次から次へと! 少年魔導士の受難は続く   作:はるゆめ

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第二十八話 説明と晩餐

 ロングヘアの女子高生は河野さんと言って黒瀬の仲間。おろおろしている男子は霧丘君。巻き添えでこっちへ飛ばされた、ごく普通の高校生とのこと。

 

「覇気がないな。あれでは何も勤まらん」

 

 霧丘君を見たセルアの辛辣な感想。

 

「あのな、戦国時代じゃあるまいし、平和な世の中じゃあれが普通だよ。そりゃまぁ比較対象の黒瀬と優子が随分と大人びているのもあるが」

 

 彼をフォローしておいた、

 優子が声をかけたタイミングで、俺も霧丘君に日本語で話しかけてみる。

 

 

「霧丘君でいいかな?」

「……は、はい」

 

 疲れた声。いきなり異界なんてとこに放り込まれたんだ。かなり精神的にこたえたろう。

 彼は弱々しく聞いてくる。

 

「日本人なんですか?」

 

 まぁ俺は日本人に見えないだろうよ。無難に自己紹介しておこう。

 

「あ、まー、うん、そうだね、先に自己紹介しておくよ。俺はヒロア。彼女はセルア」

 

 すると霧丘君、お辞儀をする。礼儀正しい子だな。

 

「今の動作は礼を取ったのか?」

「そうだよ。帝国じゃどうかしらんが」

「ほう。年若い平民なのに感心だな」

 

 セルアが微笑みながら霧丘君を見つめると、彼はセルアの顔から胸へ視線を巡らせている。

 わかるぞ少年!

 思春期の男の子にはセルアのワガママボディは強烈だよな。

 

 次に黒瀬が声をかける。

 

「霧丘君、すまない。俺の身内が君を異常なことに巻き込んでしまった。君の親御さんもさぞかし心配していることだろう」

 

 するとどうだ。

 霧丘君からオーラが消え失せ、彼はへたりこんでしまった。

 

「おい、大丈夫か?」

 

 黒瀬が彼を支えて、立たせる。

 

「あ、いや、親のこと思い出しちゃって。はは」

 

 か細い声で力なく笑う霧丘君。そうだよな。君はごくごく普通の日常を送っていたんだ。こんなトンデモな出来事に巻き込まれていい子じゃない。

 河野さんは申し訳なさそうに眉を下げて俺達を見守っている。黒瀬に怒られてたからな。

 

「ヒロア、どこかゆっくりできるところへ頼む」

「とりあえずさっきのマルハス郊外の山へ戻ろうか」

 

 黒瀬に頼まれ転移魔導でさっきまでいた丘へと移動する。霧丘君だけがすごく驚いて、俺をキラキラした瞳で見つめてきた。わかるぞ少年! 俺も君ぐらいの頃に憧れてたものさ。

 

 皆で座り、優子が淹れてくれたお茶を飲むことにした。

 よし、今のうちに 状況説明をしておこう。

 

「落ち着いたかい?」

「う、うん」

「それじゃ、ちゃんとした自己紹介をして、俺達がどういう状況にいるか説明させてくれ」

「あ、うん」

「霧丘君はSFとか読む?」

「読むよ。好きなんだ」

「おおそうか! なら理解はしやすいかな。質問はその都度してくれたらいい」

 

 俺のことを話していく。表情がくるくる変わっていく霧丘君は、小さく手を挙げた。

 

「質問いいかな」

「はい、霧丘君」

「魔導って超能力みたいなもの?」

「そういう解釈でいいさ。魔法みたいなものさ」

 

 高揚してるな。わかるぞ少年。魔導士になる為の条件――瀕死の目にあう――は話さないし、代償についても同様だ。

 続いてセルアのこと。彼はわかりやすく反応してくれて、態度が改まった。だよな。

 庶民には皇女とご対面なんて機会は訪れないし、ましてやドラゴンに変身する皇女ときたもんな。

 

 黒瀬と優子については簡単に紹介しておく。

 

「質問!」

「はい、霧丘君」

「今、太陽が出てるけど……平気なの?」

「ふふ。黒瀬君もヒロアさんも同じこと聞いてきたわね」

 

 君は正しいぞ少年! 吸血鬼が日光で燃え尽きるのは定番だものな。

 

「霧丘君、フィクションの吸血鬼と実際はかなり違うんだ。話を進めていいかい?」

「あ、はい」

「それと俺も十五歳だし、もっとくだけていいよ」

「え、でも、ヒロア君は……」

 

 どうも俺の中身がおっさんというのが彼にとって引っかかるらしい。

 

「そっか。うん。いいよ、無理強いするつもりはないから。じゃ、続けるね」

 

 肝心なことだ。

 

「それで霧丘君、君と彼女も黒瀬達と一緒に地球へと送り返す」

「で、でも、それってできるの?」

「実は、その方法のあてはあるんだ。だから心配はいらないよ」

 

 これは本当だ。俺の中にいる邪神フウジィは転移させるのはお手のものだと言った。しかし今は下位の次元に肉体を持って存在しているので困難だが、ドラゴンの魔導を借りたら簡単にできるそうだ。

 

『人の体は不便よねぇ』

 

 今もぼやいている。そこへ割って入る河野さん。

 

「質問!」

「はい、河野さん」

「ヒロアさん、帰還の方法を知りたいです」

「気になるか……」

 

 この子もただ者じゃないだろうしな。ぶっちゃけるか。

 

「まっ、いいか。今俺の中にさ、河野さんもよく知っている、瑛子さんだっけ? 彼女と同じ存在がいるんだ」

「神様ですか!」

「聞く限りじゃ、その瑛子さんは土地神だけど、こっちのは少し違う。この世界に儀式によって強制的に降ろされたんだ」

「なるほど」

「でもドラゴンの力を借りれば、君達を帰還させることはできるって言うんで」

 

 河野さんは納得したようだ。

 

『あら? この子……』

 

 ん? どうした。

 

「うふふ。任せてちょうだぁい」

 

 いきなり俺の口が勝手に動く。フウジィめ、このやろう!

 

「よろしくお願いします」

 

 河野さんがぺこりと頭を下げ、霧丘君は呆然となった。

 

「不意打ちでやるなっての。邪神め」

 

 主導権が戻った俺は思わず毒づく。

 

『だってぇこの女の子、面白い生き物を複数合成してるわよぉ』

 

 俺はそんなことどうでもいい。それより“邪神”というワードに不安な顔している霧丘君のフォローが先だ。

 

「あーいや、俺がそう呼んでるだけで、邪悪な存在でもないよ」

 

『そうよぉ。女神さまって呼んでほしいぐらい』

 

 彼らの転移が成功したらいくらでも呼んでやるよ。

 

『あら、嬉しい』

 

「そういうわけで、霧丘君、君だけは早く向こうへ返さなきゃならない。だから明日には霊峰へ行くことにする。もう危険な目には合わないから安心してほしい」

「あ、はい。よ、よろしくお願いします」

 

 そう言うと霧丘君は深くお辞儀した。任せてくれ。何がなんでも地球へと帰ってもらうさ。

 

 

「この男子の殊勝な態度は好ましい。ヒロアには全く見られないからな」

「へいへい。どうせ俺は態度もおっさんだよっと」

 

 俺たちのやり取りが気になったのか、霧丘君が質問する。

 

「あの、セルアさんは何て?」

「あー、うん、君の反応が初々しすぎて、その、好ましいってさ」

 

 あからさまに浮かれた様子の霧丘君。わかるぞ少年! セルアって可愛い顔してるもんな。

 

「桃色空間の発動を検知しました」

 

 急に河野さんがそう言ったかと思うと、デレデレしている霧丘君に腕をからめた。

 

「え? 何?」

「霧丘君、落ち着いて」

「な、何だよ突然。僕は落ち着いてるよ」

「私はお母さん譲りの検知能力があるんです」

 

 ほほぅ。どうやら河野さんは霧丘君に好意を寄せてるっぽいな。

 

「あらあら」

 

 優子が親戚のおばさん目線になっている。

 

「ま、セルアさんはかなりの美人だし、普通の男子高校生なら当然の反応だよ」

 

 一方で黒瀬は霧丘君の急所を抉る発言。黒瀬、それは援護になってないぞ。このままニヨニヨしながら二人を眺めていてもよかったが、そうもしてられない。全員に声をかける。

 

「さっ、若者を揶揄うのはそこまで。まずは腹ごしらえしておこう」

 

 そこで河野さんから情報有り。

 

「ヒロアさん、さっき私達がいたところに、肉がそこそこあるんです」

「お? そうか。霧丘君も育ち盛りだもんな。じゃ取ってくる」

 

 こうして俺達はシチューを作り、皆で急拵えの食卓を囲むことにした。人が増えた分、それぞれ話に花が咲いて賑わった。

 

 ただ黒瀬と霧丘君の二人は真剣な雰囲気で何やら話しこんでいる。

 

「だから君には、まっとうな高校生活を送ってほしいんだ」

「……」

「俺はもう後戻りできないから、なおさらそう思う」

「……考えてみます」

 

 というくだりだけはっきりと聞こえた。霧丘君と河野さん、二人とも揃ってしょげている。

 

 後で黒瀬に聞くまでもなく、霧丘君に『危険だから関わらないように』と諭したんだろう。

 

 うんうん。俺も賛成だ。黒瀬自身も侵略者によって命を落としたことがある。そんな領域へただの高校生が足を踏み入れるのはあまりにも無謀だ。 

 

 俺だってこっちでイズミに育てられてなかったら商人にでもなってたと思うぞ。営業マンだったからな。

 

 さてわかってくれるかどうか。霧丘君も河野さんに対して満更じゃない気がするし。

 

 青春してるねぇ!

 いかんいかん、胸が甘酸っぱくなってきたぞ。

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