神「という訳で宇宙世紀に転生してもらいます」
ガノタ1「ヤダー! ヤダヤダヤダぁぁぁぁ!!」
ガノタ2「あんな世界に生まれたら死んじまうよ! 頼む、助けてくれぇぇぇ!!」
ガノタ3「同じガンダムでもせめて、せめてビルドシリーズを!!」
ガノタ4「アフターコロニーの方がマシやんけ!!」
神「ふむ、そんなに嫌か」
ガノタ2「マジで無理!」
ガノタ3「他の選択肢プリーズ!!」
神「ならば二つ、別の世界への転生を許可しよう」
ガノタ4「おお!」
ガノタ1「ありがとうございます!」
ガノタ3「それで一つ目の世界は?」
神「魂斗羅になってもらう(なれるとは言っていない)」
ガノタ4「なん…だと……?」
ガノタ3「魂斗羅ってあれか!?」
ガノタ2「熱い斗魂とゲリラ戦術の素質を先天的に合わせ持つ最強の闘士!!」
ガノタ1「魚雷でマリンスポーツして、ヘリのローターでルームランナー代わりに走って、大陸弾道弾を足場にエイリアンの空中戦艦と戦う漢!!」
ガノタ2「あと褌一丁で宇宙遊泳もあるぞ!!」
ガノタ3「なったが最後、死ぬまで戦場でゲリラとか未来兵器とかエイリアンと戦い続けることになる! 生身で!!」
ガノタ4「そんなん絶対無理! 人間卒業なんてレベルじゃねー!!」
ガノタ2「勘弁してつかぁさい!!」
ガノタ1「第三! 第三の選択肢は!?」
神「ケツバトラー」
ガノタ1「……」
ガノタ2「……」
ガノタ3「……物理的な死の次は尊厳の死?」
ガノタ2「それってその世界に転生するだけですよね? 絶対にケツバトラーになるんじゃないですよね!?」
神「むしろ布教してもらう」
ガノタ4「ガッデムッッ!」
ガノタ3「神は死んだ!?」
神「選びたまえ。私は何の強制もしない」
ガノタ2「あ…悪魔め!!」
ガノタ1「く…くそぉぉぉぉっ!!」
こうして多くのガノタが修羅の世界に旅立ったという
「エルメス01・クスコ機、シグナルロスト! これでエルメスは全滅です!!」
「ブラウブロ、サイコミュ試験型ザクも全機信号途絶! ニュータイプ部隊、ぜ…全滅しました!!」
「ば…馬鹿な……」
チベ級重巡洋艦『パープルウイドゥ』のブリッジで、キシリア・ザビは呆然と呟いた。
ジオン軍のエースを集めたキマイラ隊と並んで自分が心血注いで造り上げた最強部隊の一翼。
それが碌な戦果も出せないままに返り討ちにされたのだ。
質の悪い夢だと思いたくなるのも仕方がない。
「シャ…シャアは!? アルマリア、あの小娘は討ち取れたのであろうな!」
その問いかけに言葉を返したのはマ・クベでもブリッジ要員でもなかった。
『パープルウイドゥ! こちらガーディアン01! 敵機を抑えられない! 白狼殺しと……ぐわぁ!?』
それは万が一の為に彼等が潜伏していたサイド1宙域のデブリ地帯の方々に配置していた護衛のリックドム隊だった。
「我々の居場所を捕捉されたと言うのか!?」
「キシリア様、お退きを! ここは私が時間を稼ぎます」
驚愕の声を上げるキシリアにこう告げるとブリッジを後にするマ・クベ。
パープル・ウイドゥにはギャンというМSが積まれている。
それは次期主力量産機の座をゲルググと争う形で開発された試作機だ。
格納庫から宇宙へと飛び出したギャンは、パープルウイドゥの前に出ると宇宙機雷ハイドボンブを撒いて迎撃態勢を整える。
「パープルウイドゥ、転進! この宙域から離脱する!!」
「よろしいのですか?」
「私が生き延びねば、ジオンは失われる! 急げ!!」
戸惑いがちに問いかける操舵手をキシリアが一喝すると、パープルウイドゥは艦首を反転させて背後をギャンに任せる体勢になる。
そうして全速でこの場を離脱する為にスラスターを点火しようとした時だった。
「レーダーに感有り! 敵МS急速接近!!」
「白狼殺しに、あれは……! 赤いザク!!」
「っ! シャア……!!」
ブリッジのクルーたちが恐怖と混乱の声を上げる中、キシリアだけが怨嗟を噛み潰す。
「分かっているな、シスコン! 獲物は早い者勝ちだ! 親の仇だからって恵んでもらえると思うなよ!」
「当然だ! 戦場の君はそれほど気が利く男ではあるまい!」
軽口を叩き合いながらヤザンとシャアは己の機体をトップスピードへ乗せる。
「汚らわしい野良犬共が! キシリア様をやらせはせん!!」
気炎を吐きながらマ・クベはギャンの左腕に備わったラウンドシールドからミサイルを放つ。
「はっ、また新型か! 贅沢なこった!!」
ヤザンは勢いを殺さずに前方へガンダムの左手を向ける。
彼がトリガーを引けば、それに連動してシールド内にマウントされたガトリングガンが唸りを上げた。
途切れる事のないマズルフラッシュと共に吐き出される鋼の弾雨。
それはギャンが吐き出したミサイルの群れに食らいつき、二機の間に次々と爆炎の華を咲かせる。
(よし、これでいい)
モニター越しに視界を照らす爆発の閃光を睨みながらマ・クベは口角を釣り上げる。
彼が事前に撒き散らした宇宙機雷には、爆薬ではなくビーム攪乱幕が仕込んである。
背後にいるパープルウイドゥにとって、最も恐ろしいのはМSが放つビーム兵器だ。
戦艦は最大船速に乗らねばМSを振り切るのは難しく、そしてビーム兵器は通常兵器よりも装甲を容易く撃ち抜く。
遠距離からの狙撃や砲撃では、いくらマ・クベが体を張ってもキシリアを護る事は出来ない。
だからこそ、攪乱幕を利用する事でその手を潰したのだ。
自分の作戦を反芻しながら、マ・クベはギャンにビームサーベルを引き抜かせる。
ギャンのサーベルは連邦やゲルググのモノと違い、デザインはエストックやフルーレなどの刺突を主目的とした細剣に近い。
故に取った構えもフェンシングのソレだ。
そしてミサイルの爆発が収まるタイミングを見切り、それに合わせるようにマ・クベは前へ出る。
(このギャンは白兵戦に重きを置いた機体! 一撃必殺のビームを封じた! あとは間合いを詰めれば二対一でも勝機はある!)
先ずは重装甲の連邦機を鎧袖一触で突き殺し、次にシャアを倒す。
(シャアめ、まさか我々から奪ったアクトザクに乗ってくるとはな! だがペズン計画の機体とはいえザクはザク。ギャンの敵ではない!)
だが、そんなマ・クベの皮算用は野獣の牙で噛み砕かれる事になる。
「なっ!?」
消えかけた爆炎を貫いて現れる影、その姿に目を見開いた。
爆炎を眼くらましに奇襲を掛けようとしていたのは、マ・クベだけではなかったのだ。
「猪口才な!!」
しかし虚を突かれたのも一瞬の事で、我を取り戻したマ・クベは反射的にサーベルを突き出す。
モーションプログラム通りにフェンシングの達人の如く宇宙を奔る刺突。
「へっ!」
しかし藍色のガンダムはそれをボクシングでいうヘッドスリップで躱してみせる。
「ぐおおっ!?」
そしてカウンターで機体の全てを弾丸にしたかのような体当たりを受け、反動でギャンは虎の子であるビームサーベルを放してしまう。
「おいおい、随分と鈍いじゃねえか。新型さんよ」
接触回線でつながったのだろう、通信機からは敵パイロットの言葉が吐き出された。
「お…おのれ……!」
その粗野を形にしたような男の声は芸術肌のインテリであるマ・クベを酷く苛立たせる。
「ビーム攪乱幕を撒き散らして、ご主人様を護ろうってか? ご苦労なこった! だが、生憎だったな。コイツにはビームなんて上品なモンは積んでねえんだよ!!」
嘲りと共にガンダムのパイロット、ヤザン・ゲーブルは思い切りフットペダルを踏み込んだ。
「ぐ…おぉ!? 馬鹿なっ!!」
自身を襲う振動と強烈なGにマ・クベは驚愕と苦悶の声を上げる。
ギャンのスラスターを全開にしているのに、押し返すどころか相手は自分をまきこんでスピードを上げたのだ。
マ・クベには信じられないだろうが、これは必然と言える。
ヤザンの駆るフルアーマーガンダム・SpecIIは、パイロットの注文によって踏み込みに特化した機体性能をしているのだから。
ソロモン戦で追加装甲とビームキャノン、そして左腕のビームガンを失ったヤザンは愛機の装備と設計を大きく見直した。
そうして彼が要求したのはビーム兵器を廃し、武装の全てを実弾兵器に入れ替えた上に機動力を更に高めるという常軌を逸したものだ。
【要は先祖返りだ、重装突撃型ガンキャノンへのな。高密度の弾幕で相手の足を止め、誰よりも先に右腕の牙を叩き込む。その為には相手を逃がさない足とМAだろうと当たり負けしない頑丈なガタイがあればいい】
そう告げられたメカニック達は、ヤザンの野獣も真っ青な笑みにビビッて方々へ協力を求めた。
アレックスを生み出したG4チームや亡命艦隊のメカニック等がフルアーマーガンダムの改修に参加。
ビームキャノンをジーラインから移植した両肩部ガトリングスマッシャー、ビームガンを大型ミニガンへ変更し、装甲にはビーム被弾に備えてシールド用の耐ビームコーティングも施した。
これだけの重装備に加えて大量の弾薬を積んだ機体を超高速で弾き出す為に背部大型バックパックのロケットモーターを2機から4機へ変更し、腰部と脛にブースターユニットを追加。
ガンダム高機動型を参考に足底部のスラスターユニットも大型の物へスペックアップ。
小回りと運動性を得る為にアレックスを参考にして、増加装甲の肩部や胸部へアポジモーターを仕込んだ。
こうしてフルアーマーガンダム・SpecIIは、弾雨を撒き散らしながら敵へ突き刺さるМS大の砲弾というべきゲテモノ機に生まれ変わった。
そのスラスター総推力は脅威の113,000kg。
ギャンの倍以上である。
「う…がぁぁぁっ!!」
それ故にマ・クベがどれだけ足掻いても押し返すことも、懐で己を押すガンダムから逃れることもできない。
そして流星となったガンダムは、パープルウイドゥの船尾の下部へまるでアッパーカットのように突き刺さった。
「がはっ!?」
激突の衝撃によってコクピットのフレームが歪み、全身を衝撃で痛めつけられてヘルメットのシールドグラスを己の血反吐で汚すマ・クベ。
「俺からの引導代わりだ! テメエが守ろうとした艦と一緒に沈めてやるよ!!」
母艦の装甲にめり込んだギャンの胴にパイルバンカーの切っ先を押しあてると、ヤザンは迷うことなくトリガーを引いた。
「き…キシリっ!?」
ルナチタニウム製の野太い鉄杭は炸薬によって押し出され、一撃でギャンの胴を突き破った。
「うおおっ!?」
「ま…マ・クベ大佐機、シグナルロスト!」
「くっ!? 何をしている! 下にいる不埒者を振り払えんのか!!」
「む…無理です! この艦には艦底部の敵を排除する手段は……!!」
フルアーマーガンダムが杭を打ち込むたびにパープルウイドゥのブリッジに激震が奔り、警告音と共に赤いランプが周囲を照らす。
「ええい……!」
これはダメだと見切りをつけたキシリアが、脱出用の小型艇に乗るべく席を立った瞬間だった。
「う…うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
赤い軌跡を描きながら、紅色の機体がブリッジの強化ガラスの前に現れたのだ。
ほんのわずかな間だが、それでも死に物狂いで対空機銃などを乱射して牽制していた赤いザク。
その紅色の鬼が構えたのはビームライフルではなく、ガンダム等が使用するハイパーバズーカだった。
「これで幕だ、キシリア! あの世でガルマと仲良く暮らすがいい!!」
「私が…こんなところで……!? 父上……!」
漆黒の砲口から放たれた弾頭がブリッジに突き刺さるのと、パイルバンカーを全弾打ち込まれたギャンが艦底部で爆発するのは同時だった。
上と下双方から爆炎に挟まれたパープルウイドゥは、一分もたたずに宇宙のチリと消えた。
「フン、月のド田舎で縮こまっていればいいものを。戦場に下らん茶々を入れるからこうなる」
「ここで奴を討てたのは僥倖だったな。これでア・バオア・クーに専念できる」
ヤザンとシャアはパープルウイドゥが上げた炎が消えるのを見ると、ソロモンへと飛び去るのだった。
◆
どうも、戦闘の後に思わぬ珍客を迎えて少し困っているマチュです。
今、あたしの前には強そうなジオン系のМSがいます。
最初は『すわっ!? 新手か!』と思ったんだけど、どうもそうじゃないみたい。
「えっと、マリ…じゃなかった。アルマリア・ダイクンです。あたしを頼ってきたの?」
あたしはどう言ったものかと内心首をかしげながら、眼前のМSへ語り掛ける。
現れた時に感じた思念というか思いからすると、間違ってない筈なんだけど。
『そうです。私はシャリア・ブルと申します。ジオン共和国亡命政府の保護をお願いしたい』
そんな私の問いかけに返ってきたのはダンディな男の人の声だった。
「それに乗ってるの、おじさんだけじゃないよね?」
「私はアルマリアの姉、アルテイシアです。ミスター・ブル、貴方が公国軍を抜けたのは、その子達の為ですか?」
あたしに続いて後ろに乗っている姉ちゃんがシャリアのおじさんに声をかける。
そう、眼前のМSから感じる気配はおじさんだけじゃない。
子供が6人くらい乗っているのだ。
『マチュ、この子達って……』
「うん。皆、勘の鋭い類だ」
アンちゃんの言葉にあたしは頷いて見せる。
『その通りです。この子達はフラナガン機関というニュータイプの研究施設にいた被検体。彼女達は研究者の望む成果が出せないという理由で殺害されそうになっていました。どうか、手を差し伸べてはいただけませんか?』
ふむ、そういう事ならNOとは言えない。
「わかった。とりあえず、亡命艦隊のところに案内するよ。一緒の子達も疲れているでしょ」
『ありがとうございます』
こうしてあたし達はシャリアのおじさん達を連れてソロモンへ帰った。
万が一に備えて、アンちゃんにはおじさんの後ろに付いてもらっている。
もしもの時は相手が動くより早く、アンちゃんが対応してくれるだろう。
あと、帰り道の中で必要な人達には話はしておいた。
具体的に言うと兄ちゃんとロンバートのじっちゃん、あとはブレックスのおっちゃんに姉御とドク艦長。
それとラルのおっちゃんだ。
連邦の上の人に普通に報告したら、なにかと面倒な事になるだろうしね。
こういう根回しも必要なのだ。
そんな訳でシャリアのおじさん達との顔合わせは、亡命艦隊の旗艦であるペガサスの中で行う事になった。
まあ、この場を整えるまでに戦闘の事後処理とか何とかで一日くらい掛ったんだけどね。
その辺は子供達の身を休める時間を確保できたという事で良しとしよう。
「この度は、我々を受け入れていただき感謝します。アルマリア・リム・ダイクン殿下、そしてアルテイシア・ソム・ダイクン殿下」
言葉と共にソファから立ち上がって頭を下げるシャリアおじさん。
それを見たあたしは盛大に顔をしかめた。
「ごめんなさい。そういった畏まった態度は全然慣れないから、勘弁してください。あと名前もマリーって呼んでくれると助かります、はい」
座っていると失礼なので立ち上がってこういうと、シャリアのおじさんは意外そうな表情で顔を上げる。
「マリー、ですか? それは身分を隠す偽名と聞きましたが」
「生まれてからずっとマリー・マスで生きてきたからね。アルマリアよりもしっくり来るんだ。あと、あたし達は別に偉い人じゃないから態度とか崩してもらった方が楽かも」
「そうね。私もセイラと呼んでくださるかしら」
「私もシャアで構わない。組織の長としては不適格かもしれんが、子供もいるのだ。場の雰囲気が楽なら、それに越した事はあるまい」
姉ちゃん達が乗ってきたのを見て、シャリアのおじさんも察する事があったみたい。
「分かりました。ただ、この口調は私の癖のような物なので、そこは気にしないでください」
ソファに再び腰を下ろすと少し肩の力を抜いた。
「さて、シャリア・ブル大尉。君は今後どうするつもりかな?」
「どう…とは?」
「そちらが私達に求めたのは、そちらの子供達の保護。亡命政府側に付いて戦うという訳ではないのでしょう?」
「というか、おじさんはその子達のお世話をしないといけないんだから、戦場に出ちゃダメだよ」
あたし達のやり取りを見て呆気にとられたような顔をするシャリアおじさん。
ん、なんか変な事言ったかな?
「私はそちらへ投降した身ですよ。戦えと命じないのですか?」
「いや、子供達を助ける代わりにそんな事言うとか、いくら何でも外道すぎるでしょ」
「戦いを強要するなどナンセンスだ。そんな事をしても手を抜かれたり裏切られる危険が増すだけで、こちらにとって利などないさ」
兄ちゃんの言葉にシャリアのおじさんは戸惑うような顔を見せた。
「私は…かつては木星エネルギー船団で働いていました」
話がいきなり在らぬ方向に飛んでいったけど、それはまあ置いておこう。
こんな話を聞かせる以上、何か意図があるだろうし。
「木星エネルギー船団?」
「ジオン公国が作った資源輸送任務を目的とした木星船団公社の実務組織で、木星と地球圏を行き来してヘリウム3採掘と輸送を行う船団だ」
あたしが首を傾げると兄ちゃんが説明してくれた。
「他の星に行った事があるんだ! すごいじゃん!」
「そんないいモノではありませんよ。少なくとも私が行った木星は酷い環境だった」
私の言葉に自嘲を浮かべるシャリアのおじさん。
その時に伝わってきたのは酷い虚無感だった。
『何の役にも立たない』
『他人の期待に応えられない』
『なにより自分自身の期待すら叶えられない』
そんな酷い絶望と諦観。
けれど、それは同時に人とのつながりや社会という全ての軛からの解放でもあった。
誰の期待にも応じられないちっぽけな自分、誰にどう思われても気にする必要はないという事。
そこに自由を感じるのは、ある種の解脱といえるのだろう。
そうか。
シャリアのおじさんは、こうして鋭い勘を手に入れたのか。
「──どうやら感じたようですね」
「ごめんなさい。覗き見する気はなかったの」
あたしと同じものを感じたのだろう、シャリアのおじさんに姉ちゃんが申し訳なさそうに答える。
「いえ、お気になさらず。誰かに向けたモノではなくても、強い感情を読み取れてしまう。私達ニュータイプはそういうものです」
言いながら黒髪に褐色の肌を持った金目の子の頭を撫でるシャリアおじさん。
当の女の子は『何のことやら』と言わんばかりに首を傾げてるんだけどさ。
それと聞き捨てならない事が一つある。
「あ、あたしニュータイプじゃないよ」
「……え?」
そこにツッコむとシャリアおじさんはポカンと口を開ける。
「そう…なのですか? ですが、貴方方の中ではマリーさんが最も力が強い……」
「勘が鋭いのは認めるけど、あたしはコレがニュータイプの力だって思ってないもん。自分の力を他人の物差しで測られたらムカつくじゃん」
「それは…確かに……」
「そもそも、誰がこの力をニュータイプって決めたのさ?」
「キシリア閣下、それとフラナガン機関のフラナガン博士…ですかね。私は彼からそう教えられました」
あたしの問いかけにシャリアのおじさんが難しい顔で答える。
「研究所の人がそういってた!」
「あたしも聞いた!」
「俺も!」
すると子供達も口々にフラナガン機関で教えられたと言い出す。
「ラルのおっちゃんから聞いたんだけど、『ニュータイプ』が新人類って言いだしたのオトンなんでしょ? でもさ、あたし達の勘の鋭さってホントにオトンの言うニュータイプかどうか分かんないじゃん」
「お…オトン?」
「ジオン・ズム・ダイクンの事よ。この子は赤ん坊の時に養父であるテアボロ・マスに引き取られたので、彼を本当の父と思っているんです。だからジオン・ダイクンは呼び方を変えて区別しているのですわ」
「そ…そうですか」
姉ちゃんの説明に何とも言えない顔をするシャリアおじさん。
ていうか、兄ちゃんまでそんな顔しなくていいじゃん!
「そもそもさ、ニュータイプって言い方がダメだと思うんだ」
「それは何故?」
「だって偉そうだし。勘の良い人達がニュータイプなら、そうじゃない人は何て呼ぶの? オールドタイプ? それともノーマル? どっちにしてもこれって遠回しに見下してるよね」
「……たしかにそう取れる節はあるな」
「こんなの広まったら差別や分断の原因になるんじゃない? 今でさえスペースノイドとアースノイドって区別してるのに、そこに新しい燃料ブチ込んでどうするのって話」
兄ちゃんの同意を背にツッコミを続けると、シャリアおじさんの顔が徐々に引きつっていく。
「フラナガン博士達も宇宙に適応し、新たな次代を開く進化した人間と言っていたんですがね」
「なにそれ? 宇宙に適応できる進化した人間って、あたしは生身で宇宙も出られないし、ビームだって撃てないよ」
「それは……私も出来ませんね」
「そのフラナガンって人、夢見すぎなんじゃない? その人の言うニュータイプがあたし達と同じなら、勘が少しいいだけのタダの人間だよ。空も飛べなきゃ火も吹けないし、他の人達と同じご飯を食べてウンコも出す。新人類なんてちゃんちゃら……いてっ!?」
呆れ交じりに話していると姉ちゃんのゲンコツが降ってきた。
「下品なことを言ってはいけません」
「……こほん。ともかく、そういう他人を下に見る考えって選民思想とかヤバい考えに行きつくんじゃないかな。でもって世間から認められない事に拗らせた挙句、最後には世界が悪いって人類抹殺とかしちゃうんだよ」
ゲームや漫画でその手のパターンは何度も見たからよく知っているのだ。
「……そうね」
そう呟くと兄ちゃんの方を向く姉ちゃん。
……お姉さま、その猜疑の目はなんですか?
姉ちゃん、ナズェミテルンディス!!
「……あと、これに関してはあたしも悪いんだけどさ。勘の良い人ってМSを動かすと強くなりやすいんだよね。だからニュータイプだって調子に乗っていると、周りからヤバいと思われて狩られかねないよ」
「もしくはそういった素養を持つ者達を集めて、戦力として利用するか」
「実際にジオンは部隊を作って運用しましたからね」
シャリアおじさんの呟きの後、あたし達はため息をつく。
ぶっちゃけ、このニュータイプって概念は百害あって一利なしじゃなかろうか。
「それを思えば、この子達を連邦に任せるのは危険かもしれないわね」
「あたしもモルモットにされかけたからなぁ」
まあ、あの一件でレビルも降格くらったとか聞いたし、少年兵云々は世論のバッシングも凄いみたいだから馬鹿はしないと思いたいけど……ブレックスのおじさんに相談しよ。
「それで話を戻すけど、シャリアのおじさんはどうするの?」
「戦いから離れるのでしたら、亡命艦隊からシャトルを借りて近場のサイドへ避難してもらいますが」
姉ちゃんの提案にシャリアのおじさんは首を横に振った。
「いえ、私もここで戦おうと思います。私もこの子達も軍からの脱走者、下手に戦場から離れた方が危険が増す可能性がある。それに……」
「それに?」
「サイド3は私の故郷です。今の歪んだ状態から生まれ変われるのなら、それに手を貸すのも恩返しになるでしょう」
本人がそう言うのならいいかな。
そんでもって、この子達も亡命艦隊預かりになるのか。
あたしが言っちゃダメなんだけど色々とヤバくない?
そんな不安はともかくとして、シャリアのおじさんとの面談を終えたあたし達は子供達と改めて自己紹介を行った。
「私はアルレット……サイコミュや戦闘は得意じゃないけど、機械やМSはちょっと分かる」
あたしと同い年くらいの栗色の髪を持つ女の子は、シャリアおじさんの陰から少し顔を出しながら挨拶をする。
顔に痣が残っているのを見ると、研究所でいい扱いを受けていなかったのは一目瞭然だ。
接するときは警戒させないように気を付けよう。
「あたしはカチュア。よろしくね、マチュ!」
そう元気よくあたしに挨拶したのは小学生、いや幼稚園かも。
ともかくそんなくらいの年の赤毛の女の子だ。
というか、あたしこの会議でマチュって呼ばれたっけ?
こうして順調に挨拶は進んでいったんだけど、最後の一人がなかなかにファンキーだった。
トリを務めたのは面談の時にシャリアおじさんの隣に座っていた、黒髪に褐色の肌と金目を持つあたしと同じくらいの年の女の子。
彼女は無言であたしに近づくと、いきなりガバッと抱き着いてきたのだ。
「ちょっ!? な…なに!」
これにはあたしも虚を突かれすぎて迎撃はもちろん、躱すことも出来なかった。
「クンクン……」
「ひゃあっ!?」
しかもこの子、あたしの髪に顔をうずめて匂い嗅いでるし!
くっそー! 頭一つ分背が高いからって調子に乗るなよ!!
「……いい匂い。ポカポカして抱き心地もいい。私の眼に狂いは無かった」
何言ってるのかな、この子!
というか力、滅茶苦茶強いんだけど!?
「私はニャアン。ニャアン・アッカーマン。貴方の家の猫になる」
マジで何言ってんのかな、この子!!
「あーあ、ロックオンされた」
「ニャアンって猫7割、人間3割みたいな子だしねぇ」
「野生児だから喧嘩メッチャ強いし。アイツに無理やり実験しようとして、アバラヘシ折られた研究員って9人だっけ?」
「12人」
トンでもねえ!
そりゃあ研究所から放り出されもするわ!
というか、この子絶対にニュータイプとかじゃないぞ!
だって、気配がカメマンと一緒なんだもん!!
勘の良さも野生のものだろ!!
「よろしく、マチュ」
「ちょっ!? 待って! 頬ずりすんな!!」
兄ちゃん! 姉ちゃん! 助けてぇぇぇっ!!
ニャアン・アッカーマン
サイド2出身の少女で年はマリーと同じ10歳。
コロニー生まれのコロニー育ちだが、その身には強烈な野生を宿している。
サイド2で生まれ育った彼女は、父の所用でサイド3マハルへ家族で向かった事で一年戦争最初期の悲劇であるブリティッシュ作戦による故郷壊滅の被害を免れた。
しかしマハルは治安がいいとは言えない場所で、難民となった彼女は犯罪に巻き込まれた事で両親を失ってしまう。
本来なら一人になったニャアンには不幸な末路が待っている筈だったのだが、彼女は持ち前の野生と異様なほどの身体能力を駆使してスラムの中を生き抜いた。
その様は何処でも勝手気ままに生きる野良猫のようだった。
そんな彼女が周囲の話題になるのは当然で、フラナガン機関が目を付けたのもそれが切っ掛けだった。
結果、ニャアンはソーラレイ建設に伴うマハル市民立ち退きの際に確保され、フラナガン機関へ送られることになった。
ニャアンは基本的に猫のように気紛れだが、気に入った相手には甘えてスキンシップを求めるようになる。
マチュに発した家猫発言は本気であり、そこにはどういう形であれ新たな家族を得たいと言う彼女の寂しさが垣間見れる。
なお、彼女の身体能力は具体的に言うと[進撃の巨人]のアッカーマン一族並である。