ダイクン家の二女はアホの子   作:アキ山

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先生……オレ、格好いいシャアの書き方を知りたいです。


マチュと新たなる力

 なんとかサイド7から距離を取ったファルメルだが、船内はハチの巣を突いた様な騒ぎになっていた。

 

「機関室! エンジンの調子はどうだ!?」

 

『火災の方はなんとか消し止めて、応急処置でエネルギーバイパスを切り離してます。とはいえ第二エンジンが吹っ飛んじまいましたからね、本来なら即ドック入りですよ。通常航行なら右一つで騙し騙しで行けますけど、戦闘速度を出すのは無理だ!』

 

 シャアが不在の間は艦を預かる事になっている副官のドレン少尉は、各所から上がってくる艦の被害に鉄兜を脱いで頭を掻きむしりたくなった。

 

「被害状況はどうか?」

 

 そんな彼に声を掛けたのは、格納庫から上がってきた深紅の軍服が眩しい自身の上官だ。

 

「芳しくありませんな。普通に動くことはできますが、戦闘機動は無理との事です」

 

「そうか」

 

「申し訳ありません、少佐。貴方から艦をお預かりしておきながら……」

 

「気にするな、ドレン。ファルメルの損傷も私を助ける為に負ったモノ、頭を下げるのはこちらの方だよ」

 

 苦虫を噛み潰した顔で謝罪をする副官をシャアは咎める事無く、逆に労いの言葉を掛ける。

 

「しかし少佐があれだけの手傷を負うとは、やはり連邦の新型は脅威のようですね」

 

「ああ、機体も然ることながらパイロットも相当な腕だ。あれが連邦のパイロットの標準だとは思いたくないモノだがな」

 

「では、連邦のMSが量産されれば──」

 

「ああ、ジオンの有利など簡単に覆るぞ」

 

 緊張感を含んだドレンの言葉にシャアはそう返す。

 

 サイド7で戦ったMSの性能は化け物と言っていいものだった。

 

 少なくとも現行のザクでは歯が立たないと見ていいだろう。

 

 120mmマシンガンを跳ね返す堅牢な装甲に、MSを一撃で撃破が可能な強力な武器の数々。

 

 赤い砲撃タイプはともかく、白い奴は機動性においてもザクを上回っていた。

 

 あれでは普通の兵士がザクで挑んでも、鴨撃ちにされて終わるのが関の山だろう。

 

「どうされますか?」

 

「新造艦の行く先はルナツー、もしくはジャブローだ。あの新型と実戦データを連邦の本部が手に入れれば、我々は手痛い失血を強いられるだろう。やはり放ってはおけん」

 

「ですが、現状のファルメルでは敵艦の追撃は無理です」

 

「少し前に申請した補給物資にムサイ用の修理パーツも工面してもらう。申請を出してまだ数時間、今なら追加注文も間に合うはずだ」

 

「了解しました」

 

 各種手続きの為に通信機へ向かうドレンを見送ったシャアは、口元を歪めながら小さく呟いた。

 

「赤いキャノンに白い奴、この借りは必ず返させてもらうぞ」

 

 そこにあったのは悔しさと怒り。

 

 赤い彗星は他者が思う以上に負けず嫌いな性格なのだ。

 

 ただこの時の彼は知らなかった。

 

 仇敵と定めた相手の片割れに、自身の愛する妹達が乗っていたことに。

 

 

 

 

 ガンキャノンを格納庫に収めて降りると、待っていたのはテムおじさんのハグでした。

 

「二人共、よく…よく生きて帰ってくれた」

 

「父さん、恥ずかしいよ」 

 

「ただいま、おっちゃん」

 

 テムおじさんからは下心ゼロのあたし達を心配する心が伝わってきたので、あたし的にはウエルカムだ。

 

 こういうのって、父ちゃんが死んでからはあんまり無いからね。

 

「レイ大尉、ご迷惑をおかけしました」

 

「いいえ。息子を手助けしてくださって、ありがとうございます」

 

 ちなみに姉ちゃんの方は握手で済ませてました。

 

 この辺の空気の読み方は、さすがテムおじさんである。

 

「テム大尉、ブリッジからです! パイロット達を上げろって!!」

 

「わかった! 事情説明の為に私も一緒に行こう。マスさん達は服を着替えてきてください」

 

 格納庫の壁に備え付けられた通信機を取った整備員から声が掛かると、テムおじさんは少し強張った顔でこう言った。

 

 やっぱり、民間人のあたし達が出るのは拙かったかな? 

 

 姉ちゃんと持ってきた服に着替えたあたし達。

 

 テムおじさんと共に船の艦橋へ行くと、宇宙服姿の若い兄ちゃんがこちらへやってきた。

 

「お疲れ様です、テム大尉」

 

「君こそな、ブライト少尉。それで艦長は?」

 

「そちらに」

 

 ブライトと呼ばれた兄ちゃんが指さした先には、白髪交じりの髪をオールバックにした60手前のお爺さんがストレッチャーにベルトで固定されていた。

 

 かなりの重傷なんだろう、お爺さんから感じる生命力というか、命の火はかなり小さい。

 

「テム大尉、彼等がそうかね?」

 

「はい。こちらが愚息のアムロ。そしてガンキャノンに乗ってくれたセイラ・マスさんとマリー・マスちゃんです」 

 

 テムおじさんがそう紹介すると、艦橋にいた軍人も民間らしき人達も一斉に驚きの声を上げる。

 

「アムロはともかく、その子はまだ子供じゃない!」

 

「本当にあの子がモビルスーツを動かしていたの?」

 

 アムロのアンちゃんに寄り添っている同い年の姉ちゃんは口元を手で覆い、船の舵輪を持っていた姉ちゃんより少し年上っぽい女の人は思わずあたしの方に振り返っている。

 

 あの舵輪持ってる姉ちゃん、どっかで会ったような……。

 

「私はホワイトベースを預かるパオロ・カシアス中佐だ。こんな姿で済まない。それと我々に代わって避難民とこの船を護ってくれた事を感謝する」

 

「えっと…はい」

 

「あたしはアムロのアンちゃんや姉ちゃん、友達に死んでほしくないから戦っただけ。船やお爺さんたちはついでだから気にしなくていいよ」

 

 恐縮するアンちゃんと違って、あたしは片手をひらひらと振って適当に返す。

 

 お手伝いしている民間の人はともかくとして、軍人の連中から感じる疑いの感情がウザいんだよね。

 

 信じられないのは分かるけど、そういうのはもう少し隠せないもんかな。

 

「息子とマリーちゃんは私が依頼した外部協力者です」

 

「外部協力者……V作戦のかね?」

 

「ええ。ゲームを通じてMSの学習型コンピューターの育成を手伝ってもらってたんですよ」

 

「えっ!?」

 

「なんだ、忘れたのか? マリーちゃんの筐体を組んでいた時に説明しただろう。あのゲームはジオンから奪取した簡易型MSシミュレーターで、プレイを通じて適切な動作や戦術などをCPUに憶えさせると」

 

 驚いているアムロのアンちゃんに、テムおじさんは不敵な笑みを見せる。

 

 あ、これハッタリだ!

 

「幸いにも息子には才能があったらしく、マリーちゃんとコンビを組んでサイド7にいる23000人のプレイヤーの頂点に君臨してくれました。それに加えて他サイドのチャンプとも対戦をしており、その勝率も上々と聞いています。───だよな?」 

 

「う…うん」

 

「そうなの?」

 

「おっちゃんの言う通り、あたし達はサイド7チャンピオンだよ。あとチャンプ対抗戦でも勝率9割は確保してる」

 

 テムおじさんに話を振られて、アムロのアンちゃんは戸惑いながら頷く。

 

 一方のあたしは、姉ちゃんにおじさんの言葉が本当の事だと認めた。

 

 ちなみに敗因については通信設備の不備でラグ死が殆ど、実力でやられたのは月にいるっていう野獣っぽい戦い方をするタートルマンってプレイヤーにあたしが負けたのが一回だ。

 

 なんか思い出したらムカムカしてきたな。

 

 あのカメマン、今度対戦した時は絶対にリベンジしてやろっと。

 

「なるほど…だから赤い彗星を退けるほどの…連携を……うぅっ!?」

 

「パオロ艦長!」

 

 苦しみだした艦長さん、そんな彼に姉ちゃんが駆け寄る。

 

「私は医者の卵です。この方の容体は?」

 

「宇宙港への攻撃の際に、破壊された機銃の破片を胸や腹に受けてしまったんだ」

 

「破片の方は取り除いたのかしら?」

 

「軍医があの攻撃で全滅しちまったから無理だ。その代わりに止血テープで傷口を覆っている」

 

 姉ちゃんは艦長の傍に控えていた褐色の肌で体格のいいお兄さんと話をしている。

 

「破片が内臓に達している恐れがあります。もしそうでなくても、破片から菌が感染すれば腹膜炎を引き起こす事も」

 

「じゃあ、どうすればいい?」

 

「この艦の医務室は使えますか?」

 

「ああ、一応手術室もある」

 

「なら、避難民の中にお医者様がいるかを確認しましょう。もしダメだった場合は……私がやるしかありません」

 

「……すまん。ブライト、艦の事は任せるぞ! 俺は艦長を医務室へ運ぶ」

 

「わかった。リュウ、パオロ艦長の事は頼む」

 

 そうして姉ちゃんとストレッチャーを引いて艦橋を後にするリュウと呼ばれた軍人さん。

 

「それでレイ大尉、ご子息たちの事はこれからどうされるおつもりですか?」

 

 残されたブライトって軍人さんは、テムおじさんへ問いを投げる。

 

「もう実戦に出すつもりは無いと言いたいところだが、現状はそうもいかん。ルナツーまではガンダムとガンキャノン1号機を任せようと思う。そしてルナツーに着いたら外部協力は終了、避難民と共に保護してもらうさ」

 

「軍に志願させないと? 赤い彗星を退けられるほどのパイロットを在野へ放つのは……」

 

「ブライト少尉、君は軍規を知らんのか? 連邦軍に志願できるのは高等学校卒業程度の学力、基準以上の身体能力を有する18歳以上の男女! アムロはもちろん、マリーちゃんを軍人にするなど論外だ!!」

 

「し…失礼しました!」

 

 慌てて敬礼をするブライト少尉にテムおじさんはため息を吐く。

 

「君には私が何故ガンダムを造ったのか話した筈だがな。その意図を酌んでもらえないとは残念だよ。───行こう、アムロ、マリーちゃん」

 

 こうしてあたし達はテムおじさんに促されて艦橋を後にする。

 

 ブライトってお兄ちゃんの気持ちも分かるんだよ。

 

 ウチの兄ちゃん、エースになるくらいに連邦軍へ被害を与えてるっぽいし、そんな兄ちゃんを抑えられるパイロットが勿体ないって思うのは当然だ。

 

 けど、民間人な自分の息子が戦場から帰ってきたばかりのテムおじさんにそれを言うのはアウトでしょう。

 

 それにテムおじさんは子供が戦場に出る事をすごく嫌がっている。

 

 だからあの発言は二重の意味で地雷を踏んでしまったのだ。

 

 とはいえ、今回の襲撃でサイド7の連邦軍は大打撃を受けた。

 

 それを考えればブライト少尉もいっぱいいっぱいだろうし、腕の立つ味方を手放したくないって考えるのも無理ないのだろう。

 

 なんともままならないモノだ。

 

 

 

 

 その後、あたし達は特に襲撃を受ける事も無く連邦軍の宇宙基地『ルナツー』へたどり着いた。

 

「ありがとう、セイラさん。貴女のお陰で命拾いをした」

 

「いいえ、私は微力を尽くしただけです。ここまで命を繋げられたのは、パオロ艦長ご自身の生命力の強さゆえですよ」

 

 姉ちゃんの手術によって身体の中の破片を取り除いた艦長さんは、なんとか一命を取り留めることが出来た。

 

 手術の後の姉ちゃんは滅茶苦茶疲れていたみたいで、あたしを抱き枕に10時間くらいは寝ていた。

 

 医者の卵として補助や見学は何度かあったんだけど、自分がメインで手術をするのは初めてだったから滅茶苦茶怖かったんだって。

 

 ここでホワイトベースは人員を補充し、ガンダムやガンキャノンも新しい乗り手を迎えて私達はお役御免。

 

 当初の予定ではそうなる筈だったんだ。

 

「補充人員は無し? このままジャブローへ降りろですって!? どういうことですか、ワッケイン司令!!」

 

 ホワイトベースが収められたドックの中に、テムおじさんの怒声が響く。

 

 ルナツーの司令っていうおじさんが口にしたのは、今までの人員でジャブローに降りろというトンデモな命令だった。

 

「そのままの意味だよ、テム・レイ大尉。ジャブローの司令部は実戦を体験し、ジオンの赤い彗星を退けた君達の成果を高く評価している。故にMS・戦艦共に今までの人員で運用し、ジャブローへ辿り着くまでデータを取ってほしいという事だ」

 

「馬鹿なっ!? ブリッジ要員は経験不足の新兵と民間人、MSに乗っていたのは子供なんですよ! その状態でパオロ艦長まで艦を降りたのに、いったいどうしろというのです!?」

 

「わかっている。だが、これはジャブローからの命令なのだ。テム大尉、弁えたまえ」

 

「ぐっ……」

 

「ワッケイン司令。では、せめて避難民だけでも受け入れていただけませんか?」

 

 命令の一言で押し黙ったテムおじさんに代わって、司令のおじさんに声を掛けたのはブライト少尉だ。

 

「ここは宇宙における最前線だ、民間人を置いておくことはできない。避難民の皆さんには気の毒だが、ホワイトベースでジャブローまで行っていただく。以後の処理はそこで決定します」

 

 そう言い残して去っていこうとする司令官のおじさん。

 

 彼の背中からはこちらの意見を飲む気はないという拒絶の意志が見えた。

 

 とはいえ、命令だから仕方ないと飲めるほど司令部とやらの要求は軽いモノじゃない。

 

「ワッケイン司令。ならば、一日の猶予とルナツーの資材を提供してもらえませんか?」

 

「なんだと?」

 

 声に込められた並々ならぬ決意がそうさせたのだろう、テムおじさんの言葉に司令官のおじさんが振り返る。

 

「突貫でMS強化するので、その為の材料を出してくれと言っているのです」

 

「馬鹿を言うな! 補給物資を提供しているのに、どうして我々がそこまでせねばならんのだ!!」

 

「ホワイトベースをジャブローへ降ろす為に必要だから言っているんだ! こっちは素人と子供が動かすんだぞ! ソフトが未熟ならハード面を強化して補うのは当然だろうが!! 人を出さないのなら、せめてモノぐらい出せ!!」

 

 副官らしき人の文句に、それを倍する勢いで怒鳴り返すテムおじさん。

 

 アカン、これは完璧にキレてるわ。

 

「父さん、落ち着いて!」

 

「おじさん、ステイ、ステイ」

 

 アムロのアンちゃんとあたしがテムおじさんを抑えていると、司令のおじさんは少し考えるそぶりを見せて口を開く。

 

「いいだろう」

 

「司令、ですが!?」

 

「テム大尉の言い分はもっともだ。相手に無茶を飲ませておいて、こちらはイヤだなど筋が通るまい。むこうの要求には極力応えてやれ」

 

 こうしてホワイトベースはルナツー基地で一日休んだのち、南米のジャブローに向けて出発する事になった。

 

 その僅かな休息期間の中、あたしと姉ちゃん、そしてアムロのアンちゃんはテムおじさんに連れられてルナツーの格納庫に来ていた。

 

「ここで何をするの、父さん?」

 

「言ったろう。ここの物を使ってガンダムとガンキャノンを強化すると。そこで実際に乗るお前達の意見が欲しいんだ」

 

「強化って言うけどさ、パーツあるの? ガンダムとかって試作機じゃなかったっけ」

 

「ガンダム1号機が組み上がった時点で、連邦の各基地で部品やアタッチメントパーツの製造は始まっているからね。ルナツーだってその手のモノは保管してあるさ」

   

「なるほど、軍を上げてのプロジェクトなのですね」

 

 そんな感じで説明を受けた後、あたし達はモビルスーツへ乗り込む。

 

 アムロのアンちゃんはガンダム、そしてあたしと姉ちゃんはキャノンだ。

 

「て…テム大尉、今子供が乗り込んでましたが?」

 

「それがどうかしたかね? ジャブローの指示だよ」

 

 おそるおそる声を掛けてきた整備員をギロリと睨んで黙らせるテムおじさん。

 

 やっぱ、司令部からの無茶振りに関しては怒っているらしい。

 

『アムロ、マリーちゃん。機体を立ち上げて、機体コンディションの画面を見てくれ』

 

 言われたとおりに操作すると、そこにはガンキャノンの全体図と横にパーツを種類分けしているのだろう様々な項目が現れる。

 

「アンちゃん、これって……」

 

『ああ。ゲームにあった武装のアセンブル画面だ』

 

 これにはビックリ。

 

 まさか、本物のMSにまでこの画面が搭載されているとは思わなかった。

 

『その画面にはルナツーに保管されているパーツの殆どが登録されている。君達の使いやすいようにカスタマイズしてくれたまえ』

 

 なるほど、それなら話は早い。

 

 重量バランスとかジェネレーター出力の数値が少し変わっているけど、それでも勝手知ったるシステムだ。

 

 姉ちゃんと生き残る為にもガッツリと利用させてもらおう。

 

 その後、アムロのアンちゃんと『ああでもない、こうでもない』とアセンを弄りまくること30分。

 

 なんとか改装案が纏まった私達は、後の事をテムおじさんに任せて休むことにした。

 

 そうして翌朝の出航前に改修が終わったガンダムとガンキャノンが運び込まれた。

 

 ちなみにテムおじさんは精魂尽き果てたのか、アンちゃん曰く部屋でいびきをかいて寝ているんだってさ。

 

「アンちゃん、随分と尖ったアセンにしたね。バリバリ機動力重視じゃん」

 

 改造が施されたガンダムだけど、バックパックは大型のブースターユニットに入れ替えられて両足と胸にも増加装甲付きの補助バーニアが付いている。

 

 あと脚の裏のブースターも強化されてるや。

 

 機体名を付けるなら、さしずめ『ガンダム高機動型』ってかんじかな。

 

「武装の方は腕に固定する二連ビームガンっていうのがあったんだけど、僕的にはあんまりピンと来なくてさ」

 

「アンちゃん、手持ち武器の方が好きだもんね」

 

 まあ、ガンダムの武装は元々強力だから火力が足りないなんてことは無いだろう。

 

 けど、これとアンちゃんが噛み合ったら高機動とアホみたいな精密エイムが連続で飛んでくることになるんだろうなぁ。

 

 これはヅダ使いの間で伝説になった『見えない死神』の再来かも。

 

 何度か戦った事がある身としては、マジでジオンの人達に同情する。

 

 次にガンキャノンの方を見に行ったんだけど、アンちゃんは唖然とした顔で機体を見上げる事となった。

 

 うん、そりゃあそうなるか。

 

 だって砲撃機にはあり得ないブツがぶら下がってるもん。

 

「……マチュ。どうして『とっつき』にしたの?」

 

「姉ちゃんが気に入りまして。正義の怒りで撃ち貫くそうです」

 

 あたしは心の中で『主に赤い彗星な兄ちゃんを』と付け加えておく。

 

 そう、ガンキャノンの右腕にはゴッツいパイルバンカー、ゲームでは「とっつき」と呼ばれるロマン武装がくっ付いていた。

 

 その他にも左腕には外付けのガトリング砲が追加。

 

 背面のスラスターはキャノンの邪魔にならない範囲で大型化されて、脚や腰にも小型のブースターユニットが追加されている。

 

 これで重量バランスがジャストフィットするとか、ある種の奇跡だと思う。

 

「とっつき使うのなら、踏み込みの加速力がいるじゃん。やっぱ」

 

「サイド7の人食い魔猪、再びか」

 

 なんとかフォローしようとするあたしに、アンちゃんはため息交じりに額を押さえる。

 

 うん、そうだね。

 

 このアセンを組んだヅダを使って、アンちゃんを開始2秒でぶち殺したことあるもんね、あたし。

 

 けど、アンちゃんのヅダも大概だと思うよ。

 

 開始3秒で背面から撃たれて即死とか普通ありえないから。

 

 というか、どんな加速を使ったら2秒で相手の背後を取れるのさ。

 

 その後、あたし達は機体の操作感覚に慣れる為に何度かシミュレーターで対戦してみた。

 

 結果は10戦やって4勝6敗。

 

 ガンダムが速すぎてキャノンで追うのがめっちゃしんどい。

 

 あと、アホみたいな機動でこっちを精密エイムで狙ってくるのも相変わらず酷すぎる。

 

 曲がりなりにも砲撃機なのに、射撃戦で撃ち負けるとかどういうことなのか。

 

 あと射程外からのビームが命中率8割なのは、控えめに言ってイカレてると思います。

 

 そんなこんなであたし達が調整を終えた頃には、ホワイトベースは地球へ突入する準備に入っていた。

 

「アムロ、嬢ちゃん。何時でも出られるように機体で待機してくれ。ジオンの連中が攻めてくるかもしれんからな」

 

「はーい」

 

「リュウさんはどうするんです?」

 

「俺もコア・ファイターで待機だ。今までは色々あって出られなかったが、これからはドンドン頼ってくれていいからな」

 

 なるほど、支援機も出してくれるのか。

 

 それなら戦術の幅も広がりそうだ。

 

 あたしは姉ちゃんとパイロットスーツに着替えて、ガンキャノンに乗り込む。

 

 改造の際にコックピットにも手を加えられていて、前がメイン操縦のあたしの席。

 

 そして後ろに姉ちゃんの座るサブの席が付くようになった。

 

 しかもこの操縦席はGの緩和機構も備えていて、加速した時にはペダルごとある程度後ろにスライドして衝撃や圧を逃がすように出来ているんだってさ。

 

 もちろん姉ちゃんの席も同様だから、ぶつかることはない。

 

「あの男は来るかしら?」 

 

「どうだろうね。姉ちゃんの一発で脳漿炸裂しちゃったから、出てこないんじゃない」

 

 そんな事を話していた時だった。

 

 あたしの頭の中をピキーンと何かが閃いたんだ。

 

 間違いない、この気配は兄ちゃんだ。

 

 なんで来ちゃうのかな、もう!

 

『敵だ!』

 

 内心で頭を抱えていると、レーダーに引っかかったのだろう。

 

 ブリッジから通信が入ってきた。

 

『接触推定時間は34秒後! 敵の数は6! 全てザクです!!』

 

「……来たわね。今度こそ、その命ごと腐った性根をブチ抜いてあげる」

 

 ヤバい、また姉ちゃんの殺意の波動がががが……。

 

『ガンダム! ガンキャノン! 発進してザクの足を止めろ!! できるな、アムロ、マリー?』

 

『了解』

 

「大気圏近くなんでしょ、制限時間はどのくらいなの?」

 

 ゲームだとこのシチュなら2~3分程度でカタを付けないといけなかったはずだ。

 

『4分よ、4分でホワイトベースに戻って。でないと大気との空力加熱で焼け死ぬわ』

 

「OK、わかった」

 

 操舵を担当するミライお姉さんの声に、あたしは持ち込んでいた携帯端末のアラームを弄る。

 

 設定は3分、これが鳴ったらタイムリミットだ。

 

『マチュ、最初に僕が出る。君は後からついてきてくれ』  

 

「わかった。それで作戦は?」

 

『時間が無いからね、出鼻を挫いてそのまま一気に押し込む』

 

 そう告げるとガンダムはカタパルトに両足を乗せる。

 

 機体性能を活かして最速で叩き潰す気か。

 

 となれば……

 

「姉ちゃん、船を出たらフルスロットルで行くから気を付けてね」

 

「ええ、よくってよ」 

 

『アムロ、行きまーす!!』

 

 通信からアンちゃんの声が響くと、宇宙空間に出たガンダムがあっと言う間に流星になる。

 

 そして、あたしもガンキャノンをカタパルトに乗せる。

 

『ガンキャノン、発進どうぞ』

 

「了解、いってきます!」

 

 シートが下がるくらいの重圧からの、宇宙に飛び出す解放感。

 

 モニターを見ると、流星から放たれた赤い閃光が一機のザクを火球に変えていた。

 

「アムロはもう一機落としたのね」

 

「さすがアンちゃん」

 

 というか、また背後からブチ抜いたみたいだ。

 

 あのザク、なにがなんだか分からない内にやられちゃったんだろうなぁ。

 

 バディがやらかしたエゲツない攻撃に遠い目をしそうになったけど、すぐに意識を現実へ向ける。

 

 自分の感覚が辺りにふわりと広がっていく心地よさがあるけど、今はそれを楽しんでいる場合じゃない。

 

 あたしが思い切りペダルを踏み込むとキャノンに増設されたバックパックに腰、そしてふくらはぎと足の裏のブースターが一斉に火を噴いた。

 

 その炎は赤い機体を巨大な弾丸に変える。

 

「なんだ、アイツは!? はや───」

 

「貰ったぁ!!」 

 

 腰だめに構えたガトリングによるけん制で緑のザクの足を止めると、懐へ飛び込んだあたしは勢いのままにキャノンの右手を突き出す。

 

 手首の上から突き出た杭が相手のへその辺りに突き刺さると同時にトリガーを引けば、重い反動と共にザクの身体はバラバラに吹き飛んだ。

 

『な…なんだ、あの威力は!?』

 

『おのれ! 連邦のMSは化け物か!?』

 

 これで後は4機!

 

 チャッチャと片付けて、兄ちゃんが串刺しになる前に生け捕りにしよう!

 

  




・ガンキャノン重装突撃型。

マチュがとっつきに目を奪われたセイラの為に組んだ機体。

相手に突撃しながら高火力で足止めをし、そこから右腕のパイルバンカーで粉砕するというコンセプトが明らかに迷走しているゲテモノ機体。

敵の攻撃を突っ切って相手の懐を取るという戦術から装甲と加速力、さらにはパイルバンカー激発時の衝撃に耐えるべくフィールドモーターの耐久性とパワーも強化された。

その為、モビルスーツはもちろんのことモビルアーマーでも当たり負けしない馬力を誇る。

反面、遠近どっち付かずの機体な為に運用は難しく、よほどのセンスと操縦技術が無ければ真価は発揮できない。

なお、当時月にいた金髪リーゼントの野獣さんは『おもしれえオモチャじゃねえか!』とこの機体を大層気に入ったもよう。

・ガンダム高機動型

ガンダムの機動力を高める為にアムロが組んだ強化機体。

FSWS計画で試作された補助バーニアや増加装甲からなる簡易装着式の「高機動ユニット」が胸部と脚部に取り付けられ、背部も従来のランドセルから大小計4基のバーニアユニットを備えた大型パックパックへ換装されている。

これによって、機動性に加えて防御力も高めた機体として仕上がっている
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