色々書いていたら尺が……
対レビル艦隊は多分次で終わります
亡命政府艦隊とレビル率いるテロリスト。
その戦いはテロリストが優勢に事を進めていた。
「いいかい! 私達が最優先に潰すのは核を持ったヤツだ! 他のザコは後回しだよ!!」
紫と黄土色に彩られた海兵隊仕様のゲルググを駆りながら、シーマは部下に指示を飛ばす。
その間にもビームライフルの一射で核武装をしたジムを屠っているのは、暗部で鍛え上げた経験の為せる業だろう。
「シーマ様! 雑魚って言いますけど、コイツ等かなりの手練れですぜ!? 機体の性能だってゲルググに負けてねえ!!」
シーマの命令に泣き言で返したのは、ジーラインのビームサーベルとナギナタの光刃で鍔迫り合いをしている海兵隊の一人だった。
このように現状において亡命艦隊を圧迫しているのは、ジーラインを主軸としたアズライール隊だ。
エースはダイクンの兄妹が抑えているモノの、部隊を構成するのは例のシミュレーターネットワークで鳴らした腕利きばかり。
それらがRX-78ガンダムの完全な量産機に乗って襲ってくるのだ。
その脅威は推して知るべしである。
「情けないこと言ってんじゃないよ! 男ならそのくらい気合で何とかするんだよ!!」
そう叱り飛ばしながらも部下を救援に向かおうとするシーマ。
しかし、その前に別のジーラインが立ち塞がる。
「チィッ! 面倒だねぇ!!」
左の前腕に備わった90mmマシンガンでけん制しながらナギナタの一刀を叩き込む機会を狙うシーマ。
「そんなモン食らうかよ!」
しかしジーラインのパイロットも然る者、シールドでマシンガンを防ぐと、バックパックに装備されたミサイルを返して来る。
シーマは素早くゲルググを左へステップさせることでミサイルを回避するが、その所為で助けに行こうとしていた部下から引き離されてしまう。
「クソッ!」
その事に舌打ちをするシーマだが、絶体絶命の部下への救いの手は思わぬところからやってきた。
「うおおおおおおおおっ!!」
「あのザク! バーニィの坊やか!?」
ヒートホークを手に鍔迫り合いをしている横合いからジーラインへ襲いかかったのはバーニィが乗るザクⅡ改だった。
身体ごと叩きつける勢いで振り下ろされた灼熱の刃は、ジーラインのサーベルを持つ腕を肘から斬り落とす。
「このクソ雑魚がぁ!!」
「うわぁっ!?」
だがジーラインは素早く崩れた体勢をリカバリーすると、鍔迫り合いをしていたゲルググを踏み台にしてバーニィのザク改へ回し蹴りを叩き込む。
「ザクの分際で舐めやがって! 粉々にしてやる!!」
そしてバックパックに装備された4連装機関砲、『ガトリング・スマッシャー』を起動させてザク改へ狙いを付ける。
「うわっ!? だ…ダメだ!!」
まだ操縦経験の浅いバーニィは蹴りの衝撃で吹き飛ばされた状態から復帰できていない。
己の無惨な死を連想して固く目を閉じるバーニィ。
しかし彼が弾丸の雨を浴びる事は無かった。
「ウチの下っ端をやらせるかよ!」
ザクに注意が向いた隙を突いて、最初に相手をしていたゲルググがジーラインの胴を背後からナギナタで串刺しにしたからだ。
悲鳴を上げる間もなくビームの刃で消滅したパイロットの後を追うように、動力炉を貫かれていたジーラインはゲルググが離れると内部から爆発した。
「生きてるか、新入り」
「は…はいっ!」
その火球を背後にゲルググはリカバリーにもたついているバーニィに手を差し伸べる。
「馬鹿野郎が。お前の任務は艦隊の直衛だろうが」
「すみません……」
「けど、助かったぜ。あと次からは狙うなら腕じゃなくて胴体か頭にしろよ」
「はい!」
ゲルググのパイロットに激励を貰って、バーニィは本来の持ち場へ戻っていく。
このようにアズライール隊と一対一で対処できるのはラルやシーマなどのエースクラスのみ。
他の人員は2~3対1という状態に持って行かなければ抑える事はできない。
そこに核搭載機への警戒と迎撃が噛んでくるのだ。
ジーラインの数は十機ほどとはいえ、これでは亡命艦隊の面々が引っ掻き回されても仕方がない。
「コズン! クランプ! 護衛機はワシが引き受ける! お前達は他の兵士達を指揮して核を持った奴等を狩れ! 絶対に防衛網を抜かせてはならんぞ!!」
「了解!」
「テロリスト共め! 少しばかり動きがいいからって調子に乗るなよ!!」
ジーラインの一機を袈裟斬りに両断したラルの指示に、クランプとコズンのゲルググは彼の元を離れていく。
「さて、ワシ一人で何機抑えられるか……」
機体のレーダーとモノアイが映し出すメインモニターの画像に目を走らせながら、ラルはシールドグラスの奥でペロリと舌で唇を濡らす。
ラルがジーラインを圧倒できた理由は二つ。
一つはここへ来るまでに愛機へ強化改造を施した事だ。
今の青いゲルググには亡命艦隊のジムが背負う大型バックパックが装備されている。
これによって素のままでもガンダムに匹敵すると言われた推力は大幅に強化され、バックパックに備わったサブアームへビームガンを装備する事で火力も向上を見た。
そしてもう一つはアムロやマリーとの模擬戦で、ガンダムとの戦闘経験を積んだことだ。
ガンダムはジーラインの基となった機体。
トップレベルのパイロットが扱うそれ等と幾度も手合わせをすれば、自ずと機体の限界と行動のセオリーが見抜けるようになる。
それらの要因からラルはジーライン達に対して大きなアドバンテージを得る事が出来た。
しかし相手も手練れと高性能機。
二機、三機と連携を組まれては劣勢は免れないだろう。
「ふっ、下手な考え休むに似たりか。どう転ぼうが、ハモンと腹の子の為にも負けるわけにはいかんのだからな!!」
己を鼓舞しながら宙を駆ける青いゲルググ。
彼が次の標的にしたのは、亡命艦隊のジムがサブアームで構えたシールドを斬り飛ばしたジーラインの一機だ。
「やらせはせん!」
気合と共にハイパーバズーカを放てば、ジーラインはラルの方へ頭部を向けることなくジムの腹を蹴り飛ばし、その反動を利用して回避行動を取る。
「あの反応、奴もまた手練れか! だがっ!!」
相手の鋭い動きに警戒を高めたラルだが、モニターから視線を固定しながらも左手は素早くコンソールにあるキーボードを叩いている。
それによってバックパックに備わったサブアームが動き、備え付けられたビームガンの照準内にジーラインを捉えた。
「もらった! むぅっ!?」
そうして相手の胴を射抜くべく引き金を引こうとしたその時、どこからか飛んできた大型ミサイルがジーラインを爆散させた。
ラルがミサイルが来た方向へモノアイを向けると、一機のコア・ブースター・プラン004がラルの乗るゲルググの上を通り過ぎていく。
「こちらガルム1。ラル大尉、獲物を奪ったようで申し訳ありません」
コアブースターからであろう通信を耳にしたラルは少し驚いた。
何故ならスピーカーが吐き出した声音は若い女性のモノだったからだ。
「いや、気にするな。こんな状況だ、敵を墜としたのが誰かなど気にしている余裕はない」
「了解しました。では、本官は引き続き遊撃として任務を続行します」
「頼む」
ラルの言葉への返事のようにエンジンを吹かすと、コアブースターはあっという間に小さくなる。
「亡命艦隊の中に戦闘機を好む風変わりな兵がいるとコズンから聞いていたが、あれがそうか」
この混線の中で遊兵を担い、なおかつ手練れを落としたガルム1は相当な腕前の持ち主だろう。
そのような逸材がジオン時代に埋もれていた事を不思議に思ったが、それはそれ。
心強い仲間が増えるのは大歓迎である。
そんな事を考えていたラルだが、すぐにその余裕は無くなった。
「クソッ! こちら六番隊、防衛網を抜かれた!! ペガサス! 佐藤! そっちに2機行ったぞ!! 一機はジーライン、もう一機は核装備のジムだ!!」
「なんだと!?」
最悪の凶報が舞い込んできたからだ。
時間は少しの間遡る。
マリーからライフルを受け継いだ佐藤は、ペガサスの甲板で狙撃を続けていた。
「これで三つ!」
テロリストたちが迎撃に出た事を機に、標的を戦艦からMSへと変更した佐藤のジムはペガサスからライフルを切り離している。
取り回しの良さが増した事もあり、彼はこれまでに3つ撃墜スコアを伸ばしていた。
「乱戦の中で敵を狙うのはキツいぜ。というかレビルの野郎、ジーラインまで持ち出して来るとはな」
彼の知る歴史ではジーラインはコストの都合や開発期間などの諸事情により、宇宙世紀0081に起こるジオン残党のテロ『水天の涙作戦』まで日の目を見る事は無かったはずなのだ。
現状において原作知識などほぼアテにならないのは分かっているが、それでも実際に付きつけられれば詮無い気分になる。
しかし佐藤がそんな感傷に浸っていたのもつかの間だった。
「こちら六番隊、防衛網を抜かれた!! ペガサス! 佐藤! そっちに2機行ったぞ!!」
「なにっ!?」
前線で戦う仲間からの警告から間を置くことなく、狙撃銃にリンクした望遠スコープには核装備と思われるジムを伴ったジーラインが映し出される。
「この野郎! 来るんじゃねえ!!」
即座に照準を合わせて引き金を絞るが、放たれたビームをジーラインは易々と躱してみせる。
相手は狙撃手たる佐藤の存在に気付いていた。
そして最優先で黙らせるべきと判断して向かって来ているのだ。
「ちぃっ! もうライフルだとダメか!!」
間合いを詰められた佐藤はライフルを背面の腰部にマウントすると、左右の腰に装備していたショートバレルのビームガンへ持ち換える。
「これならどうだ!!」
そして左右の銃口からビームを乱れ撃つ佐藤。
しかしジーラインは僚機のジムの前に陣取ると、構えたシールドでビームを防いでしまう。
「その盾、ビームコート付きかよ!?」
佐藤が上げた驚愕の声に帰ってきたのはジーラインの放ったビームライフルの光弾だった。
「しまっ!?」
咄嗟に回避行動を取ろうとした佐藤だったが、彼は一つ失念している事があった。
それは狙撃の邪魔になるという事で、バックパックを何時ものロケットモーター付きの大型ではなくジムのスタンダードな物へ換装していた事だ。
その誤差はこの場においては致命的だった。
「うおおっ!?」
なんとか胴体への直撃は避けたものの、ビームガンを持った左腕を肘の辺りから撃ち抜かれてしまう。
「ぐっ……クソッタレがぁ!!」
しかし、佐藤も一年戦争をここまで生き残ってきたガノタである。
この程度で諦める程柔ではない。
スラスターを吹かせて被弾の衝撃を逃すと、そのまま左右へ小刻みに動きながら生き残った右腕でビームガンを連射する。
「へへっ! 甘いんだよ!!」
しかしジーラインは佐藤の放った光弾を次々に躱すと、カウンターとばかりにビームライフルを放つ。
「くそっ!」
同じ連邦製ゆえだろう、ジーラインのパイロットの嘲りを歯噛みしながら佐藤は回避行動を取る。
襲い来る敵の光弾の一射目はなんとか回避し、そのまま狙いを付けられない様にランダム軌道で間合いを取る佐藤。
相手も歴戦の猛者である。
佐藤の回避パターンを予測しての二射、三射と光弾を放ってくる。
何時もに比べて機動性の落ちている佐藤の機体では、その射撃を躱しきる事はできない。
「うおぉっ!?」
二射目に頭部を吹き飛ばされてバランスを崩した佐藤のジムは、胴体を掠める形で受けた三射目によってコックピットを保護するハッチを半ば吹き飛ばされてしまう。
ギリギリ直撃を避けたとはいえ、コックピットを襲った衝撃は強烈だった。
朦朧とする意識の中で佐藤の目に映ったのはメインカメラの映像が消え、機体コンディションが危険領域を示す警告灯で真っ赤に染まった操縦席だ。
そんな中、彼の意識を叩き起こしたのは同じ連邦製MS故に繋がった敵の言葉だった。
「腐れスナイパーが、ざまあねえ。おい、ペガサスに核をブチ込んでやれ」
「アイツに止めを刺さなくていいんですか?」
「奴には仲間が何機も殺られたんだ、必死こいて護ろうとした船ごと消し飛ばしてやるんだよ!!」
下卑た笑いを含んだ男の声に佐藤はシールドグラスの内側で歯を食いしばる。
彼がガンダムに傾倒するようになった切っ掛けは『機動戦士ガンダム00』に登場したロックオン・ストラトスことニール・ディランディというキャラに惚れたからだ。
普段は飄々としながらもソレスタルビーイングの輪を保ち、仲間を護る為に命を燃やした漢。
幼かった佐藤にはその生きざまが酷く格好いいモノに映り、ああいう風に生きたいと思ったものだ。
「俺の前で…仲間を…殺すだと?」
だからこそ、佐藤には敵の放った言葉が許せない。
自分はロックオン・ストラトスを、憧れの男の名前を名乗ったのだ。
なのに己が仲間を守れないのか? 彼等が死ぬ様を見ているのか?
そんな結末など認められない。
推しの名を名乗っておいて、そんな無様を晒せるわけがない!
コンソールを操作してエンターキーを押せば、まだ生き残っている右腕がゆっくりと動く。
幸い、それは胴体部の陰になって敵には見えていないようだ。
「いかん! 各砲座、核武装のジムを狙え! 奴に撃たれたら終わりだぞ!!」
ドク艦長の焦った声と共にペガサスからの迎撃射撃が激しさを増す。
しかしジーラインとジムはその射撃を難なく回避してみせた
「そんなモンに当たるかよ! やれ!!」
「応!!」
半ばから破損したコクピットハッチの先、そこに浮かぶのはジーラインと核の発射体勢に入ったジム。
被弾の衝撃で切った頭の傷から流れる血で右の瞼を閉じているが、彼の左目は標的をしっかりと捉えていた。
「よし、いけぇ!」
「くたばれ、腐れジオン!!」
そうして破滅の弾頭が放たれた瞬間、佐藤は吼えた。
「舐めんじゃねえ! ガノタが推しの名前を名乗るのはなぁ! 軽いもんじゃねえんだよ!!」
その咆哮に応えるように、死に体だった彼のジムが残った腕で背中にマウントしていた狙撃ライフルを引き抜く。
迷いなく向けられた漆黒の銃口が捉えるのは、ジム・エキスプレスから切り離されたばかりのロケット弾だ。
「なにっ!?」
通信機から敵の驚きの声が漏れる中、佐藤は声の限りに叫ぶ。
「狙い撃つぜぇぇぇぇぇっ!!」
佐藤の意地と憧憬が籠った一射、それは加速を始める寸前の核弾頭を狙い違わずに撃ち抜いた。
次の瞬間、膨張し巨大な真円を描いた原子の炎がジムとジーラインを包み込む。
核を以て自分の憎む者を焼き払わんとしていた彼等にとって、この結末は皮肉以外の何物でもないだろう。
「ざまあみやがれ……」
そう呟くと佐藤はぐったりと身体をシートに預ける。
神経を使う狙撃に加えて格上との戦闘、そして被弾のダメージ。
彼の身体はすでに限界だった。
「うおおおおおおおっ!!」
「なっ!?」
だからこそ彼は反応できなかった。
半壊しながらも核の炎から飛び出してきたジーラインに。
「ジオンのクソッタレ共がぁ! 俺一人で死ぬものかぁ! お前も道ヅレだぁァァァ!!」
狂気に満ちた叫びと共に装甲が解け崩れ、フレームがむき出しになった右腕でビームサーベルを振り上げるジーライン。
「うわっ!?」
もはや機体も己も余力が残っていない佐藤はキツく目を閉じる事しかできない。
しかし、彼に滅びの一刀が降り注ぐ事は無かった。
強烈な金属同士のぶつかり合う衝撃で佐藤が目を開くと、そこにあったのは右手の甲に備わった大バサミでジーラインの胴を挟み込むモスグリーンの機体。
「な…なんだお前はァ!!」
「スガイ小隊参上だ、バカ野郎!!」
声の主が凄絶な笑みを浮かべていることが分かる獰猛な声、それと共に火花を散らしながら重い金属音が響く。
「うぁ……っ!?」
その出どころはジーラインを捕えているハサミの付け根、そこから生えたモノにジーラインのパイロットは背筋を凍らせる。
それは連邦の一部で一撃必殺の牙と怖れられる武装、パイルバンカーだった。
「どんな新型でも撃ち貫くのみ!!」
スガイ衆の一人が上げた裂帛の気合と共に、炸薬の硝煙を上げながら放たれる鉄杭。
「……っ!?」
満身創痍の身でそれを受けたジーラインは胴を粉砕され、パイロットもその破壊に巻き込まれて逝った。
「おい、生きてるか。ロックオン(笑)」
「(笑)つけんじゃねーよ。というか、それがお前等に与えられたザクの成れの果てか」
「ああ、イカすだろう?」
そう言いながら佐藤のジムを掴むと、スガイ衆が操るザクは頭部にあるターレットレンズを回す。
「イカすというよりむせるだな。つーか、そのターレットレンズはどっから持ってきた」
「ザクフリッパーの没になったパーツ。コイツが顔に付いた時点で俺達のザクは最低野郎になったのだ」
コンスコン隊との戦いでジムを失ったスガイ衆だが、生憎と亡命艦隊には彼等の予備機となるジムは残っていなかった。
それを補う方法として決まったのが、ダイクン派が持ってきた物資の中にあったザクを割り当てる事だった。
もちろん、今更素のザクでは戦いについて行けない。
そこで彼等が保有する物資を使って現地改修する事になったのだ。
そうして外人部隊のチーフメカニックであるメイ・カーウィンを始めとする整備班に弄繰り回されたザクは、文字通り原型を留めない別物の機体となってしまった。
その外見が某ロボアニメで活躍した動く棺桶なのは、整備班に紛れていた粋な趣味人達の計らいだ。
「ともかく回収するぞ。まだヤバい爆弾持ちはいるからな」
「すまねえ」
そうして九死に一生を得た佐藤はペガサスへと生還を果たした。
その後、佐藤はかなりの間【ロックオン(笑)】と仲間内でからかわれる事になる。
当人は擦られる度に怒るのだが、声とは裏腹に緩んだ顔からは満更でもない気持ちが見えていたという。
◆
シャアとベアの戦いは熾烈を極めていた。
「そこだっ!」
「むおっ!?」
背部のロケットモーターを点火する事で更なる加速を得た赤いガンダム。
流星の如く飛び回りながら放ったビームライフルの一撃が、フルアーマーガンダムの右脇腹に突き刺さる。
しかし重装甲に施された耐ビームコーティングは、本来であれば射貫くはずの光弾を装甲に食らいつく前に飛沫として弾いた。
「野郎! やってくれるじゃねえか!!」
素早く体勢を立て直して右手にある二連装ビームガンを放つベア。
「大口径の武器は脅威だが、そうそう当たるモノではない!」
紅いガンダムの進行方向と速度を読んでの偏差射撃だったのだが、シャアは胸部の増加装甲と前に出した両足の脹脛に備わったブースターを吹かして強引に上へと飛ぶ。
その反応と動きはベアに知りたくない事実を突きつけた。
「テメエ、勘が良かったのかよ!?」
「ああ、今も冴えに冴えているぞ!」
ベアの咆哮にも似た叫びに返ってきたのは、紅いガンダムのバックパックから生えたサブアームが持つ二丁のビームガンが吐き出す連続射撃だ。
「くそったれ!」
上から降ってくるメガ粒子の雨を鳩尾と左胸の上に受けながら、ベアは半ば横っ飛びのように機体を逃がす。
先ほどのシャアは、こちらが引き金を引く寸前に方向転換の動きを始めていた。
それはシミュレーターネットワークで時おりお目にかかる『勘が良い』パイロットが行う先読みと同じモノだ。
「前はそんな動きしなかっただろうが! 三味線引いてやがったな!!」
「ふっ。上に行くには勘頼りだけではダメだと思ってな、君との対戦では基礎を鍛え直していたのだよ!!」
肩に備わった360mmロケット砲を連続で放つベアだが、その砲弾の間を縫うようにして回避する紅いガンダム、
「チィッ! 厄介な!!」
相手がビームサーベルを抜き放ったのを見たベアは、自らも抜刀して加速をつけた打ち下ろしの一撃を光刃で受け止める。
ベアも例のシミュレーターネットワークで名を馳せた身だ。
多少勘が良い奴が相手でも、それ頼りの輩なら物の数じゃない。
しかしシャアは勘抜きにしても十分にエースを張れる実力者。
そこにインチキめいた先読みが乗ってくるとなれば、その脅威度は推して知るべしだ。
(ヤバいぜ、このガンダムは装甲の所為で咄嗟の反応がどうしても遅れる。接近戦は悪手だ!)
基礎は同じ機体ゆえに拮抗する鍔迫り合いの中、ベアはなんとか相手を押し返そうとレバーを前に押し出す。
自身の乗るフルアーマーガンダムの真価は遠距離戦にある。
なんとかしてその土俵へ押し戻そうと考えたのだ。
「離れろォォォッ!!」
ダンスを踊るかのように二度三度と回転した後、フルアーマーガンダムは紅いガンダムを押し返す事に成功する。
しかし次の瞬間に二人の間に紅い閃光が奔った。
「なにぃっ!?」
それによってフルアーマーガンダムの胴を覆う強化装甲は逆袈裟に断ち割られ、護るべき本体から離れて宙を漂う。
「足に…ビームサーベルだと!?」
そう、さきほどベアを襲ったのはアッパーキック気味に振るわれた紅いガンダムの足に備わったビームサーベルだったのだ。
今までベアを護ってきた耐ビームコーティングはメガ粒子砲の持つ高エネルギーを蒸散、減免する効果のある塗料で機体をコーティングする事で完成する。
そしてビームが直撃した際には施されたコーティングが蒸発・溶融することでビームの威力を減衰し,機体本体を損傷から守るのだ。
それ故に何度もビームを無効化する事はできず、また強力な出力のビームを防ぐ事も出来ない。
「ジョーカーというモノはここぞという時に切るものだ!」
ガンダムのコックピットの中で不敵に笑うシャア。
テム・レイからその構造を聞いていた彼が選んだビームコーティング対策は後者だった。
ビームサーベルはメガ粒子の刃を継続して創り出す事からライフルなどの飛び道具より出力が高い。
だからこそ同じガンダムを駆るベアが知らないサーベルの一撃、すなわち現地改修で備わったビームカッターによる蹴りを狙っていたのだ。
「しまった!」
状況の拙さに慌てて離脱しようとするベアだが、それを見逃す程シャアは甘い男ではない。
「これで固く閉ざされていた城門は開いた! 貴様の負けだ!!」
ベアが動くよりも早くサブアームのビームガンを進行方向へ向けると、その引き金を引いた。
そして銃口から吐き出された光弾は、まるで吸い込まれるかのように逃げようとしていたフルアーマーガンダムの胴を貫いたのだ。
「すまねえ、ミア、アリア」
貫かれた動力炉が火を噴くまでの数秒間、その間にベアの頭を走馬灯が駆け巡る。
彼がレビルに加担した大きな理由は、コロニー落としによって妻子を失った事だ。
当時宇宙軍で戦闘機のパイロットをしていたベアはジオン軍のザクに惨敗した屈辱に加えて、地球へ撃ち込まれるコロニーを止められなかった事に大きな自責の念を抱いていた。
そこへ最愛の妻と娘の訃報が飛び込んできたのだ。
夜ごと酒に逃げ、繁華街に出向いてはゴロツキや酔っ払い相手に大喧嘩をして憂さを晴らす。
当時のベアの荒れ様は、よく妻子の後を追って自ら命を絶たなかったモノだと感心するほど酷いモノだった。
とはいえ、そんな自暴自棄も長くは続かず、それが終われば次に来るのは悲劇の元凶たるジオンへの憎悪だ。
胸で燃え盛る暗い感情のままにMSへの機種転換を行ったベアは、開発黎明期からシミュレーターネットワークで必死に腕を磨いた。
しかし、再び実戦に出た彼はジオン軍もまた自分達と同じ人間であるという事を突きつけられてしまう。
もちろん妻子の仇であり、地球侵略を行う敵に情けは無用なのはわかっている。
だが、ベアは本来気は優しくて力持ちを地でいく性格だ。
一度そう認識してしまうと憎悪に歯止めがかかるのは否めなかった。
だからこそ、自分の心と憎悪に折り合いをつけるため彼は憎む対象を絞った。
兵や人間ではなく、ジオンという国をこの世から消す為に戦おうと。
しかし苦肉の策で生み出した目標も連邦がジオンを残す為に動いているという情報と、ジオン共和国亡命政府という証拠によって打ち砕かれてしまう。
結果、目標を失って再び自暴自棄になったベアは、せめて復讐だけは遂げようとレビル達の決起に参加したのだ。
「ああ…そうか……」
死を目前にして心の曇りが晴れたベアは気付いた。
もし、このテロが成功したら自分はあれほど憎んだコロニー落としの犯人達と同じになるという事に。
そうなれば、天国にいるであろう家族とは永遠に会えないだろう事にも。
「俺は本当に馬鹿──」
自嘲と共に吐き出した呟き、それと同時にフルアーマーガンダムは火球へと変わる。
そしてベアもまたこの世から姿を消した。
しかし彼の想いは空の藻屑となった訳ではない。
「ハインツ・ベア、お前の無念は受け取った。必ずや悲劇の元凶たるザビ家へ叩きつけてやろう」
それは刃を交えたシャアに彼の感応能力を通して伝わっていたのだ。
強敵の思いを胸に刻み、シャアはジーラインを倒した部下二人を連れてレビル率いるテロ艦隊へと向かうのだった。
ふと浮かんだ一発ネタ・コズミック・イラのマチュ
この世界のマチュはハルマ・ヤマト、カリダ・ヤマト夫妻の一人娘として生まれる。
名前はマリ・ヤマト。
マチュと呼ばれる理由は本編と同じ。
ガンダムSEED開始時の年齢は9歳で、月面都市コペルニクスからヘリオポリスへ移住するまでの僅かな期間オーブ本国で暮らしていた際、マユ・アスカと友人になる。
キラとは兄妹(本来は従兄妹)で7歳差でも兄弟仲は良好。
月からヘリオポリスへ移住した後は、私生活は割とだらしなくて天然なところがあるキラをアスランに代わってマチュが何くれと面倒を見ていた。
CEでも数少ないニュータイプであり、その能力の高さから幼少期は肥大する感応能力に悩まされる。
しかしハルマが日系人だった事もあって、父から日本拳法や剣術を習い、さらに様々な武道系の書物に触れた事でそれを克服。
日本人よりに武士らしい娘に成長し、ハルマはカリダにガチ説教を食らった。
趣味は鍛錬と読書、そしてゲーム。
特にキラが何処からともなく仕入れてきたプログラムを基に、トールを始めとするカレッジの友人たちが組み上げた筐体ロボゲーがお気に入り。
ザフトによるヘリオポリス襲撃の時は小学校へ通っていたが、避難の際に他の生徒とはぐれてしまう。
シェルターを求めて直感任せで進んでいる内にオーブの隠し工場に迷い込み、この世界では予備パーツではなく組み上げられていたプロトアストレイ5号機(後のアストレイ・ミラージュフレーム)を発見する。
脱出の為に乗り込んだモノのOSが全く使い物ならなかったために動かす事が出来ずにいたが、コクピットのインテリアに携帯端末の接続口を見つけたマチュはイチかバチか常に持ち歩いていたロボゲーのデータが入った端末を差し込む。
するとロボゲー内にあったキラの組んだ操縦システムが未完成のOSを書き換え、プロトアストレイは動くようになる。
こうして無事に秘密工場を脱出したマチュだが、その際に4機のGを奪取しヴェサリウスへ帰還途中のクルーゼ隊と遭遇してしまう。
果たしてマチュは無事にオーブへ帰る事が出来るだろうか?
うーん、妄想乙