次から次へと! 少年魔導士の受難は続く   作:はるゆめ

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第二十五話 茶番劇の翌朝

「ヒロアー! 遊ぼ!」 

「あしょぼ!」

「よっし! 今日は散歩だ!」

「散歩?」

「皆でこの街をぐるっと歩くぞー」

「わぁ! 行きたい!」

「わぁい」

 

 朝からベルタとルサが起きたばかりの俺へ突撃してきた。ほんと元気だよな。

 昨夜のミーティングが済んですぐに泥のように眠りこけてしまったおかげか、俺も体調がよい。

 昨夜、邪神教団のトップへ一芝居打った俺は宿へ戻って、待ってたセルア達にその顛末を説明。セルアだけは思案顔になってた。

 

「これから質問受付ます。はい、黒瀬君」

「ヒロアの言うことを奴は信じたのか?」

「奴の態度から判断するしかないけど、多分な。頭のおかしい狂信者かと思ったら、普通に話が通じたし。そこそこ理性的で軽はずみなことはしなさそうだから、ほっとけばいいんじゃないかな」

 

 奴がその気になれば武装蜂起も簡単にできるだろうに、それをしていないのが根拠と言える。

 

「その集合型生命体ってのがあちこちにいると?」

「おそらくな。あれだけってことはないと思う。要は同化して自分というものを増やしていくわけだから」

「敵じゃなくて良かった……」

「同感だよ」

 

 大ヒットしたTV SFシリーズに登場する『お前達を同化する。抵抗は無意味だ』的な奴でなくて良かったと思う。

 SF好きな黒瀬もそんな奴の脅威が想像しやすいんだな。優子はいつも通り、落ち着いているが。彼女ならどうにかできる……よな?

 

「あら? ヒロアさん、何か?」

 

 俺の視線に気づいた彼女は澄ました顔で聞いてくる。

 

「いや、優子はあまり驚いてないなって」

「不思議?」

「うん。だってさ、あの生き物、その気になれば短時間でこの惑星(ほし)を征服できる。だけどそれをしないのは何故だろうって」

「簡単よ。生態からして私達とは成り立ちが違いすぎるから、精神構造も別物だと思う」

「ま、そうだろうな」

「私達と違って個や種の保存本能が希薄なのよ」

「うーむ。そっか」

「私達も種の保存本能に関しては希薄なの。増えすぎると良くないってわかってる」

 

 大抵の生物は自分という個体の生存、そして子孫を残して種族を増やすため、DNAの指令に沿って生きている。

 けれど集合体型生物はそのどちらも容易くできるから、元々興味も関心も薄い、と。優子のような吸血鬼も長生きだからやたらと数を増やさないようになってるということか。

 そりゃそうだよな。人類が何百年もの寿命を獲得した場合、食糧はどうするって話だ。

 

「はい、セルア君」

「霊峰までついてくるんだな、そやつらは」

 

 セルアが問う。

 

「多分つかず離れずでついてくると思う。でも俺達には何もしない。帝国の追手を追っ払ってくれるだろうから、むしろ好都合じゃないか?」

「なら我らも不干渉とするのか?」

「そうだね。何か良からぬことをするようなら対処する。なんなら帝国にもチクるさ。そうでなければこっちも手を出さない、でいいよ」

「ヒロアがそう言うなら従う」

「セルアが気にするのも仕方ないけどな。俺たちの手に負えることじゃない。さ、寝よう」

 

 あいつの興味は霊峰にある古代帝国の遺跡のみ。それを使って何をしたいのかがわからないけど、気にしなくていいと思う。そんなことを考えているうちに俺は深い眠りへと入ったわけだ。

 

「ねーねーどこ行く?」

「どこ行く?」

「まずは君らのお父さんに言わないとな」

 

 階下の受付にいるガロウにベレタとルサを連れていくことを告げ、宿を出た俺達は曲がりくねった路地を抜け大通りへと向かう。

 焼け焦げた建物の修繕に忙しく動き回る大工の姿が目立つ。帝国製の偽フゥジィと哀れな転移者ヒガキの戦闘が残した傷跡だ。

 

「土壁や石造りの家が多いから、思ったより被害は少ないな」

 

 屋根の張り替えや壁を塗っているのを眺めながら黒瀬が呟く。こうやって街は何事もなかったかのように元の姿を取り戻していく。人の営みはどこも変わらないなと改めて思った。

 

「ヒガキが空へ向けて撃っていたのも幸いだ」  

 

 帝国の仕掛けた悪魔っ娘フゥジィ、人的被害を抑えるために空中を舞っていた……のだろうか。確かめようがない。

 

「セルアー早く早く」

「あ、ああ」

 

 ベレタとルサはセルアの両手を引っ張り、あちこちの店を次々と覗いてる。ふっ。姉と幼い妹達って感じだな。

 

「優子さ、ちょっと聞いていい? 世間が知らないだけで地球にもヒガキみたいな転移者が来てることってある?」

 

 優子はセルア達へ慈しむような目線を向けたまま教えてくれる。

 

「少なくとも私は知らないわ」

「そ、そうか」

「でもねヒロアさん、こうも考えられるわよ。例えば南極とかサハラ砂漠の真ん中、エベレストの中腹辺りに転移してきた人は……どうなるかしら」

「……生存は絶望的だよな」

「私と黒瀬君もね、最初は海の上だったの。それもかなりの高さ」

「うわ……」

「優子が一緒だから助かった。すぐに陸へ移動できたから」

 

 優子を見やる黒瀬が話に加わる。

 

「人知れず、命を落としてるかもしれないわけか……。待てよ? そしたら黒瀬達を向こうへ送る時、それ大丈夫なのか?」

 

 優子の移動能力があったとしてもだ、成層圏に転移した途端に凍死するじゃねぇか。

 

「あぁそれは心配ない。俺達と縁を結んだ人達のところへ行くようになってるんだ」

「お? そうか。なら安心だな」

 

 その時だった。陽射しが強いのでわかりにくいが、黒瀬と優子の身体が一瞬だけ光った。

 

「おい、今の」

 

 俺は何かの襲撃を警戒する。

 

「ヒロアさん、心配ないわ」

「あぁ、瑛子だな」

「瑛子? あ、黒瀬の妹か。神様の」

「そうだよ」

 

『位置を補足したってことねぇ。縁というのは距離や時間、空間も関係ないから』

 

 解説どうも、フゥジィ。

 

『あら? 目の前の二人以外にも補足されてるわねぇ』

 

 え?

 

『隣の大陸に二人、同じように補足された子がいるわよぉ?』

 

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