ダイクン家の二女はアホの子   作:アキ山

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お待たせしました。

ソロモン戦が終わらない……。

なんてこった!?

もうすぐスパロボYが出るというのに……!!

もっと頑張らねば……!

がんばりますので、よければ見てくださいな。


マチュのいないソロモン攻略戦・後盤

 デブリが渦巻くサイド1宙域は灼熱の修羅場と化していた。

 

「アイオワ大破! 自力航行不能!!」

 

「僚艦のエンタープライズにけん引させて下がらせろ! 乗組員には退艦指示を出せ!!」 

 

「敵主砲、ソーラ・システムに向けて発射確認!」

 

「コロンブス・コントロール艦へ連絡! ビーム攪乱幕の濃度を上げろ!!」

 

「ダメです! パブリクが間に合いません!!」

 

「待ってください! これはいぶき! いぶきがソーラ・システムの盾になってくれています!」

 

「いぶきから最後の暗号通信です! ワレ、チェンバロ作戦ノ成功願ウ! ワレ、チェンバロ作戦ノ成功願ウ!」

 

「……ッ! ビーム攪乱幕を張り直せ! 対空砲火を密に!! MS隊に敵を押し返させろ!!」

 

「重砲撃小隊、2機目のMAを撃破! エイガー少尉がまたやってくれました!!」

 

「ソーラ・システム発射準備完了まであと2分! 現在のミラーの消耗率は11%です!!」

 

「よし! MAはあと一機、いや二機か! 重砲撃小隊は引き続きMAの迎撃! ブラン大尉はもう一機のMAを釘付けにするように伝えろ!!」

 

 凶報と朗報が飛び交う連邦軍旗艦タイタンのブリッジ、その中でティアンムはクルーへ矢継ぎ早に指示を出す。

 

 それは相対するチベの艦橋でも同じだった。

 

「ビグロ2番機シグナルロスト! 3号機が三隻目のサラミスを撃沈!!」

 

「くっ! 連邦の防衛網を抜くのは容易ではないか! 3号機に指示を出せ! 雑魚には目をくれるな、旗艦を狙えと! ティアンムを倒せば敵の士気は瓦解する! そうすればミラーへ手が届くはずだ!!」

 

「こちらの収束砲撃は敵秘密兵器に届かず! マゼラン級が盾になって防がれました!!」

 

「敵ながら見事! だが手を休めるわけにはいかん!! ミサイル一斉発射! 敵は間違いなくビーム攪乱幕を厚くしてくる! その逆手を取る!!」

 

「MS隊の損耗率32%! 徐々に押し返されつつあります!!」

 

「踏み留まらせろ! ビグロ3号機を孤立させてはならん!!」

 

 真綿で首を絞めるように相手へ勝敗の天秤が傾きつつある中、コンスコン少将は席から立って鬼の形相を浮かべながら八面六臂の指揮を振るう。

 

 しかし、このままでは自分達に勝利の女神がほほ笑む事は無い。

 

 総力戦となってからコンスコンはそれを肌で感じていた。

 

「艦長、各艦に何時でも退艦できるように指示を出しておけ」

 

「提督!?」 

 

「敵の秘密兵器は発射体勢に入っているのだ、このまま撃ち合っては間に合わん。もしもの時は最終手段を使うぞ」

 

「───ッ!? 了解しました!!」

 

 コンスコンの指示にチベの艦長を任されている大佐は息を呑む。

 

 しかし上官の顔に張り付いた覚悟を見て、すぐさま僚艦へ指示を飛ばすのだった。

 

 一方、ジオン艦隊の後方でも一進一退の攻防が繰り広げられていた。

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

 前足の鉈を赤熱化させて高速で宇宙を駆けるのはデミトリーが駆る異形のMAザクレロだ。

 

「おっと!」 

 

 しかしブランが操縦する高機動型ジム・ドミナンスは、その一撃を容易く躱す。

 

「クソッ! ちょこまかと!!」

 

 サイドステップにも似た動きを取るジムを逃すまいと口から拡散型のメガ粒子砲を放つが、それも機体の各所に備わったスラスターを点火して加速を始めたスピード・スターを捉える事はできない。

 

「デカい図体の弊害だな。攻撃を外せばガラ空きになる!!」

 

 その叫びと共にブランの操るジムは肩に担いだハイパーバズーカを発射する。

 

「ぐああっ!?」

 

 ザクレロの左側面を取って放たれた二発の砲弾は、ヒートナタが付いた前足と後部に備わった加速用のスラスターユニットの片肺を吹き飛ばす。

 

「クソッたれ……」

 

 被弾からなんとか体勢を立て直したザクレロのコックピットの中、操縦席のコンソールに突っ伏した状態でデミトリーは血反吐と共に悪態をつく。

 

 コックピットにまでダメージが及んだ事で一部の計器が爆発し、その破片がデミトリ―の身体に突き刺さっている。

 

 足で分かるほど血が溜まっている事を思えば、すぐに治療を受けねば彼の命も長くないだろう。

 

 全身を襲う痛みと多量の出血で霞む思考の中、デミトリーの頭を占めるのは『勝てる気がしない』という非情な自覚だった。

 

 モニターが捉えているジム・ドミナンスには目立った傷はない。

 

 その一方で機体コンディションを示すサブモニターに映るザクレロは、赤で示されていないところを探すのが難しい程に満身創痍だ。

 

 この結果に至った理由は一つ。

 

 シンプルにパイロットの技量が違い過ぎる。

 

 大型な分MSより運動性は劣るが、MAにはそれを補って余りあるほどの頑強さや機動力、そして攻撃力がある。

 

 機体のサイズ差も相まって、まともに戦えばMAがMS一機に手古摺る事は稀なのだ。

 

 しかし、ブランはその機種差をパイロットの腕で埋めて……いや、覆した。

 

 高機動型に改修されたジムの全身に備わったスラスターやAMBACを巧みに使い、MSの武器である小回りの良さと方向転換の即応性を十全に発揮してザクレロとデミトリーを手玉に取ってみせたのだ。

 

 実際、ブラン機がモニターから消える様をデミトリーが見たのも一度や二度ではない。

 

「だが、このままやられるわけにはいかねえ……。俺がやられたらチベが狙われる。それにザクレロだって、まだ真価を発揮しちゃいない」 

 

 ブツブツと独り言を呟きながらデミトリ―はコンソールを操作する。

 

 彼はテストパイロットとして長くザクレロと共に宇宙を駆けてきた。

 

 だからこそ、この機体の事は誰よりも熟知している自負がある。

 

「行こうぜ、相棒。最後の勝負だ!」

 

 そうしてデミトリーはジム・ドミナンスを見据えると渾身の力でフットペダルを踏む。

 

 主の操作に応えてMA特有の推進力で加速を始めるザクレロ。

 

「馬鹿の一つ覚え……という訳じゃなさそうだ。機体から感じる気迫が半端ない」

 

 先ほどの焼き直しのような状況だが、ブランはモニターに映る半壊したザクレロに視線を鋭くする。

 

 彼はシミュレーター内の対戦で、この手のモノを何度も味わってきた。

 

 これを纏った対戦相手は満身創痍でも両腕を失っていても、こちらの首を食い千切る牙を隠し持っている。

 

「MAでこの手の気迫を感じるのは初めてだ。───けど、こういうのがオイシイんだよな」

 

 口角を吊り上げながらヘルメットのシールドグラスの奥でブランは自分の唇を舐める。

 

 それを合図とするかのように、ザクレロは現状出しうる最高速へ達する。

 

 メインスラスターは片肺、しかも機体は満身創痍。

 

 叩きだしたスピードも万全の状態の6割がいい所だろう。

 

「だが、それでいい。これだからいいのさ」

  

 しかし、それを知ってなおデミトリーは笑う。

 

 MAの命と言うべき機動性がこれだけ落ちれば、もう自分達に残っている力などないと相手は侮るだろう。

 

 そして今のスピードが遅ければ遅い程、後の一手が相手に効いてくるのだ。

 

 そんな彼の思惑を証明するかのように、モニターに映るジム・ドミナンスは突進を避けようともせずにハイパーバズーカを構える。

 

「今だ!!」

 

 その瞬間、デミトリ―はコンソールに備わった調整用キーボードのエンターキーを押し込んだ。

 

 するとザクレロのメインスラスターが甲高い音を立てて出力を跳ね上げた。

 

「ぐ…うぅ……」 

 

 今までよりも大きく増したGの中、呻きながらもデミトリーは口角を吊り上げる。

 

 急加速のタネはメインスラスターの出力リミッターを解除したことにある。

 

「まだだ!!」

 

 しかし今までの戦いから眼前の敵を出し抜くにはさらなるひと押しが必要なのは明白。

 

 そしてそのピースは程なくしてやってきた。

 

 轟音を引き連れてザクレロの後部から紅蓮の華が咲く。

 

 度重なる負荷にメインスラスターが音を上げたのだ。

 

 しかしこの爆発はザクレロとデミトリーを黄泉へ導くものではなかった。

 

「うおおおおおおおおおっ!!」

 

 彼等はそれを利用して更なる加速を得たのだ。

 

「ザクレロと俺の最後の一撃ぃ! くらぇぇぇぇぇっ!!」 

 

 MAの限界を超えた加速を込めて、デミトリーは残ったヒートナタを振り上げる。

 

 ザクレロとデミトリ―の命を賭けた一撃。

 

 今まで同じ動きで目を慣れさせたところで、二段構えで速度を上げる奇手。

 

「なんとぉッ!!」 

 

 しかし、ブランが持つ並外れた動体視力と反射神経はその上を行った。

 

 ヒートナタで右足を斬り落とされながらも上昇したジム・ドミナンスは、ザクレロの真上を取ってみせたのだ。 

 

「冥途の土産に足の一本はくれてやる! だが、ここまでだ!!」 

 

 気合と共にハイパーバズーカをザクレロの背へ叩き込むブラン。

 

「うおわぁぁぁっ!?」

 

 弾倉が尽きる程の爆撃には如何にMAといえど満身創痍になったザクレロが耐えられる筈がない。

 

 限界を迎えたジェネレーターから吹き上がった炎は内側から黄色の身体を食い破り、次の瞬間にはザクレロとデミトリーは宇宙の塵となった。

 

「外見とは裏腹に気合の入った奴だったな。思った以上に手古摺らされた」

 

 小さく独り言ちながら旋回させたモニター、そこに映るのは激しく撃ち合う自軍と敵の艦隊の姿だ。

 

「このままじゃ無駄飯食らい扱いされちまう。予定通り旗艦を沈めるくらいはしなくちゃな!!」

 

 それを見たブランは弾切れになったバズーカを放り捨てると再び機体を発進させた。

 

 片足のスラスターを失っていても、カスタム化されたジムのスピードは並のMSを凌駕している。

 

 その速度があればチベへ追いつくのは造作もない。

 

 一方、チベのブリッジも自由を取り戻した狩人がこちらを狙っている事に気が付いていた。

 

「後方からMS接近! デミトリー曹長のザクレロが抑えていたモノです!!」

 

「敵MSから高エネルギー反応あり! ビーム兵器を使用するつもりだ!」

 

「ここがジョーカーの切り時か! 艦長、全艦に通達! プランFを発動する!!」

 

「了解しました、提督! 例のモノを起動させろ! 敵MSの狙いは?」

 

「ブリッジとエンジン部のようです!」

 

「よし、アレの準備しておけ! タイミングを逃すんじゃないぞ!!」

 

 コンスコンの決定を受けて船長がクルーへ指示を飛ばす中、ブラン機は右腕の二連装ビームガンをチベへ向けて発射する。

 

 放たれた光弾は狙い違わずに船体後部にあるエンジンとブリッジを直撃、すぐさま炎と多量の煙が吹き上がる。

 

「これで旗艦は……なにっ!?」 

 

 撃沈を確信したブランは次の瞬間に我が目を疑った。

 

 何故ならチベは損傷部分から煙を棚引かせながらもソーラ・システムへ向けて加速を始めたからだ。

 

 否、加速したのはチベだけではない。

 

 僚艦である4機のムサイもまた、エンジンを全開にして宇宙を駆け始めた。

 

「ティアンム提督、敵艦隊が動き始めました!」 

 

「全艦、まっすぐこちらに突撃してきます!!」

 

「奴等、まさかカミカゼを行うつもりか!? 全部隊に迎撃を密にするよう伝えよ! 如何なる手段を用いても敵をソーラ・システムに近付けてはならん!!」 

 

 ティアンムの指示を受け、護衛艦隊は主砲の斉射をチベを先頭に魚鱗の陣を組んで突撃してくる敵艦隊へ浴びせる。

 

 それを受けて僚艦のムサイは一隻また一隻と火球へ変わるモノの、チベだけは煙を噴き上げながらも勢いが弱まる事は無い。

 

 そんな中、タイタンへ通信が入る。

 

「提督! MS隊のブラン大尉から通信です!!」

 

「回せ!!」

 

 ティアンムの指示によってブリッジの通信モニターに現れるブランの顔。

 

 そこには何時もの飄々とした余裕はなく、代わりに焦りがベッタリと張り付いている。

 

「提督、あのチベはMAと同じだ! ビームが効かない!!」

 

「Iフィールドか! ならば、あの爆発と煙は……!」

 

「炸薬ボルトや煙幕を使った偽装だ! コイツの所為で見事に騙された! ダメージが入っていると思わせれば、MSも戦艦も威力があるビーム兵器以外を使おうとは思わないからな!!」

 

 敬語も忘れて怒鳴るブランに愕然とするティアンム。

 

 しかし事態は何時までも彼が呆然自失でいる事は許さない。

 

「チベ、最終防衛ラインを突破! こちらのMS部隊を押さえていたジオン側のMSも撤退を開始しました!!」

 

「船首回頭! ミサイルを撃ち込め!!」

 

「ダメです! 間に合いません!!」

 

「……やられた!!」 

 

 艦長の焦りを含んだ指示と操舵担当の悲鳴を耳にしながら、ティアンムは腰を下ろした提督席の肘掛けを握りしめる。

 

 コンスコンは初めから艦を捨てる事も覚悟したうえで自分達を強襲してきたのだ。

 

 ダメージが入ったように見せかけた事も僚艦のムサイにIフィールドを積んでいなかった事も、全てこちらに実弾兵器を使わせない為の偽装!

 

 ティアンムは作戦に掛ける覚悟で相手に上を行かれた事を痛感した。

 

 ジオンのMSが退くのをしり目に数多のミラーへ向けて突進する紅色の船体。

 

 連邦の面々が呆然とそれを見送る中、それを良しとしない者がいた。

 

「このままソーラ・システムをやらせてたまるかよ!!」

 

 それは重砲撃小隊を率いるエイガー少尉だ。

 

 彼は精密射撃用スコープを引っ張り出すと、コンソールのキーボードを素早く入力する。

 

 それによってコックピット内部を警告の赤ランプが照らすが、エイガーは気にも留めなかった。

 

 現在、彼の乗るガンタンク・ライデンは4本ある主脚の一つと左手を失っている。

 

 それに加えて度重なる発射によって、主武装の『YAMAGA』も砲身の排熱が追い付いていない。

 

 とても全力砲撃が出来るコンディションではなかった。

 

「ふんばれ、ライデン! ここで俺達がやらなくて誰がやるってんだ!!」

 

 それでもエイガーは諦める気はない。

 

 設定されていた安全装置を全て解除し、無理やりに主砲を撃とうとしていたのだ。

 

 しかし多脚戦車として設計されたライデンにとって、足の一本を失ったのは痛かった。

 

「クソッ! 撃てるようにはなったが、砲身を展開したらバランスが……!?」

 

 背負った巨大な砲身を伸ばした途端に機体はバランスを崩してしまうのだ。

 

「これじゃあロクに狙いも付けられ……なんだ!?」 

 

 機体を揺する衝撃にモニターを旋回させると、そこに映ったのはライデンを支える量産型ガンタンクの生き残りだった。

 

「撃て、少尉! 支えが必要なら俺達がやってやる!!」

 

「ビームだなんだって最新技術にしか目が行かない上の連中に、砲撃屋の意地を見せてやろうぜ!!」

 

 通信越しに聞こえるエールにエイガーは口角を吊り上げる

 

「しっかり支えていてくれよ! コイツの一発は伊達じゃねえからな!!」

 

 そう笑いながらエイガ―が安定を取り戻した照準をチベの側面に付ける。

 

「いけぇぇぇぇぇぇっっ!!」

 

 そしてトリガーを引けば上がる膨大なマズルフラッシュと硝煙、そして限界を迎えて破裂した『YAMAGA』の砲身。

 

 だが、自らの発射台を犠牲にして飛び出した砲弾はチベの横っ腹に食らいつくと巨大戦艦の主砲に匹敵する打撃力を存分に叩きつけた。

 

 その一撃は頑強な宇宙戦艦の装甲に大穴を穿ち、内部で炸裂した砲弾が生み出す爆発は船体自体をへし折る程だ。

 

「やったっ!!」

 

 巨大な火球となったチベに喝さいを上げるエイガー。

 

 しかしチベはむざむざ撃沈されたわけではなかった。

 

「ソーラ・システムの被害はどうか?」

 

「やられました。チベが近距離で爆発したことによって、破片などでミラーに多大な被害が出ています」

 

「現状では予定出力の60%を出すのが限界かと」

 

「くっ……やってくれたな、コンスコン!」

 

 無事だったコントロール艦からの報告に臍を噛むティアンム。

 

「どうしますか?」

 

「止むを得まい。主力艦隊は我々の一撃を信じて陽動を続けてくれているのだ、撃たないわけにはいかん」

 

「了解しました。ソーラ・システム、スタンバイ!」

 

 ティアンムの決断を受けてタイタンの艦長は各クルーへ指事を飛ばす。

 

 ボールやMSを使って応急処置を施すのに数分、なんとかソーラ・システムを発射可能な体勢に持っていく事が出来た。

 

「ソーラ・システム、発射準備完了!」

 

「発射ッ!!」

 

 ティアンムの号令によって、数多のミラーは集積した太陽光を一点に集中させた強烈な熱線を放つ。

 

 それはソロモン要塞の岩壁やそこに造られた第6スペースゲートに甚大な被害を齎した。

 

 一方、宇宙を焼きながら奔る白光を口惜しさを噛み締めながら見ている者もいた。

 

 それは撤退したリックドムを始めとするMSにけん引されたランチ脱出艇に乗ったコンスコンと艦隊クルー達だ。

 

「ここまでしても止められなかったとは……」

 

「悔しいが仕方あるまい。威力を弱められただけでも成果があったと気持ちを切り替えるのだ。ソロモンはまだ堕ちてはいないのだからな」

 

 ノーマルスーツを着て隣で悔しさを滲ませるチベの艦長をコンスコンは宥める。

 

 彼とてこの結果は不本意だ。

 

 しかし、これからが戦いの佳境である事を考えれば早急に要塞に戻って戦力の立て直しを協力せねばならない。

 

 コンスコンの指示によって、両腕を失いながらも激戦を生き抜いたビグロ3号機が複数のランチをけん引して加速する。

 

 攻め込まれている側の自分達には悔やむ暇すらないのである。

 

 

 

 

 ソロモン周辺の宙域にある一角、暗く広がる宇宙空間の中を二匹の獣が駆ける。

 

「はははははっ! 楽しいなぁ、オイ!!」

 

 一つは蒼い野獣ことヤザン・ゲーブル。

 

「クソが! こんな野郎にてこずっている暇はないってのに……!」

 

 もう一つは深紅に彩られた幻獣の名を冠する部隊の長、ジョニー・ライデンだ。

 

 二機は他の追随を許さない速度で牙を交えながら時にぶつかり、また時には中遠距離で砲火を交えていた。

 

 ガンダムが放ったビームキャノンがゲルググのバックパックを掠めてその機動力を半減させれば、ゲルググが返したロケットランチャーがバックパックに生えた多数のサブアームが持つシールドの一枚を破砕する。

 

 ゲルググが抜いたビームナギナタでビームキャノンの砲身を半ばから切断すれば、斬撃の終わりにできた隙を突いてガンダムが敵の胴を蹴り飛ばしてミサイルランチャーの斉射を浴びせかける。

 

 そしてゲルググはナギナタを持った手を高速回転させ、双刃を疑似シールドの様にして襲い来るミサイルを凌ぐ。

 

 こんな一進一退のやり取りを、並のパイロットなら機体の操作すらおぼつかないスピードで繰り広げるのだ。

 

 ジオン・連邦両軍を見ても、彼ら二人の技量は頭一つ抜けていると言っていいだろう。

 

「へっ、流石はエース部隊だ。思った以上に歯ごたえがありやがる。───そろそろ正攻法は終わりにするか」

 

 自身に掛かるGを心地よく感じながら、フルアーマーガンダムのコックピットでヤザンは笑う。

 

 そして素早くコンソールを操作すれば、それに応じたのはガンダムが背負った大型バックパックだ。

 

「そら! コイツはどうする?」

 

 背面の武装を支えていたサブアームが上半分を斬り落とされたルナチタニウムのシールド2枚をゲルググへ向けて投げつける。

 

「小細工を!」

 

 かなりのスピードで向かってくるシールドだが、そんなものは弾丸に比べるべくもない。

 

 ジョニーは苛立ち交じりにシールドを払い除ける。

 

 しかし次の瞬間、ジョニーは目を見開く事になった。

 

 何故ならシールドの向こうにはこちらへ飛んでくるミサイルポッドがあり、それを目掛けてガンダムが左腕に備わったガトリング砲を構えていたからだ。

 

「馬鹿がっ!」

 

「チィッ!?」

 

 回転する銃口が鉛弾を吐き出すのと、ゲルググがシールドを自身の前面に押し出すのは同時だった。 

 

 ガトリングの弾丸を浴びた瞬間、暗黒の空間に紅蓮の華を咲かせるミサイルポッド。

 

「野郎! 残弾を残したまま破棄しやがったのか!!」

 

 至近距離から余波を食らったゲルググだが、盾は消失したものの機体そのもののダメージは軽微だ。

 

 しかしジョニーに一息つく暇は与えられなかった。

 

「勘の良い野郎だ! 片腕くらいは持って行けると思ったんだがなぁ!!」 

 

「ぐっ!」

 

 何故なら爆炎を突っ切って、フルアーマーガンダムが間合いを詰めてきたからだ。

 

 ジョニーの眼を釘付けにしたのは腰溜めに構えられた右腕、そこに備わった蒼い野獣の象徴たるパイルバンカーの切っ先だ。

 

『アレを食らったら、どこだろうと一発で抉り取られちまう!!』

 

 瞬間、ジョニーの背筋に冷たい物が奔った。

 

 使いどころが分からないニッチな武装と言われているが、ルナチタニウム製のドデカい杭をバカげた量の炸薬で撃ち出す一撃はMSの兵装の中でもトップクラスの威力を誇る。

 

 胴体に撃ち込まれれば撃墜は免れず、腕や足でも食らった場所が根こそぎ持っていかれて余波で致命的な隙を晒す事になるだろう。

 

 まさに一撃必殺の牙を迎え撃ったジョニーの一手、それはなんと咄嗟に持ち替えたロケットランチャーをバットの様に叩きつける事だった。

 

「なにぃっ!?」

 

「今だ! 弾けろ!!」

 

 しかもただ殴り付けたわけではない。

 

 杭が突き刺さった場所は予備弾が詰まった弾倉だったのだ。

 

 再び轟音と共に紅が宇宙を染め、至近距離で爆発を受けた両者は互いに後ろへ吹き飛ばされる。

 

「やるじゃねえか、赤い彗星モドキ。……いや、深紅の稲妻だったな」

 

「へっ、ようやく俺の名を憶えやがったか」

 

 直撃すれば一発で敵を撃墜できる砲弾、その炸薬が複数連鎖した爆発を受けたのだ。

 

 互いの機体にダメージが無いはずがない。

 

 フルアーマーガンダムは右半身の増加装甲、そしてバックパックのサブアームに残っていたシールドを全て失う事になった。

 

 一方、ジョニーの高機動型ゲルググも左手の肘から下を喪失。

 

 胴や顔も焼け焦げて紅い塗装が剥がれており、右脚部の膝や足の裏のスラスターに異常が出ている有様だ。

 

 機体の耐久性はワンオフに追加装備を備えた高級機と、専用のチューンを施したとはいえ量産前提の機体の差が出たと言えるだろう。

 

 それでもジョニーが変わらず最大限の警戒を向けるのはガンダムの右腕だった。

 

 そう、ロケットランチャーを犠牲にした爆発を受けても野獣の牙は折れていないのだ。

 

「それじゃあ第三ラウンドだ。尻尾を撒いて逃げたっていいんだぜ?」

 

 そう言いながら焼け焦げた右腕に備わったバンカーの杭をコッキングするヤザン。

 

「言ってろ。テメエと赤い彗星の首を取るまで帰れるかよ」

 

 ヤザンの挑発に口角を吊り上げて、ジョニーは残った腕でビームナギナタを展開する。

 

 今の状況で眼前の敵を討つには自身も命を賭けねばならない。 

 

 そう覚悟を決めたジョニー。

 

 しかし、それは次の瞬間には崩れる事になる。

 

「ソイツは残念だったな。あの野郎はここにはいねえよ」

 

「なんだと?」

 

「ルナツーから核を盗み出してジオン本国へブチ込もうとしているタフなテロリスト共がいてな、ソイツ等を止める為に亡命艦隊と一緒に行っちまったぜ」 

 

「………は?」 

 

 見れば殴りたくなる表情をしているであろうヤザンの声、しかしジョニーにはそんな事を考える余裕も無かった。

 

 先ほど耳にした言葉の情報量とあまりの凶報さに脳がフリーズしてしまったからだ。

 

「おっと、コイツは機密って奴だったか?」

 

「今のは本当か! そのテロリストとやらは貴様等連邦の別部隊じゃないのか!?」

 

 混乱の中でジョニーが何とか絞り出した言葉を、ヤザンは鼻で笑って見せる。

 

「俺達はお前等と違って最低限の理性は備えてんだ、民間人の虐殺なんざ頼まれたってやるかよ。それにな、お前の言う通りならわざわざ教える訳ねーだろうが」

 

「ぐ……」

 

「そもそも、お前等はこの戦争で人類の半分をぶっ殺してんだぞ。そんだけの真似を仕出かせば、ジオンを根絶やしにしようって考える輩が10や20出てきても不思議じゃねえさ」

 

 どこか嘲笑を含んだヤザンの言葉にジョニーは反論する言葉を持たなかった。

 

 いかに巨大な勢力を持つ地球連邦に勝つためとはいえ、彼とて祖国が取った蛮行が正しかったなどと思っていない。

 

 その被害者達が自分達に憎悪の牙を剥いてくることを否定などどうしてできようか?

 

「きゃあああっ!?」 

 

「イングリッド!?」

 

 ショックで思考が停止する中、ジョニーに再起動を促したのは通信機から聞こえる部隊最年少の部下達の声だった。

 

 反射的にカメラを向ければ、4体のジムに包囲攻撃を受けた二人のゲルググが窮地に追い込まれているのが見えた。

 

「よし、モンシアは俺と共に牽制射撃を継続。決してスモークの外に奴等を出すなよ。ベイトはクラッカーを放ち続けろ! 遅延信管のセットも忘れるなよ!!」

 

「了解です、大尉!」

 

 イングリッド機が被弾した事で焦ったのだろう、スモークの内側から飛んでくるビームを躱しながらバニングとモンシアは100mmマシンガンで弾幕を張る。

 

 ジムスナイパーⅡには狙撃も可能な高出力ビームライフルがあるが、そちらは敢えて使わない。

 

 単発であるビームでは勘の良い輩に察知されて回避と共に狩場から逃げられる可能性があるからだ。

 

「あのシミュレーターをやってりゃあ、この程度の勘が良い奴等の料理法なんざ軽く10は思い付く。サイド7の死神共に比べればお前等は可愛いもんだぜ、ガキ共!!」

 

 そうして二機が足止めをする中、ベイト機は腰のウエポンラックから取り出したMS用破砕手榴弾、通称クラッカーを煙幕の中へ投げ入れる。

 

 視界の効かない中で背中合わせになって隙を無くそうとしていたユーマとイングリッドは、足元に流れ着くそれに気付くことができない。

 

「ぐあぁっ!?」 

 

「ユーマ!?」

 

 その結果、先ほどイングリッドが左腕を失ったように、今度はユーマの蒼いゲルググが右足を失う事になった。

 

 これが彼等不死身の第四小隊が編み出したニュータイプ殺し。

 

 この戦法のミソはバニングとモンシアによる牽制射撃とクラッカーに遅延信管の設定を加えている事だ。

 

 彼等の言う勘の良い奴、すなわちニュータイプの素養を持つ人間は他者の心の機微に敏感に反応する。

 

 それが戦場においては殺気を感じ取るという相手の攻撃を先読みする事に繋がるのだ。

 

 しかし彼等の戦法ではそれが仇となる。 

 

 スモークによって視界とレーダーなどを殺されれば、NTは自身の勘に強く頼らざるを得ない。

 

 そうなればバニング達の射撃に込められた殺気に気を取られるのは必定。

 

 結果、遅延信管という心を持たない機械装置を見抜くことが出来ずに爆発で砕けて鋭利な刃物になった外殻を食らう事になる。

 

「くそっ! こんなのどうしたらいいんだ!?」

 

「コイツ等卑怯すぎるでしょ!!」

 

 ユーマもイングリッドも実戦や模擬戦で優秀な成績を叩きだしてきた。

 

 しかしそれは従来通りのMS戦においてだ。

 

 こんな相手をハメる戦法は初めての経験だったのだ。

 

「アデル! お前は敵スナイパーを黙らせろ! 奴等を倒すまで余計な真似はさせるなよ!!」 

 

「はい!」

 

 素早いステップで脱出しようとしているゲルググたちの進路を塞ぎながら、バニングは後方でビームライフルを構えるアデル機へ指示を出す。

 

 それに応じるように放たれた狙撃モードのビームは、ソロモンの方角に浮かぶデブリにまた一つ穴をあける。

 

「クソッタレ……。むこうのスナイパーもやりやがる」

 

 そのデブリの向こうでは専用のスナイパーライフルを手にポジションを移動させながらジャコビアスが舌打ちを漏らす。

 

 こちらを狙う狙撃手の腕は自分に比べれば若干下と言えるだろう。

 

 しかし今は状況が悪い。

 

「ガキ共が相手の術中にハマりやがって……。あれは長くもたんぞ」

 

 ユーマとイングリッドが窮地に陥っている以上、焦りは免れない。

 

 そして焦りは狙撃手には禁物だ。

 

 それ故に十分なパフォーマンスを発揮できずにいた。

 

 窮地に追い込まれた部下を前に決断を迫られるジョニー。

 

 その後押しをしたのはソロモンを焼く極光だった。

 

「なんだ!?」

 

「へっ! 派手な火遊びをするじゃないか。あれがティアンム提督ご自慢の秘密兵器って訳か」

 

 そんなヤザンの軽口をしり目にジョニーは撤退を決める。

 

「ジャコビアス! 撤退だ!!」

 

「撤退って、ガキどもはどうする!?」

 

「俺が何とかする! お前は白狼殺しの足を少し止めてくれればいい!!」

 

 そう通信機に叫びながら愛機を加速させるジョニー。

 

「へっ! 逃がすかよ!!……っと!」 

 

 それを阻もうとしたヤザンだったが、自分を狙う殺気を感じ取って後方へ下がる。

 

 次の瞬間、ヤザンが見抜いた通りの軌道で三条のビームが宇宙を奔り抜けた。

 

 ヤザンが怯んだのは一瞬、しかしそれで十分だった。

 

「うおおおおおおっ!!」

 

「なにっ!?」

 

 ダメージを負っていても深紅の稲妻は伊達ではない。

 

 ジョニーは隊長機であるバニングへ襲いかかると、斬撃をシールドで咄嗟に防いだジムスナイパーⅡを蹴り飛ばす。

 

「ガキ共、撤退だ! 今の内に罠から抜け出せ!!」

 

「ジョニー!」

 

「分かったわ!!」

 

 自分達を閉じ込めていた弾幕という檻の一方が止まれば、キマイラ隊の悪ガキ共が黙っているわけがない。

 

「大尉! おわぁっ!?」

 

「モンシアの馬鹿野郎! 包囲が……うおっ!?」 

 

 モンシアとベイト機に牽制射撃を放ち、彼等がひるんだ隙にジャコビアスの狙撃を援護として撤退したのだ。

 

「ごめん、ジョニー」 

 

「あたし達足手まといになっちゃった」

 

「気にすんな。そんなもん、生きてさえいれば何とでもなる」

 

 ユーマとイングリッドの謝罪をジョニーは軽く流す。

 

「だが、今はもっとヤバい事がある」

 

「いったい何があった」

 

「白狼殺しが口を滑らせやがった。ルナツーにあった核が地球のテロリストに盗まれたらしい。しかも、そのテロリスト共はグラナダに攻め込もうとしているそうだ」

 

 ジョニーから返ってきた答えにジャコビアスは眉根を寄せる。

 

「ソイツは本当なのか? ブラフの可能性の方が高いだろう」

 

「かもしれん。だが、万が一にも本当だった場合、ここもア・バオア・クーの防備も全部無駄になっちまう」

 

「……ルナツーからグラナダに行くにはS5宙域を抜ける必要がある。だがあそこを守っていたリビングデッド師団はもういない」

 

「そうだ。俺達突撃宇宙軍がドズル閣下旗下に入っている今、あのルートはほぼフリーパスになっちまっている」

 

「……ヤバいな」 

 

「だからそう言ってんだろ! とにかく、コイツが嘘でも本当でもドズル閣下に伝えなきゃならん! そっから先は上の仕事だ」

 

 

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