次から次へと! 少年魔導士の受難は続く   作:はるゆめ

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第十話 子守りディ

「ふふふ、見てルウカ。ヒロアキ君が絵を描いてるわ」

「なかなか達者ですね」

 

 帝国より遠く離れた王国、山奥にある“殲滅の魔女”イズミの拠点。彼女と侍女ルウカが、今日もヒロアの首飾りから送信される映像をホログラムで見ている。

 

「彼、マンガばっかり描いてたものね。小学校三年の時かな。大学ノートに種類の違う連載漫画を描いてクラスで回し読みしてたものよねー。少年マンガ雑誌を一人で描いてたわけ」

「かなりの情熱です」

「そうなのよ。それと妙に雑学というかそういうのに詳しくてね」

「そこまで好意的に見てたのに、イズミ様はどうして意地悪ばかりしていたのですか?」

 

 ルウカの問いに顔を背けるイズミ。小さな声でつぶやく。

 

「何でだろうね……」

 

 迷宮都市ディーザ。緑豊かな山々に囲まれた盆地を、都市計画なんぞ知ったことかと言わんばかりに不揃いの建築物が埋め尽くす大都市。 

 中心には行政機関やら貴族の邸宅、様々な商店街や市場が無秩序にひしめきあっていて、端の方へ追いやられているのが安宿街だ。

 そのうちの一軒に俺たちは宿泊している。

 

「ヒロアー、遊んでー」

「あしょんでー」 

「やあベレタにルサ、今日も元気だね。絵を描くぞー」

「やったあ!」

 

 宿の中庭に置いてある縁台で、朝っぱらから子ども二人と遊んでいる、それが俺だ。

 

「ヒロア、ベレタとルサの子守り頼んじまってすまねぇ」

 

 忙しく働きながら俺に声かけてきたのは、宿の主人ガロウ。身長体重ともに力士クラスの巨漢だ。

 

「気にしないでいいよ。俺が好きでやってるんだから。よし、お父さんの似顔絵を描くからな」

 

 彼は奥さんには先立たれている。二人の子持ち。姉がベレタで十歳、妹のルサは五歳だ。

 

「わぁ! そっくり!」

「お(とう)だー」

 

 満面の笑みで喜ぶ姉妹。よし次は紙芝居方式で物語を描いてやろう。

 

「不思議な描画法だが、宿の主人とはっきりわかる」

「デフォルメってやつさ。セラの顔も後で描くよ」

 

 人の耳目があるところじゃセルアの名はセラだ。特徴的な白い髪も炭で黒くしてあるから、誰も皇族とは思わないだろう。

 

「そ、そうか」

 

 おやセルアさん、年相応の笑顔になったねぇ。

 

「ヒロア、それ紙芝居?」

「そうそう。黒瀬にもアイデア出してもらうとするか」

「今描いてるのって、怪獣?」

 

 優子も覗き込んでくる。

 

「そ。宇宙怪獣キングドラゴンだ」

「本物のドラゴンと全然違うけど……」

 

 おっと、優子よ。ドラゴンを見たことある人間なんてほぼいないんだから、それは失言だぜ。俺の目線に気がついた彼女は少し慌てた様子で周りを見回す。

 

 大男のガロウが営むこの宿屋、実はただの宿屋じゃない。一見さんお断りの会員制で利用客は貴族かその関係者のみ。密談や道ならざる恋の逢瀬に使われる秘密の宿ってわけ。利用客同士が決して顔を合わすことのない作りはまるでラブホテルで、これには俺も関心した。

 

 さてなぜ俺たちが貴族専用の宿屋にいるのかって言うと理由がある。ドラゴンのミィタと別れた後、俺の転移魔導でここ、迷宮都市ディーザの宿屋街に移動、宿探しをしていた。

 

 とある宿の裏口で貴族の従者らしき男に蹴られている女の子がいた。小学生ぐらい。そばで大泣きしている妹らしき女の子も。

 それを見た瞬間、頭が真っ白になった。男の足を掴んで転がし、ちょっと強めの雷撃魔導を喰らわせて、セルアが止めるまで馬乗りで殴りつけていた。

 

「お前っ! 子どもをっ! 蹴ってたな! おいっ!」

 

 ……反省はしている。相手が高位の貴族や皇族だったら面倒なことになるから。

 

 すぐにセルアがダラド伯爵の名前を告げると、その男はそれまでの威勢はどこへやら、顔色変えてセルアにひれ伏した。宿の中で不倫をしている男の主は下級貴族らしい。

 

 少々虫の居所が悪かったその男はぶつかってきたベレタを足蹴にしていたとのこと。やだねぇ。逆らえない相手、しかも子どもに当たり散らすとは。

 

 で、出てきたガロウにいたく感謝され、宿を探してるならうちにと言われ、またベレタとルサにえらく懐かれたので泊まることにしたわけだ。外から見るとかなりくたびれたガロウの宿屋だが、用途に合わせて防諜などのセキュリティは軍の施設並みらしい。

 

 俺たちとしてもありがたいので、ガロウの宿にお世話になることにしたわけだ。

 

「あんな怖い顔をしたヒロアは初めて見たぞ」

「あーうん、俺もなんでか不思議だけど、ボヤけた記憶の中に『娘がいた』ってのがあるんだ。それが原因だと思う」

 

 カッときてすぐに動くなんて傭兵としては最悪の対応だ。小さな子どもが暴力を振るわれている光景は、俺の中の暴走スイッチを押す、それだけはわかった。

 

「よーし、ベレタ、ルサ、『ふたりはベレルサ』が始まるぞー」

「わぁ!」

「なになにー?」

 

 四半刻(十五分)後、俺の力作紙芝居は、魔導少女となったベレタとルサが宇宙大怪獣キングドラゴンを倒してエンディングとなった。

 

「わあああ!」

「うきゃあー!」

 

 二人は大喜びだ。ルサなんかひっくり返って全身で喜んでる。よし。

 

 黒瀬が『元ネタはなんだよ?』と聞いてきたので、教えると複雑な顔をしていた。確かに想像つかないだろうな。

 

 しばらくして幼い姉妹はスイッチが切れたみたいに寝てしまったので、寝床へ運び、俺たちは昼食に出かける。ガロウの宿は食事を提供しない。

 

 ガロウに教えてもらった飯屋に行く。ここもまた貴族が密会に使う店で、全て個室、完全防音になっている。しかも出入り口が複数あって、他の客と顔を合わせることのない作りだ。徹底してるなぁ。

 

「ヒロア、刺客は?」

 

 大きなケバブっぽいのにかぶりつきながら、黒瀬が聞いてきた。ソースが口についてるぞ。

 

「今のところ半径二キロ以内にはいないよ。楽観的かもしれんが、帝国もまさかセルアが帝国領に戻ってきてるとは思ってないといいんだけどなぁ」

 

 俺も同じくかぶりつく。美味い。

 

「帝国の情報部は優秀だ。あらゆる可能性を想定して動いているぞ」

 

 セルアは上品に少しづつ齧っている。優子も同様だ。

 

「索敵魔導で常に警戒しておくよ」

 

 大都市だから、刺客も多いんだろうな。

 

「でもさセルア、ここってなんで“迷宮都市”って名前ついてんの?」

「このディーザは都市要塞だ。国境を隔てて睨み合う共和国に対しての、な。都市攻防戦になった場合に備え、街道は複雑に曲がりくねり、建物も雑多に建てて迷宮にしている。敵が攻め込んでも領主府に辿り着けないようにな」

 

 はぁーなるほど! 日本の城もそんな感じだけど、都市ごと敵の侵入を防ぐようにした作りなのか。

 

「共和国って?」

「黒瀬は知らなかったか。狼男ってわかるだろ?」

「ああ知ってる」

「あんな風に動物っぽい姿に変身できる“ケモノつき”と呼ばれる人たちの国だ。俺が所属していた傭兵団にも何人かいた」

 

 あの人たち、変身したらやたらと強いんだよなぁ。

 

「そうか。俺たちがいた隣国にはいなかったんで、知らなかったよ」

「帝国の属国にも絶対いない。帝国は超がつく“人至上主義”だからな、その辺徹底してるぜ」

 

 存在すら認めていない帝国だ。

 

「今もなお国境付近は紛争地帯だ。ここは国境付近に展開する軍の兵站を担っている」

 

 セルアは何でも知ってる。

 

「私も“殲滅の魔女”討伐軍に編入される前は、共和国軍と戦ってた」

「え、それ初耳」

「私も言ってない」

「皇女、つまりお姫様をさ、軍に入れて最前線で戦わせるなんてクレイジーだろ」

「皇位継承から遠い位置にあって、しかも戦力となる私は皇帝にとってはただの兵器に過ぎない。そんなものだ」

 

 優子がそっとセルアの手を握り、じっと見つめ、セルアも無言でこたえる。

 

「じゃ行くか。ベレタとルサが昼寝から起きてる頃だ」

 

 せめてセルアの嫌な思い出を、楽しいことや面白いことで上書きしてほしいよ。今にして思えば、セルアのお祖父さん、ダラド伯爵の熱い抱擁も全然大袈裟じゃないと思う。可愛い孫娘だもんな。

 そんなことを考えながら俺たちはガロウの宿へと戻った。

 

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