……終わったよね?
ふふ…今回も精魂尽き果てましたので、お暇なら見てください。
ブルーディスティニー3号機。
それはジオンから亡命した科学者クルスト・モーゼスが生み出した、ブルーディスティニーの名を冠する試作MSの三番目の機体である。
3号機は本来は1・2号機のパーツ取り用の予備機だったが、2号機がジオンの騎士ニムバス・シュターゼンによって奪取された事件があって2号機のカウンターとして急遽組み上げらえた。
予定では2号機追撃の任に当たったモルモット隊に配備される筈だったのだが、パイロットに指名されたユウ・カジマが3号機の搭乗を拒否。
宙間戦闘用に改造したガンダム・ピクシーと共にニムバスを追って宇宙へ上がった為、3号機はクルストの研究所にそのまま放置されたのだ。
それから件の機体は、星一号作戦で連邦の主力が宇宙へ上がるドサクサにレビルに賛同した者達によって回収され、秘密裏にルナツーへと運び込まれた。
そしてテロリスト達が本懐を遂げるための露払いを務める死告天使の名を冠した精鋭部隊、アズラーイール隊へ配備されたのだ。
『恐ろしい奴! 冷たい奴! 消えてしまえ!!』
デュアルアイを深紅に輝かせながら3号機はビームライフルを連射する。
並のパイロットならば反応すら出来ずに撃墜されるであろう鋭さを持った3つの光弾、それを紅い胴のアレックス・プロトは容易く躱してみせる。
「このぉっ!!」
3号機と同時に黒いフルアーマーガンダム7号機も手にしたビームライフルを連射するが、それもプロトを捉えることはない。
「なんて機動性だ! さっきまでは手を抜いていたとでもいうのか!?」
通信機を通してガンダム7号機のパイロットが吐き出した苛立ちが3号機のコクピットに響く。
彼の言う通り、プロトの回避方法は馬鹿げた推力を活かして敵の射撃を振り切るだけに留まらない。
ガンダム7号機が放ったビームは、その間を縫うようにして躱しているのだから。
「なんて動き──ぐわぁっ!?」
異様な軌道を描く敵機の曳光に驚いていたガンダム7号機の声は途中で悲鳴へと変わる。
モニターを向ければ、プロトが放った反撃の一射によって右腕の半ばごとビームライフルを喪失していた。
このまま遠距離戦を行っていても埒が明かない。
そう考えた3号機は自らも加速し、ドッグファイトへ持ち込もうとする。
『逃がさない! 私を傷つける奴、怖い奴はいなくなれ!!』
「が…あぁ……!?」
ひとりでに外れたリミッターによって殺人的な機動を取る機体のGに晒される中、脳内に響く聞いた事のない少女の声によって3号機のパイロットは吐血でヘルメットのシールドグラスを汚しながら呻く。
この少女の声こそブルーディスティニーの最大の特徴であり、同時に呪いと言っても過言ではない。
3号機を始めとするブルーディスティニーシリーズには、クルストが生み出した戦闘用OS『EXAMシステム』が搭載されている。
亡命当初クルストは『EXAMシステム』を売り込む際、連邦にニュータイプの戦闘能力を再現したサポートシステムと説明していた。
しかし真実は違う。
このシステムはニュータイプが現人類を駆逐する存在であると考えたクルストによって制作された、対ニュータイプ殲滅システムなのだ。
『EXAMシステム』はマリオン・ウェルチという一人の少女の精神がシステムに取り込まれた事で完成した。
EXAMは戦場に於いてニュータイプの感応波を電磁波という形で感知する能力を持つ。
そしてニュータイプの存在を察知するとシステムが起動。
機体のリミッターを解除してパイロットの安全も顧みず、ニュータイプを殲滅すべく襲いかかるのだ。
前述のとおり『EXAMシステム』の中にはマリオンの意志は存在しているが、それはEXAM自体がクルストの妄執が生み出したものであることやシステム的に殺しをさせる思考を持つ道具である事実の影響を受けて大きく歪んでしまった。
ブルー1~3号機、そしてジオンで開発されたEXAM機であるイフリート改と、己の存在が4つに増殖していた事もマリオンの暴力性を引き出す要因の一つといえる。
結果、彼女は生と死が混在する戦場の中で自分を傷つけるモノを憎み、その可能性が高い機体を敵味方構わず優先的に排除する死神と化した。
疑似ニュータイプとして機体の性能を限界まで引き出す『EXAMシステム』は凄まじく、ブルーディスティニー1号機やイフリート改は戦場で目を見張る活躍を見せた。
敵の部隊を単騎で殲滅やミサイル基地を一機で陥落させるなど、常識はずれの戦果を叩きだした事もある。
それでも3号機はアレックス・プロトに追いつくことはできない。
それも当然だ。
同じG-4プロジェクトで産まれたとはいえ、3号機の素体になったRXー80は次世代MSの雛型として量産を前提にした機体。
対するプロトことガンダムNT-1は人間を超える反応速度を示すというニュータイプが扱う事を想定し、連邦の持てる最新技術を惜しみなく注ぎ込んだ特注機だ。
のちの世で宇宙世紀のオーパーツと言われる程に現行機の中でも桁外れの推力は、例え100%の性能を引き出しても3号機が追い付けるものではない。
『照準が、狙いが定まらない……!?』
自身に後ろを取らせながらもランダムに軌道を変えるプロトの動きは、EXAMが操る照準すらも振り切ってみせる。
EXAMが狙いを付けようと調整を急ぐ中、プロトはこちらを振り返る事も無く背面撃ちでビームライフルを放つ。
その一射は反応できないシステムの愚鈍さを嘲笑うかのように、3号機の左肩を撃ち抜いて盾ごと腕を付け根から引きちぎった。
「がっ!? ぐあぁっ!!」
着弾の衝撃がパイロットをさらに死の淵へ追い込んだようだが、EXAMには気にする余裕などない。
3号機のセンサーは動きを止めたこちらへ向かってくるプロトを察知しているのだから。
「このっ! 僕を無視するな!!」
EXAMの中で次の一手を模索していると、横合いからプロトへ向けてミサイルが飛んできた。
それは先ほど主武装を失ったガンダム7号機が放った物だった。
ミサイルはプロトを巻き込んで爆発したものの、EXAMはこの程度で難敵が堕ちない事を確信していた。
ブルー3号機のカメラは、爆発の前にプロトが頭部バルカンを使ってミサイルの迎撃を行っているのを捉えていた。
そして爆炎の奥からは、まだ身の毛のよだつような殺気が残っているからだ。
とはいえ、今追撃を掛けるのは得策ではない。
相手とて視界が消えた状態では警戒しているに違いない。
下手に手を打てば、察知されてカウンターを取られる危険がある。
──狙うなら最も相手の気が緩む時。
視界を取り戻すであろう、煙が晴れる瞬間だ。
そう考えていたEXAMだが、爆炎が消えた先に現れたモノに彼女は虚を突かれる事となった。
何故なら、そこにあったのはシールドとビームライフルのみ。
肝心のプロトの姿が何処にもなかったからだ。
いったいどういう事かと混乱するEXAMだが、そんな彼女を背後から強烈なプレッシャーが襲った。
反射的に振り返れば、そこにあったのはプロトの姿。
むこうはすでに腕にあるビーム発信器を露出させている。
ライフルでは間に合わない、そう判断したEXAMが迎撃に選んだのは胸部に備わった有線ミサイル。
二門あるそれを発射しようとした瞬間だった。
背後から飛んできた光弾によって3号機の胴体が撃ち抜かれたのだ。
後頭部に備わったサブカメラでEXAMが見た最後の光景、それは主に棄てられて害など無い筈のライフルの銃口から棚引くメガ粒子の残滓だった。
ブルーディスティニー3号機が火球と消え、最後のEXAMが破壊された事でマリオンの意識はシステムから解放された。
彼女は自分を解き放ってくれたのがどんな人物か気になった。
己と同じニュータイプ、ならば感応現象に応じてくれるはずだ。
意識が徐々に薄れていく中で接触を試みたマリオンだったが、その試みは上手くいかなかった。
「ひっ!?」
コクピットに座る金髪の女性と茶色い髪の女の子が見えた瞬間、プロトが強烈な殺気を放ったからだ。
本来のマリオン・ウェルチは戦場になど出る事のない心優しい少女だ。
EXAMから解放され、己の本質を取り戻した彼女にはその殺気は強烈過ぎた。
反射的に拒絶の意思を示すと同時にマリオンの意識は遠ざかり、次に目を覚ますと彼女は思念ではなく肉体を持ってジオン本国の病院のベッドの上にいた。
「マリオンちゃん、眼が覚めたのね!?」
驚愕と歓喜の感情が入り混じった看護師の声を聴きながら、マリオンは自分の戦争が終わった事を悟った。
一方、紅眼のガンダムを倒したプロトは再びガンダム7号機に狙いを定めていた。
7号機のコクピットの中でゼロ・ムラサメは苦虫を噛み潰した顔で機体コンディションを再確認する。
「残っている武器は頭部バルカンとミサイル。……あとはサーベルだけか」
今までの戦い、特にブルーディスティニー3号機が現れてからの敵の動きを思えばあまりに心もとない。
ましてや愛機が右手と左足を失っているのだ。
ゼロの不安に拍車がかかるのも無理はない。
それでも彼は逃げるわけにはいかなかった。
「僕が最強だと、本物のニュータイプだと示さなくちゃいけないんだ。そうでないと……」
自分に言い聞かせるように呟く彼の脳裏に過るのは、過酷な実験の日々と脱落し処分された同胞達。
役に立たなければ切り捨てられる。
身分の保証などない自分達には戦うしか生きる道はないのだ。
そうゼロが覚悟を決めるのと、プロトが動き出すのは同時だった。
プロトが選んだのは真正面から相手へ挑みかかる突貫だ。
「真っ直ぐに向かってくるなど、僕を舐めるのも……!?」
その行動を侮られていると感じ、言葉を吐き出そうとしたゼロ。
しかし次の瞬間、彼は驚愕で息を詰まらせてしまう。
「……なっ!?」
何故なら突然爆発的な加速を得たプロトが、瞬間移動のように己の懐へ飛び込んできたからだ。
その様はまるで連続するフィルムからプロトの移動という部分を切り取ったかのようだった。
「くっ!? だが……!」
それでもゼロは電光石火の踏み込みに対応しようとした。
相手を迎撃すべく、残った腕に持たせていたビームサーベルを振り上げたのだ。
しかし、いざ光刃を振り下ろそうとした瞬間だった。
「うぐっ!?」
機体を操作していたゼロの手が突然止まった。
「な…なんだ、この重圧は……! からだが…うご…かない……?」
コクピットのモニターに大映りになる碧のデュアルアイ。
そこから放たれる殺気が、まるで目に見えない縄のようにゼロの身体を縛り付けていた。
「う…動け…うご───」
まるで猛獣と出くわした小鹿のように、自らに牙をむく敵から目が離せなくなったゼロ。
その隙を突いてプロトは7号機の胴へビームトンファーの切っ先を叩き込む。
妙に板に付いたその動作は、まるでパイルバンカーを撃ち込むかの如し。
ゼロはコクピットのハッチを突き破って牙を剥いたメガ粒子の刃によって塵も残さずに蒸発した。
そしてガンダム7号機も攻撃を受けた衝撃で後ろへ吹き飛ぶと、そのまま火球となって宇宙へと消えた。
◆
「ふぅ……」
黒いガンダムが消滅したのを見届けたあたしは、シートに体を預けて小さく息を付く。
「姉ちゃん、大丈夫?」
「え…ええ」
あたしの問いかけに返ってきた姉ちゃんの声が少し震えていた。
プロトを本気で吹かしたうえに、アレまで使ったんだ。
いくら最新式の衝撃吸収シートに座っているとはいえ、身体に掛かる負荷は相当なモノだろう。
「ごめん。ちょっと無茶した」
「いいのよ。それだけ相手が強敵だったという事でしょう」
「ありがとう」
そう言ってくれた姉ちゃんに甘えて、あたしはまたプロトを動かす。
姉ちゃんを休ませてあげたいのはやまやまだけど、レビルや核を持ったMSが残っている。
まだ、のんびりとしている場合じゃない。
「そういえば……」
「ん?」
宇宙空間を漂っていたシールドとライフルを回収していると、不意に姉ちゃんが声を上げた。
「紅い目のガンダムを倒した時、ライフルが一人でにビームを撃ったわよね、あれってどうなっていたの?」
「ああ。ライフルを置いた時にね、遅延発射の命令を仕込んでおいたんだよ」
「遅延発射?」
「簡単に言うと設定した通りに間を開けてからビーム撃ちますって機能。それをセットした後、あたし達は奴の背後を取る事で相手の注意を引いた。で、奴がこっちに気を取られている隙にライフルが命令通りにビームを撃って相手を倒したってこと」
分かる人には分かると思うけど、この戦法はアンちゃんの鬼畜戦法の一つである『置きバズ2択』をパクったものである。
より正確さを高めるなら遅延信号じゃなくて短距離センサーを付けて遠隔操作で発射できるようにした方がいいんだけど、生憎とプロトにはそのキットは無かったんだから仕方ない。
「じゃあ、黒いガンダムを倒した時の急加速は?」
「あれはオーバード・ブーストってテクニック。機体の全スラスターを行きたい方向へ向けて、最大出力で同時に噴射するんだ。そうしたら短い間だけど爆発的な加速を得るんだよ」
このオーバード・ブーストだけど、実はあたしが考案した技だったりする。
かなり前に対戦開始二秒でアンちゃんを撃墜したって話が出たと思うんだけど、それって初めてコイツを使った時の話なのだ。
編み出した当初は『縮地』って呼んでいたんだけど、他の人達は誰もこの名前を使ってくれなかったんだよね。
それでロボゲーコミュニティの中で勝手に『オーバード・ブースト』という名前が付いちゃって、それが定着してしまったのだ。
縮地の方が必殺技らしくて格好いいじゃん、くそぅ。
この技術を身に着けた当初はヅダで瞬間的に間合いを詰めて、パイルバンカーの一刺しというのがあたしの必勝パターンだった。
まあ、対策を打たれるようになってからは、それも辞めたんだけどさ。
ちなみにアンちゃんが言うには、このオーバード・ブーストは高難度の技らしい。
進行方向に素早く機体各所のスラスターを合わせる方法や、同時に最大出力へ持っていく吹かし方のタイミングとか、その他諸々条件のハードルが高いんだってさ。
あたしは感覚で操縦する派なんで難しいと思わないんだけど、言われてみればロボゲーの中でも使い手は少ない気がする。
知る限りだとモルモット隊のリーダー『ハムタロさん』やチーム・ホワイトディンゴ隊長の「サモエド」、あとはモミアゲダンディも使えたはずだ。
今まで実戦で使わなかったのは姉ちゃんとタンデムしていたからだ。
最大出力による急加速なのでやっぱりパイロットに負担が行くからね、できれば使いたくなかったのだ。
「あと、あなた黒いガンダムを倒す時に何かしたでしょ?」
「ジャブローでBGSTって特殊部隊の隊長と組手をしたって言ったでしょ。その隊長さんが剣の達人で、威圧でこっちの動きを封じてきたんだよ。それが出来るかなって思って試してみた」
「出来たの?」
「個人的にはできたと思いたいけど、正直ビミョー」
一応ガンダムの動きは鈍ったっぽいから効果はあったんだろうけど、その辺はどうなんだろ?
それはともかくとして、姉ちゃんの回復の為に少し速度を落としていたプロトはレビル達が乗る敵艦隊へと辿り着いた。
『アンディ! リカルド! 邪魔な護衛は私が引き受ける! お前達は船を優先的に狙え!!』
『了解!』
『背中は任せますよ、少佐!』
入ってきた通信と気配で視線を向けると、紅いガンダムが二機の改造リック・ドムを連れてテロリストの守備隊とやりあっていた。
どうやら兄ちゃんと部下ーズが先に攻撃を仕掛けていたみたいだ。
その兄ちゃんなんだけど、動きが普通にエグい。
ロケットモーターの加速を利用してすれ違いざまにジムの胴を横薙ぎにすると、背後にいる二機のガンキャノンを振り返る事無くサブアームのビームガンで迎撃する。
というか、あの速度でカッ飛びながら一発でコックピットをブチ抜くとか、狙いの正確性がヤバい。
さらに護衛のジムから右上、左下、後ろからハイパーバズーカを撃たれたら、進路上にあった船の横っ腹を蹴って(この時にビームサーベルを突き刺して動力炉を破壊している)上へと八艘飛び。
そのうえで狙ってきた三機の頭上を取って、ビームライフルとビームガンの一斉射で一網打尽にするし。
「おお! 兄ちゃん、また強くなってる!!」
「厄介ね」
いったい何がでしょうか、お姉さま。
いやいや、兄ちゃんの戦いに感心している場合じゃない。
あたし達も敵を倒さないと。
「この気配……」
「姉ちゃん、真正面から受けたら駄目だよ。あたしみたいに吐いちゃうから」
全天周囲モニターがズームで映すのは、ハリネズミのように対空迎撃を放っている中央のペガサス級だ。
そこから発せられる狂気と憎悪は最初に感じた時とまったく変わっていない。
多分、これを発している人は何が起こっても変わる事は無いのだろう。
そんな事を考えていると、青を基調にした見慣れないジムが二機立ち塞がってきた。
『これ以上、艦隊には手を出させん!』
『ジオンがガンダムに乗って俺達の邪魔をするとかふざけんな!』
怒りの感情をまき散らしながらこちらへライフルを向けてくるジム達。
けれど、さっきの戦闘で勘が冴えているあたしにはその動きはあまりに遅かった。
「邪魔」
ジムの一機との間合いを詰めながら、もう一機へ腕に備わったビーム発信器から光弾を放つ。
「なっ! はやっ!?」
抜き打ちのような形で放たれたビームはライフルの引き金を引くより早く相手のコクピットを撃ち抜いた。
「バート──!?」
そして僚機が堕とされた事に動揺している隙を突いて二機目のジムの懐に飛び込むと、左手に持ったシールドでライフルを跳ね上げて右手のビームトンファーで相手の胴を貫く。
「姉ちゃん、突っ込むよ!」
「ええ!」
操縦席を潰された事でバイザーから光を消したジム。
彼等を置いて、あたしはプロトを加速させる。
テロリストの艦隊は兄ちゃん達に翻弄されて統制が取れていない。
その隙を突けば大将首を獲れる!
こちらへ向けて放たれるビームや機関砲、それを間を縫うようにして躱しながら進む。
アンちゃんの言ったとおりだ!
弾幕の中を突っ切る方が、敵とも出会わずに最短で距離を詰められるから安全だって!!
バディがくれた助言が正しかったことを示すかのように、あたし達はあっという間にペガサス級の艦橋の前に辿り着いた。
宇宙空間を隔てるガラス越しに見えるブリッジでは、白い髭モジャのお爺さんをはじめとして、クルー達が焦りの表情を浮かべている。
『ジオンの娘が、我が軍の象徴たるガンダムで私を討つというのか!?』
お爺さん…レビル将軍のモノであろう怒りと理不尽、そして絶望が頭を過るけど、あたしはそれをあえて無視した。
敵の事情を知ったところで重荷にしかならないからだ。
「南無阿弥陀仏」
手向けの言葉と共にビームトンファーを叩き込むと、ブリッジで大きな爆発が起きてペガサス級は沈黙する。
『大丈夫か、二人共?』
兄ちゃんの声に右を向くと、全天周囲モニターに紅いガンダムが映る。
あたし達がレビルを狙っている間に、兄ちゃん達が他の艦を倒していたらしい。
「うん。ちょっと疲れたけど、全然大丈夫だよ」
あたしがそう答えると、アンディさん達のドムも合流してくる。
「お疲れさん、マリーちゃん」
「ありがとう、アンディさん。そういえば、艦隊のみんなは大丈夫かな?」
「今、ファルメルから通信があった。迎撃に成功したらしい。被害は無しだってよ」
リカルドさんの言葉にあたしは胸を撫で下ろす。
シーマの姉御やラルのおっちゃんがいるとはいえ、やっぱり心配だったのだ。
「これで面倒なテロリスト達も終わりだな」
「ここはグラナダの目と鼻の先だからな、捉えるのがもう少し遅かったらと思ったらゾッとするぜ」
残骸になったテロリストの船を見回して話す二機のドム。
けれど、これで終わったと思っていたあたし達は次の瞬間、度肝を抜かれる事になった。
『緊急事態だ! テロリストの船が一隻、生き残ってグラナダへ向かっている!』
「えっ!?」
ペガサスのドク艦長の悲鳴染みた叫びにあたしは思わず絶句してしまった。
『ドク艦長、どういうことだ!?』
『奴等、戦闘が始まった際に保険として一隻船を逃がしていらしい。しかもコロニーや都市に近付く際、気づかれないように船にステルス機能までつけていたんだ! 一隻にどれだけの核が積まれているか分からんが、このままだとグラナダがヤバい!!』
兄ちゃんの問いかけに焦りながらドク艦長は答える。
普段ついている敬語が吹っ飛んでいるあたり、相当焦っているのだろう。
とはいえ、今はそんな事を機にしている場合じゃない。
「推進剤の残りは70%か。ドク艦長、今テロリストの船はどの辺?」
『ここから約80Kmほど先だ。まさか……』
こちらが言う事を察したドク艦長の顔色が変わる。
「あたしが追うよ。プロトの推進力ならギリギリ追いつけるかもしれない」
ここはグラナダの目と鼻の先、核攻撃を阻止出来たらギリギリ帰りの分も推進剤はもつだろう。
『待て、アルマリア! 一機で行くのは危険すぎる! それにグラナダはジオンの領土だ! 下手に乗り込めば、都市全てが敵になるんだぞ』
「でも、このまま見過ごすわけにはいかないでしょ? 奴等の核攻撃が成功したら、この戦争は泥沼になる。そうなったら、きっとサイド3は完膚なきまでに滅ぼされるよ。あたし達だって連邦軍に切られるだろうし、そうなったら孤立無援で叩き潰されるだけだよ」
『それは……』
「そうでなくても大量虐殺を指をくわえて見てるだけなんて、寝覚めが悪いったらないよ。という事だから、姉ちゃん──」
「それじゃあ行きましょうか、マチュ」
「……イエッサー」
危ないから兄ちゃんのガンダムに乗り換えてと言おうと思ったんだけど、振り返った瞬間に見えた眼力にあたしは白旗を上げた。
とにかく、今は問答をしている時間は無い。
けど、スロットルレバーを押し出そうとしたあたしを止めたのは兄ちゃんだった。
『私も行く、少し時間をくれ。アンディ、頼む』
『了解です』
兄ちゃんがそう言うと、アンディさんのリックドムが背中からパイプのような物を取り出した。
そしてそれを兄ちゃんのバックパックへと接続する。
「なにそれ?」
『こっちの推進剤を少佐に分けてるんだよ』
『俺達のリックドムは少佐のサポートが仕事だからな。ガンダムは推進剤をバカ食いする機体だから、こういう機能を付けてもらったんだ』
なるほど、補給の手間が省けると考えたら便利かもしれない。
『よし。リカルド、バズーカもくれ。グラナダに乗り込むとなれば、少しばかり残弾が心もとない』
『どうぞ』
リカルドさんのリックドムからバズーカを受け取ると、兄ちゃんのガンダムがこちらを向いた。
『待たせたな。では行こうか』
「うん」
兄ちゃんの言葉にあたしはプロトのスロットルを開ける。
『少佐、俺達も補給が済み次第すぐに向かいます。それまで無茶せんでくださいよ!』
『まかせておけ』
アンディさんの言葉を背に加速するあたし達。
かなりトバしているので亡命艦隊はあっという間にモニター背面から消え失せて、後に見えるのは蒼い宇宙空間だ。
そして兄ちゃんのガンダムは少し遅れ気味だけど、しっかりとプロトについて来てくれている。
流石はアンちゃんの高機動型にトンデモバックパックを背負っているだけはある。
「姉ちゃん、大丈夫?」
「ええ。さっきは少し辛かったけど、私もこの機体の加速に慣れてきたわ」
さすが我が姉、順応力の高さにはビックリである。
そうして飛ばしていると、プロトの推進量の残りが40%程度になった時に前方に光が現れた。
「あれは……!」
「間違いない、テロリストの船だ!」
もう月とその表面に造られた都市が見えている。
ここがグラナダなら連邦の船が通れるわけがない。
『艦長! 亡命政府軍の追手が!!』
『ガンダムだと!? ええい! 出せるMSは全て出せ! ピースメーカー隊の攻撃を援護するんだ! ここまで来て我等の復讐を邪魔されてたまるか!!』
焦った向こうがミスったのか、テロリストが発するブリッジの指示が通信機から流れる。
「アルマリア、グラナダは目の前だ! 護衛は私に任せて、お前は戦艦と核装備のMSを!」
「分かった!」
後ろにいる兄ちゃんに背中を任せて、あたしはスロットルを全開にする。
『やらせるか! おふくろの、兄貴の仇を討つんだ!!』
『宇宙のバケモンが! お前等に俺達の気持ちがわかるものか!!』
身体を打つ重圧と共に最高速に達したプロト、その前にジムの改造機らしき機体が立ちはだかる。
たしか、ジム・コマンドだったっけ?
奴等はこちらへビームガンを向けるけど、あたしは気にせず真っ直ぐに進む。
その理由は背後から飛んでくる砲弾とビームが示した。
『ぐわぁっ!?』
『ハインツ!? うがぁっ!』
ビームは狙い違わず右のジム・コマンドの胴を打ち抜き、砲弾は左の機体に炸裂して上半身を吹き飛ばす。
出所はもちろん紅いガンダムだ。
兄ちゃんが任せろって言ったんだもん。
あっちがちゃんと仕事をしてるのなら、こっちも頑張らないと立つ瀬がない。
「行かせるか!!」
戦艦の下部に潜り込んだあたしは、開いたハッチから外へ出ようとしていた核武装のジムに加速を乗せた蹴りで格納庫へ叩き込む。
「沈めっ!!」
そして格納庫へ向けてビームライフルを数発打ち込んで素早く離れる。
核搭載型のジムがいたうえに、少し角度を上にしてビームを撃ちこんだのだ。
『か、格納庫に攻撃が!? 船体のダメージが危険値を……!?』
『馬鹿な!? 我々はまだ何もしていないんだ……!?』
格納庫で起きた機体の爆発に加え、下から上へ船体を突き抜けたビームのダメージによって戦艦は小さな爆発を繰り返した後で巨大な火球となった。
これで大物は沈めたけど、まだ気を抜くわけにはいかない。
あたしがグラナダの方へ機体を加速させると核武装のジムが見えてきた。
どうやら奴は核弾頭の発射体勢に入っているようだ。
「させるもんか!」
オーバード・ブーストで一気に間合いを詰めたあたしは、後ろからビームトンファーで相手の胴を両断する。
そしてジムから放たれたばかりの核弾頭に、後ろへ下がりながら頭部バルカンを叩き込んだ。
あたしが安全圏まで下がるのを合図にするかのように核弾頭が破裂し、上半身と下半身が泣き別れになったジムを飲み込んで大きな火球となる。
やれやれ、プロトの推力がなかったら、こっちも巻き込まれてたかもだよ。
他の敵はいないかと意識の網を広げてみたけど、それはもう兄ちゃんが倒してくれていたようだ。
流石は赤い彗星、仕事が速い。
「姉ちゃん、これってアピールしなくていいのかな?」
「そうね。亡命政府の今後を考えたら、テロリストの核兵器を防いだって言った方がいいかもしれないわ」
今もグラナダから防衛の為にMSが上がってきているみたいだからね。
一応、敵対の意志は無いって事を知らせておいた方がいいだろう。
「えー、こちらはマ……じゃなかった、アルマリア・リム・ダイクンです。あたし達がここに来たのは攻めるためじゃありません。ここへ核攻撃をしようとしていたテロリストを止める為です。今はそっちと揉める気は無いので、このまま帰してくれるとありがたいです」
あたしは国際チャンネルをオンにすると、こんな感じで言葉を紡ぐ。
「この手の作法はよくわからないんだけど、これでいいんだよね?」
「ええ、十分よ。それじゃあ撤収しましょう」
少し不安になったので姉ちゃんに確認するとOKが出た。
善行を行ったとはいえ、ここは敵の本拠地。
兄ちゃんが防衛隊をけん制してくれている事だし、後は言い逃げするのみである。
そうしてグラナダに背を向けた時だ。
『こちらはグラナダ行政府代表、キシリア・ザビである。アルマリア・リム・ダイクン、先ほどの発言について事情の説明を求む』
通信機がどこか威圧感のある女の声を吐き出したのだ。
『少しお話をしようじゃないか。なあ、お嬢ちゃん?』
……キシリア・ザビって誰だったっけ?
今回のNGシーン(核攻撃を行おうとしていたジムを倒したのがシャアだった場合)
護衛のMSを倒したシャアは核攻撃を行おうとしていたジムを、全速力の勢いを込めた脚部ビームエッジで両断した。
シャア「ふぅ…なんとか間に合ったか」
キシリア「あの紅い機体……あれはキャスバル坊やか。まさか、敵地に飛び込んでまでグラナダと私を守ってくれるとは(トゥンク)」
シャア「(ピキーンッ!)ガルマ、私の手向けだ。姉上と仲良く暮らすがいい!!(超早口)」
グラナダ行政府にハイパーバズーカを三発打ち込んだ後に、バズーカ本体を投げつけてトドメにビームライフルで弾薬を誘爆させる紅いガンダム。
キシリア「ちょっおまっ!?」
キシリア・ザビ諸共グラナダ行政府は見事崩壊。
しかし都市部への容赦ない攻撃を行った事により、ジオン亡命政府の名に大きな泥が付くことになった。
《Mission fail》