パイロットA「機体の反応速度が速すぎてトリガーが追い付かない」
パイロットB「こっちが気付く前に回避運動取るのは何なん?」
パイロットC「ランダム回避の機動がマジエグい。ゲロ吐きそう」
モルモットのリーダー「……ちょっとづつ、機体の反応に追い付くようになってきた」
???????「EXAM system ステンバーイ」
地球連邦軍本部ジャブロー。
その高級将校用の会議室には重苦しい雰囲気が漂っていた。
「……いや、これはアカンやろ」
参加していた兵站部門を担当する老年の少将は、手に持った書類を前に呟く。
普段は隠している訛りがモロに出ているあたり、彼の受けた動揺は相当なものだ。
「……ええ」
「たしかに……」
そんな彼の呟きに、参加している幾人かは同意の言葉を漏らす。
彼等が目を向ける書類には、連邦に命運をかけたV作戦によって建造されたペガサス級強襲揚陸艦二番艦であるホワイトベース。
そこに搭載されているMSと現在の運用スタッフに関する追加報告が書かれている。
このホワイトベースだが、随分と数奇な運命を辿っていた。
まずV作戦を察知した赤い彗星の攻撃によって、運用の為に用意した人員の大半が死亡。
この時点で軍事的には計画はとん挫したと見るべきだが、彼等はしぶとく生き残った。
なんとサイド7の避難民の中から適性のある者の協力を得て、赤い彗星の追撃を退けてルナツーへ辿り着いたのだ。
数日前に彼等が受けた報告は其処までだった。
当時の会議も作戦担当者や諜報部の不手際などを責める声や、MSという兵器に対する猜疑などから随分と紛糾したものだ。
しかし結局は人類初のMS同士の戦闘、それも赤い彗星を相手に勝利を収めたという功績に目を奪われた彼等は人員不足も重なった事もあり、半民半官の運用でホワイトベースをジャブローへ降ろすように命令を出す事で落ち着いた。
この時は運よく見つかった在野のライトスタッフを仕官させ、ジオンに対する反転攻勢に活かそうなどという助平心もあった。
だが、その風向きが変わったのはジオンが行った地球方面軍司令官ガルマ・ザビの国葬だった。
葬儀の際に下手人であるガンキャノン一号機の姿が大々的に映し出され、機体とパイロットがジオンの賞金首同然の立場となってしまったのだ。
これには高官たちも困惑した。
『現代の戦争で軍を使って仇討とか……』
『時代錯誤なダッサい格好していると思ったけど、コイツ等頭中世か?』
コロニー落としなんてやらかした時点でイカレてるのは分かっていたが、ここまでアレとは思わなかったのだ。
とはいえ、軍が一個人を狙うというのは異常である。
今のところは機体が標的にされているが、ジオンの本気っぷりを見るに下手をするとパイロットを特定されて暗殺の可能性もある。
連邦軍からすれば、青田買いする気満々だった有能な人材をこんなアホな事で潰されてはかなわない。
そんな訳で一刻も早くホワイトベースを保護する為に再調査を行ったのだが、その結果を見た将校達は思わず白目をむいた。
ガンダムのパイロットはまだいい。
民間人とはいえV作戦の首席技術者であるテム・レイの息子だし、15歳の男子なら特別措置などで強引に何とか出来る。
問題はガンキャノンの方だ。
そのパイロットはまさかの10歳女子である。
これはどんな理屈を並べたところで正当化不可能だった。
敵に知れたら外道扱い待ったなしである。
現に会議に参加しているまともな倫理観の軍人は、罪悪感と己の無能っぷりに死にそうな顔をしている。
「それで……どうなさるおつもりですか、レビル将軍?」
「輸送機で迎えを寄こしてマリー・マス嬢を艦から降ろす、というのが妥当だと思いますが」
そんな彼等からの半ば嘆願にも聞こえる問いかけに、総司令官のレビルは熟考の為に閉じていた目を開く。
「いや、彼女にはこのまま軍に協力してもらおうと思う」
責任者の結論が響き渡った瞬間、会議室の空気は音を立てて凍り付いた。
「なに考えとんじゃ、オッサン! お前、ジオン星人に捕まって脳みそイジくられたんかッ!?」
立ち上がって怒号を上げたのは、先ほどショックのあまり訛りを抑えられなかった兵站部の少将だった。
「落ち着きたまえ、デニーロ少将。いくら何でも暴言がすぎるぞ」
「これが落ち着いてられるか! この子ウチの孫と同い年やぞ! そんな子供戦場に置いとくとか、お前道徳ってモンを知らんのかゴラァ!!」
兵站部のトップであるゴップ大将が宥めても、デニーロと呼ばれた少将の怒りは収まらない。
軍人としての倫理観に加えて、ガンキャノンのパイロットを自分の孫と重ねている為に頭の血管が切れそうになっている。
「レビル将軍、どういう根拠で彼女をそのままにしておくのです?」
「たしかに戦果は目覚ましいものですが、子供を兵士にする事はそれを潰して余りあるデメリットだと考えますが」
兵站部の人間達が数人がかりでデニーロ少将を抑えている間に、他の軍人がレビルへ問いを投げる。
「それは…私が彼等をニュータイプだと思っているからだ」
レビルの口にした言葉に、参加していた多くの将校たちは首をかしげる。
「ニュータイプ、というのはアレですか? かつてジオン・ダイクンが提唱した新人類とかいう……」
「そうだともいえるし、そうでないともいえる。私の言うニュータイプとは、今までの人にはない特別な感性や力を持った者達のことだ」
「そんな力が、マリー嬢やホワイトベースにはあると?」
「そうでなければ、初めて見たMSを操って赤い彗星を退けるなどできはすまい。ガンダムなどの性能によるものだという意見もあるだろうが、それもホワイトベースから送られてきている学習コンピューターのデータが否定している」
「たしかにガンダムやガンキャノン1号機から取れた挙動データは特異なモノです。修正や反応速度にリミッターを掛けないと、訓練を積んだMSパイロット候補生でもついていける者はほぼいないとか」
「私は彼等が持つ特異な才能こそが、この戦争を勝利に導くモノだと思っている」
「ふざけんな! お前それでも軍人か!? 子供を兵隊にするんは───」
「それでも! 我々は負けるわけにはいかんのだ!!」
なおも浴びせようとするデニーロ少将の罵声を、レビルはそれを倍する怒声で打ち消した。
「これまでの戦いで兵士が! 将校が! 地球に住む市民がどれだけ死んだと思っている!! ジオンは! ギレン・ザビは! アースノイドの粛清を実行してもおかしくない狂人だ! 奴等に敗北するという事は、地球人類の滅亡を意味するといっても過言ではない! これまでの惨劇を見て、それが分からんとは言わせんぞ!!」
立ち上がってデニーロだけでなく、他の将官達へ訴えるレビル。
総司令官に上り詰めただけあって、その威圧感と迫力には誰も言葉を挟むことはできない。
「罵りたいなら鬼でも悪魔でも好きに呼ぶがいい。それでも私達は勝つために手段を選んでなどいられんのだ」
ドカリと乱暴に椅子へ腰を下ろすレビル。
それからの会議で彼の決定に反対する者はいなかった。
またデニーロ少将は会議の後で辞表を提出した。
有能な将官である彼をゴップ大将が引き留めようとしたが、孫煩悩と有名だった彼に『このまま軍に残っては、孫に合わせる顔がない』と言われてしまってはそれも叶わなかった。
◆
どうも、マリー・マスです。
突然ですが、あたしは避難民用の大部屋から個室へ引っ越す事になりました。
「まさかマチュが責められるなんて、なんて恥知らずな連中かしら」
「あたしは気にしてないから落ち着いて、姉ちゃん」
ブライト少尉が用意してくれた二人部屋、そのベッドに腰掛けた姉ちゃんが怒りを滲ませた顔で口を開く。
まあ、それも仕方がないだろう。
事実、さっきまであたし達は避難民に詰め寄られていたのだから。
ジオンの国葬が終わって少しした後、テレビを見ていたお爺さんがあたしの方へやってきたのが始まりだった。
「お嬢ちゃん、すまんがモビルスーツと一緒にこの船を降りてくれんか」
苦虫を噛み潰した顔でお爺さんが行ったのは、こんな要求だった。
こうして一人が口火を切れば、後ろにいる人たちも次々と非難の声を上げる。
曰く「あたしがいたらジオンに狙われる」
曰く「ザビ家の人間を殺した責任を取れ」
彼等が口々に叫ぶ内容はおおむねこんな物だった。
テレビに映ったあの国葬を見れば、避難民の皆がそう捉えるのは理解できる。
彼等からしてみれば、あたしは踏む必要のない地雷を踏んだ厄介者なのだろう。
けれど、避難民全てがあたしの排斥を望んだわけじゃなかった。
「どうしてマチュを責めるの!? マチュは私達をずっと守ってくれたのよ!!」
「そーだ! そーだ!!」
「アムロと一緒にジオンをやっつけてくれたんだ! この船の守り神じゃないか!!」
「敵のボスを倒したのに、どうしてみんな怒るんだよ!!」
そう言ってあたしを庇ってくれたのは、アンナやパイをくれた子供達だった。
後ろめたい気持ちがあったのだろう、子供達の反論に狼狽える避難民もそれなりにいた。
けれど、彼等の多くは主張を変える事は無かった。
そんな一触即発の空気の中、駆け付けてくれたのはテムおじさんを始めとする整備班の人達だった。
避難民があたしを責め始めた時に、アンナのお父さん達が助けを求めてくれたのだ。
おじさん達はマシンガンを手に避難民たちを威嚇すると、こう言ってくれた。
「我々や貴方達が無事にここまで来れたのは、マリーちゃんが戦ってくれたからだ! この船に乗る者達を護るために、この子は自分の手を血で汚したんだぞ!! それを貴方達は我が身可愛さに排斥するのか!? それが大人のやる事かッ!!」
この一喝で避難民の多くは黙ったけど、それでも不安を拭えない人達は抗議の声を上げた。
けど、そんな人たちもテムおじさんは毅然とした態度で反論してくれた。
「なら、今すぐ船を降りればよろしい。そうすれば、ジオンから狙われる事も無くなるだろうさ。──生活の保障だと? 甘ったれた事を抜かすんじゃない! 大人なら自分の世話くらい自分でしろ!!」
こう言われては、さすがに避難民の人達も口を噤むしかなかった。
けど軍人であるテムおじさんが、避難民に見捨てるような事を言うのはヤバい筈だ。
そんな危険を冒してでもあたしを庇ってくれた事には感謝しかない。
この騒動はすぐにブリッジへ伝わり、身の安全を確保するためにあたし達は個室へ移動する事になった。
今の状態だと、大部屋にいるのは双方に悪影響しかないからね。
「マチュは悔しくないの? あんなに頑張ったのに、皆から疎まれて」
「うーん……。なにも感じないとは言わないけど、仕方ないかなって思ってる」
あたしの答えを聞いた姉ちゃんはキョトンとした顔になる。
まあ、普通はそうだよね。
「仕方ないですって?」
「だって、あたしはあの司令官の命を奪ったんだもの。だったら恨みを買う事や、それに付いてくる不利益は受けなきゃならない。それがケジメってものでしょ」
「でも、戦争なのよ? あの時、戦わなかったら私達が死んでいたわ」
「うん。だから恨みを買うのは許容するけど、無抵抗で報いを受けるつもりはない。もし誰かが復讐に来たら、あたしは全力で戦う。その結果、あたしが倒れても相手は恨まないし、相手が倒れてもあたしは罪悪感なんか抱かない。だって、互いに命を懸けて戦ったんだもん。きっと善悪なんて無いんだよ」
「マチュ……」
「姉ちゃん、前に買ってくれた『葉隠』って本憶えてる?」
「ええ、日本の古い書物よね。あなたが武道の心得がどうのって欲しがっていたから憶えているわ」
「その本にはね、こんな言葉があるんだ。『毎朝毎夕、改めては死に改めては死に、
これはあたしが戦場に出る事を選んだ時から、何時も胸の中に秘めている思いだ。
「それはどういう意味なの?」
「毎朝毎夕のように死ぬことを決心して常に死んだ身になっていれば、武士道と自分は一体となり、一生落ち度がなく職務をまっとうすることができるって意味」
2年前の誕生日に子供らしからぬこの本を姉ちゃんに強請ったのは、リー師匠の教えの他に自分の心に筋金が欲しかったからだ。
あたしは映画のリー師匠に憧れてジークンドーを始めた。
でも道場なんて周りに無いので、技も心構えを教えてくれる人もいなかった。
独学で学べるほど武術は甘いモノじゃないから、挫折しかけた事は何度もある。
そんな辛い時や上手くいかない時に踏ん張る心の土台を作る為、あたしが選んだのは武道に関する心得などの書物を読み漁る事だった。
「つまり覚悟の話なんだよ。生死を懸けるほどの覚悟で物事に当たれば、後ろめたさも無いし卑屈な態度を取る必要もない。それだけ
この葉隠を携帯端末片手に必死に翻訳する中で、この一文の意味を知った時は目から鱗だった。
だって、あの時は姉ちゃんを含めて周りの皆が武道に打ち込むのを奇異な目で見てたんだもん。
いくら好きでもそういう中で自分を貫くのは、子供のあたしには大変だったのだ。
「その自由に至れば何物をも恐れる事なく、自分の信念に基づいて正しい道を実践する事ができるってこと」
けど、この一文の意味が分かってから、本当に自分がやりたい事をするときは周りの眼が気にならなくなった。
だからジークンドーやゲームに没頭できたんだ。
「そして今のあたしにとっての正しい道は、この戦争を姉ちゃんやアムロのあんちゃん、仲間たちと生き抜くこと。だから誰にどう思われても関係ない。あたしは胸を張って自分の為すべきを為すんだ」
正直言って、本当にその境地に至れているかは自分でも分からない。
でも、あたしは必要な時は常に自分へ言い聞かせている。
『武士道といふは、死ぬ事と見付けたり』
常に「死」を覚悟していれば、逆に限られた「生」を大事にすることに通じるのだという事を。
◆
そんな騒動から二日後、ホワイトベースに待望の補給物資が届いた。
補給隊を指揮していた人は妙齢の女性で、アムロのアンちゃんやカイさんなんかは見とれていた。
マチルダと名乗ったその人は、あたしがガンキャノンを動かしていると聞いた時は眼玉が飛び出るほど驚いていた。
若年の民間人が動かしていると聞いてはいたけど、まさか子供だとは思っていなかったらしい。
「それでマチルダ中尉。補充人員はないのかね?」
「はい、物資のみになります」
そんなマチルダ中尉に文句を言うのは、やはりテムおじさんだ。
「上は何を考えているんだ。ジャブローの連中はジオンの国葬を見なかったわけではあるまい」
「ええ。あれだけ大々的に放映されれば、嫌でも目に入ります」
「なら分かるだろう! このままでは、この子はこれからもジオン軍に狙われ続けることになる! 実際、あの件が原因で彼女は避難民から排斥されかけたんだ! どうにかならんのかね!?」
「そう吼えるなよ、技術大尉殿。中尉程度の下っ端に文句を言ったところで何も変わらんぜ」
しかし、そんなテムおじさんの怒りの声を止めた者がいた。
それは連邦軍の制服を胸元を大きく開ける形で着崩した褐色の肌に金髪リーゼントが特徴の男性士官だ。
「随分とだらしのない格好だな、少尉。なら、君が上と話を繋いでくれるのかね?」
「生憎とそんなコネは持っちゃいない。だが、その嬢ちゃんを狙われないようにすることはできる」
「なんだと?」
テムおじさんの言葉に肩をすくめる少尉。
あの人から感じる気配、どっかで……
「件のガンキャノンはこのヤザン・ゲーブル少尉に引き渡される事になりました。これで少なくともジオンの仇討部隊がホワイトベースを襲う可能性は低くなります」
「つまり、彼が補充のパイロットだと?」
「それも外れだ。この部隊に入るのも楽しそうだが、先に宇宙で白い駄犬の首を引き千切らなきゃならん」
物騒な事を言って笑う少尉。
その胸元に光る亀を模したネックレスを見た瞬間、あたしは彼が何者か分かった。
「お兄さん、もしかしてカメマン!?」
「タートルマンだ、タートルマン。やっぱりお前等だったな。ガンダムがあのエゲツない戦法使ったのを見た時にピンと来たぜ。なあ、サイド7の処刑人共」
「なんですか、その不気味な名前。僕達はチワワーズですよ」
「お前等みたいなチワワがいるかよ。人食い魔猪に見えない死神」
アンちゃんの反論をカメマンは笑い飛ばす。
そっか、カメマンも連邦のパイロットだったんだ。
「けど、大丈夫なの? このキャノンってクセ強いよ」
「心配すんな。お前さんの機体から取ったデータでシミュレーターは散々やったし、回ってきた量産型ガンキャノンも同じカスタマイズで使ってた。もっともジオンの白狼とやった時に、そっちはぶっ壊しちまったがな」
なるほど、そういう事ならキャノンを使いこなすこともできるだろう。
「ふむ。つまり、マリー君はもう戦場に出なくていいという事か」
「いえ、彼女には別の機体が用意されています」
テムおじさんの言葉にマチルダ中尉が答えると、輸送機のコンテナから一機のモビルスーツが顔を出す。
頭や胴、腰回りに足などを赤に、そのほかを白に塗装した見慣れた機体。
全体的に装甲が厚くなって目のあたりがバイザーになっているけど、それは紛れもなくガンダムだった。
「FA-78ー1ヘビーガンダム。ガンダム一号機に、重装突撃型ガンキャノンのデータをフィードバックしてカスタマイズした機体です」
鈍い音を立てて、ホワイトベースのメンテナンスベッドに立てかけられるヘビーガンダム。
けど、あたしはその姿を見てジト目になってしまう。
「お姉さん、キャノン無いけど」
「加速力を高める大型バックパックの邪魔になるのでオミットしたそうよ。その代わり、両肩の装甲の奥には拡散型ビーム砲が付いているわ。射程は100m程度だけど、突撃時の牽制には十分とのことよ」
……おい。
「あの、右手にハマっている長物はランチャーですか?」
「いいえ、パイルバンカーね。重装突撃型より大きさが増したから、その分威力も折り紙付きだそうよ」
右手に生えた一見すると長距離用ライフルか大型ガトリングに見える火器は、まさかのとっつきである。
これには聞いたアンちゃんの頬が引きつる。
「左手にハマってるゴッツいトゲトゲは、まさか……」
「ミョルニル破砕球。小型化したハイパーハンマーを左腕と一体化した質量武装よ。射出するとヒート兵器の要領で赤熱化されて、より確実に相手の装甲を粉砕することが出来るらしいわ」
左腕には更にガトリングも付いてるんだけど、重量バランス悪くない?
あと姉ちゃんは眼を輝かせないでください。
というか、なんだこのゲテモノ。
当たり前みたいにとっつき付いてるけど、あたしはこの武器に命かけてるロマンサーじゃないから!!
「最後に聞きたいんだけど、なんで機体の色が赤いの?」
「上層部からの指示らしいわ。貴方達は何度もシャア・アズナブルを退けたらしいから、ジオンへの嫌がらせとして『連邦の赤い彗星』を名乗ってほしいとか」
「その呼び名はやめろぉっ!!」
やっぱり連邦の上層部は腐ってる!!
愛機を取り上げられた上に、代わりに渡されたのが産廃だったでござる!
「……ねえ、カメマン。あたしガンキャノンに乗るから、これ宇宙に持って行かない? ガンダムだよ、ガンダム」
「知らねえのか、イノシシ娘。ガンダムは若い奴が乗るって相場が決まってるんだぜ。近頃は女が乗るのが主流らしいしな」
「なに、そのジンクス!?」
というか、ガンダム出来たばっかりじゃん!
そんなジンクス出来る暇ないよね!?
癖が強いどころか、クセの塊みたいな新型を前に絶望しかかっている時だ。
突然、もの凄い怒気を感じたのだ。
その出どころはいつの間にかヘビーガンダムの前に立ったテムおじさん。
俯いていた顔を上げると、おじさんの額にはびっしりと青筋が浮き出ているのが見えた。
「なんだァ? てめェ……」
テムおじさんがキレた!?
そりゃあそうだよ!
心血注いで作り上げたガンダムが、こんなネタ機体に魔改造されたら誰だって怒る!
「物資引き渡しと機体の交換が完了したので、私達はこれで失礼します。ヤザン少尉、帰りの護衛は頼むぞ」
「任せときな。あのゲテモノじゃなけりゃ喜んで乗ってやるよ」
そんなおじさんの姿に、そそくさと輸送機に乗り込むマチルダ中尉とカメマン。
その後、テムおじさんと整備員の人達が必死に調整してくれたお陰で、ヘビーガンダムは何とか使える機体になりました。
この愉快痛快な機体、はたして乗りこなせるか?
◆
ホワイトベースがミデアの補給を受けた翌日、宇宙から地球の海洋上に複数の大気圏突入カプセルを引き連れた一隻の宇宙船が舞い降りた。
ジオンの誇る巡洋艦ザンジバル。
そこに乗っているのは『青い巨星』と名高い歴戦の猛者、ランバ・ラル大尉と部下達だ。
「それで、面白いモノとはなんだ?」
内縁の妻であるクラウレ・ハモンを連れてザンジバルのブリッジに上がったランバ・ラル。
一見すれば中年太りに見えるその体は脂肪など殆どなく、力士のように歴戦の中で鍛え上げられた筋肉の塊だ。
「はっ! 我が軍の識別表に無い船を察知したのであります!」
「ほう、見せてみろ」
クランプという名の腹心の部下が機器を操作すると、モニターにはどこか馬に似た独特の形の船の姿が浮かび上がる。
「おそらくは例の木馬かと」
「ふむ……」
「ガルマ様の仇を討つチャンスかと」
それを見て小さく唸るラルに、ハモンは声を掛ける。
ラルは妻の言葉に応える事無く、青空が見える窓の前にある席へ腰を下ろす。
「奴の位置は我々の基地からかなり離れている。航続距離を計算に入れねばな」
「このザンジバルなら問題はありませんが」
「けれど、他の隊員は大気圏突入カプセルです。彼等が付いてこられねば意味がありません」
「そういう事だ」
そう言って顎の下で手を組むラル。
そんな彼が座る椅子の背もたれをハモンは優しくつかむ。
「では、このまま見過ごすおつもりですか?」
「ふふふ、我々の任務はガルマ様の敵討ちだ。これはドズル中将じきじきの命令だからな、手抜きはできんよ」
「ですが、今の私達は大気圏から地球へ降りたばかり。無理はできませんわ」
「かと言って、そのまま見過ごすような男は好かんだろう。ここは一つ、お前にいいところを見せねばな」
狩るための獲物を見据えた青い巨星は、貯えた口髭の奥で不敵な笑みを浮かべるのだった
・親父が提唱したジオニズムを捨てて、ブルース・リーの教えと葉隠に傾倒しているダイクン家の二女
テアボロが存命の時からジークンドーの修行と共に父の蔵書を漁って、父に聞きながら武術家や武道についての心得や思想書を読んでいた。
そうして培った覚悟という精神防壁は強固であり、戦場で死者の念を感じても『南無阿弥陀仏』と心の中で経を読む事で済ませてしまう。
高いニュータイプから共感もわかり合う事も可能だが、相手が敵なら『それはそれとして死ね』が出来るサムライ系ニュータイプ。
娘がこういう形で育った事には、ジオン・ダイクンは間違いなく草葉の陰で感涙していていることだろう。
ヘビーガンダム(マチュ仕様)
強襲突撃型という玩具に脳を焼かれた連邦のロマンサー達が、ガンダムという最高の素材を弄繰り回したことで誕生した悲しきモンスター。
フルアーマーガンダムB案(サンボル)用に試作されたロケットモーター内蔵の大型バックパックに、増加した装甲内にサブスラスターやアポジモーターを配備。
両肩の増加装甲内には『連邦の花火職人』と呼ばれる火器マニアが生み出した拡散式ビーム砲。
右腕にはダブデもぶち抜く大型パイルバンカー『パニッシャー』
左手にはガンタンクも一撃でスクラップにする『ミョルニル破砕球』と前腕部に90mmガトリング砲が装備されている。
コンセプトは超スピードでカッ飛んで敵母艦をパニッシャーでぶち抜き、周りの敵はミョルニルを振り回して粉砕するという、どう考えてもアウトすぎる代物。
基礎になったのがガンダムであることに加えて、フィールドモーターを現状考え得る限界まで強化しているので性能は高いが、やはりゲテモノはゲテモノ。
マチュが拒否すればお蔵入りが確定な高級産廃である。