なんてこった、たまげたなぁ。
『君は生き残ることが出来るか」というフレーズが頭の中をグルグル回るでござる。
あと、ジークアクス放送日決定おめ。
ジオン公国の総帥府、そこでは二人の男がモニター越しに会話をしていた。
『しかし度肝を抜かれたぞ。まさか、ダイクンの娘が連邦に降ってガルマを倒すなんてな』
一人はザビ家の三男にして、宇宙要塞ソロモンを護る巨漢の強面ドズル・ザビ。
『ふん。ここを出る時は赤子と覇気の欠片も無い女児だったモノが、随分と跳ね返ったモノだ』
もう一人は実質的にジオン公国を支配していると言っても過言ではない、ジオン軍総帥ギレン・ザビだ。
『それでどうする、兄貴? この事をダイクン派や反ザビ家の人間が知ったら厄介だぞ』
そう渋面を作る弟の悩みをギレンは鼻で笑って見せる。
「なにを悩んでいる、ドズル。別に隠す事でもあるまい、知らせてやればいいのだ」
『何を言ってるんだ、兄貴! 奴等が神輿を手にしたら俺達に牙をむくに決まっている!!』
「話は最後まで聞くものだぞ、ドズル。なにもそのまま教えてやれと言っているわけではない、『奴等が連邦に弱みを握られて無理に戦わされている』と言えばいいのだ」
『なにぃ?』
「常識的に考えればわかるだろう、十歳の子供が戦場に出るなど普通ではない。大切な者を人質に取られているか、もしくはMSなどの無断使用で罪人に仕立て上げられているか。理由などいくらでも考え付くわ」
『……なるほどな。それを知れば奴等は血眼になって連邦から二人を取り戻そうとするだろう。そしてダイクンの娘達は木馬を護ろうとすれば、自分達を助けに来たダイクン派を始末せねばならんというわけか』
「奴等は我々もそうだが、地球連邦に対しても恨み骨髄な輩ばかりだ。小娘共が説得しようとしても耳を貸す事はあるまい。同時にこの策は国内や軍内に潜む反乱分子も炙り出すことが出来る」
『あれからかなりの数を見つけ出したが、奴等はまだ潜んでいるだろうからな』
「結果、ダイクンの娘達が奴等を始末するならヨシ。仮に木馬を沈めて奴等が娘達を確保しようとしたときは、後詰め部隊に我々の手のモノを配置しておいて奴等ごと娘を始末すれば万事解決だ」
『では木馬への刺客はダイクン派の者達を選ぶのだな?』
「そうだ。後詰めの部隊もしっかりと配置しておけよ」
頷いたドズルだったが、ふと何かを思い出したのか、再び口を開く。
『木馬の刺客と言えば、シャアが木馬を追ってキャルフォルニアベースを発ったらしい。基地の司令から聞いた話だとガルマの敵討ちに参加すると言っていたらしいのだが、兄貴が許可を出したのか?』
「いや。お前が謹慎を解いた、訳ではないのだな?」
『ああ。せめてランバ・ラルの結果を見るまではと思っていたのでな』
「そうか。……匂うな」
『匂うとは、何がだ? 奴とガルマは士官学校の同期、俺の命令を無視した事は褒められんが、そういう行動を取ってもおかしくはあるまい』
「もしそうなら、ガルマの訃報を伝えた後にお前の謹慎に反対するだろう。この時点で木馬を追う理由が奴にはあったのだ」
『理由? それはいったい……』
「それに付いては私の方で調べておく。もしかすると奴もダイクン派なのかもしれんからな。お前は木馬に差し向ける人員の選定と後詰めの調整を頼む」
そう指示を出して通信を切ると、ギレンは秘書官のセシリア・アイリーンを呼び出す。
「御用でしょうか?」
「演説を行う。国内だけではなく、地球へ向けてもだ。10歳の娘を現地徴用兵として戦場に出しているという、連邦軍の悪辣さを全てのモノに知らしめねばならん」
「承知しました」
セシリアが一礼をして退出するとギレンは冷たい笑みを浮かべた。
「ダイクンの娘達よ、貴様等には餌になってもらうぞ。負け犬共を引き付ける極上の生贄にな」
◆
ホワイトベースのブリッジへ通されたランバ・ラルは驚きに目を見開いた。
「こんなに少ないのか……」
戦艦を動かすには最低限、いや恐らくはそれにすら足りていまい。
しかも操舵と通信を担当しているのは軍服を纏っているものの民間人。
艦長の任を担っている者に至っては士官学校を出たばかりであろう中尉ときた。
普通なら軍の最新鋭艦を指揮するのは佐官、状況によっては将官が乗ってもおかしくは無い。
それを若造が頼りない双肩に必死で支えているのだ。
「まったく、連邦は何をしておるのだ」
虎の子のMSも軍人はパイロット候補生一人で、あとは民間人が運用している。
しかもそのうちの二人は年端のいかない子供だ。
おまけに腹の中には避難民も抱えているというのだから、どんな軍人が見ても異常というほかない。
「酷いモノですね、大尉」
「こんな子供が動かす船に、俺達は負けたのか」
部下のクランプやコズンもラル同様にショックを受けていた。
ゲリラをやっていた頃だって人員不足はここまで酷くなかった。
「あの技術大尉がワシに噛みついてきた理由が分かった」
彼は軍人として、この艦の数少ない大人として子供達を護ろうと必死だったのだ。
「あなた、これからどうするのです?」
「ザビ家はワシ等も消すつもりだろう。もうジオンにはいられん。とはいえ、この有様を見せられては連邦も信用ならん」
どうしたものか、そう考えながら顎髭を触っていたラル。
その時、ブリッジのレーダーが敵の反応を捉えた。
「未確認高熱体接近! 数は六! モビルスーツと思われます!」
「照明弾発射! 最大望遠で敵影を確認しろ!」
空に打ち上げられた眩い光が夜闇を照らす中、モニターに映った影を見てラルは息を呑んだ。
「あれは……ドムか!」
なんと近づいてきているのはジオンの最新鋭機ドム、しかも襲撃を掛けてきているモノ全てが同一の機体だった。
「しかもあの色! キシリア子飼いのグール隊ですぜ!!」
思わず上げたコズンの声にブライトが反応する。
「おい! そのグール隊というのはなんだ!?」
「敵味方関係なく残虐行為も笑ってやりやがるイカレ野郎どもだよ! キシリアのババァの権力を笠に着て他の部隊から物資を強奪したり、飼い主に不都合な奴を戦場で始末したなんて噂もある最低な奴等だ!」
ブライトの言葉に汚物でも見るような目でモニターを睨むコズン。
そんな中、ラルはギュッと拳を握り締める。
「アルテイシア様、アルマリア様」
護ると決めた娘が戦場に出ているのに自分がここにいる事が、ラルにはどうしようもなく情けなかった。
◆
ホワイトベースから飛び出した途端、あたしはぬめる様な敵意を感じた。
「アンちゃん」
『うん、敵の数は6だ』
アムロのアンちゃんも感じていたのだろう、撃てば響くように答えを返してくれる。
『おいおい、マジかよ』
『まだガンタンクのレーダーにも映ってないんだぞ。どうしてわかるんだ?』
あたし達の会話を聞いて、タンクのリュウさんと黒色に塗り直されたガンキャノン2号機のカイさんが通信越しに首をかしげている。
「勘だよ、勘。野生の獣は人間より、そういったモノが鋭いって言うでしょ」
『オメーは分かるよ、話し合いの途中でいきなり演武始める頭のおかしいドラゴン娘だから。けど、アムロの方は野生なんて程遠いじゃねーか』
「誰が頭がおかしいですって? 次はグーでいきますわよ、軟弱者」
「姉ちゃん、ステイ」
カイさんの的確かつ心無い指摘に青筋を浮かべる姉ちゃん。
私的にもアレは奇行だったので、文句が言えねえや
『僕はロボゲーのコロニーチャンプとしての勘ですかね。こういうのが鋭くないと、プレイヤー23000人の頂点には立てませんから』
『そんなもんかねぇ』
『今までのアムロの腕前を見ていると説得力ありますよ』
釈然としなさそうなカイさんにハヤトさんがフォローを入れる。
そろそろお喋りの時間は終わりのようだ。
『来ました! 10時の方向、数はアムロの言う通り6!』
『本当に当てやがった! ドラゴン娘はともかく、アムロまでニュータイプってやつなのかよ!』
「あたしは勘が鋭いだけだ! そんな風に決めつけるの禁止!」
カイさんに文句を言いながら、あたしは周囲に意識の網を張る。
打撃系の格闘技は、ある意味相手と自分との間合いの奪い合いだ。
飛んでくる打撃に対応するために、自分の周りへ制空権というべきモノを張る必要がある。
そうして神経を研ぎ澄ましていると、耳朶を小さくだけどある音が叩いた。
今までのジオン系のMSが出す足音とは別の、排気に似た空気の流れる音。
これがガンダムの収音装置が捉えたモノか、それともあたしの直感が掴んだのかは分からない。
けど、これはロボゲープレイヤーなら飽きる程聞いた音だ。
「みんな、気を付けて! 多分相手はホバー移動してくる機体だよ!」
『だから何でんな事がわかるんだよ!?』
『来たっ!』
カイさんのツッコミはアンちゃんの警告に遮られた。
そして砂漠の夜を渡る風が巻き上げる砂を掻い潜って現れたのは、今まで見た事のない機体だ。
グレーに塗られた重装甲に赤枠に十字を描くレールのモノアイが光る頭部。
そしてあたしの予想通り、奴等はホバー移動で砂漠を渡っている。
『ねえ、あれがキシリアのババァが言ってた船?』
『みたいね。アンタは回りのザコの相手しなさいよ、あたしは船を沈めるから』
『バーカ! ダイクンのガキはMSに乗ってんだぞ! 赤いキャノンタイプがお宝に決まってんだろ!』
『けど、赤いのなんて出てないぜ!』
『ジオンの姫様がホイホイ顔出す訳ないでしょ! 炙り出せばいいのよ!!』
奴等から感じるのは狂気、不信、自分勝手、殺意、侮蔑、等々。
他にもいろいろあるけど分かったのは、奴等が他人なんてクソにも気にかけていない自分だけが良ければいいって思考の人間だって事だ。
しかも、その対象が仲間全員にまで向いているんだから始末が悪い。
さっき感じた殺気通り、ここを抜かれたらクルーやラルのおっちゃんはもちろん、ホワイトベースの避難民も殺されるな。
『そらっ! 一番槍いただきぃ!!』
横列陣形を取っていた奴等の中で、真ん中にいる機体が肩に担いだ大型バズーカを放つ。
白い煙を棚引かせる砲弾が向かう先はホワイトベース。
「させないってのっ!」
あたしは頭部のバルカンを放つ。
ガンダムの額から放たれた火線は、夜の闇を裂いてバズーカ弾の進行方向へと飛ぶ。
そして鋼の雨に飛び込む形になった砲弾は、その身に弾痕を刻まれた次の瞬間に紅蓮の炎を巻き上げて爆発する。
『チッ! 舐めたマネを!』
『何が一番槍よ、だっさぁ!』
初手を防がれたのがわかった奴等は、今度は左隣にいる奴がバズーカを構える。
『そう好きにさせるかよ!』
『ハヤト!』
『はい!』
けど、二発目は許さないとばかりにキャノンとタンクが砲弾とボップミサイルを放つ。
『遅い、遅い!!』
『そんなのがドムに通じる訳ないでしょ!!』
けど、奴等はその砲弾を容易く躱して間合いを詰めてくる。
あの鈍重そうな身体なのに簡単に砲撃を躱すなんて流石はホバー機、と言いたいところだけどタネは他にもありそうだ。
「マチュ、私達も撃たないと」
「うん、ちょっと待ってね」
ガンダムの射程に入っている事に、声を掛けてくる姉ちゃんにあたしは待ったをかける。
そしてあたしの方に向かってくる右端の一体に頭部バルカンを放つと、奴は左へ回避運動を取って火線を躱す。
もう一度同じことをしても、今度は右に動いてこちらのバルカンを回避した。
「……なるほど」
どうやら今回のパイロットは少し勘がいいらしい。
『そんな豆鉄砲、通用するかぁァァァ!』
あたしは三度目に放ったバルカンを躱しながら、こちらへマシンガンを向けるホバー機。
けれどその銃口が火を噴くことは無かった。
『え…なんでっ!? ぎゃああああああっ!!』
何故なら奴が逃げた方向には、バルカンに一拍子置いて放ったビームが待ち構えていたからだ。
狙い通りにコックピットを撃ち抜かれたホバー機は、前のめりに倒れると勢いのまま砂漠の中を滑っていく。
「アンちゃん! 相手は勘が利く奴だよ! 置き射撃コンマ3!!」
『了解!』
あたしのアドバイスに、アンちゃんは迫ってきていたホバー機へビームライフルを向ける。
すると相手はビームが発射される前に左へ回避を始めた。
『そこっ!』
それを見たアンちゃんは銃口を左へスライドさせると、そこで初めてビームを放つ。
『う…嘘ッ!? いやああああああっ!?』
相手から感じた断末魔の声が悲痛なのも当然だ。
逃げた先にビームが置いてあったんだから。
これがロボゲーで高等技術と言われる『置き射撃』である。
あのゲーム、基本はオンライン対戦なんだけど、対戦をしていると偶に妙に勘のいい相手がいるのだ。
むこうは銃口を向けた瞬間、中には銃口を向けようとしている最中に回避運動を始めるから、こっちの攻撃を躱す躱す。
そこであたし達が編み出したのが、この『置き射撃』という訳だ。
あの手の輩はこっちの攻撃するモーションや意図から回避運動をするので、こっちはフェイントを織り交ぜて奴等の回避先へ弾を置くのである。
機体全体で動くあっちと腕だけを動かすこっち、どっちが早いかは言わずもがな。
照準が間に合わない時も多々あるけど、その場合は勘で撃てばだいたい当たる。
そして連中は自分の動きが読まれるなんて考えていないのが殆ど。
なので勘のいい相手を潰すのには打って付けなのだ。
さて、何時もは『ナイス、アンちゃん!』というところなんだけど、そう言う訳にもいかないらしい。
『あ…あぁ……なんだ、これは?』
『どうした、アムロ? アムロ!!』
どうやら勘が鋭くなった弊害で、アンちゃんが死にゆく相手の感情を浴びてしまったらしい。
なら先達として、バディとしてフォローせねばなるまい!
【アンちゃん! アンちゃん!!】
【ま…マチュ……僕が倒した相手から感情が押し寄せてきたんだ、なんだこれ…気持ち悪い……】
リュウさんの声が通信機から響く中、意識を集中するとアンちゃんを身近に感じるようになる。
【アンちゃん、南無阿弥陀仏って唱えて!】
【なむ…それってお経?】
【いいから早く! 大声で!!】
【な…南無阿弥陀仏ッ!!】
【これで終わり! あとはどんな恨み言を感じても気にせず無視すること!!】
【そ…それでいいのか? あんな恐怖と後悔でいっぱいだったのに】
【戦いは互いに命懸けなんだから、勝った方が生きて負けた方が死ぬのは当然! アンちゃんは勝った! 相手は負けた! 敗者を供養したら出来る事なんてない!】
【マチュ……】
【あたし達は神様じゃないんだから、敵まで助けるなんて無理! それに負けて恨むのも、勝って罪悪感を抱くのも相手にとって無礼! あたし達がやるべきは生き残るために勝つ事だけ! ──ゲームの時と同じでしょ?】
【そっか、そうだな!】
怯えていたアンちゃんの眼に力が戻ってきた。
これなら大丈夫だ。
いったいどのくらいの時間が経ったのだろう。
いや、相手の距離からすると思ったよりも時間が経っていないらしい。
『リュウさん、もう大丈夫です!』
『行けるんだな、アムロ?』
『はいっ!』
アンちゃんの方も我を取り戻してくれたようだ。
よかよか。
『ありがとう、マチュ。あと、置き射撃の調整はコンマ25の方がいいよ』
「あいさー!」
答えながら3機目をバルカンと銃口のフェイントを使って、ビームライフルで仕留める。
『いやだ! 死にたくない! しに…たわっ!?』
相手も蛇行運転で躱そうとしたみたいだけど、生憎とホバーでそれをするには機体が鈍重すぎる。
パイロット本人も気づかないような誤差を読んで撃てば、見事にコックピットへ命中してくれた。
『くそっ!? エイダまで!』
『ふざけるな! 俺達はグール隊だ! ジオン最強の部隊なんだぞ!!』
そんな怒りと憎しみが籠った声と共に、一機が手にしたバズーカを捨てる。
そして背中から剣を抜き放つと、アンちゃんへ加速のままに飛び掛かる。
『その程度で最強だって?』
けれど、アンちゃんは相手が剣を振り上げた時点で高機動型の強みを活かして相手の側面へ回り込んでいる。
『なっ!?』
『それじゃあサイド7じゃ5000位にも入れないぞ、落ちろ!!』
『ぐあああああっ!?』
そして最小限の円を描いて背後を取ると、正確にビームライフルでコックピットを射抜いてみせた。
これで4機目!
『な…なんなのよ、コイツ等! おい!』
『分かってるわよ、しゃあないわね!!』
さすがに一気に仲間を失った事でヤバいと思ったのか、ホバー付きたちの動きが変わった。
真正面から突っ込んでくるのをやめて、ウチのMS隊を囲むように円の動きでかく乱を始めたのだ。
ホバー付きの機動力を思えば有効な戦術なんだろうけど……。
「ねえ、マチュ」
「姉ちゃん、言わないであげよう」
ただ、その動きが滅茶苦茶下手クソなのだ。
一体一体で見れば、ちゃんと円形に回っていて動きも速いんだ。
けど、互いが互いを意識していないんだろう。
『あぶなっ!? なにやってんの!』
『アンタこそ道を譲りなさいよ!!』
とまあ、こんな風に円運動の最中に衝突しそうになったり、射撃をしてもタイミングが全然あってなくて散発的になったりと連携が全く取れていない。
はっきり言って、こんな即席のコンビネーションならやらない方がマシだ。
『何やってんだ、コイツ等! そらっ!』
『うああっ!?』
何度目かの仲間との衝突を避けた際、減速した隙を突いたリュウさんがポップミサイルで一体の右足を吹き飛ばした。
この時、私の脳裏にある名案が思い付いたのだ。
「テムおじさん、聞こえる?」
『ああ、何かあったのかね?』
「あの新型ってさ、一体をダルマにしたら撃墜した奴とニコイチで修理できたりする?」
格納庫に通信を繋げてそう問いかけると、次はテムおじさん以外の声が聞こえてきた。
『できるできる! コックピットだけ綺麗に撃ち抜いてたら、関節部の構造とか全部わかるから!! マリーちゃん、敵の鹵獲できそうなの?』
『こ…こら! アマミヤ少尉!』
たしかこの人って、サイド7でテムおじさんと一緒に助けた人だ。
『だって大尉! ジオンの新型ですよ! あのホバーとか興味があるでしょ?』
『ない訳ではないが、マリーちゃん達に負担を掛けるわけにはいかん!!』
「大丈夫だよ、一体は片足吹っ飛んだから、そっちを捕まえるし」
『そうか。だが無理をしてはいかんぞ』
「OK!」
あたしは格納庫の通信を切ると、次はアンちゃんに繋ぐ。
『アンちゃん。ホバー付きを一体捕まえるから、倒れた奴をダルマにして脱出できないように胸の辺り踏んづけちゃって!』
『わかった!』
水を向けるとアンちゃんの動きは速かった。
片足を失ってもうつ伏せて抵抗しようとしていた奴の腕をバズーカごとビームライフルで吹き飛ばし、次に左腕を撃ち抜くとひっくり返して胴体を踏みながら足をサーベルで切り落としたのだ。
これで奴は何もできない。
『ひぃっ!? いやぁ! やめて! 殺さないで!!』
あれだけ怯えていれば、最後っ屁で自爆するなんてことも無いだろうしね。
そして最後の一機だけど、
『赤いの! せめてお前だけでもッ!!』
あたしの後ろに回り込んで、高熱を帯びて黄色く光る刀身を振り上げて飛び掛かっていた。
次の瞬間、あたしが取ったのはライフルを手放して砂が舞い上がる程の踏み込みと共に、思い切り右手を背後へ振りぬくことだった。
「あたぁっ!!」
手首の装甲から飛び出たナックルガードに覆われた右拳が空を裂き、放たれた裏拳はホバー付きの脇腹を捉えると奴の身体を大きく吹っ飛ばす。
これは一号機がヘビーガンダムからレストアされる時に、テムおじさん達に手伝ってもらって教育型コンピューターに仕込んだジークンドーのモーションデータだ。
そしてホバー付きの身体が砂の上を転がると同時に、盾を捨てた左腕は腰の後ろにマウントしたモノを取り出す。
「姉ちゃん!」
「任せなさい!」
ガンダムの頭の上でブンブンと風切り音を立てるモノ、それは正義の怒りことハイパーハンマーだ。
「どっせぇぇぇぇぇいっ!!」
そして十分な遠心力が付いたと同時に、姉ちゃんの気合と共に凶悪な鉄球が空を裂く。
『い…いやああああああっ!?』
ハンマーは立ち上がろうとしてたホバー付きの顔面を捕らえると、重装甲などものともせずに粉々に吹き飛ばした。
頭部を根こそぎ削ぎ落されて仰向けに倒れたホバー付きは立ち上がらない。
どうやら、中のパイロットもハンマーが迫る恐怖で気絶したようだ。
「……もしもの事があるから、コイツもダルマにしとこ」
そんな訳であたしはビームサーベルを引き抜くとホバー付きの手足を切り落とした。
このまま持って帰ってもいいかと思ったんだけど念には念だ。
『これで全部……なのか?』
「カイの兄ちゃん、気を抜いたらダメ。残心は大事だよ」
『なんでマリーちゃんが残心まで心得てるんだ』
『残心ってなんだ、ハヤト?』
『武道における心得ですよ。相手を倒しても気を抜かず構えを解かないっていう』
『マチュは自分の事をベテラン武術家だって言ってたよ。ホワイトベース、敵影はありますか?』
『いや、レーダーに反応は無い』
「こっちも気配はないね。これで打ち止めみたいだよ」
『よし、MS隊は原型を留めている敵の新型を回収して帰還せよ! 鹵獲したモノには捕虜もいる筈だ、その対処もあるから艦内クルーは気を抜くなよ!』
ブライト中尉の指示であたし達はダルマにした二機と、その辺に転がっているコックピットを撃ち抜かれた残骸を回収していく。
そういえば、コックピットが無事なのは2つか。
直ったら1つはラルのおっちゃんにあげてもいいかな。