ダイクン家の二女はアホの子   作:アキ山

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ガノタのフェンリル隊へ一つの任務が下された。

内容はオデッサ作戦にて、連邦軍の旗艦バターン号を本隊が狙いやすいように、戦場に複数ある影武者を撃墜する事だ

影武者には悪名高い木馬と白い悪魔が2機、そしてガルマ・ザビ大佐を討った赤い悪魔と同型機が確認されている模様。

そして未確認だがジオンから離反した裏切者の部隊も目撃されたという報告があった。

また、影武者の方にも連邦軍のMS部隊が配備されている可能性がある

どのようなモノが現れるかは未知数だが、君ならきっと成し遂げてくれるはずだ。

作戦の成功を期待する。

機体を選択してください。

ザクⅡ

ゾゴッグ

イフリート


マチュとオデッサ作戦

 怒りのままにスナイパー、ダリルの駆るザクへ襲いかかったシャア。

 

 しかし、その怒りも眼前の男の奮闘に鳴りを潜めていく。

 

「私とゲイル・ディアスを相手にザクでよくやる。この男、アルマリアの言う『勘がいい』部類か」

 

 自身の放ったビームをまるで弾道を予測しているかのように躱すザク。

 

 その先読み染みた回避行動に既視感を覚えたシャアは、サングラスの奥で目を細める。

 

「うおおおおおっ!!」

 

 冷静さを取り戻したシャアとは裏腹に、雄たけびを上げてダリルはザクの手にしたマシンガンを撃つ。

 

 しかしフルオートではなく、3点バーストだ。

 

 そして銃口から吐き出された弾丸はゲイル・ディアスの顔を覆う面のスリットや腕の関節など、重装甲の隙間を縫うように牙を向く。

 

「ちっ!」

 

 その鋭さに舌打ちを漏らしながら、シャアは脚部の熱核ジェットと大型バックパックを巧みに使って回避する。

 

 彼が性能の劣るザクⅡで赤い彗星に食らいつける理由は2つ。

 

 一つはダリル・ローレンツが持つ避け勘の鋭さと、マシンガンで狙撃が出来る程の射撃精度の冴え。

 

「ダリルをやらせるかよ!」

 

「落ちろ、赤い彗星モドキ!!」

 

 仲間が窮地に陥っている事を知ったリビング・デッド師団が、ビッグガンを射角限界まで廻して援護射撃を行っているからだ。

  

「たしかに、その武器の威力ならゲイル・ディアスでも耐えきることはできまい」

  

 ダリルの攻撃を躱したところに殺到する幾度目かの死の閃光。

 

 それを前にしても、赤い彗星と呼ばれた男の顔に絶望はない。

  

「だが、それ故に射撃は精密さを欠き、動くMSを狙うには相応の腕が必要となる!」

  

 シャアは襲い来るビーム一射目を大型バックパックの推力を活かした大ジャンプで躱し、

 

「ならば、この機体を預けられた者として、簡単に当たってやるわけにはいかん!!」

 

 飛んだ先を狙った二射目を脚部の熱核ジェットとブースターユニットを使って空中での軌道を変更する事で回避する。

 

「嘘だろっ!?」

 

「あんな躱し方できんのかよ!?」

 

 ゲイル・ディアスの機動は通常のパイロットから見れば神業の域だった。

 

 そも重力下で宙間戦闘染みた動きなどMSは想定されていない。

 

 仮にそれを成す為には、鋼鉄の機体を飛ばす大推力の推進機関が必要なのだ。

 

 戦闘中にそれが生み出すGに耐えながら繊細な設定を操作するなど、F1カーを走らせながらプログラムを組むのと変わらない。

 

 しかも少しでも機体の位置がズレれば、ビームに焼かれてお陀仏な状況でだ。

 

 超絶の腕と度胸無くば為せる事ではない。

 

「クソォッ!!」

 

 ダリルもそれが分かるので、より一層焦燥に駆られる。

 

 自分が相手にしているのが化け物だと肌で感じているからこそ、ここで赤い機体を仕留めなければ自分も仲間も死ぬという恐怖が拭えない。

 

 だが、それこそがダリルの判断を誤らせた。

 

 如何に超常の腕を持つパイロットでもビッグガンを躱せば隙が生まれる。

 

 そのチャンスを逃すまいと、ダリルは入れ込みすぎていたのだ。

 

「ぐっ!?」

 

 だからこそ、彼は気付かない。

 

 宙を舞う赤い機体が太陽を背にしていたことに。

 

 コックピットを狙うべくメインモニターを凝視していたダリルは、わずかに降下軌道をズラしたゲイル・ディアスの背後から差し込んだ陽の光に目を焼かれる。

 

「遅いッ!!」

 

 ザクが見せた一瞬の硬直、その間にシャアはビームライフルに代わってサブアームから持ち替えた100mmマシンガンを構える。

 

「ぐあぁっ!?」

 

 我に返ったダリルがトリガーを引くより早く放たれたのは三点バースト射撃。

 

 もし彼に雷鳴が奔る宙域でジャズを引き連れた死神と戦った経験があったのなら、万が一にも躱せたかもしれない。

 

 しかし死闘を経験した事も無く、心理的プレッシャーから今まで自身を何度も救ってきた避け勘、ニュータイプの直感ともいえるモノが鈍ったダリルには不可能な話だ。

 

 一射目で武器ごと右腕が撃ち抜かれ、一拍子置いて左膝を砕かれて機動力を殺される。

 

 それは先ほどまでダリルがやっていたマシンガンによる狙撃だった。

 

「その勘の鋭さは少し厄介だったが、アムロ君やアルマリアに比べれば大した事は無いな。──沈めっ!」

 

 そして逃げられなくなったところに、シャアは弾倉に残った弾を全てダリルへ叩き込む。

 

「ぐぉわあああああああっ!?」 

 

 ザクを撃墜する事を主眼に開発された特殊徹甲弾は、超硬スチール合金の装甲を容赦なく食い破りパイロットごとジェネレーターをハチの巣にする。

 

「ダリルゥゥゥゥッ!?」 

 

 内側から噴き出した爆炎の中に消えた仲間のザクに、リビング・デッド師団の仲間は悲鳴を上げる。

 

 しかし、彼等に他人を心配する余裕などなかった。

 

「よくもダリ……ごわぁっ!?」 

 

 仲間の仇に気を取られていたリビング・デッド師団の一人が、突如として襲いかかってきたビームに乗機のザクをビッグガンごと撃ち抜かれて爆発する。

 

「一つ!」

 

 ビームが飛んできた方から現れたのは流星の如きスピードで奔る白いMS

 

 ジオン軍の者達に恐怖を植え付けてきたガンダムだ。

 

「バロウズ!? ちきしょうっ!」

 

 スコープ越しにその姿を見たリビング・デッド師団の一人は、仲間の仇を取ろうと歯噛みしながらロックオンのマーカーが揃うのを待つ。

 

「なっ! はやっ!?」

 

 しかし、白いMSはそれを待ってはくれなかった。

 

「二つ!!」

 

 あまりにも短い死刑宣告と共に自身へ向けられた奈落のような銃口、それが彼が見た最後の光景となった。

 

「シャアさん、大丈夫ですか?」

 

 ビームの閃光という死神の鎌で生ける屍の名を持つ2体の射手の首を断ったアムロはシャアの傍らに降り立つ。

 

「ああ、問題ない。木馬を狙ったスナイパーは勘の鋭い相手だったが、君やアルマリアと比べるべくもなかった」

 

 そんな仲間からの通信にシャアは右手の武装をビームライフルに戻しながら不敵な笑みを返す。

 

「こちらへ来たのは君一人のようだが、木馬の方は無事なのか?」 

 

「ええ、父さんが中心になって格納庫のダメコンをしてくれたので。今はマチュやラルさん達を直衛に付けて、バターンフェイクと一緒に僕達を追ってきている筈です」

 

 アムロの答えを聞いて、シャアは内心で安堵の息を付く。

 

 最小限に抑えたとはいえ、木馬が負った損傷は決して小さくない。

 

 格納庫以外の場所にダメージが及んでいた場合、航行不能になる可能性もあるのだ。

 

 そしてここは敵の本拠地、動けなくなった船がどんな末路を辿るかなど言わずもがなだ。

 

「ただ、少し妙な事があったんですよ」

 

 アムロは首を捻りながらシャアへと切り出す。

 

 もちろん、その間も敵陣のど真ん中に切り込んだ紅白の二体へ敵は殺到している。

 

 グフのハンドマシンガンを横っ飛びで躱すと同時にコックピットをビームライフルで射貫き、返す刀で右側から間合いを詰めてきたザクの顔に頭部バルカンを浴びせて怯ませると、抜き打ちのビームサーベルの袈裟斬りで溶断する。

 

「妙な事? いったい何があった」

 

 一方のシャアもその場に留まってはいない。

 

 ツーマンセルで襲い来るドムのバズーカを構えた方をバックパックのロケットモーターが生み出す加速を込めた蹴りで吹っ飛ばし、そのドムにビームライフルを叩き込むと同時に踏み台にして残った一体へ襲いかかると、すれ違いざまにビームサーベルで胴を薙ぐ。

 

「ジオンの守備隊がドンドン投降してくるんですよ。僕がコッチに来るまでに、10機くらいのMSパイロットが機体から降りて白旗を振ってたんじゃないですかね」

 

「ふむ……アルテイシアやアルマリアの事をギレンが大々的に喧伝していたからな。それはダイクン派の可能性がある」 

 

 ビームライフルやサーベルが閃く度に守備隊の機体を葬っているアムロの報告に、シャアは少し思考を巡らせる。

 

 その間にもサブアームに取り付けたマシンガンの銃口を左右に向けて、挟撃を図ったザク2体をハチの巣にするのだから大したものだ。

 

「どっちかって言うと、ラルさんの機体を見てビビっていた感じがしましたけど」

 

「ラル大尉はジオン軍でも猛者で知られている。彼が木馬に寝返っているという事実も投降者を増やす要因なのかもな」

 

 などと呑気に話をしている間に、二機の周りには死屍累々と破壊されたMSの残骸が積み上がっていく。

 

「なんだよ、コイツ等は!?」

 

「ば…バケモンだ……」

 

 これには司令部防衛を任された手練れも包囲したまま、足を踏み出すことが出来ない。

 

 エースパイロットの条件が己の立つ戦場を支配する事なら、二人はそう呼ばれる資格が十分にあった。

 

「さて、敵の司令部は目の前だが……どうするアムロ君?」

 

「マチュやセイラさんからは貴方を連れ戻すように言われているんですけどね。ここまで来て引き返すのも勿体ないでしょう」

 

「そうだな。飛び出した手前、手土産の一つも無ければ恰好が付かんか」

 

 ひり付くような空気の中、シャアとアムロが選んだのは前進だった。

 

 紅と白、二つのエースが突撃の姿勢を取った事で包囲していた守備隊にも緊張が奔る。

 

 限界まで膨らんだ風船が破裂するような緊張感、それが弾けようとした瞬間だった。

 

『オデッサ作戦の総司令官レビル将軍、聞こえるか?』

 

 そこにいた全ての機体の通信機から神経質そうな声が戦場に響き渡ったのだ。

 

「これは……!?」

 

「この基地の総司令、マ・クベだ」

 

 軍の回線ではなく全ての者に聞こえる広域通信、そんな物で敵の司令官に呼びかけるなど普通の事ではない。

 

 ジオン・連邦の双方が戸惑う中、マ・クベは更なる言葉を紡ぐ。

 

『私はマ・クベ、このオデッサ鉱山基地の司令だ。貴官へ警告する。当方には水素爆弾を使う用意がある、そちらが手を引かねば甚大な被害を被る事になるだろう』

 

「核兵器!?」

 

「馬鹿な!? 奴は南極条約に違反しようというのか!」

 

 マ・クベの通信を聞いた多くの者が息を呑んだ。

 

 その中にはアムロとシャアも含まれている。

 

『もちろん、我々も南極条約は心得ている。しかし、こちらも負けるわけにはいかぬのでな』

 

 誰に対するモノか分からない嘲りを含んだマ・クベの言葉、それを聞いたバターン号の内部は混乱の中にあった。

 

「やはり水爆を使ってきたか!」

 

「エルランから絞り出した情報通りでしたな」

 

「潜入させていた特殊工作隊はどうなっている!?」

 

「数分前の通信では、敵の抵抗が激しく爆弾のもとへ辿り着けていないと!」

 

 司令部は裏切り者のエルランから、オデッサ基地に使用可能な核弾頭を搭載した大陸弾道弾がある事を聞きだしていた。

 

 それ故に作戦開始以前に特殊工作隊を鉱山都市へ潜入させ、秘密裏に核弾頭を解除しようとしていたのだ。

 

 しかし、マ・クベは抜け目のない男であった。

 

 虎の子であるミサイル発射口に司令部と負けず劣らずの重警戒網を敷いていたのだ。

 

 それ故に作戦前に核弾頭を使用不能にするはずだった特殊部隊は、未だに任を果たせずにいた。

 

「どうされますか、レビル将軍?」

 

 副官の大尉に問いかけられたレビル将軍は一言も発することなく手を前に傾ける。

 

 それは進軍せよという意思表示だった。

 

 

◆ 

 

 

 時は少し遡り、ホワイトベース狙撃からしばし。

 

 連邦軍旗艦の影武者であるバターン・フェイクは、ホワイトベースとそのMS隊と轡を並べて進軍していた。 

 

「一時はどうなる事かと思いましたが、ホワイトベースの被害が少なくてよかったですな」

 

「ああ」

 

 艦長の言葉にブレックスは同意を示す。

 

 あの時はブリッジにいる者全てが肝を冷やした。

 

 命中したのはMS用ハンガー、そこには少年少女達が出撃準備をしていた筈だったのだ。

 

 幸い人員に被害は無かったものの、もしあれでホワイトベースのパイロット達が死んでいたらブレックス達は自分を許せなかっただろう。 

 

「レーダーに感有り! 前方から大型の機影が接近中、識別はガウ攻撃空母です!!」 

 

「総員、対空迎撃準備! ラリー少尉にガウのエンジンを狙撃で狙えるか打診するんだ!!」

 

 レーダー手の報告によって、しんみりとした空気は一瞬にして吹き飛んだ。

 

 地上を行くビッグトレー級にとって爆撃機は天敵と言える。

 

 それがMS輸送も可能とする攻撃空母なら猶更だ。

 

「はい! え、マリーちゃん!?」

 

 艦長の指示にオペレーターのノエル・アンダーソンが頷くが、それもすぐに驚愕にとって代わる。

 

「何があった? 通信をこちらへ回せ!」

 

『ごめんね、艦長さん! ちょっと甲板借りる!!』

 

 艦艇用の大型通信モニターに現れたマリーがそう告げると、すぐにバターンフェイクに振動が奔った。

 

「なんだ!?」

 

「ガンダムです! マリー機が本艦を踏み台にしてホワイトベースへ跳びました!!」

 

 メインモニターに大写しとなった胴体が赤いガンダムの後ろ姿。

 

 それはホワイトベースの甲板に飛び乗ると、背中と足の裏のスラスターを吹かして宙へ跳ぶ。

 

「ガンダム、ガウへ向かっていきます!!」

 

「まさか、空中戦でガウを落とすつもりか!?」

 

 敵機の接近に気付いたのだろう、ガウもメガ粒子砲や対空砲火を展開して撃墜しようと攻撃を開始する。

 

『おっとっ!』

 

 しかし、そのハリネズミのような弾幕をガンダムはスラスターを操作して巧みに躱していく。

 

 そしてガウの艦橋の前に辿り着くと、腰の後ろから取り出したのは鎖に繋がれた凶悪な鉄球だった。

 

『姉ちゃん!』

 

『ええ!!』

 

 それを頭の上でグルグルと振り回し、遠心力をたっぷりと加えるガンダム。

 

『撃滅ッ!!』

 

 そうして放たれた質量兵器はガウの艦橋を一撃で叩き潰した。

 

『ラルのおっちゃん! MSが降りたよ!』

 

『数は7機! 普通のザクが2、キャノンタイプが2! グフが3です!』

 

『了解した! リュウ、カイ! 君達は落下中のMSに砲撃をくれてやれ! コズンはワシと機動力で奴等を掻き回す!! クランプはその隙を突いて格闘戦に持ち込め!!』

 

『了解!』

 

『了解ですぜ! 兄ちゃんたちもしくじるんじゃねえぞ!』

 

『誰がしくじるかよ!』

 

『マリーが頑張ってるのに、俺達が何もしないんじゃ不甲斐ないからな!!』

 

 制御を失って墜落を始めるガウからMSの部隊が降下を始めるが、それもすぐにホワイトベースの部隊が即応する。

 

『こっちも負けてられない! ラリー、降下してくる敵を狙い撃て! アニッシュ、俺達も行くぞ!』

 

『了解!』

 

『了解っすよ! ったく、あの嬢ちゃんトンデモねえな』

 

 そんな彼等に続いてバターンフェイクに所属しているMS隊デルタチームも動き始める。

 

「しかし凄まじいモノですな」 

 

 感嘆の声を上げるバターンフェイクの艦長。

 

 それも仕方がない。

 

 前進を始めてマリーが上げた撃墜数は航空空母2、MS8、戦闘車両は10を超えるのだ。

 

 だが、そんな艦長の声を聴いたブレックスの顔は渋い。

 

「友軍の戦果は軍人として歓迎すべきなのだろうがな。私は彼女が活躍する事は素直に喜べんよ」

 

「えっと…それはどうしてでしょうか?」

 

「彼女の戦果が新たな若年の兵士を生み出す事に繋がるからだ」

 

 ノエルの問いかけにブレックスはため息と共に答える。

 

「そんな!?」

 

「あの子の活躍を上層部が知れば、連邦やジオン双方共に徴兵年齢を引き下げかねん。なにせ何の訓練も無しにエース級に匹敵する戦力が手に入るのだからな。もっとも、そんな才能が何処にでも転がっているわけがない。そうなれば犠牲となるのは、年端も行かない少年兵達だ」

 

 ブレックスの言葉に二の句も継げなくなるブリッジの兵達。

 

 部下の士気を下げるなど指揮官として褒められたことではない。

 

 しかしブレックスは皆にこの事実を伝えておきたかった。

 

 間違っても年端のいかない少年少女が戦場に送られることが正しいと思わないように。

 

(それに彼女が本当に危険なのは戦後だろう。その血筋に華々しすぎる戦果、そして幼すぎる子供を戦場に送ったという連邦の生きた汚点だ。そしてレビル将軍が言ったように誰かが彼女をニュータイプと担ぎ上げれば、スペースノイド達に対する求心力はザビ家の比ではなくなる。戦争が終われば兵器の無断使用などをでっちあげて彼女を幽閉、最悪は殺害する可能性もありうる)

 

 もし連邦がそんな風に動くなら、その時はマリー達を護る為に動くことをブレックスは覚悟している。

 

 自分達の不手際で若者を戦場に送り、使い捨てにするなど絶対に許すわけにはいかないからだ。 

 

 

◆ 

 

 

 

 アムロのアンちゃんがカッ飛んで行った兄ちゃんを追った後、出撃したあたし達はオデッサの戦場を進軍していた。

 

 今ホワイトベースと連邦軍の旗艦の影武者を務めるバターンフェイクの周りに展開しているのは、ウチのMS隊だけじゃない。

 

『マリーちゃん、辛くは無いか? 少しでも無理と思ったら、俺達に任せて艦に戻るんだぞ』

 

「大丈夫、大丈夫。心配しないで、マットお兄……中尉」

 

 さっきからコッチを心配してくれているのは、デルタチームというバターンフェイクのMS隊を率いるマット・ヒーリィ中尉だ。

 

 彼は陸戦型ジムに乗る20代のお兄さんで、敵も味方も死人は少ない方がいいって考えるいい人である。

 

 ちなみにジムというのはガンダムを基にした連邦の量産型MSなんだってさ。

 

 通信で存在を知ったテムおじさんが、どんな出来か見てみたいって騒いでいたっけ。

 

『隊長。そのお嬢ちゃんがすこぶるタフなのは、見てれば分かるでしょうに』

 

『俺達の中で今の所、撃墜率ダントツトップだもんな』

 

 そんなマット中尉に呆れているのが、金髪をオールバックにしたチャラい雰囲気のアニッシュ・ロフマン曹長。

 

 アニッシュ曹長の言葉に苦笑いを浮かべる渋めのおじ…お兄さんだね、うん。

 

 それがラリー・ラドリー少尉だ。

 

『おいおい、もうちょっと緊張感持てよ。ここは最前線だぞ』

 

 そんな彼等に苦言を呈するのは、ラルのおっちゃんからグフを引き継いだクランプのおっちゃんだ。

 

「うん、ごめんね」

 

『いや、お嬢はちょっと緩めてもいいですよ』

 

『さっきから真っ先に敵を撃ち落としているからな』

 

 コズンのおっちゃんの言葉にガンタンクの上のコックピットで頷くリュウさん。

 

 いやいや、武闘家としては戦場で気を緩めるなんてあり得ないっす。

 

 そんな事を考えながら前に進んでいると、何も持たないザクがホールドアップしながら歩いてくる。

 

 それはこのオデッサに入って何度か見た光景だ。

 

『また投降者か』

 

『いったいどうなってんだよ?』

 

 そう、兄ちゃんが飛び出していったすぐ後くらいから、ホワイトベースに降伏しに来るジオン兵が現れ始めたのだ。

 

 もちろん、オデッサ基地から向かってくる大半のジオン軍はこっちに攻撃を仕掛けてくるんだよ。

 

 だけど、攻撃が途切れたタイミングを見計らったみたいに、こうしてちょくちょく参ったする兵士がやってくるんだよね。

 

「もしかして、この人もパンイチで白旗振るのかな?」

 

「最初の投降者がそうだったわね。もしかしたらジオンの降伏方法ってアレなのかしら?」

 

 しかも投降する人は全員パンイチでコックピットから出てきて、シャツで作った簡易の白旗を振るのである。

 

 泣きそうな顔で必死に降伏の意思を示す人達から伝わる感情は『嫌だ―! 死にたくなーい! 死にたくなぁぁぁい!!』とか『無理ゲー! 圧倒的無理ゲー!!』とか。

 

『白い悪魔の数え歌はいやぁぁぁっ!!』なんてのもあったし、中には『生き延びたいんですよ、安全な所で。役に立ちますぜ、ホワイトベースに置いてくださいよ』『寄生虫めが!!』なんて意味不明なモノもあった。

 

 どうやら白旗を上げる人たちは皆、あたし達と戦う=死と考えているようだ。

 

 そんな事を思い返していると、ホールドアップの体勢のまま膝を付いたザクの胸からパイロットが降りてくる。

 

『『『おおっ!!』』』

 

 それを見て歓声を上げたのはカイさんとコズンのおっちゃん、アニッシュ曹長だ。

 

 パイロットは20歳くらいのグラマラスな黒髪美女なんだけど、やっぱりパンイチである。

 

 しかもシャツを着ていなかったのか、ブラを棒に引っかけて白旗代わりに振っている。

 

 いや、そのブラ色柄が付いてるから意味不明なんだけど。

 

『あの……可哀そうですから、早く保護してあげませんか』

 

 バチバチに死にたくないって意思を放ちながら必死でブラを振り回す女の人の姿に、バターンフェイクの通信担当であるノエルお姉さんがコッチへ助けを求めてきた。

 

 まあ、同じ女性として見ていられない気持ちは分かる。

 

「わかった」 

 

『ごめんね、マリーちゃん』

 

 ノエルお姉さんは申し訳なさそうだけど、あたし達以外に女性パイロットがいないんだから仕方ない。

 

 そうして投降者を回収しようとした時だ。

 

「っ!」

 

 あたしは刺すような殺気を感じ取った。

 

 狙いは……投降者が乗るザク!

 

「降伏しているお姉さん、狙われているよ! 危ないからザクの中に入って!!」

 

 慌ててコックピットへ飛び込む投降者をしり目にブースターを吹かせて膝を付いたザクの後ろへ回ると、防御の為に掲げたシールドに衝撃が奔った。

 

『狙撃!? ラリー、どこからだ!』

 

『あそこの岩場───』

 

「そこっ!!」

 

 マット中尉がバターンフェイクの砲台の横で待機している狙撃担当のラリー少尉へ声を掛ける中、いち早く私は気配のする場所へ腰に下げたブロック状のモノを投げる。

 

 そして岩の上へそれが到達した瞬間にビームライフルで射貫けば、一瞬にしてその一帯は業火の中に包まれる。

 

『あれはスーパーナパームか!』

 

 マット中尉の言う通り、あれはアムロのアンちゃんがサイド7で壊れた部品の処分に使っていた高熱を放つ爆弾『スーパーナパームだ』

 

 ガンダムやガンキャノンのパーツが溶けて壊れる程の威力の炎だ。

 

 ザクやグフで耐えられるわけがない。

 

『ぐわぁぁぁぁっ!?』

 

『く…くそぉっ!!』

 

 案の定、岩陰から火に包まれた二機のザクが飛び出してきた。

 

 そして彼等はラルのおっちゃんが撃ったバズーカと、ラリー少尉の狙撃を受けて爆炎に消える。

 

 これで投降した人を狙っていた敵は倒れたという事だ。 

 

『アルマリア様、後は私達が警戒します。投降者をホワイトベースへ引き渡してください』

 

「わかった、お願いね」 

 

 ラルのおっちゃんに周辺の警戒を任せたあたしは、ザクのコックピットから出てきた女の人をガンダムの手に乗せる。

 

「今からホワイトベースへ連れていくんで、パイロットスーツを着てください!」

 

 そう告げると、手の上でテキパキと着替えを始める女の人。

 

 ホワイトベースに行ったら、いったんは牢屋に入らないといけないからね。

 

 あんな恰好じゃあ可哀そうだ。

 

 そうしてクルーに女の人を引き渡して地上へ降りた時だった。

 

『私はマ・クベ、このオデッサ鉱山基地の司令だ。貴官へ警告する。当方には水素爆弾を使う用意がある、そちらが手を引かねば甚大な被害を被る事になるだろう』

 

 こんなトンデモない通信が飛び込んできたのは。

 

「え、核兵器?」

 

『おいおい、ジオンは南極条約を破る気かよ!?』

 

 突然すぎる非常事態に唖然としていたあたしは、アニッシュ曹長の怒鳴り声で我に返った。

 

 そうして周りに意識を向けると、オデッサ周辺を嫌な気配が覆っていくのが分かる。

 

 これは悪意だ。

 

 出どころは敵味方を問わず他人をコマとしか見ていない人。

 

 物事が上手く運ばない苛立ちと、無能呼ばわりされる可能性への焦り。

 

 それを回避する為の代価を周りの人間へ求める保身。

 

 そう言った感情が押し寄せる中、あたしは深く息を吸ってゆっくりと吐き出す。

 

 東洋では息吹と呼ばれる独特な呼吸法。

 

 今はこんな悪感情に呑まれている場合じゃない!

 

『ブレックス准将、奴はどういうつもりでしょうか?』

 

『ブラフの可能性が高いだろう。いかに基地司令とはいえ、独断で条約破りなどできるとは思えん』

 

 ロンバートのじっちゃんとバターンフェイクの偉い人が話している。

 

「違うよ。あの人は本気で撃つつもりだ」

 

 あたしはそんな二人の会話に割り込んだ。

 

『マリー、どうしてそう言える?』

 

「あの通信があってから戦場を悪い感情が覆ってる。苛立ちと焦りと保身……多分、これって敵の司令のモノだ」

 

 あたしはブライト中尉の問いかけに自分が感じたモノを並べていく。

 

 とはいえ、こんな感覚的なモノだと信用される事は無いだろう。

 

「ラルのおっちゃん、あのマ・クベって司令のこと知ってる?」

 

『ええ、噂に聞いた程度ですが』

 

「神経質で陰険な謀略家、人の心が分からない人って感じかな」

 

『その通りです。アルマリア様もどこかで奴の噂を?』

 

「ううん。でも分かるよ。あの通信から感じる悪意が教えてくれるから」

 

 通信機から伝わるラルのおっちゃんの戸惑いに、あたしは苦笑いを浮かべる。

 

 この辺は勘の良さが無いと理解は難しいだろう。

 

「あの司令は基地を捨てて逃げるつもりだよ。核の事を言ってきたのも、持ち出せるものを全部持って脱出する為の時間を稼ごうとしているから。この基地が宇宙に資源を上げる為のモノなら、運搬用のロケットはたくさんあるから逃げる手段には困らない。そうして脱出の時に置き土産として核爆弾を撃つつもりなんだ。鉱山を潰して連邦の大将を倒せば、基地を落とされた事だって帳消しになるだろうし」

 

 感じた感情を基に仮説を立てると、お偉いさんたちが難しい顔で黙り込む。

 

 やっぱり、子供の考えた物なんて通らないか……。

 

 そう肩を落としかけた瞬間だった。

 

「あっ!?」 

 

 司令部から感じた悪意が一気に膨れ上がったのだ。

 

「ヤバい! 核ミサイルが撃たれた!!」

 

『なんだとぉっ!?』

 

 あたしの言葉に驚きの声を上げるバターンフェイクの艦長さん。

 

 一気に膨れ上がった悪意の出どころ、それはアムロのアンちゃん達がいる所に近い!

 

「ブライト中尉! 核ミサイルをどう止めたらいいかってわかる!?」

 

『設計図の図面ならホワイトベースのコンピュータ内にある。ロケットから核弾頭を切り離せば、ミサイルは威力を失うはずだ』

 

「だったら、それをアンちゃんと兄ちゃんに送って! 多分、ミサイルが出るのは二人のいる場所が近いから!」

 

『わかった!』

 

 ブライト中尉からの返事を受けると、あたしは姉ちゃんの方を向いた。

 

「姉ちゃん、ごめんね。ちょっと無茶する」

 

「わかったわ。私も一緒だから、安心なさい」

 

 流石は姉ちゃん、肝の座り方が違うなぁ。

 

 姉ちゃんの笑顔に後押しされたあたしは一気にスロットルを開けて前に出る。

 

『マリー君、どこへ行くつもりだ!?』

 

「兄ちゃんたちの所! 敵のど真ん中なんだから、作業できるように手伝わないと!」

   

『総員、アルマリア様に続け!』

 

『おいおい、核ミサイルが撃たれたってのに突撃するつもりかよ!?』

 

『核が爆発すれば、ここにいても助からん! なら一か八かに賭けるっきゃねーだろ!!』

 

『バターンフェイク、最大戦速! ガンダムに置いて行かれるな!! デルタチームはマリー機の道を拓け!!』

 

『了解!!』

 

 皆の声を背に受けてあたしはガンダムを一気に加速させる。

 

 間に合うかは分からないけど、ここで待っているよりは絶対にマシだ!

 

 そんなあたし達の前を塞ぐのはジオンの基地守備隊だ。

 

 妙に動きがいいのを筆頭に、3機のザクが陣形を組んで襲いかかってくる。

 

 核の事を知らないのか、分かっていて動いているのか分からないけど邪魔をされては堪らない!

 

 先頭のザクが振るうヒートホークを受け止めると、頭の中に相手の思いが入ってくる。

 

【死なない! 死んでたまるか!! 俺は生きる! 生きてサイド3に帰って、妻と子にもう一度会うんだ!!】

 

 よほどの執念なんだろう、意思が強すぎて耳元で叫ばれるみたいに頭がガンガンする!

 

「ああもう! うっさい!!」

 

 そんなザクを機体のパワー差で押し返すと、あたしは兄ちゃん譲りのキックを腹に叩き込む。

 

『ぐおおっ!?』

 

『隊長!』

 

『ケン隊長!?』

 

 仲間を巻き込む形で後ろへ吹っ飛んだザクに、あたしは苛立ちを込めて怒鳴る。

 

「そんなに奥さんや子供と会いたいんだったらとっとと逃げろ! もうすぐここに核ミサイルが落ちるんだよ!!」  

 

『こ…子供だと!?』 

 

 動きのいい隊長機のオジサンが驚いているけど、そんな事に構ってられない。

 

『もしかして、お前ダイクンのガキか!?』

 

「そうだよ! 今から核ミサイル止める手伝いしにいくから、逃げながら仲間にミサイルの事教えてやってよ。戦ってる場合じゃないって」

 

 そう言い残して、あたしはガンダムを加速させる。

 

 頼むぞ、アンちゃん! 兄ちゃん!!

 

 あたしもすぐに行くから核ミサイルを止めてくれ!!

 

 

 




水爆「俺は旧世紀からこの地に君臨していた。『オデッサの嵐』とも呼ばれた事もある。俺に掛かれば赤だろうが白だろうが、エースの一匹や二匹モノの数ではない!」
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