ダイクン家の二女はアホの子   作:アキ山

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お待たせしました、なんとか出来上がったでござる。

なかなかに難産でしたが、納得できる出来になって何よりです。

ゴールデンウイークの余暇に見てもらえれば幸いです。


HADESと怒りのマチュ

「オーライ! オーライ!!」

 

 ジオンに占領されて久しい北米キャルフォルニアベースでは、HLVに乗って宇宙から降下してきた物資の搬入作業が急ピッチで行われていた。

 

「ドム・キャノン! ドムの砲撃戦タイプか!」

 

「こっちはラムズゴックだってよ! こんな物が作られていたとか知らんかったぜ」

 

「作戦前にデータは取っとけよ。上手くすれば、キャリフォルニアベースのズゴックを改造できるかもしれん」

 

「なんだこれ、陸戦型ゲルググ? 新型みたいだな」

 

「そんなモンがどうして本国防衛じゃなくて、こっちに回されてきたんだ?」

 

「宇宙用と並行して地上で使える奴を造ってたみたいだぞ。ほら、ザクの時は地上に降りてからJ型に改造しただろ」

 

「ああ、今回はその手間を省こうってか。でも三機も送ってくるか?」

 

「ここで俺等がミスったら地上はおしまいなんだ。使えるうちに有効活用しようって肚なんだろ」

 

 宇宙から降り立ったHLV6機、そのハッチから様々な兵器や物資がジオンの兵員によって運び出されていく。

 

 サイド3からギレンが送り出した補給物資とは、ジオン本国で製作されたものの量産体制が整っていない機体やジオン国内にある複数のMSメーカーが他社との競合で敗れた試験機などが多く含まれている。

 

 HLVから吐き出される多種多様なMSの列は、使えるモノは全て使うといった在庫処分の感が強い。

 

 これらを今回の補給で地上へ吐き出せたのは、ジオンは今後宇宙領土の防衛に注力するという先の宣言を逆手に取ったからだ。

 

「まさか本国からこれだけ手厚い補給を貰えるとは思っても見ませんでしたな」

 

「まったくだ。ドズル閣下か、それともギレン総帥か。動かれたのはどちらかは分からんが、感謝の言葉もない」

 

 キャリフォルニアベース指令室の窓から作業の様子を見ながら、基地司令と副官は満足げに頷く。

 

 オデッサの敗北によって本国は地上を見捨てたと思っていた。

 

 だからこそ、彼等はジャブロー攻略に己が命運を賭けようとしていたのだ。

 

 それがサイド3から本格的な支援が与えられた事は、まさに望外の幸運と言えた。

 

「やりましょう、司令! そして本国へ撤退ではなく凱旋するのです」

 

「うむ!」

 

 司令が幕僚たちと共に気合を入れている頃、サイクロプス隊もジャブロー入り口発見の功から新型MSを受け取っていた。

 

「ケンプファーねぇ。随分と癖のある機体じゃねえか」

 

「お前の出番は地下施設に入ってからだ」

 

 ウイスキーが入ったスキットル片手にコンテナの中へ搬送される紺色の巨人を見上げながら呟く赤ら顔のミーシャに、シュタイナーは吐き出した紫煙と共に答える。

 

「そこまでは完全防水のコンテナに揺られて水中の旅ってわけですよ」

 

「へっ、コンテナが棺桶にならなきゃいいけどな」

 

「そんなヘマはしませんって」

 

 ガルシアがコンテナをポンと叩けば、それを見たミーシャの軽口をアンディがフォローする。

 

 今回の作戦は彼等サイクロプス隊が要になる。

 

 だからこそ、最新鋭の強襲型モデルであるケンプファーが回ってきたのだ。

 

「上手くいけば、この戦争も終わる。いつも通り熟して宇宙へ帰るぞ」

 

「「「了解!」」」

 

 シュタイナーの激励に威勢よく返事を返す隊員達。

 

 死地から戻ってきた時、いったい何人の姿が残っているのか?

 

 そんな事を思いながら、シュタイナーは自ら吐き出した紫煙の先にいる仲間の姿を目に焼き付けるのだった。 

 

 キャルフォルニアベースに集められた部隊は、皆大一番に備えている。

 

 それはジオン外人部隊も同様だ。

 

 正規ルートで送られてくる補給物資を絞られる彼等は、独自のルートでそれを補っていた。

 

「これって、メイさんのご実家が送ってきたんですか?」

 

「一応、ウチは名家って事になってるからね。まったく、過保護なんだから」

 

「ザビ派の人質にならぬ為とはいえ、一人娘を戦場に送り出したのだ。ご両親が心配するのは当然だよ」

 

 実働部隊のザクが荷物を次々と運び出す光景を前に、隊の専属オペレーターであるユウキ・ナカサトの問いかけにメカニックのメイ・カーウィンが呆れ、それに司令であるダグラス・ローデン大佐が諫める。

 

「けど、まさか最新鋭の先行量産機を送ってくるとはねぇ」 

 

 そんな荷物の中で一際三人の眼を引くのは、黄土色にペイントされた陸戦型ゲルググだ。

 

「メイさん、整備の方は大丈夫ですか?」 

 

「マニュアルは送られてきているから、何とかなるでしょ。それより、これってケンに乗ってもらうの?」

 

「そうなるな。ジノビエフ曹長はドム、ガンス軍曹にはザクキャノンに乗ってもらう」

 

 メイの問いかけに配備された新機体の割り当てを決定するダグラス。

 

「ダグラス司令、物資の中に司令宛てのお手紙が入っています」

 

 そんな彼に声を掛けたのは、秘書官のジェーン・コンティだ。

 

 彼女は本来ダイクン派であるダグラスの監視の為にザビ家から派遣された要員だった。

 

 しかしザビ家をよく思っていない彼女は、己の立場を利用し二重スパイという形で隊の生存に協力している。

 

「これは……」

 

 手紙を受け取ったダグラスは、封筒の裏に記された『ヘルフィヨトル』という差出人の名に目を細める。

 

「なるほど、カーウィン家が動くわけだ」

 

 そして手紙の内容を確認することで、今までにない手厚い補給の理由も察することが出来た。

 

「司令、どうかなさったのですか?」

 

「すこしな。ユウキ伍長、ケン隊長を呼び出してくれるか」

 

 少しすると作業を行っていたザクの一機から一人の男が降りてくる。

 

 黒髪をオールバックにし、右の眼の上に刻まれた傷が特徴的な精悍な男。

 

 彼こそがジオン外人部隊のMS小隊隊長であるケン・ビーダーシュタットだ。

 

「ダグラス大佐、お呼びと聞きましたが」

 

「ああ。ここでは少し話し辛い事だ、奥に行こう」

 

 仮設陣地のテントからギャロップへ向かうダグラスに眉根を寄せるが、ケンはその後を付いていく。

 

 そしてダグラスへ割り当てられた部屋に入ると、彼はケンへと向き直る。

 

「まず最初に、君の家族はジオン本国から助け出された。今はサイド6で移住申請を行っているとの事だ」

 

「……は?」

 

 突然告げられた言葉の内容をケンは理解できなかった。

 

「いったい、どういうことなんですか!?」

 

 呆けた脳にダグラスの放った言葉の意味が沁み込むと、激情にかられたケンは思わず彼へ掴みかかる。

 

「言ったとおりだ、ケン少尉。君をジオンに縛る鎖はもう無い。───君は自由だ」

 

 しかし慈しみと共に向けられたその言葉に、彼は上官の襟を掴んでいた手を離す。

 

 ケンは元々ジオン国民ではない。

 

 コロニー公社の社員としてサイド3で移民用コロニーの建造作業を行っていた彼は宙間作業の腕とプチモビの操縦技術、そしてコロニーに関する知識に目を付けられて、仲間共々強制的に徴兵された。

 

 その際、自身の出張について来てサイド3へ移住していた家族を人質に取られたケンは、断ることが出来ずにジオンの外人部隊として一年戦争への参加を余儀なくされた。

 

 当然ながら彼にはザビ家への忠義など無く、スペースノイドの独立など露ほどの興味もない。

 

 サイド3に帰って妻子を再びこの手に抱く。

 

 それだけを夢見て、この地獄の戦場を戦い抜いてきたのだ。

 

「どうして、そんな事に?」

 

 ジオンが自分達を欲していたのは、コロニー落としの為にケン達が得た建造や修復の知識が欲しかったからだ。

 

 その目的が果たされた以上、彼は使い捨ての外人部隊の一兵卒。

 

 家族だって、本国を欺いてまで助ける価値も理由もない。

 

「今、ジオン本国や地上部隊の中ではダイクン派が動き始めている。サイド3の戦後を見据えてな」

 

「戦後?」

 

「そうだ。彼等はザビ家に戦争の責任を全て負わせ、同時にダイクンの遺児が連邦に力を貸した事の代価として自治権を認めさせる気なのだ」

 

「じゃあ、俺達はジオンを裏切るって事ですか?」

 

「正確に言えば、ザビ家独裁の現政権だよ。祖国を裏切る気はない」 

 

 それを聞いてケンは得心が行った。

 

 この外人部隊の面々にザビ家に対して忠誠心を持つ者はいない。

 

 戦場でロクな補給も得られず、他の隊に手柄を奪われたり尻ぬぐいで危険な任務を押し付けられるのが常だったのだ。

 

 そんな扱いを受けてもなお、ジークジオンと叫べるほど彼等はマゾでも酔狂でもないからだ。

 

 隊の中でジオンを裏切れない事情を持つのはケンだけだ。

 

 だからこそ、ダグラスは本国に要請して自身の家族を避難させたのだろう。

 

「ケン少尉、受け取り給え」

 

 思案するケンにダグラスは一通の封筒を渡す。 

 

「これは?」

 

「この中には10万ドルの小切手と、君がジオンに従軍を強制されていた事を証明する書類が入っている。君は元々連邦の人間だ。古巣であるコロニー公社を頼れば、連邦市民として返り咲く事もサイド6へ行く事も出来るだろう」

 

「大佐、あなたは俺に逃げろと言うんですか!?」

 

 ダグラスの説明にケンは非難の声を上げる。

 

「ここからはジオンという国の内紛になる。君はそんな物に関わるべきではない。妻子の元へ帰ってやれ」

 

 ダグラスの言葉には誠意があった。

 

 だからこそ、ケンはあえて封筒を彼へ返した。

 

「コロニー落としの片棒を担がされたうえに公社からの仲間を喪い、絶望していた俺を拾ってくれたのは貴方です。その恩をまだ返してません。それに部下がいるのに、俺だけ一抜けなんてできませんよ」

 

「ケン少尉……」

 

「そんな風に帰ったって、家族に顔向けなんてできません。胸を張って会えるように最後まで付き合わせてください」

 

 そう言って右手を差し出すケン、その手をダグラスは万感の想いを込めて握る。

 

「ありがとう、少尉。必ず生きて帰ろう」

 

「もちろんです。俺に生きる為の戦いを教えたのは、貴方なんですから」

 

 ダグラスの目に映る握った手の先にいる男の顔、それはかつての打ちひしがれた物とは違う自信と決意に満ちたものだった。

 

 

 

 

「憲兵さん! MSはこっちで抑えるから、悪人と研究員を捕まえるのヨロシク!!」 

 

 外部スピーカーでペイルライダーに怯んでいた憲兵さん達に呼びかけると、『おい、あれって囮になっていた女の子か!?』『本当にMSを操縦できるんだな!』と驚きながらも後ろへ下がってくれた。

 

 研究所の中は、MS同士が暴れるには広くないので本当に助かる。

 

『フフフフ…フフフフ……』

 

 その間に体勢を立て直したペイルライダー。

 

 バイザーの奥にある目を赤く染めた奴は、ビームサーベルを引き抜くと袈裟掛けに切り込んでくる。

 

「こっちは外されてるのに、そっちにはあんのズルいでしょ!」

 

 初手の一撃を半身になって躱したあたしは、その勢いのまま側頭部へ向かって右手を振るう。

 

『───クゥッ!?』

 

 拳じゃなく五指を広げた掌で横っ面を張られたペイルライダーは衝撃で頭を跳ね上げられてたたらを踏む。

 

「ほう、掌底ですか」

 

「MSのマニピュレーターは繊細だって整備の人に言われているから!」

 

 なんて言っている間にも、大きく広げた脚を踏ん張って倒れる事を避けたペイルライダーがビームサーベルを横薙ぎに振るってくる。

 

 後ろに憲兵さんやクランプのおっちゃんがいる以上、大きく下がることはできない。

 

 けど生半可な間合いの取り方だとコックピットを両断されてお陀仏だ。

 

 となれば、ここは逆転の発想でしょ。

 

 一瞬でそう判断したあたしは、スロットルを一気に開ける。

 

 背面のスラスターが火を噴くと同時に前へ向かってカッ飛ぶキャバルリー。

 

『ナッ!? 動ケナイ!』

 

 こちらの身体が剣の間合いを通り過ぎてクロスレンジに入ると、あたしはすかさず相手の両腕に自身の腕を回して関節を極める。

 

 相撲で言うところの『閂』といわれる体勢だ。

 

「この体勢なら……こう!」

 

 そうして思い切りキャバルリーの背を反らせて、相手の顔へ額を思い切り叩き込もうとした時だった。

 

「うっ!?」

 

 突然コックピットのインテリアが赤い光を放ったと思ったら、あたしの脳裏に突然何かが駆け抜けた。

 

 同時にひとりでに動いて、思ったのと違う操作をするあたしの手。

 

 その所為で キャバルリーは間合いを取って相手に向けて頭のバルカンを撃ったではないか!

 

「ちょっ!? なんで!!」

 

 それを撃つなら関節極めたまま相手の頭をハチの巣にするべきでしょ!?

 

『今度ハコッチノ番ッ!』

 

 案の定、自由になったペイルライダーはこちらが撒いた弾を横っ飛びで避けて、モニターの死角になる右側からビームサーベルを手に襲ってくる。

 

「ああもうっ!」 

 

 コックピットを狙った刺突と判断してアリキックでカウンターを取ろうとしたんだけど、またしても頭によぎった妙なイメージが手を勝手に動かしてしまう。

 

「ちょっ!? バカ!」

 

 横に跳んで逃げたキャバルリーを、危惧していた通りにペイルライダーが突き出したサーベルを横に払う事で胴薙ぎに変えて襲ってくる。

 

 考えるより早く動いたフットペダルとレバー操作のお陰で、キャバルリーの手は薄紅の光刃が胴に食い込む前に相手の手を押さえてくれた。

 

「このぉっ!」

 

 そして相手がこちらを押し切ろうと力を込めたのと同時に左足の軸を回転させ、ペイルライダーの体勢が崩れたところで右足で相手の足を払って転倒させる。

 

「ふぅ……」 

 

 今のはヤバかった。

 

 ロボゲーの経験から条件反射的に操作出来たけど、それがなかったら上半身と下半身が泣き別れだった。

 

「だ…大丈夫ですか、アルマリア様」

 

「この機体、やっぱおかしい。いきなり頭に機体操作のイメージが入ってきたと思ったら、手足が勝手に動くんだもん」

 

「なんですと?」 

 

 あたしの言葉にラルのおっちゃんが眉を顰めるのが分かった。

 

 イワク付きの機体とは聞いていたけど、まさかパイロットをMSが逆に操作してくるとはね。

 

『どうかね、HADESの使い心地は?』

 

 思った以上の厄介さに内心で舌打ちをしていると、通信機から耳障りな声が響いてきた

 

 それは例のマッドサイエンティスト、ドクのモノだ。

 

『HADESは学習型コンピュータを利用して膨大な戦闘データから敵の行動予測を行い、状況によっては機体のリミッター解除や操縦介入まで行うという半自律OSだ』  

 

 そのHADESとやらが、よほど誇らしいのだろう。

 

 ドクは聞きもしないのにペラペラと舌を動かしまくる。

 

『そのキャバルリー試作1号機には、HADESの基になったEXAMシステムにあったサイコミュ受信パックを試験的に導入している。君がニュータイプなら戦況における最適な行動を脳が受信したのではないかね?』

 

「最適? あれが?」

 

『そうだ。HADESの学習型コンピューターには、君とアムロ・レイが激戦の中で積み上げてきた膨大な戦闘データが蓄積されている。HADESが取る選択は、君とアムロ・レイが導き出した最良の答えという訳だ!!』

 

 感極まったのか、ふざけた事を抜かすドクの言葉を聞いた瞬間、あたしは自分の額にビキッと青筋が浮かんだのが分かった。

 

「──おい」

 

『さあ、戦いを続けたまえ! 君とクロエ、どちらがHADESに相応しいパーツか、私に証明するのだ!』

 

 テンションが上がり過ぎて私の呟きが届かなかったのだろう。

 

 ドクは言いたい事を吐き出すと通信を切った。

 

「あ…アルマリア様?」

 

「ラルのおっちゃん、しっかりシートに体を固定してね」 

 

 これがあたしとアンちゃんの集大成だって?

 

 こんなダメダメすぎる判断しかできないOSが?

 

「はい?」

 

「今から本気、出すから」

 

 あったま来た!!

 

 ドクが命令でもしていたのだろう、立ち上がっても少し動きを止めていたペイルライダーがこちらへ襲いかかってきた。

 

 相手は牽制で頭のバルカンで弾をまき散らしながらビームサーベルを振り上げて突進してくる。

 

 次の瞬間、頭によぎったのは、こちらもバルカンでけん制しながら横に避けるといったモノだった。

 

 だけど、そのイメージは来るのが遅すぎる。

 

 何故ならキャバルリーはすでに、こちらからの操作で身を低くしながら前に出ているのだから。

 

 張られた弾幕は頭のてっぺんから伸びたアンテナを多少削る形で頭上を抜け、あたしはペイルライダーの懐へ入ろうとする。

 

『同ジ手ハ通ジナイヨ。ネエ、HADES……』 

 

 そんなこちらを待ち構えるように、キャバルリーの背中を貫くべく逆手にもったサーベルを振り下ろすペイルライダー。 

 

 それに対してHADESが出したのは、左手を損失覚悟で盾にして後ろへ下がる事。

 

 しかし、そんなモノは大外れな上に判断が遅い。

 

 そのイメージが来た時点で、キャバルリーの足は上体を伸び上げる反動を利用して足を繰り出している。 

 

 踏み込むように放たれた下段の足刀、それが捉えたのは踏み込みの為にペイルライダーが出した左膝の側面だ。

 

『───ナッ!?』

 

 駆動部に打ち込まれると、その衝撃によって自身の意思とは無関係に膝は曲がる。

 

 これは人間がされても同様なので、人型を取るMSが同じふうになるのは当然といえた。

 

「アチャアっ!!」

 

 そして相手の膝に打ち込んだ足刀を踏み出しにして放ったのは、顔面狙いの回し蹴りだ。

 

『キャアアアアアッ!?』

 

 MSという超重量の人型を支える為に肥大した踵が顔面を捉え、大きく後ろへ吹き飛ぶペイルライダー。

 

 相手の膝関節を蹴って、そこから上段蹴りに移行する。

 

 これもなんちゃって・ジークンドーのコンビネーションの一つだ。

 

 まあ、この関節蹴りの本来の使い方は相手の蹴りを防いだ時のカウンターなんだけどね。

 

 もんどり打って倒れたペイルライダーの顔を踏みつけようとしたんだけど、奴はすんでのところで床を転がって降ってきたキャバルリーの足を躱す。 

 

 アイツ……顔へ攻撃された時だけ妙に反応がいいな。

 

 さっきの蹴りもギリギリのところで左手を差し込んで直撃を避けてたし、もしかして……。

 

『アアアアアアアッ!!』

 

 なんてことを考えていると、立ち上がったペイルライダーが切りかかってくる。

 

 けれど、右手一本で放つ大上段からの唐竹割りなんて、そうそう簡単に当たるわけがない。

 

 刃が届く前に間合いを詰めたあたしは、それを受け止めると後ろへ引っ張り、前のめりになった相手の顎に突き上げた膝を叩き込む。

 

 HADESからは今ごろ左に跳んで斬撃を躱すなんて対処が来ているけど、そんな物は鼻で笑ってガン無視だ。

 

 そしてカチ上がった顔に右のリードパンチを食らわせると、そこから拳を連打で叩き込む!

 

「アルマリア様、HADESとやらの影響は大丈夫なのですか?」

 

 吹っ飛んだペイルライダーが壁に背を向けて尻餅をつく中、ラルのおっちゃんが問いかけてくる。

 

「うん。アイツがバカな提案してくる前に動かしているからね」

 

 コイツはMSを直接動かすんじゃなくて、パイロットに干渉して操縦させるタイプのシステムだ。

 

 なので先手を取って動かせば、変化する状況を判断する方に追われて、最初みたいにこっちの身体を動かすみたいな干渉はできなくなる。

 

「すごいですな」 

 

 立ち上がって胴を薙ごうとするペイルライダーの腕を捕えたあたしは、肘と手首の関節を極めながら背中と後頭部に連続で蹴りを叩き込む。

 

「別に大した事はしてないよ。戦況を判断して、最速で対処の為にMSを動かす。やっている事はHADESと一緒だもん」

 

 ただし、蓄積された戦闘経験も入力速度もこっちの方が上だ。

 

 だいたい、あたしとアンちゃんがホワイトベースで戦った回数なんて20もない。

 

 その程度で膨大な戦闘データだなんて、ちゃんちゃらおかしいのである。

 

 こちとら、ロボゲーの対戦経験は優に1000は超えているのだ。

 

 操縦だって、その経験のお陰で戦況を見れば条件反射で入力できるレベルにまで持って行っている。

 

 そこに直感や勘の良さが合わされば、HADESなんてメじゃない。

 

『あのガキの操縦がHADESの処理速度を超えているというのか!? バカな!? 一般兵用にリミッターを掛けていると言っても最強のOSなんだぞ!?』

 

『主任! HADESが次々とエラーを!』

 

『化け物か! うわっ!?』

 

『このマッドサイエンティストが! お前達は連邦軍の恥だ!』

 

『二度と娑婆に出られると思うなよ!!』

 

 通信機を通じてドクの驚く声と捕り物の様子が聞こえてくる。

 

 グレイヴの手下側で暴れたお陰で憲兵さん達の方も、次々に研究員たちを逮捕し始めているようだ。

 

 今まではペイルライダーの攻撃に合わせてカウンターを放っていたけど、これなら攻勢に出ても大丈夫だろう。

 

 そう判断したあたしは、操縦のギアを上げる。

 

 ジークンドーの眼潰しであるビルジーでペイルライダーのバイザーを割ると、リードパンチを連続で叩き込んで胸元へ大きく踏み込んだ裏拳を叩き込む。

 

 その間、ペイルライダーは防戦一方。

 

 しかも胸元の一撃を入れる際にも、顔へのガードを降ろそうとしなかった。

 

 多分、HADESは頭に積んでるんだ。

 

 だったらやる事は一つ、腐れOS狙いの集中砲火!

 

 苦し紛れに放ったバルカン砲をスウェーで躱し、突き出そうとしたビームサーベルも肘の内側に拳を叩き込んで払い除ける。

 

 そうして懐に入ったところで、キャバルリーの腕が関節から煙を上げて、だらんと力なく下がった。

 

 それに加えてコックピット内のインテリアからもバチバチっと電気が奔って計器のカバーなんかにひび割れが入る。

 

「アルマリア様、これは!?」

 

「あ、ヤバい」

 

 どうやらキャバルリーの方も限界らしい。

 

 これって多分シミュレーターでガンダムの限界を超えた時に、テムおじさんが言っていた状態なのだろう。

 

 ジークンドーを再現する為に相当無茶な挙動を要求したからなぁ。

 

 とはいえ、ここで退くのはあたしの気が収まらない!

 

「ラルのおっちゃん、ちょっと無茶するからしっかり掴まってて!」

 

「は…はい!」

 

 がんばれ、キャバルリー! オリジナルにぎゃふんと言わせて最後に一花咲かせようじゃないか!!

  

 未だ無防備を晒すペイルライダーを前に、あたしはフットペダルを思い切り踏み込んだ。

 

 するとバックパックが推進剤を担保に火を噴き、踏切と共にキャバルリーの身体が宙を舞う!

 

「HADES! あたし達の戦闘データがお前みたいなポンコツOSを生み落としたとあっては、アンちゃんに顔向けできん!」

 

 そうして突き出すは両足!

 

 狙うはHADESのある頭部!

 

「お前ごとき駄作は……鋳潰されて仏像にでもなるがいい!!」

 

 気合と共に放たれたドロップキックは、矢のような勢いでペイルライダーへと突き刺さった。

 

『ア…アアアアアアっ!?』

  

 これにはペイルライダーも堪える事ができなかったようで、格納庫の壁を破って吹き飛んで行った。

 

 もっとも、キャバルリーも今のでギブアップしたみたいでコックピットの計器が次々に死んでいく。

 

「これで最後! がんばって!」

 

 そう言いながらバックパックを吹かせて落下の衝撃を和らげると、あたしは出られるようにコックピットのハッチを開ける。 

 

 そしてズンッとMSが落ちるには少しばかり小さい衝撃が辺りに響く。

 

「ご無事ですかな、アルマリア様」

 

「うん。ラルのおっちゃんは?」

 

「この通り、ピンピンしております。少々荒っぽい操縦でしたが、ワシにとってはこの方が性に合ってますからな」

 

 ワハハと豪快に笑うラルのおっちゃん。

 

 正直、無茶をしている自覚はあったのでそう言ってもらえると助かる。

 

 ともかく、ここにはもう用はない。

 

「ありがとうね、キャバルリー」

 

 あたしはラルのおっちゃんの手を借りて、仰向けになったままのキャバルリーから脱出する。

 

「お疲れさん、おてんば娘。ホワイトベースまで送っていくぜ」

 

 そうして何とか地面へ降りてみると、ラルのおっちゃんと一緒に潜入した人だろう。

 

 仮面を取ったおじさんとお兄さんが、クランプとコズンのおっちゃんを後ろに乗せたジープで待っていた。

 

 たしかフィクサーとリッパ―だったっけ。

 

「ありがとう。でも、ホワイトベースじゃなくて27番倉庫に連れてって」

 

 ジープに乗り込みながらそう言うと、ラルのおっちゃん達が驚きで目を見開く。

 

「アルマリア様、まさか…!」

 

「うん、アレックスで出るよ。攻めてきたジオンを迎え撃つなら早い方がいいでしょ」

 

「出来るんですかい、お嬢?」 

 

「癖は掴んだからね。あとは実機で調整すればイケる」

 

 そう言っている内にジープは発進して研究所になっている格納庫の入り口へと向かう。

 

 あ、そうだ!

 

「憲兵さん達、ありがとう! 映画のヒーローみたいで格好良かったよ!」   

 

 後ろに身を乗り出して作業中の憲兵さん達に声を掛けると、『無茶すんなよ』とか『がんばれよ!』って言葉が帰ってきた。

 

 打ち合わせ通りだとしても、助けてもらったのならちゃんとお礼を言わないとね。

 

「MSをぶん回すじゃじゃ馬かと思ったら、いい娘じゃないか」 

 

「だろう?」

 

 運転席のフィクサーの言葉にラルのおっちゃんがニヤリと笑う。

 

 当たり前の事をしただけだから、あんまり褒めないでいただきたい。

 

 さて、あたし達を乗せたジープは格納庫を出てアレックスの元へと走っていく。

 

「まだ地下施設までは侵入されていないようですね」

 

「ありがたいぜ。ここでドンパチなんてされたら、堪ったもんじゃねえ」

 

 クランプのおっちゃんの言葉にリッパ―が続く。

 

 そうして走っていると、あたしは倉庫の反対側に妙な物を見つけた。

 

 なにやら工場らしき建物の横に、茶色を基調としたガンダムなんかに比べると寸詰まりなロボットらしき影が複数集まっているのだ。

 

 ……ベルファストで襲ってきた機体にどっか似ている気がする。

 

「ねえ、あれってジオンのMSじゃない?」

 

「なんですと?」

 

 ラルのおっちゃんに声を掛けると、すかさず双眼鏡であたしが指さした方向を見てくれた。

 

「……ありゃあアッガイですよ。たしかコノリーの隊から補給受けていた時に潜水艦に乗ってたのを見た事がある」

 

「ジオンの侵入を許したという事か、拙いな」

 

 同じく双眼鏡で調べていたクランプのおっちゃんの言葉に、ラルのおっちゃんが顔をしかめる。

 

「なあ、フィクサー。あれってジムの量産工場じゃねえか?」

 

「ああ。……ってことは、ヤベエぞ!」

 

「奴等の狙いは破壊工作か」 

 

「連邦のMS量産を邪魔しようって肚みたいですね」

 

 ラルのおっちゃんとフィクサー達が話す内容は、どんどんキナ臭い方向へ進んでいるようだ。

 

「大尉。あの機体、もしかしたら無人かもしれませんよ?」

 

 そんな中、ある事に気づいたのはコズンのおっちゃんだった。

 

「どういうことだ、コズン?」

 

「こっちから見える3機ですが、コックピットのハッチが開いているようです」

 

「中で工作している連中、見つかった時の為にすぐ動けるようにしていたって事か?」

 

 なるほど、となれば……。

 

「それじゃあ、あの機体を奪っちゃおう!」

 

「アルマリア様!?」

 

「おいおい、マジで言ってんのか?」

 

 あたしの提案にラルのおっちゃんとフィクサーが非難の声を上げる。

 

「無茶を言っているのはわかるけどさ、黙ってみているわけにもいかないでしょ」

 

「おもしろそうじゃねえか、フィクサー。やろうぜ」

 

「……仕方ねえ。ラルの旦那、そっちもいいか?」

 

「止むを得んな。ですが、アルマリア様。この事はアルテイシア様に報告しますからな」

 

「そんなぁっ!?」

 

 ひどいや! あたしの頭が割れちゃう!? 

 

 そんなあたしの悲鳴を乗せて地下施設を走るジープ。

 

 件の工場へ到着した時には、未だにアッガイというMSは無人のままだった。

 

「どうだ?」

 

「中から複数の気配を感じる。奴等はまだ出てきてないな」

 

 工場の中を探っていたフィクサーとリッパ―曰く、ジオンの工作員は中で作業中らしい。

 

「大尉! 全部ジェネレーターを落としてませんぜ!」 

 

「機体は4機か。ふむ……」

 

 アッガイを調べていたコズンとクランプのおっちゃんの報告に、ラルのおっちゃんは手を顎に当てて思案する。

 

「ここはアレだな。お前さん達は2機で嬢ちゃんを送り届ければいい。俺等は残り二機を使って工場の出入り口を塞ぐ」

 

「それで増援が来るまで工作員を閉じ込めるという事か」

 

「ああ。奴等も自分達が中にいるまま工場を吹っ飛ばすような真似はしないだろ」

 

 方針が固まったところで、工作員たちに気付かれないようにあたし達はアッガイに乗り込む。

 

 振り分けはあたしとラルのおっちゃん、クランプとコズンのおっちゃんが二人乗り。

 

 そしてフィクサーとリッパ―が一人で操縦するという形だ。

 

「クランプ、動かせそうか?」

 

『操縦方法はザクと大差ないみたいですからね、行けますよ!』

 

『こっちも問題なしだ』

 

『それじゃあ、ここは任せて旦那達は行ってくれ!』

 

 フィクサーの言葉に背を押されたあたし達は、二人を残して工場を後にする。

 

 ちなみに今回はラルのおっちゃんに操縦を任せているので、あたしはおっちゃんの足の間で大人しくしている。

 

「水陸両用機は初めてですが、乗り心地は悪くないですな」

 

「あたしも動かしたかったなぁ」

 

 おっちゃんの感想に、つい物欲しげに計器を見てしまう。

 

 アッガイって見た目もちょっと可愛いから操縦したかったんだよね。

 

 そんな事を言っている内にアッガイは27番倉庫へ着いた。

 

「ありがとう、ラルのおっちゃん」

 

「我々は木馬に戻ります。くれぐれも無茶はなされぬように」

 

「うん、姉ちゃん達によろしくね。あと、敵と間違えられて撃たれないように気を付けて」

 

 一緒に降りてくれたラルのおっちゃんに礼を言うと、あたしは倉庫の中へ駆けていく。

 

「お嬢ちゃん! ジオンが攻めてきてるんだ、早く避難しないと!」

 

 中へ入ると、倉庫の中で動き回っていた整備班の人が声を掛けてくる。

 

 あれはたしか、アレックスの製作を手掛けていたG4計画のチーフメカニックさんだ。

 

「プロトを出すから手伝って!」

 

「出すって、まだ調整は完全じゃないぞ!?」

 

「その辺はこっちで何とかするから! ジオンを追い返す為にお願い!」

  

 そう頼み込むと、整備の人はあたしの顔をじっと見た後、他の整備の人へ振り返る。

 

「おい、プロトを出すぞ! 武器と盾の用意を!!」

 

 そうしてにわかに慌ただしくなる格納庫の中。

 

 あたしは整備の人達が用意してくれたG4計画用のパイロットスーツに着替えて、プロトのコックピットへ乗り込んだ。

 

『嬢ちゃん! プロトの方は基本設定のみでお前さんに合わせた調整は未完成だ! くれぐれも無茶はするなよ』 

 

「わかってる! アレックス・プロト、出るよ!!」

 

 通信越しにチーフメカニックさんにそう答えると、あたしはアレックスを倉庫から出す。

 

「あ、そうだ。例の識別パッチを咬ませておかないと」 

 

 そう呟くとあたしは情報端末をインテリア内にある接続口へ差し込む。

 

 これはコノリー副長と通信した時に送られてきたダイクン派の機体を見分ける識別データのパッチだ。

 

 テムおじさんやアマミヤ少尉に頼んで、妙なウイルスとかプログラムじゃないのは確認済みである。

 

 むこうとは一応協力する形で話は進んでいるし、知らないままに撃ち落としたら何かと拙いからね。

 

「それじゃあアレックスの初陣、行ってみようか!」

 

 そう気合を入れると、あたしはレーダーに現れ始めた敵の識別信号へ向けてスロットルを開くのだった。 




ジオン兵「念願の陸戦用ゲルググを手に入れたぞ!」

天パ「うほっ、いいMS」

魔猪「(鹵獲を)やらないか」

はたして、ジオンは最新鋭MSの秘密を守り通せるか?
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