ダイクン家の二女はアホの子   作:アキ山

13 / 64
ある日のマス姉妹(マチュの黒歴史)

これはセイラが10歳、マチュが3歳のときのこと。

その日の夜はマスの屋敷がある地域に嵐が迫っており、夜中になると風と共に雷鳴が響くようになっていた。

そんな中、自室で床に付こうとしていたセイラは電気を消す寸前で扉を叩く小さな音に気が付いた。

「どなた?」

 ゆっくりとドアを開けると、その前にいたのはパジャマに兎のぬいぐるみを抱いた年の離れた妹、マリーだった。

「マチュ、どうしたの?」

 そう問いかけるとマリーは眼に涙をためて訴える。

「……ねーちゃ、マチュ、ゴロゴロやーなの」

 なるほど、妹は雷が怖いらしい。

 それに気づいたセイラはマチュを抱き上げると一緒にベッドへ連れていった。

「大丈夫よ、マチュ。お姉ちゃんと一緒ならゴロゴロなんて、すぐにどこかに行ってしまうわ」

「ねーちゃ!」

 布団に入ってそう言い聞かせると、マリーはセイラの胸に顔を押し付けて小さな手でギュッとしがみ付く。

 そのか弱い力と幼児特有の温かさはセイラにある事を思い出させた。

 それは彼女と妹がアルテイシアでアルマリアだった時。

 ザビ家の追手を振り切ってサイド3を脱出する際、アルテイシアは母であるアストライアから託された妹を必死で抱きしめていた。

 そしてアルマリアも本能的に彼女の服をギュッと握りしめていた。

 あの時、柔らかくか弱い感触にセイラは誓ったのだ。

 妹は自分が必ず護ると。

 なので、こうしてマリーが兄でなく自分を頼ってくれたのは嬉しかった。

 そんな思い出に浸っている内に、気が付けばマリーは寝息を立てていた。

 そしてぽかぽかと温かいマリーの体温はセイラも眠りへと誘っていく。

 こうしてセイラは穏やかな眠りの中に落ちていった。

 翌日、お腹から下半身に広がる濡れた感触と妹の泣き声で目を覚ますまで。

 なお、某兄も雷を恐れた妹達を迎え入れるべく、扉をフルオープンにしてスタンバっていたりする。

 しかし明け方まで誰も来なかったために、拗ねて一日ふて寝する事になったのは余談である。  


マチュ、青い巨星と再戦する

 ホワイトベースへの補給を終えたミデアがジャブローに戻った翌日、将官用の会議室に三人の技術士官が憲兵によって引っ立てられた。

 

 陸、海、空、宇宙。

 

 各部署を取り仕切る錚々たる面々を前に、手錠で後ろ手に拘束されて立たされている技術士官の顔色は悪い。

 

「さて、君達が呼び出された理由は分かっているね?」

 

 重苦しい雰囲気の中、口火を切ったのは兵站を担当する者達の長であるゴップ大将だ。

 

「……わ、分かりません」

 

 その問いかけに技術士官の一人、バンカーを制作した環境大臣の甥という男が返答する。

 

「それは随分と察しが悪い。───これだよ」

 

 バサリとゴップが机に投げ出した書類。

 

 それはホワイトベースへ送ったヘビーガンダムの詳細なデータとテム・レイ技術大尉のクレーム、そして眼前の士官が上層部へ提出した試験記録とヘビーガンダムのデータだった。

 

「君達は随分と自身の手掛けた機体の性能を盛っていたようだね。ホワイトベースのクルーは送られてきたガンダムをこう称していたよ。産業廃棄物、産廃だと」

 

「な…っ!?」

 

「ふざけっ! ぐわぁっ!?」

 

 ゴップの嘲笑を含んだ言葉に士官達は怒りをあらわにするが、騒ぎ立てる前に背後に控えている憲兵に取り押さえられる。

 

 この場では彼等に自由に発言する権利など無いのだ。 

 

「実際、その通りだろう。メイン武装の不具合にセンサー等の調整不足、さらには機体本体にも問題点が山積みだ。あのガンダムを、よくもここまでガラクタにしてくれたものだ」

 

「は…発言よろしいでしょうか!?」

 

「うむ、許可しよう」

 

 ハンマーを手掛けたという現財務大臣のボンボンの言葉にゴップは鷹揚に頷く。

 

 その眼を苦虫を噛み潰した顔で沈黙するレビルに向けながら。

 

「我々の手掛けたヘビーガンダムは十分に戦場で活躍できます! むこうにいるクルーは半分は民間人なのでしょう? ならば、軍の兵器たるMSについて明るくない筈です! そんな者達の言葉を閣下は真に受けるのですか!?」

 

「もちろんだ。なにせ、あそこにはガンダムの生みの親であるV作戦主席技術士官、テム・レイ大尉がいるからな。戦場を渡り歩きながら死に物狂いで機体を手掛ける天才と、空調の効いた安全なオフィスで趣味全開で適当な仕事をする無駄飯食らい。どちらが信じるに値するかなど、明々白々だろう」 

 

 下膨れの顔にニヤリと笑みを浮かべながら放ったゴップの言葉に、技術士官たちの顔が一気に蒼褪める。

 

 家の名誉と将来の箔付けに軍へ入った彼等は、自分達の後ろ盾を悪用して仕事も適当に行っていた。

 

 なので書類も自分に興味がある物しか目を通さず、ホワイトベースにガンダムの生みの親がいるなど夢にも思わなかったのだ。

 

「それに加えて、この試験結果だ。調べたところ、君達があの機体をテストした事実は何処にもなかった。パイロットは誰一人協力していないし、試験場の使用スケジュールにも記載がない。弾薬も兵器実験の標的も一つも減っていないのだ。いったいどうやって試験したのかね?」

 

「……」

 

 ゴップの追及に、拡散ビームを開発した大物政治家の孫は青い顔で目を背ける。

 

 相手は兵站屋の大ボス、物資に関しては隠し事などできはしない。

 

「黙りか、ならば教えてあげよう。君達は試験結果の報告書を偽造したのだよ。すでに犯罪に加担した士官を拘束し、自供も取ってある。言い逃れはできんぞ」

 

 ゴップの言葉にレビルを除く将官達の眼が鋭さを増す。

 

 実際、彼等の行った行為は軍という物を舐め腐ったものだ。

 

 まともな軍人なら怒りを感じるのは当然である。

 

「さて、レビル将軍。彼等の処遇だが、どうするね? 公文書偽造に欠陥兵器を前線に送り味方へ損害を与えようとした利敵行為、さらには物資の無駄遣い。そのどれもが重罪だ。私としては一兵卒に降格させて、歩兵として最前線送りが妥当だと思うが」

 

 ゴップの提案に他の将官は当然と言わんばかりに頷く。

 

「い…嫌だ! ふざけんな!!」

 

「俺達は経歴に箔を付ける為に軍に入ったんだ! 死ぬなんて絶対に嫌だ!!」

 

「お…俺を殺したら、お爺ちゃんが黙っていないぞ!!」

 

「心配せずとも君達の親族は何もできんよ。なにせ君達は犯罪者だ、それを庇っては御高名な政治家であるご家族の地位も危ぶまれるからな」

 

 騒ぎ立てる技術士官達にゴップは穏やかに言い放つ。

 

 それは彼等にとって事実上の死刑宣告だった。

 

「レビル将軍、彼等に沙汰を。それを下すのが貴方の役目だからな」

 

 下手人たちが絶望で言葉を失う中、ゴップは沈黙を保ち続けているレビルを促す。

 

「……現時点を以って彼等を二等兵に降格し、歩兵の補充要員として欧州戦線へ赴任を命じる」

 

「うむ。では憲兵諸君、足はすでに用意してある。彼等を任地へ送り届けてくれたまえ」

 

 絞り出すようなレビルの命に続けてゴップがそう言うと、憲兵たちは嫌がる技術士官達を引き摺って会議室を後にする。

 

「しかしレビル将軍も災難ですな。肝いりと称していたマリー嬢の機体製作に、あのような腐り者が混じっているとは」

 

「う、うむ」

 

 男達の泣き声という耳障りな雑音が去った会議室、一時の沈黙を破ってゴップは口を開く。

 

 もちろん、これは嫌がらせだ。

 

 ゴップはレビルがあの士官達に機体製作を命じた事を知っている。

 

 その理由は戦争終結後に目論む政界進出、その足掛かりとなるコネを強化する為だ。

 

 連邦が民主主義である以上、文民統制の原則から軍隊は担当する大臣の下になる。

 

 出世欲の強いレビルにとって、軍のトップに上り詰めた次は政治家を目指すのは当然だった。

 

 なので奴は政治家の子息に功績を与え、軍内で出世させる事で恩を売ろうと考えたのだ。

 

 とはいえ、あのボンボン共が作り上げた武装は汎用性や実用性に乏しいキワモノばかり。

 

 それ故に今まで作品は埃を被り、彼等も無駄飯食らいと腫物扱いされるばかりだった。

 

 しかし、それもマリーが彼等の開発した武器を使って戦果を挙げた事で話は変わった。

 

 同時にこれはレビルの助平心を刺激した。

 

 実績があるのなら彼等に白羽の矢を立てても問題は無いと。

 

 レビルがデータ取り用だったガンダム1号機をベースとして工面したのも、多少武装に癖があろうと機体性能でカバーする為だ。

 

『奴の誤算は二つ。一つは大将として長くいる為に、末端の士官がどういう者か人格把握を怠った事。そしてテム・レイ大尉の心が自分から離れた事に気付かなかった事だな』

 

 ゴップは苦虫を噛み潰すレビルを見て内心でほくそ笑む。

 

 組織というのは上に上がれば上がる程、末端の人間に目が行き届かなくなるものだ。

 

 数十万単位の人員が蠢く軍という組織の下士官まで、人格を把握するなど不可能だ。

 

 しかし相手がボンボンでコネの腰掛けと分かっているなら、能力や人格に注意を払うべきだった。

 

 そんな奴等がマトモに仕事なぞする筈がないのだから。

 

 レビルとて下っ端の時は、その手の人間に煮え湯を飲まされた経験がある筈だ。

 

 だが階級が上がった事で忘れたのか、政界進出の欲が目を曇らせたか。

 

 奴はその事を忘れてしまったらしい。

 

 もう一つについてはレビルだけでなく連邦軍の上層部に責任がある。

 

 テム・レイはルナツーに辿り着いた時から、何度も子供達を助けるよう上層部に嘆願を掛けていた。

 

 人として当然の訴え、それを握り潰していては忠誠心など失われるのは当然だ。

 

 そんな状況下でゴップがテムの報告を入手できたのは、ホワイトベース内にいた自分の息が掛かった技術士官の働きによるものだ。

 

 彼はサイド7でテムと共に宇宙空間に投げだされ、マリーによって命を救われている。

 

 その恩もあってヘビーガンダムの酷さに憤慨した彼は、自身がゴップ派閥であることを明かしたうえで、テムへこちらに報告を上げる事を促したのだ。

 

 結果、テムは上層部への不信を持ちながらも、藁にも縋る思いでゴップへ報告書を提出した。

 

 もし、これがレビルに渡っていたなら握り潰されていただろう。

 

「ともあれ、これからはホワイトベースへの支援を密にしませんとな。なにせ将軍お墨付きの希望の部隊だ」

 

 そう言葉を残すとゴップは会議室を後にする。

 

 侍従の士官を従えて廊下を歩く彼は満足だった。

 

 これでレビルの政界進出への芽を一つ潰すことが出来た。

 

 馬鹿をやらかしたとはいえ、自分の身内を死地へ送る書類にサインした人間の背中を押す者などいない。

 

 ゴップもゆくゆくは政界進出を考えている身だ、ライバルは早い内に潰しておくに限る。

 

 同時にこれは子飼いの部下だったデニーロを奪った報復でもある。

 

 今回、レビルに煮え湯を飲ませられたのは一石二鳥だったのだ。

 

 レビルのしかめっ面を思い返して胸の空く思いなゴップは、自分の執務室へ帰ると机に置かれた二枚の身上書を見る。

 

「マリー・マスにセイラ・マス。まさかジオン・ダイクンの遺児が連邦で戦う事になるとはな」

 

 ゴップは兵站管理の関係上、財界などに様々なコネがある。

 

 それが無ければ物資の調達などできないからだ。

 

 その中にはホワイトベースの操舵をしているミライ・ヤシマの実家であるヤシマ家、そしてやり手の実業家であった故テアボロ・マスもいる。

 

 如何に巧妙に隠蔽していようとも、養子縁組や亡命など行政手続きを行っている以上は痕跡は必ず残る。

 

 ゴップ程の手腕があれば、その伝手や記録を辿って二人の隠された出自を明かす事も難しくはない。

 

「このジョーカー、どのタイミングで切るべきかな」

 

 前線で冷や飯を食わされているダイクン派に彼女達の存在を流して、ザビ家の対抗勢力を仕立て上げるか。

 

 それとも、ジオンの遺児が連邦で戦っていると大々的に公表してザビ家のジオン公国支配への楔とするか。

 

 使いどころは幾らでもある。

 

 そうほくそ笑むゴップは、その恰幅の良さもあって『狸親父』と呼ぶにふさわしかった。

 

 

 

 

 青いMSの襲撃から一月近くが経った。

 

 ホワイトベースは今、中央アジアに辿り着いている。

 

 地球に降りた時に受けたジャブローへ行けって命令はどうなったのかと思わなくもないけど、多分地球におけるジオンの勢力はそれだけ広いって事だろう。

 

 これまでの旅は随分と色々な事があった。

 

 休憩の為に停泊した場所がアムロのアンちゃんのお母さんが住む場所に近かったらしく、テムおじさんが会いに行かないのかって勧めたり。

 

 あの時はアンちゃん『父さんがいるからいいよ』と秒で断ってたっけ。

 

 それにジオンの歩兵部隊に襲われて、機体に爆弾を仕掛けられた事もあった。

 

 この時はヘビーガンダムの増加装甲と両手が壊れて大変だったんだ。

 

 まあ、テムおじさんはあたし達が無事だと分かると、『取り外す手間が省けた』って小躍りして喜んでたけどね。

 

 他にも脱走したジオン兵が親を失った子供達を育てている島に行ったりもしたっけ。

 

 それからホワイトベースに来る補給の頻度が前より増えた。

 

 なんでもゴップって偉い人が手を回ししてくれているらしい。

 

 そんなあたし達に下された新しい命令は、カスピ海を越えてオデッサって場所を取り戻す作戦に参加しろって事だった。

 

「あの…ホワイトベースは軍隊ではないって話では?」 

 

 ブリッジで補給隊が届けた命令が全員に伝えられると、ミライさんが戸惑いながら口を開いた。

 

「それは……」

 

「上はもうそんな風に思っていないのだよ」

 

 言いよどむブライト中尉に代わって答えたのはテムのおじさんだった。

 

「父さん、それってどういう事?」

 

「レビル将軍はこの艦とクルーの事に期待しているんだとさ、ニュータイプ部隊なんて呼んでな。まったくもって馬鹿馬鹿しい」

 

「テム大尉、気を付けてください。上官侮辱に当たりますよ」

 

「ふん、事実を言って何が悪い。半民半官の船を最前線に送り込むなど正気の沙汰じゃない。しかも子供まで乗っているのにだ」

 

 ブライト中尉の忠告にまったく耳を貸さないテムおじさん。

 

 この頃、おじさんは上層部への不満を隠さなくなっている。

 

 補給が来るたびに『補充人員は無いのか?』『子供だけでも下ろせないか』って何度も聞いているからね。

 

 そろそろキレてもおかしくないと思うよ。

 

「あのよ、そのニュータイプってのは何なんだい?」

 

「ジオン共和国建国の父、ジオン・ダイクンが提唱した新しい人類だそうだ。詳細は知らんが新人類というくらいだ、超能力の一つでも持ってるんじゃないか?」

 

 カイさんの問いかけにテムおじさんがバカにしたように肩をすくめる。

 

 後ろにいる姉ちゃんから動揺した気配がしたけど、いったいどうしたんだろう? 

 

 気になって後ろに視線を送っていると、皆は何故かあたしの方を見ていた。

 

「……超能力、か」

 

「そう言えば、マリーは何度か敵の襲撃を予期した事があったな」

 

「というか、あの年でMSを操縦できる時点で普通じゃないでしょ」

 

「なに? あたしがそのニューなんたらって言いたいの?」

 

「断言はできねえが、そう思われる部分は多すぎるわな。自覚あるだろ?」

 

 ジト目で皆を見ると、カイさんがおどけた風に言葉を返す。

 

 ……まったく、皆して何を言っているのやら。

 

「あたしの勘が鋭いのは、ジークンドーで鍛えているからですー! リー師匠の教え通りに常在戦場の心持ちでいたら、誰でもあれくらいはできるよ」

 

「いや、その年で常在戦場の心持ちな時点でおかしいから」 

 

「そういえば貴女、朝に下着姿でサンドバッグ殴っていたわね。あれってジークンドーだったのね」

 

「あなたは! また、はしたないことしてッ!!」

 

「アウチッ!?」

 

 ハヤトさんのツッコミの後、ミライお姉さんが余計な事を言ったせいで姉ちゃんのゲンコツが落ちた。

 

 クソッ! 藪蛇だったか!

 

「とにかく、司令部からの命令である以上はそのように動くしかない。各員はそのつもりでいるように!」

 

 グダグダになりそうな気配を感じたのだろう、ブライト中尉はこう言って会議を〆た。

 

「おっちゃん。オデッサって場所、重要なの?」

 

 格納庫へ向かいながら、あたしはテムおじさんへ問いかける。

 

 地名や固有名詞がワラワラ出た所為で、さっきの会議って分からない事が多かったんだよね。

 

「地球の中でも指折りの鉱物資源の産地だからね。あそこを取り戻せば、ジオンの資源供給を断つと同時に連邦の資源生産量が大きく増える」

 

「つまり、ジオンを地球から追い出す為の一歩になるって事か」

 

 オデッサに近付くルートを行くと、マ・クベとかいう敵の大物が管理する区域へ入る事になるらしい。

 

 なので、パイロットは機体か格納庫近くで待機しないといけないんだってさ。

 

 格納庫へ着くと、見えてくるのは胸部に濃い青の増加装甲が付いているけどトリコロールカラーのガンダム2号機。

 

 その横に立つのは2号機の青の部分を赤に変えたあたしの1号機だ。

 

 ここまでくる間にヘビーガンダムだったパーツは壊れたり、途中で使えない部分を入れ替えたりと改造を繰り返した。

 

 その結果、最近になって1号機は本来の姿を取り戻したんだ。

 

 この1号機、ヘビーガンダムだった時と比べて死ぬほど使い勝手がいいです。

 

 突進力や火力は減ったけど、その代わり運動性も機動性も段違いに上がった。

 

 あと癖が無くなったお陰で凄く動かしやすい。

 

「なんというか、重装甲の機体に乗らないマリーは違和感があるな」

 

「リュウさん。ゲテモノ機体も動かせるってだけで、マチュは本来万能型のパイロットなんですよ」

 

 あたしの横で1号機を見上げるリュウさんの言葉に、アンちゃんが呆れたように反論する。

 

「というか、基本をしっかり押さえてないとイロモノなんて使える訳ないじゃん」

 

 とっつき、ハンマー、ガンランスに対艦刀。

 

 あとはハルバードに蛇腹剣、ドリルもあるか。

 

 そんな愉快痛快ロマン武器を使いこなすには、テクとセンスが必要なのですよ。

 

 あとバカみたいな練習も。

 

「その割にはハンマーは手放してないけどな」

 

「貴方のような軟弱者には分からないでしょうね。アレは悪を砕くのに必要なのよ」

 

 ちなみに姉ちゃんの言う悪は、兄と書いて『悪』と読むようです。

 

「そういえば、この頃赤い彗星って出ないよね?」

 

「左遷されたんじゃねえか? アイツ、アメリカでザビ家の坊ちゃん護れなかったし」

 

「そんな事で有能なエースパイロットを前線から外しますかね?」

 

「普通ならありえんだろうが、ザビ家は私怨で軍を動かす奴等だからな」

 

 あたしがポツリと漏らした呟きにハヤトさんやカイさん、リュウさんは議論を交わす。

 

 それに紛れて姉ちゃんが舌打ちをしたのは、聞かなかった事にしよう。

 

「それよりも僕は例の青い奴を警戒すべきだと思う」

 

「地上戦と対MS格闘に特化してるみたいだからね。キャノンやタンクで真正面から戦ったら、多分負けるよ」

 

 まあ、タンクはともかくキャノンは装甲とパワーが勝ってるから、やり方次第で勝てる目もあるだろうけど。

 

「それも大丈夫でしょ、こっちにはガンダムが2機もいるんだし。二人でボコれば、新型だってあっと言う間さ」

 

「まぁ、そうなるかな」 

 

 もしくはあたしがタイマンで相手の気を引いておいて、アンちゃんが死角から射殺するとかね。

 

 そんなパイロット同士の雑談が終わると、あたし達はそれぞれの機体へ乗り込んだ。

 

「マチュ、他の人に聞こえないように無線を切ってもらえる」

 

「内緒の話ってことだね、OK」

 

 ハッチを閉じると、姉ちゃんがこんな事を言ってきた。

 

「前に青い新型と出会った時、老人の顔が見えたって言ってたの憶えている?」

 

「あー、うん。憶えてるよ」

 

 姉ちゃんが振ってきた話にあたしは必死に脳みそを捻りながら答える。

 

 ぶっちゃけ、7割くらい忘れてました。

 

「その老人はジンバ・ラルといって、私達の本当のお父さんの同志というべき人だったわ」

 

「本当の親か、たしかサイド3の偉い人だったんだよね?」

 

「ええ。ブリッジの話に出ていたジオン・ダイクン、それが私達のお父様よ」

 

「……なんですと?」

 

 ちょっと待って。

 

 ということは、ニューなんたらとかいう新人類を唱えてジオンを作った人があたしのオトンなの!?

 

 んなアホな!

 

「じゃあ、例の青い奴はお菓子のじっちゃんが乗ってて、連邦からあたし達を取り戻しに来たの? それともジオンの敵になったあたし達を始末しに来たとか?」

 

「ジンバはMSを動かせるほど若くないわ。おそらく、乗っているのは彼の息子のランバ・ラル。ジオン軍の前身であるジオン共和国国防軍の軍人で、私達がザビ家の手を逃れてサイド3を脱出する時に手を貸してくれた人よ」

 

「ほーん」

 

 お菓子の爺ちゃんの息子ねぇ。

 

 心情的にはちょっとやり辛いかもだけど、これはこれだ。

 

 例のビジョンの理由も分かったし、襲ってくるなら次は迷わずに止めを刺そう。

 

「けど、なんでこのタイミングで父親の話するの? 姉ちゃん、そういう事あたしに教えるの嫌がってたじゃん」

 

 その所為でサイド7の時、兄ちゃんショック受けてたし。

 

「ブリッジの会話で父の名が出た時に思ったの、あなたも知っておいた方がいいって」  

 

「なるほどねぇ」

 

 まあ、戦争に巻き込まれてジオンと戦ってるし、ザビ家の坊ちゃんも殺っちゃったからなぁ。

 

 妙な因縁を付けてくる奴が出る可能性もある、か。

 

 そんな風に考えていた所為だろうか。

 

 軽くコックピットが揺れたと思ったら、通信機からアムロのアンちゃんの声がした。

 

『マチュ! セイラさん! 所属不明機が近づいてきてる! 出撃だって!!』

 

 おっとと、警報が鳴っていたのか。

 

「ごめんごめん。ちょっと姉ちゃんとプライベートな会話してて、無線切ってた!」

 

『まったく、何やってるのさ』

 

『プライベートって何の話してたんだよ?』

 

『あたしのブラのサイズについて……あいてっ!?』

 

 カイさんの問いかけにノリで応えると、後ろからヘルメットを平手打ちされた。

 

 ひどいや、姉ちゃん! 偽装工作じゃん!!

 

『へっ。そんな大平原で付ける必要なんてないだろうに』

 

「戻ってきたらドラゴンキックかますからな、軟弱者」

 

 デリカシーの欠片も無い奴め、リー師匠直伝の一撃を食らうがいい。

 

『ほら、おしゃべりはここまでだ! まずはアムロが出ろ。そしてマリー、カイ、俺達の順だ』

 

「りょーかい」

 

 というわけで、あたし達はリュウさんに指示された順でホワイトベースを飛び出した。

 

 砂漠地帯に降り立って周囲を索敵すると、カメラに映るのは妙な形をした陸上艦っぽいモノだけ。

 

『あれは敵の輸送艦? でも一隻で突っ込んでくるなんて』

 

「アンちゃん、アレ囮だよ。周りから気配がする」

 

 この感じ、一体はランバ・ラルの青い奴だな。

 

『よし! ブライト、輸送艇の相手は任せる! 俺達は左右に展開してMSを迎え撃つ!!』

 

『了解した! メガ粒子砲、スタンバイさせろ!!』

 

 敵の輸送艇とホワイトベースが砲火を交える中、ガンタンクは母艦を援護射撃、あたし達は左右を警戒する。

 

 アンちゃんは左、そしてあたしはランバ・ラルの気配がする右側だ。

 

『いた! ザクだ!!』

 

 そうしてアンちゃんのビームライフルが火を噴いた次の瞬間!

 

「そこっ!」

 

 射程内に入った気配へハンマーを放つと、砂に紛れていた青い奴が飛び出してきた。

 

 けど、どうしたのだろう?

 

 前に比べて、何やら覇気がないぞ。

 

「姉ちゃん、もう一回行くよ!」

 

「ええ!」

 

 理由はどうあれ、敵に勢いがないのは好都合!

 

「よいしょっ!!」

 

 あたしはハンマーを引き戻すと空中にいる青い奴に向けて再度投げつける。

 

『かぁぁぁぁっ!!』 

 

 しかし青い奴は鞭を右手から伸ばすと、ハンマーの鎖に絡ませて鉄球を逸らしてみせたのだ。

 

「やばっ!?」

 

 しかも鞭から電流を流すというイロモノ機能まで披露するというおまけ付きだ。

 

 咄嗟に持ち手を捨てて感電は免れたけど、相手はその隙を逃す程甘くは無かった。

 

「きゃっ!?」

 

「くっ! このっ!?」

 

 間合いを詰めると青い奴はあたしに組み付いてきた。

 

 体勢的には互いの掌を合わせてガッツリ組み合う、プロレスで言う手四つみたいな感じだ。

 

 ヘビーガンダムの時から装甲が減ってパワーも落ちたと思ってるんだろうけど甘いぞ!

 

 テムおじさんが強化されたフィールドモーターだけ移植してくれたお陰で、力は前の時のままなんだ!!

 

 ペダルを踏んでレバーを前に押し出し、青い奴をねじ伏せようとしたその時だ。

 

 整備士の人が言っていた接触回線という奴だろうか、通信機から前に聞いたオッサンの声が響いたのだ。

 

『確認する! それに乗っているのはジオン・ダイクンの遺児か!? あなたはキャスバル様! もしくはアルテイシア様なのか!?』

 

 ……なんですと?

  

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。