ダイクン家の二女はアホの子   作:アキ山

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シミュレーター後のとある兄妹の会話

マチュ「兄ちゃんさ、なんで姉ちゃんに負けたの?」

シャア「うむ……」

マチュ「操縦技術だと絶対に兄ちゃんの方が上じゃん。手加減した? それとも調子が悪かったとか? というか、顔色悪いよ」

シャア「アルテイシアと向き合った瞬間、もの凄いプレッシャーを感じたのだ」

マチュ「プレッシャー?」

シャア「ああ。そして頭の中に『まっすぐ行ってブッ殺す』『ハンマー当ててぶっ殺す』『まっすぐ行ってブッ殺す』『ハンマー当ててぶっ殺す』とアルテイシアの声が何度も響いてな」

マチュ「うわっ……」

シャア「混乱して何が何だか分からない内に、ボッコボコにされてしまったわけだ」

マチュ「兄ちゃん、怖かったね。もう大丈夫だからね」

シャア「……ぐすん」


マチュとタヌキ親父

 ベルファスト基地に到着したあたし達は、すぐに会議室へ行く事になった。

 

 タヌキなパトロンさんに会うという事で、身に付けているのは普段着じゃなくて何時もよりちゃんとした格好だ。

 

 と言っても小学校の制服なんだけどね。

 

「マチュ、準備はよろしくて?」

 

「OKだよ、姉ちゃん」

 

 着替えが終わったあたしを姉ちゃんが呼びに来る。

 

 ちなみに姉ちゃんの方がお医者さんの研修に行くときに着ていた背広姿だ。

 

「うむ。では行くとしようか、二人共」

 

 あたし達の部屋の前で待っていた兄ちゃんは、グラサンに上下白のスーツである。

 

 なんか遊び人みたいだけど、ジオンの軍服で行くよりは万倍マシだろう。

 

「騙されては駄目よ、マチュ。この男、さっきまでは赤いシャツにニッカポッカっていう正気を疑う格好だったのよ」

 

「どこの現場作業員かな?」

 

「あれも動きやすくて好みなのだが、アルテイシアにダメ出しを食らってしまってな」

 

「そりゃそうだよ」

 

 姉ちゃんの絶対零度な視線を受けても気にせず笑い飛ばす兄ちゃん。

 

 我が兄ながら、えらく図太い。 

 

 こうしてホワイトベースから降りて基地内の会議室へ行くと、軍人さん以外は皆思い思いの格好だ。

 

「それって小学校の制服? よく持ってきていたわね」

 

「サイド7に攻撃があった時、学校に行ってたから。その流れでさ」

 

 感心するフラウお姉さんに苦笑いで応える。

 

 民間人の中で比較的しっかりとした格好をしているのは私達くらい。

 

 あとはホワイトベースに初めて乗った時の格好や、別の私服を着ている人が殆どだ。

 

 ちなみにラルのおっちゃん達はジオンの軍服じゃなくて私服である。

 

 クランプやコズンのおっちゃんが頭にヤの付く自営業に見えたのは、心の棚に仕舞っておこう。

 

「総員、起立! ゴップ大将に対し、敬礼!!」

 

 用意された席に着いて待つ事しばし、白い髪をオールバックにした恰幅のいいおっちゃんが部屋に入ってくるとロンバートのじっちゃんが号令を掛ける。

 

 それを受けて軍人さん達は敬礼を行い、あたし達は何をしたらいいか分からないのでおじぎだ。

 

「うむ、楽にしたまえ」 

 

「直れ! 着席!!」

 

 それに対してタヌキなおっちゃんが指示を出すと、ロンバートのじっちゃんの号令で私達は椅子に座る。

 

 民間人でもこういうのって遅れずにできちゃうんだねぇ。

 

 学校で教えてもらっといてよかった。

 

「ここには民間人の方も多くいらっしゃるので、自己紹介をしておこう。私の名はゴップ、連邦軍では大将の地位に就いている」

 

 席に付くと自然にふんぞり返る姿勢を取るタヌキ改めゴップのおっちゃん。

 

 うん、貫禄は凄いんだけどメッチャ胡散臭い。

 

「まず皆さんには謝罪を申し上げる。この度は我が軍の不手際で多大な苦労を掛けてしまった。そして艦を守ってくれたパイロット諸君には心から感謝を伝えたい」

 

 そう言って頭を下げるゴップのおっちゃん。

 

 言ってる事は嘘じゃないんだけど……なんか打算とか色々と混じってるなぁ。

 

「今後のホワイトベースに関してだが、ジオンとの戦いも終盤に向かう以上は激戦が予想される。そのため、今のように半民半官で運用するのは厳しい」

 

 そうだよなぁ。

 

 テムおじさんはオデッサを取れば本格的にジオンを地球から追い出す事になるって言ってた。 

 

 それが終われば今度は宇宙、ジオンの本拠に攻め入るわけだ。

 

 むこうも必死に抵抗するんだから、激しい戦いにならないわけがない。

 

「我々としては皆さんに仕官してもらうのが好ましいのだが、軍規を鑑みるに条件にそぐわない者が多い。特に年齢という部分で殆どの方が弾かれてしまう」

 

 テムおじさんの話だと体格に優れて知識があって、あとは18歳以上の健康な男女なんだっけ。

 

 その条件だと兄ちゃんやラルのおっちゃん以外はアウトでございます。

 

「ゴップ大将、戦時特例は使えないのでしょうか?」

 

「それは得策ではないな、ブライト中尉。今回の件で戦時特例を適用すれば、10歳の子供まで徴兵できるという悪しき前例を作ってしまう。子供が戦場に出ているだけでも我々としては堪らんのに、それが子ども同士の殺し合いになったら悪夢以外の何物でもあるまい」

 

「……失礼しました」

 

 ゴップのおっちゃんが返したため息交じりの答えに、ブライト中尉が顔色を悪くして挙げていた腕を降ろす。

 

 ロンバートのじっちゃんもテムおじさんも顔をしかめている。

 

 そっか、連邦がそれをやったら、国力に余裕が無く戦況をひっくり返されつつあるジオンも倣う。

 

 そうなったら、ゴップのおっちゃんが言う事も現実になっちゃうわけか。

 

「とはいえ、今までの戦果を考えると市井に戻ってもらうのもあまりに勿体ない。身内の恥を晒すようだが、連邦軍はMSを運用し始めたばかりでスペシャリストというべき者は多くない。そして実戦を経験している者は更に少数だ」

 

 たしか訓練じゃないMS同士の戦いって、サイド7であたし達がやったのが史上初めてなんだっけ。

 

 そう考えるとアムロのあんちゃんとあたしってパイオニアという事になるのでは?

 

「そこで皆さんにはアムロ・レイ君やマリー・マス嬢のように、軍の外部協力者として引き続き艦の運用に力を貸してほしい。もちろん万が一の際には正規軍人と同じ条件での福利厚生を約束するし、終戦後は相応の報酬も用意しよう。───いかがだろうか?」

 

 一度言葉を切って、ゴップのおっちゃんは私や民間のスタッフに問いかける。

 

 少しの沈黙の後、最初に手を上げたのは姉ちゃんだった。

 

「その話、お受けしますわ。妹は引き続き船に乗るでしょうから、それを放ってはおけませんし」

 

「それはありがたい。そう言えば、貴方はPMCを立ち上げる予定なのでしたな」

 

「PMC……ですか?」

 

「うむ。彼等をマス家で雇うとは伺ったが、私兵というのは色々と角が立つ。そこで民間軍事会社を立ち上げれば武装もある程度は融通が利くし、こちらも契約という形で協力をお願いしやすいと思うのだがね」

 

 そう言いながら視線で示したのはラルのおっちゃん達だ。

 

 なるほど、一人でも優秀な兵士が欲しい連邦としてはおっちゃん達を捕虜なんかで無駄にしたくない。

 

 けどラルのおっちゃんはあくまで私達に仕えるってスタンスなので、亡命扱いで連邦軍に所属させるのも難しい。

 

 そこで目を付けたのが国家を顧客として人員を派遣、正規軍の業務を代行したり、支援したりする民間軍事会社ってことか。

 

 え、小学生の癖にミリタリーに詳しい?

 

 これでもロボゲー30段の強者だからね、この辺の事は設定やら何やらで履修済みなのだ。

 

「故テアボロ・マス氏の資産の中には民間軍事会社の株式も多数あった。その会社はこの戦争のゴタゴタで休眠状態になっているが、それを復活させれば手続きも簡単に済むだろう。もちろん、政府の認可もすぐに降りるよう手配もするよ」

 

 そう続けるゴップのおっちゃんにあたしは思わす天を仰ぐ。

 

 ダメだ、完全に向こうが上手だわ。

 

 これ、断ったらラルのおっちゃんを私兵として雇うって話がダメになる流れだよ。

 

 というか、父ちゃんの資産まで調べてるとか、どんだけ用意周到なの?

 

「わかりました。私はその手の手続きには疎いので、お手伝いをお願いしてよろしいかしら」

 

「うむ。行政書士を始めとする必要な人材はこちらで用意しよう」

 

 でもって、姉ちゃんがOKを出すとフラウのお姉さんやハヤトさん、ミライのお姉さんも艦に残る選択をしてくれた。

 

「なあ、ゴップの大将さんよ。艦を降りるって言ったら、軍事機密云々で御用なんて事にならねえよな?」

 

 そんな中で異なる選択をしたのはカイさんだった。

 

「もちろんだ。最初に言ったが君達が我が軍の機密に触れる事となったのも、元はと言えば我々の責任だからな。みだりに口外しないと一筆書いてくれるなら、降りてもらって構わんよ」

 

「それじゃあ俺は一抜けさせてもらうよ。元々生きる為に戦ったんだ、艦を降りていいなら迷う事は無いわな」 

 

「カイさん!」

 

「引き留めてくれるなよ、ただのゴロツキだった俺にはパイロットなんて荷が重すぎるのさ」

 

 アムロのアンちゃんの声にカイさんは手をヒラヒラと振りながら会議室を出ていく。

 

「彼も有望な青年だったのだが仕方ないな。さて、ホワイトベースは艦の修理が済み次第、当初の予定通り南米のジャブローへ向かってもらう」

 

「その事なんですが、ゴップ大将にお願いしたい事があるのです」

 

 そう言って手を上げたのはテムのおじさんだ。

 

「なにかね?」

 

「実はガンダムがパイロットの操縦に付いていけないようでして、出来ればモスク・ハン博士を派遣してもらいたいのです」

 

「モスク・ハン、ガンダム二機にマグネットコーティングを施すつもりかね?」

 

「その通りです」

 

 ガンダムの不具合について告げると、ゴップのおっちゃんが傍らに立つ士官に声を掛ける。

 

「ホワイトベースの修理はどのくらいかかる?」

 

「4日ほどと聞いています。それとモスク博士ですが、現在はオデッサ基地にいるとの事です」

 

「ならば、ここまで二日あればたどり着けるか。わかった、手配しよう」

 

 テムおじさんの意見にゴップのおっちゃんは鷹揚に頷く。

 

「それでは私は一足先にジャブローへ戻らせてもらう。テム大尉、マグネットコーティング後に何かあればアマミヤ少尉を通してこちらへ連絡を。可能な限り便宜を図ろう」

 

「ありがとうございます。ですが、何故そこまで?」

 

「この戦争の勝敗を分けるのはMS、そしてエースパイロットだ。君としては複雑な心境だろうが、マリー嬢とアムロ君は連邦でも指折りのエースとなっている。彼等が十全にその実力を発揮するMSを手配すること、それが兵站屋たる私の仕事だからだよ」

 

 テムおじさんの問いかけに立ち上がったゴップのおっちゃんはニヤリと笑って見せる。

 

 そしてお付きの人達と部屋を出る寸前、彼が声を掛けたのはラルのおっちゃんだった。

 

「ああ、Mrラル。君達も連邦市民としての登録を頼むよ。サイド3がジオン共和国になる前の戸籍が残っているだろうから、それを辿れば手続きも簡単に済むだろう」

 

「むぅ……」

 

「あとエドワウ君、君もだ。失踪者扱いになっているので、この基地の法務課にでも行って戸籍を復活させておきたまえ」

 

 そう言い残して去っていくゴップのおっちゃんに、ラルのおっちゃんも兄ちゃんも何も言えなかった。

 

「姉ちゃん、これって……」

 

「全部お膳立てをして、ここに現れたという事ね。いったい、どういうつもりなのかしら?」

 

 ホワイトベースの援護? あたし達に恩を売る為? エドワウ・マスとしてシャア・アズナブルを自分の派閥に抱き込みたい?

 

 全部間違っているように思えるし、全部あってるような気もする。

 

 ただ、一つ分かる事はあのおっちゃんが真剣にこの戦争に勝ちに行っているという事だけ。 

 

 これはまた見事に化かされた。

 

 本当にタヌキみたいなひとだよ、まったく。

 

 

 

 

 それからあたし達は修理中のホワイトベースへ戻る事になった。

 

「戻ったらお掃除と皆の分のシーツのお洗濯、手伝ってね」

 

「「「はーい!」」」

 

 ハロと一緒に元気に走り回るカツ・レツ・キッカを引率するフラウのお姉さん。

 

「なあ、フラウ姉ちゃん! 俺もマチュみたいにMS乗れないの?」

 

「駄目よ。マチュだってセイラさんのお手伝いで乗ってるだけなんだから」

 

「えー、でも前にシミュレーターにマチュが一人で乗ってるの見たよ」

 

「あのタヌキみたいなおじさんだって、マチュをエースだって言ってたもんね!」

 

 オデッサの戦いが終わった頃から、カツ達はこんな風にMSに乗りたいと強請るようになってきた。

 

「……姉ちゃんの補助って言い訳、通用しなくなってきたなぁ」

 

「仕方が無いわ。地球に降りてから、その事を気にする余裕は無かったもの」

 

 その様子を少し離れた場所で見ていると、何とも言えない気分になる。

 

「マチュ、あの子達にMSの操縦できると思う?」

 

「いや、無理でしょ。MS動かすのって、普通は滅茶苦茶難しいんだよ?」

 

「けれど、あなたは初めて乗って普通に動かせたわ」

 

「それは直感で補った部分もあるけど、今までロボゲーで培った経験の下地があったからだよ。むしろ姉ちゃんがこの短期間でガンダム動かせるようになったことの方が、あたし的にはビックリだ」 

 

 アムロのアンちゃんだって、趣味の機械いじり+ロボゲーの経験があったからガンダムを動かせたんだから。

 

 MSは立派な兵器、下地ゼロの子供が操縦できるほど甘くありません。

 

「あ…あんた、ロボットのパイロットなの?」

 

 姉ちゃんとそんな事を話していると、右手の方から震える声が聞こえてきた。

 

 視線を向けてみると、赤みを帯びた亜麻色の髪を二本のおさげにした姉ちゃんくらいの年の女の子が籠を手に立っている。

 

 あたしの方を見てもの凄く驚いた顔をしているけど、地元の人なのだろうか?

 

「ええっと……」

 

 一応誤魔化さないといけないんだけど、今までの会話を聞かれてたら誤魔化しようなくね?

 

「なんでアンタみたいな小さな子が! 年だってジルと変わらないじゃないか!? 大人はなにをやってるのさ!」

 

 色々と整理できないのだろう、持っていた籠を落として私の両肩を掴むお姉さん。

 

 彼女の手から伝わってくるのは連邦…というか大人への不信。

 

 自分の弟と同じ年の子供が戦場に出ている事や、弟妹まで徴兵されるかもしれないという恐怖。

 

 あとはあたしへの憐憫やら何やらと色々だ。

 

 どう答えたものかと困っていたんだけど、あたしを揺さぶる彼女を止めたのは姉ちゃんだった。

 

「あなた、ちょっと失礼ではなくて?」

 

「あんたは?」

 

「この子の姉よ」

 

 姉ちゃんがそう答えると、赤毛のお姉さんの眦が吊り上がる。

 

「だったら、なんで助けてやんないんだい!? こんな年の子供が戦争で殺し合いするなんて、おかしいに決まってるだろう!!」

 

「私達にはそうせざるを得なかった事情があるの。それにこの子独りを戦場に出しているわけじゃないわ。MSには私も同乗しているもの」

 

「えっ!?」

 

 まさか姉ちゃんまで乗っているとは思わなかったのか、ギョッとする赤毛のお姉さん。

 

 そんな彼女の顔を見ながら、姉ちゃんは後ろからあたしを抱きしめる。

 

「私がマチュと一緒に乗るのは、この子を死なせない為。そして万が一の時は一緒に逝く為だもの。余人に口出しされる謂れはなくってよ」

 

「姉ちゃん、縁起でもないこと言わないの」 

 

 万が一なんて、あたしが絶対に来させやしないんだから。

 

 何のためにアムロのアンちゃんと切磋琢磨していると思ってんのさ。

 

 というか、後ろで聞いていた兄ちゃんが顔色真っ青にしてるじゃないか。

 

「君、ちょっといいかな?」

 

 姉ちゃんの迫力に押されて唖然としていた赤毛のお姉さん。

 

 そんな彼女の肩に背後から逞しい手が乗せられた。

 

「な…なな……なんだい、兵隊さん」

 

「今君が聞いてしまったのは機密に当たる事でね、少し話をさせてほしいんだ」

 

 その持ち主はホワイトベースにいる数少ない軍人さんの一人であり、艦内警備などを担当する陸戦隊出身のゴンザレス軍曹だった。

 

「軍曹、彼女の話はドックの詰め所で聞いてくれ。くれぐれも手荒は真似はしないようにな」

 

「はっ!」

 

 ロンバートのじっちゃんの声に短く答えると、軍曹は赤毛のお姉さんを連れて行ってしまった。

 

「……あたしのことって機密なの? ギレンがバラしてたのに」

 

「ギレンはジオン・ダイクンの娘で10歳の子供を戦場に出していると言っただけだ。それが誰かまでは判明していない」

 

 あたしの疑問の声に呆れた顔でブライト中尉が答えてくれた。

 

 なるほど、そういう事なのね。

 

 ちょっとしたアクシデントの後、ホワイトベースに戻るとカイさんとアムロのアンちゃんがいた。

 

「コイツはお前の工具セットじゃないか」

 

「これからの生活はお金が必要になるでしょう。売って少しでもその足しにしてください」

 

「ありがとうよ」

 

 アンちゃんの差し出した工具セットを少し考えてから受け取るカイさん。

 

 そうだ! あたしもカイさんには借りがあった!

 

 慌ててホワイトベースへ跳び込んだあたしは、自分の部屋からあるモノを持ちだした。

 

 大切なコレクションを手放すのは身を切る様な思いだけど、恩人への餞別なら仕方がない!!

 

「アムロ。お前の全てが好きって訳じゃないが、その言い方は俺も嫌いじゃないぜ。あのドラゴン娘を守ってやれよ」

 

 慌てて戻ってくると、アンちゃんの餞別を受け取ったカイさんが桟橋を渡ろうとしているところだった。

 

「カイさん、待った!」

 

「うん?」

 

 あたしが声を張り上げると、カイさんは足を止めて振り返る。

 

「これ、あたしも餞別! 兄ちゃんが謝る時にお世話になったから!」

 

「……お前なぁ」

 

「この辺はまだ物騒だからさ、それで身を守ってよ」

 

 あたしが渡したモノ、それは鉄製のヌンチャク。

 

 特殊合金製の本格的なモノだから、実戦にだって十分に使える筈だ!

 

 しかし受け取ったカイさんは何とも言えない表情でそれを見ている。

 

「セイラさんよ、もうちょっとコイツの教育を考えた方がいいんじゃねえか? どこの世界に餞別でヌンチャク渡す女の子がいんだよ」

 

「……返す言葉も無いわ」

 

 カイさんの心底呆れた声に沈痛な表情で答える姉ちゃん。

 

 くそぅ! あたしなりに考えた送り物なのに、いったいなにがいけないっていうんだ!?

 

 そんな茶番を展開していると、ドック内に甲高い警報が響き渡った。

 

「所属不明のMSが海上から3機出現! 上陸し、市街地を破壊しながら基地中枢を目指している模様! 総員迎撃に当たれ!!」

 

「アンちゃん! 姉ちゃん!」 

 

「うん!」

 

「行きましょう!」

 

 それを聞いたあたしは、すぐさまホワイトベースの格納庫へ向かう。

 

「おーい! 今出せるのはガンダム2機とガンタンクだけだ! 他は整備が終わってない!!」

 

 しかしハンガーへ向かうと思った以上に面倒な事態になっていた。

 

「ガンダムはいけるんだね?」

 

「ああ! 例のマグネットコーティングを施す時についでにオーバーホールする予定だったからな。ただ、ビームライフルは使えないぞ!」

 

「ライフルが!? ……厄介だな」

 

 整備の人と確認を取りながら、あたしとアンちゃんはコックピットに乗り込む。

 

「バズーカはアンちゃんが持ってって。あたし達はハンマーを使うから」

 

『わかった』

 

 打ち合わせをしながら起動シーケンスを終えたあたしは、アンちゃんに言った通りハンマーを取ろうとしたんだけど……

 

「……あれ?」

 

 壁のラックに掛けられているハンマーは何やら様子がおかしかった。

 

「なんで持ち手が斧になってるの?」

 

 いつの間に追加されたのか、長さが伸びた持ち手の部分にゴッツい鉞のような刃がついているのだ。

 

 しかも鎖の方も長くなってるし、中間部分にはこれまたグリップらしき鉄の棒を挟んでいるじゃないか。

 

「それ、私が頼んだのよ」

 

「姉ちゃんが?」

 

「朝起きた時にティンときたのよ。ハンマーだけに頼るんじゃなくて、持ち手の方にも武器を付けたら強いんじゃないかって」

 

 言葉と共にとてもとても綺麗な笑みを浮かべる姉ちゃん。

 

 斧付き鉄球とはニッチな武器を……。

 

 小さくため息を付いたあたしは、壁に掛かった殺意の塊を手に取る。

 

 改造されてしまった以上は今更文句を言っても始まらない。

 

『アムロ! マリー! 敵MSの迎撃急げ! 基地の中枢部をやらせるわけにはいかんぞ!』

 

 ブライト中尉からも催促が出ているのだから、覚悟を決める必要がある。

 

「了解、マリー機出るよ!」

 

 どんなネタ武装でも扱って見せるのがゲームクイーンの矜持、この新型ハンマーも使いこなしてみせましょう!!

 

 

             

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