前回に続いて戦闘描写がムズイ。
ソロモンやア・バオア・クーの戦いを書いた先生方は本当に尊敬します。
さて、次からはテンポを上げて書けるかな?
ホワイトベース亡命政府連合艦隊とコンスコン艦隊。
その二つの勢力が生み出す戦火は、サイド6宙域を出るとさらに勢いを増す。
二つの艦隊勢力がぶつかり合う中、本隊から離れた場所でシイコ・ハセガワとクリスチーナ・マッケンジーは深紅の怪物と対峙していた。
「ぬおおおおおおっ!!」
操縦者であるケリィ・レズナーの雄叫びを乗せて宇宙を駆けるのは、ジオン軍が生み出したMSに次ぐ新たな機動兵器MAの一つであるヴァルヴァロ。
「速いっ!? あれがモビルアーマー!!」
人型を捨てた異形の機体は、機体後部に備わった複数の高出力スラスターの咆哮と共に矢のような勢いで二人へ迫る。
「マッケンジー中尉! 上へ!!」
「ッ!? クッ!!」
けん制としてばら撒かれる110mmバルカン砲をシールドをかざして防いでいたクリスは、シイコの忠告にスラスターを全開にしてガンダムを上へと押し上げる。
するとそれに一瞬遅れて、彼女がいた位置を黄色のエネルギーの奔流が薙ぎ払った。
ヴァルヴァロの機首に備わった必殺の一手、大型メガ粒子砲だ。
「なんて威力っ!?」
「アレを食らったら戦艦でも耐えられない! 奴を近づけるわけにはいかないわ!!」
クリスのガンダムより先にヴァルヴァロの上方へ避難していたシイコは、不発に終わったメガ粒子砲の威力に顔色を変えた。
今の一撃でMAがMS以上の戦艦殺しである事を思い知ったのだ。
「ちょこまかと! 白い悪魔ども、落ちろ!!」
機体各所に付いたアポジモーターで上を向いたヴァルヴァロは、前面のカバーを開けて二連装になったビームガンを放つ。
「甘いッ!」
しかし、迫りくるメガ粒子の弾丸をアリアドネはAMBACを使って紙一重で躱しながら、背面のスラスターで加速する。
これもシイコの優れた避け勘と、アリアドネが持つインナーフレーム構造の運動性が成せる業だ。
「なにっ!?」
まるで宙を舞い踊るかのように自分の攻撃を躱すアリアドネ、ジオンのMSでは考えられない運動性にケリィは目を見開く。
「させるかぁ!!」
だが相手が自分の懐に入ろうとしているのが分かった瞬間、右手に握ったレバーを大きく前へ押し出す。
それに連動してヴァルヴァロの機体下部から現れるのは、蟹のような大型クローアームだった。
「なっ!?」
形状からして白兵戦武装があるとは思っていなかったシイコは、目の前で大きく開いた凶悪なハサミに目を見開く。
「その身軽さなら重装甲という事はあるまい! 貴様から捻り潰してやるぞ!!」
深紅のクローアームがアリアドネの胴に食らいつくべく宙を裂く。
しかし次の瞬間には、そのハサミは腕の途中で千切れて宙を漂う事となった。
「ぐっ!? なんだ!」
爆炎と共に大きく揺らいだ機体の中、歯を食いしばりながらモノアイを移動させるケリィ。
高速で移動するモニターに映ったのは、ハイパーバズーカを肩に担いだクリスのガンダムだった。
「ハセガワ少尉! 今よ!!」
「はいっ!」
攻撃を受けた事で出来た一瞬の意識の空白。
その隙をついたシイコはヴァルヴァロの背面に回ると、その背にビームダガーを突き立てる。
シイコがその選択を取ったのは、MAの厚い装甲と加速の前ではビームガンでは必殺を期すのが難しいと考えたからだ。
「ぬぅぅっ!?」
コックピット内を赤く染める緊急アラートに歯を食いしばるケリィ。
「俺は……こんな所でくたばるわけにはいかんッ!!」
その叫びと共にケリィはヴァルヴァロを加速させる。
MAの大出力スラスターとアポジモーターを全開にしたクイックターン。
そのあまりに無茶苦茶な機動は、背に取りついていたアリアドネを遠心力で弾き飛ばす。
「くっ! 逃がすものかぁ!!」
とっさの判断でアリアドネに備わった右腕のワイヤーを放つシイコ。
ワイヤーの先端はビームダガーの傷に潜り込み、フックとなって深紅の装甲の内側へ食い込んだ。
「如何にMSが高性能でも、母艦を失えばまともに運用はできん筈だ!!」
しかしヴァルヴァロの速度は上がる事はあれ鈍ることはない。
「ぐぅぅ……!」
その結果、なんとか食らいついたアリアドネはヴァルヴァロに引き摺られる形に陥った。
「ハセガワ少尉!!」
急速に離れていくアリアドネ、そこに向けてクリスのガンダムが何かを投げる。
「っ!」
アリアドネがインナーフレーム構造の可動域を駆使してつかみ取ったモノ、それはガンダムのビームサーベルの束だった。
「がんばって! ビームダガーではダメでも、サーベルなら奴の中枢に届くはずよ!!」
「はいっ!!」
クリスの意思を引き継いだシイコはワイヤーを引き寄せるモーターを全開にして、再びヴァルヴァロの背に取りつこうとする。
だが、ヴァルヴァロの推力によって左右に振り回されている状況では、それもままならない。
そうしている間にもヴァルヴァロはホワイトベースを射程に収めている。
「忌まわしい木馬め! まずは貴様からだ!!」
そうしてケリィが純白の船体に照準を合わせようとした時だった。
「うおおおおおっ! シイコさんを放せェェェッ!!」
「ついでだ! ホワイトベースはやらせねえぜ!!」
「今こそ好感度ゲットの時!!」
「ケリィ! 覚悟ぉぉぉっ!!」
ヴァルヴァロの目の前に4機のジムが立ちはだかったのだ。
「邪魔だ! 雑魚どもぉぉ!!」
ケリィは怒号と共にレバーの持ち手に生えたトリガーを押し込む。
それに連動してヴァルヴァロは機首にあるくちばしを横に開くと、中から現れた砲身が核融合炉から供給される莫大なエネルギーをチャージする。
「「「「いまだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」
目の前で収束していく死の光、それを前にしてもジム達が逃げる事が無い。
それどころか背面の大型バックパックを閃かせて、我先にとヴァルヴァロにむけて掴みかかったのだ。
「消えろぉぉぉっ!!」
吐き出されたメガ粒子の奔流に次々と飲み込まれるジム達。
しかし、彼等の執念は無駄ではなかった。
「ぬおっ!?」
上半身を殆ど消し飛ばされ、頭と右肩から下が残った一体のジムがヴァルヴァロへしがみついたからだ。
当然それは残骸であり、本来なら自ら動く事は無い。
しかし屍は主の執念が乗り移ったかのように、ヴァルヴァロのモノアイレールの上に覆いかぶさった。
「くっ!? モニターが!!」
視界を塞がれた事でケリィは反射的にヴァルヴァロの速度を緩めてしまう。
その瞬間、ホワイトベースの防衛を担っていたカイの脳裏に閃きが走った。
素早く移動させたモニターの先にあったのは、引っかかったジムの残骸を振りほどこうとしている赤い巨影だ。
「リュウさん! ハヤト! 3時の方向、仰角70°へ牽制射撃を撃ってくれ!!」
「えっ!?」
「あれだな! 任せておけ!!」
突然の指示に驚くハヤトと、指示された方向へカメラを向けて事情を察するリュウ。
「ハヤト、行くぞ!!」
「当たれぇ!!」
カイが周りのリックドムを頭部バルカンとキャノン砲でけん制する中、二機のガンキャノンから4発の砲弾が放たれる。
「ちぃっ!?」
横一列の偏差射撃に対してバレルロールによる回避を試みるケリィ。
「そこだぁっ!!」
しかし、紙一重で砲弾を躱したヴァルヴァロの前に現れたのは、突き上げた右手でカイが放ったビームライフルの光弾だった。
「なにっ!?」
まるでヴァルヴァロが取る回避方法を予測したような一射、危機を脱したという心の空白を突かれたケリィにはこれを躱す事が出来ない。
「ぐぅぅっ!?」
正面から少しズレた右のモノアイレールへ突き刺さったメガ粒子の弾丸は、ヴァルヴァロの装甲とカメラ機器を抉り取りながら後方へ抜ける。
これによって赤いMAが纏っていた突撃の勢いは完全に削がれる事となった。
「いまだっ!!」
千載一遇の好機に乗じてスラスターを全開にし、ヴァルヴァロに食い込んでいたワイヤーを巻き取るシイコ。
そしてヴァルヴァロに取りつくと、アリアドネはガンダムから託されたビームサーベルを深紅の装甲へと突き立てる。
「ぐおおおおおおっ!?」
背面から串刺しにされた事によって、コックピットの中で計器やレバーから吹き上がる爆炎に晒されるケリィ。
ヴァルヴァロは爆散こそしなかったものの、機体各所で小規模の爆発を起こしながら戦域の外へ流れていく。
「なんとかなったわね。でも……」
「すまんな、ハセガワ少尉。連中はバカだったが、気のいい奴でもあったんだ。よければ少しだけでも悼んでやってくれ」
我が身と引き換えにヴァルヴァロを倒すチャンスを生み出したスガイ衆。
それに対して皆が黙祷をしていると、亡命艦隊のジムの一体に通信が入った。
「俺達を惜しんでくれるのはありがたいが、ソイツは少し待ってもらおうか」
驚いて通信モニターへ視線を向けると、そこにはヴァルヴァロのメガ粒子砲に散った筈の仲間たちが不敵な笑みを浮かべていた。
「ベネット! 殺されたんじゃ……!?」
「残念だったな、トリックだよ!」
「コマンドーごっこやっとる場合か! お前等どうやって生き残った!?」
「そりゃあ、あれだよな。」
「ああ、コアブロックシステムと言えばアレだろ」
スガイ衆の呟きと同時にジムのパイロットの脳裏に浮かんだ掲示板に言葉が奔る。
それは『ウッソスペシャル』、そして『シン・アスカ戦法』であった。
余人からすれば意味不明な単語だが、亡命艦隊に多数いる同志は得心がいった。
上に浮かんだのはガノタなら誰でも知っているコアブロックシステムを攻撃に転用したエースの名だ。
つまり彼等はコアブロックシステムが積まれたサンボル版ジムの特性を生かし、特攻をかけたように見せかけてジムのAパーツを射出。
自分達は簡易コアファイターで安全圏に脱出したのだ。
これこそまさにガノタの真骨頂。
しかもガンダム知識というボーダーにも抵触しない見事な手だ。
「とにかく、お前等はとっとと帰れ! 敵はまだいるんだからな!!」
「そ…そうだった!」
「今狙われたら一たまりもねえ!」
「せっかくいい所を見せたのに、こんな所でくたばってたまるか!!」
土壇場でそんな作戦を実行に移した漢達に胸中で敬意を表しながら、ジムのパイロットは母艦へ飛び去る簡易コアファイター達のフォローに回るのだった。
◆
後ろの方でホワイトベースや亡命艦隊が敵と火花を散らす中、あたしは黒いヅダと高速戦闘を繰り広げていた。
互いに円を描くような軌道を辿っての射撃戦。
相手は対艦ライフルを両手で持ち、あたしはビームライフルでそれに応じる。
「この人、ヅダの扱い方上手いなぁ」
何度目かの砲火を交えながら、あたしは相手のヅダへ賞賛の声を上げる。
ヅダの加速力で移動しながら対艦ライフルを撃つのはかなりコツがいるのだ。
なのに下手なスナイパーも顔負けな狙い。
しかもメインスラスターの加減と機体の各所に付けたアポジモーターを使って、撃った後の反動と隙を極力消していると来た。
さすがはパーソナルカラーを使うエースと言ったところである。
『くらえっ!』
大口径の銃口から吐き出される狙い済ました一射。
あたしはプロトの各種スラスターを吹かして、速度を上げる事で回避する。
「お返しっ!」
そして対艦弾頭が自分のすぐ横を通り過ぎるのに合わせて、あたしは手にしたライフルを放つ。
『くっ!』
相手は一射目を背部にある高推力エンジンを吹かして躱す。
『なっ!?』
しかし、その先には回避方向を読んで放ったもう一つの光弾が待っている。
こちとらロボゲーでは散々ヅダと戦った身だ。
相手の加速性能を予測しての置き射撃くらいは朝飯前である。
『ぐっ!? なんて射撃の腕だ!』
このタイミングならかなり腕が立つパイロットでも躱す事はできない。
けれど、黒いヅダのパイロットの力量はそれ以上だった。
『まだ……やらせん!!』
彼は盾の内側からシュツルムファウストを引き抜くと、迫って来るビームライフルへ投げつけたのだ。
途端に巻き起こる爆発の火球。
それを突っ切るように黒い機影がこちらへ向けて猛スピードで向かってくる。
その右手に光るのは対艦ライフルに代わって高熱を纏ったヒートホーク。
撃ち合いだと分が悪いと考えたか。
「流石エース、あの返しは思いつかなかった! ───姉ちゃん、けっこうトバしているけど大丈夫?」
一しきり相手の対応に感心した後、あたしは姉ちゃんに声を掛ける。
プロトの実機でここまでスピードを出したのは初めてだったので、ちょっと心配だったのだ。
「ええ。新型のシートが動いて衝撃やGを弱めてくれているから、私は全然大丈夫よ」
振り返るとヘルメットのシールドグラス越しに微笑んでくる姉ちゃん。
姉ちゃんが大丈夫なら一安心だ。
あたしはペロリと小さく口元を舐めると、ウエポンセレクトのボタンを操作する。
それに応えてプロトは手にしていたライフルとシールドを背面のラッチに収め、その代わりにビームサーベルを引き抜いた。
「それじゃあ、しっかり捕まっててね!」
「ええ!」
そしてフットペダルを踏み込めば、プロトは自慢の推力を活かして前へとカッ飛ぶ。
加速力で言えばプロトはヅダを大きく上回る。
それは宇宙での接近戦において踏み込みの速さに直結する。
だからこそ、相手が斧を振り上げる前にあたしは黒いヅダの懐を取る事が出来た。
「もらった!」
剣術でいうところの『先の先』を取った形の一刀。
袈裟斬りに振り下ろしたビームサーベルを、ヅダは左肩ギリギリのところでヒートホークの刃で受け止める。
『くっ!? お前は……!』
それでもこちらと向こうには機体パワーの差がある。
あたしがレバーを前に入れれば、薄桃色のメガ粒子は高熱の斧を徐々に押し込んでいく。
『どうしてお前のような子供が戦っている!? 戦争は子供がする事じゃない!!』
このまま一気に叩き斬ろうと思っていると、通信モニターに隻眼の男の人が現れてこんな事を言ってきた。
どうやら鍔迫り合いで接触回線が機能したらしい。
「そんなこと言われても、生きる為には必要なんだから仕方ないでしょ」
『なに?』
というか、あたし達をこの状況に追い込んだ組織の人間が良く言うなぁ。
「一般人として生きてたらジオンの攻撃で住んでいた土地から焼け出されて、自衛の為にMSで戦ったらザビ家の坊っちゃん殺しで賞金首。しかもザビ家最大の政敵の娘だってバレたから暗殺者まで送り込まれたからね。こんなあたし達が普通に生きようと思ったら、ザビ家を吹っ飛ばすしかないじゃん。ねえ?」
「そうね。いい加減監視やら刺客に気を揉むのも鬱陶しいし、この際だからマルッと消えてもらいましょう」
あたしが話を振ると、姉ちゃんはウンウンと頷いて見せる。
というか姉ちゃん、心の中で『サイド3も一緒に吹っ飛ばないかな』とか思ってません?
『その為に連邦や亡命政府等という反逆者に踊らされてもいいというのか!』
「もちろん。家族を護る為ならタンゴでもジルバでも盆踊りでも、何だって踊ってあげるよ」
黒いヅダのパイロットの糾弾をあたしは一蹴すると更にレバーを押し込む。
するとプロトのパワーはヅダを圧倒し、その特徴的な肩へビームの刃を少しづつ通していく。
『くっ! うおおおおおっ!!』
このままだと強引に両断されると分かったのだろう。
ヅダが左手を後ろに引いて溜めを作ると、装備されたシールドの先端から二本の鋭利な牙を生やす。
これはロボゲーでも採用されているヅダの奥の手、打撃用ピックだ。
「そう来ると思ってたよ!」
接近戦や突撃の時に虚をつく暗器の類だけど、それだって相手に知られていては意味がない。
あたしはフリーになっている左腕を、こちらの腹へ食らいつこうと光る牙へと振り下ろす。
小手の内側に備わったビームガンの発射機構をサーベルへと転用した通称ビームトンファー。
それは起死回生のピックを容易く溶断し、切り落とされた漆黒の牙は勢いのまま宇宙を漂う。
「これで終わり!……っ!?」
逆転の芽を潰したところでサーベルを押し込もうとした瞬間、あたしの頭にあるモノが奔り抜けた。
それはララァやアンちゃんとの間に感じていたモノとは違う。
どちらかと言えば、子供の時にマス家に出入りしていた父ちゃんの商売相手が伝えてきたモノに近い。
『やらせるかぁ!!』
「わっ!?」
その隙を突かれたあたしは、黒いヅダの蹴りを食らって強引に間合いを離されてしまった。
「今のって……」
逃げる為の牽制でばら撒かれたマシンガンを躱しながら、あたしはさっき頭によぎったモノを考える。
あの時、確かに感じたのだ。
『死なないで、ウォルフ。生きて帰ってきて』という、祈りに似た強い思いを。
もちろん、ここまでの強い思いなので出どころの方も掴んでいる。
それは黒いヅダの母艦であろう同じエムブレムが刻まれたムサイ級の戦艦だ。
「これって、ムサイにヅダのパイロットの恋人でも乗ってるんだろうなぁ」
「おそらくそうでしょうね」
あたしの呟きを姉ちゃんもため息交じりで肯定する。
「姉ちゃんも聞こえたの?」
「ええ、本当にやり辛いわね」
姉ちゃんの言葉に、あたしは同意を込めて小さく息をつく。
そりゃあ戦場に出る兵士には、無事に帰ってくるように祈っている家族がいるのは当然だと思うよ。
戦場だと殺し殺されの関係なんだから、そんなのを気に掛ける必要なんて無いのも確か。
けどさ、本人がいる前で恋人を堕とすってのは少しばかり道外れすぎないかな?
『ウォルフ! 撤退しましょう! 機体の性能が違い過ぎるわ!!』
『そういう訳にはいかん! 強敵を前にして背を向けるなど、戦士の行う事ではない!!』
……むこうはよっぽどテンパっているのだろう。
今度はヅダのパイロットと恋人のやり取りまで伝わってきた。
「どうするの、マチュ?」
姉ちゃんの問いかけにあたしはちんまい脳みそを回す。
むこうのパイロットも腕は悪くない。
ロボゲーならサイド7でも200位くらいには食い込めるだろう。
ただ、あまりにも機体性能に差がありすぎる。
同じヅダ同士なら手加減のしようもないけど、こっちが駆るのはプロトである。
ロボゲーのデータが正しければ、ぶっちゃけヅダはスピードの速いザクでしかない。
そんなのでこの子を倒そうと思うなら、運と工夫とその他色んなモノがダース単位で必要だろう。
「ふぅぅぅぅぅ……」
そこまで考えて、あたしは深く深く息を吐く。
武道で言うところの息吹という奴だ。
さっきはこちらが圧倒的に有利と断じたけど、ここは命のやり取りを行う実戦である。
如何に差があっても、それを笠に着て油断など言語道断。
相手がやる気である以上、全力を以て迎え撃つだけだ。
覚悟を決めたあたしはフットペダルを思い切り踏み込んだ。
こちらの操作に応えてプロトは爆発的な加速で宙を駆ける。
『この距離から突撃だと!?』
機体のパワー差を思い知らされた事で距離を取ろうとしていたヅダには、あたしの行動は一番やられたくない事だ。
左手にザクマシンガン、右手に対艦ライフルを構えて、こちらを近づけないように弾幕を形成する。
「───甘い」
けれど、ヅダの張った鋼の防護には穴がある。
対艦ライフルは片手で撃てるものではないし、マシンガンの方も接近戦で肩にダメージを負った左腕の所為で撃つ度に銃口がブレている。
『……なっ!?』
あたしは狙いが甘くなったライフル弾を掻い潜り、集弾率が悪いマシンガンの弾をすり抜ける事で、ヅダの張った弾幕を迂回ではなく踏破する。
宇宙に出た事とララァとの戦いでさらに鋭くなったあたしの勘とプロトの追随性があれば、こう言った芸当だって不可能じゃないのだ。
そしてヅダをクロスレンジに捉える寸前、あたしは背中にマウントしていた盾を投げつける。
フリスビーではなく、面で相手の視界を塞ぐように放ったシールド。
『くっ! 小細工を!!』
それをヅダは背後に下がりながら対艦ライフルの弾で弾き飛ばす。
弾丸を受けて宙を漂うシールド、けれどその先にはすでにプロトの姿は居ない。
『奴はどこへっ!?』
モノアイを動かしながら左右を見渡すヅダ、その頭上を取ったあたしは奴に向けて突撃する。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
『なっ!? 上!』
ヅダのパイロットはようやく気付いたようだが、このタイミングでは迎撃も回避も間に合わない。
『ぐあぁぁぁぁぁっ!?』
あたしが振るったビームトンファーの刃は、容赦なくヅダの四肢を切り落としたのだ。
両の手足を失って宇宙を漂う黒いヅダ。
けれど、彼は戦う事を諦めていないようだ。
『ウォルフ! もう無理よ! 脱出して、ウォルフ!!』
『ま…まだだ! まだ俺は戦える!! 刀を打折れば手にて仕合ひ───』
接触回線で聞こえてくるヅダのパイロットの闘志に満ちた声。
その彼が口にした古語にあたしは聞き覚えがあった。
「武士道とは死狂ひなり。本気にて大業ならず、気違ひになりて死狂ひするまでなり。刀を打折れば手にて仕合ひ、手を打落さるれば肩節にてほぐり倒し、肩切離さるれば口にて首の十や十五は喰い切り申すべく候」
ヅダの背面にあるスラスターの口を握り潰しながら、あたしは彼が告げようとした一文を口にする。
『それは……』
すると接触通信でモニターに映るのは、唖然とした表情を浮かべたヅダのパイロットだ。
「まさか、ジオンに葉隠を知っている人がいるなんて思わなかったよ」
そんな彼にあたしはニッと笑みを浮かべる。
ちなみに今言った文は『武士道は死に狂いである。正気では大きな事は成し遂げられない。狂人のように死に狂いする覚悟が必要である。刀が打ち折れれば素手で仕合い、手を斬り落とされれば肩を使って相手を叩きのめし、肩を斬り離されれば口を使って首の十や十五は食い千切れ』という意味だ。
要するに武士たるもの、戦場においては己が死ぬまで戦う事を諦めるなという事である。
この考えって、生身ならともかくMS戦だと割と使えるのではないかと思っていたけど、まさか同じ信条で戦争に出ている人いるとは思わなんだ。
なんて益もない事を考えながらも、あたしはヅダの頭を掴むと彼の母艦へと進路をとる。
「とりあえず、そっちのパイロット返すよ。攻撃して来たら、この人を盾にするから妙な事はしないでね」
コッチが断りを入れれば、こちらを捉えようとしていたムサイの砲門は途中で動きを止めた。
つーか、本気で沈める気だったらこんなノロノロと近づかないっての。
『本当に少佐を助けるつもりなのか?』
あたしの忠告に艦の責任者らしきお兄さんが通信モニターへ現れる。
こっちの艦長も結構若いな。
「艦のオペレーターさん、このパイロットの恋人なんでしょ?『ウォルフ、死なないで。生きて帰ってきて』って頭の中に響いてうるさいったらないもん。こんなの聞かされたら寝覚め悪くて落とすなんてできないよ」
そう言うと、あたしはムサイが開いたハッチへヅダの残骸を押し出す。
『俺に……生き恥を晒せというのか?』
その時にまだ生きている接触回線で、パイロットがこう言ってきた。
だからあたしは肩をすくめてこう返すことにした。
「命を捨てて戦いたいなら別の戦場でやってよ。あなただって、あたしみたいな子供の手を自分の血で汚したくないでしょ」
『ぐっ……』
「それに
『身を…捨ててこそ……?』
「身を捨てる覚悟を決めることによって、初めて活路が開けるって意味。恋人がいるんだから、死に花を咲かせるよりも捨て身でも生きる道を選んだら?」
そう言い残すと、あたしは相手の返答を聞く事無くムサイから離れる。
というか、他の艦がコッチを狙ってるからね。
「とりあえず牽制射撃しておいた方がいいかな」
そう呟きながらあたしは勘に任せてトリガーを引く。
腰のマウントから取り出したビームライフルが銃口を閃かせると、次の瞬間には赤い戦艦の横にあるムサイ級のブリッジが爆炎を上げて吹っ飛んでいく。
それを見た護衛のリックドム達が慌てたように動き出すけど、追って来られると面倒なので彼等も撃ち抜いておく。
感覚はFPSで狙撃銃を使って相手を射抜くような感じ。
全天周囲モニターが狙いを付けた敵をズームしてくれるので結構やりやすい。
そうして護衛のドムを2機落としたところで、あたしは潮時だと判断した。
アンちゃんの真似で射程ギリギリから狙ってみたんだけど、思ったよりも当たるもんだ。
さて、ある程度は敵の艦隊にもダメージを与えた事だし、反撃が来る前にトンズラしよっと!
◆
場面は再び亡命艦隊とコンスコン攻撃隊との戦場にスポットライトが当たる。
「ぐぅっ!? 被害は!?」
リックドム隊の攻撃が苛烈となる中、亡命艦隊旗艦であるペガサスのブリッジに渋さと鋭さを併せ持つ声が木霊する。
「第一格納庫入り口に被弾! ハッチが半壊しカタパルトも使用不能との事です!!」
「ダメージコントロール、急げ! 補給予定のMSには第一格納庫使用不能と通達も忘れるな!」
「敵MS、さらに接近!」
「エレーナ・セロ中尉の隊に迎撃させろ! 各砲座、弾幕は密に! MS隊が戦いやすいよう、援護射撃のタイミングを誤るなよ!!」
上がってくる報告に即応して、素早く指示を出す声が飛ぶ。
しかし亡命艦隊としての初の実戦で強敵に当たった為にブリッジの空気は重苦しく、クルーの表情からも緊張と恐怖が拭えなくなっている。
「皆、落ち着け! 怯える必要はない!!」
その様子を見た鍛え上げられた屈強な身体を黒いジオン軍服に包んだ男、ペガサスの艦長であるドク・ダームは声を張り上げる。
「え……?」
「亡命艦隊としてルナツーを出れば、初めての実戦で相手は歴戦の勇将コンスコン。さらには襲ってくるのはベテランばかりのリックドムが20機以上と来ている。こんな状況ではブルっちまう気持ちも分かる!」
その声に自分の方を向いたブリッジのクルーに、ドク艦長は淡々と言葉を掛ける。
現状は自分達にとって確かに不利。
もし、この戦いにオッズが掛けられているなら、自分達が勝つ確率はきっと大穴中の大穴だろう。
しかし、そんな状況でドク艦長はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「だがな。今一度、私の声をしっかりと聴いてみるがいい。こんなに渋くて威厳のある声の持ち主が、場末の下らん戦いで退場する訳が無いだろう!!」
そして自信たっぷりで自分は死なないと断言してみせたのだ。
そのあまりにも無茶苦茶な理屈に、虚を突かれたブリッジの面々は唖然とした表情になる。
そうして少しの間を空くと、副官を務めているジオンでは少佐階級にいた中年の強面男性が笑い声をあげた。
「たしかにそうだ! 物語なら艦長みたいな声の人間はラスボスか、それを裏で操るフィクサーでしょうからな!」
士気高揚のために副長が半ば強引に肯定すれば、それに釣られて索敵レーダーの前に座る女性士官や操舵担当の青年士官も笑いを含んだ声を上げる。
「少なくともサイド3での決戦までは死にそうにないですね!」
「いやいや。この声ならサイド3を制圧した後、公王の玉座に座ってワイングラスを転がしてるって!」
それを皮切りに口々に艦長であるドクの黒幕ムーヴを話し出すペガサスクルー達。
もはやブリッジに漂っていた悲壮感や緊張は完全に拭い去られていた。
「そういう事だ! 私はこの声帯に恥じぬ生き方をすると決めているのでな、こんな地味な場所で死ぬつもりは無い! そして諸君らも死なせん!! 平和の味とやらを存分に堪能させてやるから、覚悟するがいい!!」
言葉と共に官帽を取ったドク艦長は奥から現れた豊かな金髪をオールバックに撫で上げると、目元を覆うレイバンを不敵に光らせるのだった。
このように戦端が開かれてから防戦を強いられていた亡命艦隊だが、彼等も何時までも大人しくしているわけではない。
「ラル大尉! 例の準備が整ったそうです!」
「よし! ケン隊長や亡命艦隊のMS達に通達! 奴等をキルゾーンへ誘い込むぞ!」
クランプの報告を受けたラルはビームナギナタで襲いかかってきたリックドムの胴を両断すると、その爆発に背を向けてゲルググを加速させる。
「青い巨星が背を向けたぞ!」
「こちらの圧力に耐えられなくなったか! 防衛網に大穴が開いた! 奴等の母艦を仕留めるぞ!!」
「ラル大尉達、おっぱじめたみたいですね」
「ああ。こっちも行くぞ、ジェイク、ガースキー!」
「了解! 怪しまれないように上手く餌を撒かないとなっ!!」
艦隊の上部で第一防衛網を敷いていたラル隊が亡命政府の艦へ撤退するのをモニターで見たケン。
その指示に、下方から迫る3機のリックドムの編隊へマシンガンの牽制射撃を織り交ぜながらジェイク・ガンスとガースキー・ジノビエフも自分達の持ち場を離れて艦へと後退する。
「敵MS、後退していきます!」
「これを機に一気に母艦を叩くぞ! 第4小隊、俺に続け!!」
艦隊下方で防衛の要を受け負っていたジオン外人部隊。
彼等の後退を目の当たりにして、ベテランのジオン兵は艦隊へ食らいつくべくスラスターを吹かす。
サイド7で人類初のMS同士の戦闘が起こってから約3カ月、連邦・ジオンに限らずMS同士における戦略は未だ手探りの状態だ。
その一方で彼等にはブリティッシュ作戦からルウム戦役という、敵母艦を叩くことで勝利を得てきた成功体験がある。
だからこそリックドムのパイロット達が、敵艦を叩くという旧時代からのセオリーを選ぶのは当然と言えた。
「よーし! 戦艦の腹が見えた!!」
「奴等の装甲を破るにはある程度距離を詰めなきゃならん! 撃つタイミングを誤るなよ!!」
「こっちはルウムから何度も沈めてるんです! 目を瞑っていたってやれますよ!」
慣れない対MS戦から解放された事で勢いづくリックドムのパイロット達。
「これ以上、船に近づけさせて堪るか!!」
ジオン外人部隊に混じって、亡命艦隊のジムも100mmマシンガンで迫りくるリックドムの編隊へ弾丸をばら撒く。
「へへっ! そんな豆鉄砲に当たるかよ!!」
しかし狙いもロクに定まっていない牽制射撃と見抜いた黒い重MS達は勢いを弱める事無く突撃を続ける。
鬱陶しいMS達が後ろに下がった事で、ジオンのベテランたちは心のどこかで自分達の勝利を確信していた。
だからこそ、彼等は気付けない。
「な…なんだ! ワイヤー?」
自分達が戦っている宙域に漂うデブリが通常より多かったという事実に。
「ごわっ!?」
次の瞬間、リックドムの五体を噛み砕いたのは左右から吐き出された無数のルナチタニウム製ベアリング弾だった。
「な…なんだこれ──ヴぁぁっ!?」
その悪辣な罠は頭上と艦底という戦艦にとっての死角を突こうとしたリックドム達を、次々と餌食にしていく。
「くそっ!? 罠だ! お前等……ぎゃああっ!?」
鼻息荒く突っ込んできたジオンのベテランを食い荒らす悪魔、それは戦争初期に連邦軍がザクへ対策する為に生み出した兵器の一つ、対MS用クレイモア地雷だった。
亡命政府の艦隊は、それをワイヤーで繋いだうえに相手を挟み込むような形でデブリに設置し、艦の周辺に張り巡らせるように仕掛けていたのだ。
艦隊の上下で6つの火球が生み出された事で、突撃を掛けようとしていたリックドム達は足を止める。
クレイモア地雷の起爆スイッチになるワイヤー、それは宇宙に溶け込むよう黒く塗られている為に機体のカメラでは確かめる事が出来ない。
「おい、どうするんだ!?」
「どこに罠が仕掛けられているか分からん! いったん下がって……ごぁっ!?」
「ジョージっ!?」
しかし罠に嵌ったリックドム隊に撤退は許されない。
「どこへ行こうというのかね?」
「せっかく歓迎の準備をしたんだ。もっと楽しんでいってくれや!!」
何故なら防衛線を放棄して撤退したと思っていた亡命艦隊のMS達が退路を塞ぐ形で待ち構えていたからだ。
彼等が放つ集中砲火を前に、ある者は罠を警戒するあまりに十分な回避行動がとれずに爆散。
またある者は反射的に後ろへ逃げようとした為に、クレイモアの散弾によって機体ごと粉砕された。
そうして一機、また一機と数を減らしていくリックドム隊。
彼等にとって、この場はまさしく死地であった。
一方、そんな部隊の損失を次々と受ける事になったのはコンスコン少将が乗るチベのブリッジだった。
「バートン機、シグナルロスト! オフェンス側のリックドム隊、あと10機です!!」
「ガトー大尉達は!?」
「ギリアム機、ウォルフガング機ともに撃墜を確認! ガトー大尉はシャア・アズナブルを相手に危険な状態です! カリウス中尉も相手側のリックドムに動きを封じられて援護が行なえません! そしてケリィ大尉のヴァルヴァロは敵陣の中で擱座している模様!!」
途絶える事無く次々と上がってくる凶報にコンスコンは思わず歯噛みする。
ドム30機に白狼亡き後にソロモンを支えると言われたエース、そして艦も自身が乗るチベをはじめとして7隻も与えられた。
これだけの戦力を以てしても、亡命艦隊には大きな打撃を与えられないのだ。
(このままでは国中の笑い物だ! だが……!)
「総員に退却命令を出せ! 我が艦隊はこの宙域から撤退する!!」
胸からせり上がってくる屈辱を噛み殺すと、ブリッジ中に響く声で指示を出した。
「て…撤退ですか!?」
「そうだ! これ以上の戦力を失えば、ソロモン防衛に支障が出る! 各艦は前面に出ている赤い彗星に砲火を集中させよ! ガトー大尉から引き離すのだ!!」
「は…はい!」
コンスコンが自軍の傷を最小限にすべく動き出す中、戦闘宙域から少し離れた場所を漂う残骸の一つ。
その中で息を吹き返した男がいた。
「ヴぁっ!? ヴァルヴァロだと!?」
「なんだと! うわっ!?」
それは半壊して宇宙を漂っていたヴァルヴァロ、それを操るケリィ・レズナーだった。
「ぐっ!? うおおおおおおおっ!!」
少し前まで意識を失っていた彼は、ノイズ交じりに通信機が吐き出したコンスコンの撤退命令。
そして友であるガトーの窮状に生死の境から戻ってきたのだ。
しかし彼の機体は武装の殆どを失い、堅牢である筈の装甲も半壊状態。
さらにはジェネレーターもパワーダウンしている。
しかしケリィは推進剤の全てをつぎ込む勢いでスラスターを吹かせると、満身創痍のヴァルヴァロを密集陣形を取る亡命政府艦隊へ突っ込ませる。
「ヴァルヴァロよ! 一発でいい! 奴等の罠を打ち破れ!!」
血反吐と共に吐き出された叫びと共に、ヴァルヴァロはハッチが半分吹っ飛んだメガ粒子砲を放つ。
本来の1割程度の出力まで落ちたビーム、それは亡命艦隊のいずれにも命中する事は無かった。
しかしメガ粒子が放つ高熱は、亡命艦隊が敷いたワイヤーの多くを溶かすことに成功したのだ。
『コンスコン艦隊はこの宙域より撤退する! MS各機は戦闘を中断し、後退せよ!!』
同時に壊れかけの通信機が吐き出したのは、艦隊司令コンスコンからの撤退命令だった。
「聞こえたな、リックドムども! 撤退するぞ! 俺の後につづけぇ!!」
止まらない流血とGが掛かる度に全身を苛む激痛。
それに負ける事無く、ケリィはヴァルヴァロを操縦し続ける。
そしてMAというのはただ飛んでいるだけでもMSや艦艇の脅威となるモノだ。
「クソッ! 止めろ! 奴等を逃がすな!!」
「無理っすよ!!」
必殺の罠を食い破られた事もあり、士気が下がった亡命艦隊のMSには止める事が出来ない。
ケリィ達を先頭にしたリックドム達は追いすがろうとする亡命艦隊のMSへ向けて牽制射撃を放つと、自軍の母艦に向けて加速していく。
そうして母艦へ向けて宙を駆けていたケリィは、ノイズが奔るモニターのむこうに見たモノに目を見開いた。
「ガトー!」
そこにあったのは両腕と頭、そして左足を失ったゲルググが深紅のガンダムと対峙している光景だった。
「よく頑張ったがここまでだな」
「……無念ッ!」
もはや戦う術を失ったゲルググに向けてビームサーベルを振り上げる赤いガンダム。
「ガトォォォォッ!!」
そうはさせじとケリィはヴァルヴァロを強引に方向転換させ、残った一門のビームガンを乱射しながら突撃する。
「チッ!」
横殴りのビームの雨と高速で突撃してくる大質量に止めを諦めて背後へ跳ぶシャア。
「ガトー!」
「ケリィか、すまん!」
その隙を突いてケリィは先を失ったシザーズを展開し、その腕にガトーのゲルググを引っ掻けると一目散に母艦へ逃走する。
「少佐、どうしますか?」
「ここで奴等を追えば死に物狂いで反撃してくるだろう。今回は遭遇戦だ、そこまでする必要はない。──帰還するぞ」
後続のリックドム部隊にカリウスを掻っ攫われたアンディとリカルドにそう答えると、シャアはガンダムをファルメルへと向けた。
こうしてコンスコンとホワイトベース・亡命艦隊の戦闘は終わった。
この戦いによって亡命艦隊は艦艇へのダメージと8機のジムを失ったモノの、コアブロックシステムによって人員の損失はなかった。
一方、コンスコン艦隊は30機はいた虎の子のリックドム隊を18機、ムサイ級戦艦を二隻失う大損害を被った。
なにより痛かったのはロバート・ギリアムの戦死、そして左腕と右足を失った事でケリィ・レズナー大尉が戦線離脱を余儀なくされたことだろう。
この一戦は亡命艦隊の精強さ、そして不沈艦と言われ続けたホワイトベースの戦力の大きさを連邦・ジオン双方に示す事となった。
それが後にどのような影響を及ぼすのか、それはまだ分からない。
第40話NG
ギレン「……グレミーだが、あの子の事を誰も掴んでいないと考えるのは見通しが甘いか」
セシリア「では、どうされますか?」
ギレン「偽名を名乗らせよう。我々が付けた名を捨てさせるのは心苦しいが、お前とあの子の安全には代えられん」
セシリア「そうですわね。どのような名にしましょうか?」
ギレン「…………キリコ。キリコ・キュービィ」
◆
【9年後】
ジオン公国と地球連邦。
この二つの国は利益や怨恨など、様々な理由から10年近くも戦争を続けている……。
一年戦争での敗北によってジオン公国残党は地球圏の外にあるアクシズに追いやられていたが、俺が15になるまで内紛や連邦の残党狩りなど少なくない戦乱が巻き起こった。
俺は戦った……始めは故郷であるアクシズを護る為と信じて戦った。
だが、戦乱は次から次に生まれ続け、終わりが無かった。
俺は疲れた・・・誰も彼もが疲れていた。
〈次回予告 ナレーション・パパ〉
ハマーンの手を逃れたキリコを待っていたのは、また地獄だった。
食う者と食われる者、そのおこぼれを狙う者。
牙を持たぬ者は生きてゆかれぬ、一年戦争が生み出したソドムの街。
明日への糧を得んとする子供ですら、軍人からMSを奪う餓鬼と化す。
あらゆる悪徳が武装する、ここはスペースコロニーのゴモラ。
次回「シャングリラ」
キリコが飲むシャングリラの水は苦い。