映画で見た場面だけど、もう一度見てもやはり面白い。
次はシャアが大活躍!
楽しみですな
「くそぉっ!?」
仮想空間に創り上げられた宇宙の中、ビームと砲弾に追い立てられながらガンキャノンを駆るカイは毒づく。
彼を追撃するのは盾を片手にビームスプレーガンを連射するジム・コマンド、その背後で右肩に設置された大砲を放つジム・キャノンだ。
ジム・コマンドが前衛を務め、キャノンが背後から支援砲撃を行う。
二機の連携はカイの眼から見ても相当なモノだ。
(二対一なうえに相手は手練れ! まともに撃ち合ったら勝ち目はねえ!)
こちらの前衛を務める筈のアムロとは引き離された上に、向こうも敵の隊長機と部下を相手に翻弄されている。
そのうえ頼みの綱の相方は初めて乗る新型なせいか、動きや射撃の狙いに何時ものキレが見えない。
「砲撃仕様のドン亀がチョコマカと!」
「落ち着いてください、モンシア少尉」
「わぁってるよ! だが、これからバニング大尉と合流して死神を狩らなきゃならねえんだ。何時までもオマケに付き合ってられるか!」
通信機から苛立つジム・コマンドのパイロットを、キャノンの相方が宥めようする声が聞こえる。
しかしその努力もむなしく、コマンドは背部のスラスター出力を上げて更なる加速を掛けてきた。
どういうつもりかと訝しむのも一瞬、眼前を塞ぐように流れてきたデブリでカイは追手の意図を察した。
(奴等! コイツを使って追い詰めるつもりだったのか!)
後ろからの射撃を躱すのに必死で、前方への注意が疎かになっていたことに歯噛みするカイ。
しかし、彼とて伊達に激戦を潜り抜けてきたわけではない。
「舐めんなよ! 俺だって伊達にアイツ等を見てきちゃいないんだ!!」
その瞬間、カイが取った行動は追手にとって想像だにしていないモノだった。
なんと彼は両肩のキャノンを放ってデブリを破壊するとともに反動で減速し、さらに残骸を足掛かりに駆けのぼるとクルリと宙返りをしたのだ。
「なっ!?」
砕けたデブリの群の中へ突っ込む寸前で急減速するジム・コマンド。
「モンシア少尉、上です!」
そんな彼に頭上からバルカンの弾雨は降り注ぐ。
「ぐおおっ!?」
ジム・コマンドのパイロット、『きたないチョビ髭』のハンドルネームを持つベルナルド・モンシアは相方の警告に慌ててシールドを掲げる。
ガンキャノンの頭部に備わった60mmバルカンは牽制用の武装だが、当たり所によってはMSも破壊できる威力を秘めている。
チタン合金の傘でそれを防いでいるモンシアだが、次に襲いかかってきた衝撃は弾丸など比較にならなかった。
「うおわぁぁぁぁぁっ!?」
盾を手放しながら下へと吹っ飛ぶモンシア、回る視界の中で彼が見たのは自分を踏み台にして相方のジムキャノンへ襲いかかるガンキャノンの姿だ。
「まさか、モンシア少尉を踏み台にするとは!?」
ガンキャノンのあまりにセオリーを無視した機動に歯噛するのは、『キレイなチョビ髭』ことチャップ・アデルだ。
相手はデブリ片を足場にトンボを切ると、その頂点で身体を反転させてバックパックのスラスターをフル点火。
全速力で下方へ突貫したのだ。
そして頭部バルカンでモンシアのジムを牽制すると、彼の掲げた盾へフットスタンプを敢行し、そのまま敵機を踏み台にしてこちらへ襲ってきた。
こんなバカな手など軍のMS操縦マニュアルには当然ない。
というか、ジムでも困難な軽業を重装甲機のガンキャノンでやるなど正気を疑う度胸だ。
「迎撃を……ダメか!」
手にしたマシンガンを構えようと考えたアデルだが、すぐさまその考えを捨てて横っ飛びに機体を投げ出す。
その考えは正解だった。
もし回避を選ばなければ、ガンキャノンが放ったビームライフルの光弾はキャノンが付いた右肩ではなく、胴体の中央を穿っていただろう。
「まずは一機! ……チィッ!?」
右腕を根元から失ったアデルのジムへ照準を合わせようとしたカイだが、下方から突き上げるように飛んできたビームとバルカンの鉛玉に後ろへ下がる事を余儀なくされる。
「やれるか、アデル!」
「ええ! ですが、アレを死神の添え物と考えない方がいいでしょう」
「イノシシ娘がいないと思って安心したのに、あの野郎が連れてる奴はドイツもコイツも化け物ばかりかよ!」
敵機を牽制射撃で相方から引き剥がすと、モンシアはアデル機の前についてガンキャノンと睨み合う。
一方のアムロは二機のジム・コマンドをアレックスで迎え撃っていた。
「流石の死神も慣れない新型じゃあ、調子が出ないみたいだな!」
ゲーム内では『中指上等』と名乗っている、アルファ・A・ベイトが乗るジム・コマンドが放った100mmマシンガン。
「ちぃっ!」
全天周囲モニターに映った下から襲い来る弾幕に目をやることもなく、アムロはアレックスに最小限のバックステップを取らせて躱す。
「ベイト、相手は新型の癖を掴み始めている! ここで一気に落とさねば厄介だぞ!!」
部下へ注意を飛ばしながらアムロの背後から迫るのは『バカ犬ブリーダー』こと、サウス・バニング大尉だ。
彼のジム・コマンドが放ったのは、加速の勢いを付けたビームサーベルによる袈裟斬りだ。
「させるかっ!」
しかしそれはアレックスのバックパックから引き抜かれ、背中の前を通るように形成されたメガ粒子の刃によって阻まれる。
「なにっ!?」
「このっ!」
驚愕するバニング機の腹に、振り返る勢いを乗せたアレックスの回し蹴りが叩き込まれる。
「ようやく、アレックスの使い方が分かってきたぞ!」
後ろへ吹っ飛ぶジム・コマンドに目をやりながら、アムロは小さく息を付く。
シミュレーターが起動した当初、アムロは初めて扱うアレックスというMSに戸惑いを隠せなかった。
コックピット内のインテリア、全天周囲モニターの圧倒的な情報量、そしてパイロットの操縦に過敏すぎる追随性と機体各部に備わったスラスターの大出力。
その全てがガンダムとはまるで違ったからだ。
シミュレーターとはいえ、機器に使われているのは連邦軍の最新技術の粋を結集した逸品ばかり。
それを前にして、一つ一つの機能を確認しながら興味深く弄り回してしまったのは、メカオタクの性というモノだろう。
本来の予定ならゆっくりと慣らし運転をしつつ、アレックスの事を知っていくはずだった。
しかし模擬戦の乱入表示が画面に出たのを見たアムロは、ロボゲー時代の癖で条件反射的に受けて立ってしまった。
そうして現れたのはチーム名『不死身の第四小隊』、4人1組のチーム戦を得意とする歴戦の強者達だ。
彼等の戦いは強かで、突然始まった対戦プレイにカイが戸惑っている間にアムロは相方と引き離されてしまった。
そうして今まで二機の攻撃を凌ぎながら、機体の事を把握しようと必死になっていたのだ。
普通のパイロットなら、こんな状況で乗り換えたばかりの新型に適応するのは至難の業だ。
しかし、アムロがロボゲーのコロニーチャンプへ上り詰めたのは伊達ではないし、今までの激戦を潜り抜けてきたのはマグレでもない。
「コイツの追随性なら───そこっ!」
「なにぃっ!」
バニングを払い除けた隙を突こうと左回りにアムロの死角へ入り込んだベイト機だったが、マシンガンを構えようとするより早くアレックスが放った光弾でその銃身を撃ち抜かれる。
「ベイト!」
敵から見えない位置にいた僚機が狙撃を受けた事に驚愕し、体勢を立て直したバニング機の動きに一瞬の陰りが見える。
「迂闊な!」
その隙をアムロは見逃さない。
「なんという加速力だ!?」
爆発的な推力で彼我の間合いを食いつぶすと、引き抜いたビームサーベルを袈裟斬りに振り下ろす。
咄嗟に盾でサーベルを防ぐバニング機。
しかしメガ粒子の刃はチタン合金で出来た防御板を容易く切り裂いた。
「うおおっ!?」
盾が切り裂かれる一瞬の猶予を使ってギリギリのところで難を逃れたバニング機。
次の瞬間、彼とアレックス機の間に左から放たれた光弾の連射が割って入る。
「クソッタレがっ! 左腕を持って行かれた!!」
その出処はサブに回していたビームスプレーガンを乱射するベイトのジム・コマンドだった。
「無理をするな、ベイト! こちらと合流して態勢を立て直せ!!」
己のフォローに回るベイト機に、盾が切り裂かれる寸前で刃圏から離脱したバニングが指示を飛ばす。
しかしバニングの指示に従おうとしてたベイトは、アムロの取った行動に戦慄する事になる。
「見える! アレックスなら!!」
なんとアムロはベイト機が張ったビームの連射を、その間を縫うように掻い潜りながら前へと突進してきたのだ。
「なにぃっ!?」
ベイトが驚愕の声を上げるのも無理はない。
通常なら弾幕は射線から離れて大回りをするのがセオリーだ。
弾と弾の間を掻い潜って前進してくるなど人間業ではない。
「もらった!」
あっと言う間にベイト機の懐へ潜り込むと、アムロが引き抜いたビームサーベルが奔る。
「クソッタレ……!?」
片腕を失っているベイトにその一撃を躱す術はなく、胴を横薙ぎに両断されたジム・コマンドはアレックスが離れるのを合図とするかのように爆砕した。
「ベイトッ! くっ、やはり手に負えん!!」
僚機を撃墜した隙を狙ってアレックスへビームスプレーガンを放つバニング機。
「遅いッ!」
しかしアムロはアレックスの桁違いの推力でバニングの射撃を振り切ると、お返しとばかりにビームを三射放ってくる。
「ちぃっ!?」
その射撃は高速移動中とは思えないほどに精妙かつ容赦がない。
顔面と胴を狙った二発はなんとか外したものの、最後の一射で右足の膝から下を吹き飛ばされた所為でバニング機の体勢が大きく崩れる。
歯を食いしばりながらリカバーを掛けたバニングだが、次の瞬間驚愕で目を見開く事になる。
「……コイツはまいった」
何故なら武器をサーベルに持ち替えたアレックスが、刺突の体勢で突撃してくるのが見えたからだ。
◆
アムロ達とは別の筐体が作り出す仮想空間、そこでは二組のエースが鎬を削っていた。
「はっはぁ! 鈍重な図体のわりにはよく動くじゃないか!」
ヤザン・ゲーブルが駆る重装突撃型ガンキャノンが左手のガトリングから弾幕を放つ。
「牽制でこの精度とは厄介な!!」
その弾幕をバックパックの大推力と各所に増設されたスラスターを使って巧みに躱すのは、シャアの操るゲイル・ディアスだ。
「それにこの心地よいプレッシャー! 狩り甲斐があるぜ!!」
ガトリングでありながら並のパイロットならハチの巣になってもおかしくない精密な射撃、それに対してビームライフルでカウンターを取るシャアの腕にヤザンは獰猛な笑みを浮かべる。
宇宙を逆巻く鋼の弾雨を切り裂いて襲い来る光弾は2つ。
それをヤザンは周囲に浮かぶデブリを踏み台に三角跳びの要領で躱す。
「あれほど上手くデブリを足場にするとは……やるな!」
「はっ、何言ってやがる! この程度は宙間戦闘の基礎の基礎だろうが!!」
嘲りと共に次々とデブリを飛び跳ねるガンキャノン。
その動きはまるで密林の枝から獲物に襲いかかるジャガーのようだ。
「くっ!?」
頭上から突貫するヤザン機、その右手に仕込まれた牙をシャアはすんでのところで躱す。
「ほう、コイツの事を知っているようだな」
その警戒の度合いから、ヤザンは相手が強襲突撃型最大の武器であるパイルバンカーに気付いていると当たりを付ける。
「ああ、忌まわしい程にな!」
答えと共に放ったのは頭部に追加された外付け型のバルカンポッドによる斉射だった。
シャアにとって、ヤザンが駆るガンキャノンは妹と敵対したという忘れ去りたい汚点の象徴だ。
だからこそ攻撃に籠る力も一入となる。
チタン合金製の弾丸が牙を剥いたのは、ガンキャノンの頭部に設置されたゴーグルの奥に隠されたカメラやセンサーだ。
「くそっ!」
流石に目を潰される事を嫌ったヤザンは、左手を掲げてガンキャノンの顔面を庇う。
「迂闊だな!」
「ぐおぉっ!?」
その隙を見逃さずに、ゲイル・ディアスは自身の強固な脚を跳ね上げる。
互いに上下ですれ違う体勢の中、シャアが繰り出した脚打はガンキャノンの腹部を強かに打ち抜いた。
「へっ! やるじゃねえか!!」
しかしヤザンもただやられるだけの男ではない。
逆さまの体勢で吹っ飛びながらも、深紅の敵機の両足を捥ぎ取るべく肩のキャノン砲を放つ。
「チッ、タフだな!」
迫りくる砲弾をスラスターを吹かして上に躱すと、その隙にヤザンもデブリを蹴って体勢を整える。
そこからは互いにデブリ帯の中を縦横無尽に駆け巡っての射撃戦だ。
「この動き、やはり戦い慣れてやがる! ニュービーなんてトンデモねえ! お前さん、何者だ?」
「答える必要はない!」
互いのビームを時に紙一重で躱し、時にはデブリを盾にやり過ごす。
末の妹から自分に勝ったと忠告を受けていたとはいえ、シャアは対戦相手がここまでやるとは思っていなかった。
連邦とジオンではMSを開発した時期に大きな開きがある。
それは搭乗時間に直結し、パイロットの力量に大きな影響を及ぼす差だ。
しかし相対する野獣のような男の腕はどうか?
ジオンのベテラン兵士どころかエースと比べても遜色がない。
「アムロ君とアルマリアが強くなるわけだ!」
彼等がゲームという体裁で対戦を重ねていたのは、連邦の軍人・非軍人かかわらず多くのパイロット適性者がその身を喰いあう蟲毒のようなシミュレーター・ネットワークだったのだ。
眼前の男のような敵と切磋琢磨しながら技術と戦術を研鑽し、彼等の頂点に立ったのなら自分が後れを取っても不思議ではない。
妹達の異常ともいえるMSの腕に内心で納得しつつもシャアは、このまま射撃戦を続けても膠着状態が続くと判断した。
「ならば……!」
埒を開ける為に彼が取った手段、それは手にしたビームサーベルを投げつける事だった。
「いったいなんのつもりだ?」
相手の行動の意図が分からずに足を止めるヤザン。
しかし、それは大きなミスだった。
「アルマリア、技を使わせてもらうぞ!!」
直後にシャアが放ったビームライフルの光弾、それが投げられた勢いのまま回転するサーベルに弾かれた事で光の散弾となって襲いかかってきたからだ。
「なにっ!?」
咄嗟に身を引いたヤザンであったが、大きく拡散したメガ粒子の礫を躱しきれるものではない。
ルナチタニウム製の強固な装甲が抜ける事は無かったが、代わりに頭部を襲った数発によってセンサーに異常が出てしまう。
「チッ! モニターの一部が……!?」
「もらったっ!」
明らかに怯んだヤザンに向けて予備のサーベルを引き抜いて襲いかかるシャア。
しかし、この程度で討ち取れるほど眼前の野獣は甘くはない。
「この程度で俺がくたばるとでも思ったか!!」
そう吼えるとガンキャノンは両肩にあるキャノンから砲弾を撃ち出した。
しかしモニターの一部が死んでいる状態での射撃はどうしても照準が甘くなる。
「この程度で私は止められん!」
それを見抜いたシャアは迫りくるキャノン砲にも臆せずに更に速度を上げる。
だが、ここでシャアの度肝を抜く事態が起こった。
なんと砲弾が鳳仙花の種のように無数の散弾を吐き出したのだ。
「なっ!? うおおっ!?」
突進の最中にあったゲイル・ディアスは広範囲に広がった小さな襲撃者を躱せない。
咄嗟に左腕でセンサー類が集中する頭部を守るシャア。
そんな彼は自身の腕で大半が隠れた視界の隅で、ガンキャノンが何かを取り出したのが見えた。
一見すれば害が無さそうな赤く塗装された短い筒のような物。
しかし、シャアにはそれが眼前の野獣の牙のように思えた。
だからこそ、彼は弾雨の中で反射的に右手に持ったビームライフルを前へ投げ捨てる。
ほぼ同時に赤い筒の先が蛇の鎌首のように射出され、それがライフルに食らいつくと高圧電流を浴びせかけたのだ。
電流が内部機構に誘爆を促し、二機の間で炎の華となったビームライフル。
「はっ! 勘のいい野郎だ!」
その華を突き破って突撃するのは青の野獣だ。
ヤザンは必殺の一手を宿したガンキャノンの右腕を大きく振りかぶる。
相手を襲う散弾の終わりにタイミングを合わせた勝負勘は、もはや賞賛の域に値する。
ここまで状況が整っていれば、並みのパイロットでは何が起こったかも分からずに胴体に風穴を開けられることだろう。
しかし、野獣が牙を突き立てんとするのは赤い彗星と呼ばれた男だ。
「ぬおおおおおっ!!」
彼はコックピットに迫る鉄杭に右手を割り込ませると、強引にその軌道を胴体から逸らせた。
次の瞬間、激発したパイルバンカーの衝撃でゲイル・ディアスの右腕は肩口からバラバラに破壊される。
「おおおおおおっ!!」
そしてシャアは右腕の破片が舞い散る中、サーベルを奔らせてガンキャノン最大の武器であるバンカーを右手ごと切り落とした。
「ちぃっ! 往生際の悪い!」
毒突きながら両肩のキャノンを前方にポイントするヤザン。
それを見たシャアは腹に蹴りを叩き込んでガンキャノンを引き離すと、自身もバックパックに備わったサブアームを操作して前面へ向けて二丁の100mmマシンガンを構える。
二門の砲と銃口が火を噴くのは同時。
ガンキャノンが放った砲弾はゲイルディアスの頭部と右のサブアームを粉砕し、マシンガンからバラ撒かれた百ミリ弾頭はガンキャノンの頭部と左肩の砲をハチの巣にした。
互いの攻撃によるダメージで大きく後方へ吹き飛ぶ赤と青。
シャアはなんとか体勢を整えると、残ったサブアームから左手にマシンガンを持ち直す。
外部を移すモニターは死んでいるが、眼前の敵もまた体勢を整えたのは肌がヒリつくほどの闘志で分かる。
「はぁ…はぁ……」
激戦の中で荒い息を吐くシャアは、ふと自分の口角が吊り上がっている事に気が付いた。
「ふふ……やはり私の本質は戦士のようだな」
ギリギリの戦いで己の命を削り合うスリルと、眼前の強者を倒したいという身体が燃え上がる様な戦意。
きっと、目の前の男を倒した時に味わう達成感と言う名の美酒は最高だろう。
「よう、まだ終わりじゃないよな?」
「当然だ。まだ頭と右腕が落ちただけだろう」
通信機から聞こえてくる好敵手の問いかけに、シャアは迷うことなく答える。
ここで終わっては不完全燃焼もいいところだ。
「いいねぇ。最高だよ、お前」
「賞賛は謹んで受け取らせてもらう。その礼は敗北の味だ!」
「上等!」
互いに満身創痍な愛機に鞭打って突撃するシャアとヤザン。
赤い彗星と青い野獣の戦いはまだ終わらない。
◆
背後から飛んでくるビームを先触れのように伝わる敵意を導に躱す。
今のコックピットなら後ろを向けばビームやダンディの姿も見られるんだろうけど、さすがにそんな余裕はないや。
『少しずつ動きに無駄が無くなってきている。新型の癖を掴んできたって感じだな』
「これだけ逃げ回っていればね!」
ぶっちゃけ、今までダンディを後ろに付けて逃げ撃ちしかしてないけど、それでもアレックスの癖は分かってきた。
敏感過ぎる追随性や馬鹿みたいな推力には最初は戸惑ったけど、慣れてくると使いやすく感じてくる。
トンデモ加速で掛かるGも新型シートが軽減してくれるし、ガンダムだと確実にラグが起きる速度で操縦しても余裕でついて来てくれる反応速度もグッド!
まだコンピューターに基礎的なモーションしか入ってないから少し動きが硬いのは難点だけど、そこも基本に忠実に動けば問題はない。
と言う訳で、そろそろこっちも攻勢をかけていくことにしよう!
あたしはAMBACとスラスター操作で反転すると、追いかけてきているダンディのジムへ加速を掛ける。
『ほう! あの速度を出しながら、そこまで綺麗にターンができるものなのか!』
「この子は馬鹿みたいに敏感だからね!」
そしてペダルを踏み込めば、足や背中に設置された大型スラスターが火を噴いて、アレックスの機体を爆発的なスピードで前に押し出す。
「いくよ、ダンディ!」
『次は格闘戦か、面白い!』
相手も加速した事であたし達の間にあった間合いはあっという間に消えてなくなった。
「せいっ!」
あたしが袈裟斬りに切り込めば、ダンディのジムも左手に握った柄から光刃を展開させてそれを防ぐ。
『むんっ!』
フィールドモーターの出力差で押し込めると思っていたんだけど、そこは接近戦も一流なダンディ。
上手く力の入れ加減を制御して、こちらの斬撃を流してしまう。
「おっとっと……」
それによって大きく上体が泳いでしまったあたしは大きな隙を作ってしまう。
『貰った!』
ダンディはそれを見逃すことなく、右腕に固定された二連ビームライフルをこちらへ向けてくる。
普通の機体ならこれでジ・エンド、よくても腕か頭が吹っ飛ばされているだろう。
「あげないよ!」
けれど、あたしのアレックスは両肩のアポジモーターを吹かせると素早く上体を引き起こす。
そして至近距離から放たれたビームを紙一重で躱してみせたのだ。
『なんという反応速度!?』
「これがこの子の売りだからね!」
驚いたダンディにあたしは返す刀でビームサーベルを振るう。
それをジムが防げば、そこからは高速で宇宙を飛びながらの斬り合いだ。
「さすがダンディ! やるじゃん!」
『伊達に修羅場は潜っていないのでな!!』
袈裟斬りを跳ね除け、胴薙ぎを防がれ、唐竹を半身になって躱す。
アレックスについてこられる程の高速移動でここまでチャンバラできるとは、さすがはダンディ!
けど、そんなダンディにも一つ弱点がある。
「はいぃっ!」
『ぬおおっ!?』
あたしはアレックスの右足のスラスターを切ると、その足を振り上げてジムのドテッ腹へつま先蹴りを叩き込む。
それはスピード特化ゆえにMSを使った武器格闘はあっても、肉弾戦をした経験があまりない事だ!
あたしの蹴りを食らって後ろへ流れるダンディのジム!
「いっくぞぉぉぉっ!!」
そこへ目掛けて、アレックスはビームサーベルを腰だめに構えたまま相手へ突貫する。
『ちぃっ!?』
刺突が狙いと考えたであろうダンディはそれを避けるべく体勢を立て直して半身に構える。
狙いは躱したところでカウンターの一撃だろうけど、甘い!!
あたしはサーベルを持つ手を突き出すと、柄を手放して光刃を取り落とす!
『なにっ!?』
当然、ダンディの眼は堕としたビームサーベルの方へ向く。
それを確認したあたしがレバーに付いたトリガーボタンを押せば、突き出した方のアレックスの手甲が上後方へスライドする。
その奥から顔を覗かせたのは、無骨なガトリング砲の砲身だ。
『隠し武器だと!?』
「くらえ! ドヒキョー隠しガトリング!!」
あたしの気合と共に回転して火を噴くガトリング砲!
『ぐあああああっ!?』
二重に虚を突かれたダンディは躱す事も出来ずに、次々と90mm弾を食らい続けている。
というか、集弾率悪いな!?
これ、腕が軽すぎるせいで発射の反動を抑えきれてないんだ。
撃つたびに手がガクガク揺れているし!!
ちなみにこのガトリングの名前はネタでも何でもない。
シミュレーターの機体データの所に本当にこう書いてあったのだ。
開発者のネーミングセンス、ファンキーすぎるでしょ。
そんな事を考えている内に弾が尽きたのか、ガトリング砲の回転が止まる。
『してやられたな。まさか、そんな武器を隠してあったとは……』
この弾丸、ガンダムの装甲と同じルナチタニウム製らしく、高機動ユニットを付けたジムでも耐えられなかったようだ。
ダンディの乗るジムは穴だらけになっていて、こんな自嘲を最後に爆発した。
「ふぅ……疲れた」
それを見届けたあたしは小さく息を付くとシートに背中を預ける。
アレックスは無傷で済ますことはできたけど、ダンディとの戦いはキツかった。
なにせ手練れ相手に初めて乗った機体で挑まないといけなかったのだ。
逃げ回っている間も撃ち落とされかねない射撃は何発もあったし、正直気が気じゃなかった。
とはいえ、何時までもボーッとしている場合じゃない。
「さて、兄ちゃんを助けに行かないと……」
そう呟いてシートから背を離した時だった。
『YOU WIN!』
「……おや?」
ディスプレイ前方にこんな表示が現れたのは。
◆
こうしてシミュレーターは終わったんだけど、その後に待っていたのはクリスお姉さんと姉ちゃんからの説教でした。
機体に慣れる為のテストだったのにノリノリで対戦をうけちゃったんだから、怒られるのは仕方ない。
アンちゃんやカイさんもあたしと同じでヘトヘトだったのに、兄ちゃんだけヤケに清々しそうだったのは何故なのか?
ともかく、クリスお姉さん曰く実戦形式でデータが取れたので、シミュレーターの方は成功らしい。
最後にお説教が終わったあと、クリスお姉さんはあたしとアンちゃんに苦笑いでこう言った。
「あんな状況でアレックスに慣れるなんて、少し嫉妬しちゃうわ」
その言葉の中には確かに小さな嫉妬心もあった。
けど、それ以上にアレックスが誰にも乗ってもらえないまま、お蔵入りせずに済んだって安堵の方が大きかった気がする。
その後、今日は初日という事で顔合わせと軽い点検で作業が済み、あたし達はホワイトベースへ戻る事になった。
オーバーホール中のホワイトベースで過ごすことが出来ないので、ジャブローにいる間は軍が用意した宿舎泊まりになる。
なので、各個人の荷物を回収する必要があったのだ。
「そう言えば、マッケンジー中尉はホワイトベースに乗るんだったか」
「ええ。パイロットの補充人員と聞いています」
「補充人員? ウチはパイロットの欠員など出ていないが、どういうことだ?」
運転席と助手席に座るテムおじさんとクリスお姉さんの会話を聞きながら、エレカの後部座席でウトウトすることしばし。
ホワイトベースへ辿り着くと、お偉いさんに挨拶へ向かっていたロンバートのじっちゃんやブライト中尉が先に帰っていた。
「ロンバート中佐、お疲れ様です」
「ああ……」
テムおじさんが一団を代表してあいさつをするも、じっちゃん達の様子が少しおかしい。
「なにかあったのですか?」
「実はレビル将軍から指示が下ったのです」
その雰囲気を読み取ったテムおじさんが問いかけると、ブライト中尉が口を開いた。
「ホワイトベースの民間人全てを降ろすことはできないが、せめて幼い子供だけでもジャブローの育児センターへ預けるようにと」
「なに?」
「下船を命令された者はカツ、レツ、キッカ。そしてマリーです」
……なんですと?
◆
【オマケ】スパロボ時空におけるバルマー戦役での一幕
多くの命を吸い上げ、悲劇を生み出し続けたバルマー戦役。
おそらく地球人類初の星間戦争を含む様々な戦乱も、敵勢力は宇宙怪獣を残すのみとなった。
そこで地球の守護者にして大戦の立役者である『SDF・ロンドベル隊』は、最終決戦の為に雷王星宇宙域へ進軍する準備を進めていた。
そんな最中の事だ。
「忙しい中、集まってくれてご苦労」
隊の主要メンバーはヱクセリヲンのブリッジへ集められた。
そんな彼等を労うタシロ・タツミ艦長だが、何故か彼はニコニコと酷く嬉しそうだった。
一方、隣に立つブライトは何故か悲喜こもごもな感じの何とも言えない表情になっていた。
「それで何があったんですか、艦長?」
一団を代表して問いかけるロイ・フォッカー少佐。
そんな彼の言葉に応える形で一団の前に出たのはMS隊のトップと言えるアムロ・レイ、彼を補佐して若いパイロット達の相談役になっていたマリー・マスだ。
「こんな時に言うのはどうかと思うんだが、今を逃すと伝える機会が無さそうだから聞いてほしい」
そう前置きをするアムロに、集まったパイロット達は口を閉ざす。
ヱクセリオンのクルーまでもが黙り込んだ事でブリッジに広がる静寂、それを破ったのはアムロの宣言だった。
「俺はマチュと結婚することにした!」
「「「「「「「「ええええええええっ!?」」」」」」」」
一瞬の沈黙を挟んで、辺りに皆が口々に出した絶叫が木霊した。
「アムロさん、マリーさんと付き合っていたんですか!?」
「色々あってね」
「全然そんな風に見えなかった!? 二人共普通に話してたじゃん!!」
「まあ、少し離れていたけど10年近い付き合いだからな」
カミーユやジュドーを始めとする男性パイロットから質問攻めにあうアムロ。
「お姉さま! 私、そんなこと全然聞いてない!!」
「ごめんね、さやか。戦争の真っ最中だし、言い出しにくくってさ」
「何時から付き合い始めたんですか?」
「アンちゃんとテムのおっちゃんをシャイアン基地から助け出して、少ししてからかな」
「プロポーズの言葉はどんな感じだったの?」
「えーと…赤ちゃんが出来たのが分かって、それを伝えたら俺に二人を守らせてくれって」
「ウチのお嬢を孕ませるたぁ、めでたい話だがケジメは付けさせなきゃならないねぇ」
妹分であるさやかを始め、女子たちに詰め寄られたマチュの爆弾発言によって、更に驚愕と歓声がこだまする。
そんな中、笑顔が絶えないアムロに近付く一つの影があった。
「フンっっ!!」
「ぐはぁっ!?」
渾身の力でアムロの横っ面を殴り飛ばした影、それはマリーの兄であるクワトロだった。
不意打ちを食らって倒れたアムロに、シャアはダンサブルにクルクルと回ると、シュピンッ!と指を突きつけてこう言った。
「このロリコンめっっ!!」
突然の展開に唖然とする周囲。
おめでたい発表を見事に叩き潰したのだから当然である。
誰もが何とも言えない顔をする中、甲児とさやかだけはやっちまったと言わんばかりに額を押さえて天を仰いでいる。
その理由はすぐに判明することになる。
「アチャアッ!!」
「へぶしっ!?」
クワトロの側頭部を抉るドラゴンキックと言う形で。
「──おい」
もんどり打って倒れた兄へ近づくと、マチュはその胸ぐらを掴む。
彼女の眼には普段の快活な輝きは無く、ジトッと完全に座っていた。
「あたしの何処がロリなのか、詳しく聞こうじゃないか」
ドスの利いた声で詰問するマチュに、クワトロはサングラスの奥でスッと目を背ける。
「……身長」
「ぐはっ!?」
ぼそりと呟かれた兄の容赦ない指摘に、マチュはクワトロの襟を掴んでいた手を放して胸を押さえる。
そう、御年18になるマチュだが、背丈は147cmしかない。
147cmは女の子でいえば、11歳程度の平均身長である。
「あと童顔かな」
「ぶっちゃけ、胸とおしりが出てなかったら、マリーさんってどう見ても18とは思えないもんね」
「初めて会った時、僕より年下かと思いました」
「ひぅっ!?」
兄に続いて周りのメンバーから飛び出た容赦ない指摘に悶絶するマチュ。
「しっかりして、お姉さま! 私と一緒にお店に入ったら『妹さんですか?』って何時も聞かれるけど、そんなお姉さまが大好きよ!」
ショックでぐったりと床に倒れたマチュを介抱しながらも無意識に止めを刺すさやか。
「表に出ろ、アムロ! 貴様がアルマリアに相応しい男かどうか、試してやる!!」
「いいだろう! 俺は貴方を倒してマチュを手に入れる!!」
そんな彼女を置いて、ズンズンとMSデッキへ去っていく薄情な兄と婚約者。
「おい、ちょっと!?」
「無駄だよ、ブライト君。ああいう事は外野が何を言っても止まるモノじゃないさ」
決戦前に何をする気だと止めようとしたブライトだったが、妙に悟った顔のマクロス艦長のグローバルに止められて伸ばしかけた手を下げる。
その後、愛機で思いっきり『殴り合い・宇宙』をやらかした二人は、νガンダムとサザビーを大破。
メカニックの代表であるテム・レイに、しこたま怒られる事になったという。
なお、身重である事が判明したマリーはマクロスの居住区にある病院へ放り込まれ、最終決戦には参加できなかったそうな。
【タートルマン/ヤザン・ゲーブル】
MSシミュレーター・ネットワークの中で進化を続ける可能性の野獣。
士官学校時代から蟲毒のようなネット対戦環境に暇があれば入り浸っていた為、これまた膨大な経験値を得る事になった。
その結果、19歳の若々しい体に『ヴァースキ・バジャック』を名乗っていた頃に匹敵するMS操縦と戦闘経験を得るというイレギュラーが爆誕。
ジオンのエースをも上回る操縦技術と勝負勘で、トップランカーとしての地位を不動のものにしている。
現状ではニュータイプに覚醒していないが、その代わりに異様なまでに鋭い野生の勘が働くようになっている。
そう考えると彼はオールドタイプよりさらに古い、自然の中で狩猟生活を送っていた古代人へ回帰したと考えられるかもしれない。
言動は粗野で自信家だが部下の面倒見はよく、また軍人として最低限のモラルと誇りも備えている。
彼が戦場に女子供は不要と考えるのは、その弱さや未熟さから甘えが戦いに混ざる事を嫌っている為。
なのでマチュのように強く戦士として精神的に完成していれば、女子供であっても不快感を示さない。
今回のことで狩りでのある獲物が見つかった為、前にもましてシミュレーターにハマる事になる。
可能性の野獣が何処まで行くのか、それはまだ誰にも分からない。
【アドバンスド・チルドレンプロジェクト】
MS開発でジオンに後れを取った連邦軍が、MSパイロットの早期育成と素養を持つ人材発掘の為に行った計画。
これはジオンから入手したMSシミュレーターを体験型ゲームへと落とし込み、それをアーケード筐体やコンシューマーゲームソフト(専用コントローラー【XBoxに出ていた鉄騎のようなもの】付き)として広く配置する事で子供やゲーマーの中からパイロットの素質がある者を探し出す事を目的としたものだ。
この計画によって軍人・民間人問わず、多くの者達が疑似的とはいえMS操縦の技術と実戦経験を蓄積する事になった。
プレイヤーの中には後にジュニアMSの操縦と空手で有名になる女性のような名前の男の子やサイド6のスラムの中で暮らすインド人の少女、ニンジンが嫌いなMSヲタもいる模様。
そんな彼等彼女達ですら、全プレイヤーのトップ50に入れないのだから魔境っぷりは半端ない。
とはいえ、現状における連邦軍への恩恵は航空機や戦車からの機種転換パイロットの早期育成の補助であり、民間から有望な人間を徴用したのは今のところアムロとマリーだけである。