これも皆様の心温まる応援があってこそ。
オリジンや映画を追いながら書いているので遅くなるかもですが、見捨てずにいてもらえれば幸いです
連邦軍の執拗な迎撃を潜り抜けたシャア・アズナブル少佐は、己の艦であるファルメルへ向けて宇宙空間を移動していた。
赤い彗星の異名を持つエースパイロットの彼がサイド7へ潜入したのは、『V作戦』という連邦軍のMS開発計画を察知したためだ。
当初はザク3機による偵察任務だったが、功を焦ったジーンという新兵の暴走によって計画は破綻。
ジーンのザクが行った破壊行為で起動前のモビルスーツやパーツの破壊に成功したものの、その後に現れたガンダムによってジーン機は撃墜。
部下のフォローに入ろうとしたデニム機もガンキャノンによって擱座し、デニムは捕虜として連邦軍に囚われてしまった。
辛うじて母艦へ戻ってこられたのは、脱出経路の確保を命じられていたスレンダー機のみ。
ザク二機の信号消失という事態を重く見たシャアは、自らの目でV作戦の成果を確認すべくスレンダーと突撃部隊の兵士3名を連れてサイド7へ潜り込んだ。
しかし、その先で運命の皮肉が待ち受けていようとは、神ならぬ彼に見抜くことはできなかった。
「……ずいぶんと手酷くやられたものだな」
ランドムーバーを吹かしながら、彼はヘルメットのシールドグラスを指で撫でる。
未だに痛みが残るのは後頭部と顎。
それは偶然再会した妹達から誤解の末に受けた怪我だ。
「アルテイシア、アルマリア……」
シャア、いやキャスバル・レム・ダイクンの脳裏に残っている妹達の姿は未だに幼いモノだった。
『マチュね、おおきくなったら、にぃにとけっこんするの!!』
6年前、末の妹は自身の誕生日に将来の夢をこう語っていた。
あの時は軽く受け流していたが、内心では嬉しかったことを覚えている。
そんな妹が自分の名前も半分忘れたうえに、後頭部に飛び蹴りを食らわせる程にお転婆になるなど思いもしなかった。
しかもダイクン家の事も全く知らないと来ては、キャスバルにとってショックはかなりのモノだ。
さらには、あの虫も殺せない程に優しい娘だったアルテイシアが自分に拳を叩き込んでくる始末。
たしかに5年前に失踪したこちらにも非はあるが、それは無念の死を遂げた両親の仇を討つために仕方のない事なのだ。
さらに言えば妹達を戦災に巻き込んだのも、サイド7に彼女達がいるなど夢にも思わなかったのだから不可抗力と言っていい。
とはいえ、キャスバルも妹達の生活を乱した事に対する罪悪感はある。
しかし、彼はその思いをグッと胸の奥に飲み込んだ。
「ドレン、もうすぐV作戦の新造艦が出てくるぞ。ドッキングベイへミサイルを放て」
『なるほど。それで相手の出方を見て、こちらが有利な形で戦況を進めていくという事ですな』
「そうだ。あと私とスレンダーのザクを射出しろ、受け取りはこちらでタイミングを合わせる」
『了解です。ザク、射出準備だ! 急げ!!』
指示を出すドレン少尉の怒声が響く中、キャスバルははみ出そうになった己の素顔を再びシャア・アズナブルという仮面で隠す。
妹の事は心配だが自分がジオン軍にいると知った以上、たとえ避難の為でも連邦軍の船に乗ることは無いだろう。
あとは攻撃を宇宙港だけに留め、コロニー本体に被害を出さなければ二人の安全は保障される。
『アルテイシア、アルマリア。達者で暮らしてくれ』
再び出会えた妹達と別れるのは後ろ髪を引かれる思いだが、自分には胸に抱いた使命がある。
それを果たすまで、止まることなどできないのだ。
◆
ガンキャノンのコックピット内部、そこでセイラは緊張を解すべく小さく息を吐く。
体格のいい男性の軍人が座る事を想定したシートは、セイラが座ってもかなりのスペースが余る。
それを利用して今はマチュを広げた脚の間に座らせて、シートベルトを付けた自分は彼女を抱きしめるような形で座席に固定している形だ。
「姉ちゃん、どした?」
「何でもないわ」
一番小さいサイズのパイロットスーツを着た妹を抱きしめると、宇宙空間に耐えうる丈夫な繊維越しに彼女の温かさを感じられる気がする。
それが戦場に出た事でささくれ立ちそうになる自分の心を慰めてくれる。
同時に、身体を重ねていると冷たく暗い死の象徴というべき宇宙が何処か暖かく美しいモノに思えてくるのだ。
そんな心地よい感覚に身を委ねそうになるのを我慢して、セイラは脳内で思考を加速させる。
これから自分達は兄と銃火を交える事になるだろう。
出撃前は弱気な事を言ったが、何としてでも自分達は生き残らねばならない。
セイラ、いやアルテイシアのキャスバルに対する心象は……ぶっちゃけ悪い。
地球で起こった難民による自宅襲撃時に負った傷が原因で義父が本調子でない中、幼い自分や妹を置いて失踪した事に関しては許す気はない。
当時はテキサスコロニーでの生活に慣れ始めた頃で、マス家はまだまだ男手が必要な状態だった。
父の介助に資産家であるマス家の事業に関しての各種変更手続き、それに5歳になったばかりの末娘の世話などなど。
もちろん父は執事やハウスキーパーなどを雇っていたが、セイラが欲したのは家族として自分達を支えてくれる柱だった。
その役目を兄が担ってくれると思っていた彼女にとって、当のキャスバルが全部放り投げて消えた事は堪ったものではなかったのだ。
しかも薄情者の兄はそれ以来一切の便りを寄こすことなく、恩人であった義父の葬儀にも顔を出さない始末。
マチュと二人で養父を見送った後で、家に残っていた兄の私物を全て燃やしたのを誰が責められるだろうか?
遺産やらマス家の事業整理やらを四苦八苦しながら熟して、ようやく医師になる夢の第一歩を踏み出そうとしたら今回の件だ。
今までの鬱憤と相まって、兄への怒りが限界突破するのは当然である。
「……姉ちゃん、さすがに兄ちゃんを殺すのはイヤだよ」
「分かっているわ。半殺し程度で痛めつけてから捕らえて、後は連邦軍の沙汰に───」
セイラとて肉親殺しをする気はない。
MSを動かしているのは妹なのだから猶更だ。
しかしそう答えようとした彼女の脳裏にキラリと閃くモノがあった。
それが何かと問われれば、セイラにとって言葉にすることは困難だった。
何かの場面を次々に見せられているようだが解像度が低く、またノイズも多く奔っている為に詳細を掴むことが出来なかったからだ。
それでも直感的にある事を悟ると、彼女は沸き上がる怒りと共に覚悟を決めた。
「ごめんなさい、マチュ。ここであの男を討つわ」
「なんでっ!?」
突然の掌返しに驚いてこちらを振り向く妹。
その眼を真っ直ぐ見ながら、セイラはしっかりと言葉を紡ぐ。
「兄さんは鬼子よ。近い未来に必ずトンデモない事をしでかすわ。身内だと分かれば、たとえ袂を分かっていても私達まで表を歩けないくらいの大馬鹿を」
「な…なにするのさ?」
「詳しくは分からない。けど、今さっき地球に落ちる巨大な岩が見えたの。そして『行け! 忌まわしき記憶と共に!!』って岩に言葉を掛ける大人になった兄の姿も」
「……えぇ」
マチュが困惑するのは当然だ。
こんな眉唾物の話、普通なら信じられないだろう。
けれどもセイラの肚の内は変わらない。
自分達を捨てた兄と手塩にかけて育てた妹と自分の未来。
天秤に掛ければ後者に傾くのは当然なのだから。
「マチュ、私達だけでも幸せになるのよ」
「う…うん」
そしてこの子の手を肉親の血で汚させはしない。
殺るなら自分の手で……!
そう決意するセイラの目には、モニター越しに映る禍々しい鉄球が映っていた。
◆
ガンキャノンに乗って宇宙に出た私だけど、色々と困惑しております。
その原因は姉ちゃんの兄ちゃんに対する異様なまでの殺意なんだけどさ。
いやホント、後ろからプレッシャーがビンビン伝わってきて鳥肌立ちそうなんだけど。
いったい、どうしたらよかんべぇ……。
とはいえ、今はマスさんちの家庭の事情に悩んでいる場合じゃない。
「ミサイルは五発、着弾まで1分ってところか」
砲撃タイプだけあって範囲はかなり広いらしく、キャノンの索敵レーダーは飛んでくるミサイルを光点として捉えている。
まあ、こんなの無くても敵意的な感じでだいたいの位置は把握できてるんだけどね。
「さて、それじゃあオープンコンバットと行きますか」
あたしはヘルメットの内側で頬を流れてくる汗を舐め取ると、手早く通信機を操作する。
すると友軍用のモニターに光が灯って、次に映し出されるのは私服姿で驚いているアムロのアンちゃんの顔だ。
『マチュ! また出てきたのか!?』
「当然でしょ。アンちゃんが出てるのに、相棒のあたしが一緒じゃなくてどうするのさ」
ニカッと笑顔を見せると、アンちゃんがムッとしたような顔になる。
『あのなぁ、これはゲームじゃないんだぞ! 敵の弾が当たったら死ぬかもしれないんだ! だから──』
「そんなの分かってるよ。でもさ、何もかも初めてですって感じでやらなくてもいいじゃん」
『え?』
「あのロボゲー、MSシミュレーターを簡素化したモノだって噂あったでしょ?」
あたしがそう言うとアンちゃんは思い出したのか、コクリと頷く。
『あ…ああ。たしか連邦かジオンかが流した、優秀なパイロットの卵を探す為のモノだって話だよね』
「うん。それが嘘かホントか分からないけどさ、操縦した感覚って結構ゲームに近いでしょ?」
『そうだ。親父と組んだ筐体も本物のコックピットに仕様が似ていた』
「だからさ、あのゲームで必死に積み上げた技術と経験は絶対に無駄にならないよ。あたしとアンちゃんが一緒なら猶更ね!」
『そっか……そうだよな!』
あたしの言葉にガチガチだったアンちゃんの目に強い光が灯る。
あれはコロニーチャンプの座を勝ち取った時の顔だ。
「アンちゃん、今ミサイルが5発飛んできているけど、このシチュってどっかで見たことない?」
『ああ。サイド5のアングラーズお得意の奇襲戦法だ』
「その通り! 多分、第二波でMSが攻めてくる。だから、まずは邪魔なミサイルを始末しちゃおう。測量データ送るね」
そう答えるとあたしは通信でキャノンのレーダーが捉えたミサイルのデータを送る。
『あのさ、マチュ』
「うん?」
『後ろに誰かいるみたいなんだけど、誰?』
「ウチの姉ちゃん。赤い彗星を殴る係だよ」
「マリーの姉のセイラ・マスです。妹がいつもお世話になってます」
『あ…アムロ・レイです。あの、殴る役って……?』
「ほら、キャノンの右手にあるでしょ。その為のブツが」
『さ…左様でございますか』
姉ちゃんの事情を聴くとアンちゃんは見事なまでにドン引きした。
こんな脳漿炸裂しそうな凶器を姉ちゃんみたいな美人が使うって聞いたら、そうなるのも仕方ないね。
さて、戦意高揚とミーティングはここまで!
そろそろミサイルのお出ましだ!
『来た!』
「あたしは左の2、アンちゃんは右をお願い!」
『何時もの通り、残った一つは早い者勝ちだな。OK!』
その通信を終えると同時にあたし達は左右へ分かれる。
「大丈夫なの、マチュ?」
「任せて!」
姉ちゃんの問いかけに振り返る事無く答えると、あたしはガンキャノンの頭に備わったバルカン砲をモニターに映ったミサイルへ向けて放つ。
照準は合っていたのだけど、宇宙空間を飛んでいく灼熱の鉛弾はミサイルの尾翼を掠めるだけに終わる。
「外れた!?」
「───なるほどね」
姉ちゃんの声を聴きながらあたしはぺろりと唇を舐める。
コンピューターはミサイルの進路と速度を計算しているけど、それにも少しズレがあるみたいだ。
となれば、ここは計器じゃなくて勘に頼る方がいい。
目を閉じて意識を集中させると、ミサイルに込められた敵意が少しずつ明確になっていく。
リー師匠も言ってた、『考えるんじゃない、感じるんだ』って!
「そこっ!」
目を開くと同時にトリガーを押し込むと、ガンキャノンの肩に備わった右の大砲が火を噴いた。
放たれた砲弾は狙った通り、ミサイルの中央を撃ち抜くと目標を丸い火球に変える。
「もう一つ!」
そしてキャノン発射の反動を利用して機体の向きを少しだけサイド7側に傾けたあたしは、今度は左の大砲をぶっ放す。
お腹に来る反動と共に飛んで行った砲弾が向かう先はミサイルの少し手前。
真っ直ぐ進むしかできないミサイルは、吸い寄せられるように砲弾に飛び込んで大爆発を起こした。
「よしっ! ドンピシャ!!」
「す…すごい」
軽くガッツポーズを取ると、後ろで姉ちゃんが感嘆の声を上げる。
なんの、なんの。
ミサイルに対する予測射撃なんて、ロボゲーでは基礎の基礎でございますよ。
そうして三発目の対処をしようとキャノンを動かすと、モニターにはミサイルの胴体を桃色の閃光が貫くのが映った。
『マチュ、こっちは対処完了したよ!』
「さすがアンちゃん!」
その通信にレーダーを見れば、ミサイルは影も形も無くなっていた。
重装砲撃型と汎用型の違いがあるとはいえ、相変わらず反応が早い。
『サイド7のドミナント』の異名は伊達じゃないね。
これでミサイルは撃ち落としたけど、ここまでは前哨戦でしかない。
『マチュ!』
「うん、来るよ」
あたし達がそう通信を交わすのと、モニターのはるか先に二つの影が見えるのは同時だった。
一つはコロニーを襲ったのと同じ緑色のザク、もう一つは角付きの赤とピンクで塗装されたザクだ。
この感じ、間違いない。
兄ちゃんはあの赤いのに乗っている。
「来たわね、私達の未来を阻む悪の権化! 私の手で滅殺してあげるわ!!」
「待って、姉ちゃん! ハンマーの出番はまだだから!!」
そんなん振り回したら機体の重心が滅茶苦茶になるから!
あたしの手の上からレバー持つのやめて!!
『マチュ、けん制を掛けるぞ!』
「OK! 威嚇射撃2、よろしく!!」
姉ちゃんの殺意の波動にビビっていると、ビームが二発放たれる。
赤い方は向かってくるビームを横にバレルロールしながら躱したものの、緑の方はいったん加速を止めて跳ぶようにして右に躱した。
『マチュ、見たな!』
「うん! 狙うなら緑!!」
敵と味方の数が同じ場合は動きが未熟な方を先に落とすのが定石だ。
あたしがキャノンを緑の方へ飛ばすと、狼狽した相手はこちらへマシンガンを撃ってくる。
けど、その狙いはお世辞にも正確とは言えない。
回避行動をするまでもなく、鉛弾は明後日の方向へ飛んでいく。
『落ち着け、スレンダー!』
『しかし少佐! 武器が違います!! じ…自分はあの武器は見ていません!!』
『当たらなければどうという事は無い! 冷静になって対処するんだ!!』
頭に兄ちゃんとザクのパイロットのやり取りが過ったけど、おあいにく様。
ロボゲーだってビーム系は回避には慣れがいるのだ。
初見でホイホイ躱せれば苦労しない。
「よいしょっと!」
そうして減速代わりにキャノンを撃てば、緑のザクは射撃を止めて慌てて上に逃げていく。
けど、それは悪手も悪手だ。
「貰ったっ!」
あたし達の背後に付いてきていたガンダムが放ったビームは、逃げようとしていたザクのどてっ腹を貫いた。
『うわあああああああっ!?』
「っ!?」
ザクが爆発する瞬間、あたしの頭に男の断末魔と恐怖が過った。
これはきっと、あれのパイロットが放った最期の意志だ。
「マチュ!?」
「……大丈夫、大丈夫!」
そうだ。
ここは戦場、死人が出るのは当然なんだ!
だから出てくる以上は覚悟がなくちゃダメだ!
リー師匠だって言ってた!
『勝ち負けを忘れろ。誇りと痛みを忘れろ。相手に自分を攻撃させ、そして相手の肉を砕け。相手に自分の肉を粉砕させ、相手の骨を砕け。相手に自分の骨を砕かせ、相手の命を奪え。逃げようと思うな。命を失うことを恐れるな』って!
そして『敗北はココロの声である。真に負けを認めるまで、誰も敗北しはしない』とも!
だったら、こんな声にいちいちヘコんでなんていられない!
このキャノンには姉ちゃんだって乗ってるんだ!
生き残るために、全部噛み砕いてやる!!
『あの砲撃タイプを仕留めて盾にする! そうすれば、戦艦並みのビームがあっても!!』
そんな思念に顔を上げると、こちらへ狙いを定めた兄ちゃんの赤いザクが見えた。
手にしたマシンガンから弾丸が吐き出されるけど、さっきの死者の念の所為で反応が遅れた。
「うわわっ!?」
「きゃあああっ!?」
着弾で小刻みに揺れるコックピット。
それでも機体コンディションで赤くなった場所は無い!
テムおじさんの言う通り、キャノンはあたし達の事を護ってくれたのだ。
『コイツもマシンガンを物ともしない!? 白い奴よりも重装甲ならば当然か! ならば!!』
赤いザクから感じるのは兄ちゃんの驚愕と決意。
そして、マシンガンを背中にマウントして取り出したのは手斧風の武器だ。
『マチュ!?』
「大丈夫!」
砲撃タイプだと思って接近戦を仕掛けてきたんだろう。
けど、その考えがゲロ甘だって事を教えてやる!!
『落ちろっ!!』
勢いのままに袈裟斬りに斧を振り下ろす兄ちゃんのザク。
けど、それだってブレオンや『とっつき』を極めた廃人プレイヤーに比べたら全然甘い!
だから右手に持ったハンマーを使えば、その一刀は簡単にいなせるのだ。
「今だ!」
そして相手の体勢が崩れたところに、ザクの一つ目を狙って頭のバルカンを吐き出す。
『おのれ! やらせん!!』
おそらくはメインカメラなのだろう、一つ目を庇った兄ちゃんは鬱陶しいバルカンを潰すべく首を狙って斧を横薙ぎにする。
あたしはその一撃をキャノンの身体を反らして躱そうとする。
『そんな動きでは間に合うものか! もらった!!』
兄ちゃんの言う通り、重装甲の所為でキャノンの身体は反りが足りない。
「それはどうかな!」
そんな思念を受けながら、あたしは足の裏に着いたスラスターを開けて右の大砲を放つ!
「なにっ!?」
すると発射の反動と跳ね上がった足によってガンキャノンはバク転のように一回転を始める。
ザクの斧が空を切ると同時に、あたしは左のキャノンを撃つ!
同時に足の裏のスラスターを全開にすれば、勢いが付いた足はザクの顎を跳ね上げる!
これこそ、なんちゃってジークンドー『キャノン・サマーソルトキック』だ!!
『な…なんだと!?』
突き出たタコみたいな口とパイプが千切れて宙を舞い、衝撃でザクの機体は大きく上に吹っ飛ぶ。
「足、いただき!!」
そうして一回転する最中にあたしは両肩のキャノンをザクの足に向けて放つ。
『チィッ!!』
けれど、敵も然るもの。
両手と足の振り、そしてバックパックをブーストさせて側転するような形で砲弾を回避する。
『鈍重な砲撃機で曲芸染みたマネとは……やるなっ!』
キャノンを回避した事で冷静さを取り戻した兄ちゃん。
接近戦では分が悪いと思ったのだろう、再びマシンガンを取り出して横ばいの状態でこちらへ銃口を向ける。
けれど、そこから弾が吐き出される事は無かった。
『なっ!?』
何故なら、下から飛んできた桃色の光がザクの左足のふくらはぎの部分を穿ったからだ。
『チッ! 外した!』
そして光の出どころには、ビームライフルを上に構えたガンダムの姿が。
『白い奴め、何時の間に……! うわぁっ!?』
スラスター用の燃料が入っていたんだろう、一瞬の間を置いて爆発するザクの左足。
爆炎と火花の中、モニターに兄ちゃんのザクがキリモミ回転で吹っ飛ぶのが見えた瞬間だった。
操作レバーがあたしの手の上から凄い力でがっしりと鷲掴みにされたのだ。
「今こそ千載一遇のチャンス!!」
下手人は後ろにいるセイラ姉ちゃん。
姉ちゃんがあたしの手ごとレバーを前に押し出すと、それに応じてキャノンが例の殺意の塊をブンブカ振り回し始める!
「ハラワタをぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「姉ちゃん!?」
「ブチ撒けろぉぉぉぉぉぉっっ!!」
トンデモないセリフと共にザクへ向けて放たれる遠心力で威力を増した鉄球。
「ぐわぁっ!?」
それはタコの口を失った顔面に突き刺さると、頭部を粉々に打ち砕いて突き抜けた。
「外れた!? 今度こそは!!」
舌打ちと共に押し切ったレバーを後ろへ引く姉ちゃん。
けど、姉ちゃん曰く『正義の怒り』が赤いザクへ牙をむくことは無かった。
『マチュ! 戦艦だ!! 敵の戦艦が来た!!』
アムロのアンちゃんの通信に続いて、こちらをけん制するように飛んできたミサイルとビーム砲。
『少佐を救出する事が最優先だ! ザクに敵を近づけるな!!』
「うわっと!」
咄嗟にハンマーを手放してそれを回避している間に、兄ちゃんはその中へ逃げて行ってしまったのだ。
そうして赤いザクを収めると、クルリと方向を変えて逃げようとする戦艦。
「逃げるな! この破廉恥者!!」
姉ちゃんは宙を漂うハンマーを拾うと、振り回して遠心力を加えたうえで戦艦へ投げつけた。
トンデモない速度で飛んで行った鉄塊は、戦艦の左下にあるエンジンらしき部分に突き刺さると、そこを盛大に爆発させる。
『どうする、マチュ?』
どうすると言われましても……ここで戦艦を倒しちゃうのも一つの手とは思う。
でも下手につついて死に物狂いで反撃されたら、こっちが危なくなる可能性もある。
「船の軍人さんは何て言ってるの?」
ホワイトベースなんだけど、なんでかガンダムにばっかり通信を飛ばしてコッチには全く来ないんだよね。
『とりあえず、一回帰って来いって』
「じゃあ、帰ろ」
という訳で、あたし達は宇宙港から出発した船へと進路を変えた。
「クッ! 始末できなかった……」
「大丈夫だよ、姉ちゃん。あのハンマーを食らったんだから、兄ちゃんだって反省するって」
ガックリと肩を落とす姉ちゃんの太腿をポンポンと叩いて、なんとか元気づけながら
・アムロ・レイ この世界ではロボゲーサイド7チャンプの一人。
人呼んでサイド7のドミナント。
このロボゲーはジオンがパイロット適正のある者を発掘する為に製作した簡易MSシミュレーターだった為、プレイ時間は千時間以上、対戦数も4ケタに及ぶという、膨大な経験を蓄積している。
ゲームは都合上ザクが多いためにガンダムの操縦には不慣れだが、今の状態でもザクに乗ったシャアとなら五分近くに戦える。
そして慣れるとゲーム仕込みのエグい戦法や持ち前の勝負勘や射撃の腕をフルに使った、相手が気付いた時には死んでいる等の鬼畜天パ全開になる。
そこへNT覚醒が乗ってくるため、将来的にはトンデモな化け物になる予感。
ちなみにマチュとの対戦成績は3勝で勝ち越している。
セイラ・キャノン・鉄球=シャア特攻