次から次へと! 少年魔導士の受難は続く   作:はるゆめ

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第八話 後編 洞窟の秘密

 翌朝、朝食後に村長夫妻と面談することになった。

 

「“あれ”の本格的な視察の前に、皇族の方が下見にいらっしゃったと理解しております。それに相違ないでしょうか?」

「そうだ。見ておきたいが可能であるか?」

 

 本当は“あれ”が何なのがわからないけど、俺はポーカーフェイスで答えて探ってみる。

 

「はい。途中まででしたら危険はないものと思われます」

 

 途中? 危険?

 

「では案内を頼む。準備せよ」

「承知いたしました。村の者を手配します」

 

 村長夫妻が出ていくのを見送った後、黒瀬と優子の方を見る。黒瀬、顔に出てるぞ『何の話かわからない』って。俺もだ。

 

「おおよそ古代遺跡が見つかって調査隊の視察待ちという段階であろうよ」

「あぁ、なるほど」

 

 さすがはセルア。なるほど、俺たちが突然訪れたにもかかわらず、妙に手際良かったのは、視察に備えていたからか。

 

「発見の報告は帝都にある国土院に直接行く上に、事務手続きも煩雑だから、何にせよ時間がかかる」

 

 セルアって下々のお役所仕事をよく知ってるよな。皇族の嗜みの範疇を超えてるような気もするけど。

 

「普通は領主とかに知らせるんじゃないの?」

「古代遺跡から大変貴重なものが見つかった場合、その領主が独占を目論み、中央へ秘匿することもあるからだ。特に国境周辺だとな」

 

 あぁ、そうか。中央なら離れるにつれ、忠誠も下がるもんな。

 

「帝国領内には遺跡が多いという噂だが」

 

 黒瀬が問う。

 

「クローセ、よく知ってるな。その通りだ。多くの遺跡から発掘されたものが帝国の繁栄を支えてきたと言っても良い」

 

 失われた技術やらが眠ってるという話は、俺も聞いたことがある。

 村長が戻ってきた。体格のいい若者が四人一緒だ。

 

「ではご案内いたします」

 

 遺跡は村の背後に聳える山の中腹にあった。

 

「先々月の大雨の時にここで地滑りが起きました。山道の復旧にと来てみたら、このようなものがございまして……」

 

 村長の後ろには巨大な洞窟があり、その入り口は石の門とも言うべき作りだ。白くて四角い柱は一辺が一メートルはあって、滑らかな表面には何やら紋様が刻まれている。

 

「ふむ。報告にあった通り、洞窟型遺跡か」

 

 セルアが知ったかぶりをする。俺もそれに倣い、洞窟の入り口へ行き、中を覗きながら、うんうんと頷いてみせる。陽の当たる範囲で見る限り、洞窟の壁は素掘りではなく人工的な素材で出来ているようだ。

 

「ここにいる四名がある程度のところまで入りましたが、特に何もありませんでした」

 

 村長の解説にセルアは予想外のことを言った。

 

「ふむ。入ってみるか」

 

 おいおい。

 

「左様ですか。では仰せの通りに」

 

 村長と若者達は篝火の準備を始めた。

 

「おい、そこまでやるのか」

 

 小声でセルアに耳打ちすると、彼女も同じく返してきた。

 

「見るだけだ。お前がいれば何も心配はいらないだろう?」

 

 セルアは楽しそうに笑いながら言う。特に反対する理由もないので俺は渋々頷く。

 

「村長、我らだけで入る。明かりを」

「恐れながら。貴き方々のみでなど」

「気遣いは無用」

 

 俺は動揺する村長を横柄な態度で遮り、篝火を受け取る。油分を含んだ木の枝を束ねたものだ。

 

「すぐに戻る。しばし待っておけ」

 

 俺たちは入り口から洞窟へと入った。いつものフォーメーション、先頭を黒瀬、俺とセルアが並んで続き、殿は優子。

 中は天井がアーチ型で洞窟というよりトンネルだ。高さは五メートル以上ある。かなり広い。ゆっくりとした下り坂になっていて、陽が当たらないため少し寒い。

 壁はコンクリートとも金属とも違う材質で、近いのはシリコンだ。全く地下水が漏れてないところを見ると、かなり高度な工法で作られたのが伺える。

 

「ん、これは?」

 

 黒瀬が壁にあるスイッチのようなものを見つけた。

 

「触ってもいいのか?」

 

 と俺に聞いてくる黒瀬。見た感じタッチパネルっぽい。

 

「いいんじゃないか」

 

 俺は危険がないと思う。黒瀬がそれに触れると、トンネル内部、天井、壁、床全体がやんわりと発光する。

 

「へぇ照明のスイッチだったか」

 

 篝火を消す。

 

「ほう。これはすごい技術ではないか」

 

 セルアが感心してる。俺もだけど。壁を触ってみたが、全く熱を感じられない。

 

「LEDと全然違うな。光苔とかそっち系かな。とにかくどんな原理やねん」

「LEDって?」

 

 訊かれたので、俺は黒瀬に赤色のみだった発光ダイオードが白色となった経緯を教える。

 

「ふぅん。便利になるんだな、平成。でも未来のこと俺に教えてもいいのか?」

 

 黒瀬はSF好きだ。心配な顔になる。

 

「黒瀬と優子がそれを知ったからって歴史は変わらんだろう。黒瀬は理系か?」

「完全な文系だ。特に数学は敵だ」

 

 それなら心配ない。

 

「ふふふっ」

 

 笑い出す優子。

 

「あのね、ヒロアさん。黒瀬君は数学の授業を必ずサボって保健室にいたのよ」

 

 俺も覚えがあるな。俺の場合は放送室だったが。

 

「私が初めて黒瀬君の血をもらったのも、保健室」

「六年前か……ずっと昔みたいに感じる」

 

 黒瀬と優子が何やら二人の世界を作っているのを俺とセルアはおとなしく鑑賞することにした。そこで俺は急に思い出したことを提案する。

 

「なぁ、優子。俺の身体って、この惑星(ほし)の人間のじゃなくてイズミが日本から持ち込んだ俺の細胞がベースなんだ。もしかしたら俺の血を吸えば、本来の力を出せるんじゃないか」

 

 そう言うと、黒瀬と優子はぽかんとした顔になった。

 

「えと、ヒロア、それ本気で言ってる?」

「血を吸われたからって俺もバンパイアになったりしないんだろう?」

「ええ。それはフィクションのお話」

「量も少ないんだよな?」

「そうよ。おとなしくさせたい対象なら動けなくなるまで吸うこともあるけど」

「じゃ、試してみてくれ」

 

 俺は腕まくりをする。

 

「キュウケツキ、見せてもらうぞ」

 

 セルアも興味深々になってる。優子は俺の腕を取ると、そっと口をつける。彼女の唇が触れた感触が一瞬だけしたが、それはすぐに消え何も感じなくなった。麻酔みたいなものだろうか。

 

 すぐに優子は顔を上げ、唇を拭うと『ごちそうさま』と俺に礼を言う。俺の腕には何一つ傷がない。

 

「かなり美味しいわ。ここの食生活のおかげでしょうね、ヒロアさん、あまり肉を食べてないでしょう?」

「そうだよ。肉は貴重だし、かなりの贅沢だからな」

 

 この大陸では食用のための家畜は少ない。動物を飼うことがまだまだ高コストなため、食べるとしたら病死や老衰死した家畜のみだ。しかも滅多に市場に出ない。

 

「それでどうかな?」

「黒瀬君にもらってた頃と変わらなくなったわね。色々と役に立つよう頑張るから」

「優子の役に立てて良かったよ」

「興味深いものを見せてもらった」

「日本に限らず吸血をする妖怪やらの伝承は国を問わずあったけど、こっちじゃ全然ないんだな?」

「そもそも物語の大半は創世叙事詩か英雄譚だ。ニホンみたいに多岐に渡る創作がないからな」

 

 娯楽がそこまで発達してないのは、まだまだ衣食住、特に食が不足しているから……と思う。それは帝国があちこちに戦争をしかけまくって、世の中が安定しないというのが大きな原因なのは明らかだ。ほんと迷惑だ。

 

「感知魔導に何も反応ないから無人っぽい。どうする?」

 

 俺はセルアに問う。

 

「遺跡の視察はよく行った。私はぜひ行きたい。気まぐれの寄り道もしてみるものだな」

 

 帝国領に入ってから、セルアは随分と余裕が出てきた。その気持ちはわかる。まさかセルアが帝国領にいるなんて、皇帝は考えもししないだろう。

 

「んじゃ行くか。優子も気配の警戒頼むよ」

「任せて。村長達が何してるかも把握出来るから」

「彼らは何してる?」

「男の人を一人、村に向かわせたみたいね」

「何か変わった動きがあったら、教えてくれ」

「もちろんよ」

 

 俺たちはひたすら歩いたが、見えてるものに変化は無い。

 

「しかしこれ、何のためのトンネルなんだろうな」

「そう言う黒瀬はどう推測する?」

「奥に何かの施設があるんじゃないか?」

「同感だ。でも何故地下なんだと考えると、極秘研究施設か軍事施設か」

「奥には丈夫な扉があるわね」

「え? あ、そうか。優子のそれ万能だよな」

「影ができるところなら全て見通せるのよ」

「距離わかる?」

「一キロぐらい?」

「じゃそこまで行こう。手を繋いでくれ」

 

 一瞬だ。

 ずっと広くなった空間、目の前には巨大な壁。天井までゆうに二十メートルはある。

 

「これが扉?」

 

 滑らかな壁には奇妙な文字と模様が描かれているものの、隙間も何もなくどういう形なのかもわからない。

 

「どうやって開けるんだろう」

 

 黒瀬と二人で何かないかと探してると、不意に声がした。

 

「お待ちください」

 

 俺の感知魔導にも優子の能力にも察知されず、そこに立っていたのは、村長の娘ミィタだった。

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