ダイクン家の二女はアホの子   作:アキ山

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死神「一般通過チワワです、通してください」

ザク「ち…チワワ?」

魔猪「ブモオオオオオッ!!」

死神「ええ、チワワです」

ザク「ドムを踏み潰しているのに?」

死神「チワワです」

魔猪「ブルっ! ブルっ!! ブルっ!!!」

ザク「咥えたグフをめっちゃ振り回しているのに?」

死神「チワワです」

ザク「やだ、この死神つよい」

死神「この子はチワワです。そして私も天パがキューティクルなチワワです。───いいね?(ザクの首に鎌を当てながら)」

ザク「アッハイ」

(シャキンッ)


マチュと魔弾の射手

 オデッサ作戦当日の朝、グラナダではキシリア・ザビが鉱山司令を務めるマ・クベとモニター越しに会合を行っていた。

 

『連邦は今日にも本格的な攻勢をかけてくるつもりのようですな』

 

「お前が事前に情報を得られなかったという事は、上層部に食い込ませていた棘は抜き取られたか」

 

『そう見るべきかと』

 

「……それでオデッサは護り切れるのか?」

 

『ご安心を。手札を一枚潰された程度で、我々の優位は揺るぎません。それよりも『リビング・デッド師団』ですが……』

 

「心配するな、奴等は使える。一緒に送った長距離ビーム砲のビッグガンと共に運用すれば、連邦軍も易々と司令部には近づけん筈だ。それに例の仕事もレーダーにも捉えられない超遠距離からの狙撃なら仕損じる事もあるまい」

 

『はぁ……』

 

 キシリアの言葉にマ・クベは困惑を隠せないといった風情だ。

 

 しかし、この反応も当然と言えた。

 

 男女貴賤の区別なく才能がある者を好むキシリアは、多くの特殊部隊を組織している。

 

 それ故に屍喰鬼隊のように癖があり過ぎる人員も多い。 

 

 しかし『リビング・デッド師団』はその中でも特に異質だ。

 

 何故なら彼等は手足を失い、その傷を義手義足で補っている傷痍軍人の部隊だからだ。

 

「奴等の上げた戦果は事前の書類で伝えているだろう。お前はそれを基に効率的な運用に努めればよい」

 

『了解しました』

 

 資料では何処ぞの暗礁宙域でデブリに紛れての遠距離狙撃で連邦軍に多くの出血を強いたそうだが、それでもマ・クベの内心ではリビング・デッド師団への疑念は消えない。

 

 キシリアが言う戦果とやらも、ごく限られた条件下でなければ上げられないものではないかと。 

 

「では頼んだぞ、マ・クベ。オデッサを見事護り、ダイクンの残滓共も始末するのだ」

 

「はっ!」

 

 しかし宮勤めの悲しさか、そんな胸中を主に吐露はできない。

 

 そんな事など露知らぬキシリアは、相変わらず似つかわしくない敬礼で応える腹心が映る通信モニターのスイッチを切る。

 

「如何にMSの操縦が上手かろうと、意識外から襲われては一溜まりもあるまい。終わりだキャスバル、そしてダイクンの娘達よ」

 

 そして謀略が成ったという確信と共に、自室で声を殺して笑うのだった。

 

 

 

 

『今度はなんだ、兄貴。今は連邦がオデッサを狙って大規模に動いている最中なんだぞ』

 

「そう喚くな、ドズル。お前にも伝えておかねばならんことが分かったのだ」

 

 一方、サイド3にある総帥府ではギレンとソロモンにいるドズルが、忙しい合間を縫って会合を開いていた。

 

『また厄介事か?』

 

「そうだ。以前、お前から聞いたシャアの妙な行動の件が引っ掛かってな。こちらで独自に調べてみた。結果、面倒な事が分かった」

 

『奴がダイクン派の人間だったというオチか?』

 

「そんな可愛いものではない。──シャアはキャスバルだ」

 

 うんざりした顔で問う弟にため息交じりに答えるギレン。

 

 それを聞いたドズルは驚きのあまり、あんぐりと口を開ける。

 

『……なんだと?』

 

「シャア・アズナブルはキャスバル・レム・ダイクンだと言った」

 

 思わず聞き返すドズルにギレンはコンソールを操作して、向こうに見えるように調査結果を表示する。

 

「X抗体の異常という自己申告によって士官学校時代にサングラスを掛ける事を許されていたそうだが、今にして思えばそれも顔を隠す為だったのだろう。奴と我々は面識があるからな」

 

『それでシャア、いやキャスバルの目的は……』

 

「父であるジオン・ダイクンの仇討ちだろうな。内側から我々の喉笛を噛み千切る気で、敢えて手駒としてチャンスをうかがっていたのだ」 

 

『むぅ、なんという執念か。それでどうするつもりだ、兄貴? 奴がダイクン派を取り纏めたら厄介さは娘達と比較にならんぞ』

 

「心配するな、ドズル。奴が木馬へ向かった目的は、ダイクンの娘達と合流する為だ。つまり、奴は妹可愛さにジオンで積み上げた今までの功績を放り投げたといっていい」

 

『つまり、このまま行けば奴は裏切り者になるという事か』

 

「そうだ。そしてジオンの兵を手に掛ければ、赤い彗星としてもキャスバルとしての名声も地に堕ちる」

 

『理由は共感できても、身内を奪われた者は納得などできんからな。だが、奴が連邦に与して我々に挑んで来たらどうする』

 

「その可能性もあるが長くは続かん。連邦に入るにはシャアはむこうに被害を与え過ぎた。奴がどれだけ優秀だろうと、途中で消されるのがオチだ。それを避ける為に、奴は機を見計らって妹と共に連邦からも姿を消すだろう」

 

『それまではダイクン派をおびき寄せる餌、逃げれば暗殺者を差し向けて始末するといったところか』

 

「そうだ。十年前は逃がしたが、こちらへ牙を向いた以上は二度も仕損じるわけにはいかん」

 

 兄の決定にドズルはため息を付く。

 

 彼は部下としてシャアに目を掛けていた。

 

 ルウム戦役の際に自分が乗っていたムサイのカスタム艦を、『ファルメル』と改名して彼へ譲り渡した事からもそれは伺える。

 

 だが、その部下が自分達を狙う獅子身中の虫だったのだ。

 

 ショックは隠しきれないだろう。

 

『しかしキシリアの奴はこの事を知らなかったのか? 諜報は奴の仕事だろうに』

 

「奴は諜報機関の長だ、ダイクンの娘の件が出た時点で掴んでいたのだろう。そのうえで敢えて我々に伝えなかった」

 

『またか……。アイツはいったい何を考えているのだ』

 

 ここまで来るとドズルは呆れるしかない。

 

 報告・連絡・相談が機能しない諜報組織など滑稽を通り越してギャグの領域だ。

 

「ドズル、キシリアに謹慎を言い渡そうと思う」

 

『……仕方あるまい。奴は独断専行が過ぎる。ただでさえ、ダイクン派のゴタゴタがあるのだ。連邦との戦争中にこれ以上政争などやってられん』

 

 ギレンの提案にドズルは諦めた顔でため息を付く。

 

 彼とて妹を処罰したいとは思わない。

 

 しかし、ここで罰せねば軍にせよ国にせよ、組織が成り立たなくなる。

 

「そうだ。今はジオンが一致団結して勝利の為にまい進せねばならん」

 

『だが、どうする? キシリアがこちらの意図を勘づいたら、奴は自分の部隊を率いて離反しかねんぞ』

 

「父の名前を使ってサイド3へ呼び寄せる。理由はダイクンの娘の始末はどうなったか、進捗具合を尋ねるといったものでいいだろう」

 

『それでグラナダから引き離したところで捕まえるんだな』

 

「そうだ。謹慎の期間はこの戦争が終わるまで、突撃機動軍に関してはお前に預けようと思う。───行けるか?」

 

『その辺は任せてくれ』

 

 ギレンの問いかけにドズルは力強く頷く。

 

 キシリアの集めた兵は曲者ぞろいなのは知っている。

 

 しかし、その程度を御せねばジオン軍を率いる将たる器は無い。

 

「では、追って連絡する」

 

 その言葉を最後に通信を切ったギレンは小さくため息を付く。

 

「オデッサは堕ちるな。さて、宇宙へ逃げてくる将官を回収する部隊を手配しなくては」

 

 そう呟くと、彼は直属の部隊へ連絡を取るのだった。

 

 

 

 

 宇宙世紀0079年11月7日、ついに地球連邦軍の命運をかけた戦い『オデッサ作戦』の幕が切って落とされた。

 

 連邦軍の中でも異色と言われる部隊 ホワイトベース隊はレビル将軍が乗る旗艦バターン号、その影武者である同型のビッグトレーと共にオデッサ鉱山基地を東側から侵攻していた。

 

 作戦開始から20分が過ぎ、未だにジオンが敷いた防衛線との接触がない中、影武者艦のブリッジでは責任者であるブレックス・フォーラが並走する白亜の船体へ視線を送っている。

 

「やはり気になりますか、准将」 

 

 提督席に座るブレックスは艦長を務める佐官の声に頷く。

 

「軍の高官を務める者で、あの船が気にならん者はおらんよ」

 

「原因は例の少女ですか。ジオン・ダイクンの娘とはいえ、十歳の子供を戦場へ送るとは情けない限りですな」

 

「ロンバート中佐の話では、件の娘はMSを降りようとしないらしい。ガルマ・ザビを倒したケジメは自分で付けると言ってな」

 

「ケジメを付けるとは?」

 

「艦が狙われないように自ら戦場に出て、仇討部隊と戦うつもりなのだろう。それを聞いた時、私は無性に軍服を脱ぎたくなったよ。子供に尻ぬぐいをしてもらう軍人、そんなモノは末代までの恥だ」

 

「……堪りませんな」

 

「ああ。だからこそ、少しでもあの艦の負担を軽くせねばならん」

 

 ブレックスの言葉に艦長以下、クルーたちは力強く頷く。

 

 今回の作戦でバターン号の次に狙われる可能性が高いのはホワイトベースだ。 

 

 なにせ、ジオンからしてみれば王族殺しの賞金首が乗っているのだから。

 

 かの船を影武者艦の護衛に付けたのも囮としての効果を更に高める為だろう。

 

 つまりホワイトベースとこの艦こそが。オデッサ最大の激戦区の一つになるという事だ。

 

「守るべき民間人を戦場に出しているのだ、それすら出来ねば我々に存在価値はない」

 

 視線を前に戻すと、ブレックスは噛み締めるように呟くのだった。

 

 一方、ホワイトベースではMS各機が出撃準備を始めていた。

 

『ゲイル・ディアスにとってこれが初の実戦だ。無茶はせずに、不具合があればすぐに引き上げるんだぞ』

 

 一番槍を務める事になったシャアは、自身のパーソナルカラーに塗られた改修型ドムの中で不敵な笑みを浮かべる。

 

「私の事を心配してくれるとはな。死ぬまで戦えとでも言われると思っていたよ」

 

『お前さんは地位も名誉も投げ捨てたのだろう? なら赤い彗星でもジオンの将校でもない、どこにでもいるタダの若造だ。そんな者に死んで来いと思う程、私は薄情ではないよ』

 

 皮肉を返したつもりだったが、思った以上に真剣なテムの言葉にシャアは逆に鼻白む。

 

『マリーちゃん達の兄貴として、もう一度やり直す気なら命を粗末にするな。お前さんが死ねば、残された二人の心に大きな傷が残るぞ』

 

「それは……」

 

 テムの言葉には技術者として、大人として下の者を案ずる真摯な思いが容易に読み取れた。

 

 それは幼い時から孤高の存在であることを己に課していたシャアにとっては新鮮なモノだった。

 

『だから無様でも情けなくてもいい、生きて帰ってこい。機体なら幾らでも直してやる』

 

「わかった。感謝する」

 

 だからこそ、シャアはテムの言葉へ素直に謝意を示す。

 

 そして気を取り直して、カタパルトへゲイル・ディアスの足を乗せようとした瞬間だった。

 

「───狙われてる!」

 

「皆、気を付けて! 敵の攻撃が来る!!」

 

 二機のガンダムが突然格納庫の入口へ持っていたシールドを投げると同時に、周囲に聞こえるようスピーカーで叫んだのだ。

 

 突然の警告、これに即応したのは歴戦の強者ランバ・ラルだった。

 

「整備員は全員格納庫の奥まで下がれ! MSは盾がある者は構えよ! 無い者は機体を盾にするのだ!!」

 

 格納庫全体へ響き渡る怒声と共に、出撃前の最終作業に当たっていた整備士達は我先にと格納庫の奥へと避難する。

 

 彼等に誰一人警告を疑う者はいない。

 

 ホワイトベースのクルーはマチュが何度も敵襲を言い当てている事を知っているし、ラル隊の整備士も酒の席でそれを聞き及んでいたからだ。

 

 そして二機のガンダムは、その間にも独自に動いている。

 

 アムロの方は壁に掛かっていた予備のシールドを取ると、被害を抑えるべくMS隊の前でそれを構える。

 

「兄ちゃん、ごめん!!」

 

 そしてマチュは機体を巧みに操作して水面蹴りでゲイル・ディアスの足を払うと、うつ伏せに身を低くしながら仰向けに倒れた兄の機体のコックピット部分を庇うようにガンダムの左手を乗せる。

 

 それとほぼ同時に、ホワイトベースの格納庫の扉、その上半分が赤熱化した。

 

 ホワイトベースの厚い装甲板が持ったのは数秒ほど、それを突き破って現れたのは強烈なビームの奔流だった。

 

「くっ!?」 

 

 その瞬間、誰とは言わない。

 

 格納庫にいる全員が悲鳴を噛み殺す為、歯を食いしばった。

 

 しかし、格納庫を襲った高出力ビームが本命の獲物に牙を突き立てる事は無かった。

 

 原因は事前に入口へ投げられた2枚のガンダムシールド。

 

 空中に浮くそれはビームを真正面から受け止めるのではなく、斜め上に反らす形で我が身をビームの軌道に差し込んだからだ。

 

「ビームが……逸れていく!」

 

 眩い光の中で繰り広げられる光景を、シャアはモニターとサングラスという2枚のフィルターを通して見ていた。

 

 そう、二枚のガンダムシールドには正史には無い秘密があった。

 

 それは耐ビームコーティング技術。

 

 ホワイトベースが転戦を続ける間、テム・レイ技術大尉が加えたモノだった。

 

 彼は連邦がビーム兵器を実用化した時から、何時かはジオンも同様のモノを作ると見越していた。

 

 だからこそ、パイロットの生存率を高める為にビームに対する防御策を考えていたのだ。

 

 彼の仕込んだ一手は、見事に仲間たちの命を救ったのだ。

 

 ビームの奔流が尽き、半ば融解した二枚の盾が床へ落ちて大きな音を立てる。

 

 その瞬間、誰よりも早く動いたのはマチュのガンダムだった。

 

「そこっ!!」

 

 身を起こすと同時に放ったビームライフルの一射。

 

 破損した隔壁の間を縫うように外へ飛び出したそれは、オデッサの地平の向こうに届くと大きな爆炎となった。

 

「やったの、マチュ?」

 

「ううん、躱された。相手は随分と勘が鋭いみたい」

 

 後ろに乗るセイラの問いかけにマチュは小さく首を横に振る。

 

「ならば、上がった爆炎はスキウレなどのビーム砲台だな。あれほどの威力を持つビーム兵器をジオンはまだ携行できるサイズまで小さくしていない筈だ」 

 

 そんな彼女達の会話を繋げたのは、機体を起こしたシャアだった。

 

「兄ちゃん、大丈夫?」 

 

「ああ、助かったよ。それより、アルマリア。先ほどのスナイパーが何処に行ったか分かるか?」

 

「ちょっと待ってね」 

 

 シャアの問いかけから数秒ほど間を置いて、作戦のデータなどが表示されるサブモニターに一つの地図が浮かび上がる。

 

「その辺りから気配がする」

 

「わかった」 

 

 地図の一角にピコピコと光るマーキング、それはサングラスに隠れたシャアの瞳に剣呑な光を灯す。 

 

「こちらはシャアだ。今の射撃はMS用のビーム砲台による可能性が高い」

 

『それで被害は!?』

 

 ブリッジへ通信を繋げば修羅場と化しているのだろう、ブライト中尉の半ば叫びのような問いかけが返ってくる。

 

「アムロ君とアルマリアのお陰でハッチが半分吹っ飛んだだけで済んだ。それより木馬の高度を下げた方がいい。うかうかしていると二射、三射と飛んでくるぞ」

 

『わかった! ミライ、高度をギリギリまで下げてくれ! フラウ・ボウ、バターン・フェイクに警告を出せ! MS隊は順次発進!!』

 

 ブリッジからの発進許可を受けたシャアは機体を入り口まで進めると、残っていたハッチの下半分を蹴り開ける。

 

 そして腰部のホルスターからMS用のスモークグレネードを抜き取ると辺りに煙幕を焚く。

 

「これでスナイパーも先ほどのような真似はできん筈だ。先に出るぞ!」

 

 そして降下中のホワイトベースから宙へ躍り出ると、背部のロケットモーターを全開にしてカッ飛んでいく。

 

 一気にジオンの防衛線へと駆け抜けたゲイル・ディアス。

 

「な…なんだ、あの機体は!」

 

「連邦の新型か!?」

 

 その最初の獲物は飛んできた自分に足を止めたグフだった。

 

「敵を目の前にして足を止めるとは、迂闊だな!!」

 

 降下と共に放たれたビームライフル。

 

 その閃光はグフのコックピットを正確に射抜くとゲイル・ディアスは倒れようとする屍を踏み台に更に跳ぶ。

 

「よくも…よくも隊長を!!」

 

 飛び去ろうとするこちらへ、グフの随伴であろうザクがマシンガンを向ける。

 

「甘いっ!!」

 

 しかしその銃口が鉛玉を吐き出す前に、ゲイル・ディアスの大型バックパックのサブアームに備わった100mmマシンガンによってハチの巣となった。

  

「MSが空をっ!?」 

 

「赤い機体だと! シャア少佐の猿真似か、アースノイド!!」

 

 そんな彼の前に次なる敵が立ちはだかる。

 

 それは空の王者たる戦闘機、二機のドップだ。

 

 彼等が猛禽のように急降下でゲイル・ディアスへ近づくと、ミサイルという爪で獲物を引き裂こうとする。

 

「残念だが猿真似ではないのだよ!」

 

 ジオンに周波数を合わせている為に聞こえる敵パイロットの言葉に嘲笑を浮かべながら、シャアは左手に持ったビームサーベルを一閃させる。

 

「なっ!?」

 

「ぐわぁっ!?」

 

 すれ違い様の一刀によって二機纏めて横に両断され、空中で火球に変わるドップ。

 

 しかし、その頃にはゲイル・ディアスはすでにいない。

 

 宙間用とはいえ、フルアーマーガンダムに爆発的な機動力を与えたバックパックだ。

 

 それはドムを基礎とした重MSに空を駆けさせるには十分な推力を秘めていた。

 

「悪くない! この加速、この身体を押さえつけようとするGを克服する快感! ルウムの戦いを思い出す!!」 

 

 普段の不敵な笑みとは違う、まるで玩具を貰った子供のような笑みを浮かべるシャア。

 

「な…なんだ、あれは!?」 

 

「落とせ! このオデッサで好き勝手にさせるかよ!!」

 

 ドムを隊長にしたグフとザクの3機小隊。

 

 彼等はジャイアントバズとザクマシンガン、そしてグフのハンドマシンガンで迫りくるシャアを迎撃しようとする。

 

「その程度では当たりはせん!」

 

 しかし、シャアは襲い来る弾丸を足の熱核ジェットとブースターをまるで宙間戦闘のスラスターのように使い。巧みに弾幕の間を切り抜ける。

 

「まずは二つ!」 

 

 そして迎撃の合間を狙ってビームライフルを連射。

 

「ぐわぁっ!?」

 

「そ…そんなぁっ!?」

 

 二条の光弾がザクとグフを撃ち抜き、垂直に崩れ落ちる僚機にドムが気を取られた瞬間──

 

「沈め!」

 

「ぐわあっ!?」

 

 ゲイル・ディアスはドムの肩に乗ると、頭部に突き立てたビームサーベルで股間まで串刺しにする。

 

「その機体に付いていけない僚機が仇となったな。MSに無理解な上官の下に付いた我が身を呪うがいい」

 

 そしてドムが倒れる前に、その体を踏み台にまたしても大空へ飛び立つのだ。

 

「素晴らしい機体だ! ドムとは比べ物にならない! 感謝するぞ、テム大尉!!」 

 

 ゲイル・ディアスの機動性と火力に満足しながら接触する者を次々と屠っていくシャア。

 

「あの機体、ま…まるで赤い彗星だ!?」

 

「馬鹿な! 連邦にも赤い彗星がいるというのか!?」

 

 オデッサにいるジオン軍人達に恐怖を振りまきながら、ゲイル・ディアスは奔る。

 

「……あれか」

 

 そうする中、マシンガンを手に前線へ出ようとしている一機のザクがモニターに映る。

 

 パーソナルカラーでもなければ、独自のエムブレムを刻んでもいない。

 

 それでもシャアは、その機体がスナイパーだと確信した。

 

「どこへ行こうとしているかは知らんが、逃がすわけにはいかんな!」

 

 だからこそ、彼は加速もそのままに土煙を上げて哀れな獲物の前に降り立つのだ。

 

 

 

 

 

 時間は数分前に遡る。

 

 オデッサ司令部の外縁、そこには背後の爆発から半ば転がるようにして逃れる一機のザクがあった。

 

 そのザクのパイロットの名はダリル・ローレンツ、ホワイトベースの格納庫へビームを叩き込んだ狙撃手だ。

 

「はぁ…はぁ……」

 

 ダリルは、一瞬前まで自分の首に掛かっていた死神の鎌の感触に冷や汗が止まらなかった。

 

「まさか、俺の位置を読んで撃ち返してくるなんて……」

 

 あの時、直感に任せてビッグガンから離れていなければ、砲台ごとコックピットを撃ち抜かれて終わりだった。

 

 直前に感じた抜き身の刀のような殺気、アレを思い出しただけで震えがくる。

 

『ダリル、お前は下がれ!』

 

『ビッグガン無しで戦うのは流石にキツいからな!!』

 

 鉱山基地司令部の外縁を囲うように配置された10基のビッグガン。

 

 それはオデッサの各方面から侵攻してくる連邦軍へ強烈なビーム射撃を浴びせている。

 

 彼等『リビング・デッド師団』こそがオデッサ鉱山基地最後の守りであり、強靭な矛でもあった。

 

「……すまん」 

 

 仲間たちの気遣いにダリルは申し訳ない気持ちを噛み殺して乗機であるザクを走らせる。

 

 彼等は傷痍軍人、皆四肢のいずれかを欠損している者達だ。

 

 現にダリルも随分前に両足を失い、今ペダルを踏んでいるのは義足である。

 

 それ故に彼等はパイロットとして通常の兵に比べて劣る。

 

 義手や義足では咄嗟の反応にどうしても遅れが出るからだ。

 

「クソッ! 最初にブリッジを狙っておけば……!」

 

 だからこそ、ダリルは最初で最後の狙撃、その狙いが格納庫であった事を悔やむ。

 

 あれが艦橋だったなら木馬を落とす事も可能だったのだ。

 

 しかし、格納庫を狙うのはキシリア・ザビからの厳命だった。

 

 逆らう事など到底できない。

 

「けど…俺は……!」

 

 歯が軋むほどに強く食いしばったダリルは、義足でフットペダルを押し込む。

 

 すると彼のザクは後方ではなく前線へ向けて走り出す。

 

 みすみす大物を逃したうえに、最大の武器だったビッグガンまで失った。

 

 その悔しさと仲間たちへの申し訳なさがある限り、彼は闘いを終えるわけにはいかない。

 

「俺は…俺はまだ戦える!」 

 

 腰のマウントしたザクマシンガンがあるし、ショルダーシールドの内側にもヒートホークを仕込んでいる。

 

 そう自分を鼓舞しながら前線へと出ようとした時だった。

 

「うわっ!?」 

 

 轟音と共にダリルの目の前に何かが落ちてきたのは。

 

「な…なんだ!?」

 

 濛々と立ち込める土煙に視界を塞がれる中、ダリルはその中に何があるのかとモニターを見る目を凝らす。

 

「あ…あれは……!?」

 

 そして黄土色のヴェールを振り払って現れたモノを見た瞬間、彼の背に冷たいモノが奔った。 

 

「お前が木馬を狙った狙撃手だな?」

 

 通信機から聞こえてくる若い男の声、それは言葉こそ問いかけだが中に仕込まれているのは絶対的な確信だ。

 

「あ…赤い……MS」

 

「私の妹達を殺しかけたツケ、その命で払ってもらおうか!!」 

 

 赤い重装甲の身に纏ったオーラとなって目で見える程の怒気、それを前にダリルは理解した。

 

 『これが俺の死』なのだと。 

 

 




オデッサのとあるガノタ

ガノタ「1年戦争でジオン兵、そしてオデッサ配属。しかも乗機はザクと来た。……死亡フラグが群生しすぎて前が見えねえ」

ガノタ「今まで生き残る事に必死で世情の事はよく分からんが、何か原作と変わった事はあるのか? ……あ、なんかガルマの葬式でガンキャノン映ってたな」

ガノタ「だが諦めるな、俺! オデッサを生き延びれば、まだワンチャンある! 北米でノイジー・フェアリー隊とお近づきになって、アルマちゃんを嫁に貰うんだ!!」

ガノタ「そんな事を考えながら前進していたら、目の前にホワイトベースがあるでござる。神よ、アンタそんなに俺の事が嫌いか?」

ガノタ「落ち着け! 天パにさえ見つからなかったらいいんだ!! この時期のカイとハヤトなら、上手くやれば凌げる!!」

ガノタ「!? なんか赤いリックディアスとギャンの相の子みたいなのが飛んでった! なんじゃありゃあ!?」

ガノタ「ひぃぃぃぃぃっ!? が…ががが……ガンダムが二匹ぃ!?」

ガノタ「あ…青いドム!? ギレンの野望でテンパを破った青いドムだとぉ!?」

ガノタ「ぎ……ギバーーーーっ!! ギバーーーー―ップ!!」

 こうして一人のジオン兵が戦わずしてホワイトベースへ投降した。

 パイロットスーツを脱いで、パンツ一丁でランニングシャツを棒に括りつけた白旗を振る姿は哀愁に満ち満ちていたと、ブライト中尉は答える。

 ジオン軍からは最低の腰抜け野郎と誹られる事になった名もなきガノタ。

 同じガノタ達は彼の判断を腰抜けと笑うか、それとも英断と称えるか。

 その答えは誰にも分からない。
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