話が進まぬ。
あと2話くらいでア・バオア・クー戦に行きたいなぁ
ソロモンの周辺に広がる宙域の一角にあるサイド1跡。
一年戦争開戦時の一週間戦争にて多大な被害を受けたこの宙域には、コロニーの残骸に加えて直近に行われたソロモン攻略戦で発生した多くのデブリが浮かんでいる。
「状況はどうか?」
そのデブリに身を潜めるように停泊する紫色に全体を染め上げたチベ級重巡洋艦、『パープル・ウイドゥ』と名付けられた船のブリッジにはキシリア・ザビの姿があった。
「ニュータイプ部隊、全機発進しました。連邦のМS部隊へ攻撃を仕掛けています」
「ああ」
艦の責任者を任せているマ・クベの報告にキシリアは鷹揚に頷いて見せる。
「閣下、貴女まで前線に出る必要はなかったのではないですか? グワジンならともかく、この船では万が一の事も……」
「くどいぞ、マ・クベ。現状において大功を為さねば私に未来はない。ここは多少の危険を冒してでも成果を上げねばならんのだ」
マ・クベの進言にキシリアは内心で舌打ちを漏らす。
本来ならザビ家の人間が戦場に出る際は、グワジン級という艦隊旗艦となるべく建造されたジオン公国軍でも最強クラスの戦艦に乗るのが常だ。
しかしグラナダ核攻撃の失言をめぐる一連の騒動によって、キシリアはグワジンもギレンによって没収されてしまった。
それ故に予備の乗艦であるパープル・ウイドゥを使わざるを得なかった。
重巡洋艦とはいえ、グワジン級に比べれば全ての能力で劣る船だ。
腹心の危惧は当然と言えるが、それでもキシリアには退く道は残されていない。
「各員に改めて通達せよ。雑魚には目をくれるな、我々の目標はあくまでダイクンのガキ共だ」
陰鬱とした気分を振り払うように、提督席から立ち上がるとキシリアはクルーへ指示を飛ばす。
彼女とて、手中にある戦力でソロモンを堕とせるなどと考えてはいない。
だが、失墜した本国での地位を回復させる為には大きな戦果も必須。
そこで彼女が標的にしたのが、共和国亡命政府の旗頭であるダイクンの遺児達だ。
(あの時の会話のログを本国のダイクン派へ流したのはシャアか、それとも小娘か。どちらにしても奴等の所為で私が今まで積み上げてきたものは台無しになった。あ奴等だけは絶対に生かしておけん……!!)
キシリアにとって、ここまで追い込まれている現状は屈辱でしかない。
故に元凶たるダイクンの遺児達を憎悪する事は当然と言えた。
「ニュータイプ同士の共感とやらで、あの小娘を釣りだすつもりだったが好都合だ。連邦の雑兵ごと、ここで叩き潰してくれる」
その中でもキシリアが末娘に向ける敵視は他よりも頭一つ抜けている。
優秀である事を自負していたキシリアにとって、グラナダで自身の提案を袖にされた事は屈辱だった。
ニュータイプ能力者にしてジオン・ダイクンの娘と、本人は死んでも認めないだろうがキシリアはアルマリアにコンプレックスを抱いている。
そんな相手から手を組む価値はないと断じられたのだ、それはプライド高い彼女にとって許しがたい事だった。
フラナガン研究所から得られたニュータイプの特性を逆手に取った作戦を組んだのも、アルマリアに対するある種の意趣返しと言えた。
「そういえば、シャリア・ブルは処理できたのか?」
ニュータイプの事を話していたからか、別の懸案を思い出したキシリアがマ・クベに尋ねる。
「二時間前に届いた追撃部隊の報告では、いまだ撃墜および拘束には至っていないようです」
「ガキ共を連れているうえに試作機でよくやる。木星帰りの男は伊達ではないという事か」
キシリアがシャリア・ブル脱走の報を聞いたのは、この作戦の準備も最終段階を迎えていた頃だ。
ニュータイプ部隊を任せる隊長の裏切りにキシリアは仰天したが、だからと言って作戦を中止する余裕は彼女にはない。
作戦に連れていく精鋭以外のニュータイプ適性がある研究所出身のパイロットで編成した追撃部隊にシャリアの処理を命じ、自分達は予定通りにソロモンへ出兵したのだ。
「部隊の奴等に通達しろ。裏切者がこの空域に飛び込んでくるかもしれん。見つけ次第、抹殺せよとな」
「シャリアがソロモンに、ですか?」
「木星から帰ってきたばかりの男が、厄介者を引き連れて逃げ込める相手などそうはいまい。そうなれば、奴が頼るのは同じニュータイプと噂されているクソガキだ」
「なるほど。では、ここで面倒事を全て片付ける訳ですな?」
「そうだ。今のフラナガン機関で行われていることが世に出れば、面白くない事態になるのは目に見えているからな」
「了解しました。では、各員に通達しておきましょう」
そう言ってキシリアの傍らを離れるマ・クベ。
一方のキシリアは兜の陰になった目元の奥で冷たく瞳を光らせる。
「シャア、そして小娘共。私が教育してやろう。どう足掻こうがダイクンなど、我々の踏み台にすぎんという事を」
◆
一方、シャリアが駆るキケロガは、キシリアが放った刺客を引き連れながらソロモンを目指していた。
「おじさん、敵!」
「ええ、分かっています」
航海の最中、長距離ブースターに設置された補助操縦席からメインのコクピットへ移動した子供達。
シャリアが座るシートの後ろで補助シートに緊急用のロープを使って体を固定している子供達の一人、アルレットが警戒の声を上げる。
それを受けたシャリアは素早く視線をメインモニターの右下部に設置された機体周辺をカバーする短距離レーダーへ走らせた。
そこに映る敵影は6つ。
モビルアーマーであろう大型機が一つ、そしてそれに随伴している5つの反応はリックドムだ。
リックドムのパイロットはグラナダの駐留部隊から派遣された物だろうが、МAから感じる気配はシャリアにも覚えがあった。
「この感覚……アシュレイ大尉、あなたですか」
そう呟く彼の脳裏によぎったのは、日に焼けた褐色の顔に浮かんだ柔和な男の笑みだ。
アシュレイ・ホーン大尉は自分よりも一回り近く年上で、テストパイロットあがりというベテラン士官だ。
ニュータイプとしては素養を見込まれているだけで開花はしていないが、改造ルナタンクという黎明期からМAにテストパイロットとして関わっており、こと機動戦の腕ではニュータイプ部隊でも一目置かれる存在だった。
「投降してくれ、シャリア隊長! 今ならまだ間に合う!!」
МAからの通信に応答ボタンを押せば、通信機のモニターに映ったのはシャリアの予想通りの人物だ。
ヘルメットのシールドグラス越しに見るアシュレイの顔は真剣そのもので、そこから彼の覚悟が伝わってきた。
ここで投降すれば、アシュレイは自分の首を掛けてでもシャリアの助命をキシリアへ嘆願するだろう。
ニュータイプ部隊隊長就任からそれほど間が無いと言うにもかかわらず、ここまで自分を案じてくれる所にアシュレイの人の好さがにじみ出ている。
「残念ですが、それはできません。私には貫くべき信念と守らねばならない命がある」
だからこそ、シャリアはアシュレイの手を振り払う。
こちらは覚悟を決めているのだ。
下手に希望を持たせれば、これから始まる戦闘でアシュレイの命を奪うことになる。
そんな二人のやり取りは他の追撃部隊にも聞こえていたのだろう。
「降伏勧告は決裂だ! これより脱走者狩りを開始する!!」
次の瞬間にはリックドム達が動き出す。
「……ソロモンまであと少し。ここまでくればブースターは重荷でしかない」
横一列の編隊を組みながらキケロガへジャイアントバズーカを向ける5機の重装兵。
それを睨みながらシャリアが素早くコンソールを操作する。
次の瞬間、つるべ打ちで放たれた砲弾がシャリアたちに降り注いだ。
そして宇宙空間に広がる爆炎。
「よしっ!」
「へっ! 腰抜け野郎め! でかい図体は見かけ倒しかよ!!」
リックドム隊の面々は誰しもが殺ったと確信した。
しかし、そんな彼等の楽観を打ち破ったのは煙を裂いて奔った五条のビームだった。
「なっ!? ぐわぁぁっ!」
気づいた時にはもう遅かった。
碌な反応も出来ずに頭部のモノアイと胴の中心を穿たれて爆散するリックドム隊のリーダー機。
「隊長!?」
「おい、煙の中から何かが出てくるぞ!!」
それを合図とするかのように、リックドム隊の前へ爆煙の残滓を纏いながら一つの影が現れる。
その影とは紫を基調にしたМS。
「な…なんだ、あの機体は!?」
「でけぇ……!」
彼の機体は通常のモノよりも二回りは巨大だった。
ドムを超えるであろう重装甲の身体に、胴体から大きくせり出した肩当のようなアーマーの上には左右一対の砲塔を担いでいる。
頭部はザクを思わせるデザインだが、四肢は酷く武骨で巨大なモノになっている。
もし、マチュがこの機体を目にすれば『ビショップに似てる!』と驚いただろう。
これこそが型式番号МSN-01・ニュータイプ専用試作モビルスーツ、キケロガの真の姿だ。
先ほどジャイアントバズーカに撃ち抜かれたブラウ・ブロに似たモノは強襲任務用の長距離ブースターユニット。
目的地を目前にしたシャリアは、燃料が残り少ないブースターを切り離す事で機体の盾に利用したのである。
「私はこの子達と共に生きねばならない! 許しは請いません!!」
突然現れた巨大モビルスーツに度胆を抜かれるリックドム隊へ両手の五指を向けるキケロガ。
「……! いかん! リックドム隊、散開しろ!!」
リックドム達の後詰めとして彼等を追っていたニュータイプ・専用МAであるブラレロのパイロットの一人であるアシュレイ・ホーン大尉は、背筋に奔った冷たい感触に通信機へ警告を発する。
だが、それは遅きに失していた。
「ぐわぁっ!?」
「な…なん……がぁぁぁぁっ!?」
「ばわっ!?」
襲い来る計10本のメガ粒子砲。
編隊を取っていた事が災いしたのか、リックドム達は次々に撃ち抜かれて宇宙のチリへと還っていく。
「やはりあの装備はビショップと同一のものか!!」
高威力からリックドムを貫通して襲ってくるビームをバレルロールで回避しながらアシュレイは歯を食いしばる。
彼はかつて試験としてビショップことサイコミュ試験用ザクに搭乗した経験があった。
だからこそ、キケロガの武装を予測する事が出来たのだ。
「モビルアーマーであれだけ精妙な動きができるとは……。流石ですね、アシュレイ大尉」
シャリアは後詰めで距離があったとはいえ、ブラレロでメガ粒子砲の斉射を躱したアシュレイに賞賛の意を呟く。
アシュレイは年若い隊員が多かったニュータイプ部隊でも最年長の人間だ。
彼は兵士としてはまだ色々と至らない他の隊員達の世話をなにくれと焼き、ジオンへ帰ってきたばかりで色々と慣れないシャリアも世話になった。
そんな彼の素朴な優しさを好ましく思っていたものだ。
「シャリア隊長、もう後には退けないのか!!」
アシュレイはキケロガに向けて鬼の顔を模した機体前面、その口の部分に備わった拡散メガ粒子砲を放つ。
「ええ! 私には子供達を護る義務がある!!」
アシュレイの悲痛さを滲ませた言葉に応じながら、フットペダルを踏み込むシャリア。
彼はAМBACとブースターユニットや機体に備わった各種アポジモーターを巧みに操り、ザクレロから受け継いだ鬼に似た顔面から吐き出されたメガ粒子のシャワーを搔い潜るように躱す。
大型機でこれを行う操縦の精妙さは、伊達にニュータイプ部隊を任されていない事を表している。
そして最後の一射を躱すと同時に背後にいるブラレロへ向き直るキケロガ。
反撃として彼の機体が放ったのは、自身に生えた両腕の肘から先の部分だった。
これは有線式サイコミュ・ハンドと呼ばれる武装。
機体から切り離す事でサイコミュによる思念操作で、五指のメガ粒子砲をパイロットの意のままに操る驚異の武器だ、
「チィッ!? やはりあの人なら使えるか!!」
迫りくるキケロガの両腕、それをアシュレイはバレルロールで進行方向をズラす事で振り切ろうとした。
しかしモビルアーマーは高い機動力の代償に運動性と小回りの良さを喪っている。
思念操作で動く魔手を引き離すのは不可能だった。
「一方は左! もう一つは……!?」
コンソールに備わったレーダーを頼りにサイコミュハンドの行方を追うアシュレイ。
しかし機体の左右に回り込んだ腕の動きの双方を即座には捉えられない。
「右下部! こちらのエンジンを狙っています!!」
そんな彼をフォローしたのは隣に座る栗色の髪の少女だった。
「くっ!?」
少女の叫びに、思考に先駆けてアシュレイの身体が反応する。
彼の操縦によってブラレロはサイコミュハンドの五指から放たれるメガ粒子砲を左に大きく傾きながら飛ぶ事で回避する。
「ペッシェ! 助かった!!」
「はいっ!」
アシュレイの礼に小さく口元に笑みを浮かべたのはペッシェ・モンターニュ。
サブパイロットとしてブラレロに乗り込んでいるニュータイプの素養を持つ娘だ。
しかし、シャリアの攻勢はこれで終わったわけではない。
「やりますね、アシュレイ大尉! だが……!!」
しかし無理な回避行動を取ったブラレロの隙をシャリアは逃さない。
キケロガ本体の両肩に備わったビーム砲をブラレロに向けて放つ。
「うおおおおおおっ!」
猛スピードで迫るメガ粒子の奔流、アシュレイは怒号と共にブラレロの機首を沈める事で間一髪回避する。
「……なっ!?」
しかし潜行したブラレロを待ち構えていたのは、特徴的なクリーム色の機体を挟み込むような位置に陣取った左右のサイコミュハンドだった。
「アシュレイ大尉!」
絶体絶命の危機の中、ペッシェは必死に念じた。
ブラレロは試作とはいえニュータイプ専用のМA、そして自分はそのニュータイプの素養を見出されて研究所へ入った。
この状況をひっくり返すには、サイコミュ兵器を使うしかないと考えたのだ。
「お願い……っ!」
しかし今までの訓練で全く使えなかったペッシェの思念では、ブラレロが持つヒートナタ状の有線式サイコミュアームも機体後部のメガ粒子砲もピクリと動く程度だった。
「もらった!」
抵抗が無い事を見切ったシャリアは左右の五指からメガ粒子砲を放つ。
右腕による一射目はブラレロの背面に備わったブースターを打ち抜き、МAの命と言える機動性を殺した。
それに一拍子置いて逆方向にある左腕が胴体に向けてメガ粒子砲を放とうとした瞬間だった。
「ヒゲマン、ダメ!!」
シャリアの背後から幼い女の子の声が響く。
それにシャリアは反射的に左腕のサイコミュハンドの角度を変える。
放たれたメガ粒子砲はブラレロの前面に備わった有線式ヒートナタと口に備わった拡散メガ粒子砲の砲門を吹き飛ばして宇宙へ消えた。
シャリアが振り返ると、自身の背後に備わったサブシートで身を寄せ合うようにしている子供達の姿があった。
ここまでの道程で、彼等はブースター内のサブ操縦席からメインコクピットへ移動したのだ。
声を発したのはアルレットの膝の上に座る子供達の中で最も幼い娘。
彼がカチュアと名付けた女の子だった。
「カチュア、どうしたのですか?」
「あそこ、子供乗ってる。私達と同じ!!」
カチュアの言葉に意識を集中させるシャリア。
すると彼女の言う通り、擱座して動きを止めたブラレロからは二つの気配を感じた。
一つは自身の部下であるアシュレイ・ホーン。
もう一つはフラナガン機関の中で感じた自身の背後にいる子供達に似た気配だ。
「ありがとうございます、カチュア。お陰で過ちを犯さずに済みました」
そう子供達に言葉を掛けると、シャリアは通信機に語り掛ける。
「アシュレイ大尉」
「ぐ…隊長……」
すんでのところで急所を外したのが功を奏したのだろう、彼等の乗るコクピットには致命的な損傷はない。
「隣の少女はフラナガン機関に縁のある者ですね?」
「え…ええ」
「ならば分るでしょう。あの研究所……いや、今のジオンに大義はない。私が連れているこの子達はサイコミュに適応しないと言うだけで不良品のレッテルを貼られて殺されそうになっていたのです」
シャリアの言葉にアシュレイは息を呑む。
それが真実なら、彼の隣にいるペッシェもまたフラナガン機関にとって排除対象という事になる。
「貴方が軍を脱走したのは、それが原因だったのか……」
「知っての通り、私は木星船団の帰還者です。あの過酷な環境にいたからこそ命の大切さがわかる。それを施政者が我欲の為に踏み躙るのであれば、たとえ祖国であっても従えません」
「……」
「決断をするなら早めになさい。我々にも、ジオンにも残された時間は少ないですよ」
そう言い残すとキケロガはブラレロを残して去っていく。
「───アシュレイ大尉、ごめんなさい」
彼の機体が描くスラスターの残り火をモニター越しに呆然と見つめていると、隣に座っていたペッシェが申し訳なさそうに声をかけてきた。
「なにがだ、ペッシェ?」
「私がサイコミュさえ使えていれば……」
泣きそうな顔で声を絞り出すペッシェ、アシュレイは苦笑いを浮かべながらヘルメット越しに彼女の頭をなでる。
「気にするな、ペッシェ。この敗北は君の所為じゃない」
シャリアの操るキケロガはサイコミュ兵器を使いこなしていた。
そして自分が得手とする高速戦闘においても、相手の方が上手だったのだ。
仮にペッシェが土壇場でサイコミュ兵器を使いこなせていても、軍配は一日の長があるシャリアの方に上がっていただろう。
「大尉……」
こちらの慰めに涙を浮かべるペッシェに、アシュレイは先ほど交わしたシャリアとの会話を思い出す。
ペッシェはアシュレイの戦友であるオーガン・モンターニュの忘れ形見だ。
ニュータイプの素養があるとしてオーガンの死後フラナガン機関に協力していたペッシェ。
本来なら兵士ではない彼女だが戦況悪化を理由に戦場に出ることを要求された。
オーガンからペッシェを託されたアシュレイは反対の声を上げたが、一軍人である彼に上層部の命令を覆す力はない。
ペッシェのバディとして立候補したのも、彼女が戦場から生きて帰って来られるように護る為だった。
(そうか……そうだよな。戦う事だけがこの子を護る術じゃないよな、オーガン)
友人の忘れ形見、そして今では自身も娘のように思っている少女。
それを犠牲にしてまで国に尽くす忠はアシュレイにはなかった。
それから数時間後、中破したブラレロを残しアシュレイ達は姿を消した。
彼等がどこへ行ったのか?
それは定かではない。
◆
【君は】一年戦争を生き抜く転生者のスレ 21スレ目【生き残ることが出来るか?】
665 名無しのガノタ
ヘルプミー! へーるぷ!!
666 名無しのガノタ
皆で楽しく演習してたと思ったら
エルメスのビット地獄に巻き込まれたでござる!!
667 名無しのガノタ
こんなババを引く羽目になるとは
このリハクの目を以てしてもうんたらかんたら!!
668 名無しのガノタ
ダニー! グレッグ!
生きてるか!?
669 名無しのガノタ
ああ、なんとかな……
670 名無しのガノタ
上から来るぞ!
気を付けろ!!
671 名無しのガノタ
デス・クリムゾンごっこしとる場合か!?
672 名無しのガノタ
つーか、ビットってあんな速度で飛び回るのかよ!?
673 名無しのガノタ
しかも滅茶苦茶カクカク曲がりまくるし
足回り良すぎだろ!!
674 名無しのガノタ
ゲームと全然違うっス!
まるで撃ち落とせる気がしねぇ!!
675 名無しのガノタ
死ぬ! 死ぬ!!
死んでしまう!?
676 名無しのガノタ
つーか、ビット多すぎだろ!!
二十機くらいあるぞ!!
677 名無しのガノタ
ララァ、パワーアップしすぎぃ!!
678 名無しのガノタ
シャアがこっちいんのに何でインドの悪霊がフラナガンに取られてんだよ!?
チクショウ! 仕事しろ あのロリコン!!
679 名無しのガノタ
うおおおおおおおっ!!
オールドタイプだってニュータイプに負けねえ!!
ガロードだってできたんだ! 俺にも出来る!!
680 名無しのガノタ
ティファ枠のいないお前には無理ぽ
681 名無しのガノタ
言うなぁ!
682 名無しのガノタ
人のココロ!!
683 名無しのガノタ
けどこんだけ大騒ぎしててもまだ一人も死んで無いんだから
オレ等も連邦軍も大したもんだよな
684 名無しのガノタ
6人一組で前後左右上下警戒しまくってるからな!
685 名無しのガノタ
咄嗟に指示を出してくれたバニング大尉には
感謝の言葉しかねえ!!
686 名無しのガノタ
ボッチは死ぬんですが、それは……
687 名無しのガノタ
なにぃ?
貴様、ボッチか!?
688 名無しのガノタ
ぼ…ボッチ違うわ!!
689 名無しのガノタ
今はアホな事言ってる場合じゃねー!
このままだったら全員死のデスティニーが待ってるぞ!!
690 名無しのガノタ
チクショウ!
デスティニー! ガンダムVSガンダムでも
ガンブレでも俺の愛機だったデスティニーがあれば!!
691 名無しのガノタ
この世界でも蒼い方ならありますよ?
692 名無しのガノタ
いるかぁ!!
693 名無しのガノタ
ええいっ! キャラ憑依でもしている奴はいないのか!?
原作キャラは無理だとしても
ドク(偽)みたいにGジェネオリキャラならいけるだろ!!
694 名無しのガノタ
そんなん都合よくいるか!?
695 名無しのガノタ
うおっ!?
696 名無しのガノタ
どうした!?
697 名無しのガノタ
誰か死んだか!
698 名無しのガノタ
縁起でもねえこと言うな!!
699 名無しのガノタ
いや…今赤と青のアレックスがトンでもねえ動きで
ビットぶち壊しまくってる
700 名無しのガノタ
アレックスって……天パとちっちゃいマチュか!?
701 名無しのガノタ
うわ…すげえ
青のアレックスが前向きながらライフル持った腕だけ動かして
側面取ろうとしてたビット撃ち抜いた
702 名無しのガノタ
赤い方もビットの進行方向にビーム置くみたいにして堕としまくってる
あ…互いに頭を掠めるくらいギリギリでビーム撃ち合って
相方の背後を取ろうとしてたビット撃墜した
703 名無しのガノタ
これが真のM.A.V.戦術……
704 名無しのガノタ
まるで勝てる気がしねえ
◆
謎の移動砲台による襲撃開始から数分が経った。
戦火の絆で全方位的なバトルロワイヤルをやり込んだおかげか、手足がモゲている機体はあっても連邦軍に犠牲者はない。
亡命艦隊のパイロット達も本気でヤバい状態の人も何人かいるけど、なんとか全員生き残っているようだ。
とはいえ、この拮抗だって薄氷の上に立っているようなもの。
ほんの一押しで一気に犠牲者が出てもおかしくない。
「ふぅぅぅぅ……」
あたしは肺の中の空気を全て出すように、ゆっくりと息を吐く。
ジークンドーの訓練を始める前、そして修練の合間のインターバルで行う時と同じように鼻から吸って鼻から吐く、ゆったりとした深い呼吸。
これは中国武術では「調息」、日本の空手なんかでは息吹って名前が付いた呼吸法だ。
この呼吸を行う時は息とともに邪気を吐き出し、新鮮なエネルギーを取り込むようにイメージする。
それによって呼吸を整えられ、氣(エネルギー)の巡りを促進される。
そして体内に氣が充実すれば、感覚も研ぎ澄まされる。
それは五感はもちろん、第六感も例外じゃない。
「……見つけた」
周辺を乱れ飛ぶ砲台、さっきまではそこに込められていた殺気や敵意で惑わされていた。
けれども、今はそれよりも明らかに強い意志がいることが分かる。
数5、その内三つは殺意が虚ろな感じで残り二つは明確に戦意が伝わってきた。
「マチュ、今のが砲台の大本なのね?」
「うん。間違いないと思う」
あたしの思念が漏れていたのだろう、姉ちゃんも倒すべき相手を掴んだようだ。
『アムロ、ドラゴン娘! 道は俺が作ってやる! お前達は元凶をブッ叩いてこい!!』
「あれ、カイさんも敵を感じたの?」
『馬鹿言え! すぐ近くでイメージ漏らされれば、嫌でも伝わってくるってーの!』
おおぅ、ミステイク。
「でも、大丈夫? まだジーラインに慣れてないでしょ」
『んなこと言ってる場合かよ! 向こうの部隊が崩れたらあっちを攻めてる砲台も全部こっちに向かってきちまうんだぞ! そうなったら俺なんて骨も残らねーぞ!!』
『その前にカタをつけろってことですね、わかりました。───マチュ!』
「オーケー! それじゃあカイさん、よろしく!」
あたし達が気配に向けて動くと、それを察知したのか砲台が立ち塞がろうとする。
『へっ! 目ざといねえ。けど、やらせねえよ!!』
でもその砲台たちはジーラインが両肩に担いだ大型ガトリング砲、ガトリングスマッシャーによって穴だらけにされて爆発する。
その爆煙を突っ切って加速すると、部隊を襲っていた砲台の幾つかがこちらへ向かってくるのが分かった。
『邪魔をするな!』
「はい、そっち!」
あたしが右、アンちゃんが左と包囲しようとしていた砲台を次々と撃ち落としていく。
けど、この砲台の本領は相手を死角から闇討ちすることにある。
予め位置が分かっているのなら、迎撃だって難しい事じゃない。
『一つ! 二つ!! 三つ! 四つ!』
「6! 7! 8!」
あたしが前に回り込んだ砲台を両手のビームガンで撃ち抜けば、アンちゃんは背中に背負ったバズーカから砲弾を放ち、追いすがってくる砲台で炎の華を咲かせる。
今見せたみたいに移動砲台には一つ大きな欠点がある。
それは奴等がアレックスの加速力に付いてこられない事である。
こちらがスピードに乗れば、奴等は包囲殲滅はおろか並走して横から攻撃する事も難しくなる。
となれば、あたし達を止めるには前に立ちふさがるか、追撃で背後から撃つしか方法が無い。
相手の攻め手が2択になれば、対応の難易度はグッと下がると言う寸法だ。
そうして妨害を打ち砕いて進めば、あたし達の前に緑色の巨体が現れる。
どこかチューリップのつぼみにも似た流線形に近いフォルム、あれもモビルアーマーとかいう奴だろう。
【私達を殺そうとする…ジオンを焼こうとする敵!! 来るな、来るなぁぁぁぁぁっ!!】
「っ!?」
「うっ!?」
あたし達を見た途端にモビルアーマーから強烈な怯えと怒りの感情が伝わってくる。
敵パイロットはアンちゃんと同じくらいの少女。
いや、今は相手の都合を慮っている場合じゃない。
あたしが腹を決めている間に、敵МAは機体前面に備わった砲台からビームを撃ちながら加速を始める。
伝わってきた錯乱に近い感情とは裏腹に、放たれたビームの狙いはかなり鋭い。
『チィッ!』
それをバレルロールで回避すると、アンちゃんは手甲を展開してダミーバルーンを放つ。
すかさず、それに向けてプロトの頭にあるバルカンを放てば、撃ち抜かれたダミーは破裂しながらこちらを包み込むように黒い煙を撒き散らした。
「今だ!」
チャフ付きの煙幕が全天周囲モニターを覆うと、あたしはシールド裏のラッチから予備のサーベルを取り出した。
起動スイッチを入れて前に放り投げれば、サーベルは光の刃を回転させながら黒煙を切り裂いて飛んでいく。
それを横目にスロットルを全開にしてプロトをカッ飛ばすと、一瞬遅れてあたしがいた場所の隣からビームライフルの光弾が奔った。
一方で敵のМAは加速に乗りかかっていた機体の足を止めて、残っていた移動砲台を自身の周りに呼び寄せている。
今回の敵は勘がいい部類だ。
あたしもそうだけど、その手の相手には煙幕はあまり通じない。
何故なら殺気や気配から相手の動きを読むことが出来るからだ。
『えっ!?』
だからこそ、敵は飛び出してきたサーベルに虚を突かれた。
あのサーベルを放つときにはバーゲストの隊長を思い出しながら殺気を込めたからね、煙幕で視界が効かない感覚頼りなら騙されても不思議じゃない。
それによって生じた刹那の間に、アンちゃんが放った光弾は回転するサーベルに弾かれて細かく周囲へまき散らされる。
『きゃあっ!?』
散弾となったビームは出力の低さからМAの装甲を抜くことはない。
それでも相手の注意を引き、同時に小うるさい移動砲台を破損させて足を止める事は出来る。
「もらったっ!」
そして実戦では逸れた注意こそが致死となる。
一度下へと潜り、上へと跳ね上がるような軌道を描いたプロトは敵МAの機体底部へと潜り込むと、その中心へ勢いのままにビームトンファーを叩き込んだ。
『あ……』
自身に何が起こったのか、それもわからないような小さな呻き。
それが敵兵の最後の言葉になった。
「南無阿弥陀仏」
あたしは宇宙に広がる球状の炎に手向けの言葉を唱えると、次の瞬間には振り返りざまに左右の手甲を開いてビームガンを放つ。
放たれた光弾の先にはもう一機、先ほど撃墜した物と同タイプのМAの姿がある。
そして奴はこちらの攻撃をバレルロールで回避すると、前面の砲門と共に4つの移動砲台もこちらへ向ける。
【リーシャの…リーシャの仇ぃぃぃ!!】
憎悪と殺意、それを多分に含んだ思念がこちらへ牙をむく。
それを真正面から受け止めながら、あたしはプロトが手にしたライフルを相手へ向ける。
「マチュ……」
「大丈夫」
姉ちゃんの声にそう答えた瞬間だった。
上から降り注いだ砲弾が敵МAを捉えた。
【あ……リー…シャ……】
緑の機体に突き刺さったのは重装甲のМSでも直撃すれば一撃で吹き飛ばす、対МS用炸薬を目いっぱい詰め込んだ弾頭だ。
それを二発も受けては頑丈さに定評があるМAだって耐えられない。
宇宙を照らす炎の華となって散華する敵機。
『マチュ、大丈夫か?』
「もちろん。いい餌役だったでしょ」
全天周囲モニターに映る葬送の炎から視線を外すと、あたしは通信画面に映ったバディへ笑顔を向ける。
そう、あの砲弾はアンちゃんのアレックスが放ったハイパーバズーカだったのだ。
実はアンちゃんが煙幕を炊いた時点で、あたし達は後ろからもう一機МAが近づいてきていることに気づいていた。
その機体からは最初に対面したМAのパイロットを心配する焦りが伝わってきた。
なので、それを利用させてもらった。
あたしが最初のパイロットを倒せば、後続のМAは怒りと憎悪でこちらに意識が集中する。
そこをアンちゃんが突いて、労せず二機目のМAを仕留めることが出来たという訳だ。
我ながら酷い手段だとは思うけど、仲間が砲台相手に必死に耐えている事を思えば甘い事なんて言ってられない。
ここに来るまでかなりの数の砲台を倒したし、それを操る機体だって二機堕とした。
これでむこうも少しは楽になるだろう。
『マチュ』
「うん……」
とはいえ、まだ気を抜くわけにはいかないようだ。
「……クスコ・アル」
何故なら、あたし達の前に十の移動砲台を引き連れた三機目の緑のモビルアーマーが現れたからだ。