黒瀬と優子も起きてきたので、俺達は朝食をとりながら今後のことについて話し合う。市場の中の大衆食堂は喧騒で包まれていて、誰に何も聞かれることはなさそうだ。
「あの騒動があったから、皆に話しそびれたことを伝えておくよ」
俺に取り憑いている邪神フゥジィから聞いたことを淡々と話す。
邪神教団が二百人もの生贄を捧げてフゥジィを強制召喚したこと。
どういうわけか、そいつらはフゥジィと接触をしていない。だからフゥジィも娼婦をやりながら、客相手に情報収集をしていたこと。
彼らは邪神の眷属としてドラゴンをも崇めていて、セルアのことを把握している。加えて帝国に目をつけられないように、それとなくセルア守っている。
「刺客が来ないわけはそれか」
複雑な表情になるセルア。
「気分悪い話だな」
黒瀬と優子は生贄の話に眉を顰める。
「だろう? このままこの地を去るにしてもさ、ガロウやベレタ、ルサと顔見知りになってしまった」
黒瀬と優子も頷く。
「そいつらを放置して、もしベレタ達に何かあったらと思うと、俺は我慢できそうにない」
我ながら大した入れ込みようだとは思う。失った自分の娘に関する記憶、その欠落を違う何かで埋めるようにしたい───そんな利己的な理由かもしれないが。
「フゥジィが俺に取り憑いてるのは補足されてるみたいでさ、今後も教団に付き纏われるだろう。帝国中に信者がいるんだそうだ」
「そんなにか?」
黒瀬はピンときてないようだ。
「徹底した弾圧から逃れるために、より深いところへ潜り込み、決して発覚しないように活動しているんだ。集会をしたり、わかりやすいシンボルを身につけてたりしなければ、特定も苦労すると思う」
「それはそうね」
遠い目をした優子が小声で同意する。彼女はもしかしたらキリシタンへの弾圧をリアルタイムで見たかもしれない。
「だから奴らのトップに話をつける」
おいフゥジィ! 居候させてやった家賃、払ってもらうぞ。力を貸せ。
『あら? なぁにぃ?』
こうして俺達は宿に戻った後、四人でプランを練った。そして文書鳥を教団トップへ向けて放つ。
「ヒロアー遊ぼー!」
「ユウコもあしょぼー」
ベレタとルサが突撃してきた。昼からは恒例の子守りタイム。双六もどきなゲームを作って、全員で遊んだ。ちなみに最下位は俺だけどな。
「ベレタの勝ちぃ!」
「ヒロアの負けぇ!」
「ベレタ様、何なりとお申し付けください」
「じゃあ、ええとねぇ、晩ごはんを一緒に食べよ!」
「やったー! みんなとばんごはん!」
「いいぞ。ガロウに話してくるわ」
ベレタとルサは喜びながら優子にしがみつく。この宿にいて彼女らの母親を一度も見てないことからして、何か事情があるのだろうとは思っていた。二人とも一番親に甘えたい年頃だもんな。
迷宮都市ディーザで一番評判の良い食堂へ出かけ、ベレタとルサが大喜びしながら肉入りのシチューを食べているのを眺めつつ、俺はあれこれと思いに耽る。
「子どもが欲しいんだろう?」
耳元でセルアが囁く。
「そんなのじゃないよ」
「ベレタとルサを見つめるお前の目がそう語っているぞ」
かーっ! 何でも読み取る達人である皇女さまにはお手上げだ。
「いきなり異界で第二の人生って言われて、はいそうですかとも言い難いもんなんだよ」
「その辺の感覚は俺にはわからないけど」
黒瀬が入ってくる。
「そもそも親になるってことが想像できないな」
「何だ黒瀬、優子と結婚するんじゃないの?」
「ばっ! ケホッ」
おっと黒瀬がむせてるぞ。優子に目をやると慈しむような視線を黒瀬に向けている。
「嫉妬深い蛇神様が許さないわよね」
「ゴホッ! ゆ、優子、それは違う。あいつは幾つになっても妹分でしかない」
ほぅ。三角関係は辛いな、黒瀬よ。
「女に囲まれて黒瀬も大変だな〜」
「やめてくれ、ヒロア。俺は誰とも……」
「あーわかったわかった。お前はまだ若いからな。ゆっくり考えるといいさ。このリア充め」
「リア充?」
昭和に生きる黒瀬と優子にリア充の説明をする。
「俺はそんなんじゃない」
「ほんとかぁ? 客観的に見たら黒瀬って学園ハーレムものの主人公そのものだぞ」
「やめてくれ、ヒロア。俺はさ、漫画をつまらなくしたラブコメものが嫌いなんだよ」
「ほぉ? そうか、あの手の漫画の黎明期だったな、そう言えば」
「平成でもそうなのか?」
「そうだよ。ひとつのジャンルになっているな。そんでもって美少女動物園みたいな作品がブレイクしてる」
「なんだ、それ」
いわゆる日常系作品の解説をする。
「そんな感じになるのか」
「流行は常に移り変わるのだ。ま、これはアニメに限った話だが。昭和に比べ年齢層を上に向けた作品が頭角を表すんだ」
「ヒロア」「黒瀬君」
おっとセルアと優子が睨んできたぞ。
「男二人でわけのわからない話題に没入するな」
「すまんすまん、つい、な」
「美味しかったー!」
「おいしかったー」
ベレタとルサが満面の笑顔だ。
「そうか、それは良かった」
「お風呂も一緒! ね? ヒロア」
「あん? それはセラと優子の出番だぞ」
「優子ー、セラー、お風呂入ろう」
「いいわよ」「いいぞ」
優子もセルアも快諾した。二人ともお姉さん達に思いっきり甘えとけ。そして覚えておくんだ、大人になってもな。それはきっと宝物になる。
食事の支払いをしていると、会計係のおっさんから伝言を受け取る。教団トップから返事が来た。
ショータイムの始まりだぞ。