ダイクン家の二女はアホの子   作:アキ山

51 / 64
ついに…ついに禁断のブツへ手を出してしまった……!

ガンプラ…ガンプラァァァッ!!

なんという罪深い趣味!

金と時間がガンガン溶けていくぅぅ……!?

助けて、メイジン・カワグチ!!


マチュと復讐のテロリスト(前編)

 

「どうして…どうしてこうなった……」

 

 シーマ海兵隊の旗艦であるリリー・マルレーンの男子トイレの個室、そこでバーニィことバーナード・ワイズマン伍長は便座に腰掛けて深いため息を付いた。

 

 彼はつい3か月前までは普通の青年だった。

 

 本来なら今年の9月にハイスクールを卒業して、内定が出ていた会社に就職して平凡な社会人になる筈だったのだ。

 

 しかし、卒業式を終えた彼を待っていたのは一通の手紙。

 

 それは政府からの徴兵を命じる召集令状だった。

 

『嫌だぁァァァァッ!? 死にたくなーい! 死にたくなぁぁぁぁい!!』

 

『落ち着いて、バーニィ! 大丈夫、貴方ならやれるわ!!』

 

『すまん、バーニィ! 何もしてやれない情けない父親で……すまない!!』

 

 錯乱して両親に晒した醜態は、彼の数ある黒歴史の一つとなった。

 

 バーニィとしては軍人など絶対にお断りだった。

 

 しかし悲しい事に彼の故国は独裁国家、ケツの青い若造の泣き言など通るわけがない。

 

 そうしてバーニィは軍の門を叩く事になったのだが、何の因果か適性検査でMS操縦の資質がある事が判明。

 

 航空学校のモビルスーツ科へ配置されたバーニィは、そこでMS操縦の基礎を叩き込まれる事になった。

 

 しかし戦況が劣勢に傾き、人員が不足しているジオン軍には新兵を十分に育てている余裕はない。

 

 バーニィとその同期には通常に比べると酷く短い養成期間しか与えられず、兵士として未熟なまま彼はグラナダへ配属された。

 

 恐怖と緊張の中で生まれて初めて月面へ降り立ったバーニィ。

 

 そんな彼を迎えたのは、シーマ中佐率いるジオン突撃機動軍海兵隊であった。

 

『おやおや、ずいぶんとケツの青いボウヤが回ってきたじゃないか。ま、私の下に付くからには一人前の海兵になるように、たっぷりと可愛がってあげるよ』

 

 映画に出てくるような荒くれ者を引き連れた女帝然としたシーマ中佐のお言葉に、バーニィは『おいおいおい、死んだわオレ』と胸中で悟りを開いた。

 

 それからの生活は、まさに地獄だった。

 

 部隊で一番下っ端であるバーニィは虫けら同然であり、先輩や上官は彼を『人権? なにそれ、オイシイの?』と言わんばかりに扱った。

 

 MSの演習ではシーマ中佐を始めとする強者達にボコボコにされ、生身の訓練でも指導役であるフィール・ゴンザレス軍曹(32歳独身・彼女募集中)というゴリラ顔負けの体躯を誇る黒人系の海兵様にギタギタにされる。

 

 全身筋肉痛で指一本動かすだけでも億劫なのに、雑務・パシリ・上官(野郎限定)のマッサージと用事は容赦なく降ってくる。

 

 当然、泣きなど入れられない。

 

 仮に文句なんて言った日には、海兵隊御用達の超絶卑猥な歌を全力で歌いながら軍艦の中をランニングする羽目になる。

 

 海兵隊の日々は訓練のキツさに寝ゲロを吐いていた航空学校が天国に見えるような環境だった。

 

 そんな生活だから悪夢のような思い出はパッと10は頭に浮かぶが、中でも悲惨だったのは初任給が出た日の事だ。

 

 その日はバーニィの初給料祝いという事で上官達と飲みに行ったのだが、一軒目の初っ端から先輩達にしこたま飲まされて彼は轟沈してしまった。

 

 そしてバーニィが次に目覚めたのは、怪しいライトが部屋を照らす風俗店。

 

 自分の隣に下着姿のお姉さんがいるのを知った時、バーニィは驚愕のあまり変な悲鳴が出てしまった。

 

 先輩が仕掛けたあまりにもエグいサプライズ、その結末は風俗で純潔を棄てるというバーニィに取って最新かつ最大の黒歴史爆誕だった。

 

 ダメだと思っても反応してしまう事に、彼は生まれて初めて己のムスコを呪った。

 

 そんなエキサイティングな日々を必死に生き抜いていれば、今度は反政府軍への鞍替えである。

 

 もちろん部隊が反政府組織や、民衆の反戦デモ鎮圧など汚れ仕事を担っている事はバーニィも知っている。

 

 実際に自分が用意した武器が同胞に牙を剥いたのも見たし、その事実に嘔吐して先輩の世話になった事もある。

 

 彼自身も海兵隊を通してジオン公国という国の歪みを嫌という程に思い知った。

 

 そんな政府の犬として使われていた結果が、故郷を大量破壊兵器に改造なのだ。 

 

 シーマ中佐をはじめ、部隊の人間がザビ家と公国に反旗を翻すのも仕方がないだろう。

 

「けど、俺は向こうに家族がいるんだよ。親父…おふくろ……」

 

 もし自分達の離反がバレた時、家族に迷惑が掛かるのではと思ったらバーニィは気が気じゃなかった。

 

 かといって、ようやく馴染んできた海兵隊の皆を裏切るなんて出来ようはずがない。

 

「もし裏切ろうとしたら、軍曹にミンチにされる……」

 

 バーニィの頭をよぎるのは、自分の教育担当である上官の全身コレ筋肉と言わんばかりの黒光りする巌のような身体だった。

 

 そうして何時ものように便座の上で苦悩していると、トイレの扉が勢いよく開く音がした。

 

「うっ!? ぐえぇぇぇぇぇぇ……」

 

 そして次に聞こえてきたのは、苦しそうに嘔吐する声と便器に吐しゃ物が落ちる水音。

 

 普段のリリー・マルレーンなら二日酔いの兵士がゲェゲェやってるのが常だが、今回は様子が違った。

 

 バーニィの耳朶を打ったのは明らかに年若い女の子の声だったのだ。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 その声にバーニィが慌てて個室を出ると、便器に顔を埋めていたのはダイクンの末娘だった。

 

「ゆっくり、全部吐き切るんだ。こういう時は中途半端にしちゃうと一番しんどいからな」

 

 背中をさすってやりながら、バーニィは件の少女に優しく声を掛ける。

 

 なんでこんな所に? なんて疑問も頭の隅に浮かんだが、体調不良に苦しむ女の子を前にするとすぐに吹っ飛んだ。

 

「『敗北はココロの声である。真に負けを認めるまで、誰も敗北しはしない』……そうだよね、リー師匠」

 

 ただ少女が自分に言い聞かせるように小さな声で呟いていたのは気になったが。

 

「ふぅ、ありがとう」

 

 少しの間背中をさすっていると嘔吐感も落ち着いたのだろう、女の子は便器から顔を上げた。

 

「大丈夫か? あ、えっと……ですか?」

 

「いいよ、敬語なんて使わなくても。別にあたし偉いわけじゃないもん」

 

 普通に聞いてすぐに亡命政府のトップである事に気が付いて慌てて言い換えるバーニィ。

 

 その様子に少女は苦笑いを浮かべる。

 

 しかしそんなホンワカとした雰囲気はすぐに掻き消えてしまう。

 

「マチュ! 大丈夫なの!?」

 

「ちょっ!? ここ男子トイレ!!」

 

 少女の姉がトイレの中に突撃してきたからだ。

 

「ごめん、姉ちゃん。久々にやっちゃった」

 

「顔色は良くなったみたいね。そこの手洗いで口を濯いだほうがいいわ」

 

 心配のあまりバーニィが見えていないのだろう、姉は少女に手洗いでうがいをさせる。

 

「マチュ、体調が優れないなら無理に出撃しなくていいのよ」

 

「大丈夫だよ。ちょっとダメなモノを感じてびっくりしただけだから。あ、お邪魔しました」

 

 そして口の中の余韻を綺麗にすると、二人でトイレを出ていった。

 

「……なんだったんだ?」

 

 残されたバーニィは二人を唖然とした表情のまま見送るのだった。

 

 

 

 

 どうも、女の子として見せてはならない醜態を晒してしまったマチュです。

 

 今あたし達はレビル率いるテロリストの近くまで来ているんだけど、ここで思わずポカをしてしまった。

 

 駄々洩れになっていた奴等の悪意を感じ取った結果、一気に体調を崩して嘔吐してしまったのだ。

 

 まさか他人の思念でゲロしちゃうなんて、あんなの4歳くらいの時に父ちゃんを騙そうとした詐欺師の念を感じた時以来である。

 

 いやはや、我ながら情けない。

 

「ただいま! ご心配をおかけしました!!」

 

 さっきの醜態を払拭すべく元気な声と共に自動扉を抜けると、そこは海兵隊の旗艦であるリリーマルレーンのブリッジ。

 

 これから長い付き合いになるという事で、あたし達は親睦を深めるためにテロリストを追う航海をこっちで過ごすことにしたのだ。

 

「アルマリア、大丈夫なのか?」

 

 あたしの姿を見ると最初に声を掛けてきたのは兄ちゃんだ。

 

「うん。それより他の船の艦長さん達へ繋いで。例のテロリスト達、思った以上にヤバい」

 

「なんで、そんな事が分かるんだい?」

 

 兄ちゃんにそう頼み込むと、艦長席に座っていたシーマさんが声を掛けてくる

 

「あたし、ちょっと勘が鋭くてさ。小さい時から他人の思いとか感情を、ある程度感じる事ができるんだよ」

 

 そう返すと後ろからあたしを軽く抱いていた姉ちゃんも口を開く。

 

「その所為でマス家の財産目当てで悪徳な人間が来た時は、よく泣いていたものね」

 

「姉ちゃん、人の黒歴史を掘り返すのはやめて。それでさ、悪意とか強烈な感情だと勝手に流れ込んでくる事があるんだ。さっきテロリストのモノを感じ取ったんだけど、アイツ等ジオンへの憎悪が半端ない。最初から核を使って自爆特攻するつもりだよ」

 

 あたしの言葉にブリッジの空気が凍り付く。

 

「そこまでトチ狂っちまったのかい。……いや、私らのした事を考えたら無理も無いかねぇ」

 

 そう自嘲するシーマさん。

 

 まただ。

 

 最初に出会ったときもそうだけど、彼女から後悔と自責の念が凄く伝わってくる。

 

「しかし、そんなモンを感じ取れるって事はお嬢はニュータイプってヤツなのかい?」

 

「ニュータイプのこと知ってるの?」

 

「ああ。これでもキシリアの下にいたからね、奴さんが血眼になって研究している所為で噂くらいは耳に挟むのさ」

 

 そう言えば、兄ちゃんもそんなこと言ってたっけ。

 

「そうなんだ。けど、あたしは違うと思ってるよ。ニュータイプってどんなものか知らないし。それに……」

 

「それに?」

 

「他人の物差しで決められるのってムカつくじゃん。この力はあたしのモノなんだから、これが何かはあたしが決めるの」

 

 そう告げるとシーマさんは面白そうに笑う。

 

「言うじゃないか! 私もそういう考えは好きだよ! 人間、自分の事はテメエで決めないとね!!」

 

 豪快に笑う姿はやっぱり姉御って感じだ。

 

 そんなやり取りをしていると、ブリッジの通信モニターに4人のおじさんが現れる。

 

 ドク艦長とドレンのおっちゃん、そしてラルのおっちゃんに亡命艦隊の実質的な長であるダグラスさんだ。

 

「こちらへ連絡を入れてくるとは何かあったのかね、シーマ中佐」

 

「用があるのは私じゃないよ、ダイクンのお嬢さね」

 

 ダグラスさんの問いかけにシーマさんはこちらを指さす。

 

「アルマリア様、なにかありましたか?」

 

「うん。テロリストの事なんだけど、アイツ等生きて帰るつもりはないみたい」

 

「……なんですと?」

 

「さっき向こうの思念が流れてきたんだけど、家族を奪われた憎悪と一人で生きてきた絶望、それとジオンへの殺意でいっぱいだった」

 

 その言葉にモニター先の4人の軍人達は顔色を変える。

 

 皆歴戦の強者だから、そう言った人間を相手にする厄介さを知っているんだろう。

 

「アイツ等、ジオンをこの世から消したら後の事はどうでもいいみたい。───敵対すれば間違いなく核で自爆特攻してくるよ」

 

 あたしの言葉はリリー・マルレーンや通信が繋がっている他の艦のブリッジに沈黙を齎した。

 

 戦闘前に味方の士気を下げるのは愚策中の愚策だけど、こればっかりは言っておかないとシャレにならない結果を招いてしまう。

 

「そこまでか……。これもジオンが積み重ねてきた業なのだろうな」 

 

「感傷や悔恨に浸る余裕はないぞ、ダグラス大佐。たとえジオンに非があろうとも、民間人の虐殺など見過ごすわけにはいかんのだ。今は奴等を止める術を考えねば」

 

 苦い表情で俯くダグラス大佐に喝を入れる兄ちゃん。

 

 そう、今はヘコんでいる暇はないのである。

 

「近寄れないとなれば、相手のレーダー範囲外からの狙撃が最も有効でしょうな」

 

「けど、そんな真似が出来る機体があるのかい? ウチはゲルググが揃っちゃいるが、強襲装備しかないよ」

 

「ペガサスに狙撃用ビームライフルが一丁ある。それを戦艦のジェネレーターに直結すれば、レーダー範囲外からでも十分な打撃が与えられるだろう」

 

 ラルのおっちゃんが出した提案にシーマさんが疑念を口にして、それをドク艦長がフォローする。

 

「うむ、なら狙撃に秀でた兵にそれを使わせればいい」

 

 兄ちゃんの言葉に、何故かドク艦長は気まずそうな表情を浮かべる。

 

「今整備班に確認させているのですが、コイツには一つ問題がありましてね。連邦の最新鋭機であるジムスナイパーⅡによる運用を想定している為に、狙撃などの精密な射撃に関して従来のMSはセンサー類が対応していないのです」

 

「つまり、我々には狙撃可能な機体が無いと?」

 

「いえ、アルマリア嬢のアレックスならいけると返答が来ました。あれもジムスナイパーⅡを原型としたRX-80と同じくG-4計画の最新鋭機ですので、互換性があると」

 

 格納庫にいる整備班に確認しながら答えているのだろう、モニターの先にいるドク艦長は受話器を耳に当てながら話している。

 

「お嬢、アンタ狙撃の経験はあるのかい?」

 

「シミュレーターなら山ほど。実戦では完全なスナイパーライフルは使った事は無いけど、普通のライフルなら何度か狙い撃ったことはあるよ」

 

「なら決まりだ。使える機体があるのなら、イチイチ他のを調整する必要はないさね」

 

「念の為に他の機体もセンサー類の調整しておいた方がいいんじゃないかな。あたしも敵のMSが出撃して来たら前に出ないといけないし」

 

「アルマリア……」

 

「相手は一撃必殺の武器を持ってるんだから、殴られる前に殴り倒す事が重要。相手を引っ掻き回せるプロトを遊ばせるのはダメだよ。そんな訳だから姉ちゃん……」

 

「もちろん、私も一緒よ」 

 

「あ、はい」

 

 ぐぬぬ…今回は危ないから船にいてって言おうとしたのに、全部言葉に出す前に潰されてしまった。

 

「ではアルマリア様は狙撃で敵の母艦を優先的に撃破し、奴等の数を減らす」

 

「そして撃ち漏らした核搭載MSは我々が処理する。相手が接近してくる前に叩くという前提でだ」

 

「ああ、公国の奴等が横やり入れてくる可能性も忘れるんじゃないよ。実際、奴等は私達にそんな命令を出していたからね」

 

 やっぱり、むこうも漁夫の利を狙ってたのね。

 

 一応むこうの国民を守ろうとしているのに世知辛いなぁ。

 

 

 

 

『アルマリア様、狙撃ライフルとセンサーの具合はどうでしょうか?』

 

「大丈夫、問題なく動作してるよ」

 

 作戦が決定してから30分ほどが過ぎた。

 

 あたしはプロトのコックピットでドク艦長の問いかけに計器に目を走らせる。

 

 今、プロトがいるのはペガサスの右前脚の上だ。

 

 そこで戦艦のジェネレーターと各種ケーブルで繋がった狙撃銃を手に、片膝を付いて銃を構える二ーリングという体勢を取っている。

 

『現在、我々はテロリスト艦隊が持つ索敵範囲のギリギリ外と思われる場所に位置しています。アルマリア様にはここから艦艇を狙撃で沈めてもらう事になります』

 

「狙いはMSの格納庫でいいんだよね?」

 

「ええ。そこを撃ち抜けば、奴等の保有する核を誘爆させることが出来るでしょうから」

 

 あたしは艦長の言葉を耳にしながら、プロトに狙撃ライフルの安全装置を外させる。

 

 今回の作戦に開始のコールは無い。

 

 あたしが位置に着いた時点で始まっているのだ。

 

「マチュ、大丈夫なの?」

 

「これだけ悪意をばら撒いているんだもん、外す方が難しいよ」

 

 そう、奴等の狂気と憎悪は今もビンビン感じている。

 

 それがこちらに位置を知らせる絶好の目印になっているんだ。

 

「ドク艦長! みんな! 撃つよ!!」

 

『了解! 機関最大! エネルギーをライフルへ回せ!!』

 

 こちらが声を掛けるとライフルへ送られるエネルギーが一気に跳ね上がった。 

 

「行けっ!!」

 

 そして直感が叫ぶままに銃口を向けたあたしは気合と共に引き金を引く。

 

 薄紅色の光の奔流が宇宙の蒼へと飲み込まれると、少し間をおいてはるか先に光の球が生まれた。

 

『第一射、命中! 敵艦隊、数が大幅に減少しました!!』

 

『よしっ!』

 

 オペレーターとドク艦長の喜ぶ声が聞こえる中、あたしは小さく舌打ちを漏らす。

 

 何故なら今の一射で涅槃へ行ったであろうテロリストたちの断末魔と無念が、こちらへ流れてきているからだ。

 

「……貴となく賤となく、老となく少となく、悟りても死に、迷ひても死す、さても死ぬ事かな」 

 

 それを受け流す為にあたしは『葉隠』の一節を諳んじる。

 

 今の言葉は『貴賤の区別なく、老人や若者も関係なく、悟っても死に、迷っても死ぬ。とにかく人間は死ぬのだ』という意味だ。

 

 身を焦がすような激しい怒りと憎悪を持っているテロリスト達だって、それは例外じゃない。

 

 相手を傷つけ殺す事を目的に戦場に出るなら猶更だ。

 

 ならば、あたしが彼等の負の念を背負ってやる道理は無い。

 

「姉ちゃん、大丈夫?」

 

「……ええ。最初は少し苦しかったけど、貴女を抱きしめていたらそれも収まったわ」

 

 おお、気が付けば姉ちゃんはシートから立ってあたしの両肩に手をまわしているじゃないか。

 

「姉ちゃん、前のシートに来て。初めて二人で乗った時みたいにさ」

 

「ありがとう」

 

 立ち上がってそう促すと、姉ちゃんはメインのシートに座る。

 

 そして姉ちゃんが広げた脚の間にあたしが腰を下ろすと、姉ちゃんはギュッとこちらを抱きしめてくる。 

 

 ちょっと操縦し辛いけど、やっていることが事だ。

 

 姉ちゃんの精神が安定するなら安いモノだろう。

 

「第二射、行くよ!」

 

 あたしは射程範囲内にあるもう一隻に狙いを定めると再び引き金を引く。

 

 本当ならレビルが乗る艦を狙えればいいんだけど、アイツは艦隊の中央にいるうえにライフルの射程から離れてしまっている。

 

 倒すなら敵のMSを倒してからになるだろう。

 

 二射目も命中し、再び宇宙に光球が現れる。

 

 それを見ていると、コックピット内に警告ブザーが鳴った。

 

「ドク艦長、ライフルの銃身がもうダメみたい!」

 

『了解しました。予備をすぐに持って行かせます!』

 

 ちなみにこの狙撃ライフル、艦艇のジェネレーターを動力に撃つことが想定されている為か、銃身が容易に取り換えられるアタッチメント方式になっている。

 

 今みたいな状態を想定しての事なんだろう。

 

 作業短縮の為、先に銃身を取り外した時だった。

 

「っ!」

 

 あたしの脳裏にこちらへ向けた敵意が駆け抜けたのだ。

 

「マチュ!」

 

「うん、わかってる」

 

 でも、このザラついた感覚はなんだろう?

 

『敵艦隊からMS部隊が展開するのを確認! 一直線にこちらへ向かってきます!!』

 

『三射目を許すほど、敵もバカではないか! MS隊発進だ! くれぐれも相手が一撃必殺の術を持っている事を忘れるな! 遠距離で仕留めて、こちらへ近づくのを阻止するんだ!!』   

 

「ドク艦長、あたし達も行くよ! ライフルはどうしたらいいかな?」

 

『すぐに交代要員が行きます! そちらへ渡してください!』

 

「了解!」

 

 その通信のあと、すぐに予備の銃身を持ったジムがこちらへやってきた。

 

「交代の人? それじゃあ援護射撃よろしくね」

 

『了解、お嬢ちゃん達も気を付けてな! 美人が死ぬのは世界の損失だ』

 

「あら、お上手ですこと」

 

 あたしが狙撃銃の本体を渡すと、パイロットのお兄さんは軽口を言いながらも慣れた手つきで銃身を接続する。

 

『そんじゃあ、ロックオン・ストラトス! 狙い撃つぜっ!!』

 

 そしてあたしと同じく二ーリングの体勢を取ると勢いよく狙撃銃を構えるお兄さん。

 

「あら? あの人、佐藤康夫って名前じゃあ?」

 

「言わぬが武士の情けだよ、姉ちゃん」

 

 誰だって理想の自分と変身願望は持っているものなのだ。

 

 そんな漫才の様なやり取りを残してペガサスから飛び立ったあたし達。

 

 しばらく進んでいると、テロリストのMS達が見えてくる。

 

 部隊の殆どは重装甲と大型のブースターを背負ったジムだけど、その中で一際目を引いたのは部隊を率いる先頭のMSだ。

 

「……ガンダム」

 

 それは全身を黒と濃い紺色で塗装された、あたしの見た事が無いガンダムだった。

 

『このフルアーマー7号機と真のニュータイプである僕に勝てる奴などいるものか!』

 

 この思念……さっきのザラついた感覚は、このガンダムからだ!

 

「マリーから各機へ! 先頭のガンダムはあたしが相手するから、みんなはジムを止めて!!」

 

 この状況でコイツを放っておくと絶対にヤバい!

 

 核弾頭を仕込んだジム達を倒すまで、何としてでも抑えないと!!

 

『空を堕とすジオンを消し去るのを邪魔するのなら、誰であろうと叩き潰してやる!!』

 

「やれるものならやってみなよ!!」

 

 さて、初の対ガンダム戦だ。

 

 大バカをやらかす連中を止める為にも気合を入れていこう!!

 




『そんじゃあ、ロックオン・ストラトス! 狙い撃つぜっ!!』

 この状況とテンションで言わない自信があるガノタだけ石を投げなさい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。