ダイクン家の二女はアホの子   作:アキ山

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マチュとオデッサ作戦終了

「大佐、連邦軍は止まりません。前進を続けています」

 

 副官であるウラガンの報告、それをマ・クベは大気圏離脱用のブースターを装着したザンジバルの中で聞いた。

 

「だろうな。レビルが核程度の脅しで止まるわけがない。あの男は我々を心底憎んでいるのだから」

 

 鷹揚に頷いて口元に笑みまで浮かべるその様は、条約違反を犯す程に追い詰められた男の顔とは思えない。

 

「大佐、本当に撃つのですか?」

 

「無論だ、なんの為にわざわざ脅しを掛けたと思っている」

 

 隣に座るウラガンの問いかけに答えると、マ・クベは己が身をシートベルトで固定した艦長席の肘掛け、そこに備え付けられたコンソールを操作する。

 

 マ・クベの水爆を使った脅迫は、本気で連邦軍を退かせる為の策ではない。

 

 むしろ逆。

 

 ルウム戦役の後、レビルが戦争継続を強行したのは私情によるものだ。

 

 無言で水爆を発射すれば退くだろうが、煽ればあの男は必ず乗ってくる事をマ・クベは確信していた。

 

 故にこの状況もマ・クベにとっては計算通りなのだ。

 

「レビル、そしてキシリア様から厳命があったダイクンの子供達、その全てを一挙に片付けられるのなら鉱山の一つや二つ安いモノだ。この基地を護る同胞も、ジオン公国の輝かしい未来への礎になれるのなら喜んで命を捧げるだろうさ」

 

 発射までのカウントダウンが始まる中、マ・クベはテレビをリモコンで電源を入れる程度の気安さで核兵器の発射ボタンを押した。

 

 するとサブモニターに、ザンジバルの発進機構がある司令部から少し離れた場所で、核弾頭を積んだミサイルが地面から生える様が映し出される。

 

「連邦軍諸君、このミサイルは元をただせば君達が生み出したものだ。責任を持って始末を付けてくれたまえよ」

 

 厄介事がすべて片付くのはもちろん、マ・クベにとって何より嬉しいのは、あと数分で埃っぽい地球ともおさらばできることだ。

 

 オデッサという盤を舞台にした打ち手の一人は、自身の計略の成功を確信して上機嫌に笑うのだった。

 

 

 

 

 一方、ケン・ビーダーシュタットは部下であるジェイク・ガンス、ガースキー・ジノビエフと共に部隊の駐屯地へと急いでいた。

 

『隊長! あのガキの言う事を信じるんですか!?』

 

「ああ! あの子の言葉は真剣だった、嘘とは思えん!」

 

 ジェイクの問いかけに応じると、ケンは通信機を自らが所属するジオン軍外人部隊の駐屯地に回線を合わせる。

 

(それに、あの子は妻と娘の事を知っていた。二人に会うまで死ねないという俺の事情まで……何故だ?)

 

 不可解な事はあるが、今はそれを考えている場合じゃない。

 

 基地司令の核攻撃が本当なら部隊の人間……いや、この地を護るジオン軍全ての命が灰燼に帰すことになる。

 

『ケン隊長、ご無事ですか?』

 

「ユウキか! ダグラス大佐に伝えてくれ! 鉱山基地司令が核兵器を使用した可能性があると!」

 

『えっ!?』

 

『ダグラスだ。今の話は本当なのか?』

 

 衝撃の事実に二の句が告げられないオペレーターのユウキ・ナカサト伍長に代わり、通信に出たのは部隊を取り仕切る司令官ダグラス・ローデンだ。

 

「証拠はありません。ですが、この情報は例のダイクンの遺児からもたらされました。彼女は核兵器が発射されたので、逃げながらでいいから周りのジオン軍に退避するように伝えてくれと」

 

『彼女達はどうしたのだ?』

 

「核兵器を止めに行くと司令部に向かいました。我々もオデッサから撤退を!」

 

『───分かった。我々もすぐに撤収する。少尉たちもすぐにオデッサから離れてくれ。あと、出来得る限りでいいので友軍に撤退するように勧告も頼む』

 

「了解」

 

 ダグラスの指示にそう返すと、ケンは通信回線をジオン軍全体に聞こえる特殊チャンネルに合わせる。

 

「ジェイク、ガースキー! オデッサから撤退する!! 」

 

『了解!』

 

『ここは魔女の窯よりヒデェ! とっととズラかりましょうや!!』

 

 ケンを先頭とする三機のザクはスロットルを全開にして鉱山基地から逃げ始める。

 

「オデッサにいるジオン兵達に告ぐ! 鉱山基地司令が核を使いやがった! もうじきここに核弾頭が降ってくるぞ!! 死にたくない奴は逃げろ!!」

 

 彼等は一部の例外を除いてサイド3以外の出身者で構成された外人部隊だ。

 

 それ故に補給も十全であったことは殆どなく、正規兵からも半ば捨て駒扱いや撤退時の殿など尻ぬぐいを押し付けられるなど扱いは悪い。

 

 そんな彼等なのでジオンやザビ家に忠誠など持ち合わせてはいないし、スペースノイドの独立などというお題目も信じてはいない。

 

「ジェイク、ガースキー! 絶対に生き残るぞ!! こんなふざけた戦争で死んでたまるか!!」

 

 各々事情があって戦争に参加しているが、生き残るために命を賭ける事はあっても本当の意味で捨て駒になる気などサラサラないのだ。

 

 

 

 

 ジオン守備隊を蹴散らしながら鉱山基地の手前まで歩を進めていたアムロは、マ・クベの通信の後に戦場へ広がった悪意が変化するのを感じ取った。

 

「これは……! シャアさん!」

 

「どうした、アムロ君?」

 

「今、戦場を覆っていた悪意が弾けた! あの司令は核を撃つつもりだ!」 

 

 そう言うが早いか、スラスターを全開にして鉱山基地とは別方向へ飛び出すガンダム。

 

「彼はいったい……これはっ!?」 

 

 即席ながらにコンビを組んでいた相方の突然の変化に戸惑うシャア。

 

 しかし間を置かずに通信モニターへ映し出されたデータにサングラスの奥で目を見開く事になる。

 

「これはまさか、この基地に残されているという核兵器の図面か!」

 

『その通りだ。マリーが核発射を予期した、そして君達が核ミサイルに最も近い位置にいるとも』

 

 設計図に次いで現れたのはホワイトベースの指揮を執るブライトだ。

 

「これを送ってきたという事は、我々に核を止めろというのか?」

 

『そうだ。起爆前にロケットから核弾頭を切り離せば、核爆発は止められる。テム大尉にもお墨付きをもらっている』

 

「随分と無茶を言ってくれる」

 

『無茶は承知だ。だが、このままでは全員助からん。───やるしかない』

 

「泣き言を言っても始まらんか」

 

 ブライトの言葉にシャアは口角を釣りあげる。

 

 それは恐怖を覆い隠す為の強がりの笑みだ。

 

『マリーも言っていたよ。貴方とアムロなら出来ると』

 

「ならば、兄として無様な姿は晒せんな。あと、あの子を呼び捨てにするな」

 

 突然のシスコン発言に鼻白むブライトの顔を最後に通信を切ると、シャアはガンダムを追ってゲイル・ディアスを加速させる。

 

(アムロ君やアルマリアは誰に言われる事無くこの事態を察知していた。本人は勘が良いと言っていたが、もはやこれはそんな言葉で片づけられるものではない)

 

 自身の身体を押さえつける加速の中、シャアは妹やその相棒の力に考えを巡らせる。

 

 そんな中、彼の頭をよぎったのは亡き父の言葉だった。

 

「ニュータイプ……まさか二人は父の提唱したニュータイプだというのか?」

 

 そう口に出すと、その考えはストンとシャアの胸に落ち付いた。

 

 彼や末の妹がそうだとすれば、今まで彼等が生き残ってきた事や戦場で自分が何度も煮え湯を飲まされた事も納得が行く。

 

 そんな事を考えながら進んでいると、ゲイル・ディアスのレーダーが一つの反応を捉えた。

 

「この熱源反応は大型ミサイル! 彼等の勘は正しかったという事か!」

 

 すでにミサイルは点火されて、炎を吹き上げながらサイロから飛び立とうとしている。

 

 止めるならチャンスは今しかない!

 

「アムロ君、ブライトから通信を受けているな?」

 

「はい! 図面も目を通しましたが、あんな大雑把なもんじゃあ……」

 

「だが君の父上も正しいと認めているのだ、信じるしかあるまい。───私がブースターへの狙撃でミサイルの足を止める。核弾頭の切り離しを頼めるか?」

 

「……わかりました。やってみます!」

 

 自分の前を行くガンダムが更なる加速を掛けたのを見て、シャアはゲイル・ディアスに搭載されたコンピューターに自身が取るべき行動をシミュレートさせる。

 

「……このままでは私が近づくよりも、ミサイルがこちらの射程を振り切る方が早いか。───ならば!」

 

 シャアが視線を向けたのは透明なプラスチックのカバーが付けられた赤いボタン。

 

 それはテムが彼に製作を約束した機体が自壊しない程度に出力を抑えたリミッター解除装置だ。

 

「テム大尉、使わせてもらうぞ!」

 

 カバーを外してボタンを押しこんだ瞬間、ゲイル・ディアスは名前の通り疾風となった。

 

「ぬ…うぅ……!?」 

 

 更なるGがシャアの身体を襲い、シートに押し付けられた事で苦鳴が食いしばった歯の間から洩れる。

 

 しかし、この加速によってミサイルとの距離は大きく縮まった。

   

「くっ!? 照準が定まらん!」

 

 機を見てゲイル・ディアスにビームライフルを構えさせたシャアだが、コックピットに備わった精密射撃用のスコープ越しにブレる照準に舌打ちを漏らす。

 

 加速の影響で構えた銃口が定まらないのだろうが、このままではミサイルを取り逃がす事になる。

 

 そうなれば自分はもちろん、妹達も助からない!

 

 焦燥感と自分への不甲斐なさで舌打ちを漏らすシャア。

 

【大丈夫、兄ちゃんなら出来るよ】

 

「……アルマリア?」

 

 そんな彼の脳裏によぎったのは末の妹の声だった。

 

 次の瞬間、シャアの視界……いや第六感というべきモノが大きく変化した。

 

「これは……!?」 

 

 戦場に漂う悪意というべきモノが、手に取るように分かったのだ。

 

 そして悪意が収束するのは核弾頭を乗せたミサイル。

 

「アルマリア、私を導いてくれるのだな!」

 

 頭の中に掛かっていた霧が晴れるような爽快感と共にシャアは笑う。

 

 もはや精密射撃用スコープなど必要ない。

 

 たとえ望遠カメラに小指の先程度にしか映っていなくても、今の彼には問題は無かった。

 

「当たれぃっ!!」 

 

 絶対に中るという確信と共にトリガーを引くシャア。

 

 ゲイル・ディアスが構えた銃口から放たれたメガ粒子は射程ギリギリからの発射にもかかわらず、狙い違わずにミサイルのロケット部分を撃ち抜いた。

 

 それによって大きく失速したロケットは空中で姿勢を崩して地面へと落下していく。

 

「アムロ君!」

 

 それを見たガンダムはシャアの声に後押しされるかのように空を飛ぶ。

 

「おおおおおおおおおおっ!!」

 

 白い流星となった機体がミサイルと交差する瞬間、裂帛の気合と共に手にしたビームサーベルの刀身が弧を描く。

 

 土煙をあげながら地面に降り立つガンダム、それから一拍子遅れてミサイルから核弾頭を乗せた先端部分が零れ落ちた。

 

 地響きを上げて乾いた大地に横たわったミサイル本体と核弾頭。

 

 両者ともに起爆する様子はない。

 

「……やった」

 

 そう呟いてコックピットの中で全身の力を抜くアムロ。

 

 彼としても核弾頭を切り落とす離れ業は一か八かの賭けだったのだ。

 

 自分や仲間たちの命をベットした大博打に勝ったのだから、気が抜けるのは当然だろう。

 

 しかし戦場ではその一瞬の隙が命取りになる。

 

「連邦の白い悪魔め……!」   

 

 ガンダムの背後にある小高い丘、そこに対物ライフルを手にしたザクが潜んでいたのだ。

 

「いかんっ!」

 

 シャアが気付いたが位置が悪すぎた。

 

 ゲイル・ディアスのいる場所からでは、そのザクを狙い撃つことはできない。

 

「死ねぇ!」

 

 恨みを込めて銃口をガンダムの背後に向けるザク。

 

 しかし、ライフルの中に込められた対艦用徹甲弾が放たれる事は無かった。

 

「ぐはぁっ!?」

 

 それより早く、背後から飛んできたビームがザクの胸を貫いていたからだ。

 

「大丈夫、兄ちゃん、アンちゃん!?」 

 

 前のめりに倒れて爆発するザク、立ち上る煙と炎の奥から現れたのはマチュの駆るガンダム1号機だった。

 

「キャスバル様!」

 

「アムロ! やったな!!」

 

 その後ろにはホワイトベースとバターンフェイク、そして両戦艦のMS部隊が続く。 

 

「ありがとう、マチュ」

 

「なんのなんの。それより、ミサイルを止めてくれてありがとう。かなり無茶振りだったのに、さすがアンちゃんと兄ちゃんだ!」

 

 通信モニターに映る妹が浮かべる満面の笑み。

 

 それを見て強張っていた身体から力を抜いたシャアだったが、すぐにその顔は険しいモノへと戻る。

 

 産声を上げたばかりの彼の新たな感覚が、空へと遠ざかる悪意を捉えたからだ。

 

 ゲイル・ディアスのカメラを上空に向けてズームすれば、そこに映っているのは大気圏離脱用のブースターを吹かせるザンジバルの姿。

 

「マ・クベめ、核を囮にして自分だけ逃げ出そうなどと……」

 

 キシリアの腹心だけあって薄汚い手を使う、そう内心で続けて彼は舌打ちを漏らす。

 

『ブライト中尉、ブレックスだ。本隊の制圧部隊がオデッサ鉱山基地へ突入したと連絡があった。もう少しだけ頑張ってくれ』 

 

『わかりました。ホワイトベース、バターンフェイクはここで待機する! 各員、警戒を密にしろ!! もうひと踏ん張りだ、必ず生き残るぞ!!』

 

 ブライトの激に緩みかけた気を引き締めるシャア。

 

 多くの犠牲を産んだオデッサの戦いの終幕は目の前まで迫っていた。

 

 

 

 

 オデッサ作戦は連邦の勝利で終わった。

 

 あたし達ホワイトベース隊は、ジオンから奪った鉱山基地で補給と簡易な修理を受けている。

 

 ちなみに、投降してきたジオン兵達は全てバターンフェイクの方に連れていかれました。

 

 このホワイトベースは半民半官な上にあたしみたいなヤバい要素てんこ盛りだからね、捕虜なんて乗せてられないというのはよく分かる。

 

 ロンバートのじっちゃん曰く、彼等は各種検査を行った後で連邦軍の偉い人がどうするかを決めるらしい。

 

 殆ど話せてないけど少しでも同じ船に乗った仲だ、無事に戦争を終える事を祈らせてもらおう。

 

「マチュ、痒いところはない?」

 

「いや、姉ちゃん。あたし自分で洗えるからね」

 

「いいのよ。すこしはお姉ちゃんに甘えなさい」

 

 ホワイトベースの内外を多くの連邦軍の兵士たちが行き交う中、あたしと姉ちゃんはシャワーを浴びています。

 

 ジオン軍が潜んでいる可能性があるから本当はのんびりしてられないんだけど、その辺はデルタ小隊が代わりに哨戒してくれるそうなのでお言葉に甘える事にした。

 

 とは言っても全くの無防備になるのも拙いので、ホワイトベースのパイロットは何かあった時の用心に第二種戦闘配備で待機。

 

 休憩は交代で取る事になっているので、最初に休憩に入ったあたし達はこうして汗を流しているという訳だ。

 

 なお、シャワーに行く際に兄ちゃんが羨ましそうに見ていたのは気のせいという事にした。

 

 今度プールにでも付き合うから、そんなもの欲しそうな眼で見るのは勘弁してほしい。

 

 さて、姉ちゃんに丸洗いされた後でシャワーから出ると艦内放送で呼び出しを受けた。

 

 あたし達と同じタイミングで休憩を取ったアムロのアンちゃんも一緒である。

 

「軍のお偉いさんがコッチに来るの?」

 

「うむ。核ミサイル阻止の功績を直接称えたいとレビル将軍がおっしゃってな」

 

 呼び出された理由は核兵器を止めた事をレビルとかいう将軍が労いに来ると伝える為だった。

 

 軍人としては名誉な事なんだろうけど、ロンバートのじっちゃんの顔は明るくない。

 

 じっちゃん的にはアムロのアンちゃんも、あたしもあまり目立ってほしくないのだろう。

 

 功績を上げ過ぎると軍が離してくれなくなるし。

 

「さすがに疲れたからパスしたいんだけど」

 

 というか、核ミサイルに関しては何もやってないんだから、あたしは出なくてもいいよね?

 

「おい……」

 

 さすがにブッチするのは拙いのか、ブライトさんが文句を言おうとしたけど、それをロンバートのじっちゃんが止める。

 

「わかった。アムロ君はどうするかね?」

 

「僕はさすがに出ないと拙いでしょう。正直、あまり顔を売りたくはないですけど」

 

「そう言ってもらえると助かる。では、そのように調整しておこう」

 

 という訳で話は終わり、あたし達は自室へ戻る為にブリッジを後にする。

 

「ごめんなさい、アムロ。押し付けるみたいになってしまったわね」

 

「気にしないでください。マチュやセイラさんの立場からすると、あんまり目立つのはよくないでしょうし」

 

 姉ちゃんと一緒に頭を下げると、アンちゃんは苦笑いで許してくれた。

 

 そうして部屋に戻ると、あたしは何時ものように姉ちゃんの抱き枕としてベッドに入る。

 

「マチュ、どうしてレビル将軍と会いたくないの?」

 

 あたしを抱きしめると姉ちゃんは小さく問いかけてくる。

 

「……わかる?」

 

「お姉ちゃんだもの」

 

 流石は姉ちゃん、疲れたふりをしていたけどバレバレだったらしい。

 

「なんか嫌な予感がするんだよね。会うと面倒事が増えるというか、妙な事を頼まれそうというか……」

 

「……そう。でも、これでいいのよ。私達が軍にいるのはこの戦争の間だけ、偉い人と会う必要はないわ」  

 

 姉ちゃんの言葉を聞いていると、少しづつ瞼が重くなっていく。

 

 やっぱり一大決戦に参加した事は気付かない内に結構な疲労になっていたようだ。

 

「おやすみなさい、マチュ」

 

 姉ちゃんの声を最後に、あたしは夢の中へと落ちていった。

 

 次にあたしが目を覚ました時には、完全に深夜になっていた。

 

 10歳のあたしがそんな時間に活動できるわけが無く、姉ちゃんに抱き着かれている事もあってガッツリ二度寝。

 

 次の日の朝に待機を代わってくれたコズンのおっちゃんとクランプのおっちゃんに深々と頭を下げる事になった。

 

 それから兄ちゃんとアムロのアンちゃんに会ったんだけど、そこであたしの勘が正しかった事が証明された。

 

 あたし達を褒めに来たレビルという将軍に関して、アムロのアンちゃんはこう語った。

 

『あの人は僕達の事を褒めていなかったよ。まるで武器を見定めるような目をしていた。それに心の中には暗くドロドロとしたものが渦巻いていたような気がする』

 

 でもって、兄ちゃんの方はこうだ。

 

『レビル将軍とはジオンにいた時に一度顔を合わせたが、あの時とは違って張り付けていた笑顔の仮面が取れかかっていたな。それに私に対する憎悪を隠しきれていなかった。もっとも、あれが私自身に対するモノか、ジオンへ向けられた感情かは分からんがね。少なくともお前達が会うべき人間ではないな』

 

 二人の意見を統合すると、心の中に相当にヤバいモノを抱えた人という事だろう。

 

 うん、やっぱり会わなくてよかった。

 

 

 

 

 時間は少し遡る。

 

 マ・クベが放った水爆の被害を未然に防いだホワイトベース隊を労ったレビルは、バターン号にある自室へ戻っていた。

 

「そうだ。投降してきたジオン兵は全てルナツーへ送れ。ああ、亡命艦隊のメンバーとする」

 

 通信機で指示を出した後、受話器を置いたレビルは自分の右手を見る。

 

 それは少し前にホワイトベース隊のエース、アムロ・レイと握手をした手だ。

 

「あれが赤い彗星、そしてホワイトベースの守護神か」 

 

 悪辣なるジオンの条約破り。

 

 その脅威から連邦軍を救った立役者であるアムロ少年、そしてジオンから亡命したシャア・アズナブルを思い返してレビルは小さく息を付く。

 

 彼自身もコロニー落とし阻止やルウムでの戦いを経験した事で、人よりも第六感が鋭くなった自覚はある。

 

 しかしシャアはともかくとして、アムロ少年はケタが違った。

 

「凄まじい才能だ。彼の前では私など一般人と大差ないな」

 

 自嘲しながら自分の席に座ったレビルは、机の上に置いてあった二枚の写真立てに目を向ける。

 

「クライド、ミハエル」

 

 そこに入っているのは失って二度と戻ってこないレビルの長男、そして孫息子の姿だった。

 

 クライドはレビルにとって自慢の息子だった。

 

 43という若さで艦隊を指揮する大佐の地位まで上り詰め、ゆくゆくは自分の跡を継いでくれると期待していたのだ。

 

 しかし、彼はコロニー落とし阻止作戦の中でジオンのザクによって乗艦のブリッジを破壊されて宇宙の藻屑となった。

 

 息子の訃報を聞いた時、レビルは目の前が真っ暗になったのを覚えている。

 

 そしてクライドの長男であり、孫のミハエルはルウム戦役にセイバーフィッシュで参戦し、やはり帰らぬ人となった。

 

 地球連邦の威信をかけた一大決戦の為に一機でも多く兵力が必要だったとはいえ、まだ新米パイロットだった孫が参戦する事にレビルは否定的だった。

 

 しかし父の仇を討つのだというミハエルの熱意に負けた事、そして連邦とジオンの兵力差から敵を侮って孫を止めなかった事をレビルは今も後悔している。

 

「二人共、喜べ。ようやく、ようやく薄汚いジオン野郎どもを私達の地球から追い出す目途がついた」

 

 レビルの血縁としては嫁に行った娘にチャアミン・ブラウンという孫息子が一人いる。

 

 しかし彼はレビル家を継ぐ直系の子孫ではない。

 

 その点からしてもクライドとミハエルを失ったことは彼にとって痛恨の極みだった。

 

「お前達の仇を討てるなら、私はどんな物でも利用する。半民半官のホワイトベース隊も忌まわしいジオンのガキ共も」

 

 そう、レビルが捕虜から帰還した後に強硬に戦争継続を望んだのは、地球連邦軍人としてコロニー落としという蛮行を行ったジオンに負けられないという理由の他に、息子と孫の仇を取るという目的もあったのだ。

 

 彼が政界進出を目論んでいたのも、この戦争がどう転んでも確実にジオンという外道国家を消し去る為の布石だ。

 

 民主主義の地球連邦政府では、どうあがいても軍は官僚の下からは脱せられない。

 

 何かの拍子に停戦や休戦を結ばれては、サイド3を攻撃することが出来なくなる。

 

 だからこそ戦争を続けられる権力を、軍全体を命令できる地位を欲した。

 

 地球連邦政府のトップという地位を。

 

「狡兎死して走狗烹らる、昔の人間はいい言葉を残してくれた。───ダイクンもザビ家も関係ない、ジオンの名がつくモノは全て滅ぼさねば」

 

 薄暗い部屋の中、自分に言い聞かせるように呟くレビル。

 

 その顔には普段の温厚な仮面は無く、尽きぬ憎悪に憑かれた復讐者がその正体をむき出しにしていた。

 

 

 

 

 その頃、北米のキャルフォルニアベースでは思わぬ混乱が起きていた。

 

「私はイセリナ・エッシェンバッハです! ガルマ様に縁のある士官の方はいらっしゃいませんか?」 

 

 始まりはベースの入り口に現れた若い女、彼女が警備をしていた衛兵にこう話しかけてきたことだ。

 

「ガルマ大佐の、ですか? 失礼ですが貴女はガルマ大佐と、どのような関係なのでしょう?」

 

「私は彼をお慕いしておりました。口約束ですが婚約もしております。元ニューヤーク市長エッシェンバッハの娘と言えば、ガルマ様に近しい方なら分かる筈です」 

 

「……分かりました。確認してみます」

 

 兵士は胡散臭いモノを見る目を隠すことなく詰所へと戻る。

 

 ガルマ・ザビの恋人や現地妻を名乗る山師は、例の国葬からかなりの人数現れているからだ。

 

 その全てが食い詰めた娼婦や一攫千金を狙う詐欺師だったので、あの女もその類と思っていた。

 

「こちらは地上方面軍指令室、ダロタ中尉だ」

 

「西門警備のスワッグ伍長であります。今ガルマ大佐の恋人を名乗る女が現れまして……」

 

「またか。それで女は何と言っている?」

 

「はい。元ニューヤーク市長エッシェンバッハの娘で、口約束ながら大佐と婚約していたと」

 

「エッシェンバッハ!? その女はエッシェンバッハと名乗ったのか!」

 

「は…はい」

 

「今すぐそちらへ行く! 彼女を詰所へお通しして茶でも出しておけ!」

 

「りょっ了解しました!」

 

 その後、警備兵に詰所へ通されたイセリナが少し待っていると、基地の中から若い将校が現れた。

 

「お初にお目に掛かります。私はガルマ様の下で働いていたダロタと申します」

 

「イセリナ・エッシェンバッハです」

 

 ダロタはイセリナの格好を見て内心で眉をひそめた。

 

 彼女の事はガルマから聞いた事があるし、ここへ来る前に写真も確認している。

 

 しかし今の彼女は着の身着のまま逃げてきたといった風情で、ガルマの机の中にあった社交界での華々しい淑女の姿には程遠いのだ。

 

「貴女の事はガルマ様から伺った事がございます。本日はどのようなご用件で?」

 

 ガルマがいない今、イセリナがジオンに関わる理由はないはずなのだ。

 

「実は……私のお腹には子供がいるのです」

 

「……なんですと?」

 

 突然すぎる発言に唖然となるダロタ。

 

 そんな彼に構う事なくイセリナは言葉を続ける。

 

「私の純潔はガルマ様に捧げました! そしてこの身体をあの方以外に許した事は一度もありません! だからお腹の子はガルマ様との子供なんです!!」

 

「……ふぁっ!?」

 

 興奮したのか、堰を切ったように叫び出したイセリナの爆弾発言にダロタは半分白目をむいた。

 

「お父様に知られれば堕胎しろと言われるのは眼に見えています! ですが私にはガルマ様が遺してくれた子供を死なせることなどできません! どうか…どうか! 私をジオンへ亡命させてください!!」

 

 掴みかかったイセリナにガクンガクンと揺らされるダロタ中尉。

 

 その後、イセリナはキャルフォルニアベースの医療班の下に連れていかれた。

 

 遺伝子検査の結果、彼女のお腹に宿る子が本当にガルマ・ザビの子であることが判明。

 

 この事実は即座にジオン本国へと伝えられ、孫の存在を知ったデギンは今まで枯れ木のごとく萎びれていたのがウソのように生気を取り戻したという。

 




レビル「ジオン星人は跡形も無く全滅だぁ!!」

デギン「ようやく授かった孫の為にも負けるかよォ!!」

ゲル・ドルバ「おっ、出番か?」
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