次から次へと! 少年魔導士の受難は続く   作:はるゆめ

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第十三話 スッキリしに行って憑かれた

「いらっしゃいませ。私、フウジィと申します」

 

 お、おう。こりゃたまげた。部屋に入った俺をまさに三つ指ついて出迎えてくれたのは、女性ホルモンによる第二次性徴が遺憾なく発揮された魅惑のボディを持つ若い女の子。唇の横にあるホクロが色っぽさをアピールしてくる。

 

「こちらへどうぞ」

 

 全身から濃密な色香を放って、上品な笑顔で俺を誘う優雅な所作、さすが高級店だと感心する。

 実はこの娼館、ガロウの経営だったりする。こっそり娼館のことを聞いた時に教えてもらったのだが、ガロウってその気になれば貴族のスキャンダルを握り放題の立場だ。

 

 帝国に限らず貴族、王族は体面が全てなので、それを台無しにするスキャンダルを忌み嫌う。ま、ガロウもアホじゃないから安宿街に貴族相手に下手は打たないだろうけど。安宿街に自然と溶け込んでる事実からして、結構なバックがいるはず。

 

「お召し物を預かります」

 

 彼女に服を脱がされ、そのまま手を引かれるままベッドへと傾れ込み、肌を重ねた───が、やはりダメだった。やることやってスッキリした一方で、心の中に虚しさが漂う結果になって落ち込む。

 

「天井を見つめていますけど、考え事ですか?」

「ちょっとね」

 

 声も色っぽいフウジィ嬢に問われるも、満足してないことを悟られないように誤魔化す。

 記憶を取り戻す前。“ただの傭兵ヒロア”だった頃は、傭兵団仲間と一緒に女遊びはしていた。色んな女を貪るように抱いていたし、普通に満たされてはいた記憶はある。

 

 だが今は。

 ううーん。

 

 日本では付き合いで風俗へ通ったこともあったんだけど、初対面の女性とでは心の奥底から盛り上がらないと悟った俺は夜の歓楽街からめっきり足が遠のいた記憶。

 

「お仕事を聞いてもいいので?」

「前は傭兵やってた」

「今この時だけは全て忘れて楽しんでくださいね」

 

 そう耳元で囁くと彼女は第二ラウンドに持ち込もうとしてきたので、俺も身を任せる。

 

「おうふ」

 

 男を悦ばせる手練手管が今まで抱いた娼婦の比じゃなくて、俺は蕩けてしまった。

 

「……そんなわけでさ、俺から採取したって言う子種を使ってイズミは俺のクローンボディを作ったんだ、こっちの世界で」

「細胞の複製増殖ね」

 

 甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 

「そうそう。だがそれに魂は宿らなかった。だからあいつは俺が向こうで死んだタイミングで、こっちへ俺の魂を引っ張り込んだわけ。どんな原理かは知らん」

「ふふ……素敵。異界から来たあなた、興味深いわ」

 

 フゥジィの口の横にあるホクロに目がいく。

 

「だから黒瀬達がこっちへ飛ばされたなんて、びっくりしたんだ」

「そうね。やり方は私も知ってるけど、実際やったことはないわね」

 

 肩にもホクロがあるんだ。

 

「できるのか? へぇ。すごいね」

「ふふっ。私、あなたに興味そそられっぱなしよ」

「……あれ……待てよ……俺、なんでこんなこと喋ってるんだ?」

「それはね」

 

 爆発音。

 そんな音を立てて俺とフゥジィがよろしくやってる部屋のドアが爆散としか言いようのない壊れ方をした。まず見えたのはやたらゴツそうな盾が二つ。

 

 フゥジィをつきとばし、慌ててベッドから飛び降りた俺が見たのは、その豊かな双丘から短剣が生えているフゥジィ。

 

 かと思うと、男が一人、二つの盾の間から突入してきて、彼女の頭に剣を突き刺す。やたら細い男。神経質そうな髪型と顔。

 

「これで死ぬとは思えないからねぇ。封印させてもらうよ」

 

 そう言いながら男はフゥジィに赤い印が刺繍された布を被せた。誰でもわかるその印、赤い三角形。帝国の象徴だ。

 

「お楽しみ中に悪いねぇ。これも仕事だからさぁ」

 

 男は俺に顔を近づけると、粘着質な喋りをしつつ、俺を舐め回すように観察する。俺、こいつとは仲良くなれそうにない。

 

「服を着てあっちで取り調べ受けてねぇ、一応。ま、関係者じゃないことはわかってるからぁ、形だけ、ねぇ?」

 

 服を着ると盾を持った大柄な男二人によって別室へと連行され、俺は簡単な取り調べを受ける。

 

「彼女がなんで急に殺されたのか聞いても?」

「……お前が知らなくていいことだ」

 

 髭モジャの男が素っ気なく答える。まぁそうだろうな。

 

「ガロウのところに宿泊中か。よし、帰っていいぞ」

 

 あっさりと解放された。魔導感知されでもしたら面倒なので、歩いて宿へ戻る……のはやめて、近くの飲み屋に入る。

 

 あれ、おそらく帝国の特務部隊だ。けどなぜ娼婦をあんなタイミングで殺す? さっぱりわけがわからん。くそっ。女の移り香つけたまま宿に帰れないし、血も……んん?

 フゥジィと名乗った女の血は、体のどこにも付着してない。

 そうだ。

 彼女は頭に剣が刺さったというのに、一滴も血を流してないじゃないか。

 あれ?

 それに俺はこっちに転生したことまで話してたよな?

 なんで?

 

『慌てないで、可愛い人』

 

 突然頭の中でフゥジィの声がした。

 な、なんだ? 幽霊か?

 

『ふふふ。そんなモノじゃないわよ。そうねぇ。あなたにわかりやすく言うと……邪神て言葉がいいかしら?』

 

 な、な、なんだとー?!

 あれか? この世に破壊と混沌をもたらす高位存在かっ?

 

『そんな面倒なことしないわよ。とは言っても私を担ぎ上げて帝国をひっくり返そうって人間に囲まれてたけどね』

 

 え? ここディーザでか?

 

『そう。それよりあなた、とっても興味深い存在ね。異界の人間の細胞に魂。確かに少しだけ違うけど……あら、魔導ゲート持ちなのね。それもかなり大きい』

 

 おかげさんで魔道士だよ。で、あんたはどんな状態なんだよ? 嫌な予感しかしないけど。

 

『ご明察。ふふ。体液を通じてあなたに私を入れちゃった』

 

 入れちゃったじゃねーよ! なんだその『てへぺろ』な言い方は!

 

『さっきの奴らが近づいてきてるのがわかったから。ね?』

 

『ね?』じゃねーよ! 早く出ていってくれないか。

 

『そうしたいけど、ほら、外に出たらさっきの陰険男に見つかっちゃうから。しばらくあなたの中にいさせて?』

 

 おいおい軽いな邪神。

 

『あら、ただで居候させてもらうわけじゃないわ。私、これでも大いに役に立つわよ?』

 

 ……一応聞く。何ができる?

 

『そうねぇ、あなた、魔導の代償は?』

 

 体の中の糖質だ。

 

『あら、珍しいタイプね。じゃ、大きく使うと倒れちゃうでしょ?』

 

 あーそうだよ。低血糖起こしてぶっ倒れるよ。

 

『なら一部を私が肩代わりしてあげる。あなた、魔道を使い放題よ』

 

 そんなことしたら周りに疑われるわ。

 

『そこは上手く演技しなさい?』

 

 ……で、何が目的だ?

 

『あなた、面白そうだもの。しばらくいさせてね?』

 

 なんじゃそりゃ。黒瀬、お前の戦ってる邪神って変なのもいるぞ。

 

『あ、あれね。あれは“増えること”にご執心なやつ。私はあんなのと違う』

 

 そうでっか。名前は?

 

『フゥジィでいいわよ。あの体は気に入ってたから』

 

 乗っ取ったのか?

 

『自分で作ったのよ。そうね、あなたの体でこんなこともできるわよ』

 

 ん? 何する気だ……おわ! 胸が膨らみ始めると同時に、股間に違和感。……無い。マイサンが消えた!

 

『こんなの簡単。色々と弄れるわよ』

 

 頼むから元に戻してくれ。

 

『二対型の生物って大体慌てふためくわよね。不思議』

 

 いーから! 早く戻せ! 他の客に見られるだろ! 空いてるけど!

 

 やっと元に戻った俺は、酒(ウィスキーによく似てる)を一気にあおる。こんなの飲まずにやってられっか!

 

「オヤジ、おあいそ」

 

 小銭をカウンターに置いて俺は風呂屋に飛び込み、お湯だけで身体を流し、フゥジィの香りを落としていく。

 

『皇女、セルアちゃん? に気遣うのね』

 

 当たり前だ。こっそり抜けて来てるんだから。

 

『あら、でも彼女、お連れの二人と一緒に近くにいるわよ? あなたを探してるみたい』

 

 な、なんだとー!

 

 ……バレた。

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