次から次へと! 少年魔導士の受難は続く   作:はるゆめ

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第十八話 俺、隠しごとは苦手

 前回のあらすじ。

 出かけたセルアを探したら、誇大妄想狂の男に出会った。

 

 ヒガキは幼い顔つきからしておそらく高校生、しかも不登校。国がどうやって成り立ってるのか、それを知らないようだ。ま、そんなもんだろうけど、付き合ってられんな。

 

 ダラド伯爵が監禁されていた宿から、伯爵の気配が一瞬で移動したのを感知。救出成功だ。セルアに耳打ちする。

 

「伯爵は助けたよ」

 

 皇女モードの時は表情を変えないセルアだが、安堵した顔になる。

 

「ヒガキ、セルアは連れて帰る。お前が何をしようが俺は関わらない」

 

 俺は一歩踏み出し、ヒガキを威嚇する。怯えが滲んできた奴の目を睨みつけ警告する。

 

「でもセルアは巻き込むな。いいか?」

 

 殺してもいいと思いながら言ったんだが、ヒガキは強がりを口にした。

 

「は、伯爵がどうなってもいいんだな」

「好きにしろ。できるものなら、な」

 

 俺に向け剣を振るおうとした女騎士、大魔導士だと言ってた痴女服の女、それぞれに軽い雷撃魔導を放って昏倒させる。

 

「あっ! ま、待てっ!」

 

 立ち上がろうとしたヒガキにも雷撃魔導をお見舞いして、即座にガロウの宿へ跳ぶ。黒瀬に支えられるようにして、顔色の悪いダラド伯爵が椅子に腰掛けていた。

 

「お祖父(じい)様っ」

 

 セルアが駆け寄り抱き抱える。

 

「すまないセルア、不覚をとった」

 

 伯爵の着衣に乱れはなく、暴行はされてないようだが、ぐったりしている。

 

「黒瀬、優子、助かった。すまんが伯爵を送り届けてくる。奴が何かしてくるかもしれん」

「任せてくれ。返り討ちにしてもいいんだろう?」

「ガロウやベレタ、ルサに害が及ばないように頼むよ」

「わかってる」

 

 俺は伯爵に肩を貸しつつ、

 

「立てますか? 伯爵邸まで転移します」

 

 と問えば伯爵は頷いた。ここディーザから南にあるダラド領まで約二千キロの距離を一気に跳ぶ。本来なら低血糖で昏倒ものだが、フゥジィの『代償は一部肩代わりしてあげる』を信じるしかない。

 

「なっ、何者!」

「お館様っ!」

「セルア様?!」

 

 わずかな滞在だったのに懐かしく感じる伯爵邸の大広間、突如現れた俺たちに使用人達は色めき立つ。

 

「すぐに医師を呼べ。お祖父(じい)様を診てもらう」

「セルア様! かしこまりました」

 

 すぐに伯爵は使用人達に連れられていく。

 

「お祖父(じい)様をヒロアが救い出したのだ。茶の用意を。ヒロア、待っていてくれるか?」

 

 セルアはそう言い残し、伯爵の後を追うように部屋を出た。体育館並みに広い客室へ通され、上質な作りのソファに腰を下ろす。

 すぐに俺は携帯していた羊羹を齧りつく。おれだけの長距離を転移したのに、少しだけ冷や汗が出る程度で済んだ。

 フゥジィは有言実行してくれたので感謝しておく。そうでなきゃここへ来た途端に意識を失っていたところだ。助かった。

 

 しばらくして侍女がお茶とお菓子を運んできたので、伯爵のことを訊ねてみる。彼女は愛想良く、眠りについたと教えてくれた。一安心だ。

 

 高カロリーな見た目のお菓子を頬張り、ガロウの宿へ転移でとんぼ返り。

 

「ヒロア、大丈夫か」

「ああ、心配ない」

 

 黒瀬が心配そうにしてるが、どう誤魔化したものか。

 

「二人とも、手を貸してくれてありがとう」

「任務でもあるし」

「それでも、だ」

「優子に聞いたがヒガキってやつ、転移してきた高校生ぐらいだってな」

 

 黒瀬、お前もちょっと前まで高校生だったもんな。

 

「そうだ。どうやって転移したのかはわからない。気がついたら森の中を彷徨ってたそうだ」

「皇帝を倒すって息巻いていたわね」

 

 戦国時代を生き抜いてきた吸血鬼、そんな優子だからこそ、ヒガキの妄言に呆れているんだろう。

 

「中学生の頃ならそんな妄想をしたことないとは言わないけど……」

「突如目覚めた超能力で、ってか」

 

 俺と黒瀬、オタク二人は苦笑する。オタクってやつは、多感な頃にその手の妄想するもんだ。

 

「揶揄うなよ、ヒロア。お前にも心当たりあるんじゃないか?」

「そりゃあるさ。けど妄想と現実をごっちゃにはしない。だろう?」

「そりゃそうだよ。どんな奴だった?」

「気弱そうな普通の若者が虚勢張ってる感じだったな。あっちではニートしてたって言ってた」

「ニート?」

 

 昭和にはなかった言葉を黒瀬と優子に説明する。

 

「学校にも行かず働きもせずか……近所に一人いたよ。中学へ行かなくなって部屋からほとんど出ずに大人になってた後輩のお兄さん。そんな感じ?」 

「そう、それ。平成じゃ社会問題になるぐらい多勢いたぞ」

「要は穀潰しね。毎日何して過ごしてるのかしら」

 

 優子は直球だな。

 

「平成じゃ部屋で暇を潰す手段はいくらでもあるんだよ」

 

 俺は黒瀬達にインターネットやゲームの説明をする。

 

「わかったような、わからないような……今ひとつピンとこないな」

「説明が下手ですまん」

 

 昭和の時代からは想像もできないだろう。これは仕方ない。

 

「そのヒガキは、皇帝一人をどうにかすれば、帝国がひっくり返せると思ってるのか……」

 

 心底呆れたように黒瀬が呟く。

 

「社会に出てみないと国という組織がどんなものか実感がわかないんだろう」

「ヒロアさん、ヒガキみたいなのに慣れてるの? 落ち着いてるけど」

 

 優子が黒瀬と俺の温度差を察したらしい。

 

「さっき説明したインターネット、あれは端末さえ持てば誰でも世界中の人間と双方向のやり取りができる仕組みってのはわかってくれた?」

「ええ。何となく」

「それでな……世の中には義務教育で習う程度のこともわかってない大人が、想像以上に多いってのが見えてきたんだよ」

 

 優子も黒瀬もキョトンとした顔になる。

 

「ヒロアさん、どういうこと?」

「んーとな、あ、そうだ。空が青いのは海の色を反射してるからだって大真面目に言う三十五歳と四十七歳に会ったことある」

「え?」

 

 黒瀬の驚いた顔は、なかなかに面白い。

 

「自分が殺したい奴を好き勝手に殺すのが戦争だと思ってる奴らがいた」

「え?」

 

 優子が初めて見せるびっくり顔、レアだ。

 

「ヒロア、それ作り話だよな?」

「黒瀬、最近までゴリゴリ勉強していたお前には到底想像もつかないだろうが、本当にいるんだ。そりゃあ俺だって優秀な頭脳なんて持ち合わせてないし、凡人だという自覚もある。けどな、そんな世の中の仕組みさえ理解してない大人は一定数いた」

「……」

「ましてやヒガキは学校へすら行ってない。家で奴が何をしてたかは知らんが、国家というのを全く理解してない」

「……そうだな」

 

 だからこそあの三人の女も仲間だという認識なんだろう。

 

「奴の後ろにいた三人の女、全員かどうかはわからないが、いざとなればヒガキを殺すだろうな」

 

 高級会員制クラブの女性みたいな目をしてたもんなぁ。接待のプロだ。

 

「ええ、私も見てたからわかる。あの子達、国へ繋ぎ止めるための愛人兼工作員ね」

「なるほど」

 

 黒瀬は得心した様子。東の王国も千年帝国を相手に波風立てたくないだろうし、そのうち奴は人知れず処分されるはず。それ、伯爵を攫う時にやってほしかったけどな。帝国の貴族を拉致するのも大事だろうに。

 

「じゃ伯爵邸に戻るわ。俺とセルアが帰るまで、二人もゆっくりしてくれ』

 

 伯爵邸の客間へ転移したタイミングで侍女が入ってきた。

 

「ヒロア様、セルア様がお呼びです」

「見た?」

「セルア様から伺っております」

「あ、うん。じゃ行くよ」

 

 侍女に案内され俺達は伯爵の私室と思われる部屋へ通された。ベッドに横たわる伯爵、そこに寄り添うセルアが俺達を待っていた。

 

「セルア、伯爵は」

「お祖父(じい)様は少し衰弱しているだけで、他は問題ないそうだ」

「良かった……」

「このままで失礼するよ。君たちには助けられた、感謝する」

 

 さっきより伯爵の顔色は随分と良くなっている。

 

「当然のことをしたまでです。何があったかお聞きしてもいいですか?」

「構わんよ。二、三日前にセルアからの伝書鳥が来てな。事情があって動けないから迎えにきてほしいという内容だった」

 

 セルアがあの航空機のことを伯爵に問い合わせると言ってたが、それをすり替えられたか。

 

「そこで待っていたのがあの男と女達でな」

「東の王国と何か伝手はありますか?」

「今は引退しているが、あの国の情報大臣とは旧知の間柄でもある。敵同士でもあったが」

 

 そう言って笑う伯爵。迫力ある笑顔だよ。

 

「今回の伯爵拉致に関与してると思います?」

「確かめなくてもわかるさ。無関係だろう」

「長年のライバル関係で培った信頼ってやつですかね?」

「ほほっ。その通りだ。あの国へ帝国は食糧を輸出している、相当な量をな」

「でかい穀倉地帯がありますもんね」

 

 セルアからの受け売りだが、帝国が栄えた理由、それは領土の三分の一を占める穀倉地帯だ。この大陸には三種類の穀物が主食になっているが、帝国は進んだ農業技術を駆使してそれら全てを生産している。

 

「セルア、ゆっくりしていくがいい」

「お祖父(じい)様、ありがたいお言葉ですが、急ぎやらねばならないこともありますので」

「そうか」

 

 寂しさを見せる伯爵に俺は声をかける。

 

「いつでもセルアを連れてきますから。ご要望あれば連絡ください」

「ほぅ。そうか。頼むよ」

「あのもう一つ聞いてもいいですか?」

「かまわんよ」

「飛行兵器のことはご存知で?」

「風の噂でな。秘匿されていたから詳しくは知らないが、ああやって国民にも魅せているということは、数も揃ったのだろう」

 

 一機じゃなかったのか。

 

「ありがとうございます。お元気で」

「お祖父(じい)様、くれぐれも無茶はなさいませぬよう」

 

 俺とセルアは伯爵に別れを告げ、ガロウの宿まで跳ぶ。部屋に黒瀬と優子はいなかった。

 

「ヒロア、ひとつ訊きたい。長距離魔導を使ってなぜ平気なのだ?」

 

 あちゃー。

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