大規模戦闘に七転八倒している作者です。
やべえ! ソロモン攻略戦が全然進まねえ!!
キングクリムゾンして吹っ飛ばすしかねえか!?
一年戦争ってムズイなぁ……
ソロモン攻略のゴングが鳴ると同時に、鬨の声と言わんばかりに行われた要塞と連邦艦隊との砲撃戦。
それは連邦が事前に敷いていたビーム攪乱幕によって、互いに有効打も無いままに終わりを迎えた。
互いが持つ最大火力のぶつけ合いが終われば、次幕はMSを前に出しての合戦である。
「連邦共め、MSの使い方を教えてやる!」
「ああ! 数だけが多い烏合の衆なんぞに後れは取らねえぜ!!」
MSという兵器を生み出した側であり取り扱いには一日の長があるジオン軍は、数で負けても兵の質では自分達に分があると信じていた。
しかし、その考えはあっけなく覆される事になる。
「オラッ! 眼潰し!!」
「うわぁっ!?」
「スモーク!? いやそれだけじゃねえ! 煙の中にセンサーを狂わせるチャフが入ってやがる!!」
「な…何も見えねえ!? モニターがまっくらだ!」
意気揚々と突撃してきたジオン兵に連邦のジムが叩きつけたのは、なんとセンサーを殺す機能が付与された煙幕だった。
ミノフスキー粒子によってレーダーが使えなくなった宇宙世紀の戦場は、有視界戦闘が主流となる古い時代の戦い方へと逆行した。
それ故に眼潰しという手段の効果は絶大だ。
「ジオンの奴等、まるで素人だぜ! 目を潰された途端に足並みが乱れやがった!!」
「まさか初手スモークのセオリーすら知らんとはな」
「へへっ! ぶっ殺せぇ!!」
視界を奪われて右往左往するジオンのMS達へ容赦なく襲いかかるジム部隊。
彼等の機体にはチャフ対策や煙幕越しに相手の行動を把握できる熱感知機能が付いているのだから、ジオン側にとっては堪らない。
「死ねやぁぁぁぁっ! ジオンの一つ目小僧!!」
「う…うわぁぁぁぁっ!?」
スモークの範囲外から放たれたビームスプレーガンの光弾を胴へ受けた高機動ザクが爆砕するのが殺戮開始の合図だった。
「怯えてやがるぜ、コイツ等はよぉ!!」
ロケットモーター付きの大型バックパックを背負ったB型装備のジムは、その大推力でスモークの外周をなぞるように飛びながら背面に備わったミサイルポッドから対MS弾頭をばら撒く。
「ロックオン!? ど…どこから……ごあっ!?」
「くそぉ! くそぉぉぉぉっ!?」
「卑怯者め! 正々堂どぉぉぉぉっ!?」
ミノフスキー粒子の影響で精密な爆撃は不可能だが、煙幕の中へ飛び込んだ多数のマイクロミサイルは数に物を言わせて次々と敵を屠っていく。
そんな中でも異質だったのは、煙幕の中へと突撃していく一団だった。
「行っど、わい等! 今こそ郷土ん仇を討つ時ぞ!!」
「「「応!!」」」
彼等の装備はなんと一本の刀剣のみ。
全身を重装甲に鎧い、宙間戦闘用にカスタマイズされたジムストライカー達は、それを示現流独特の型である蜻蛉に構えて煙幕の中へと飛び込んでいく。
「チェストォォォォッ!!」
「ぎゃああああああっ!?」
裂帛の気合と共に振り下ろされる刃は雷霆の如し。
煙に巻かれて混乱していたザクにそれを躱す事はできず、ロクな抵抗もないままに頭から真っ二つにされる。
「ジオンの外道ば皆殺しじゃ!!」
ジム達が熱源探知画面へ切り替わったモニターを頼りに、目に付く敵を片っ端から斬り捨てていく。
そうして煙幕の中を狩り終えれば、彼等が次に目を付けたのは煙幕の向こうで戸惑っている後続の敵部隊だ。
「敵ん中にゲルググがおっ! ビームに注意せじゃ!!」
「分かっちょい! そらっ!!」
仲間の注意にジムストライカーの一機は脹脛の側面に付けられた小型ミサイルポッドを放つ。
敵部隊へ飛んだそれがまき散らしたのは、爆炎ではなく薄い蛍光色をもった極小の粒子だ。
「び…ビームがッ!?」
「奴等、ビーム攪乱幕を張りやがった!!」
これに焦ったのは最新鋭機であるゲルググを与えられたベテランパイロット達だ。
ガンダムを始め、連邦製MSの装甲の強固さはジオンでも知られていた。
ザクマシンガンはおろか、バズーカの直撃でも致命傷を与えられないモノがあると。
故にどんな装甲でも融解し撃ち抜くビームライフルとナギナタを装備したゲルググは、対連邦の切り札の一つとして期待されていたのだ。
しかしその牙は相手へ突き立つ前にヘシ折られてしまった。
そして極東の島国が産んだ戦狂い達が彼等へ食らいつく。
「首じゃぁぁぁぁっ!! オマエ隊長機だろ! 首置いてけェェェェ!!」
「ぎゃああああああっ!?」
真っ先に頭から両断されたのは、ビームを封じられて狼狽えていたゲルググだった。
「チェスト! コロニー落としぃぃっ!!」
「おぐぁぁぁぁぁぁっ!?」
続くストライカーの斬撃は、咄嗟にバズーカを掲げたリックドムを防御ごと容赦なく袈裟斬りに斬って捨てる。
「ワシ等ん故郷ば海に沈めた奴は根切ぞっ!!」
「か…かあさぁぁぁぁん!?」
三機目が目を付けた高機動型ザクはヒートホークで迎撃を試みた。
しかし太刀と撃ち合った斧は一瞬の間も保つことなく両断され、彼は愛機ごと真っ二つに叩き割られてしまう。
「宇宙んバケモンが、日ノ本を支配すっなど百年早か!!」
「コイツ等狂ってやが……ぐわぁぁぁぁっ!!」
続く四機目も抵抗する暇を与える事無く、相手を斬殺してのけた。
金属の塊であるMSを容易く両断する剛の剣。
これも一日千本という狂気じみたノルマで教育型コンピュータに叩き込まれた示現流の型と、ガンキャノン用のフィールドモーターを移植した腕部が生み出す剛力の為せる業だ。
「よぉし、これで三つじゃ!」
さらに彼等は自分が斬り殺した敵の首を刎ねると、それを戦利品として腰部のアタッチメントにぶら下げる始末である。
その姿はまさに蛮族であった。
「う…うわぁ……」
「チェスト・コロニー落としって、アイツ等『薩摩隼人保存会』の奴等かよ」
「狂気のブレオン万歳集団……」
「いや、ブレオンじゃねーぞ。たまに『チェスト・種子島!!』って言いながら全身にガトリング砲ぶら下げて弾幕張る奴いるし」
「チェスト種子島ぁァァァッ!!」
「あ、いた」
見物を決め込んでいるジム達の視線の向こう、そこには両肩と両腕、そして左右の腰に脹脛に備えた大小様々なガトリング砲から弾幕を吐き出すガンキャノンの姿があった。
もちろん、ジオンに対して猛威を振るっていたのは頭がおかしい薩摩兵子だけではない。
「この野郎ぉぉォォォッ!!」
最前線のとある場所では、処刑場と化した煙幕から逃れたリックドムがジムへヒートサーベルで斬りかかろうとする。
「おいおいおい! フェイント一つも無しで斬りかかるとか死んだわ、お前!!」
しかし起死回生の袈裟斬りは力が乗り切る前にシールドバッシュで剣を持つ腕を跳ね上げられてしまい、リックドムは相手が返す刀で閃めかせたビームサーベルに胴を両断されてしまう。
「なんだなんだ、コイツ等は? トーシローばっかりかよ!」
後方で狙撃用ビームライフルを構えているジムスナイパーは、初手の猛攻から生き延びる事が出来た幸運なジオン兵達を煙幕から這い出たところで次々と撃ち殺していく。
「対MS戦は眼潰し、不意打ち、多対一でボコる。これ、戦火の絆だと常識なんですけど」
他の場所では接近戦を挑んできた高機動ザクへ間合いに入る前に投げたシールドを叩きつけ、怯んだところでコックピットを撃ち抜くジムの姿がある。
「というか、チャカ構えてから撃つまで間が開き過ぎだろ」
「構える前に手動である程度照準合わせるのは基礎だよ、基礎!!」
などと講釈を垂れる二機のジムは、手にした拳銃式ビームガンでバズーカを構えようとしたリックドムをハチの巣にする。
「俺達に何を教えてくれるって? 下手糞共が!!」
そう、ソロモンを攻める連邦兵達は明らかにベテランのジオン軍パイロット達より腕が上だった。
これはジオン側にとっては大きな誤算だった
「クッ! まさか連邦の奴があそこまでMSを使えるとは……! 総員、迂闊に突撃するな! 距離を取って要塞の支援砲撃と共に遠距離から攻撃するんだ!!」
数で劣っていてもパイロットの質なら勝っている、その認識が誤りと判断したジオンのMS小隊を率いる大尉はすぐさま命令を変更する。
「この腐れ連邦がッ!!」
「ロータスの仇だ! 死ねぇ!!」
それを受けて第一波の全滅に戸惑いを見せていたザクやリックドム達は、我先にとバズーカを肩に担いで要塞からのミサイルと共に砲撃を放つ。
「ぐわはぁっ!?」
「くそぉ!? 被弾! 被弾!!」
ソロモン要塞やその護衛艦隊からの援護射撃も相まって、ジオン側が構築した弾幕は相当なモノだ。
着任したての新兵、シミュレーター内で下位やランク外に位置している未熟な者は、敵の弾によって機体を損傷や撃破されてしまう。
「下手糞が、なにしてやがる!?」
「性能が上がった後期型ジムに乗ってるってのに、なんてザマだ!」
僚機や部下を失ったベテラン勢は、襲い来る弾幕を掻い潜りながら舌打ちを漏らす。
「ヘタレ共が、完全にビビっちまってるじゃねえか」
「とはいえ、この弾の雨を掻い潜るのは骨だぜ」
一端距離を取り、密度がバラけたところで襲い来るミサイルや砲弾を躱す連邦のジム達。
今のところベテランに被弾はないが、例の秘密兵器を思えば足止めをされ続けるのは具合が悪い、
各員がどうしたものかと考える中、ある士官が声を上げた。
「薩摩の、この格好で敵陣へ切り込むは女々か?」
そう問いかけるのはシミュレーター内では『鎌倉武士研究会』というグループを作っていた日本人パイロットだ。
「やめてぇぇぇぇぇっ!? 私に何をする気よぉぉ!!」
そして彼の機体の前面には、手足とバックパックを潰されて頭と胴体だけになったザクがけん引用ワイヤーでくくり付けられている。
接触回線だろう、件のジムからの通信を通して女の悲鳴が聞こえる事からザクのパイロットは生きているのだろう。
「名案にごつ」
それを見た『薩摩隼人保存会』のリーダーは、男臭い顔にニヤリと笑みを張りつける。
一方、砲撃主体へ切り替えたジオン側の小隊長は、事によって連邦軍の足が止まったのを見て内心でホッと息をつく。
連邦軍のMS達は腕の高さも然ることながら、その戦い方があまりにも野蛮で相手の殺意が透けて見える程だ。
あれでは人員不足から導入された早期育成制度で前線に送られてきたヒヨッコ達など、怯えてマトモに戦えるわけがない。
司令部からは消極的と取られるかもしれないが、こちらの被害を抑える為には遠距離攻撃に徹するべきだ。
「きゃあああああああああっ!?」
しかし彼の判断を嘲笑うかのように、通信機が吐き出したのは甲高い少女の悲鳴だった。
「な…何事……はぁっ!?」
それを受けて異変を察知した小隊長だが、敵軍へ向けたメインモニターが映る光景に文字通り目玉をひん剥いてしまった。
「どうした腐れ宇宙人共が! 撃ってみろ! 味方ごとワシを撃ち殺す覚悟があるなら撃ってみろォォォ!!」
何故ならそこにあったのは、ダルマにされた友軍機を自分の胴体に括りつけて突っ込んでくる連邦のMSの姿だったからだ。
しかもこの蛮行に出ている者は奴一機ではなかった。
「これが日本の名物『肉鎧戦法』って奴か!」
「こいつはいいぜ! 砲撃がピタッと止まりやがった!」
「後ろの奴等もジオンのクソ共を盾にしちまえ!! くたばってなけりゃあ、死にかけだろうと構わねえ!!」
「よし! 全員肉鎧は付けたな! 行くぞぉ!!」
先頭のジムを倣って他の連邦兵達も、自分達が壊滅させた敵の第一波で生き残ったジオン兵を己の機体に縛り付けて突撃を開始する。
「う…あぁ……」
「だ…だずげでぇ」
「うてぇ…うってくれぇ……」
テンション高く突撃する連邦軍とは裏腹に、通信機越しに深手を負っているのだろう友軍の息も絶え絶えな声を聞かされたジオン軍は堪らない。
「ど…どうするんだよ、隊長!?」
「う…うぅ……」
「何とか言ってくれよ!」
如何に軍人とはいえ己の攻撃が仲間の命を奪うという現実を前にしては、その引き金は途端に重さを増す。
部下はこれが初の実戦である者が多いのだから猶更だ。
小隊長は先ほどまでの的確さは何処へやら、喉に何かが詰まったように言葉が出なくなる。
彼等が見せた心の弱さ、それは致命的な隙となって彼等に牙を剥いた。
「オープンセサミぃ!!」
「ぐわぁっ!?」
先陣を切ってジオンのMS達が構築する横列陣形へ飛び込んだジムが、手にしたビームスピアでバズーカを構えたまま案山子になったリックドムの腹を掻っ捌く。
「仲間可愛さに撃てねえとはなぁ、コロニーを堕としたジオンが人の心とか笑わせんな!!」
「ぎゃああああああっ!?」
「た…隊長ぉぉぉぉっ!?」
続いてやくざ映画のように至近距離でビームサーベルを肚に突き立てられたのは、小隊長が駆るゲルググだった。
灼熱の刃はコックピットハッチを直撃しており、隊長はもはや塵も残っていないだろう。
「俺達は下品なお前等と違って紳士的なんだ。だから非戦闘民は襲わねえ。だが、戦場に出た奴は容赦なくブチ殺すぜェ!!」
「おががががっ!?」
そこからは最早蹂躙でしかなかった。
ある者は括りつけている敵MSの残骸を、モノアイにフックを突き刺している事を良い事にモーニングスターの如くワイヤーで振り回し、勢いのままジオン兵に叩きつけた上で諸共に射殺。
またある者は生存本能から引き金を引いたザクのバズーカの砲弾に向けて肉鎧を投擲、哀れな犠牲者が爆散する炎を目くらましに間合いを詰めてコックピットをヒートナイフで一突きにした。
そんな風に連邦軍の兵士達は、あまりの蛮行に戦慄している敵を次々に食い荒らしていく。
そして、この光景を見てドン引きしていたのはジオン側だけではなかった。
「な…なんという野蛮な真似を……」
「あれは大丈夫なのか? 南極条約に違反したりしないだろうな?」
「奴等は何を考えているんだ。あれではまるで蛮族ではないか!」
MS隊に続いて進軍していた母艦の責任者や提督達も、味方がやらかすブッ飛んだ非道行為に冷や汗を垂らしていた。
「貴様等、なんと破廉恥な真似を! 連邦軍人としての誇りはないのか!?」
そんな中、マゼランの一隻を任されていたワッケイン大佐は味方の蛮行に耐えきれなくなり、艦長席から立ち上がりながら前線のMS部隊へ叱責を飛ばす。
「誉れはルウムで死にました!!」
そんなワッケインへ帰ってきた言葉がコレである。
「敵に負けて、民も護れない軍隊の誇りなんてクソほどの価値もあるものか!!」
「だから俺達は人の心を捨ててでも徹底的にジオンを叩くんだ! もう二度とコロニー落としなんてされない為になぁ!!」
彼等の狂気とも取れる熱意に気圧されたワッケインは、反論など出来ずに力なく自分の席に座り込む。
この大戦では人類の約半数が命を落としている。
その中に身内が含まれていない人間の方が稀なのだ。
レビルたちに賛同こそしなかったが、連邦軍の士官達の多くはジオンに対して耐え難い憎悪を抱いていない訳がない。
そんな彼等の憎悪が戦中戦後にジオンの民衆へ向かない為には、殺し殺されの戦場で少しでも発散させるしかない。
でなければ、自分達が勝利した後に連邦の醜聞がどれだけ生み出されるか……。
「軍人が誇りを持って戦えんとは、本当に寒い時代だ」
◆
サイド4宙域が血みどろの修羅場と化していた頃、数多くのデブリが舞うサイド1宙域でも激戦の幕が切って落とされようとしていた。
「見つけたぞ、ティアンム!」
愛艦であるチベの提督席でニヤリと笑みを浮かべるのは、ドズルからの特命を受けたコンスコン少将だ。
ブリッジに設置された大型モニターの先、そこには宇宙空間を利用して十字に展開途中の大量の鏡とその前で敵を警戒している連邦軍の艦隊が映っている。
「しかしコンスコン提督。連邦軍は鏡を配置しているようですが、アレはいったい何なのでしょう?」
「鏡だと? 宇宙空間で鏡……ッ!? そうか、そういう事か!」
艦長の報告を聞いたコンスコンの顔に焦りが奔る。
「艦長、全戦力にスクランブル発進の指示を出せ! あの鏡を少しでも多く破壊するのだ!!」
「ど…どういう事でしょう?」
「連邦の新兵器は太陽光を利用するものだ! モニターに映る巨大な鏡は恐らく多数の小型ミラーパネルの集合体! 奴等はそれをもって巨大な凹面鏡を作り、太陽エネルギーを集中してソロモンへ照射する気なのだ!!」
コンスコンは短い間に連邦の隠し玉であるソーラ・システムの全貌を予測してみせた。
彼の言う通りソーラ・システムは太陽光を集めて巨大な熱量を発生させる加熱器、すなわち原始的な太陽炉を超巨大にした代物だ。
原始的とはいえその威力はとてつもなく、適切な制御がされた場合は岩をも溶かす高熱が目標の広範囲に襲いかかることになる。
「あれが放たれればソロモンと防衛艦隊は多大な損害を受ける事になる! 絶対に撃たせてはならん!!」
「了解しました! ブリッジから機動部隊へ告ぐ! 全機スクランブル! 全機スクランブル!! 眼前の連邦艦隊を抜け、その背後にあるミラーを破壊せよ!!」
『ミラーこそが連邦の秘密兵器そのものである! ミラーの全滅を最優先とせよ!!』
「連邦の新兵器か。相手にとって不足はないぜ」
チベの格納庫ではブリッジからの通信を耳にして、一人の男が不敵に笑う。
彼が視線を向けた先、そこには黄色を基調にした鬼か化け物を思わせる顔に先端が鎌になった前足が付いた異形の機動兵器の姿があった。
「やってやろうぜ、ザクレロ! そしてお前が失敗作じゃないって事を証明してやるんだ!!」
そうエールを送ると男、デミトリー曹長は愛機へ乗り込んでカタパルトから飛び立つMSに続いて母艦を後にする。
一方、ソロモンへ痛打を与えるべくソーラ・システムを展開していたティアンムも敵の接近に気が付いていた。
「ジオン艦隊、MSを展開しました! 敵機動兵器の中にはデータの無い大型機も含まれています!!」
「旗艦はチベでこの部隊の動きのキレ、敵はコンスコンか!」
オペレーターの報告にティアンムは内心で臍を噛む。
慎重に慎重を重ねたソーラ・システム、それが見つかったのはチェンバロ作戦が破綻しかねない程の誤算だ。
しかも相手は名将コンスコン、ソーラシステムを無傷で守り抜くのは至難の技だろう。
「展開しているMS隊を迎撃に当たらせろ! 敵をソーラ・システムに近づけさせるな!」
「了解!」
「やれやれ、ようやく仕事か。このままソロモンが焼け落ちるのを見学して終わりかと思ったぜ」
コックピットの中で不敵に笑うのは、高機動型ジム・ドミナンスを駆るブラン・ブルターク大尉だ。
そして舌なめずりをすると、レバーとフットペダルを操作してメインスラスターに火を入れる。
「MS隊、社会見学は終わりだ! ジオンのクソ共に展示物はおさわり禁止だって事を教えてやれ!!」
「「「「了解!!」」」」
部下達へ檄を飛ばすと同時に加速するジム・ドミナンス。
もちろん部隊の先頭を飛ぶブランの機体は、シミュレーター内で轟かせた『スピード・スター』の異名に恥じないようフルスロットルだ。
「隊長! 敵MS隊、来ます!」
「よし! 打ち合わせ通り、奴等は我々第一部隊が相手をするぞ! 第二部隊はそのままミラー撃破へ向かえ!!」
近づいてくるスラスターの光芒と隊長機であるゲルググの指示で、後続のリックドムやザクたちが一斉に手持ちの火器を構える。
しかし、その動きはブランの操縦センスの前では致命的に遅かった。
「一機、部隊から突出して……は、速い!?」
「なにぃっ!?」
部下の報告に口からほとばしった驚愕の声、その次の瞬間にはゲルググの胴は二条のビームによって貫かれてしまう。
悲鳴を上げる事無く火球に化けた隊長機、それに目を奪われた隙に僚機であるリックドムの懐にはブランのジム・ドミナンスが飛び込んでいる。
「もらった!」
「ぐああっ!?」
突き出されたビームサーベルは重装甲など物ともせずに黒い胴の中心を刺し貫いた。
そして動力部を破壊されたリックドムが爆散する頃には、ブランは次の獲物へと襲いかかっている。
「よくもベスを……うわぁっ!?」
迎撃の為にマシンガンを向けようとしたザクだが、それよりも早く頭上から降ってきた鉛玉に機体の操作も忘れて案山子にしてしまう。
「まったく、高機動機にマシンガンで狙いつけてどうすんだ」
高速移動と共にばら撒いた右肩のガトリング砲に足を止めたザクに、ブランは呆れた声を出す。
機動力の高い機体をマシンガンで相手にした時は、弾幕を展開して相手の動きを制限する。
それがシミュレーターでは誰もが取っている基本戦術だからだ。
呟きと同時に引かれたトリガーによって右腕のガントレットに仕込まれた2連ビーム砲が吐き出した光弾は、ザクを脳天から貫いて火球へ変える。
「スタンリー、そっちの指揮は任せる。少しでいいから、奴等を押し留めてくれ」
「了解です、大尉!」
ブランはMS隊の副長である部下にそう告げると、スロットルを全開にしてさらに敵陣深く食い込んでいく。
「今の俺達には最低限の護衛しかいない。敵の第一陣は止められてもMAとやらを含む二陣は無理だ。となれば、埒を開けるにはコレしかないよな!」
獲物を狙う猛禽のように鋭い彼の視線が捉えるのは敵艦隊の中央に位置する紅の船。
大将首であるコンスコンが乗るチベだ。
しかし、そんな彼の前に立ち塞がる巨大な影があった。
「連邦の雑兵が! コンスコン少将には手出しさせん!!」
それは牙をむき出しにした鬼面が特徴のMA、ザクレロだ。
「デミトリー!」
「ここは俺に任せて先に行ってくれ! ビグロで戦果を上げれば、トクワン大尉も浮かばれる!!」
隊から離れたデミトリーに同じMA乗りの仲間から通信が届くが、彼はこう言葉を紡いで彼等を前に出す。
「おいおい、なんだそのナリは? ここは仮装行列の会場じゃないぞ」
一方、ブランは立ち塞がった機体の奇抜さから思わず軽口を吐く。
しかし、ふざけた言葉とは裏腹に彼の駆るジムは右腕から二条のビームを異形の機体へ放っている。
MAはその体の大きさからMSを遥かに上回る厚い装甲を誇る。
それでも戦艦を撃ち抜けるビーム兵器の直撃に耐えられるほどではない。
故にブランは眼前の大型機が爆散する事を確信していた。
「馬鹿めっ!!」
しかし次の瞬間には彼は目を見開く事になった。
「なんだと!?」
何故ならジムの放ったビームは、まるで見えないバリアがあるかのようにザクレロに届く前に弾かれて霧散したからだ。
「ビームなど効かん!!」
度肝を抜かれるブランに前腕に備わった鉈を赤熱化させて襲いかかるデミトリー。
「チッ!」
巨体からは想像もできない加速を見せるザクレロだが、ブランはそれ以上の加速を見せて斬撃を回避する。
この現象はブランの眼前だけでなく、ティアンム達ソーラ・システム護衛艦隊の前でも起こっていた。
「提督! 敵MAが主砲のビームを弾いています! 効果がありません!!」
「あれはIフィールドか!」
オペレーターからの報告に思わず歯を噛み締めるティアンム。
ティアンムは過去の同じ現象を連邦軍の兵器開発局で見た事があった。
MSに携行可能なビーム兵器の開発が成功した連邦軍は、同時にそのビームに対する防御策の研究も行っていた。
その際に着目されていたのがメガ粒子に対するIフィールドの斥力を用いた偏向場、すなわちIフィールド・バリアである。
その技術は連邦でも実用化されていたのだが、いかんせん発生機である「Iフィールド・ジェネレーター」が巨大になり過ぎる為にMSへの配備は未だ実現できていない状況であった。
しかし、MAという新機軸の機動兵器を持つジオン軍はそれを実戦へ投入する事が可能だったのだ。
「やりました、コンスコン提督! ビグロたちは敵艦隊の主砲を弾き返す事に成功しています」
「ふん、ビグ・ザムをバラしてIフィールドジェネレーターを引っ張り出した甲斐があったな」
ドズルとコンスコンはギレンが送ってきた拠点防衛型MAであるビグ・ザムを見た際、搭載されていたIフィールド・バリアに着目した。
『拠点防衛も良いが、このバリアは高機動型のMAに積んだ方が真価を発揮するのではないか?』
『たしかに。今や艦隊の主砲はメガ粒子によるビームが主流。そして連邦のMSもメイン武装はビーム兵器と聞きます。ならば、突撃し敵部隊を引っ掻きまわすビグロなどに積んだ方が脅威となりますか』
ジオンが誇る勇将の二人が合意した事でビグ・ザムは即座に解体され、そこから取り出されたIフィールドジェネレーターは、ソロモンの工場で増産が行われた。
時間が無いうえにソロモンへ配備されていたMAの数も限られている事もあって、用意できたIフィールド・バリアを搭載した機体は多くない。
それでも対連邦の切り札として、その芽を見せる事に成功したのだ。
「よし、艦隊を抜ければミラーは目の前だ! 第二部隊のMSはMAを掩護! MAはミラーとコントロール艦を叩け!!」
勝利を確信したコンスコンは声高に指示を出す。
しかしティアンムも秘密兵器一つで制する事が出来る程、甘い男ではない。
「提督、どうなさいますか?」
「あの部隊を出す! エイガー少尉に迎撃指示を出せ!!」
ティアンムの指示から数分後、マゼランの甲板に姿を見せたのは10機のガンキャノンとガンタンクの混成部隊。
そしてそれを率いるのはガンタンクの上半身を4本の多脚が支える異形のMSだった。
「ガンキャノンは艦と艦の間に陣取って、手持ちのミサイルランチャーとキャノン砲で弾幕を張れ! ガンタンク隊は甲板の上からボップミサイルでけん制しつつ低反動キャノン砲で敵を狙い撃て!!」
異形のMS『ガンタンク・ライデン』のコックピットで指示を飛ばすのはエイガー少尉である。
その指示に従ってガンキャノンとガンタンク、そして護衛艦隊のミサイルランチャーはビグロたちの前に実弾による濃密な弾幕を形成する。
「ちぃっ!」
「連邦はビーム主体だって聞いたのに、まだこんな弾幕を張れるのかよ!?」
それを見たビグロのパイロット達は直進は無謀と判断し、弾幕を回避しようと突撃の勢いを犠牲にして迂回ルートを選ぶ。
「もらったぁっ!!」
日和ったビグロたちの動きをエイガー少尉は見逃さない。
ライデンが背負った身の丈ほどの大型砲台を展開すると、4脚の先端から姿勢固定用のパイルをマゼランの甲板に撃ち込む。
「くらいやがれぇぇっっ!!」
裂帛の気合と共に放たれたのは、超ド級大型砲『YAMAGA』だ。
マゼランの甲板が炎で包まれたかと錯覚するようなマズルフラッシュと共に吐き出されたのは、砲弾としては規格外と言える46サンチ砲。
「ごわぁぁぁぁぁっ!?」
超音速で放たれた大質量の牙はビグロのモノアイにも影を掴ませる事なく、その巨体を真正面から粉砕してみせた。
46サンチ砲は、かつて旧日本軍が造り上げた巨大戦艦大和の主砲と同じ口径である。
そんなトンデモ砲を宇宙世紀に復活させたのは日本にある有澤重工という会社だった。
この会社は戦艦の装備がビーム兵器へ移行する中でも実弾兵器へのこだわりを頑なに捨てようとせず、男のロマンと意地を乗せた巨砲を作り続けているクセの強い企業だ。
ティアンムはジオンの持つ二つの宇宙要塞を攻める『星一号作戦』に際し、有澤重工に兵站課を通してある注文を出した。
それは『戦艦を一撃で粉砕できる実弾式の大砲』を作成すること。
これこそがジオンがビーム兵器への対策を立ててくると読んだ彼の用意したカウンターだったのだ。
依頼を受けた有澤重工は連邦のMS開発部と共に一機のMSを造り上げた。
それが現在エイガーの乗る異形のガンタンク、ライデンだったのだ。
「やりましたよ、有澤社長!」
ライデンの中でエイガーは小さくガッツポーズを取る。
ジャブロー襲撃の際、『闇夜のフェンリル隊』の攻撃によってガンダム6号機を失い失意の中にいたエイガーを、『君からは火薬の香りがする。そんな漢に湿気た顔など似合わんぞ』と雷電のパイロットに推薦したのは有澤重工の社長であるタカフミ・アリサワだった。
火薬と巨砲にロマンを宿す同志である彼が手を差し伸べてくれなければ、エイガーはこの戦争が終わるまで『ガンダムを失った無能』として腐ったままだっただろう。
「ビグロ一号機、シグナルロスト! 敵は大型実弾砲を隠し持っていたようです!」
「我々がビーム対策を施すのを読んでいたか、ティアンム! ならば、艦隊前進! MSへの援護射撃を継続しつつ、ミラーを射程に収めるぞ!!」
「ソーラ・システムはやらせはせんよ、コンスコン! こちらも艦隊を前に出せ! 総力戦だ!!」
太陽の力を蓄積し続ける十字架を背に、連邦とジオン両陣営屈指の名将が互いに牙を剥く。
宇宙要塞ソロモンの攻防を巡る天秤は、未だその拮抗を保ち続けていた。
エイガ―「MSなんて下らねえぜ! 皆、戦車に乗れ!!」
彼の戦後は有澤重工のテストパイロットとして、ガチタンの道を歩むことが決定しました。
ガンタンクの系譜は途切れる事は無い……かもしれない。