ソロモン戦がやっと終わった……
ララァ、僕はもう疲れたよ……
ソーラ・システムが放った太陽光を収束させた強烈な熱波、それはソロモン要塞を容赦なく責め立てた。
「ぐ…うぅ!! うろたえるな! 状況と被害報告を急げ!!」
強烈な振動に続き各警報がけたたましい鳴き声を上げる中、ソロモン司令室ではドズルが狼狽えるオペレーター達に檄を飛ばす。
「だ、第6スペースポート大破!! 付近に展開していた艦隊及びモビルスーツ部隊の6割が消滅! 他の部隊もかなりの被害を受けた模様!!」
「恐らく、連邦の新兵器と思われます!!」
「コンスコンの報告にあった太陽光を利用したとかいうアレか! おのれぇ……!!」
オペレーターの報告にドズルは思わず歯噛みする。
発射妨害に当たらせていたコンスコン少将が失敗したのかと頭に血が上りそうになったが、コンソールに次々と表示される被害を見てその考えを改める。
「奴が送ってきた被害予想データと比べるとこちらの損害がかなり少ない。発射の阻止はできなかったが、十全に撃てない様に被害は与えたようだな」
連邦の秘密兵器が本来の威力を出していたならば、標的にされた第6ポートは部隊ごと綺麗さっぱり吹っ飛んでいた筈だ、
しかし現状は入り口と複数の艦船用ドック、岩盤表面に備わった要塞砲が幾つか失った程度にとどまっている。
「コンスコンを呼び出せるか?」
「ダメです。数分前にチベの反応がロストしました。コンスコン少将からは艦を棄てるという報告が来ていますが、そうだとすれば脱出用のランチに積まれた通信機だとミノフスキー粒子の濃い現状では電波は届かないと思います」
ドズルは秘密兵器に関して情報を欲していたが、現場にいたコンスコンに繋がらないのではどうしようもない。
「先の攻撃から生き残った艦隊に通達! 第6ポートは破棄する! 戦闘可能な部隊はサイド1方面にいる敵秘密兵器の破壊に向かわせろ! 内部にいる作業員はソロモンの中心部へ退避!! モタモタしていると第二波が来るぞ!!」
頭をフル回転させて目まぐるしく変わる戦況に対応しようとするドズル。
そんな中、一つの通信が司令部へ飛び込んでくる。
「ドズル閣下! キマイラ隊のジョニー・ライデン少佐から緊急の通信です」
「ジョニー・ライデンだと? 繋げ!」
ドズルの指示で大型のモニターに浮かぶのは赤いパイロットスーツに身を包んだ偉丈夫だ。
「ドズル閣下、緊急事態です! 地球のテロリストがルナツーから核を奪い、サイド5を経由してグラナダへ侵攻しているという情報を掴みました!!」
「なんだと!?」
これにはドズルも思わず蒼ざめた。
ジョニーの言う事が事実ならソロモンもア・バオア・クーの防備も全く意味をなさなくなってしまう。
「それは確かなのか!? どこからの情報だ!」
「私が交戦したパイロットが口を滑らせたものです。こちらが赤い彗星と決着を付けたいと知った敵パイロットは、この事実を伝えたうえで共和国亡命艦隊がテロリスト阻止にグラナダへ向かったと言っていました」
「むう……」
ジョニーの言葉にドズルは思わず腕組みをして悩む。
情報ソースとしてはとてもではないが信用が置けるものではない。
しかし、ドズルはジョニーという男の人となりをある程度知っている。
彼は誇り高く優れた戦士だ。
簡単に敵の情報に踊らされる程馬鹿ではないし、自軍を謀ろうとする男でもない。
「おい、S5宙域にはセンサーを張っていたな?」
「キシリア閣下が部隊を引き上げた事に対するフォローとして仕掛けた特別製のアレですね」
「そうだ。ソイツに反応があるかを調べてみろ」
「戦闘濃度のミノフスキー粒子の中で、どれだけ拾えるか分かりませんがやってみます」
そうして待つこと数分、担当していたオペレーターは弾き出された結果に蒼褪めた
「閣下! ライデン少佐の言う事は事実です! センサーにグラナダ方面へ向かう艦隊の反応があり!!」
「なにぃっ!?」
最悪の報告にドズルもまた巨躯に似合わない声を上げる。
「グラナダと本国へ通信は可能か!?」
「ダメです! ミノフスキー粒子が濃い上に先ほどの秘密兵器による被害で通信施設にダメージが!!」
「ア・バオア・クーは!?」
「そちらも届きません!!」
オペレーターの返答にドズルは内心で頭を抱えた。
しかし時はドズルの心情など考慮しない。
「うおおおおっ!?」
ソロモン要塞司令部を再びの激震が襲ったのだ。
「ど…どうしたぁっ!?」
「に…二射目です! 連邦の新兵器が来ました!」
「着弾箇所は先ほどと同じ第6スペースポート! この一撃でポートは壊滅!!」
「ポートにいた部隊はなんとか被害を免れました! しかし相当混乱しているようです!」
「守備隊の方にも動揺が広がっています! 艦隊の各艦長から現状についてや攻撃してきたモノがどんな兵器かという問い合わせが止みません!!」
「くっ!? 秘密兵器へ差し向けた部隊はどうなった! 奴等は無事なのか!?」
「秘密兵器の直撃は免れましたが、それでも部隊の3割が消滅! 余波によるダメージもあって半数が戦闘不能との事です」
非常警報の赤いランプが室内を照らす中、ドズルは次々に上がってくるオペレーターの報告に歯噛みする。
「迎撃部隊は下がらせろ! その状態でむかっても返り討ちに会うのがオチだ!」
どうしたものかと必死に思考を巡らせるドズルの耳に、オペレーターの更なる報告が飛び込んでくる。
「ドズル閣下! コンスコン少将との通信が繋がりました!!」
「おお! すぐに回せ!!」
久々に聞く朗報に顔をドズルが顔を上げると、司令部のモニターにノーマルスーツを着たコンスコンの顔が映る。
「閣下、申し訳ございません。秘密兵器破壊の任務を果たせませんでした」
「それはいい。それより連邦の秘密兵器の状態はどうなっている? 鏡による太陽炉の原理を利用したものと聞いたが、どのくらい破壊出来た?」
「ランチのコンピューターに我々の目算を合わせたものですが、4割以上はミラーを破壊したと思われます」
「6割でこの威力か……」
「いえ、一射目が5割。二射目に使用されたのも無事な鏡の4割程度のようです。奴等は使うミラーの数を減らす事で調整の手間を省き、連射を可能にしたのでしょう」
「最大威力での照射ができんと分かれば、すぐさま威力を棄てて速射性を求めるか。ティアンムめ、判断が早い!」
おそらく、使わなかったミラーは熱による損傷が激しい焦点部分の予備に回されるのだろう。
となれば、ソロモンを焼いた破壊の光をあと何度撃つことが出来るのか?
「連邦のMS隊が最終防衛ラインを突破! こちらへ向かってきます!!」
しかし、ここで畳みかけるように更なる凶報がソロモン司令部を慄かせた。
「こちらの守備隊は!?」
「ダメです! むこうの練度が高く、止められません!!」
己の怒声に対するオペレーターの返答にドズルは臍を噛む。
今のジオン軍は人員不足を補う為に、学徒動員と早期錬成プログラムで十代の年若い子供達を兵として戦場に送っている。
司令部は未熟な彼等をフォローする為に歴戦の猛者と組ませていたのだが、それがベテランの腕を殺す結果になったのだろう。
それでもMSの操縦と戦術にはこちらに一日の長があるので大丈夫と信じていたが、連邦はそんな上層部の思惑をひっくり返してきた。
物量による兵力差に加えて何時の間に腕を磨いたのかと思う程に連邦軍のMSは動きがよく、しかも容赦なく相手の裏を掻きまくるエゲツない手練手管まで備えている始末だ。
そのうえ、どいつもこいつも殺意に塗れていると来ては、如何にベテランでもヒヨッ子兵士を抱えて戦えるわけがない。
「おのれぇ! 奴等、何時の間に……!!」
憤怒の形相で分厚い拳を握りしめるドズルだが、その態度に反して思考は冷徹だった。
そして彼は頭の中で『ソロモンは堕ちる』という非情な事実を弾き出していた。
今のソロモンはS1宙域から放たれる連邦の秘密兵器とS4空域から押し寄せる敵の本隊によって挟撃されている状態だ。
この状態から連邦軍を押し返す力はソロモン駐留軍にはない。
「おい、ビグ・ザムは出せるか?」
「はい、発進準備は出来ています」
「パイロット達も機体の中でスタンバってますよ」
「よし! ならばソロモン内部に退所命令を出せ! 同時に残存する我が軍の艦隊をEフィールドに集結させろ!」
「閣下、まさか……!?」
「そうだ! 現時刻を持って我々はソロモン要塞を放棄する! ジオン軍各員は連邦の追撃を振り切ってア・バオア・クーへ撤退せよ!! 守備隊はビグ・ザムと連携して撤退する友軍の殿に付くように伝えろ!! 連邦軍の奴等から仲間を守れと!!」
司令室内の誰もが息を呑む中、ドズルは殊更に声を張り上げて命令を下す。
「全軍に命令を伝え次第、我々もグワランへ向かう! ぐずぐずするなよ! 連邦の奴等はすでに押し寄せてきているのだからな!!」
ドズルの激に弾かれたように慌ただしく動き出す司令部の職員たち。
その様子を見てドズルは小さく息を付く。
「本来なら俺がビグ・ザムで殿に立つべきなんだろうがな……」
それが要塞を任された者として、武人としてのケジメの付け方だとドズルは思う。
しかし司令官という重責を任された身としては、己の意地の為に職務を投げ出すなど言語道断。
彼には部下を導き、生き残らせる義務があるのだ。
『それに兄貴にも言われたからな。何としてでも生き残れと』
何時になく真剣にそう告げた長兄の顔を思い出し、ドズルは口元を緩める。
人を使う事に慣れていても頼る事が稀な兄貴に、ああまで言われては応えぬわけにはいかない。
今から彼等が挑むのは地獄の敵中行軍。
傷つかない訳が無いし、犠牲も出るだろう。
それでもドズルたちは生き残らねばならない。
迫る危難を本国へ知らせ、ジオンを護る為に。
「では征くか!」
そう自分を奮い立たせ、ドズルは振り返る事無くソロモンの司令部を後にした
◆
ソーラ・システムによる攻撃によって、はた目から見ても混乱が広がるソロモン守備隊。
「ガトー大尉、ソロモンを放棄とはどういう事でしょうか?」
「……ここを出てア・バオア・クーに最終防衛線を敷くとの判断だ。現状、連邦の秘密兵器を黙らせねば我々に勝機は無いからな」
カリウスの問いかけに答えながら、ソロモン要塞の直衛部隊を任されているガトーはS1宙域の方面を忌々しげに睨む。
「ここを棄てる理由はそれだけではない。噂ではアースノイドのテロリスト共がルナツーから核を盗み出したらしい」
「ルナツーから核を!?」
「そうだ。その不逞の輩が実在する事やS5宙域を侵攻しているのが、向こうに仕掛けたセンサーで判明した」
「では奴等の狙いはグラナダ!?」
「ああ。現在キシリア閣下の謹慎が影響して、あの要所にはグラナダ防衛隊しかいない。彼等だけで守り抜けるとは思えん」
「それに対する手を打つ為に、ここから移動するという事ですね」
「そういう事だ。我々直衛部隊は殿として撤退する友軍を守り抜かねばならん。油断するなよ、カリウス」
「はっ!」
そう気を引き締めなおした時だった。
Eフィールドへ向けて回頭するムサイを誘導していたザクが突如爆散した。
「なんだっ!?」
カリウスが上げた驚愕の声に対する答えは彼等へ牙を剥いた六発の赤い光弾だ。
「躱せ、カリウス!!」
「チィッ! ぐおぉっ!?」
ガトーの指示にスラスターを全開にしてその場から離れようとしたカリウスだが、自身を狙った光弾を躱しきれずに左腕を肩から吹き飛ばされる。
その間にも光の牙は次々と撤退準備を行っていた艦や兵達に突き刺さる。
艦橋に続いて右のエンジンを吹き飛ばされたムサイが爆炎をあげ、その僚機であったザク2機とリックドムも一機が胴を貫かれて火球に化ける。
「おのれ、何奴!?」
ガトーの怨嗟が籠った声にスラスターの光を尾のように引き連れて現れたのは、アレックス1号機を先頭にした3機のガンダムだ。
「あれは連邦の白い奴か!!」
3番手につけているRX78-2をモニターに捉えてガトーは苦虫を噛み潰す。
連邦初のMSであり、木馬と共にこの戦闘で多数の戦果を挙げたジオンの仇敵。
赤い彗星がいない今、敵軍の中で最も警戒すべき敵が最悪のタイミングで現れたのだ。
「……あれがソロモンか」
一方、全天周囲モニターが施されたアレックスのコックピットの中で、アムロはソロモン要塞と守備隊を見ながらアームレイカーを握りしめる。
彼等はソーラ・システム第一射の後でティアンムから下った進軍指示を受けてすぐ、敵の防衛線を食い破っていの一番でここに来た連邦の一番槍だ。
結果的にホワイトベースと直衛であるガンキャノン隊を置いてくる事になったが、そこは仕方がない。
「今の凄いわね。だけど、アレックスのビームライフルに連射機能なんてあったかしら?」
「今のは手動ですよ。マチュと一緒に見つけたやり方で、短い間隔で少しづつ角度を変えながら連続でトリガーを引くと、あんな風に連射できるんです」
「そ…そうなんだ」
ガンダムで後を追ってくるクリスの問いかけに少し照れたように答えるアムロ。
しかしそれを聞いたクリスは顔を覆うシールドグラスの内側で口元を引きつらせる。
シューフィッターとして様々なビーム兵器に触れてきた彼女だが、そんなやり方があるなんて初めて聞いたからだ。
「ただ、この撃ち方は加熱で銃身に負荷がかかるから、普通のモノだと出来ないと思いますよ。僕達は父さんに頼んで冷却機構を追加してもらいましたし」
そう答えを返しながらアムロは空になった弾倉を腰のマウントに付いた予備のモノへ入れ替える。
「けれど、ビーム兵器をカートリッジ式にしたのは凄い技術よね。私もアリアドネで初めて触れたから最初は驚いたわ」
その様子を見たシイコの発した言葉に、何かを思い出したクリスは呆れたようにため息を付く。
「あれ、一部の研究者の趣味と暴走の産物よ」
「暴走……ですか?」
「私が聞いた話だと、切っ掛けはMSシミュレーターの中で二丁拳銃を使う兵士がいた事なの。それを見た科学者のあるグループが大興奮して『二丁拳銃にガンカタと来たら、スタイリッシュな弾倉入れ替えは必須やろ!!』ってビームライフル用の予備カートリッジの開発に乗り出した。そのまま寝食も忘れて研究した結果、最低三年はかかるって言われた技術を前倒しで完成させたのよ」
「それってビーム兵器が実戦投入されてからですよね? 流石に出来上がるまで早すぎるような……」
「ええ。開発当初は最低でも3年は掛かると言われていたわ。けど、そのチームは文字通り寝食を忘れて研究に没頭したの。研究室で旧世紀の香港マフィアやガンスリンガーが活躍するハリウッド映画をガンガン流してね。その結果、期間を大幅に前倒しして完成したのがEパックシステムなの」
技術者の端くれとしては信じられない話だわと締めくくるクリスの言葉を聞いて、シイコは思わずモニターを下げてアリアドネが握るビームガンを見てしまう。
「これにそんな誕生秘話が……」
ワイヤーアンカーという装備を注文した自分が言えた義理ではないが、連邦軍の技術士官は何故に無駄に有能でマニアックなのか。
そんな雑談をしている間にも、アムロ達は着々とソロモン要塞へ近づいている。
「行きましょう。早く片付けて、マチュ達を追わなくちゃ」
そんな二人の会話を耳にはさみながら、アムロはスロットルを全開にする。
アムロにとってマチュは妹、相棒、そして友人が合わさった関係だ。
メカオタクで引きこもり気味な彼にとって、そんな人間は二人といない。
だからこそ別れる時は笑顔で送り出したが、内心では心配でたまらないのだ。
『ハセガワ少尉やクリス中尉がいてくれるけど、それでも何かが足りない気がする。やっぱり背中を預けるのは、マチュじゃなきゃダメだ』
そんな思いの中、アムロは自身の心を切り替えた。
「は…速い!? なんだ、あのきた───ぐわぁっ!?」
「狼狽えるな! 総員弾幕を張れ! 奴等をグワランや他の艦隊に近づけるな!!」
ビームライフルを軽快に連射しながら次々と味方機を撃墜する白いMS。
その姿に狼狽える直衛部隊を鼓舞しながら、ガトーは自分の専用機であるリックドムが担いだビームバズーカを放つ。
仲間たちが張った弾幕によって動きが制限された状態を狙った一射、ガトーは必中を確信していた。
しかし───
「この気配、サイド6にいたパイロットか。だけど狙いが甘い!」
しかしアムロは小さな呟きと共に弾幕の隙間にスルリと入り込むように前進する事で、迫り来るビームの奔流を躱してみせたのだ。
「なんだとっ!?」
これにはさしものガトーも目を剥いた。
アムロが置かれた状況なら後ろに下がりながら回避する術を探すのが常道だ。
艦や要塞の助けを借りて濃密に張られた弾幕に飛び込むなど正気の沙汰ではない。
そんなガトーの常識を嘲笑うかのように、アムロは刻一刻と様相を変える弾幕の中を泳いでいく。
精密な機体操作で最適なルートを通り、最短の道を進むその様子はもはや職人芸だ。
「敵MS、こちらへ向けて攻撃を!?」
「あの弾幕を潜り抜けながらか!? 化けも……!!」
提督が感じた戦慄のままに吐こうとした言葉をさえぎって、アレックスのライフルが吐き出したビームは艦橋を吹き飛ばす。
直後にエンジンを内包した胴体を穿たれたザンジバルは一際大きな爆発を上げながら宇宙の藻屑へと姿を変えた。
しかもこのように回避の合間を縫って、カウンターの射撃が飛んでくるのだ。
「くそっ!? 奴を…奴を止めろ!!」
「当たらねえ! あたら……ぐわぁっ!?」
「グラーフ・ツェッペリンが!? 嘘だろ、ジェニー!!」
次々と敵を撃墜しながらも、アムロは無表情のまま機体を操作し続ける。
「焦るなよ、アムロ。マチュなら上手くやる、だから今はこの戦いを終わらせる事だけを考えるんだ」
小さく己に言い聞かせながら、アムロは直感が拾った殺気に銃口を向けると同時にトリガーを引く。
次の瞬間、モニターの向こうで宇宙を照らす火球が生まれた。
相棒がいない分の戦力の減少を埋めるためにアムロが選んだのは『余分』を無くす事だ。
マチュがいない以上、連携のような他者への配慮や合わせる動きは必要ない。
その分を補うには無駄を排し、只管に敵を倒す事だけを考える。
そう決断したアムロの動きは恐ろしいモノだった。
アレックスの生み出す推力と機動性を存分に生かし、弾幕の中であっても敵MSの銃口はおろかパイロットが見ているロックオンマーカーすらも置き去りにする。
そして放たれる針の穴を通すような正確無比な射撃達は、次々とジオン軍の部隊を食い殺していくのだ。
「どうしてだ!? どうして躱せる!!」
「そんな馬鹿な事があるものか! 死なぬはずがあるか! 死なぬはずが…!」
攻めている筈の自分達が一方的に狩り殺されていく。
その状況は撤退する味方を守るソロモンの戦士達に『自分は無力な獲物』という錯覚すら植え付けた。
「くっ! これ以上はやらせん!!」
そんな士気の低下を感じ取ったガトーは愛機のリックドムを駆り、弾幕を抜けたアムロへ襲いかかる。
「速い! だが、タートルマンやトゥーハンドに比べれば!!」
自分へ向けて振り下ろされるヒートソードの持ち手をシールドバッシュで跳ね上げると、アムロはそのまま至近距離の相手へ頭部バルカンをフルオートで浴びせる。
「くっ!?」
相手の狙いが目を潰す事と察したガトーは咄嗟に翳した腕をモノアイの盾にするが、その隙を逃すアムロではない。
「邪魔だ!」
「ぐおっ!?」
腹へ蹴りを叩き込まれ、強制的に後ろへ吹っ飛んでしまう。
相手が体勢を整える前にライフルの銃口を向けるアレックス。
しかし、アムロはそのトリガーを引くことが出来なかった。
「なんだ? ちぃっ!!」
背筋を奔った悪寒が叫ぶままにその場を離れた次の瞬間、アレックスがいた場所を高出力のビーム砲が薙ぎ払ったからだ。
上方へ逃れたアムロが見たモノ、それはソロモンの格納庫から現れる二本脚の巨大なMAビグ・ザムの姿だった。
「あれは…ビグ・ザム!」
「Iフィールドを量産する為に解体されたのではなかったのか!?」
ソロモン要塞の岩壁を蹴って宇宙へ飛び出したビグ・ザムに驚くガトー達。
「アムロ君、無理しては駄目よ!」
「分かっています! ハセガワ少尉も気を付けて! 奴は火力が相当高い!!」
守備隊の高機動型ザクの腹をビームダガーで抉るシイコからの通信に応えながら、アムロは全天周囲モニターの下方に映る深緑の巨体を睨みつける。
「いくら大きくて火力があっても!!」
そんなビグ・ザムの胴体に狙いを付けたのはクリスの駆るガンダムだ。
背面下部に回り込んだ彼女は両足に支えられた胴に向けてビームライフルを三発放つ。
如何に装甲が強化だろうとメガ粒子をプラズマ化させた超高熱には敵わない……はずだった。
しかしビグ・ザムを穿たんとしていた光弾は、その深緑の装甲に食らいつく前に掻き消えてしまう。
「そんな!?」
「ビームが…効かない?」
これには撃ったクリスはもちろん、その様子を見ていたアムロやシイコも目を剥いた。
「守備隊は後退する部隊を守れ! 連邦の雑兵共はこちらに任せるのだ!!」
三人乗りのコックピットの中、ガンダムから放たれたビームが掻き消えたのを見たリーダー格の大尉がソロモン守備隊へ向けて声を掛ける。
それを受け、足並みを乱されていた彼等は司令部から与えられた任務である脱出艦隊の護衛への動き始めた。
「よし! まずは近付いてくる艦隊に一発カマす! 主砲、全方位メガ粒子砲! 撃てぇ!!」
アムロ達をけん制するようにビグザムの円盤型の胴体から全方位にビームが放たれる中、本命の高出力メガ粒子砲がソロモンへ近づく連邦艦隊へ牙を剥く。
「高出力のエネルギー反応接近!?」
「これは要塞砲を上回る出力です!」
「面舵! なんとしてでも直撃を避けろ!!」
「間に合いま……ぐわぁぁぁぁっっ!?」
宇宙を奔る黄色めいた破滅の光は、瞬く間に連邦軍艦隊の一部を飲み込んで、引き連れたMS諸共多数の命を業火の中へ葬り去った。
「今のはなんだ!?」
「クリス中尉からの報告だとソロモン要塞にいるMAからの砲撃だそうです!」
「今の威力だと小回りの効かん船で乗り込めば狙い撃ちにされるな」
「中佐、味方の部隊が到着するまでアムロ達に敵MAを攪乱させるのはどうでしょう?」
「うむ、それ以外にないだろうな」
「よし! 聞いていたな、フラウ・ボゥ。アムロ達に指示を出せ!!」
「了解しました!」
ホワイトベースからの指示を受け取ったクリスは、アムロとシイコに通信を繋ぐ。
「聞いていたわね、アムロ君、ハセガワ少尉。もうすぐ味方のMS隊が来てくれるわ。それまで奴の眼を引き付けて!」
「分かりました!」
クリスの言葉に頷くシイコ。
一方アムロは自身に追いすがるガトーの相手をしながらクリスの通信を耳にしていた。
「いや、時間を稼ぐだけじゃダメだ。マチュ達を追いかける時間が無くなる。ここで倒さないと……!」
「連邦の白い悪魔! 貴様を生かしておけば必ずやジオンの禍根となる!! ここで落ちろ!!」
そう覚悟を決めるアムロにビームバズーカを浴びせかけるガトー。
「当たるか!」
しかしアムロは襲い来る三条のビームを躱しながらガトーの懐に入ると、引き抜いたビームサーベルを逆袈裟に振り上げた。
「うおおっ!?」
その一撃でガトーが致命傷を負わなかったのは、命の危機を前にして発動した火事場の馬鹿力のお陰だった。
振るわれた薄紅の刃はリックドムの胴に右脇腹から左肩へ通り過ぎる形で傷痕を刻み付けた。
「浅いか! また来るのか!?」
ガトーに与えたのが致命の一撃でない事に気が付いていたが、ソロモン側から迫る殺気がアムロへ止めを刺す猶予を与えない。
「ガトー大尉の援護だ! 主砲であのMSを消し飛ばせ!!」
守備隊の隊長を務めるガトーの窮地にビグ・ザムのコックピットで大尉が叫ぶ。
しかしここでビグ・ザムは大きな間違いを犯した。
それはエネルギーチャージに間が必要な大型メガ粒子砲を選んだことだ。
「二度も同じ手に掛かるか!!」
時間にして僅かでも、アムロ程のパイロットなら逆転の一手を打つには十分すぎた。
アレックスの右腕の小手が開くと、そこから三つの球体が発射される。
それは一つは斬撃で間合いが離れたガトーの手前、もう二つはビグザムとアレックスの間へ飛んでいくとガンダムの形を簡易に模したバルーンへと変わる。
「ダミーバルーンだと!?」
「馬鹿にしおって!」
ガトーとビグ・ザムのパイロットが驚くのもつかの間、二機の目の前でバルーンは大量の煙をまき散らしながら破裂した。
「煙幕とは小癪な!」
「無駄な小細工を! 邪魔な煙諸共、吹き飛ばしてくれる!!」
体勢を整え、アムロを逃がすまいと煙幕に向けてビームバズーカを向けるガトー。
しかし大型の砲口から放たれたビームは、煙幕に届くと同時に光の粒となって霧散してしまった。
「まさかビーム攪乱幕!?」
煙幕に紛れて仕込まれていた罠に驚くガトー。
しかし、次の瞬間にはさらに目を見開く事になった。
何故ならバズーカの弾頭が二発、煙幕を貫いて自分へと襲いかかってきたからだ。
「しまっ───!?」
ビームを打ち終わった反動とダミーバルーンに仕掛けられた罠で驚いていた彼にそれを躱す余裕はない。
頭部と腰に突き刺さった砲弾は、爆炎と共にガトーのリックドムを吹き飛ばした。
「ガトー大尉! 撃て! 撃てぇ!!」
ガトー機が爆炎に消えたのをモニターで見たビグ・ザムを統括する大尉は、部下達に主砲の発射を命じる。
ビグ・ザムのメガ粒子砲は攪乱幕ごときで防げるほど柔ではないからだ。
現にビグ・ザムが放ったメガ粒子砲は煙幕と攪乱幕をいとも容易く吹き飛ばしてみせた。
「やったか?」
メガ粒子の余波が消えた先に何も残っていない事から笑顔を浮かべる大尉。
しかし、その笑みはコックピット内に響いたアラームによってかき消された。
「何事だ!?」
「機体上部から高速物体接近! ぐわぁっ!?」
オペレーター席に座る少尉の言葉を遮るようにコックピットに激震が襲う。
ダメージコントロールの画面が示すのは頭部とモノアイレーンの右側の装甲が大破したという被害報告。
しかし彼等に何が起こったのかを探る時間は残されていなかった。
「砲弾と同じ方角から高エネルギー反応が……」
何故なら、彼等の頭上からビームサーベルを構えたアレックスが猛スピードで突貫してきたからだ。
「おおおおおおおっ!!」
アレックスはそのままIフィールドの効果範囲を抜けると、ビグ・ザムの頭部にサーベルを突き立てる。
「うぉわぁぁぁぁぁぁっ!?」
灼熱のメガ粒子で出来た刃で貫かれたコクピットは瞬く間に地獄と化し、大尉を始めとする三人の乗員は断末魔と共に灰となった。
その後、モノアイから光が消えたビグ・ザムは力を失い、ソロモンを墓標とするかのように横たわる。
「……やった」
完全にビグ・ザムの機能が停止した事を確認したアムロは、アレックスの手にあるビームサーベルをバックパックに収める。
ガトーとビグ・ザムの挟撃を受けた際、彼が一瞬の隙を突いて打った起死回生の一手はこうだ。
煙幕とビーム攪乱幕を仕込んだダミーバルーンで相手の視界と同時に攻撃力を奪う。
そして相手の混乱に乗じてガトー機へバックパックに収納していたハイパーバズーカを置き土産に上へと上昇し、ビグ・ザムの頭上を取った。
そこから対空防御の有無を確認する意味も込めたバズーカでの爆撃を行い、相手に頭上への迎撃能力が無いのを確かめたところでビームサーベルで止めを刺した。
アムロが取った策のどれもが彼の技術とセンス、そしてアレックスの性能が無ければできない事である。
そして、この戦果はソロモン攻略戦においてジオンに対する決定打となった。
「まさかビグ・ザムがこうも簡単に……ッ!? 全艦隊に通達! 準備が出来たものから順次撤退せよ!! 他の者達を待つ必要はない!!」
グワランの艦橋でドズルは急ぎ僚艦達へ指示を出す。
ビグ・ザムは迫り来る連邦艦隊を押し留める防波堤であり、同時に連邦の眼を釘付けにする囮でもあった。
それが倒れたとなれば、Eフィールドから脱出しようとしている自分達に敵が気付くのは時間の問題だ。
逃げ遅れている味方を待つ余裕は彼等には無かった。
「……すまん」
連邦軍がア・バオア・クーへ退くジオン兵をみすみす見逃すわけがない。
今Eフィールドに辿り着けていない者達が生き残る為には、これから起こるであろう地獄の撤退戦を潜り抜けねばならない。
そんな部下を想い、ドズルは誰にも聞こえないよう小さく詫びを呟く。
「ガトー大尉! 返事をしてください、大尉!!」
一方、シイコの駆るガンダム・アリアドネを満身創痍ながら振り切ったカリウスは、ビグ・ザムが倒れた事で混乱治まらぬソロモン要塞周辺でガトー機の残骸を発見した。
ガトーの愛機であったリックドムは頭部と両手、そして左足を根元から失っている悲惨な姿だった。
しかし重装甲機の為せる業か、胴体部分は比較的損傷が少なく、コックピットハッチも健在だった。
そして機体内部からは生体反応が検知できたのだ。
本来ならハッチを強制開放して上官の容体を確かめるべきなのだが、連邦兵が押し寄せるであろう現状ではその余裕はない。
「大尉、もうしばらくの辛抱です! 死なないでくださいよ!!」
カリウスはガトー機の残骸を抱えると、ジオン兵の成れの果てであるデブリに紛れるようにEフィールドへ向けて飛び去るのだった。
◆
場面は変わってサイド3宙域。
近付く戦火に宇宙すらもピリつくジオン本土のお膝元を行く一隻の船があった。
その名はリリー・マルレーン。
ザンジバル級の一隻であり、キシリア少将旗下のジオン海兵隊の旗艦である。
「まったく、ザビ家の人間は人使いが荒いねぇ」
そのブリッジでは一人の妙齢の女性が小さくため息を付いていた。
彼女の名はシーマ・ガラハウ。
ジオン公国軍中佐で、女だてらに海兵隊の荒くれ者をまとめ上げる女傑だ。
「国内のダイクン派を締め上げろなんて言われてサイド3宙域を駆けずり回ったと思ったら、今度は例の赤い彗星が率いる共和国亡命艦隊を殺れって話でしょ。いくら何でもこき使い過ぎでさぁ」
そんな上官の愚痴に同意するのはリリー・マルレーンの艦長を務めるデトローフ・コッセル大尉だ。
「相手はルウムの英雄にして建国の父の息子。その妹もガキの癖に連邦の赤い悪魔なんて呼ばれている手練れだ。亡命した腑抜けばかりと舐めてかかったら痛い目に遭いそうだね」
「ええ。元キャメルパトロールのドレン大尉も将来を有望視されていた艦隊指揮官ですからね」
コッセルの言葉にシーマは再び小さく息を吐く。
彼女達はこの戦争が始まってから上のいい様に使われてきた。
ブリティッシュ作戦では住民を穏便に退去させる為とコロニー内に催眠ガスを注入する任務を受けたが、ボンベの中身は毒ガスであった為に騙される形で虐殺に手を汚してしまった。
それからは軍内にブリティッシュ作戦の事が噂という形で歪んで伝わってしまい、民間人を虐殺したジオン軍人の恥と味方に罵られることになってしまった。
加えて上はシーマ達を都合のいい道具として扱うようになり、反戦を謳う勢力やダイクン派など政府やザビ家に逆らうサイド3の民を制圧する任務も押し付けられる事となった。
今まで自分が歩んできた血と汚泥に塗れた道を思い返し、シーマは陰鬱な気分になった。
特にコロニーを潰してしまった際に見た光景は、今でも夢に出るほど彼女の心の傷になっている。
反吐が出る任務の積み重ねに加えて、日増しにジオンが劣勢になっていく戦況。
嫌な事ばかりを見聞きしてきたシーマは疲れ切っていた。
「……そういや、この辺はマハルが近かったね。少し寄って行こうか」
だからだろう、彼女が望郷の念に駆られてしまったのは。
「いいんですかい? アサクラの野郎は亡命艦隊の件を至急って言ってましたが」
「外から故郷の様子を見るだけで、寄港しようってわけじゃないんだ。誰かに文句を言われる筋合いはないさね」
自身の問いかけに儚く笑う上官を見て、コッセルは彼女の言う通りに進路を取った。
彼女達の故郷マハルはサイド3の3バンチにあるコロニーの一つだ。
総人口は150万人ほどで、元はコロニー公社の募集によって集まったスペースコロニーの建築・補修の下請けを行う業者や、ジオン国民として戸籍登録が満足に行われていない者達が多く住んでいる為に比較的スラムなどが多い。
シーマが率いる海兵隊の中にもこのコロニーから徴兵・招集された者が多く、中には功績を上げて正式なジオン国籍を得る事を目的とする者もいる。
「な…なんだ、これは……!?」
しかしマハルを目にした時、シーマは我が目を疑う事となった。
何故なら彼女達の故郷は生活の場ではなく、まるで巨大な大砲の様に姿を変えていたからだ。
マハルにはジオンの工作艦隊が多数集まっており、刻一刻とその姿を作り替えられていた。
かつては集光ミラーであった外壁も分厚い装甲で閉ざされ、未だ工事中の場所から見える内部には人の営みがあった街からビームライフルのような内部機構に置き換わっている。
シーマを始め故郷を見る事を楽しみにしていた海兵隊員達は、変わり果てたマハルの姿に二の句が告げられなかった。
『シーマ中佐、いったい何用でここに来た?』
そんな中、リリー・マルレーンの通信モニターにチョビ髭が特徴の中年士官の顔が現れる。
彼等の上官であるアサクラ大佐だ。
「大佐…マハルは……? 私達の故郷が…どうして…こんな……」
ショックから上手く言葉が出ないシーマの問いかけに、アサクラはフンと鼻を鳴らす。
『上層部の決定でマハルは今大戦の決戦兵器へと生まれ変わった。ああ、住民は難民施設へ疎開させているから心配するな』
「決戦…兵器……?」
『このコロニーは所詮国籍を持たん不法滞在者や日雇い労働者の吐き溜めにすぎん。それが公国の勝利の鍵へと生まれ変わったのだ、これほどの名誉はあるまい』
呆然としているシーマなど気にすることなく、彼等の故郷を悪し様に笑うアサクラ。
その様子にリリー・マルレーンの艦内は殺気立つ。
しかし誰一人反逆という手に出ないのは、彼等がそれだけしっかりと規律を叩き込まれた軍人であるという証拠だった。
『ああ、そうだった。シーマ中佐、貴様等に与えられていた共和国亡命艦隊討伐任務だが、少し内容が変更になった』
「……変更というのはどのように?」
もはや言葉が出ないシーマに代わり、コッセルがアサクラに問いを投げる。
『ドズル中将の緊急通信でな、グラナダに核武装した地球のテロリストが迫っている事が分かった。そして亡命艦隊はテロリストを阻止する為に独自行動を取っているそうだ。───そこで貴様等にはテロリストの殲滅も同時に行ってもらう』
「核武装したテロリストを相手しろですって! そんな無茶な!?」
『心配するな。貴様等は亡命艦隊とテロリスト、その双方が疲弊したところで横っ面を殴り付ければいいのだ。漁夫の利を得ろという事だよ』
「……大佐、亡命艦隊はグラナダを守ろうとしているんじゃないんですか?」
悪辣な笑みを浮かべていたアサクラに問いかけたのは、病人の様に白い顔をしたシーマだった。
『奴等も救国を謳う集団である以上、その意図はあるだろうな』
「ジオン市民を、我々が護るべき民を救おうとしている人間を倒せとアンタは言うのか!?」
シーマは怒りを込めて糾弾するが、アサクラは面倒そうに顔をしかめるだけだ。
『我々からすれば亡命艦隊もテロリストと変わらん。それを一網打尽にして何が悪いのだ?』
「だけど……!!」
『そんなにグラナダ市民が心配なら、貴様等が身体を張って核を止めるんだな。そうすればコロニー潰しの虐殺部隊という汚名も、少しは払拭されるかもしれんぞ』
そう告げるとアサクラからの通信はブツリと途絶えた。
シンと静まり返るリリー・マルレーンのブリッジ。
「ふふ……ふはは……あはははははははははっ!!」
クルーの誰もが言葉を発せない中、笑い声をあげたのはシーマだった。
「ちゅ…中佐?」
「言ってくれるじゃないか、アサクラのクソ野郎が! 汚名返上の為に体を張って核を止めろだって? その汚名を被せたのはお前達だろうがッッ!!」
恐る恐る声を掛けたコッセルに返ってきたのはシーマの怒声だった。
「コッセル、亡命艦隊の予想航路は手に入れてるね?」
「ええ、さっきの嫌味な通信の間に最新の物が送られてきてます」
「だったら話が早い。テロリストと闘り合う前に奴等の元へ行くよ!!」
「えっと……先に亡命艦隊を叩くんですかい?」
シーマの意図が分からずに困惑するコッセル。
しかしシーマはそんな彼に普段浮かべている不敵な笑みを返す。
「いいや、奴等を見定めに行くのさ」
「見定めって、まさか、ジオンを見限るつもりですか!?」
「当たり前だろう。汚名を着せられ、いい様に使われた上に故郷まで奪われたんだ。ここまでされて黙っているほど、このシーマ様は安くないんだよ!!」
そう答えると、シーマは艦内全域に向けて放送する為のマイクを手に取った。
「シーマ艦隊の各員に告ぐ! 今見たとおりジオンは我々を裏切った!! これまで身を粉にして、手を汚し続けてきた私達をだ! これ以上、私は腐った国の為に働こうなんて思わない! お前等はどうだ? ここまで踏みつけられて、コケにされ続けてもジークジオンって叫べるか!?」
その問いかけに艦内通信の受信スピーカーからは否という答えやザビ家への罵詈雑言、そしてクルーの怒りの声が響き渡る。
「よーし! お前達の答えは受け取った!! これより我が隊はジオン公国軍から離反する!! 次のパトロンには一つ心当たりがある! 心配せずについておいで!!」
そう宣言すると、シーマはマイクを置くと全艦放送のスイッチを切る。
「コッセル、リリー・マルレーン最大船速だ! 他の艦も全力で飛ばすように伝えな!!」
「了解です、シーマ様!!」
ニヤリと笑って舵輪を持つコッセルにシーマは眉の片方を上げる。
「なんだい、そのシーマ様ってのは?」
「俺達はもう軍属じゃないんでしょ? だったら階級で呼ぶのはおかしいじゃないですか」
「だからシーマ様かい。ま、好きに呼ぶがいいさね」
ニヤリと笑うコッセルに小さく息を付くと、シーマは自分の席に戻る。
「さあ、確かめさせてもらうよ、亡命艦隊とダイクンの倅達。アンタ等が私達のお眼鏡に適うかどうかをね!!」
そして何時ものように女帝の如く座りながら、口角を吊り上げるのだった。