ダイクン家の二女はアホの子   作:アキ山

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産廃開発風景

「女の子がワイらの装備使ってくれてるらしいで!」(とっつき開発者・コネ入隊な環境大臣の甥っ子)

「知ってる! 知ってる! しかもガッツリ戦果あげてるんやろ!」(ハンマー開発者・財務大臣の息子なカッコつけの後方勤務)

「その子用の新型開発任されたで! なんと素材はガンダムや!」(連邦の花火職人・大物政治家の孫、悠々自適なオフィスワーク)

「「「ふぉー! 盛り上がってきたぁぁぁっ!!」」」

・産廃完成

「「「出来たで、俺等のロマンを込めた兵器が!」」」

「見ろ、あの大型バンカー! ……ふつくしい」

「やっと…やっとMSにハンマーを内蔵することが出来た」

「俺の人生を掛けた花火がガンダムに……感無量や」

「ところで、コレ試運転どうするんや?」

「ジャブローの候補生たち、誰もやってくれへん。こんなゲテモノ、イヤやって」

「どいつもこいつもセンスないのぉ」

「……そや! コイツ、テスト無しで送ったろ!」

「さすがにヤバない?」

「大丈夫や! 女の子は初見でガンキャノンを動かした逸材や! コイツも一発で使いこなしてくれるわ!」

「そやな! それで女の子が戦果上げたら、また俺等の作品が評価される! ハッピーハッピーやんけ!!」

「よっしゃ! 何のテストもしてないけど、送ったれ!!」

結果、テム・レイが独歩ちゃんになる。



マチュと青い巨星

 補給のミデアが飛び去った後、ホワイトベースの格納庫は騒がしさが大きく増した。

 

「みんな、すまんが手を貸してくれ! 馬鹿が作ったクソッタレなガンダムを手直しする!!」

 

「わかりました!」

 

「さすがにこんなゲテモノにマリーちゃんを乗せられませんよ!」

 

 魂を削って作り上げたガンダム1号機の変わり果てた姿に激怒したテム・レイ技術大尉の号令に、メカニックマン達から同意の声が上がる。

 

「ブリッジ! ブライト中尉! 聞こえるか?」

 

『ええ。補給物資に問題がありましたか、テム大尉?』

 

「マリーちゃん用に送られてきたMSだが、はっきり言って使い物にならん! ジャブローのモグラ共は何を考えてこんな産廃を送ってきたんだ!!」

 

『産廃って……そんなに酷いのですか?』

 

「火器をほぼ撤廃して、両腕に固定式の杭打機とハンマーで突っ込む特攻機に君は乗りたいかね?」   

 

『い、いえ……』

 

「幸いベースはガンダム1号機だ、2号機の予備パーツを使えば手直しできる。そういう事なので、物資は使わせてもらうぞ」

 

『わかりました、お願いします』

 

 ブリッジに断りを入れた後、テムは本格的にヘビーガンダムの精査に掛かる。

 

 しかし、それによって露見した事実は酷いモノだった。

 

「テム大尉! 無理やりつけた増加装甲の所為でコアブロックシステムが死んでます!!」

 

「……はぁっ!?」

 

「コックピット回りを保護するのは分かるけど、どうして上半身と下半身を溶接してんだ!? これじゃあ分離できねえだろうが!!」

 

 サイド7で共にマリーに助けられた技術士官の悪態を、テムはあんぐりと口を開けたまま聞いていた。

 

 コアブロックシステムは、機体が破壊された時にパイロットを助ける脱出装置である。

 

 ガンダムの上半身であるAパーツ、下半身のBパーツの間にコアファイターという戦闘機を変形させて収納する事でコックピットにしており、緊急時には合体している部位を破棄してコアファイターとして脱出を可能にしているのだ。

 

 その機構を潰してしまっては、パイロットの生存確率は大きく下がってしまう。

 

「おい、頭もヤバいぞ! ガンキャノンのセンサーを移植しているけど、つなぎ方が拙くてレーダーが半分逝ってる!!」

 

「モジュール繋ぐポート、基板にちゃんとあるだろ! どうして足りない端子を増設しないんだ!?」

 

 頭部のチェックをしていたメカニックマンから呆れと怒りの声が降ってきたかと思えば…… 

 

「父さん! 肩のビーム砲だけどダメだ! ジェネレーター直結な上にエネルギーをバカ喰いするから、撃ったら機体がパワーダウンする!」

 

 武装のチェックを任せていたアムロからはあり得ない報告が上がってくる。

 

 事前の点検でもこれだけヤバいのに、実機を動かして問題を洗い出ししてみると更なる悲惨な実態が浮き彫りになった。

 

「おっちゃん、この機体真っ直ぐ走らないよ? たぶんとっつきが重すぎるんだと思う」 

 

「ちょっと待て! バンカーの衝撃で肩のビーム砲イカレたぞ! どうなってんだ!?」

 

「マリーちゃん、ハンマー使った?」

 

「うん」

 

「もしかしてハンマー射出の反動でガトリングに暴発防止用のロックが掛かったのか? 完全に誤作動じゃないか!」

 

 メイン武装を中心に様々な不具合が露見した上に、背面のロケットモーター付き大型バックパックは最大稼働だと10歳の子供には耐えられないGが出る事も判明したのだ。 

 

「テム大尉!」

 

「父さん!」

 

「主任!」

 

「おっちゃん」

 

「大将!」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」

 

 その全てを聞き終えた後、テムは叫んだ。

 

 もちろん、憤怒の咆哮である。

 

 自身の最高傑作をここまでコケにされた事、そして子供をこんなクソに乗せようとした軍上層部の腐敗具合に涙が止まらなかった。

 

 その後、テムは夜通し正義の怒りをガンダムの名を持つ産廃へぶつけた。

 

 とはいえ、ホワイトベースが出発するまでという限られた時間だ。

 

 気に入らない点全てを潰すことはできなかった。

 

 まずはクソの象徴である大型パイルバンカーを排除、代わりに2号機の予備パーツを使って前腕部を普通の腕に換装した。

 

 同時に頭部のセンサーをガンダム本来のモノに戻して、眼もバイザーからデュアルアイへ。

 

 両肩の拡散ビームも封印し、大型バックパックにリミッターをセット。

 

 ハンマー使用で使い物にならなくなるガトリングを排した代わりに、ミョルニル破壊球を装備した左腕との重量バランスの調整も含めて、右腕に固定式の連装ビームガンを装備した。

 

 テム的には完全にガンダム1号機へ戻したかったが、さすがにそこまでの時間は無かった。 

 

 ならば、せめてと実戦に耐えうるレベルにまで持って行ったのだ。

 

 ホワイトベースが空へはばたく中、死屍累々の有様を晒す精魂尽き果てたメカニックマン達。

 

 クルーの幾人かは、そんな彼等に毛布を掛けてあげるアムロとマチュの姿を見たという。

 

  

 

 

 マチルダ隊からの補給を受けた後、ホワイトベースは太平洋を西へ向かっていた。

 

「どうだい、ヘビーガンダムの調子は?」

 

「とりあえず、真っ直ぐ進めるようになったから、かなり楽」

 

 シミュレーターでの訓練を終えたあたしは、アムロのアンちゃんの問いかけに笑顔で応える。

 

 それを聞いたアンちゃんは、昨夜のことを思い出して苦笑いを浮かべた。

 

「……産廃は強敵だったね」 

 

「アレに乗って戦場に出たら本気で死ねると思う」

 

 ぶっちゃけ、実機でスロットル開けたら斜めに飛んでったんだもん。

 

 しかもトンデモないスピードで。

 

 突撃がメインの機体なのに、思ったところに移動できないって致命的でしょ。

 

 あと、あのバカみたいな加速ととっつきの反動合わせたら右手モゲるんじゃない?

 

「落ち着ける所に行ったら、両腕付け替えるんだっけ?」

 

「うん。今の腕はフィールドモーターを強化しているから何か使い道はあるかもって、父さんは言ってたけど一応ね」

 

 テムおじさん、素のガンダムに戻したがってるからなぁ。

 

 そんなガンダムだけど、メカニックの人達が必死になって手直ししてくれたから、来た時に比べると全然使える機体になってる。

 

 あとはあたしが慣れるだけ、主にハンマーの使い方とかね。

 

 そんな風に反省会をしていた時だ。

 

「あっ!」

 

 あたしの脳裏に閃くモノがあった。

 

「どうしたの、マチュ?」

 

 この胸がイガイガする感じ、間違いない。

 

 あたし達に敵意を向けている奴がいる!

 

「アンちゃん、敵が来る!」

 

 そう言うとあたしは壁に備わった通信機を手に取った。

 

「ブライト中尉、聞こえる」

 

『どうした、マリー?』

 

「攻撃が来るよ! 敵は上に……うわっ!!」

 

 あたしが脅威を伝えようとするのと、船が揺れるのは同時だった。

 

『なにがあった!?』

 

『左舷、上部から砲撃です! 左エンジン部、小破!!』

 

『左舷に弾幕を集中しろ!』

 

『頭を抑えられています、右舷の雲の中に入ります』

 

『嵐に飛び込む事になるか……頼む!』

 

 受話器からはブリッジの様子が聞こえてくる。

 

 奇襲を受けてかなり混乱しているようだ。

 

『マリー、機体で待機していてくれ。……新しく来た機体は使えるようになったのか?』

 

「一応ね。アンちゃんも一緒にいるから、伝えとくよ」

 

 そう返してあたしは通信機の受話器を置いた。

 

「敵かい?」

 

「うん。パイロットは機体で待機だって」

 

 パイロットスーツに着替える為に更衣室へ向かうと、そこには姉ちゃんがいた。

 

「マチュ!」

 

「姉ちゃんにも指示が来たの?」

 

「いいえ。でも敵が来たような気がしてね、念のために着替えようと思ったの」

 

 流石我が姉、勘の鋭さもバッチリである。

 

 あたし達がコックピットに乗り込んだ頃には、外から雷鳴が聞こえるようになっていた。

 

「雷か、懐かしいわね」

 

「父ちゃんと地球に住んでいた時に聞いたっきりだもんね」

 

「あの時はマチュが凄く怖がって大変だったわ。私の布団に潜り込んできたうえに、おねしょまでして」

 

「……ワスレテクダサイマセ」

 

 おのれ、こんなところで黒歴史が暴露されるとはっ!?

 

 どっか行け、雷! 忌まわしい記憶と共に!!

 

『各員へ! ホワイトベースは近隣の島に着陸して敵をやり過ごす! 見つかる可能性も十分にあるので、MS各機は出られるようにしておけ!』

 

 なんて会話をしていると、ブライト中尉から指示があった。

 

「姉ちゃん、キャノンといろいろ勝手が違うから気を付けてね」

 

「大丈夫よ、ハンマーがあるもの」

 

 この姉ちゃんの正義の怒りに対する信頼はなんなのか……。

 

 その後、まるで息を殺すかのようにホワイトベースの喧騒はピタリと止んだ。

 

 戦いは避けられるに越したことはないので、敵がこちらを見失ってくれれば御の字なんだけど……。

 

『主砲開け! ガンダム! ヘビーガンダム! ガンタンク! 発進用意!!』

 

『ガンキャノンはどうするの?』

 

『塗装を替えるまで使用禁止だ! 賞金首として狙われたくないだろう!』

 

 キャノン2号機で待機していたカイさんとブライト中尉の会話を聞きながら、あたしはカタパルトにガンダムを移動させる。

 

「アンちゃん、リュウさん、先に行くね」

 

「気を付けてね、マチュ。急ごしらえの機体だから、不具合が出たらすぐに戻るんだ」

 

「うん。マリー機、出るよ!」

 

 ホワイトベースが迎撃を開始すると同時に、あたしは格納庫から飛び出す。

 

 戦場は岩場で出来た小さな島、MSで戦うには少し大変そうだ。

 

 そんな事を思っていると、敵の戦艦から3機のMSが降りてきた。

 

 二機はザク、そしてもう一機はザクに似た青い機体だ。

 

「ここに来て新型か……」 

 

「気を付けて、マチュ。慎重に行きましょう」

 

「OK!」 

 

 姉ちゃんの忠告に、あたしは牽制を込めて右手のビームガンを放つ。

 

 青い機体はスラスターを吹かして空中で横にスライドする。

 

 そしてこっちの射撃を躱すと、着地と同時にザク二機を引き連れて後ろへ飛んだ。

 

 敵の姿は目の前に聳える小高い岸壁の向こうに隠れてしまい、こちらのモニターには捉えられない。

 

「どうする、追った方がいいのかしら?」

 

「ううん。多分、奴等はむこうでコッチが崖を登るのを待ってる」

 

 岩場を挟んで敵意がビンビン伝わってくる。

 

 おそらく、崖の上から姿を見せたところで集中砲火を浴びせる気なんだろう。

 

「リュウさん、タンクで崖の向こうに砲撃できる?」

 

『おう! 任せておけ!』

 

『アンちゃん。敵が炙り出されたら突撃するから、挟撃よろしく!』

 

「わかった!」

 

 あたしの提案でガンタンクの両肩にあるキャノンがつるべ打ちで砲弾を吐き出す。

 

 硝煙を棚引かせて飛ぶ弾は、崖の向こうに落ちると轟音と共に次々と爆炎を立ち上らせた。

 

「そらそらっ! 待ち伏せしようったってそうはいかんぞ! 早く出て来い!!」

 

 そうしていると、しびれを切らしたのか、青い新型機が崖の上に姿を現す。

 

「貰ったぁ!!」

 

 タンクが放った両腕のガンランチャーをジャンプで躱すと、空中で青いヤツは右腕を振り上げる。

 

 狙いはタンクの方だ!

 

『うるさい戦車モドキめ! 黙らせてやる!』 

 

「させるかぁ!!」

 

 相手の右腕から銀色の鞭のような物が伸びるのと、あたしがハンマーを放つのは同時だった。

 

 空中で激突した鉄塊は銀の触手を跳ね除けて青い機体へと飛ぶ!

 

『なんだとっ!? チィッ!』

 

 それでも奴は右肩の装甲を犠牲にしてハンマーをギリギリ躱してみせた。

 

 あの状況で咄嗟に身を捻るとは、かなり出来るパイロットのようだ。

 

『そのハンマー! まさかガルマ様の仇か!?』 

 

「ちがいますっ!」

 

 青い機体は上手く着地したかと思ったら、盾からデッカい剣を引き抜いてこちらへ踏み込んでくる。

 

 空中の身のこなしといい、着地をそのまま踏み込みの初動にする動作といい、ザクとは比べ物にならない運動性だ。

 

『マリー! 逃げろ!!』

 

 この距離では右のビームガンは間に合わないし、ハンマーを引き戻す時間も無いだろう。

 

 リュウさんが万事休すと判断しても仕方がない。

 

 けど、このヘビーガンダムにはまだ手はある!!

 

「姉ちゃん、しっかり掴まってて!!」

 

「わかったわ!」

 

 あたしは向かってくる青い奴へむけて思い切りペダルを踏み込んだ。

 

 すると背面に備わったロケットモーターが唸りを上げ、まるで弾丸のような勢いでガンダムの身体を前に押し出す!!

 

『なにぃっ!?』

 

 相手から伝わる驚愕の意思と共に、ガンダムは相撲のブチかましのように頭から青い奴の胸へ突っ込んだ。

 

『ぐおおおおっ!?』

 

 カウンターでタックルを受けた青い奴は足を地面から浮かせて後ろへ吹っ飛ぼうとするが、まだ終わりじゃない!

 

「──押せ、ヘビーガンダム!!」

 

 さらにスロットルを開ければ、ガンダムはそのまま青い奴を押し込んでいく。

 

 その間に左腕のハンマーを引き戻し、青い奴の背中を岸壁に叩きつけると同時に大きく振りかぶる!

 

 狙いはもちろん、コックピットがある胴体!

 

『大尉!』

 

『おのれ! 大尉をやらせるか!?』

 

 青い奴に遅れてザクたちが崖の上からバズーカとマシンガンを構えるけど、いろんな意味でもう遅い!!

 

『ぐわぁッ!?』 

 

『がああっ!? 大尉!!』

 

 奴等が攻撃するより先に、機動力を活かして大回りに崖の向こう側へ回り込んだアンちゃんのガンダムが背後から撃ち抜くからだ。

 

『くそっ! 風雨の影響で照準が狂ったか?』 

 

 頭と右腕を失ったザクを前に、アンちゃんの苛立つ声が響く。

 

 ともあれ、これで大勢は決したも同然だ。

 

 左腕にハマったハンマーを拳代わりに振り下ろそうとした、その時だった。

 

「……え?」

 

 その瞬間、頭に過ったのは地球のマス家で過ごしていた時によく来ていた、お菓子をくれる爺ちゃんの顔だった。

 

 ちょっと待って、どうして今爺ちゃんの顔が過るんだ?

 

 予想外過ぎる事に思わずフリーズするあたし。

 

 そこで一瞬隙を作ったのがいけなかった。

 

『ぬおおおおおっ!!』

 

「あわっ!?」

 

 なんと、起死回生をねらって岸壁に背を預ける形で座り込んでいた青い奴が蹴りを放ってきたのだ。

 

 胴体へ当たった蹴りは胴体狙いのハンマーの軌道を大きく変える。

 

 それによって射出された鉄塊は、青い奴の胸の装甲と頭を吹っ飛ばすだけに終わってしまった。

 

 青い奴の蹴りによって後ろへ吹っ飛んだヘビーガンダム。

 

「やばっ!?」  

 

 しりもちを付きそうになったけど、背筋を奔った悪寒にスロットルを開けると足の裏とバックパックのスラスターを吹かして後ろに飛んでくれる。

 

 そして一瞬前まであたしがいた場所を機銃の弾丸が抉る。

 

 奴等の戦艦が青い奴を支援するために突っ込んできていたのだ。 

 

『助かったぞ、ハモン! アコース、コズン! 生きているか!?』

 

 頭を吹っ飛ばされた所為で通信機能が壊れたのか、青い奴のパイロットの声がこっちにも届いた。

 

『撤退するぞ! ハモン、目くらましの投光器を!!』 

 

「姉ちゃん、目をつぶって!」

 

 そう指示を出すと、敵の戦艦の装甲が開いて次の瞬間には眩い光がモニターを焼いた。 

 

 光でやられないように目を閉じながらも、あたしは意識を研ぎ澄ます。

 

 この状態から敵艦の砲弾が来ても躱せるように。

 

 そうしてどれほどの時間が経ったろうか。

 

 光が収まると敵艦の姿は消えてなくなっていた。

 

 もちろん、青い奴やザクの姿もだ。

 

『退いてくれた……のか? MS各機、警戒を密にしろ! 偽装撤退の可能性もある!!』

 

 ブライト中尉の指示が飛ぶ中、あたしは小さく息を吐いて身体から力を抜く。

 

「マチュ、どうしたの?」

 

 その様を心配したのか、声を掛けてくる姉ちゃん。

 

 あたしは少し迷ってから口を開いた。

 

「姉ちゃん、地球に住んでた時にお菓子持ってきてくれてた爺ちゃん憶えてる?」

 

「ええ」

 

「青いのに止めを刺そうとした時、なんでか爺ちゃんの顔が過った」

 

「……そう」

 

 振り返ってそう言うと、なんでか姉ちゃんの顔が強張った気がした。

 

 でも、ぎゅっと噤んだ口を見るにあたしに話すつもりは無いのだろう。 

 

「ふぅ……」

 

 けど、私も修行が足りない。

 

 思いもよらない事だとしても、あの程度で敵に隙を見せてしまうなんて。

 

 あれでもし青い奴が蹴りじゃなくて剣を使っていたら、あたしも姉ちゃんも無事じゃすまなかった。

 

 もっと心を平静に保たないと。

 

 リー師匠も言っていたじゃないか。

 

『水のようになれ。断言するな。対象に合わせろ。そうすれば何か方法が見えてくるはずだ』って。

 

 どんな器に入ってもそれに応じて形を変える水のように、何が起ころうと即座に対応できるようにならないといけない。

 

 水の極意を会得しないと、この戦争を生き抜くことはできない気がする。

 

 その為には、自分を鍛え直すしかない。

 

 まずは中断していたジークンドーの修行を再開しよう。

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