あとはブラウ・ブロにエルメスときてア・バオア・クーか
がんばれ、俺!!
「レビルの始末は付いたか」
ジャブロー地下にある高級士官用の会議室。
そこにはゴップ大将をはじめとする軍のブレイン達が顔を揃えている。
「まさかチェンバロ作戦の隙を突いてくるとは、最初に聞いたときは肝が冷えたよ」
「ああ。いくらジオン相手とは言え、コロニーや都市部に核攻撃を行っては世間からのバッシングは避けられん」
「ただでさえ連邦軍はこの戦争で多くの泥を被っているのだ。そんな事になれば、政府が上層部の首を幾つすげ変えるか分かったものではない」
口々に愚痴を吐きつつ胸を撫で下ろすのは、退役を目前にしたベテランの将官達だ。
その言葉からは『ここまで軍内で必死にやってきたのに、レビルが暴走した余波を受けて晩節を汚すなど堪ったモノではない』という意識が透けて見える。
「それはさて置き、思った以上に使えるようですな。例の亡命艦隊は」
そう言いながら紅茶が入ったカップを持ち上げるのは、この会議の中では比較的年若い初老の男だ。
グリーン・ワイアット。
会議に参加しているメンツの中では、最も新しく大将の位に就いた男だ。
当初の予定では彼も中将として、総司令を担うレビルの幕僚として星一号作戦に参加するはずだった。
しかしグレイブ事件によって大将職に付いていたジーン・コリニーが二階級降格となり、レビルもまた准将に転落してジオン本土進攻作戦から外された。
それによって星一号作戦の総指揮はティアンム中将に渡り、コリニー少将も幕僚として星一号作戦に参加する事になった。
結果、空席になった大将の椅子に彼が座り、ジャブローで軍の意思決定を担う一人となったのだ。
「うむ。レビル討伐の過程でジオン海兵隊の一員であるシーマ・ガラハウ中佐率いる艦隊を引き入れたそうだ。彼らはジオンの暗部に関わっていたと聞く。戦力だけでなく、戦中戦後の処理に付いても有力な情報が得られるだろう」
ワイアットの言葉にゴップは鷹揚に頷いて見せる。
「亡命者やダイクン派への援助はジオンの切り崩しが本来の目的ですからな。そういう意味では正常に機能しているということでしょうか」
「当初はそれが主で戦力としては期待はしていなかったのだがね、随分と成長してくれたものだ」
ワイアットの言葉に笑うゴップ。
それを受けて手元の資料を見ながら司令部古参の中将が口を開く。
「しかしこの大型秘密兵器、ジオンは恐ろしい隠し玉を持っていたものですな」
手元にある資料を見て司令部古参の中将が顔をしかめる。
「コロニーを基とした巨大な砲台、さしずめコロニーレーザーといったところか」
「ア・バオア・クー攻略隊がこれを浴びていたら大損害は免れんところだ」
書面に記載された威力の予測は、直撃すれば艦隊を撃滅しかねないという物騒なもの。
仮にそれが現実になれば、連邦軍はビンソン計画で回復させた宇宙戦力を再び失うところだった。
「いや、油断は禁物ですぞ。この手の兵器は予備があるのが常です」
ジオンの虎の子が威を示す前に消えた事で胸を撫で下ろす幕僚達。
そんな彼らにワイアットは注意を促す。
「予備、だと?」
「ええ。プロトタイプか、それとも本土防衛用の二号機か。その辺は分かりませんが、秘密兵器が一つしかないと断ずるのは早計です。我々は常に最悪の事態を考えねば」
「たしかに……」
「となれば配備されるのはサイド3か、ア・バオア・クーが妥当か」
「これは厄介な事になりますぞ。要塞攻略において戦力の分散や逐次投入は愚策だが、この大砲という脅威を思えばそれを取らざるを得ん」
そんな後輩の言葉を受けて、幕僚陣は苦い顔で思考を巡らせる。
そんな彼らの頭に渦巻く思いは一つ。
ようやく勝利が見えてきたのに、ここでそれを取り逃がして泥沼に嵌るなど堪ったものではないというものだ。
「落ち着きたまえ、諸君」
参加者の殆どが渋面を浮かべる中、それを嗜めたのはゴップだった。
「それについて考えるのは、現場にいるティアンム中将たちだ。我々の役目は、この懸念を伝えて注意を促すまでだよ」
その言葉を受けて会議室内に満ちていた緊張は少し緩和される。
「そうですな。我々の役目は彼らが十全に戦えるようにサポートすること」
「それに戦場は宇宙だけではない。北米やアフリカ、他にもジオンが潜んでいる場所は多い。その処理にも手を付けねば」
そう口にする幕僚達にワイアットは気づかれないように視線を鋭くする。
(さすがはレビルから連邦軍の主流を奪い取った男、場の空気を支配するのもお手のモノか。これは手強い相手になりそうだ)
ワイアットとて胸の内には野心がある。
大将という階級の最上位へ上がった以上、軍のトップの椅子へ座りたいと思うのは当然だ。
そして現状においてそこに腰を下ろすのは、中道・左派を取り仕切る兵站の王ゴップなのだ。
(この年で武者震いとは、私もまだ若いじゃないか)
自分が歩む栄達の道に立ちふさがる壁の大きさを感じて高ぶる心身の年甲斐の無さに、ワイアットは苦笑いを浮かべる。
栄転とはいえ前線から外された事を心の何処かで退屈に思っていた。
しかし、この机上の戦場もまた楽しめそうだと。
◆
どうも、ソロモンに帰ってきたマチュです!
「アンちゃん、ただいまぁ!!」
「おかえり、マチュ!」
リリー・マルレーンを降りたあたしは、迎えに来てくれたアムロのアンちゃんに飛びつく。
それをしっかりと受け止めてくれるとは、さすがはあたしのバディである。
「アンちゃん達が無事で安心した」
「それはこっちのセリフだよ。そっちは核武装したテロリストを相手してたんだから」
互いに気が気じゃなかったと話すあたし達。
まあ、どっちがヤバかったかは比べるのも野暮な話である。
「ただいま、アムロ。要塞攻略を急に抜けてごめんなさいね」
「おかえりなさい、セイラさん。上からの命令ですからね、仕方ないですよ」
「アムロ君、アルマリアと距離感が近すぎるんじゃないかね?」
「兄ちゃん、妬かない妬かない。アンちゃんとあたしは何時もこんな感じなんだから」
あたしの後から降りてきた姉ちゃん達と再会の挨拶をするアムロのアンちゃん。
「おや、ずいぶんとお熱いじゃないか。年上の男とはやるねぇ、お嬢」
「けどウチのお嬢の相手にしちゃあ、ちぃとばかり線が細くありませんかねぇ」
けれど、海兵隊の面々を見るとその顔は徐々に引きつっていく。
「……マチュ。あの人たちはどなた様?」
「仲間になったジオン海兵隊の皆さん。姉ちゃんの会社で採用予定な期待の新人たちだよ」
見た目的には結構イカツいけど、いい人ばっかりだから気にしない!
そんな風に話していると、格納庫がある方から見知った顔が現れた。
「おかえりなさい、マリーちゃん」
「無事でよかったわ」
「エドワウ君やセイラさんもケガはないかね?」
それはクリスお姉さんにシイコお姉さん、そしてテムのおっちゃんだった。
「ただいま! クリスお姉さんたちも無事でよかったよ」
「ありがとうございます。こちらも兄共々何事もありませんわ」
テムのおっちゃんの声に笑顔で応えていると、皆の目はやっぱり後ろの姉御達へ行く。
「それで、そちらの人達は何方かしら?」
「シーマの姉御とジオン海兵隊の皆。みんなベテランの凄腕なんだ」
「シーマ・ガラハウだ。お嬢達と長く付き合うなら、私達とも縁ができるだろうさ。後ろの奴等共々よろしく頼むよ」
あたしの紹介に合わせて少し斜に構えたような言葉を返す姉御。
「「「「「よろ「自分はバーナード・ワイズマン伍長です! よろしくお願いします!!」」」」」」
そんな姉御の声に合わせて海兵隊の皆も挨拶をしようとしたんだけど、それより早くひと際大きな声で自己アピールをする声が響いた。
それは何と海兵隊一番の下っ端であるワイズマン伍長のモノ。
「よろしくお願いします、ワイズマン伍長。それにほかの皆さんも」
いつもは肉食獣におびえる小動物みたいに目立たない人なのに、どうしたのかとも驚いているあたし達を他所に笑顔を浮かべるクリスお姉さん。
振り返れば海兵隊の列の後ろの方で小さくガッツポーズをするワイズマン伍長の姿が見える。
なるほど、そういう事か。
まあ、クリスお姉さんは美人だからね。
でも、伍長の喜びは長く続かなかったんだ。
喜び冷めやらぬ伍長の肩にポンと置かれたグローブのような褐色の手。
それに伍長が振り返ると、彼の教育係であるゴンザレス軍曹が輝かんばかりの笑顔を浮かべているじゃないか。
途端に顔色が青を通り越して白くなるワイズマン伍長
(許されよ、許されよ。私の罪を許されよ)
そんな彼から物凄い懇願の念がス~ッと伝わってくる。
それにゴンザレス軍曹はサムズアップをすると、グルンと親指の先が地面を指すように手首を返した。
(許されぬ、許されぬ。お前の罪は許されぬ)
アイコンタクトで軍曹の意思を察して絶望するワイズマン伍長。
そんな彼の後ろ襟をつかんで持ち上げると、軍曹はリリー・マルレーンの中へと消えていく。
「モビルスーツもロクに動かせん小僧が! 色を知る歳かぁっ!!」
「ごあぁぁぁぁぁっ!? 殺さないで! 殺さないで!!」
そうして始まるのは海兵隊お得意の『いつもの』である。
うん、今回はワイズマン伍長が悪い。
「そ…そうだ、マチュ。連邦軍のパイロット達が面白いことをしているんだ。そこへ行こうか」
「うん」
顔を引きつらせてあたしを格納庫の奥へ誘導するアンちゃん。
あたしは今までの航海で慣れちゃったけど、アンちゃんには海兵隊式バイオレント・パニッシュは刺激が強かったようだ。
そんな訳でアンちゃんの先導でやってきたのは、大規模シミュレータールームだったんだけど……
「何かしら、この張り紙。……『死神お断り』?」
入り口には何枚もの張り紙が張ってあったのだ。
それを見て首をかしげる姉ちゃん。
書かれていた文言は『死神出禁』にはじまり、『天パ禁止』『鬼畜退散』『人の心とか無いんか?』などなど。
これは該当する人物は一人しかいませんねぇ。
「なにやったの、アンちゃん?」
「いや、普通に戦っただけだよ。これからの戦いの練習にならないから、アレックスを使ったけど」
「あ~」
納得した。
アンちゃんほどの人がアレックスみたいなチート機体でエゲツない戦法を使いまくったらこうもなろう。
「今はア・バオア・クー攻略を想定した紅白戦をやっているから、マチュも参加してみたらどうかな?」
「へぇ、面白そうだね」
こんな面白い催しならチャンプの一人として参加しないわけにはいかない。
という訳であたしはアンちゃんに案内された筐体へ体を滑り込ませる。
「へぇ、アレックス式のコックピットなんだ」
「G4チームが用意してくれたんだよ。ホワイトベースに乗り込むときに、アレックスの資材と一緒にジャブローの格納庫に有ったものを積み込んだんだって」
特別なコクピットなアレックスをどうして使えたのかと思っていたら、こういう事だったのか。
「それじゃあ、行ってくる!」
「ランカーも何人かいると思うから油断しないようにね」
アンちゃんの忠告にサムズアップを返すと、あたしは筐体を起動させる。
すると出てくるのは『乱入しますか?』という問いかけ。
「もちろん!」
右のアームレストに付いたトリガーを引けば、次に現れるのはズラリと並んだ連邦製МS達の姿。
「ほかのガンダムとかジムって奴にも興味はあるけど、それだと練習にならないもんね!」
というわけでチョイスするのは愛機であるアレックス・プロト。
準備を終えてスタートボタンを押せば、モニターが描き出すのはあちこちで戦火が上がる宇宙を舞台にした戦場のど真ん中。
「獲物がいたぜ!」
「はじめまして、さようなら!!」
そしてあたしの姿を見た途端にビームサーベルで切りかかってくるのは2機のジムだ。
ログインし立ての相手を全力で狩りにくるとは、さすが戦火の絆民は分かっている。
けれど───
「殺すと宣言するのはまだまだ甘い!!」
「あぷぱっ!?」
「へべっ!?」
あたしは相手の刃をバックブーストを使って紙一重で躱すと、カウンターで相手のコクピットに腕部ビームガンを叩き込む!
「一流の絆民は殺すと思った時には、もう相手を撃墜しているものだよ」
これが出来なきゃ勘の良いパイロットは倒せないからね。
とはいえ、あたしもお気楽に説教垂れる余裕はない。
なにせ、ここは戦場の真っただ中なのだ。
「えっと、あたしは西軍の所属か」
コンソールを弄って敵味方のマーキングを調整していると通信が入ってきた。
『よう。厄介事はケリがついたみたいだな、イノシシ娘』
「ダンディもやってたんだ」
モニターに映るのは金色のリーゼントとモミアゲが眩しいイケメンなオジサンだ。
『次が事実上の決戦だからな。生き残るためにも最高の状態に仕上げたいのさ』
「ダンディがいるってことは、カメマンもやってるの?」
『アイツなら前に死神にボコボコにされてな、今は一人プレイで修行中だ』
……カメマンをボコボコって、アンちゃんの戦闘力は更に上がっているらしい。
『それよりお前も気合を入れろよ。ここでの仕上がり具合が次の作戦の生死を分けるかもしれんからな』
「そうだね、そうと決まれば頑張らないと!」
そう気合を入れなおすと、あたしは目につく敵勢力の機体を手当たり次第に狩り始める。
『あの機体は死神か!?』
『嘘だろっ!? アイツ、前の団体戦で虐殺ブチかまして出禁になったはずじゃねえか!?』
『違う! あの肩のエムブレムを見ろ!!』
『まさか、人食い魔猪!?』
『死神が消えたと思ったら、今度はイノシシ娘かよ!』
誰がイノシシか!
どいつもこいつも、あたしはパピィだと何度言えばわかるんだ!?
『は…速っ!?』
『レーダーが…ロックオンマーカーが追い付かねえ!!』
『ち…チート機体反対!?』
こんな感じで撃墜数を増やしていると、左手の方から見知った気配と同時にビームが飛んでくる。
「おっと!」
バレルロールで回避してモニターに視線を向けると、ライフルを構える赤に塗装されたアクトザク……だっけの姿。
『アルマリア、こういった楽しい催しには私も誘ってもらいたいものだな』
「兄ちゃん、ガンダムじゃないんだね」
『ああ。例のザクが修理完了したと聞いてな、興味があって急遽データを貰ってきたのだ』
コクピットを吹っ飛ばしたのに、この短期間で修復してデータ取りまで済ませるとは、さすがはメイお姉さんである。
『奴はシスコン万歳(ただし下の妹に限る)!』
『上の妹を除外しているシスコンの風上にも置けない男!!』
『ふっ、事あるごとに拳が飛んでくる
外野のヤジに不敵な笑みで応える兄ちゃん。
けっこう酷い事を言っているけど、あの言葉はもちろん本心じゃない。
場の雰囲気に乗った軽口だ。
『あの…エドワウさん』
『どうしたのかね、アムロ君?』
『その上の妹さんから伝言です。『心ノ臓、止メテクレル!』と』
『私が死ぬっ!?』
「お兄ちゃんがおしまい!?」
モニターに映る兄ちゃんの顔色は真っ青で、冷や汗をダラダラ流している。
きっとあたしの顔も同じようになっているのだろう。
『あ…アルマリア……』
すがるような視線をこちらに向けてくる兄ちゃん。
「兄ちゃん、おさらば!!」
しかしあたしには何もしてやれる事はない!
何故ならこっちだって怒れる姉ちゃんは怖いのだ!!
『一瞬で下の妹に見捨てられてて草』
『
あたしの答えを聞いて絶望の表情を浮かべた兄ちゃんだったが、必死の形相でなにやらコンソールを弄り始めた。
すると通信用モニターにかすかな変化が現れる。
『おい、アイツのハンドルネーム変わってるぞ!』
『本当だ。【シスコン万歳(上の妹も含む)】になってる』
『こ…姑息……!!』
あんまりの対処法に唖然としていると、モニターの向こうで兄ちゃんの顔に高速で何かが叩き込まれる。
『ごはぁっ!?』
『セイラさん、落ち着いて!!』
『毒虫! 鬼子!! ロクデナシ!!!』
『グワー!? グワー!? グワー!?』
『セイラさん! どこぞの塾生が使うようなメリケンサックは…フラッシュ・ピストン・マッハパンチはダメだぁぁぁ!!』
ブラックアウトした通信画面の向こうから聞こえてくるカオス極まりない声と打撃音。
「ね…姉ちゃーん! 兄ちゃんが死んじゃう!!」
シミュレーターを切ったあたしは、筐体から飛び出すと惨劇の舞台になってしまった兄ちゃんの筐体へ走るのだった。