どんな展開になるのか楽しみです
見ればきっと筆の進みもよくなるはず!
「間もなく、ホワイトベースが入港するとの事です」
「……そうか」
自派閥の高官の報告にレビルは小さくうなずく。
ここはジャブローに複数存在する会議室の一つ。
今この場所には、レビルを中心にした派閥の佐官や将官が集まっている。
「しかしジャブローのモグラ共は何も分かっていない! スペースノイドをつけあがらせては、再び地球へ牙を剥くに決まっているのです!」
鼻息荒くそう怒鳴るのは、禿頭にゴーグルのような眼鏡が特徴的な屈強な巨漢。
このバスク・オムという名の男は、連邦軍に数いる佐官の中でも過激思想のタカ派として知られている。
この戦争の開戦初期に捕虜としてジオンに捕らえられた際に凄惨な拷問を受けたらしく、特徴的な眼鏡はその後遺症で下がった視力を補う為のモノと言われている。
「まったくだ。サイド3を攻め落としてジオンという名をこの世から消してこそ、スペースノイド共に地球連邦の威光を示すことが出来る。なのに臆病者共め、世間からの非難がそれほどまでに恐ろしいか!」
そんなバスクの声に、会議室へ集まった者の多くが賛同の声を上げる。
エルランのスパイ疑惑をはじめ様々な失態を犯したレビルだったが、軍内部での影響力はそれほど落ちていなかった。
何故なら彼の下から去った中道や左派の連中に代わって、ジオン公国を壊滅させるまで戦う事をよしとするタカ派の人間が集まってきたからだ。
ジオンが行ったコロニー落としを始めとする数々の蛮行で、大切な人を失ったアースノイドは多い。
そして、それは連邦軍人も例外ではない。
いや、MS相手に既存兵器で必死に領土を守ってきた彼等だからこそ、戦友や同僚なども含めれば被害は大きいと言える。
故に連邦軍内でジオン公国殲滅を唱えるタカ派は相応の数がある。
そんな彼等はオデッサ作戦で行われたジオン側の南極条約破りを理由に大量破壊兵器の使用を訴えたレビルに呼応。
一時は衰退した彼の戦力を補充する形で派閥の刷新を行い、現在では兵站部のゴップ大将を旗頭とした中道・左派と軍内の勢力を二分するほどに膨れ上がっている。
「ホワイトベース隊、彼等の戦果は目覚ましいですな。ベルファスト基地でも、ジオン軍の侵攻を容易く跳ねのけたと聞きます」
「レビル将軍も予定されている『チェンバロ作戦』では、彼等に期待しているとか」
「うむ。オデッサ作戦後にアムロ・レイ少年と顔を合わせたが、彼はいい軍人になると思ったよ」
周りの高官が口々に話すホワイトベース隊の戦果に、レビルは鷹揚に頷いて見せる。
「しかし彼等は政治的に厄介な立ち位置にある。そして今までの物資補給の関係上、ゴップ派閥に接近しつつありますな」
「やはり面倒なのはジオン・ダイクンの遺児共か。下手に有能だから扱いに困る」
「まったくだ。その所為で、あの艦は未だに半官半民などという中途半端な運用しかできん」
「せめて下の娘の年齢がもう少し上なら、まとめて徴兵してやったものを」
顔をしかめながら口々に愚痴を漏らすタカ派の高官達。
世間ではジオン・連邦双方で暴露し合った少年兵問題は未だに燻りつづけている。
下手に行動すれば世間体を気にする連邦政府の官僚や政治家達に自分の首を切られかねないため、誰も彼もがホワイトベース隊とマリー・マスの扱いは慎重にならざるを得ないのだ。
そんな中、一人の高官が手を上げる。
「それならば、あの娘をホワイトベースから引き離せばいいのです」
「どうやってだね? 彼女は軍属ではない、我々の裁量では配置転換はできんぞ」
レビルの問いかけに高官は立ち上がって説明を始める
「だからこそ、ですよ。軍属で無い者が前線に出る軍艦に乗るべきではない、これは常識です。それを理由に彼女を下船させて育児センターに預けるように仕向ければいい」
「育児センターは戦災孤児の為のシステムだ。彼女には保護者がいるだろう」
「ホワイトベースのクルーを徴兵してしまえば、その保護者も前線送りです。ならば育児センターへ身を寄せても問題はありますまい」
「セイラ・マスはそれでいいとしても赤い彗星はどうする? それにランバ・ラルが保護者に名乗り出ると厄介だぞ」
「シャア・アズナブルはゴップ大将の計らいでエドワウ・マスとして艦に乗っている。地球連邦に戸籍がある以上は徴兵は免れん。ランバ・ラル達も同様だ。どうしても嫌だと言うのなら、投降兵としてルナツーにでも送ればいい」
他の将官の問いかけに、その高官はスラスラと答える。
そんな彼に視線を送るとレビルは再び口を開く
「そうまでしてマリー・マスを仲間から引き離して、君は何を求める?」
「こちらで開発している試作機のテストパイロットをしてもらいたいのですよ。私の手元にあるコマでは、機体性能を限界まで引き出せないようなので」
「例の『四騎士計画』か。───報告にあった装置、役に立つのかね?」
「ええ、間違いなく。クルスト・モーゼス博士の対ニュータイプシステムを、さらにブラッシュアップした代物です。ジオンが研究しているニュータイプ部隊を圧倒すると自負していますよ」
件の高官から送られてきた資料はレビルも見ている。
そこに記載された『HADES』というシステムは、一時的に機体性能を向上させる機能があるらしい。
機体もそのシステムにも裏に闇が隠されている事は察していたが、レビルはそれをあえて黙殺した。
ジオンを滅する為にはニュータイプ対策が必須であり、それが無ければ数多の将兵の命が戦場で散る事になる。
それを思えば、子供の一人や二人安いモノだからだ。
「いいだろう、こちらから話は通しておく。マリー・マスは一度育児センター預かりになるので、機を見て身柄を回収したまえ」
「了解しました」
レビルの許可を得た高官は深々と頭を下げ、見えないところでその口角を釣りあげる。
ニュータイプと目される少女と『HADES』が組み合わさればどうなるのか?
そのデータから生み出される『HADES』の後継システムが、自分にどれほどの利益をもたらすのか?
これから歩むであろう輝かしい未来を思えば、笑いが止まらなかったのだ。
しかし彼は…いや、この会議に参加している全ての者は気付かなかった。
「やっと尻尾を出したわね、グレイヴ」
部屋に設置された監視カメラの向こう側で、一人の美女が妖艶に微笑んでいることに。
◆
その会議から数日後、ホワイトベースはジャブローへ到着した。
「そろそろ入港路か。ブライト艦長、我が軍の本拠地が近いとはいえジオンの攻撃が無いとは限らん。対空監視を密に」
「はっ! ブリッジより各員へ、これよりジャブローに入る! 対空監視を怠るなよ!」
入港時を狙った奇襲にブリッジが神経を尖らせる中、密林の上空ギリギリを行く白亜の戦艦を見つめる影があった。
「……間違いないな。あれが噂の木馬だ」
ジャブローの敷地内を流れるアマゾン川の濁流の中、そこから顔を覗かせる潜望鏡の画像にコックピットの中で男が口を開く。
軍用のキャップを被り口ひげを蓄えた中年の男、ハーディ・シュタイナーの呟きに通信機から酒に灼けた声が返ってくる。
「ガルマ大佐を殺ったって奴ですかい。なるほど、たしかに太々しい図体をしてやがる」
そう言ってコックピットにぶら下げたスキットルに入った酒を煽るのは、古参の隊員であるミハイル・カミンスキー、ミーシャという通称を持つ男だ。
彼等が駆るのはジオン軍が生み出した水陸両用MS。
隊長機は「統合整備計画」によって改良された、ズゴックの性能向上機『ズゴックE』。
隊員達も同計画に則りゴッグを再設計したハイゴッグである。
マ・クベ大佐が提唱し、0079年2月から始まった統合整備計画。
それはジオン公国軍のMS開発・生産に、ジオニック社やツイマッド社など複数の企業が参加していることに端を発している。
各会社ごとにそれぞれ部材や部品、装備にコックピットの操縦系まで異なる為、現場では整備や機種転換などに多大な負担が掛かっていた。
そこで規格・生産ラインを統一することにより、生産性や整備性の向上、機種転換訓練時間の短縮を図ったのが本計画である。
ジオンのMS増産速度にまで影響を及ぼした計画、それが生み出した数少ない機体が与えられた彼等は『サイクロプス隊』といった。
シュタイナーを隊長としたこの隊は敵の後方撹乱や要人の拉致までをもこなす少数精鋭の特殊工作部隊であり、大戦初期から様々なミッションを成功させてきたスペシャリストの集まりだ。
「まさか連邦の新型を追ってる最中に、こんな大物に出会うとは」
「そういやガルマ大佐の仇とかいうガキ、あれの懸賞金ってまだ有効なんですよね?」
コックピットの中で自慢である灰色の髪に櫛を通すアンディ・ストロースに、赤いバンダナがトレードマークのガブリエル・ラミレス・ガルシアが続く。
「なんだ、ガルシア。一攫千金でも狙ってるのかい?」
「ゴールドラッシュなんて夢があるじゃないですか。上手くいけば戦後だって安泰だ」
「そんときゃあ美味い酒でも奢ってくれよ」
「へっ、浴びる程飲ませてやりますよ」
「二人共、おしゃべりはそこまでだ。俺達の任務は新型ガンダムの破壊だ、それを忘れるなよ」
ガルシアとミーシャの軽口にシュタイナーが釘を刺す。
「隊長! 木馬が基地内に入って行きます!!」
アンディの声を聴きながら潜望鏡の画像に集中すれば、そこには密林地帯の一区画がスライドして現れた港の入り口にホワイトベースが呑み込まれていく様が映っている。
「まさか、ジャブローの入り口まで見つけちまう事になるとはな」
「どうするんですかい?」
「……一度後退して、この情報をキャルフォルニアベースへ流す。むこうのお偉方が躍起になって探していた連邦軍本拠地の入り口だ、新型なんぞよりよっぽど価値がある」
「了解だ。野郎ども、尻尾を掴まれるような間抜けはするなよ!」
ミーシャの発破がけと共に、ジャブローを監視していた潜望鏡がアマゾンの流れに消える。
こうしてジャブローを襲う争乱の種は植え付けられ、静寂の中で芽吹きの時を待つ事になるのだった。
◆
長い船旅の末にようやく連邦軍本拠地に辿り着いたマチュです。
ここに来るまでミハルお姉さんを故郷へ帰したり、ダイクン派に連絡を取ったりと結構ドタバタでした。
まずダイクン派との繋ぎだけど、ラルのおっちゃん曰く今回はジャブ程度の交渉だったらしい。
手紙の主のコノリー副長は姉ちゃんとあたしと顔合わせをして、あとは戦闘になってもダイクン派の人間を倒さないようにと打ち合わせをしたくらいだ。
ちなみにダイクン派とその他を見分ける方法は、MSの敵味方識別システムにダイクン派だと分かるパッチデータを当てるんだってさ。
もちろん、あたし達は連邦軍の所属なので共闘云々を決めるのはまだ早い。
なので、ロンバートのじっちゃん経由でゴップのおっちゃん辺りに話を上げてって感じで擦り合わせが行われるんだろう。
ちなみに兄ちゃんがシャアだと知った時は、コノリー副長は顎が外れそうなくらい驚いていた。
なんでも兄ちゃんはジオン軍の中だと人望があるらしく、今の状態でもジオンを抜けて付いてきそうな人がけっこういるらしい。
兄ちゃんは『アンディとリカルドに伝えてくれるとありがたい』とか言ってたけど、そういうのは自分で連絡を取りなよ、まったく……。
さて、ジャブローへ着いたあたし達が最初に行ったのは、ホワイトベースのオーバーホールでした。
ウッディとかいう大尉さんが作業を指揮していたんだけど、あの人あたしを見てギョッとしていたなぁ。
まあ、軍艦から子供出てきたら驚くのも当然か。
そんな訳でクルーはホワイトベースのメンテが終わるまで休息を取る事になるらしいんだけど、あたしとアンちゃん、そして整備班の皆には大切な仕事があるのだ。
「たしか27番ハンガーと聞いていたが……」
テムおじさんを先頭にジャブローの敷地内をエレカで進むあたし達。
27と書かれた格納庫へ入ると、こちらに気付いた女の人が中から走ってくるのが見えた。
「テム大尉、こちらです!」
「マッケンジー中尉、君まで来るとはな」
茶色の長い髪を靡かせる年の頃は20代前半の美人さん、マッケンジーというお姉さんはテムおじさんと顔見知りらしい。
「知り合いなの、父さん?」
「ああ。彼女はガンダムを開発していた時、教育型コンピューターの育成を手伝ってくれていたのだ」
「そうなんだ。はじめまして、僕はアムロ・レイって言います」
「マリー・マスです、よろしく」
「私はクリスチーナ・マッケンジーよ。階級は気にしないで、クリスって呼んでくれると嬉しいわ」
あたしとアンちゃんを筆頭に、一緒に来ていた姉ちゃんたちMSパイロットと整備班がクリスお姉さんに挨拶をする。
「マッケンジー中尉。君はガンダムの時のように、NT-1のシューフィッターとテストパイロットを行っていたと聞く」
「はい。開発のかなり深い部分にまで関わらせてもらいました」
「それで性能の方はどうかね?」
ぞろぞろと27番ハンガーを進みながらクリスお姉さんに問いかけるテムのおじさん。
「凄いですね。反応が敏感過ぎて、私も振り回されてばかりです」
それを受けてクリスお姉さんは苦笑いで口を開く。
「君ほどのパイロットが手に負えんか。相当にピーキーな仕様のようだな」
「ええ、だから少し心配なんです。アムロ君やマリーちゃんにアレックスを引き渡すのは」
「アレックス?」
「NT-1のコードネームよ。よければ、この名前も使ってあげてね」
首をかしげるあたしに、クリスお姉さんは笑顔でこう言った。
そんなこんなで格納庫の奥に辿り着くと、そこには二機のガンダムタイプのMSが置いてあった。
ホワイトベースのガンダムと同じく白を基調にしたカラーリングで、一つは胴や手甲に足のパーツの一部が青にペイントされたもの、もう一つは同じところを赤に塗られている。
「これがガンダムNT-1とNT-1プロト、貴方達の新しい機体になる子達よ」
「ほへー」
「……脚部に大型スラスター、それにバックパックのブースターユニットもガンダムより更に大きくなってる。肩にある小型スラスターは姿勢制御用か?」
二体の巨人を前にあたしは感嘆の声を上げて、アンちゃんは外観から機体の性能を掴もうとしている。
「この二機はもう動かせるのかね?」
「はい。組み立ては終わっているので、あとは二人に合わせて細部を調整していくだけです」
「それに関しては我々も手伝わせてもらおう。整備班! 事前に送られていたマニュアルには目を通してあるな?」
「そりゃあもう! 穴が開くほど読み込みましたよ!」
テムおじさんの問いかけにアマミヤ少尉が威勢よく返事を返すと、整備班の皆が二機のアレックスへ走り出す。
「よし、そこの君!」
「はっ! 自分はアストナージ・メドッソ軍曹であります!」
「その兄ちゃんはモスク・ハン博士の弟子で、アレックス達のマグネットコーティングの調整にこっちへ派遣されたんですよ」
「そうか。では、私の補佐に付いてくれ。関節部の調整の際にはコーティングを弄ってもらう事になる」
「了解しました!」
整備班の皆がアレックスに群がる中、あたしとアンちゃんはクリスのお姉さんに呼ばれた。
「二人共、これに入って」
「これってシミュレーター?」
「ええ。中には現状のアレックスのデータがインプットされているわ。これを使って、貴方達の操縦の癖をアレックスに教えてほしいの。私達もそのデータを基に、あの子達を調整するから」
「じゃあ、マチュと対戦をすればいいんですか?」
「それは、まだ早いわ。今回はアレックスに慣れてもらう為に、僚機についてもらってコンピューターが選んだ仮想敵と戦ってもらいます」
要はCPU戦ってことか。
「それじゃあ、二人と一緒にシミュレーターに参加してもらえる人はいますか?」
クリスお姉さんの呼びかけに前に出たのは兄ちゃんとカイさんだった。
「アルマリアには私が付こう」
「だったら俺はアムロだな。こういう腕を磨く機会は逃したくないんでね」
各自バディも決まって、シミュレーターの中に入ろうとした時だ。
「エドワウ君、ちょっと!」
兄ちゃんに呼びかけながら走ってきたのはアマミヤ少尉だった。
ちなみに、ジャブローにいる間は兄ちゃんの事はエドワウと呼ぶ事になっている。
さすがにシャアの名前は色々と拙いからね。
「どうした、アマミヤ少尉?」
「シミュレーターをするなら、コイツを試してほしいんだ」
そう言ってアマミヤ少尉が取り出したのは、携帯用のデータ端末だ。
「この中には宙間戦闘用に換装する予定のゲイル・ディアスのデータが入っている。動かして問題ないようなら、それで行くからヨロシク!」
「ここからは宇宙での戦いだったな。わかった、使わせてもらおう」
そんな訳でついでとばかりにゲイル・ディアスもテストする事になってしまった。
思わぬサプライズがあったモノの、アンちゃん達がもう始めているのならこちらもグズグズしてはいられない。
シミュレーターに入るとインテリアはガンダムに比べて全然違っていた。
「おお! コックピット全体で外の様子が映るんだ!」
なにこれ、すげー!!
まさかの新技術にワクテカしながら機体を立ち上げると、モニターは仮想空間が作りだした宇宙を描き出す。
右側には赤い兄ちゃんの機体もバッチリ見えている。
『どうだ、アルマリア。新しい機体の乗り心地は?』
「コックピットの中のインテリアが全然違うけど、いい感じだよ。兄ちゃんの方は?」
『悪くないな。脚部の熱核ジェットを大型スラスターに入れ替えて、スカート内部や肩の増加装甲にもブースターユニットを仕込んでいるらしい。これはかなりスピードが出そうだ』
とりあえずCPU戦の前に軽く動かしておきたいなと思っていると、通信機からクリスお姉さんの声が聞こえてきた。
『マリーちゃん、大丈夫?』
「うん、今のところはOKだよ」
『よかったわ。それじゃあ、まずはアレックスに慣れ───え!?』
説明の途中でクリスお姉さんが驚きの声を上げると、次の瞬間にはモニターの前面に『HERE COMES A NEW CHALLENGER!!』という文字が現れたのだ。
『なんだ、これは?』
兄ちゃんは驚いているけど、あたしとアンちゃんにとっては死ぬほど見慣れたモノだ。
「クリスお姉さん、この筐体って通信対戦機能が生きてるみたいだよ」
『あっ!』
通信機の声からするに、どうやら切り忘れていたみたいだね。
『アルマリア、これはどういう事なのだ?』
「簡単に言うと、他の基地のパイロットがあたし達に模擬戦を挑んできたんだよ。どうする? 今なら拒否もできるけど」
『なるほどな。ならば受けるしかあるまい、私達に挑んでくる者を無下にはできんだろう』
不敵に笑う兄ちゃんに、あたしも気合を入れ直す。
「クリスお姉さん、この対戦受けちゃうね」
『いけません! 貴女はまだアレックスに慣れていないのよ!』
「大丈夫だって! ガンキャノンだってぶっつけ本番で動かしたんだから!」
それに兄ちゃんがOKを出している以上、サイド7ゲームクイーンとしては挑戦から逃げるわけにはいかないのだ。
『まったく……後でお説教ですからね!』
「お手柔らかにヨロシク!」
クリスお姉さんの怒りの声にそう答えると、あたしは画面に浮かんだ『受けて立つ』のボタンを押す。
すると現れたのは二機のMS。
モニターに映る情報からすると一機は『ジム・ドミナンス』っていうジムの改良型で、身体に付けているオプションパーツはアンちゃんの『ガンダム高機動型』と同じもの。
その肩には金髪をリーゼントにした笑顔が不敵なダンディの顔がペイントされている。
そしてもう一機は、なんと懐かしの『ガンキャノン強襲型』である。
あの青を基調にしたカラーリング、間違いない!
「モミアゲ・ダンディ! それにカメマンか!」
こちらの声と同時にジムが持つライフルからビームが吐き出される。
兄ちゃんと同時に回避するけど、今の一撃はあたし達を分断する為のモノだったようだ。
『よう、イノシシ娘! 新型のガンダムたぁ、面白い玩具に乗ってるじゃねえか!』
『今回のバディは死神坊やじゃないようだが、久々の対戦だ。容赦はせんぞ』
ガンキャノンを前衛、その後ろにジムという布陣でこちらへ向かってくる対戦者達。
カメマンもモミアゲ・ダンディも、チャンピオンズリーグに出る程の実力者だ。
流石のあたしでも、二対一で相手取るのはキツい。
『チッ!』
けれど、パイルバンカーが付いた手を引き絞りながら向かってくるガンキャノンを横合いから飛んできたビームが襲う。
両肩の増加装甲に仕込まれたアポジモーターと足のスラスターを巧みに使ってすんでのところで躱すカメマン。
『アルマリアに手出ししたければ、先に私を倒してからにするんだな!』
そんな彼にビームサーベルで斬りかかるのは、兄ちゃんの駆るゲイル・ディアスだ。
『ほう! イノシシ娘が飼育中のニュービーかと思っていたが、少しはできるじゃないか!』
そんな兄ちゃんの一刀を、カメマンがパイルバンカーの杭を使って防ぐ。
あんな物に耐ビームコーティングを仕込むとか、かつての愛機は向こうでどんな魔改造をされたのだろうか?
とはいえ、あたしも呆けている場合じゃない。
カメマンが出鼻を挫かれた事で足を止めたダンディに向けて、ビームライフルを放つ。
『おっと!』
襲い来る閃光を左のバレルロールで回避するジム。
というか滅茶苦茶レスポンスがいいな、アレックス!
こっちの操縦に敏感過ぎて、ガンダムと同じ感覚で撃っていたら照準がズレるじゃん!
『やるな。だが、いつもよりも狙いが甘いぞ!』
二射、三射と放つビームを高機動ユニットを活かしてスピードでブッちぎるダンディ。
さすが、リーグの中でもスピードスターで名を馳せただけはある!
『おい、モミアゲ! 俺はこのニュービーを揉んでやることにした! コイツを片付けるまで、イノシシ娘と遊んでいろ!』
『いいだろう。だが、雑魚を甚振っている内に獲物を掻っ攫われたなんて文句を言うなよ!!』
カメマンの言葉に同意を示すと、ダンディは兄ちゃんから引き離すように、あたしをビーム射撃で追い立ててくる。
相手は機動戦のプロだ。
アレックスのポテンシャルがどうであれ、慣れない機体で引き離すのは無理があるか!
「ごめん、兄ちゃん! そっちは任せる!!」
『ああ!』
「カメマンはあたしも負けた事がある相手だから、気を付けてね!!」
『アルマリアを墜としただと? 面白い!!』
声だけでも戦意が上がっているのが分かる兄ちゃんが、ガトリングをまき散らすガンキャノンと射撃戦に移る中、あたしは戦場を移すべくスロットルを開ける。
途端にアレックスはもう加速を始めて、モニターに映る宇宙が凄い勢いで流れ始めた。
つーか、速っ!?
アレックス、ガンダムなんかより全然速いよ!
『大した加速性能だ! だがスピードで俺に勝てると思うなよ!』
こちらの思惑通り、あたしを猛追するダンディ!
さて、試乗体験の相手にはハードルが高いけど、やれるだけやってみましょうか!
モミアゲ・ダンディ
ロボゲーチャンピオンズリーグに名を連ねる一人。
機動力に魅せられた男で、ゲーム内では唯一アムロのヅダに食らいついた。
高速戦闘が一番の強みだが、射撃や格闘戦も一流の腕を持ち、どの距離でも戦える連邦のエースの一人。
なお、後にアッシマーという生涯の愛機と運命の出会いを果たす模様。