麗で…あまりにもアビドスからかけ離れたものだった。

 それでも…言いすぎだ」

 

「なら、根拠もない奇跡を信じるユメ先輩の言葉を信じろっていうんですか!

 そんなの、そんなの私には無理ですよ…」

 

小鳥遊の声が震えた。

その姿を梔子先輩は驚いたように、泣きそうな顔で見つめている。

 

俺は意識的に微笑み、小鳥遊からの視線をそらさずに言う。

 

「いいや、違う」

 

小鳥遊の目は震えている。

俺はその目を捉えつつ、梔子先輩の顔を見つめる。

 

「そして、梔子先輩。

 貴女が小鳥遊に言った言葉も間違っている」

 

「…廻君も、奇跡は起こらないって思ってるってこと?」

 

「そうではありません」

 

深呼吸をして神経を鎮める。

 

「──アビドス砂祭りに、奇跡なんて必要ありません」

 

梔子先輩と小鳥遊が目を見開く。

俺は微笑み、ポスターをそっと手に取った。

 

小鳥遊は一瞬、困惑の表情を浮かべた。

しかし、その表情はすぐに苦々しいものへと変わる。

 

「…じゃあ、なに。

 このままいつも通りに過ごしてたらアビドス砂祭りが開催できるっていうんですか?

 そんなわけ──」

 

俺は首を横に振る。

そして、小鳥遊の目をしっかりと見つめて言う。

 

「明日だ」

 

「…え?」

 

呆ける二人を尻目に続ける。

まるで夢物語のような、未来の話を。

 

「明日、必ず二人が望む理想の光景を見せてみせる」

 

その瞬間、小鳥遊に手を振りほどかれる。

小鳥遊の目に怒りは消え、その表情には悲壮感が漂っていた。

俺が言ったことを信じるわけでもなく、何もできない自分への嘆きを心に抱えながら。

 

「そんなこと、起こるわけない…っ。

 勝手に夢を見せて期待させて──それがどれだけ残酷なことかも分かってない癖に…っ」

 

そう言って小鳥遊は俺を突き飛ばし、そのまま立ち去って行った。

 

完全に姿が見えなくなるその前に、俺は小さくなった背中に声をかける。

 

「──小鳥遊。また明日、生徒会室で」

 

小鳥遊は振り返らなかった。

だが、それでも俺はしばらくその背中を見つめた後、振り返る。

 

そこには悲しげに苦笑をもらしたまま立ち尽くす梔子先輩と目があった。

 

「あ、あはは。ごめんね、廻くん。

 私のせいでせっかくの楽しい思い出がこんなことに…」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

気まずそうな顔で笑う先輩に対し、俺は再び笑みを返した。

こんな雰囲気になった後ではあるが、彼女にどうしても言いたいことがあった。

 

「俺はさっきの言葉、本気で言ってますので」

 

「……さっきの言葉?」

 

「アビドスに奇跡は起こりません。……でも、」

 

大きく息を吸い込み、断言する。

 

「俺は何度でも言います。

 ──アビドスの砂祭りは絶対に開催できます」

 

そういった瞬間、梔子先輩の目から涙がこぼれる。

 

「……あれ、おかしいな。

 何で私、泣いてるんだろ…?」

 

ボロボロと涙が頬を伝って零れ落ちる。

彼女は自分の涙を必死に拭おうとしていたが、その行為が無駄なものだと悟ると嗚咽をもらし始めた。

 

俺はそっと彼女の肩に手を置き、ハンカチを差し出す。

 

「何で泣くんですか。

 そこは笑ってくれないと俺が泣いちゃいますよ?」

 

おどけた俺の声に、彼女は震える声で答える。

 

「廻くん、ありがとう…。こんな私に優しくしてくれて、本当に嬉しい」

 

梔子先輩はゆっくりと俺の肩を抱き、これが夢でないことを確かめる。

……流石にこの状況で解釈違いだと叫ぶ勇気はなかった。

 

「みんな、みんな無駄なことだって言ってたの。

 毎日ポスターを作って掲示板に貼っても、SNSで呼びかけても、返ってくるのはため息か冷たい視線だけだった」

 

梔子先輩の声の中に染み込んでいる悲しさが、俺にも染みてくる。

これは、いつも明るい彼女が初めて漏らす泣き言だった。

 

「でも、そうだよね。

 今いる生徒は三人だけで、生徒会長は力も知恵もない私。

 ……みんなが諦めるのも分かるよ」

 

彼女は受け取ったハンカチで拭った涙がまた零れないよう、空を見つめながら話を続ける。

 

「でも、もし奇跡が起きて、新しい生徒がたくさん来てくれたら。

 この場所が再び活気に満ち溢れる姿を見れるなら。

 そう思うと、あと一歩だけ。あと一歩だけならって頑張れたんだ」

 

「ホシノちゃんを苦しませてたことにすら気づけなかった私だけど…優しい後輩と支えてくれる後輩がいるなら、まだ諦めるには早すぎるよね」

 

彼女は綺麗な笑顔で笑った。

それは作り笑いなどではなく、心の底から湧き出た本当の笑顔だった。

その表情を見て、俺は胸の中に込み上げるものを感じた。

 

──そう、この笑顔が見たかったんだ。

 

だが、まだ何も変わっていない。

 

このままでは梔子ユメは報われず、届かない星を追い求めるだけになるだろう。

このままでは小鳥遊ホシノは救われず、輝く夢すら見れない生活を送るだろう。

 

このままでは俺は何も残せず変えられず、二人には原作の結末が訪れるだろう。

 

そんな結末、()()()()()()()()()()()

 

「先輩」

 

どうしたの、とこちらを向く彼女に対し、俺は言う。

 

「明日は生徒会室でアビドス砂祭り開催の準備をしていてください。

 …俺はきっと遅れますが、必ず二人にいい知らせを届けますので」

 

梔子先輩の瞳が大きく見開かれ、口元がわずかに震えた。

言葉を飲み込むように、彼女は両手をぎゅっと握りしめる。

 

「…もうっ、なみだがとまらないよぉ。

 廻くんがこんな先輩泣かせの後輩だなんて、思わなかった…!」

 

震えを帯びていった声は存分に涙にぬれているように響いた。

 

そして最後に彼女は小さく「待ってる」と俺に囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

月が高く昇り、砂漠の広大な景色を銀色の光で包んでいた。

砂の海が無限に広がり、星々が煌めく空と地平線が一体となっていた。

夜の冷え込みが厳しく、昼間の灼熱とは対照的な冷たさが肌にしみる。

 

砂を踏みしめるたびに、かすかな音が静寂の中に響く。

風が砂を巻き上げ、細かな粒子が舞い上がり、まるで星空の一部が地上に降りてきたかのような幻想的な光景が広がる。

遠くには、風に削られた奇岩や砂丘が影を落とし、不思議な形を浮かび上がらせている。

 

広大な砂漠の中で、ただ一人、俺は黒服の言葉を思い返していた。

 

──廻さん、貴方に施した仔細を伝えましょう

 

──貴方には私が注目している人物に比べて神秘はあまりにも少なく、身体能力も並です

 

──保有する神秘は生まれた瞬間に定められている。そこで私は神秘を一時的に消費する方向に目を向けました。

 

──話が長い? …クックック。失礼しました。

 

──簡単に言えば、神秘を消費すれば爆発的なエネルギーが生まれます。つまり、貴方は神秘を消費できる体質になったことで、突出した力を得られるようになっています。

 

気配を感じ、足を止める。

 

遠くの砂丘が不自然に揺れ始め、大地が低く唸るような音を発した。

その音は次第に大きくなり、地面が微かに振動し始める。

 

突然、砂丘の一つが崩れ落ち、そこから巨大な影が現れた。

その姿はビルよりも高く、蛇のように長い体が闇の中でうごめく。

 

怪物──ビナーは銀色の装甲に覆われ、月光を反射して冷たく輝いていた。

頭部には目のようなものが複数あり、赤い光を放って周囲を監視している。

 

薄氷を踏んだような寒さが、背中を突き抜ける。

その恐怖を誤魔化すように、そっと息を吐く。

 

「"神秘、解放(イグニッション)"」

 

──ですが、お気を付けください。

 

──これは諸刃の剣。神秘を消費すればするほど、貴方は力を得ると同時に反比例して耐久力が落ちていきます。

 

──全力を出すとなると…ククッ。貴方の体はどこまで脆くなってしまうんでしょうか。

 

瞬間、ビナーが低く咆哮をあげた。

音は空気を震わせ、砂漠の静寂を一瞬にして破った。金属の体が振動し、まるで雷鳴が地面を揺るがすかのように響き渡る。

 

体を一瞬硬直させた後、その巨大な姿が一気に動き出した。

砂が舞い上がり、地面に深い跡を残しながら、廻に向かって突進してくる。

 

「出し惜しみは無しだ。

 …100%、フルパワーでいこう」

 

ビナーが迫り来ると同時に、廻は両手を前に突き出し、全力で受け止めた。

衝撃が廻の体を通して広がり、砂が舞い上がり、鈍い音が響き渡った。

しかし、その衝撃に屈することなく、全身の力を込めてビナーの突進を押し返す。

 

金属と砂が擦れる音が混ざりあった騒音が響き渡る。

 

「──ビナー。お前は、先生と生徒の物語には必要ない」

 

巨大な頭がゆっくりと動き、赤い眼が怒りに燃え上がるように輝いた後、再度二つの影がぶつかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──いま、何時だ

 

体中が痛み、意識が朦朧としていた。

瞼が重く、周囲の景色がぼやけて見える中、必死に意識を保とうとしたが、次第に力が抜けていく。

 

自分がどこにいるのかも分からず、ただその場で仰向けに横たわっていた。

 

青空が広がり、太陽は今まさに地平線から顔を出そうとしていた。

それはつまり、廻が夜通し戦い続けていたことを意味している。

 

横に転がるビナーだった残骸を見る。

装甲は剥がれ落ち、白い煙がかすかに立ち上っている。

 

廻の体の周囲には血が飛び散っており、地面もその血で染まっていた。

 

誰がどう見ても、瀕死の状態だった。

 

体を動かそうとすると激しい痛みが駆け巡り、思わず顔をしかめる。

しかしそれでも、ゆっくりと立ち上がった。

 

──はやく、この光景を見せてあげなければ

 

ビナーが倒れた場所から、まるで砂漠の中に隠されていた命の源が解放されたかのように、清らかな水が次第に広がっていった。

 

水の流れに沿って、緑の植物が顔を出し始め、小さな芽が砂の中から力強く伸び、瞬く間に木々が生い茂るオアシスが形成されていった。

 

花々が咲き誇り、風に乗って甘い香りが漂う。

 

この光景をいますぐ知らせなければいけないのに、体が、腕が動かない。

瞼が重くなり、意識が遠のいていく。

 

──廻くんはこっちにいるの? ホシノちゃん。

 

──…確証はありませんが、気配をこっちのほうから感じます。

 

そんな中、かすかに聞き覚えのある声が耳に届く。

意識が覚醒し、地にこびりついた血を砂で隠す。

 

そして、まだ戻り切っていない神秘を絞り出し、体の表面を修復する。

 

「梔子先輩、小鳥遊ー! こっちですよー!」

 

俺が元気いっぱいだということを伝えるように、こちらの場所に気づくように大声で二人を呼ぶ。

 

すると、彼女たちの驚くような声と共に激しい足音が聞こえる。

 

「廻くん! よかった~、心配したんだよ──」

 

「……私は別に心配していませんでしたけど──」

 

二人の声が途切れる。

その原因は、俺が指さした方角にある。

 

「…ニシシッ。オアシス、見つかりましたよっ!」

 

二人の目が大きく見開かれる。

そして、その目が涙で潤み始めた。

 

彼女たちは俺のもとに駆け寄り、そのまま抱き着いた。

俺は二人分の体重を支えきれずに倒れ込みそうになるも、何とか踏ん張って耐えたのだった。

 

「廻くん! ありがとう。本当に……ありがとう……!」

 

「廻、本当に…ごめん……! 私、あんなこと言ったのに──」

 

梔子先輩と小鳥遊の暖かさが体を包み込む。

彼女たちは泣いていたが、その表情は安堵と感謝に満ち溢れていた。

二人の泣き声だけが響く静かなオアシスで、俺はそっと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろよろしいですか。廻さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな時間は唐突に終わりを迎える。

 

「──だれ、お前」

 

突如現れた黒服にたいし、小鳥遊は俺たちを守るように立ちふさがる。

そんな小鳥遊を宥めつつ、口を開く。

 

「…もう少し、待ってくれてても良かったんじゃない?」

 

「クックック。契約ですので、貴方も忘れたわけではないでしょう?」

 

俺は優しく梔子先輩を引きはがし、小鳥遊の肩に手を置く。

 

「ごめん、小鳥遊」

 

そう言って、彼女の頭を乱暴に撫でる。

 

「ちょっと……!」

 

何か言いたげな顔をしたが、俺は気にせず黒服の近くに寄る。

 

──何とか彼女たちの願いを叶えることができた。

 

──そして、この結果は黒服の力無しには辿り着けなかっただろう。

 

なら、この結末に文句はない。

 

黒服の右手側にゲートが現れる。

 

「……廻?」

 

事態を飲み込めず、小鳥遊が怪訝そうな声をあげる。

背後にいる梔子先輩も、どうすればいいか判断に困っているようだった。

 

「ごめん。小鳥遊、梔子先輩」

 

俺は頭を下げる。

 

「俺はもう、アビドス学校にはいられない」

 

「…え?」

 

理解できないのか、二人は呆然とした声を出した。

言葉を続ける。

 

「梔子先輩、ここからが大変だと思います。ですが、この光景を見せれば大人たちも学生も、きっと希望を持ってくれるはずです」

 

「…え。まってよ、廻くん。そんな、お別れみたいな…」

 

言葉を、続ける。

 

「小鳥遊。ごめんな、あれだけ啖呵を切ったのに。

 でも小鳥遊と梔子先輩がいれば、あとのことはきっと上手くいくさ」

 

「急に、なんですか。

 廻はこれから私たちとアビドス砂祭りについての計画を立てるんですよね…?

 廻、そいつに何を言われたかは知らないけど早くこっちに──」

 

小鳥遊が我慢できないと言わんばかりに一歩踏み込み、手を伸ばす。

 

その前に、俺の半身は既に黒服が作ったゲートに飲み込まれていた。

小鳥遊の伸ばされた手は空を切り、呆けた表情のまま固まっていた。

 

そんな彼女に苦笑し、俺は言った。

 

「後のことは頼んだ」

 

その言葉を最後に、廻は瞬く間にその場から消え去った。

 

その場に残された二人の少女は、呆然と立ち尽くすしかなかった。

 




この世界線の黒服はちゃんとゲマトリアしています。
なので、黒服が主人公くんにしていることが万が一にも先生にばれると躊躇なく大人のカードを切るほどブチ切れます。

ま、すべて主人公から求めたことなんだけどね。

思ったより文字数が多くなったのでところどころ省きました。
さっさと先生を登場させたいので。

男先生と主人公が同性ならではのバカ騒ぎをして生徒が「そんな一面あったの」とモヤモヤする場面、女先生に主人公が甘えて生徒が「どけ! 私は主人公のお姉ちゃんだぞ!」する場面。

どちらも書きたい心が二つある~
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