サプライズ満載で実に面白かった!!
一月の劇場版からここまで私達を楽しませてくれたスタッフには心から感謝します。
という訳で、作者も負けずに一年戦争後半をがんばりましょう!!
鈍い振動と共に筐体のモニターが仮想世界の宇宙を映す。
そしてスラスター用のペダルを踏むと、筐体が稼働して疑似的に加速のGを醸し出した。
とはいえ、ホワイトベースや連邦の基地に置いてある本物のシミュレーターとは違う。
あちらに比べたら身体に掛かる力は随分とマイルドだ。
そうして加速・減速・各方向へのターン、高速移動時の照準と射撃兵装の試射。
会敵までのわずかな間に基本動作を確かめてみたけど、どうしても実際のMSやシミュレーターよりも軽く感じてしまう。
「……ちょっとブランクがあるかな?」
でも、この程度ならすぐに修正が利きそうだ。
まあ完全に慣れきったら、今度は実機の感覚を忘れちゃいそうで少し怖いけど。
そんな事を考えながらマップ中央に向けて飛んでいると、ララァの機体が見えてくる。
「見た事がない機体だ。それに普通のザクより装甲が厚そう」
深緑色のソイツはザクの改造機みたいなんだけど、全体的に通常機に比べるとゴツい印象を受ける。
これはマシンガンだと撃墜するのに手間取るかも……
『ようこそ、サイド7の人喰い魔猪。楽しいバトルにしましょう』
そうララァの声が通信機から聞こえると同時に改造ザクはこっちに右手の指先を向ける。
無手で何を……いや、違う!
アレはヤバい!!
「チッ!」
慌ててバレルロールで左に避けると、一瞬前まであたしの居た位置を五条のビームが通り抜けていった。
あの機体、指先がビームの銃口になっているのか!
あんなビーム腕が実装されてるって知っていたら、絶対にアセンし直したのに!!
「なに、その機体! もしかしてアップデートで追加された?」
予想外の攻撃に度肝を抜かれてしまったけど、あたしだってこのゲームでは百戦錬磨の上級者だ。
この程度で怯むほど、おしりが青いつもりはない!
相手に狙いを付けられないようにスラスターを操作しながら、左右に動きながらマシンガンを斉射する。
ステップを踏む様な動きと共に放ったのは、4度の三点バースト射撃。
フェイントを絡めたララァが逃げるであろう方向を読んでの置き射撃の連射だ。
『この子はビショップ! サイド6のご当地MSよ!!』
上級レベルの勘の良いプレイヤーでもほぼ当てられる撃ち方なんだけど、ララァの改造ザクはクリーンヒットゼロで切り抜けてしまった。
いや、二、三発は当たったみたいだけど、被弾した肩と胸には装甲が少し損傷した程度でしかない。
どうやら見立て通りに重装甲タイプらしいんだけど、そんな事よりララァがトンデモない事を言ったぞ!
「ご当地MSってなに!?」
反撃で放ってきた左手の五連装ビームを足と腰部のスラスターを使ってバク転気味の動きで躱す。
さすがコロニーチャンプ、射撃精度がいい!
「私がチャンプになった時、コロニーの行政府が万代の支社に掛け合って製作してくれたのよ。次のチャンピオンズリーグで勝利できるようにと」
宇宙空間を駆けながら自慢と共に両手からビームを放つビショップ。
「それってチートでは!?」
あたしはバレルロールで軌道を調整することでビームの間をすり抜けると、ビショップの胸めがけてマシンガンを放つ。
『人聞きの悪い事を言わないでちょうだい。公式が認めた正当なものよ』
ララァはそう返しながら右足のスラスターとAMBACを使って、こちらの射撃を躱してみせた。
そこからはお互いに中間距離を取っての射撃戦に入る。
機動力ではあたしが勝っているけど、ララァの当て勘の良さは相当なモノだ。
それに高精度の置き射撃も併用してくるので、ビームと実弾の差も相まって速度というアドバンテージがあまり生かす事が出来ない。
あと厄介なのは重装甲の割に軽快に動くビショップの機動性だ。
ララァの避け勘と相まって狙い辛いったらありゃしない。
(やっぱり、撃ち合いだとこっちの分が悪いか)
そう判断したあたしは、筐体の右にあるペダルを思い切り踏み込む。
それに応じて画面に映る宇宙が高速で流れていき、ビショップとの距離がドンドン縮まっていく。
これがヅダ最大の特徴である大推力バックパックによる急加速だ。
吹かし過ぎたら自爆するおそれもあるけど、限界を見極めて上手く使うと高機動ユニットを付けたザクくらいは簡単にぶっちぎる機動性を有しているのだ。
こうしてスピードに乗ったあたしは相手の足を止める為の牽制射撃を挟み、盾の内側にマウントしていたヒートソードを抜く。
いくら重装甲でも、コイツなら貫けるはずだ。
『ふふっ。やっぱり、そう来たわね』
けれど、ララァは牽制射撃を躱しながらも余裕を崩そうとしない。
そして次の瞬間、あたしは我が目を疑う事になった。
『あなたが接近戦に持ち込もうとするのは予測済みなのよ!』
「ロケットパンチだとぉっ!?」
何故ならビショップは腕の肘から先を切り離して飛ばしてきたからだ!
まさかのロマンビルドとは、このあたしの眼を以てしても見抜けなかった!!
なんて度肝を抜かれながらも、あたしは空飛ぶ剛腕を食らわないようバレルロールで左側に軌道を変える。
しかしビショップの腕はイメージにあるロケットパンチのように、こちらへ襲いかかっては来なかった。
チューブのような線に繋がれた二本の腕は、手首の部分から生えたスラスターを使って本体を中心にして左右へ広がっていく。
そう、まるであたしを包囲するかのように。
「やばっ!?」
背筋を這い上がる悪寒に右に回避行動を取ると、次の瞬間にはあたしがいた場所を10条のビームが貫いていた。
出所は斜め右上と斜め左下に陣取っているビショップの腕だ。
「くっ! 左を持っていかれた!!」
咄嗟に躱してみせたけど、ビームが掠った所為で左腕の肘から下を焼き落とされてしまった。
見た事のない攻撃だからって、我ながら間抜けすぎる!!
『さあ、何時まで躱せるかしら?』
ララァの言葉を合図にするかのように、ザクの両腕の動きが俊敏さを増す。
最初に撃ってきたのは、頭上と足元からの挟み撃ちだ。
「あぶなっ!?」
それをアタシはスロットル全開で速度を上げる事で、上下から閉じようとするビームの間を掻い潜る。
次に宙を蠢く両腕が選んだのはヅダの両脇を挟んでの一斉射。
「くっ!」
それはメインスラスターの推力を活かして急上昇する事で回避。
「あわっ!」
さらに左上と右下からの挟み撃ちは腰部のスラスターを操って、機体をバックさせることで躱す。
こんな風に両腕は常にニコイチで動き、上下、左右、斜めとこちらを挟み込むようにして連続でビームを浴びせてかけてくるのだ。
「ああもうっ! やっかいだなぁ!! ヅダは細かな動きが苦手なのにっ!!」
その様はビームという牙を突き立てようとする獣の顎のごとし。
それをあたしは愚痴りながらも紙一重で躱しながら逃げ続けた。
お陰で詰めようとしていた相手との間合いも逆に開いていくばかりだ。
『まさか、ここまで私のオールレンジ攻撃を躱すなんて……。いいえ、流石というべきなのかしら』
通信機越しにララァの賞賛と驚愕が入り混じった声が聞こえる。
けど、そう言ったセリフは少しばかり早い。
「そこっ!」
何故なら幾度目かの挟撃を仕掛けられたあたしは、下から来るビームを予測で躱しながら頭上を取った腕をマシンガンで狙い撃ったからだ。
『なっ!?』
通信機越しから聞こえるララァの驚愕にあたしはニヤリと口角を吊り上げる。
何度も追い回されてわかったけど、彼女の動かす両腕にはパターンがある。
それは常にこちらを挟み込むように死角を取るという事だ。
もう一つ言えば、彼女は攻撃する際に意識を前に出し過ぎている。
筐体越しに伝わるんだから、その強さは相当なモノ。
その二つがあれば、動きを先読みして迎撃するくらいはあたしでもできる。
こっちは伊達にアムロのアンちゃんの鬼畜戦法を味わってきたわけじゃない。
アンちゃんなら左手を真正面に置いて、もう一方で死角から狙う『両腕二択』くらい序の口でやってくるぞ。
さて、偉そうに語ってみたもののこちらの迎撃はあんまり効果が無かったようだ。
ビショップの重装甲は腕にも施されているらしく、微々たるダメージだけで弾の殆どは弾かれてしまった。
『動きが読まれた? だけど、この感じは……』
通信機からララァの戸惑いを含んだ声が流れてくる。
けど、ここで動揺を見せるのはまだまだ甘い。
カメマンなら先読みされたら、逆にテンションアゲアゲでヒャッハーするぞ。
とはいえ、今の攻撃でマシンガンだと腕が落とせない事が分かってしまった。
となれば、あの手を使おう!!
「よし、かっ飛ばすよ!!」
意を決したあたしはアクセルを全開にしてヅダを加速させる。
目標はもちろんビショップ本体だ。
『あの位置から突撃!? くっ……!』
急速に距離を詰めてくるあたしに、ララァの驚愕の声を通信機は伝えてくる。
今の彼我の距離は完全にアウトレンジ、狙撃ライフルなんかで撃ち合うくらいの位置関係。
ここから突貫なんてセオリー的にはあり得ないからだ。
『あなたの思い通りにはさせないわ!』
驚きはしたもののララァだってコロニーチャンプ、もちろんこちらの意図を見過ごすようなヘマはしない。
あたしを迎撃する為に伸ばしたビーム腕を引き戻そうとする。
しかし、こちとら加速命な直線番長のヅダである。
『そんな、追いつかない!!』
たかがギミックハンドに負けたとあっては『青い箒星』の名が廃る!
『ならっ!』
そして追いつけないとなれば、ララァが取れる手は一つだ。
後ろで敵意が膨らむのを感じたあたしは腰部のスラスターとAMBACを利用してグルリとヅダを反転させる。
「いけっ!!」
三点バーストで放った120ミリ弾が向かう先、それは発射寸前で指先に黄色い光を湛えた左右のビーム腕の中指だ。
宙を裂いて飛ぶ弾丸は狙い通りに指先に備わった砲口へ飛び込み、左右のビーム腕を爆発させた。
その爆炎に背を向けたあたしはザクマシンガンを棄てて、残っている右手に腰にマウントしていたヒートソードを握る。
そして三度フルスロットルで宙を駆けた。
『くっ!!』
両腕を失ったものの、あれでビショップの武装が全て消えたとは思えない。
その警戒を残したまま、あたしは奴の懐へ飛び込む。
「はぁぁぁっ!!」
そして突撃の勢いのままヒートソードを胴体の中心へ突き刺したのだが、あたしは鍔元まで刺さった刀身を見て違和感を覚えた。
今の瞬間、ララァは身じろぎ一つすることなく刃を受けた。
彼女ほどの腕前を持つプレイヤーが回避行動一つ取らないなんてあり得るか?
「な…なにぃっ!?」
そう考えて再びモニターへ視線を向けたあたしは驚愕に目を見開く事になった。
なんと、ビショップの首が火を噴きながら胴体から離れていくじゃないか!!
『ふふふ、このビショップのコックピットは頭にあるのよ!!』
ララァがそう告げると同時に、ザクタイプの特徴であるタコみたいな口にメガ粒子の光が灯る。
あんなところにまでビームが仕込んであるなんて!?
完全に不意を突かれた! 躱せるタイミングじゃない!?
自身の負けを確信した瞬間、あたしの感覚にある変化が起こった。
それはまるでスローモーションのように周囲の動きが遅く感じるようになったのだ。
(これって……)
この奇妙な感覚には覚えがあった。
そう、BGSTの隊長との仕合で見た死を感じた瞬間のそれだ。
「うおおおおおおおおっ!!」
それに思い至ると同時に、あたしは反射的にレバーとフットペダルを操作していた。
それに応じてヒートソードを手放したヅダは胴体を離れたビショップへ向けて上昇する。
『なっ!? このタイミングで!』
勝ちを確信していたララァの焦りの声、それと同時に筐体の振動と共にメインモニターが死んだ。
機体コンディションを見ればこちらのヅダの頭の部分が真っ赤に染まっている。
あたしが動いた事で口ビームの狙いがズレて、コックピットではなく頭を吹き飛ばしたのだろう。
周囲の様子は完全に遮断されてしまったけどアンちゃんは言っていた。
『たかがメインカメラがやられただけだ!』って!
ララァの気配と闘志は肌で感じているんだ、アンちゃんのバディであるあたしが戦えない筈がない!!
「捕まえたぁ!!」
『きゃあっ!!』
機体を更に上昇させて直感の告げるままに右手を伸ばすと、ヅダの手はビショップの頭部に掛かった。
そのまま鷲掴みにしたあたしは今度は機体の向きを変えて下降させる。
今のヅダは丸腰だ。
───でも武器ならあるっ!!
加速するあたし達の先にあるモノ、それは中から炎を吹き始めたビショップの胴体だ。
「ああああああああっ!!」
吼えながら勢いのままにビショップの頭部を胴体へ叩きつけた、その瞬間だった。
「あ……」
突然あたしの視界が大きく切り替わったのだ。
瞳に映るのは原色を無作為に塗りたくったような空間の中を、大小さまざまな光が飛び交う世界。
それはサイド7で初めてMSに乗った時に見た不思議な空間だった。
「ちょっと! 扱い酷すぎないかしら!?」
いきなりの事に唖然としていると、飛んできたのは怒声。
そっちを見るとお怒りモードのララァがいた。
「いやいや、あんなギミック満載の初見殺しな機体持ってきておいてよく言うよ!」
「仕方ないでしょう! 私はこれでご飯を食べているの、負けたら明日は無いのよ!!」
「重っ!」
そう言う事情があるのなら先に行ってよ!!
ララァの言葉に若干引いていると、何故か彼女の事情が流れ込んできた。
彼女はサイド5コロニールウム出身だったんだけど、この戦争で戦災孤児としてここへ流れ着いた。
最初はすさんだ生活を送っていたんだけど、通りかかったゲームセンターで行われていた『戦火の絆』の大会に参加した事が大きな転機となった。
ララァはその大会で優勝し、その際の圧倒的ともいえる強さがイベント主催者であるサイド6の財務行政官の目に留まったのだ。
その後、彼女は財務行政官の口利きで芸能事務所へ紹介され、新進気鋭の『戦火の絆』Eスポーツ選手としてデビュー。
破竹の勢いで様々な大会を勝ち抜いて、見事にコロニーチャンプの座を勝ち取った。
しかも彼女は大会の賞金や給料で自分と同じ戦災孤児を家族として養っており、もう少しでその子達もサイド6の市民権を得られる所へ来ていたらしい。
「あなた、本当に戦争をしていたのね」
「諸事情がありまして……」
どうやらあたしがララァの事を知ったように、こちらの情報も彼女へ伝わってしまったようだ。
「なんかごめんね」
あたしは居た堪れなくなって、ララァの頭を下げた。
「謝る必要はないわ。ネット対戦での雪辱を狙って勝負を仕掛けたのは私だもの。手を抜かれて勝っても嬉しくもなんともないわ」
「大丈夫なの?」
「これでもサイド6では人気と実力No1の売れっ子Eスポーツ選手なの。無名の素人ならともかく、チャンピオンズリーグ優勝者に負けたくらいじゃ格落ちしないわ」
それを聞いて安心した。
「それはそれとして、お兄さんを紹介してくれないかしら?」
「……自分で声を掛けましょう」
まさか過ぎる言葉にあたしが絞り出せたのは、こんな言葉だった。
というか、ウチとか兄ちゃんの事情知ったうえで狙うつもりなのか、ララァ。
そんな間抜けなやり取りを最後にキラキラとした空間は終わりを告げる。
刹那の暗転を挟んで視界が元に戻ると、メインモニターにデカデカと『YOU WIN』という表示が躍っているのが目に入った。
『まさかの逆転劇! ホワイティスワン、あと一歩のところでチャンピオンズリーグ覇者に届きませんでした!!』
筐体を出るとアナウンスと共に観客から歓声が上がる。
「やったな、マチュ!」
「うん、危なかったけどね」
セコンド役のアムロのアンちゃんにへらりと笑うと、相手側の筐体からララァが出てくるところだった。
「完敗よ。奥の手まで切り抜けられるとは思わなかったわ」
「手合わせ、ありがとうございました」
互いの健闘を称える為に握手をすると再び歓声が沸き起こる。
それに見送られながらステージを降りると、姉ちゃん達が駆け寄ってきた。
「お疲れ様、マチュ」
「うむ、見事な勝利だった」
「本当にギリギリだったよ。少し前なら勝てなかった」
苦笑いでそう返すと、アンディの兄ちゃん達が納得したようにうなずく。
「いや、対戦相手もすごかったよ」
「本当にな。実戦であんな兵器が出てきたらと思うとゾッとする」
基本的にMSの戦闘はミノフスキー粒子とかいう物の所為でレーダーが広範囲に利かないからね。
ビショップのビーム腕みたいに死角を取られて攻撃されるのが一番危険なんだ。
そんな風にワチャワチャしていると、ララァがステージから降りてきた
「そちらの金髪の殿方、お名前をうかがってもよろしいかしら?」
ララァがマジで兄ちゃんに行った!
あのキラキラ空間での言葉、本気だったのか!!
「……クワトロ・バジーナです」
そして兄ちゃん躱したぁ!!
滅茶苦茶自然に偽名を使ったぞ、この兄貴!
というか、クワトロって誰さ!?
「シャ……クワトロさんというのですね。素敵なお名前ですわ」
今シャアって言いかけたよね、ララァ。
さては直感的な何かで読みやがったな。
あと、この場でシャアって言わない配慮があったのはよかった。
「よければ、連絡先を交換しませんか?」
いったい何がそうさせるのか、妙にぐいぐい来るララァ。
「申し訳ないが私は軍属でして、間もなくこのコロニーから立ち去らねばならない。ですので、そちらの連絡先を教えていただけますか?」
「わかりました」
兄ちゃんがこう返すと、ララァは携帯端末を操作して自分のアドレスを送信する。
「ありがとう。戦争が終わったら必ず連絡しますので」
そう言って会場を立ち去る兄ちゃん。
「毎度、ララァはん。イベントはサプライズゲストのお陰で大盛況でんな」
「マンダさん、ご無沙汰してます」
「これだけ客が入っとるんやったら、アンタに貸した初期費用も今回で完済できそうやな」
兄ちゃんの後について会場を離れようとした時、少し訛った口調の声に振り返るとララァが眼鏡を掛けて黒髪を後ろに流した男の人と話をしていた。
キラキラ空間で見たララァの記憶が確かなら、あの人はサイド6コロニーの財務行政官でララァを見出した人だ。
ララァの借金って養っている孤児たちの為だし、早く全額返済できるように祈っておこう。
「というかさ、兄ちゃんララァに連絡する気無いでしょ?」
「今の私はお前達と生きる事が使命だからな。それにああいう感じでグイグイ来る女性は苦手なのだ」
まあ、初っ端から偽名使ってたから分かってたけどさ。
けどララァの事だから、兄ちゃんの思惑は読まれていると思うよ。
まあ、妹としては気乗りしない相手と付き合えなんていう気は無い。
この辺は当事者同士の問題だから、余計な事は言わないでおこう。
◆
ゲームイベントが終了した後、ララァ・スンはサイド6の財務行政官であるギンジロウ・マンダと共に第8バンチ・パルダの工業区画へ来ていた。
「ララァはんのお陰で、ワシ等の計画も順調ですわ」
「マンダさん、あの子の操縦データも利用する気ですか?」
「はいな。チャンピオンリーグ優勝者で現役の連邦軍のエースが残したお宝でっからな、見逃す手はありまへん」
ララァの問いかけに答えながらエレベーターに乗り込んだマンダは、操作盤の横に設置されたスリットにカードを読み込ませる。
するとエレベーターは動き出し、表示では地下2階までしかないにも関わらずB6階で停止した。
重苦しい音を立てて開いたドアの先、そこにあったのはズラリと整列した高機動型ザク。
その奥にはララァがシミュレーターで操縦していたビショップの姿もあった。
「また増えましたわね」
「ジオンも財政難やからの。連邦が本格的にMSを導入してきた以上、それに負けへん新型機を作る必要がある。その為には先立つモン、すなわちゼニが必要になるんや」
「だからこそ、型落ち機や試験機などを資金が潤沢なサイド6へ秘密裏に卸している。その銃口が何時か自分達に向く危険性も覚悟の上で」
「まあ、背に腹は代えられんっちゅうヤツや。古来から戦争は金食い虫、巨大な地球連邦相手に1コロニー国家が喧嘩したら、台所事情が火の車になるんは目に見えとる」
ララァの言葉にマンダは肩をすくめてみせる。
「この戦争が終わったら、結果はどうあれ地球も宇宙も大いに荒れるやろ。ジオンが勝ったら自分に味方せんかったサイドを弾圧するやろうし、連邦が勝っても第二のジオンを生み出さん為にスペースノイドへの締め付けが強なる」
「だからこそ、コロニーは自衛の手段を持たなければならない。連邦・ジオン、どちらを相手にしても被害を食い止めて交渉のテーブルに着かせられるくらいに」
「そういうこっちゃ。正直言うてこの計画は危険な橋や。けど、ワシ等はサイド2の二の轍を踏むわけにはいかん。その為にも協力してや、ララァはん」
「ええ、分かっています」
眼鏡の奥で笑っていないマンダの眼を見ながら、ララァは硬い表情で頷く。
このコロニーには、彼女にとって守らねばならない者がいる。
それが戦火に巻き込まれるなど、絶対に許せることではないのだから。