ダイクン家の二女はアホの子   作:アキ山

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お待たせしました、本編です。

なんとか光る宇宙にあたる話が終わった。

あとはア・バオア・クーだけだ。

一年戦争長すぎぃ!!


マチュとMAVとニュータイプ

 ソロモン要塞から少し離れた宙域で突如発生した迎撃戦。

 

 ニュータイプとサイコミュ兵器という人類が今まで遭遇した事が無い新兵器が牙をむく中、哀れな獲物にされた連邦軍とジオン共和国亡命政府のパイロット達は必死に抗っていた。

 

 実機と繋がるエネルギーパイプを棚引かせながら、四方八方に動き回ってメガ粒子砲を吐き出す4基の砲台。

 

「ぐおおっ!?」

 

「ストールッ!?」

 

 その猛攻を二機編隊で凌いでいたジムの一体が、右斜め下からの射撃を避けきれずに左足を吹き飛ばされた。

 

 宇宙空間とはいえ……否、宇宙空間だからこそМSの四肢は重要な器官となる。

 

 機体のバランスが狂う事はもちろん、AМBACによる姿勢制御が困難になる事で運動性も低下する。

 

 さらに言えば足底部にあるスラスターの欠損も機動力低下を招くだろう。

 

 それらのデメリットは移動砲台の脅威に晒されている現状においては致命傷となる。

 

「トッシュ! 私を置いて逃げろ!!」

 

 大きく体勢を崩して無防備な姿をさらす自機の中で、30代前半の男としても軍人としても脂が乗った士官、ストール・マニングス大尉が叫ぶ。

 

 彼は相棒と二人がかりで防戦の拮抗をギリギリ維持してきた。

 

 自分が落とされれば、僚機の運命も潰えるのは自明の理だ。

 

「バカを言うな! そんなことが出来るか!?」

 

 そんなストールの警告を三十路に入ったばかりの男、トッシュ・クレイは切って捨てる。

 

 そしてトッシュはマニングス機を庇うべく、二機の右上方で蛇のように鎌首をもたげる有線式メガ粒子砲の前に盾を構えて立ち塞がった。

 

「トッシュッ! よせっ!?」

 

 相棒の無謀な行動にマニングスの喉から悲鳴にも似た声が迸る。

 

 モビルアーマーの持つメガ粒子砲の威力は下手をすると戦艦の主砲に匹敵しかねない。

 

 МSの盾など障子紙のように吹き飛ばしてしまうだろう。

 

 相棒を、共に鉄火場を駆け抜けた戦友を、自分の所為で死なせる最悪の未来にマニングスが絶望した瞬間だった。

 

「なっ!?」

 

 彼等の前を横殴りの弾雨が駆け抜けたのだ。

 

「いったいなにが……?」

 

 己にとって死神も同然だった砲台が瞬く間にハチの巣になる光景に唖然とするトッシュとマニングス。 

 

 一瞬遅れて火球と化した砲台の隣を一機のМSが駆け抜ける。 

 

「そこのジム。相方に肩でも貸して下がってろ! 邪魔だ!!」

 

 トッシュへ傲慢な通信を放ったのは蒼と深い藍色を基調にした重装仕様のガンダム。

 

「白狼…殺し……」

 

「あれがヤザン・ゲーブル中尉か」

 

 右肩と左腕に備わったシールドに描かれた、白狼の首に牙を突き立てる蒼い毛並みを持つ野獣のエムブレム。

 

 それを連邦宇宙軍のパイロットなら知らぬ者はいない。

 

 ジオンの英雄である白狼ことシン・マツナガ大尉を一騎討ちで倒した連邦のエース、ヤザン・ゲーブルの専用機だ。

 

 重装甲重武装にもかかわらず、ジムを大きく上回る速さで宇宙を駆けるガンダム。

 

 それを脅威と見たのだろう、マニングス達を狙っていた有線式砲台はヤザンへと標的を変える。

 

「へっ! おいでなすった!!」

 

 ガンダムの上下を挟むように追いすがってくる砲門が一つ備わった先ほどのモノより小型のメガ粒子砲。

 

 そこから吐き出される必滅の光を、ヤザンは笑いながらバレルロールで左へ避ける。

 

 しかし敵も然る者だ。

 

 ヤザンが躱す方向に、破壊されたのと同じ二門タイプのメガ粒子砲を待ち伏せさせていたのだ。

 

「少しはやるじゃねえか! そうこなくっちゃな!!」 

 

 全天周囲モニターではないガンダムでは、本命のメガ粒子砲の姿はモニターに映らない。

 

 しかしヤザンは自身を狙う牙を正確に察知していた。

 

 それはマチュやアムロのように、ニュータイプの感応によって相手の敵意を読んでいるわけではない。

 

 彼の場合はもっと粗野で原始的だ。

 

 野生の獣が己を狙う敵の殺気に敏感なように、ヤザンは装甲越しに相手が向けてくる殺意を肌と感覚で拾い上げているのだ。

 

「だが、まだまだだな!!」

 

 故にガンダムの対応は、時としてパイロットであるヤザンの思考をも上回る。

 

 危難を回避しようとする生物の本能が、条件反射の如く彼の身体と機体を動かすのだ。

 

 それを証明するかのように、ガンダムは左手のシールドと一体になったガトリングガンを放つ。

 

 猛烈な勢いで吐き出された特殊合金の弾丸は、横並びになった二つの砲門がメガ粒子を吐き出す前に砲台を火の玉に変えた。

 

「さあ、もっと俺を楽しませろ! お前たちはジオンの隠し玉なんだろう? せっかくの新兵器だ! 派手に行こうじゃないか!!」

 

 ヤザンは喜悦の声と共にバックパックに備わったロケットモーターを点火する。

 

 次の瞬間、彼の乗る紺色のガンダムは流星となった。

  

 マチュとララァとの対戦データを基にした対サイコミュ・シミュレーション。

 

 ヤザンもそれに挑み、乗り越えた一人だ。

 

 だからこそ、有線式ビーム砲の対処の仕方は心得ている。

  

「ちゃんとついて来ているな。そら、ご褒美だ!」

 

 戦闘の愉悦が混じった声と共に、フルアーマーガンダムの両肩に乗った大型ガトリング砲。

 

 ジーラインから移植されたガトリングスマッシャーが咆哮を上げる。

 

 横殴りに降り注いだ鋼の弾雨をヤザンを追う事に集中していた有線ビーム砲達は躱すことが出来ず、ハチの巣にされて爆散した。

 

 再び体勢を戻して前へ加速すれば、モニターに見えてくるのは灰と紫に塗装されたブラウ・ブロという名の異形の機動兵器。

 

「あれが大元ってわけか! どんな隠し玉を持ってるか、見せてもらおうか!!」

 

 獲物の姿を視界に捉えた事で、さらにテンションが上がるヤザン。

 

 彼は牽制としてガトリングスマッシャーと左腕のミニガンで弾幕を張りながら、フルスロットルでブラウブロに襲い掛かる。

 

 あれだけの図体をしているなら内蔵火器の一つでもあるかと思っていたヤザンだったが、その期待は裏切られることとなった。

 

 慌てて回避しようとしたブラウ・ブロは、その巨体故に弾雨を躱しきれず機体右舷に無数の弾痕を刻まれて火を噴いたからだ。

 

「チッ! ノロマが!!」

 

 命中した喜びよりも敵の動きが期待外れだった事を吐き捨てながら、ヤザンは弾雨を追い越すが如く更に愛機を加速させる。

 

 そうしてクロスレンジにガンダムが飛び込むと、右腕に仕込まれた野獣の牙の引き金が跳ね上がる。

 

 今や彼の代名詞となった大型のパイルバンカー。

 

 刻まれた弾痕を左腕で掴み、絶対に逃れられない状況に追い込んだところで右腕が振りかぶられる。

 

 しかし野獣の牙が獲物の血を啜る事は無かった。

 

「う…うぅ……し…死にたくない……。怖い…こわいよぉ……」 

 

 相手の装甲を掴んでいた事で、接触回線によってブラウ・ブロのパイロットが上げる嘆きが聞こえてきたからだ。

 

 声からするに年のころは十代前半、途端にヤザンは己の闘争心が冷や水を浴びせられたようにしぼむのが分かった。

 

「チッ、しらけるぜ。これだからガキが戦場に出るのは嫌なんだ」

 

 忌々しく舌打ちをすると、ヤザンは通信機に向かって語り掛ける。

 

「おい、ガキ」

 

「ヒッ!?」

 

 自分の声に引きつったような悲鳴が返ってくるが、そんな事を気にせずにヤザンは続ける。

 

「死にたくなかったら何もするな。コクピットにあるモンには触れずに丸まって怯えておけ。逃げようとしたり、反撃しようとしたら……わかるな?」

 

「は…はい!!」

 

 最後の一言にドスが聞いた脅しを加えると、ヤザンは一番近くにいるマニングス達のジムへ通信を開く。

 

「聞こえているか、そこの二機」

 

「ああ。貴様はヤザン・ゲーブル中尉だな。私はストール・マニングス大尉。隣にいるのは──」

 

「トッシュ・クレイ大尉だ」

 

「おやおや、大尉殿か。まあ、多少の無礼は命を救った事でチャラにしてくれ。それより、このモビルアーマーのパイロットの世話を頼みたい」

 

「なんだと?」

 

「コイツに乗っているのはガキだ。十代前半、男か女かまでは分からんがな」

 

「まさか……!」

 

「そのまさかだよ。ウチも例のイノシシ娘が暴れてるんだ。ジオンが二匹目のドジョウを狙って、ガキを戦争に放り込んでもおかしくはあるまい」

 

「なんという事だ……」 

 

 息を呑むトッシュにヤザンは皮肉げに笑い、マニングスはこの戦争が人倫としてのライン越えを果たしてしまった事に愕然とする。

 

「……随分と冷めさせてくれたな」

 

 マニングス達がブラウブロへ向かうのを一瞥すると、ヤザンは虚空を見上げながらつぶやく。

 

 ヘルメットのシールドグラスの中でヒクヒクと鼻を鳴らすと、ヤザンは凄絶な笑みを浮かべる。

 

「このツケは高くつくぜ、黒幕さんよ!」

 

 スロットルを全開にして虚空へ飛ぶ青いガンダム。

 

 ヤザンはその先に己が狩るべき獲物がいると確信していた。

 

 根拠のない勘と侮ることなかれ。

 

 獣が獲物を捉える際の嗅覚は下手なレーダーを上回る程に正確なのだ。

 

 

 

 

 戦場を幾重にも彩るメガ粒子砲の群れ。

 

 それは合計6つのサイコミュハンド、その五指から放たれる死の閃光だ。

 

「う…うわぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「か…躱しきれね……うがぁっ!?」

 

「タコ足ザク多すぎ! わろ……!?」

 

 練度が足りない者、集中力が切れてしまった者。

 

 そして回避の為に使った無理な機動で体力を削がれた者。

 

 今まで必死に抗してきた連邦兵の中からも犠牲者が現れ始めている。

 

 そんな中でも生きる為に足掻くだけでなく、反撃の隙を狙う者も何人か存在する。

 

 赤いアクトザクを駆るシャアもその一人だ。

 

「まさかゲームに出た機体が実在するとはな!」

 

 白い有線サイコミュハンドが放つ五条のメガ粒子砲をバク転するかのように躱すと、シャアは手にしたビームライフルを放つ。

 

 その一撃は攻撃後の僅かな硬直の隙を突いて腕の一つを宇宙に咲く紅蓮の華へと変えた。

 

「アンディ! リカルド! 無事か!?」

 

「なんとか!」

 

「例のシミュレーターよりは動きがマシですからね!! アレをやってなかったらヤバかった!!」

 

 通信で確かめた安否に部下が応じた事に安堵の息を吐くが、彼等とて何時までも無事でいられる保証はない。

 

「このままではじり貧だな。……やってみるか!」 

 

 シャアは覚悟を決めるとフットペダルを思い切り踏み込んだ。

 

 それによってソロモンで更なる機動力強化を施されたアクトザクは流星となる。

 

 もちろん防戦の為に陣を組んでいた中から飛び出したシャアを襲撃者たちは見逃しはしない。

 

「来たな!」 

 

 サイコミュハンドから向けられる敵意を敏感に察知したシャアは左のバレルロールでメガ粒子砲の初撃を回避する。

 

 もちろん、相手の攻撃が一度だけで止む訳がない。

 

 部隊を襲っていたサイコミュハンドの内、三つが次々とシャアの元へ向かってくる。

 

「なるほど、機体の色を見れば私のモノと分かるか!」 

 

 シャアが包囲しようとするサイコミュハンドから感じたのは敵意と恐れ。

 

 連邦へ寝返った今も『赤い彗星』の異名がジオンで色褪せていない証明だ。

 

 その事に小さく笑みを浮かべながら、シャアは直進していた機体の軌道を強引に上へ曲げる。

 

 次瞬にアクトザクの目の前を通り抜ける五条の閃光、それをモニターに収めながら機体に左へのサイドステップを踏ませれば、一呼吸前までいた場所をメガ粒子砲が突き抜ける。

 

「うおおおおおおっ!」 

 

 左、上、右、斜め下。

 

 次々とポジションを変えて放ってくる死の閃光を、シャアは巧みに機体を操作しながら紙一重で避けていく。

 

 その様は傍から見ればシャアが追い詰められているように見えるだろう。

 

 しかし、この包囲射撃は唐突に終わりを告げることになる。

 

 突然、二つのサイコミュハンドが力を失ったように宙を漂い始めたのだ。

 

「ふっ、やはりやってくれたか!」

 

 脳裏をかすめた何者かの断末魔にザクの首を向けると、モニターにはガンブレイドから生えたビーム銃剣を白い重装甲のザクに突き刺しているガンダム・ピクシーの姿が映る。

 

 自分達と共にサイコミュハンドに抗していた『ハムタロさん』ことユウ・カジマ中尉。

 

 そして片手を失ったもう一機も『バカ犬ブリーダー』と『バカ犬』達、不死身の第四小隊が仕留めていた。

 

 目立つ自分が前に出る事で囮になり、他の手練れにサイコミュハンドの元を討たせる。

 

 シャアの狙いはこれだった。

 

 当初の三分の一である2基となったサイコミュハンド。

 

 残った一機は何とか包囲を維持しようとしたが、もはや攻撃の密度は見る影もない。 

 

「甘いな! この程度では私は抑えられん!!」

 

 シャアは自分の左上を取った魔手の一つをオーバーヘッド気味に蹴り飛ばすと、その反動を利用して腰の後ろにマウントしたヒートホークを投擲する。

 

 高速回転しながら宙を行く高熱の刃は、獲物の行く先を分かっているかのように回避行動を取ろうとしたサイコミュハンドの一基へ突き刺さった。

 

 そうして敵意を辿って加速すれば、モニターに映るのは今まで自分達を翻弄していた黒幕の最後の一体。 

 

「見えた!」 

 

 サイコミュハンドを切り抜けたとはいえ、ララァとの戦闘データを思い返せば敵は奥の手を隠している可能性は高い。

 

 そう考えたシャアは、口部に備わった隠しメガ粒子砲を警戒して敵機の正面から機体をズラし、ビームライフルを構える。

 

「貰った……なんだっ!?」

 

 そして引き金を引こうとした瞬間、彼の脳裏に甲高い悲鳴が奔った。 

 

 年若い少女が上げた嘆きの声、シャアにはそれが眼前の敵機を操るパイロットのモノだとわかった。

 

「ザビ家め! こんな子供を戦場に出すなどと……!」

 

 シャアとて幼い妹が戦っている事を思えば、己が文句を言うのは筋違いなのは百も承知だ。

 

 それでも戦士としての覚悟が決まっているアルマリアとは違い、簡単に恐慌状態に陥る少女を戦場に出すザビ家には憤りを隠せない。

 

「……許しは請わん。恨むなら私を恨め!」

 

 そう絞り出すように呟くと同時にシャアは引き金を引く。

 

 哀れに思うが、ここで彼女を見逃せば妹達に危険が及ぶ。

 

 だからこそ、シャアは心を鬼にしたのだ。

 

 アクトザクのビームライフルから連続で放たれた二条の光。

 

 それは足を大型ブースターに換装した白い異形のザク、サイコミュ高機動試験用ザクの頭部を吹き飛ばして胸部に風穴を開ける。

 

 コクピットを正確に射抜いたのだろう、爆発することなく宙を漂う白い躯を見ていたシャア。

 

 憐憫と少しの罪悪感を噛み締めていた彼は、ふとした瞬間にこの宙域を塗りつぶすような悪意を感じ取った。

 

 この紫に似た毒々しい気配には憶えがある。

 

「貴様か、キシリア!」

 

 そう呟くとシャアはフットペダルを踏んで機体を発進させる。

 

 妹に釣られる形で磨かれた彼の第六感、ニュータイプが直感と同様のそれが、自身と妹達に向けられた殺意を感じ取ったのだ。

 

 ならばダイクンの長子……否、兄として為すべきことは決まっている。

 

「妹達に手出しはさせん! グラナダで付けられなかった決着、ここで付けてやる!!」

 

 妹達を護り、事の元凶を排除する事だ。

 

 

 

 

「おわっとと……!」 

 

 斜め下からこちらを狙うビームを左に跳んで躱したあたしは、続けて感じた頭上からの一射を回避行動をしながらも機体を回転させた遠心力を乗せて、横殴りに盾を振って打ち払う。

 

「チィッ!」

 

 通信機が吐き出す苛だたしい舌打ちに目だけで視界を動かせば、全天周囲モニターが映し出すバク転気味に背後に跳んで左上と右下から吐き出されたビームを躱すアレックスの姿が見えた。

 

 そして宙返りついでに背中のバズーカを敵機へぶっ放すのがアンちゃんクオリティ。

 

 あんな曲芸じみた回避方法を取りながらよくやるよ、ホント。

 

『マチュだってきりもみ回転しながらシールドでメガ粒子砲を殴ってるじゃないか。人のこと言えないだろう』

 

「その辺はあれだよ。カンフー映画とかで偶に見るアクションの真似」

 

 むぅ、心を読まれてしまった。 

 

 ちなみにアンちゃんが撃ったバズーカだけど、目標の目の前でバラけて回避しようとした敵にガンガン当たっていた。

 

 反応速度を見るに相手の回避行動は悪くないみたいだけど、いかんせん向こうの機体はデカいМA。

 

 あのタイミングで散弾に化けたら躱すのは無理だろう。

 

 装甲の厚さのお陰で有効打になっていなくても、それでも目潰しくらいにはなったはずだ。

 

 そう考えて仕切り直ししようとしたんだけど……。

 

「あぶなっ!?」

 

『クッ!?』

 

 そうは問屋が卸さないとばかりに、上・下・左から3条のビームが網のように行く手を遮った。

 

 しかも背後からはМA本体のメガ粒子砲というおまけつきだ。

 

 機体全面に二門付いた砲身から吐き出されたビームを、後ろを向いたままアンちゃんが右、あたしが左に跳んで回避する。

 

 すると回避後の硬直を突くかのようにビームを吐き出す残り七基の移動砲台によって、あたし達は再び防戦一方に追いやられてしまう。

 

 上手くいくと思ったんだけど、そう甘くもないか。

 

「やるね、クスコ・アルとやら!」

 

 今までの攻撃だって、プロトじゃなかったら落とされていたかもだ。

 

 相当な手練れ相手に、不謹慎だけどワクワクしてきたぞ!

 

「女の子がそんな獣じみた表情を浮かべるのはやめなさい」

 

「なんで前向いてるのにわかるのさ!?」

 

 姉ちゃんの保護者的直観はさて置き、今あたし達を取り囲むように宇宙を舞い踊るのは、クスコ・アルが操る移動砲台。

 

 その数は10基と今までに比べるとダントツで多い。

 

 お陰でコッチも躱すのに大忙しだ。

 

【……ッ!? なんなの、この感覚は? 相手の事が流れ込んでくる……。マリー・マス、アルテイシア・ソム・ダイクン……アムロ…レイ……】

 

 そんな中、あたしの脳裏を過るのは戸惑いと焦りが含んだ誰かの声。

 

 おそらくは、МAが最初に現れた時に感じた名前、クスコ・アルの思いなんだろう。

 

「マチュ、集中なさい」

 

「うん…ごめん」

 

 意識を持って行かれそうになったあたしは、姉ちゃんの言葉で持ち直した。

 

 ここで集中を切らしたら死への一本道だ。

 

 そうして再び始まる移動砲台の乱舞。

 

 こいつ等は基本的にあたし達の死角を取って射撃してくる。

 

「左上! 右下! 今度は真正面とフェイント入れて背後!」 

 

 あたしは一射目をクイックターンで躱すと二発目は片足を上げてバク転。

 

 そして三射目はシールドを使って防いだところで元の位置に戻る。

 

「うおおおおっ!!」

 

 あたしがアクロバティックな動きで躱す一方、アンちゃんは背後からの一撃や下方向の射撃を身体を捻ったり片足を上げたりと最小限の動きで躱している。

 

 というか待って!

 

 このビーム、サーベルで切り払えるの!?

 

 思わぬスーパープレイにギョッとしたのはともかく、傍目から見れば追い詰められているのはあたし達に見えるだろう。

 

 しかし実のところ、状況は五分と五分。

 

 ううん、精神的にはあたし達の方が余裕があると言っていい。

 

 正直、クスコ・アルの攻撃は反撃に手を回すのはキツい。

 

 けど、防御と回避に神経を全振りすれば捌けない程じゃないのだ。

 

 そして、この手の包囲攻撃の脱出は我慢比べがデフォ。

 

 相手が焦れてミスするまで耐え凌いで、攻撃に綻びが出来たらそこを狙うのが常道なのである。

 

 もちろん、この戦法は撃墜されないくらいの腕が前提なんだけど、あたしもアンちゃんも伊達にコロニーチャンプを張っていない。

 

 如何に厄介な移動砲台といえど、10機程度に囲まれたくらいで落ちるほど軟じゃないのだ。

 

【く…どうして? 貴方達はどうして、そこまで戦えるの!? 私達みたいに戦いを強要されているわけじゃないのに!!】

 

 そんな中、半ば嘆きみたいになったクスコの声が頭の中に木霊する。

 

 いや、あたしって立場的には戦いを強要……されてないな。

 

 むしろМS降りろっていう人の方が多いや。

 

『マチュ、あの人は……』

 

「うん。ジオンのニュータイプ研究を受けていたみたいだね」

 

 通信越しに難しい顔をするアンちゃんに、あたしは頷いてみせる。

 

 頭の中に響く声を通して、少しづつクスコ・アルの事が分かってきた。

 

 フラナガン機関にキシリア・ザビ。

 

 前に兄ちゃんが言っていた通り、奴等はニュータイプとやらの研究を進めていたんだ。

 

 その結果、出来たのが今猛威を振るっている移動砲台ってわけか。

 

「マチュ……」

 

「姉ちゃん、情けは禁物だからね」

 

 あたしは右斜め上と左横から飛んでくるメガ粒子砲を回避しながら、姉ちゃんに釘を刺す。

 

 無力化できる程度の腕なら助けることもできるだろうけど、あのクスコ・アルは無理だ。

 

 下手に手加減しようとしたらこっちが死ぬ。

 

 何かの書物で読んだけど、殺し合いでやる手加減は『殺す気の攻撃を受けた相手が偶々生き残った』くらいしか無いらしい。

 

 万が一に生かすとしてもクスコ相手なら、それが精いっぱいだろう。

 

「そろそろかな……」

 

 それはともかくとして、思念から漏れ感じる苛立ちや戸惑いはあたし達にとって朗報だ。

 

 あたしの予想通り、待ちに待った事が起こった。

 

 今まで一糸乱れずに連携を取っていた移動砲台の操作に僅かな誤差が現れたのだ。

 

 それを引き起こしたのは、あたしの頭上を取ろうとした一基。

 

 これまで反撃の隙を与えないつるべ撃ちを繰り返していたのが、ポジション取りに遅れて間を開けてしまった。

 

「遅いっ!」

 

 そのわずかな隙に割り込ませたのはプロトの腕部ビームガンの一撃だ。

 

 宇宙を奔る赤い光弾は移動砲台がビームを吐き出す寸前で、その身を貫いた。

 

【しまったっ!?】

 

 クスコ・アルの焦りの感覚の後、一瞬の間をおいて宇宙に炎の華を咲かせる移動砲台。

 

「アンちゃん!」

 

『ああ!』

 

 それを合図にあたし達は攻勢に出る。

 

 まず最初にアンちゃんが盾のウエポンラックからあるモノを投げる。

 

 宇宙の中をまっすぐМA本体に向けて飛ぶ缶状のナニカ。

 

 クスコ・アルが迎撃か包囲の継続かを迷った刹那の隙を突いてそれは弾けた。

 

【きゃあっ!?】

 

 瞬間、辺りを白く染める閃光と驚愕と恐怖に染まったクスコ・アルの思念。

 

 アンちゃんが投げたのは対МS用のフラッシュ・バン、閃光手りゅう弾だ。

 

 『戦火の絆』には発売から何度もアップデートを重ねている事もあって、神武装からネタ装備まで考え付く限りの装備が実装されている。

 

 そしてテムのおっちゃんの話だと、連邦軍はそのデータや運用方法を吟味して有用な装備は実際に造り出しているのだ。

 

 フラッシュ・バンもまた、戦火の絆で猛威を振るった一つ。

 

 一時期は使ったプレイヤーをチキン呼ばわりしたり、基本使用可能な機体が角無し頭ツンツルテンなザクかヅダだったので『ハゲ・フラッシュ』とか妙な呼び名が付いて、パイロットもハゲのレッテル張られてたっけ。

 

 センシティブで悲しい事件はさて置くとして、アンちゃんの一撃は効果覿面だった。

 

 モニター越しに強烈な光で目を焼かれた事でクスコ・アルの集中が乱れたのだろう、移動砲台の動きが一気に悪くなる。

 

「まずは2つ!」

 

 もちろん、この隙を逃すあたし達じゃない。

 

 アレックスとプロトは背中合わせになり、こちらを包囲している移動砲台に反撃を加えていく。 

 

 まず、あたしが両腕のビームガンで左側の位置取りに手間取る二基を撃ち落とす。

 

『そこだっ!』

 

 そしてアンちゃんは右手のビームライフルと背負ったバズーカを使って、正面と真下にいた砲台を破壊する。

 

 ここでようやく砲台達にコントロールが戻ったけど、それは遅きに失していた。

 

 これまでは砲台と本体の射撃を織り交ぜて、漸くあたし達を封じ込めることが出来たのだ。

 

 その数が半減しては、再び包囲するなんてできるわけがない。 

 

「4、5!」

 

『6,7!』

 

 こちらの敵意に砲台は慌てて逃げようとするけど、あたし達はその進路を先読みして置き射撃を放つ。

 

 もちろん反撃なんてさせない。

 

 あの砲台は射撃の時には一瞬動きが止まるから、他の奴のフォロー無しならカウンターで叩き落とせるしね。

 

 そうして宇宙を飛び回りながら砲台を排除していく中、あたしは妙な感覚を覚えた。

 

 いつもよりアンちゃんとの連携が取りやすいのだ。

 

「なにかしら、この感じ……」

 

「アンちゃんがいつも以上に近くに感じる?」

 

 普段でもかなり以心伝心でコンビネーションが取れるけど、今はもっと凄い。

 

『分かるぞ。砲台の動きも、マチュの狙いも!』

 

 一刀、一射ごとに研ぎ澄まされる感覚と伝わるアンちゃんの意志。

 

 アンちゃんのやろうとすること、あたしにやってほしい事が手に取るようにわかる。 

 

 きっとアンちゃんもあたしの動きも、次にやってほしい事もわかっているだろう。

 

 そしてあたし達の感覚は広がっていって、レーダーみたいに相手の動きが掴めるようになった。

 

 この感覚は凄い。

 

 今ならどんな奴にだって負けない自信がある!

 

 そうしてアンちゃんが最後の砲台を墜としたのを確認したあたしはプロトを緑のМAへ突撃させる。

  

【くっ!? 速い!!】

 

 クスコ・アルは自身も機体を加速させながら、こちらへメガ粒子砲を放ってくる。

 

「甘い!」

 

 狙いはいいけど、突撃しながらなので射線が読みやすい。

 

 普段ならともかく、感覚が研ぎ澄まされている今のあたしには通じない!

 

『マチュ!』

 

 あたしは二条のビームを左のバレルロールで躱すと、プロトがいた場所を赤い光弾が駆け抜ける。

 

 そう、アムロのアンちゃんが放った援護射撃だ。

 

 このタイミングで針の穴を通すような正確性、アンちゃんの鬼畜エイムは健在である。

 

 もちろん敵МAはプロトの陰に隠れる形になった、この一撃を躱せない。

 

 機体の下にあるエンジンの片方を撃ち抜かれた敵は大きく体勢を崩す。

 

「いただきっ!!」

 

 そこにあたしはオーバード・ブーストで敵機の懐を取った。

 

 あんな移動砲台を備えている機体だ。

 

 どんな隠し玉を隠し持っているかもしれないけど、このタイミングでは切れないだろう。

 

 そうして突きの一撃を加えようとした瞬間、頭にクスコ・アルの思念がよぎった。

 

【いやっ!? 死にたくない……!】  

 

 そこにあるのは死への恐怖、生への未練、嘆き、悲しみ、絶望。

 

 相手がニュータイプだからだろう。

 

 そういったモノがいつも以上に伝わってくる。

 

「ごめんねっ!」

 

 けれど、あたしは手を止めなかった。

 

 プロトのビームトンファーは緑の機体の前面中央、黄色のラインの中心を穿つ。

 

 そしてビームを引き抜いて後ろへ離脱すると、一拍子置いてクスコ・アルを乗せたМAは爆散した。

 

「南無阿弥陀仏」

 

 戦場で矛を交えた以上、勝者が生きて敗者が涅槃に行くのは当然のことだ。

 

【貴となく賤となく、老となく少となく、悟りても死に、迷ひても死す、さても死ぬ事かな】  

 

 もちろん、それはあたしだって例外じゃない。

 

 どんな人間にだって死は必ず訪れるし、戦場では敗死は常に付きまとう。

 

 だからこそ、終わる時は全てを受け入れて笑って死にたい。

 

 今まで自分の都合を押し通す為に周りの命を押し退けてきたのだ。

 

 自分の番が回ってきたからって、泣き言を並べたら格好悪いじゃないか。

 

「こら!」 

 

「いてっ!」

 

 そんな事を考えていると、後ろから姉ちゃんにメットを叩かれた。

 

「縁起でもない事を考えるんじゃありません。私達は、この戦争を終わらせて平和に暮らすんだから」

 

「ごめん、ごめん」

 

 どうやら、姉ちゃんに考えが漏れていたらしい。

 

 さて、これからどうしようかと考えていた時、通信機が兄ちゃんの声を吐き出した。

 

『こちらはシャア・アズナブル。キシリア・ザビを討ち取った!』

 

 ……マジかー。




キシリア討伐の様子(またの名をRTA)

蒼い野獣「わんわんお!」

赤い彗星「ガル姉!!(例のセリフの略)」

紫BBA「ヴォー!?」
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