ダイクン家の二女はアホの子   作:アキ山

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 全開の前書きの曲ですが、テッカマンブレードの挿入歌『マスカレード』です。

 ううむ、歌詞を書かないで歌を表現するのは難しいなぁ


マチュと兄ちゃんのガチ謝罪

『兄ちゃん! 聞こえる、エドワウ兄ちゃん!!』

 

『なにっ!? まさか、それに乗っているのはアルマリアなのか!』 

 

 鉱山基地司令マ・クベからの要請でオデッサの支援に向かっていた闇夜のフェンリル隊。

 

 彼等はその最中に、ジオン軍で噂になっている木馬を発見する。

 

 ジオン・ダイクンの遺児を強制的に戦わせ、地球方面軍司令ガルマ・ザビを手に掛けさせた外道艦。

 

 木馬はジオンだと、そんな評価を受けている。

 

 しかし、その戦闘力は到底侮ることはできない。

 

 周り一面敵だらけの北米大陸を突破し、赤い彗星や青い巨星の襲撃を退けた実績は本物だ。

 

「隊長。あのザクのパーソナルカラー、シャア・アズナブルですぜ」

 

 古くからの部下であるマット・オースティン軍曹。

 

「ドムに乗っているガキがジオン・ダイクンの娘だとすれば、シャアもそうなるのでは?」

 

「うぅむ……」

 

 そして士官学校を主席で卒業したエリートで実働部隊のリーダーを務めるル・ローア少尉の報告に隊長のゲラート・シュマイザー少佐は思考を巡らせる。

 

 不意の遭遇であった為に偵察に徹していたのだが、まさかこんな情報が飛び込んでくるとは思わなかった。

 

 ジオン・ダイクンには3人の子供がいた。

 

 長男キャスバル、長女アルテイシア、そして次女のアルマリアだ。

 

 通信からするにドムに乗っているのが10歳で徴兵されたと有名な次女だろう。

 

 そして彼女が呼んだ『エドワウ』はジオンの遺児がザビ家の目を欺く為に名乗った偽名と見るべきだ。

 

 しかし、それだけでは確証が薄い。

 

 もし本当にシャアがジオンダイクンの遺児なら、報告するにせよなんにせよ決定的な証拠が欲しいのだ。

 

「どうします? シャアの機体もやられちまったし、一当てして助けますか?」 

 

「……無理だ、戦力に差があり過ぎる。俺達が出ても木馬を沈めるどころか、シャア少佐を助け出すこともできんだろう」

 

 現状の闇夜のフェンリル隊の手元にあるのは、ザク2機とつい最近補給で送られてきた先行型のグフだけだ。

 

 たった三機で歴戦の強者たる木馬に挑むのは無謀というべきだろう。

 

「総員、速やかに移動するぞ。我々はこの情報を本国へ送らねばならん」

 

「確定でなくても、ですか?」

 

「そうだ。疑わしいモノでも上が知れば対処してくれる。あとは情報部の仕事だ」

 

 そうして闇夜のフェンリル隊は音を立てずに木馬から離れていく。

 

 ジオンの英雄が獅子身中の虫だったという事実を手に。

 

 それが明かされた時、どのような混乱があるか。

 

 それはまだ誰にも分からない

 

 

 

 

 シャア・アズナブル、いやキャスバル・レム・ダイクンにとって、末の妹に対する認識は己が庇護すべき無力な子供だった。

 

 彼の記憶の中にあるアルマリアは何時も満面の笑みで小さな両手を広げ、甘えようと自分へ駆け寄ってくる4歳程度の幼女だったからだ。

 

 だからこそ、木馬を取り仕切る青年士官に真っ向から己の意見を押し通し、今も自分の前を堂々と歩く少女とはイメージが合わない。

 

「アルマリア、お前まで来る必要はないんじゃないか?」  

 

 シャアは眼前を行く少女にそう声を掛ける。

 

 誇り高い彼からすれば、多くの人々に責められて頭を下げる自分の姿など妹に見せたくない。

 

 しかし、振り返った妹はジト目で自分を見てくる。

 

「殺されるかも分からない事を、兄ちゃん一人にやらせるわけにはいかないでしょ。あたしも一緒に頭を下げるの」

 

 物騒な物言いに一瞬唖然となるが、シャアはすぐに妹の意図する事を理解した。

 

 そう、今から行く先に待ち構える者達にとって、自分は肉親の仇なのだ。

 

 かつて己がザビ家に抱いていた憎悪と同様の物を避難民たちが抱いているなら、先の言葉は大げさでも何でもない。

 

「ならば猶更だ! そんな事にお前が付き合う必要はない!!」 

 

 今更ながらに自分を待ち受ける危険性に気が付いたシャアは、声を荒げて妹を止めようとする。

 

「皆に謝るって言いだしたのはあたし。なのに自分が後ろにいるなんて筋が通らないよ」 

 

「避難民が暴徒と化せば、死ぬかもしれないんだぞ!」

 

「大丈夫、死ぬ覚悟は出来てる」

 

 平然と自分へ言い返す妹に激昂していたシャアは、その言葉に冷や水を被せられたような感覚を覚えた。

 

「……なんだと?」

 

「あたし、何度も戦場に出てるんだよ。なんの覚悟も無しにそんなことしてると思ってるの?」

 

 スッと鋭さを増す妹の視線、それはまるで剣呑な輝きを帯びる刃のようだ。

 

「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり。二つ二つの場にて、早く死ぬ方に片付くばかりなり。別に仔細なし。胸すわって進むなり」

 

 突然意味不明な事を言いだした妹にシャアは眉を顰める。

 

「なんだ、それは?」

 

「葉隠っていう古い本の一節。それには昔の日本にいた武士って戦士階級の心得が書いてあるの。今の言葉は『武士道とは死ぬことである。生か死かいずれか一つを選ぶとき、まず死をとることである。それ以上の意味はない。覚悟して、ただ突き進むのみである』って意味だよ」

 

 現代風の訳を聞いても、シャアにはさっぱり理解できない。

 

 何故生きようとしない? どうして死ぬ方を選ぶのだ?

 

 まるで自爆特攻をする兵士の理論ではないか。

 

 そんな物が妹の口から出た事には、悍ましさすら感じた。

 

「あたしはこの言葉を『常に死を覚悟していれば、逆に生の大切さが分かって懸命に生きることが出来る。そんな風に生きていれば、何時か散る時が来ても後悔を残す事は無い』っていう風に捉えてる」

 

「なるほど。メメントモリと同じ意味か」 

 

「自分がいつか必ず死ぬことを忘れてはいけないという警句だっけ。あれって死を意識することで今を大切に生きることができるって解釈だから、確かに似てるね」

 

「よく知っているな。誰から習った?」

 

「マスのお父ちゃんだよ。あの人は、自分の本からいろんな言葉をあたしに教えてくれたから」 

 

「そうか」

 

 シャアにとってテアボロ・マスは隠れ蓑を提供する人間以外の何者でもない。

 

 彼が殊更にアルマリアを可愛がっていた事は知っていたが、こんな事まで教えていたとは思ってもみなかった。

 

「そう言う訳だから、あたしは後悔しないように自分が正しいと思った事は迷わずやる事にしてるの」

 

「私と共に謝る事がか?」

 

「うん。だって、あたし達兄妹じゃん。誰かがバカやらかしたら、一緒に後始末するのって当然の事でしょ?」

 

 振り返った妹の言葉にシャアは呆気にとられる。

 

 再度言うが、キャスバルにとってアルテイシアやアルマリアは守るべき対象だった。

 

 だから父母の仇討を行うと決めた時、彼は妹達を巻き込まないようにキャスバルの名を捨てて姿を消したのだ。

 

 そんなシャアにとって、妹が自分の不始末を尻ぬぐいするなど想像すらしなかった事だ。

 

「おおきく…なったのだな……」

 

 我知らずシャアの口から洩れた言葉は、酷く感慨に溢れていた。

 

 この時初めて、彼の頭の中にいたヨチヨチ歩きの幼女と目の前の妹が重なったように思えた。 

 

「兄ちゃんが出て行ってから5年も経ってるんだよ。成長してるに決まってるじゃん」

 

 そんな兄に妹は満面の笑みを見せるのだった。

 

 

 

 

 避難した人達に割り当てられた大部屋、そこは今もの凄く緊迫した空気になっている。

 

 原因は兄ちゃんとあたしだ。

 

 あたしは例の賞金首の件で避難民からは疫病神扱いされている。

 

 そこにジオン・ダイクンの娘という更に狙われる要素が乗っかったのだ。

 

 そりゃあ嫌われるに決まっている。

 

 そんなあたしがジオンの軍服を着た人間を連れて来れば、むこうの嫌悪感は更に倍だろう。

 

「兄ちゃん」

 

「……ああ」

 

 そんな空気を真正面から受けた兄ちゃんは、一度大きく息を吸うと一歩前に出た。

 

「サイド7の皆さん、私はシャア・アズナブルという。今日は貴方がたへ謝罪をする為にここへ来た」

 

「シャア・アズナブルだって?」 

 

「あれがジオンの赤い彗星……」

 

 兄ちゃんが自分の名を明かすと避難民たちに動揺が走った。

 

 宇宙だと執拗にこの船を追って来ていたのがにいちゃんだからね、避難民の皆も知っていてもおかしくない。

 

「ちょっと待ってくれ。どうしてジオンのエースパイロットがこの船に現れた? ワシ等に謝るとはどういう事じゃ?」

 

 そんな避難民の皆の中から、一人のお爺さんが代表で問いを投げてくる。

 

 たしか小さなお孫さんと一緒だった人だ。

 

「貴方がたの故郷を襲ったジオン軍の作戦、その指揮を執っていたのは私だ。今、貴方がたが陥っている苦境は私にこそ原因がある。その事について謝罪をさせてほしいのです」

 

 言葉と共に頭を下げる兄ちゃん。

 

 けど、その角度は妙に浅い。 

 

 一見すると会釈みたいで、誠意というモノはあまり感じられないのだ。

 

 私も一緒に謝っているからやらないけど、正直頭を抱えたくなる。

 

 もしかして、兄ちゃんって今まであんまり謝った事が無いのかな?

 

「こ…コイツが俺達の街を……」

 

「お父さんやお母さんはコイツのせいで……!!」

 

「ゆるせねえ…ゆるせねえよ……」

 

 当然ながら避難民の皆は一気に殺気立った。

 

 ぼそぼそと聞こえてくる声には、殺意や憎悪がこれでもかと乗っている。

 

「ふざけんな、この野郎!」

 

 そんな中、一つの罵声と共に飲み終わった飲料の缶が宙を舞った。

 

 それは下げていた兄ちゃんの頭に当たって、金髪を飲み残しで汚しながら軽い音と共に地面へ落ちる。

 

「私たちの生活を滅茶苦茶にしておいて、ごめんなさいですって!?」

 

「親父を返せ! お前のザクが撃った弾でバラバラになったんだぞ!!」

 

「あたしのお母さんもよ! 謝るくらいなら最初からするなっ!!」

 

 その一投が呼び水となって、私達へ向けて次々とモノが飛んでくる。

 

 最初はゴミのような軽いモノだったのが、子供のおもちゃや皿などの重く固いモノへと変わっていく。

 

 それを大人が全力で投げるのだから、当然当たれば痛い。

 

 けれど、あたしも兄ちゃんも必死に耐える。

 

 逃げるのはもちろん、怯むのもダメだ。

 

 この状態で弱みを見せれば、一気に直接的な暴力に雪崩れ込む危険性がある。

 

「待って! なんで!? なんでマチュがそっちにいるの!? マチュ! 逃げて!!」

 

 避難民たちが口々に罵り声を上げる中、アンナの叫ぶ声が聞こえる。

 

 事情を説明してあげたいけど、この状況だとそれも難しい。

 

 そんな事を思っていると、鈍い痛みと共に襲ってきた衝撃に思わず頭が跳ね上がる。

 

 床にぶつかって甲高い音を立てたのは、手のひらサイズの文鎮のような置物。

 

 どうやら当たったのはこれらしい。 

 

 額の上から流れてきたぬるりと暖かい液体は左の眼と頬の上を通ると、床に落ちてボタボタと赤いシミを作る。

 

 どうやらさっきの事で頭の何処かが切れたらしい。

 

「あ……」

 

「アル……!?」

 

 投げた当人であろう男がバツの悪そうな表情を浮かべる中、心配した兄ちゃんはこちらへ駆け出そうとする。

 

 けれど、あたしはそれを眼で制した。

 

 今は謝罪以外にしちゃいけない。

 

 私を心配する素振りを見せただけで、相手からは誠意がないと取られるかもしれないから。

 

 そしてあたしは再び頭を下げる。

 

 傷つけられたと怒るなんて以ての外だ。

 

 理不尽と思うかもしれないけど、兄ちゃんが彼等にやったのはそれだけの事なんだ。

 

「マチュっ!!」

 

 そんなあたしに駆け寄ってきたのは姉ちゃんだった。

 

 見ても気持ちがいいモノじゃないから別室で待ってって言ったのに、どうやら隠れて様子を伺っていたらしい。 

 

「誰だよ、あれ投げたの。ちゃんとシャア、狙えよ」

 

 さすがに子供が血を流しているのは罪悪感を刺激するのか、避難民から飛んでくるモノも随分と少なくなった。

 

「さっき誰かが言ってたけど、なんでアイツがシャアの隣にいんだよ?」

 

「たしかあの子、ジオン・ダイクンの子供とか言ってたわよね。もしかして、ジオンのスパイとか?」

 

 困惑しながらもボソボソと変な事を口走る避難民たち。

 

 いやいや、スパイとか妙なレッテルはマジでやめてほしいんだけど。

 

「なあ、お前さん達。いったん落ち着こうや」

 

 そんな中、声を上げたのは被害者として避難民側にいたカイさんだ。

 

 この謝罪の前にハヤトさんやフラウお姉さん、ミライお姉さんも避難民と一緒にいてもらっている。

 

 彼等も元は民間人、兄ちゃんを責める権利はあるからね。

 

「お前、たしかMSのパイロットに志願した……」

 

「カイ・シデンだ。俺だってあの騒ぎで親父とお袋を亡くしてる、こっち側にいても文句を言われる筋合いはない筈だぜ」

 

 だろう? と確認するように問いかけると、カイさんに声を掛けた避難民は口を噤む。 

 

「あんた等がシャアを憎む気持ちは分かる。だがな、俺はあのドラゴン娘がむこうに立ってるのが気に掛かるのさ。そうは思わないかい?」

 

「たしかに……」

 

「あの子、サイド7からずっとMSに乗って戦ってたのよね?」

 

 カイさんが避難民へ声を掛けると、彼等はモノを投げるのを止めて口々に話し始めた、

 

「思えば、俺達は何時も蚊帳の外にいる。サイド7は何で戦争に巻き込まれたのか? あのドラゴン娘はジオン・ダイクンのガキだってのに、どうして俺等と同じ場所に住んでいたのか? そしてシャアが俺達に頭を下げに来た理由もサッパリだ。俺がMSのパイロットに志願したのは、そいつが嫌だったってのもある」

 

 そこで一度言葉を切ると、カイさんは周りに向けて提案する。

 

「どうだい、責めるならソイツを知った後でも遅くはないんじゃないか?」

 

 すごいな、あの人。

 

 ブリッジにいたからある程度事情を知っている筈なのに、それを全く見せずに場を支配してみせた。

 

「そうだよ!」

 

「マチュはずっと船を守ってくれたんだ! きっと理由があるよ!」

 

「あたしたちがマチュをしんじてあげなくてどーするの!!」

 

「私は知りたい! マチュがジオンのパイロットと一緒にいる理由を! だってマチュは友達だから!」

 

 カイさんの意見を後押しするようにカツ・レツ・キッカとアンナが声を上げる。

 

「そうじゃな、お前さんの言う通りじゃ」

 

 それに圧されたのか、避難民の代表みたいな地位にいるお爺さんはカイさんの案を受け入れた。

 

「てな訳でアンタの事情も話してもらうぜ、赤い彗星さんよ。個人の事情だなんて断れる状況じゃないのは分かってるだろ?」

 

「ああ」 

 

 カイさんに促されて、兄ちゃんは初めから自分の事情を語り始めた。

 

 そう、サイド3でジオン・ダイクンの子として産まれた本当に始めからだ。

 

 当然ながら話は随分と長くなったし、合間合間に姉ちゃんがツッコミを入れるから避難民の視線が冷たくなることもあった。

 

 けれど、兄ちゃんは軍事機密の事とかも隠そうとせずに全てを語り切った。

 

「君の任務は連邦のMS開発の偵察であり、サイド7で起こした戦闘は功を焦った部下の暴走が原因だという事か」

 

「親の仇討ちの為に、本当の名前も何もかもを捨てて単身ジオンへ潜り込むか。随分な無茶をするもんだ」

 

「あの子達って、知らない間に兄妹で殺し合ってたってことなの?」

 

 話を聞いた避難民たちは困惑や驚愕、中にはあたし達に憐みの視線を向けてくる人もいた。

 

「私が貴方がたへ与えた損害が許されるものではない事は重々承知しています。ですが、お願いします。この戦争が終わるまで、私に時間を頂けませんでしょうか!」

 

 そんな様々な視線を受けながら、兄ちゃんは床に跪くと深々と避難民たちへ向けて頭を下げた。

 

 その姿にはあたしも思わず呆気に取られてしまった。

 

 兄ちゃんは見るからにプライドが高そうだから、まさか土下座なんてするとは思わなったのだ。

 

「アルマリアが、末の妹が血を流すのを見て胸が張り裂けそうになった! 傷つけた者へ抑えきれない怒りも感じた! だが、私は気付いたのです。この痛みは、憤りは、私が貴方がたに与えてしまったモノだという事に! 皆様の中にはご身内を喪った方もいるでしょう。亡くなった方が還る事がない以上、本来ならこの命で贖うべきです! ですが、身を隠して暮らしていた妹達がジオン公国に狙われる事になったのは私が原因です! だからこそ私は命を懸けてこの子達を護りたい! 虫のいい話であることは百も承知です! それでもどうか! 私にその機会を与えてください!!」

 

 半ば叫びにも似た兄ちゃんの懇願を聞いた避難民たちは困惑しているようだ。

 

 それも当然だ。

 

 どういう理由があれ、財や家族を失う原因となった者を赦すなど容易な事じゃない。

 

 そんな気まずい空気が流れる中、再び口を開いたのはカイさんだ。

 

「物は考えようだと思うぜ。コイツが妹達を護るってことは、ホワイトベースを護る事にも繋がるからな」

 

「なんだって?」

 

「ドラゴン娘達はこの船から離れられない。そんな真似をしたらザビ家の暗殺者に消されるのがオチだからな。となれば、シャアは否が応にもこの船を守らないといけねえ」 

 

「そっか。あの子はザビ家の仇で、ジオン・ダイクンはザビ家の政敵だったっけ」

 

「つまり二重の意味でジオンにとっては目障りって事か」

 

「そういうこった。さらに言えば、ホワイトベースはこれからオデッサ作戦に参加する事になってる。コイツは連邦軍の地球における最大の作戦って触れ込みだ。戦力として前線に放り込まれるにしても、ドラゴン娘達の素性を利用して囮にされるにしても、ロクでもない敵に狙われるのは間違いない。そんな時に敵のエースが飛び込んできたんだ、利用しない手は無いだろ?」

 

 カイさんの言葉に誘導されて、避難民たちの心は大きく傾きつつあることが分かった。

 

「それでも…それでも俺は許せねえ! コイツのせいで父ちゃんと母ちゃんは死んだんだ!」

 

 だとしても、簡単に割り切れないのが人間だ。

 

 そして非難の声を上げたのは、あたしと同じクラスの男子生徒だった。

 

 アンナが両親を亡くした子がいると言っていたけど、多分その中の一人なのだろう。

 

「赦さなくていいよ」

 

 怒りで顔を赤くして眼に涙を溜めたその子の眼を真っ直ぐ見て、あたしはこう言った。

 

「え?」

 

「謝るっていうのはお詫びの気持ちを伝えて、二度と同じ間違いをしないっていう意思を表すこと。許す、許さないを決める権利は謝られた側にある。だから君が許せないと思うのなら、赦さなくていいんだよ」

 

 今まで学校でも家でも謝られたら許しなさいと教えられてきたんだろう、男子生徒はポカンとした顔をしている。

 

 お前はどっちの味方だと言われるかもしれないけど、兄ちゃんのやった事はそんな簡単に許されるものじゃないからね。

 

 ずっと恨まれる事も覚悟すべきだと思う。

 

 男子生徒が後ろに下がると、また代表格のお爺さんが一団の前に出た。

 

「シャア・アズナブル。やはりワシ等はお前さんの事を赦すことはできん」

 

「……そう、ですか」

 

「じゃが、お前さんの妹には借りも負い目もある。なにより、状況がお前さんへ手を出す事を許しておらん。だから、ワシ等はお前さんを見張る事にする」

 

「見張る?」

 

 お爺さんの言葉が意外だったのだろう、兄ちゃんは土下座の体勢から顔を上げた。

 

「妹さんが言ったように、謝罪は詫びと同じ過ちを繰り返さぬ意思表示だ。だからワシ等は見張るのじゃ。お前さんが今回のように民間人を巻き添えにするような愚行を犯さぬようにな」

 

「忘れんなよ。この戦争が終わっても、俺達はずっと見ているからな。お前の事を」

 

 お爺さんの言葉は、兄ちゃんが望んでいた猶予を与えると言ったのと同じ意味だ。

 

「ありがとう…ございます」

 

 だからこそ、兄ちゃんはもう一度深く頭を下げるのだった。

 

 

 

 

 謝罪が終わったあと、私は兄ちゃんと格納庫にいた。

 

「アルマリア、頭の傷は大丈夫か?」

 

「うん、姉ちゃんが診てくれたから。傷も小さいし浅いから、すぐに消えるってさ」

 

 二人してキャットウォークの柵にもたれながら話しているので、整備の人達がすれ違う度にチラチラこっちを見てくる。

 

 まあ、あたしは頭に鉢巻きみたいに包帯巻いているし、兄ちゃんは腫れた頬に仮面じゃなくてサングラスをかけているからね。

 

 目立つと言えば目立つだろう。

 

「あとアルマリアって名前、正直慣れないんだけどなぁ」

 

「そうなのか?」

 

「だって、その名前で呼ばれてたのマスの家に引き取られるまでだよ。生まれてから2カ月くらいだっていうし、物心もへったくれも無いじゃん」

 

「それは…そうだな。だが、この名は父上と母上がお前に与えることが出来た唯一のモノなのだ」

 

「それを言われるとキツいんだよねぇ。……しゃあない。兄ちゃんだけはあたしの事をそう呼ぶの許してあげるよ」

 

「そうか。なら、私の事はシャアと呼んでくれ」

 

「なんでまた?」

 

「ザビ家との因縁に決着がつくまでは、私はキャスバルにもエドワウにも戻れん。この戦争がどんな形で終わるにしてもな」

 

 そう告げる兄ちゃんにあたしは小さくため息を付く。

 

「そっか。だったら何時か言わせてね」

 

「何をだ?」

 

「お帰り、エドワウ兄ちゃんって」

 

「……ああ」

 

 ニッと笑いながら言った私の言葉に頷く兄ちゃん。

 

 再び上げた視線を辿ると、そこにはハンガーに収められたドム一号機の姿があった。

 

「───乗りたいの?」

 

「私もジオンのパイロットだった男だ。最新鋭機に興味はある」

 

 なんとも欲望に素直な兄ちゃんである。

 

「テムのおっちゃん! ドムの一号機、もう少し動かしてもいい?」

 

「構わんが怪我はいいのか?」

 

「うん。あたしが操縦するんじゃなくて、兄ちゃんが乗りたいって言ってるの。だから試乗させてもらいたいんだ」

 

 そう言うとおっちゃんは何とも言えない顔をする。

 

「大丈夫なのか?」

 

「あたしも一緒に乗るから問題なし! もし万が一のことがあっても、姉ちゃんに『正義の怒り』を持たせたら兄ちゃん絶対勝てないから」

 

「正義の怒りとは、あの凶悪な鉄球のことか……」

 

 ザクの頭を吹っ飛ばされた時の事を思い出したのだろう、少し蒼褪める兄ちゃん。

 

 うん、効果は抜群だ!

 

 

 

 

「サブシートは窮屈ではないか?」

 

「うん」

 

 操縦席に座った兄ちゃんの後ろで、サブシートのシートベルトを締めながらあたしは答える。

 

 ブリッジに連絡すると、偵察がてらその辺を流してくれと頼まれてしまった。

 

 そんな訳であたし達はホワイトベースから発進したんだけど……。

 

「ちょっ!? 速い! 速いって!! なんで出て速攻でフルスロットルにしてるの!?」

 

「私はマシンの性能を限界まで引き出す主義なのでな!!」

 

 この兄貴、出て速攻で風になりやがった!?

 

「これ、上に提出する奴だからね! パーツもあんまりないし、事故ったらシャレにならないんだよ!!」 

 

「ふっ、そんなヘマはせんよ!」

 

 くっそー! 兄ちゃんめ、めっちゃ嬉しそうだぞ!!

 

 そんな感じでホワイトベースを中心にして少しずつ円を広げるようにパトロールしていると、こちらへ向かってくる敵意を感じた。

 

「兄ちゃん、向こうの方から何か来る」 

 

「なに?」

 

「このピリピリする感じ、多分敵だ」

 

「レーダーは……今反応があった。これはMSのようだな」

 

「どうするの?」 

 

「相手の姿を確認しておこう。木馬が狙いなら、アルテイシアの為にも早めにカタを付けたい」

 

 そう言って、兄ちゃんはあたしが指示した方向へ向かう。

 

 砂地の中にちょうどいい具合の岩があったので、その陰に隠れているとあたしの耳……ううん、感覚を最近慣れ始めた音が打った。

 

 それはドムと同じホバー音、しかも三つだ。

 

「兄ちゃん、近づいてくるのは多分ドムだよ。それも三機」

 

「確かにレーダーの影は三機だが、なぜわかる?」

 

「あたしは勘が鋭いんだよ。忘れちゃった?」

 

「……そういえば、小さい時はよく分からない事に怯えて泣いていたな」

 

 そんな事を話していると、件のお客さんが見えてきた。

 

 あたし達が乗るのとは違う、全身を黒で塗り固めたドム。

 

 特徴は肩に付いた三つ並んだ黒い星のエムブレムか。

 

「あれは黒い三連星! 奴等にもドムが支給されていたのか」

 

「強いの?」

 

「ジオン軍屈指のエース達だ。まさか、オデッサが狙われているこの状況で、木馬潰しに奴等が派遣されてくるとはな」

 

 おそらくだけど、あたし達の事が表に出たからだろう。

 

 ギレンとか言うおっさんは利用するつもりみたいだけど、他のザビ家は別の考えを持っていてもおかしくない。

 

「兄ちゃん、ホワイトベースに連絡を。ここは一端退いて、全員で迎え撃とう」

 

 奴等が通り過ぎた後、間を開けて後ろから追えば挟撃する形に持って行けるかもしれない。

 

「ああ、そうだな」

 

 そうして通信機のボタンを押す兄ちゃん。

 

「木馬、聞こえるか? こちら実験中の鹵獲機1号だ」

 

 そして兄ちゃんがしゃべった瞬間、黒い三連星のドムは岩の前でピタリと止まった……なんで!?

 

『おい、聞こえたか』

 

『ああ、国際救難チャンネルだからな』

 

『木馬とか言っていたぞ。この辺に奴等の仲間がいるかもしれん』

 

 通信機から流れてくるおじさん達の声、それを聞いてあたしは自分のポカに気が付いた!

 

 しまった! 通信機、兄ちゃんに呼びかけた時のままだったんだ!?

 

『どこに隠れていると思う?』

 

『あの岩の陰が怪しいな』

 

 そう言って黒いドムの一機がこちらへ向けて近づいてくる。

 

「ごめん、兄ちゃん」

 

「これは、あの時に私へ呼びかける為だったのだろう? なら責任は私にもあるさ」

 

 通信機のスイッチを切ったのを確認して、あたしは兄ちゃんに謝る。

 

「だが、こうなっては仕方がない」

 

「うん、やるしかない!」

 

 こちらを確認する為に近付いてくる一機が、岩のすぐ近くへ来た瞬間だ。

 

「先手必勝だ! もらった!」

 

 陰から飛び出したあたし達のドムが、ホバーで横にスライドしながらバズーカを放つ!

 

『なっ! ぐおおっ!?』

 

 奇襲としては完璧に近いタイミング、だけど奴は咄嗟に身を捻る事で左腕を肩から吹っ飛ばされる代わりに撃墜を免れてみせた。 

 

『なに、ドムだと!?』

  

『気持ちを切り替えろ、マッシュ! さっきの通信では鹵獲機と言っていた! 奴は木馬の戦力だ!!』

 

『人様の機体で舐めたマネしやがって! ぶっ潰してやるぜ!!』

 

 左腕を失った奴が仲間のもとに後退して、臨戦態勢を取る黒い三連星。

 

「ならば、見せてもらおうか。黒い三連星の実力を!!」

 

 同じ機体で3対1、そんな劣勢の中で兄ちゃんは不敵に笑うのだった。

 

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